138: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/04(水) 17:33:08
夢を見た。
(――……あ、おかーさん)
ぼんやりとした影の中にいるのは、私のお母さんだ。
辺りは薄暗い。
『お父さんは?』
私がそう聞くと、無表情で首を横に振る。
……どうして?
『何で?どこにいるの?』
探しに行こうと辺りを見回すと、そこには誰もいなかった。
『お母さん……?』
(真っ暗……ここどこ?なんで誰もいないの?)
『ひ、一人にしないでよ』
嫌だ、嫌だ
一人は怖い
「一人にしちゃ嫌っ……!!――――!」
パチッ
(夢……か)
自分の声で目が覚めたようだ。手に汗を握っている。
心臓がまだバクバクいっていて、息遣いも少し荒い。あまり気持ちが良いとは言えない目覚め。
「おい」
「!」
響がいつの間にか戻ってきていて、床に座り込んでいたらしい。寝ていた体制だったため見えなかった。時計を見ると、確かにもう夕方だ。8時間は寝てた気がする……。
「嘘、こんなに寝て……て、きゃああぁ!」
「うっせーな!汗かいてるだろ」
いきなりジャージの中に手(と、タオル)を突っ込んできてきたのだ。誰でもいきなりこんなことされたら叫びますって。
「じ、自分で拭ける!!」
「背中拭けねーだろ!ほら」
ぐいっと後ろを向かされて、背中の汗を拭かれる。……あれ、何か違和感が。
「ノーブラか」
「!!わ、忘れてたぁぁ!!!!」
そうだ、一回半分起きて、朦朧とした意識の中苦しかったからブラを取ったことを忘れていた。
「前から拭きゃあ良かったな」
「け、結構ですっ」
ようやく拭き終わり、響が顔を覗き込んできた。
「落ち着いたか?」
「……うん」
今の汗は、熱のせいじゃないだろう。
……そういえば、
「も、もう全然しんどくない」
私そういえば昼ごはん食べてない。……薬飲んで一回寝ただけで治るって、私の体力は底なしか!?
144: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/06(金) 21:50:29
「そりゃー良かった」
どさっ
「え?」
言うなり、響が私(と、布団)の上に倒れ込んできた。
お、重たいんですけど……!
「ど、どうしたの?」
「休ませろ。疲れてんだよ」
目を閉じているその表情を見ると、確かに見える微かな疲労の陰。普段からただでさえオフが少ないハードな練習量、それにここまで来ての合宿だ。おまけに(どのくらい何をしているのか全く分からないけれど)生徒会長なのだから、私なんかより絶対体力が必要だし、疲れているのだろう。
「……まだ夕ご飯まで時間あるし、ちょっとでも寝たら?」
「いや、行く。監督に呼ばれてっから」
突っ伏した状態のままそう断言されてしまい、何も言い返せない。少しくらい休んだらいいのに、と思ってしまうがそれは許されないこと。
無理しないでほしいけど。(じゃないと、私みたいになる)
コンコン
「どうぞ」
ノックが鳴り、響がすぐに答える。……って、ちょっと!!今入られたら、
ガチャッ
「失礼しま……!?」
「っし……信」
開いたドアから顔を見せたのは、信だった。
ど、どうしよう、こんな状態(つまり傍から見ると、押し倒されている)見られてしまった。
「こ、ここにいるって聞いて。体調見に……悪ぃ莉恵!!邪魔した!!」
バタン!!
「ちょっとぉ!?」
で、出て行っちゃった……。
150: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/13(金) 22:11:19
「……はあ」
ああ、絶対今頃、信何か勘違いしてるだろうな。
「それにしても、何でわざわざここまで来たんだろうね」
私がそう言うと、
「は?お前は最高の鈍感か」
「な、何それ!」
漸く私の体の上から退いた響に鈍感呼ばわりされ流石の(?)私も腹が立つ。
ちらっと時計を見上げると、……うわ、もうこんな時間。
「やっば!夕食の手伝い行かなきゃ!じゃーねっ」
「もう行くのか?……っておい」
バタン!
