78: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22:29:09
パタン
一人部屋に入り、今日の駿の言葉を私は思い返していた。
『あれ以来……響はすっかり生きる気力を失っちまったように見えた。それこそ響のほうが死んじまったみたいに。そりゃあ俺だって同じだったさ。だけどあいつはその場に居たんだ、ダメージはでかかっただろう、誰よりも。
響は荒れた。あんなに好きだったバスケから離れ、飲酒や喫煙を繰り返した。暴力沙汰なんて日常茶飯事だった。シンが居なくなった街で、何人も女を抱いてたって噂もある』
『あいつは、女なんか信じられないって、家族以外の女は一切信用しなくなった。笑うこともほとんどなくなった。本当に変わってしまった』
『それに……』
『それに……何?』
私が聞き返すと、駿は苦渋そうな表情を見せた。駿のあんな顔、見るの初めてだった。
『あいつは、シンが逝ってしまってから、柏木と何かあったんだよ。絶対に。
何しろ、柏木の名前に絶対に触れないようになっていたからな。もちろん、奴の話題には触れたくなかったっていうのはある。けど……おかしかった。遠くで「柏木」っていう単語が聞こえただけで、目つきが鋭くなって、オーラも明らかに変わった。
けど、俺にもそれは未だに分かんねえ。聞かなかったっていうよりも、聞けなかった』
『そして、中3の夏だな。一年経っても、響はあまり変わっていなかった。もう受験なんて絶望だ、そんな状態だったときだ。……あの人が現れた』
『あの人って?』
『俺達の監督だよ。斎藤先生な。
本当にたまたま、響と俺は近所の公園に居た。昔俺達がいつも練習していた公園だ。
確か、響は煙草を吸っていた。だが、そこに落ちてた空気の抜けていたバスケボールを拾って、「懐かしいな」ってあいつはちょっとだけ笑ってた。で、俺達がミニゲーム紛いのことをしていたら、先生が居たんだよ。
先生は、小さい子達にバスケの楽しさを教えようとしていたらしい。そこに俺達が居た。
そこで、俺ら二人は誘われたんだよ。一緒にやらないかって』
『最初は俺も響も、興味がなかった。高校教師なんかが、俺達みたいなやつ相手に本気で言ってんのかって。
とりあえずそのとき、斎藤先生は練習を見に来ないかって誘った。その後初めて、高校が西南高校だって分かった。俺達はかなり驚いた。何しろ、小さい頃からバスケが強いって有名で、夢見てた高校だったからな。
俺達は、練習を見に行った。そこで、俺は、久しぶりに響のあんな生き生きした顔を見た。きっと俺も同じだっただろう。
先生は、俺達二人が来たのを見て、これだけ言った。「条件は、酒と煙草をやめることだ」ってな。
響はすっかりその域から足を洗った。それくらい、西南のバスケ部が魅力的だった。
俺たちは推薦で西南高校に入った』
……私の知らなかった、彼らの哀しい過去。
79: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22:37:41
最後に駿は、私の目を真っすぐ見つめてこう言った。
『莉恵。響は、お前が来てからちょっとだけ前に戻った気がするわ。
前みたいに笑うことはあんまりないが、表情に変化が出た。何より、女を信用してマネージャーにするなんざ、考えられなかった。
……もしかしたら、お前になら、響の傷を治してやることが出来るかもしれない』
心の方のな、と悪戯っぽく笑って駿が付け加えた。
『あいつ、女癖悪いだろ?ああ見えて、つらいんだよ響も。シンをあんな目に合わせた柏木のこともあって、まともに女と向き合えねぇんだ。セクハラ紛いのことされたかもしんねぇが、莉恵に対するそれはちょっと違ったのかもな』
そこまで話したときには、もう昼休みが終わる二分前だった。
『じゃあ、とりあえず俺は戻るわ』
ひらひらと手を振って、いかにも軽く駿は戻って行った。
思い出すのもつらかっただろう。なのに、話してくれた。
「響……」
掠れた声で、誰もいない部屋で私はそう彼の名を呼んだ。
*
過去編をさっさと終わらせたくてかなり適当な文章になってしまいました(泣)
それにしても中2とは思えない行動達ばかりに目を見張ります←自分で書いといて
次回から、莉恵が動き出すはず!響と濃く絡ませたいなー
80: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/20(火) 22:17:27
ガチャッ
突然、部屋のドアが開いた。驚いて目を向けると、そこに立っていたのは響で、私が反応する間もなくずかずかと無遠慮に入り込んできた。昨晩のことも忘れて、私は目を丸くしてその様子を見ていた。
「……なんだ、今度は逃げないのな」
そんな私を見て、響がそう言った。
今日の昼に駿にあんな話聞いたら、誰でもちょっと見方変わりますって。昨晩のことはもちろん簡単には許せないけど、お人好しな私はすでにそれを水に流そうとしていることに気付いた。ああ、この性格どうにかならないのかな。
「……きのうのアレは「響」
「……何だよ」
「……煙草、苦かったでしょ?」
私がたった一言、そう告げると響が目を見開いた。そりゃあそうだ。彼が喫煙していた時期は、当時だけで今はすっかり足を洗ったのだから。私の言葉の意味はつまり、
「……誰に聞いた。駿か?」
一気に声のトーンが低くなる。
「……」
図星だったので黙っていた。
「それで?可哀そうにーだとか、辛かったでしょうだとか言う気か?こっちの気持ちなんか分かんねえくせに」
は?
「……分かるわけないでしょ!この馬鹿!」
「あ?」
響がぽかんと口を開ける。そりゃあそうだ、いきなりこっちが逆切れしたんだから。
けど、もう止まらない!
「当たり前でしょ?私は響みたいな経験したことないんだから、そういう人の気持ち何て分からない!分かったようなフリされるほうが嫌でしょ」
響がどんどん不機嫌な顔になっていくのが目に見えていたが、どうしても止められない。
「……うっせぇ。
俺があの後、柏木に何したか知ったら、お前も逃げるんだろ」
「……あの後?」
駿すら知らなかった過去の話だ。
「あァ」
自嘲気味に、響が笑った。
「俺は、柏木をめちゃくちゃに犯した」
「……え?」
そういう響の顔はひどく疲れていて、それでいて哀しそうだった。
またこの顔してる……。
最近よく見るこの表情。
(どうやら原因は、)
(ここにあるのかな)
81: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17:25:49
「俺は、あの事件の後一度だけ柏木に会ってんだよ。一人でな」
忌々しそうに、それでいて何を考えているのか分からない響の表情。
「あれから一カ月弱くらいたってた。柏木は、これ以上あの学校にはいられなくて転校が決まっていた。
夏休みのもう最後だった――……」
*
もう夜で、辺りは暗い。道路と、公園内の水銀灯だけが辺りを照らしている。俺が着いたころにはもう奴は先に来ていて待っていたようだ。
「なんだ」
開口一番、これだけ言った。文句を言いながら来てしまう俺もどうかと思うが。
この女は許せない。どうにかしてシンと同じくらい、否それ以上に苦しめてやろうと日々考えていたに違いない。
「……好きにしていいよ」
「は?」
柏木は、来ていた真っ白のワンピースの裾を自らの手でたくし上げた。細く、白い太ももが露わになる。
「ふざけんな。それで帳消しにしようってか?」
「……本当に、何してもいいよ」
柏木が無言で近づいてきて、来ていた羽織りを脱ぎ肩を出す。
情けないことに俺は、このまま何もせずこいつを転校させてやるよりは、好きにさせてもらおうと考えた。
荒々しく奴のワンピースの背についているファスナーを下げる。ビリっと微かに音が聞こえた。そしてそのまま一気に服を脱がせる。
そのまま奴を地面に押し倒し、いきなり下着の上から指を押し付けた。
「んうっ……」
まだ何もしていないのに、湿っている奴のそこに俺は嫌悪感しか感じることが出来なかった。
82: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17:36:28
一気に下着もはぎ取ると、風と夜の空気を素で感じたのか柏木が一瞬顔をしかめる。
柏木を生まれたままの格好にさせると、俺は奴の中に一気に指を二本突っ込んだ。
「はぁっ……ん!いきなりすぎっ……」
くちゅくちゅと卑劣な音を立て、奴が俺の下で善がる。
もう何も考えられず、ただただ行為を続けていた。
何の意味もない行為。
しばらくそれを続けたかと思えば、今度は足を思いきり開かせ、その足を俺の肩に乗せた。
「ふっ……はぁ」
とろんと溶けてしまいそうな目で見てくる柏木。慣れているのだろう、こんなこと。あぁ、俺は普段のこいつの目も嫌いだがこの目も嫌いだ。気色悪い。
「んーーっ……!!」
思いっきり秘部に吸いついてやると、次から次から柏木のそこから溢れ出てくるとろんとした液体。舌を何度も激しく抜き差しすると、しばらくして柏木が一際大きな声で鳴き、びくっと身体が跳ね上がった。達してしまったのは分かったが、俺は間髪を入れず自分の物をそこにあてがった。
「あぁっ……あぁぁ!!」
いきなり動き出した俺に、とにかく声を出して喘いでいる。それもつかの間、少しすると自ら腰を動かし始めた。