「早ぇな……つーか本気で何も思ってないのかよ」
寝顔を見たとき、表情がなんともいえなかった。
…あんな女、初めてなんだけど。
俺に対して何でもお構いなくしゃあしゃあと口を利くし、あまり気にしてないって感じだし。
「あんな顔で寝るあいつ、1人にしておけるかよ」
ばれてないとでも思ったら大間違いだ。やっぱり馬鹿だ。
151: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/13(金) 22:17:05
――夜
「はぁー、終わった終わった!」
夕食を食べて片づけも終え、今日の仕事はすべて終了。とはいっても、ほとんど一日中寝てたからあんまり働いていないんだけど。
「んー、海見える!」
食堂から帰る廊下にある窓。今まで全然気にしていなかったけど、ここから海見えるんだ。結構近い。この角度からでは少し見え難いが。
海か。
行きたいな。
一瞬、そんな考えが頭を過る。
けれど、すぐに思い直した。
(駄目!合宿中は(夜の)外出禁止だし。監督、いやむしろ響にバレたら何て言われるか)
必死で自分の気持ちを抑えつける。
でも、一度気になりだしたら、やり切らないと気が済まないという私の性。
「……一瞬!!一瞬だから!!ごめんなさい!!!」
160: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/27(金) 21:49:37
――静かにホテルから抜け出し、すぐそこの海岸に向かう。
ホテルが大きいから、別にそんなに遠くに来たことにはならないから安心だ。
ザアッ……
少し風が吹いているせいか、波の音が目立つ。
ぼーっと体育座りをしながらそれを眺めていると、
「……あれ、えっと……」
不意に声をかけられ、振り向くと、……えーっと、どこかのマネの子だ。朝食の時間が被ってるから手伝う時間も一緒で、よく顔は知っている。(ただ、莫大な量の皿洗いやらなんやらをこなさないといけないから、話す機会がないんだよね……)
「あ……橋場莉恵です」
「莉恵でいい?あたしは村上瞳、瞳って呼んでな!ていっても食堂で毎日会ってるか!」
関西弁で気さくに話しかけてきた瞳に、親近感が湧く。……というか、今ここにいるということは。
「やっぱり抜けてきた?」
「うん!だって沖縄とか、普段来れへんしさぁ……」
「だよねー」
二人で肩を並べてぼーっと海を眺める。だけど、ここはホテルの部屋側に位置していないから真っ暗であんまり見えなかった。
「……もう合宿も半分過ぎたなあ」
「そうだね……」
なんやかんやであっという間だ。少し寂しい気がする。
「うちやっぱりバスケしてる部員さん見るの好きやなー。
あんだけ好きなものがあって、打ち込めるっていうのが羨ましいし、応援したくなるし」
うんうん、私もそう思う!
顔を輝かせながらそう話す瞳を見て、この人も良いチームにいるんだなあと思った。
「みんなさー、バスケ部に入って良かったとか、俺バスケ部じゃなかったら何してんだろうとか言ってるし。
そういうのって、なんか、いいよね。すっごく」
「……うん」
短い返事だけど、実感が籠っているのが分かる。
「そういえば、莉恵って西南やったっけ?いっつもキャプテンと一緒に居る気がするんやけど」
「……はは、そう?」
まさかそんなところまで見られているとは。
苦笑いする私に、
「付き合ってるん?」
「……は?いやいやいや」
無邪気な顔して何を言い出すのこの子は!
「だって、めっちゃ仲良さそうに見える!なんでかなー、一心同体みたいな。にこいち?違うかー」
一人で乗り突っ込みをしてけらけらと笑う瞳を見ていたら、私も頬が緩んできた。考えたら、部活関係で女の子と仲良くなるのって初めてだ。
161: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/27(金) 21:49:39
――静かにホテルから抜け出し、すぐそこの海岸に向かう。
ホテルが大きいから、別にそんなに遠くに来たことにはならないから安心だ。
ザアッ……
少し風が吹いているせいか、波の音が目立つ。
ぼーっと体育座りをしながらそれを眺めていると、
「……あれ、えっと……」
不意に声をかけられ、振り向くと、……えーっと、どこかのマネの子だ。朝食の時間が被ってるから手伝う時間も一緒で、よく顔は知っている。(ただ、莫大な量の皿洗いやらなんやらをこなさないといけないから、話す機会がないんだよね……)
「あ……橋場莉恵です」
「莉恵でいい?あたしは村上瞳、瞳って呼んでな!ていっても食堂で毎日会ってるか!」
関西弁で気さくに話しかけてきた瞳に、親近感が湧く。……というか、今ここにいるということは。
「やっぱり抜けてきた?」
「うん!だって沖縄とか、普段来れへんしさぁ……」
「だよねー」
二人で肩を並べてぼーっと海を眺める。だけど、ここはホテルの部屋側に位置していないから真っ暗であんまり見えなかった。
「……もう合宿も半分過ぎたなあ」
「そうだね……」
なんやかんやであっという間だ。少し寂しい気がする。
「うちやっぱりバスケしてる部員さん見るの好きやなー。
あんだけ好きなものがあって、打ち込めるっていうのが羨ましいし、応援したくなるし」
うんうん、私もそう思う!