……分かってる。俺は、利用されている。
「……ふ、あぁぁっ!!んぅっ」
ぎりぎりのところまで抜き、また最奥まで。
パンパンと肌が当たる音と、ぐちゅぐちゅという厭らしい音が周りを支配していた。
「んっ……あぁぁっもう駄目!!」
柏木が頂点に達し、ぐったりとしたすこし後に俺は奴の中に欲のすべてを出し切った。
さっきまでの激しい行為が嘘のように、辺りはしーんと静まりかえっている。
83: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17:47:31
*
「あろうことに、あいつは『相川響に、夜の公園で無理やり犯された』ってことだけを周りの人間に流し、学校を出て行った。もちろん周りの目は変わったし、学校なんて行けたもんじゃねぇ」
「なっ……向こうがやったことじゃないの!?」
「奴の挑発じみたことに乗った俺が悪かったんだよ。
……むちゃくちゃにしたのは事実だ。
これでも、まだ何か言う気か?逃げるなら今の内だぜ」
私を見て響がそう言う。
あぁ、何て哀しい人なんだろう。
「……響」
「……俺が、あのときにもっとシンを止めてりゃ良かったんだよ。大体なんでその前に柏木の奴のとこにのこのこ行ったりしたんだ。
俺のせいで、シンはっ……」
「響!」
私は思わず大声で響に怒鳴った。
……彼が泣いているような気がしたからだ。だがその瞳に涙は浮かんでいない。だけどきっと、この人泣いている。心が。
「もういいよ……」
「よくねぇ」
私を睨みつけ、歪んだ表情で響が言う。
「俺がシンを殺したも同然だ。俺は何もしちゃいねぇ。結局あいつも助けられなかった、自分自身も――っ!?」
私何してんだろ。気が付いたら、私は響の身体を引き寄せて彼を抱きしめていた。いつの日か、響が私にしてくれたのと同じように。
あぁ、こんなことするのこれが最初で最後だよ!?だから、ちゃんと聞いてよね。
「……充分響は苦しんだ。悔んだ。
もう、いいじゃん。終わりにしよう」
「……!」
私に抱きしめられたまま、響が体を硬くした。
「私だって……中3の頃、今何かより全然人のこと信じられなかったから、女を信じられないっていう響の気持ち分かる。
だけど……もういいよ」
「……放っておけよ」
あのね、響。
私には、あんたの「放っておけ」が、「助けて」にしか聞こえない。
84: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17:56:26
「……そのシンくん?慎太郎くんだって、響にずっと抱えないでほしいってずっと願ってるよ……」
私がぽつりと漏らすと、響が押し黙った。
分かるでしょう?誰もそんなこと望んでいないんだよ。
どこに柏木さんだけが幸せになって、響に幸せになっていはいけない理由がある?
「慎太郎くんは響が大好きだったと思う。もちろん駿だって。
……私は嫌。響がずっとそんな風に溜め続けるなんて。
響のこと、そりゃあ……変態だし偉そうだし気に入らないと子いっぱいあるけど、信じるよ。私は。
だからさ、私のこと信じてよ。
女の子だってね、響の思ってるような子は意外と少ないから!沙耶だって、クラスの子達もみんな良い子でしょ?
だから、もうやめ―――っ!!」
唇を突然塞がれ、言葉が続かなくなった。急なことで、しかも体があまりにも密着していたから抵抗することも出来ずにそれが終わるのを待った。
数秒もすればキスが終わり、響は少し私から離れた。
「……響?」
不安になって私がそう呼び掛けると、ふっと笑っているのが空気で分かった。
「……俺に説教するなんざ、何時の間にそんなに偉くなったんだよ?お前は」
それが、あまりにも元の調子に戻っていたので、安心やら何やらで私の方がぽろっと泣きだしてしまった。
あれ、おかしい。これ、私が泣くとこじゃないよね?響じゃないの?
絶対、私泣き虫になった。響のせいだ。
「……何でお前が泣いてんだよ」
ちょっと可笑しそうに響が言う。
「それはこっちのセリフ……!馬鹿っ!!」
私は響の胸を借りて、気が済むまで思いっきり泣いた。そんな私を、この人はくすくすと笑いながらあやす様に頭を撫でていた。ああ、変なの。
85: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 18:04:59
「ひっくっ……はぁ」
今何時なんだろう、少なくとも深夜0時は過ぎているんだろうな。
ようやく泣きやみ暗闇の中、響の腕の中に居るまんまで私は声を聞いた。
「……人が黙って聞いてれば、変態だのセクハラだの消えろだの好き勝手言ってくれるじゃねーか」
「へ?いやいやそこまで言ってないから!勝手に捏造しないでくれますか」
暗い部屋の中、お互いの声だけが響いている。
「莉恵」
「ん?」
ぐいっと響が顔を近づける。真っ暗だけど、これだけ近いと表情がよく分かる。もう哀しそうな顔はしていなかった。
「……お前に礼を言うなんざ癪だが、まあ世話になったけどああやっぱりめんどくせえ」
「はぁ!?」
(全く、素直じゃないなあ)
「莉恵」
「今度は何?」
「……俺、近いうち柏木んとこ行くわ」
「私も行く」
即座に私がそう返事したので、響がちょっと驚いた顔をした。そりゃそうだ、私は別に何の関係もないもんね。
「だってバスケ部のマネージャーだもん。西南高校の」
「……」
しばらく響は黙ってたけど、そうだな、と言って笑った。その笑顔は、悔しいけど誰よりもかっこよかった。
(いつも、そんな顔してた方が全然いいよ)
こんなこと言ったら怒られそうだから、心の中で私はそう呟いた。
86: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 20:51:51
それから約二週間、私達は普通に(以前と同じように)過ごした。朝起きて学校に行き、授業を受け、沙耶や他のクラスメイトと休み時間はいっぱいしゃべって放課後は部活。
部活中も、私は自分の仕事をこなす。
そんなこんなで、夏休みまであと一週間になった。
「それで、莉恵。何時の間に元に戻ってたんだよ?」
「んー……半月前くらいかな?☆」
「何☆マーク付けてんだ!俺がどんなに心配したかしってんですかーぁ」
「ごめんって、駿。感謝してますよー!」
駿はまだ不貞腐れたような顔をしている。そりゃあそうだ、心配だったんだろう、響のことが。小学生のときからの親友だったんだもんね。なんやかんやで報告が遅れてしまった。沙耶には少し前に報告済みである。
「……もう大丈夫だよ、きっと。
そろそろケリつけにいくみたい」
「ケリ?」
「うん」
今日から三者面談で、授業は午前のみとなる。そして今週の水曜日は部活がオフ。私と響はその日に柏木さんの居る北星高校へと乗り込む(?)のだ。
「しかし、莉恵……やっぱりな、お前なら何とかなりそうだとは思ったがよー」
こんなに俺引きずってたのに、その悩みをたった一晩で消しやがった。駿は頭を掻きながらそう言い笑った。
あ、そういえば。
「夏休み入ったら結構すぐに合宿だよね」
「おう。結構長いからなーしかもキツいんだよなぁ……」
「ふぅん……。色んな学校が参加するんでしょ?」
「そうそう。良い経験になるけどな。
お前もしっかり体力つけとけよ」
「はいはーい」
水曜日の件が終わったら、一気に合宿モードに切り替えよう。
もっとも、響が何を柏木さんに言うつもりなのかとかは、何にも聞かされていないのだが。
87: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21:00:37
そして二日後、響にとっては大きな転機となるはずの水曜日がやってきた。
「起立ー、礼ー」
がやがやとみんなが教室から出て行く。そんな中、私は少し緊張して時計を見つめていた。
「莉恵!今日でしょ?頑張りなさいよ」
沙耶が声をかけてくれる。……そうだ、私は西南高校マネージャーとして付いていくんだから!!しっかりしなきゃ。
「それにしても、マネージャーだから付いていくっていうその理由、ちょっとおかしくない?プライベートの問題でしょー」
「……あ、やっぱり?」
だって、心配だし見届けたかったし、どうなるか。
なんて、本人の前では口が裂けても言えない。
「じゃあね、莉恵。行ってらっしゃい」
「うん!またメールするね」
私は沙耶と別れたら、響と待ち合わせてしている正門に向かった。同じクラスだから別に良いんだけど、教室から二人して一緒に出ていくのもどうかなあと思ってね。
「響」
「……」
門にもたれかかって音楽を聴いているらしい。声が届かなかったので私は後ろまで近付いてつんつんっと背中を突いた。
「っ!……ああ、お前か」
「ご、ごめんそんなにびっくりするとは思わなかった……。
響もしかして緊張してる?」
「……」
無理もないと思う。生易しい問題ではなかったのだから。思いだして考えるというだけで辛かっただろう。
「行くか」
「……うん!」
一拍置いて、私は返事を返した。さあ、いよいよだ。
88: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21:08:30
ピーーーーッ
北星高校の体育館内で、集合の合図の笛が鳴るのが見えた。
雰囲気からして、今から休憩のよう。これを逃す手はない。
響もそう思ったのか、真っすぐ体育館を歩きだした。私もそれに従う。
「……あれ、あなた方は」
一人の北星の部員らしき男の子が私達に目を留めた。練習試合でこの間会ったばかりだし、しかも響は有名だから覚えているのだろう。その部員に私は声をかけた。愛想の悪い響だから、こういうのは私の役目。
「突然お邪魔してすみません、マネージャーさんと少しお話したいんですけど」
「あぁ、凛ちゃん?ちょっと待っててください」
しばらく待っていると、来た。遠目でも分かる。ちょっと苦手なタイプかもしれない。
顔が見えるくらいのところで、向こうは驚いたように足を止めた。しかし、すぐさままた歩を進める。
柏木さんは私達の前を通って体育館の裏の出口から出た。そこで話すという意味だろう。
「……何の用?」
訝しげに彼女が問いかけてきた。
ここからは響の出番だ。私は一歩下がって二人を見つめた。
響は、何を言うつもりなんだろう。
「……お前多分、シンに祟られると思うわ」
(は!?)