顔を輝かせながらそう話す瞳を見て、この人も良いチームにいるんだなあと思った。
「みんなさー、バスケ部に入って良かったとか、俺バスケ部じゃなかったら何してんだろうとか言ってるし。
そういうのって、なんか、いいよね。すっごく」
「……うん」
短い返事だけど、実感が籠っているのが分かる。
「そういえば、莉恵って西南やったっけ?いっつもキャプテンと一緒に居る気がするんやけど」
「……はは、そう?」
まさかそんなところまで見られているとは。
苦笑いする私に、
「付き合ってるん?」
「……は?いやいやいや」
無邪気な顔して何を言い出すのこの子は!
「だって、めっちゃ仲良さそうに見える!なんでかなー、一心同体みたいな。にこいち?違うかー」
一人で乗り突っ込みをしてけらけらと笑う瞳を見ていたら、私も頬が緩んできた。考えたら、部活関係で女の子と仲良くなるのって初めてだ。
162: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/27(金) 21:56:06
「けど、うちもマネやって良かったーってよく思うな。部員のみんなと同じくらいに!」
にっこりと満面の笑みを浮かべる瞳に、私も笑顔を浮かべる。
これは、同じ経験をしている人にしか分からない気持ちだ。
それを語り合えるって、すごく幸せなことだと思う。
同時に、改めてバスケ部のマネージャーになれて良かったって思えた。
「じゃあうちそろそろ戻るわ。莉恵は?」
「んー、もうちょっとだけ居とく」
「了解ー。じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」
ひらひらと手を振って去っていく瞳の姿を見送り、もう一度海に視線を落とす。
……落ち着く。
海なんて、最後に行ったのいつだっけ?小学校3年生……いや、もっと前か。
確か、家族でビーチバレーをして。お父さんはあんまり強いから、私が拗ねて泣いちゃってお母さんが宥めてくれてた。その話はよく聞かされていたから今でも覚えている。
……もう、家族で海に行けないのかな。
目の奥からじわりと熱いものがこみ上げてきそうになり、慌てて目を拭って立ちあがった。もう戻らないと、私も。
163: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/27(金) 22:09:53
さて、良いこともあったし、あとは明日に備えてゆっくり眠るだけ。早く部屋に戻ろう。
スーっと自動ドアが開く。と同時に視界に入って来た、黒いスウェット。見慣れたそれには確かに西南の文字がアルファベットで入っていて、名前は響ってアルファ……え、響?
「……抜け駆けか」
「うえぇ!?」
思わず女らしくない奇声を発してしまった。ま、まさかこんな簡単にばれてしまうとは。
とりあえずさっさと中に入っていて、気が付いたら部屋がたくさん並んでいる廊下のあたりまで引っ張られていた。
「!?」
両頬が、暖かい何かに包まれていた。それが響の大きな手だと気付いたと同時に、
「……冷たい。何勝手なことしてんだ。変な奴いたらどうするつもりだった」
「……ご、ごめ「一回そういう目にあってんだろ、もう少し考えろ!」
びくっ
割と大きな声で、雑に怒鳴られてしまい体が思わず竦む。だけどこの場合私が悪かった。
「ご、ごめんなさい……もう出ない、勝手に」
「おう。出るなら俺でもいいから、誰か連れていけ」
「……へ?」
言うなりさっさと部屋のほうに向かってしまう。今の言葉の意味は、誰かがいたらOKということなのだろうか。まさか響からそんな言葉が出るとは。
確かに今思うと、さっき鉢合わせしたときだって響も外に出ようとしていたわけで。
(……おんなじこと考えてるじゃん。馬鹿)
心配してくれたのかな、と自惚れると少し嬉しい気もする
(何が心配だ。病み上がりはさっさと寝やがれ)
(えぇぇ!聞いてたの?てかまだいたのかよ)
(あ?)