まさかの祟り発言(笑)に、私は口をぱっくり開けた。
89: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21:21:48
「へ……」
柏木さんもわけがわからないのか、呆気にとられたような顔つきだ。うんうん、今だけは私彼女と同感かも。
「いや、シンは優しいからもしかするとそんなことしねえかもな。けど例えば俺や駿が死んだら、お前が死ぬまで呪うと思う」
「……」
「死んでも消えないんだよ。お前のしたことは。
……俺こそ、あのときは無理やりして悪かったが」
「!」
柏木さんがそのときのことを思い出したのか、小さく反応を見せた。私も響が謝罪の言葉を述べたことがとても意外だった。
「今、マネやってんだろ。良い仲間が出来たんだろ、お前は満足してんのか?」
「……そりゃあ。みんな優しいし元気だし、安心出来るし」
「そーかよ。
せいぜい間違い犯さず生きることだな、これからは。
それが何よりの罪滅ぼしだ」
「……!!」
それを聞いた途端、柏木さんが泣きだしそうな顔をしてこう言った。
「何よ偉そうに。馬鹿みたい……どうして許すの?」
「馬鹿はこいつのが移った」
響は私を指さしながらそう言う(ちょっと!)。
「許しちゃいねー。許すことは一生ないけど二度と同じことはすんなっていう警告だ」
「……」
柏木さんは響の勢いに呑まれ、何も言い返せない様だった。
「おい、行くぞ莉恵」
「え」
もう良いの?
そう思い響の顔を見たら、荷が取れたような、晴れた顔をしていた。
(……良かった)
私たちが背を向け、とりあえず帰ろうとしたとき。
「……あんたのほうこそ、真っ直ぐ生きなさいよね。
あたしは祟られないように、向き合っていくから。
お人好し過ぎんのよ、あんた変わったわね。そのうち痛い目合うわよ」
確かに柏木さんがそう言うのが聞こえた。
言葉は素直じゃないけど、きっと今までの彼女とは違っただろう。
今度こそ私たちはそこを離れ、体育館の横を横切って学校から出た。
90: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21:31:03
「ん~、甘い!!疲れた時は甘いものに限る!!」
あの後、私は近くにあったファミレスに立ち寄ってデザートタイム。二時前という中途半端な時間帯から、客は少なかった。私がさっきから頬張っているのは、苺パフェ!!そこ、顔に合わないとか言わない。私苺には目がないんだよ。
響はドリンクバーを啜っている。(しかも烏龍茶)
「疲れたって、お前何もしてねーだろ」
「いーえ、いきなり祟るだのなんだの言いだしたときは怪しい宗教にでも入ったのかと」
「殴るぞ」
「すいません」
だけど、本当に良かった。本当になんてもんじゃない、本当に本当に。
あれからあまり深い話はしていないけど、何も話さなくとも相手の心境は分かり切っている。
(だって、表情(かお)が全然違う)
きっと自分では気付いていないんだろうな。その表情が、以前と違って柔らかなものになっていることに。
まあ元が元だし響だから、にこにこ笑ってるって感じではなく、棘がちょっとなくなったというか。
柏木さんも言ってたな、「変わった」って。
私は今の響しか知らないから何とも言えないんだけど。
「莉恵」
「?」
「お前俺が思ってた以上に変わってるわ」
「……そうみたいですね」
この間から言われているこの言葉だけど、褒め言葉として受け取ってもいいのかしらね……。
「ありがとう」
「えっ?」
ぽつんと漏らされたその言葉に耳を疑った。
最終更新:2010年08月10日 14:50