(何でもないです。ていうかなんで響は外行こうとしたの)
(散歩)
(え、駄目じゃん)
(俺はいいんだよ)
(……権力乱用)
164: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/27(金) 22:22:05
―――翌朝
「おはようございまーす」
「お、橋場復活?」
「は、はい。昨日はすみませんでした」
おかげで復活した私は、今日も手伝いに参加することが出来た。瞳とも、「おはよう」とだけ言葉を交わせた。それだけでも充分だ。
「おー、まあ良かったな。今日は最後の練習試合だぞ」
最後の練習試合、そして明日に沖縄を出発する。
今日は、確か一試合目に星城高校とも試合が入っていたはず。信たちと戦うのか。
「まあ最後だしな。楽しむか」
みんな一旦部屋に戻っていく模様。私も掃除しないといけないし、戻るか。
……あ、そうだ。
食器を一人で直している、信のほうに向かう。
「おはよう」
「うお!?お、おう莉恵か」
(そ、そんなにびっくりしなくても……)「えっと、何て言うか……きの「昨日は悪かった!」
「……へ?」
土下座するんじゃないかと思うような勢いで、信が頭を下げる。ちょっと、何で私頭下げられてんの!?若干注目の的になっちゃってるから!若干だけど。
「い、いやそんなに謝らないで、頭上げて?何で昨日あの部屋に来たの?」
「ああ、体調どうかなーと思って、西南の……駿?てやつに聞いたら、あれが莉恵の部屋って言われた」
(な、なんてことを!)
まあ確かにあのときあの部屋にいたけれども、あれはれっきとした響の部屋だ。
「ご、ごめんね」
「いや、俺こそ……。お前、キャプテンとそういう関係?」
「そ、それ!それを言いに来たの、今!違うからね?勘違いしてそうだから来たけど、違うから」
「でも昨日……まあいいか。
そういや今日、西南と試合あんだな」
「ん、そうだね。負けないから!」
「上等だ」
信が昔と変わらない、屈託のない笑顔で答えた。
167: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/28(土) 17:50:09
食事の後の午前中、いつものように部員は体づくりから始める。私もいつも通り飲み物を用意する。
「……らしいぜ」
「うっわ、きついな」
知らない学校の生徒が歩いてきた。別に聞こうと思ったわけじゃないけど、耳に入って来た会話内のその単語。
「……の、ああ、桐生だろ?あいつやばいよな」
(桐生……!!)
ドクンと体中の血が波打つ。それと同時に嫌な記憶が蘇ってきて、体が震えそうになるのを必死で堪えた。
「昨日は星城もぼろぼろにされたらしいぜ」
「うわー、まじかよ。星城のレベルも上がってると思ったけど」
「やっぱ日高は別格だな。……」
その二人は通り過ぎて行ったので、次第に会話も聞こえなくなった。
あんなやつのどこがすごい、中身は最低な男だって言ってやりたい。
……はぁ、忘れようと思ってたのに。
「い、おーい?橋場、生きてますかー」
「!!は、はい、すみません監督」
あんなこと思い出している場合じゃない。慌てて監督の方に向き直る。
「はい、これ今日の昼の練習試合の流れのメモなー。全員に伝えてくれるか?」
「はい、オッケーです!」
私には今すべきことがある。与えてもらっているのだ。だから、過去のことはとりあえず忘れよう。
168: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆11/28(土) 18:01:03
一通りランニングを終え、水分を渡す。……と、そうだ。
「すみません、今日の昼の予定言っていいですか?」
「あぁ、頼む」
「えっと……今日はまず初めに星城高校と。お昼を食べて、12時50分には第二コート集合です。終わったら、次の試合は――……
何か質問とかありますか?」
とりあえず一通りの説明を済ます。
「星城かー。去年もやったよなー俺ら」
「おう。けど今年は去年以上に強いらしいぜ」
さっきの噂(?)、本当だったんだ。そういえばこの前ちらっと見たけど、信もレギュラーだった。信は頑張り屋さんだから、きっと必死で毎日練習したんだろうな。
「よし。じゃー再開すんぞ」
「はいっ」
全員が散り散りになったところで、響が横に立っていた私に視線を落とした。
「何?」
「公私混同すんなよ」
「なっ……だから、違うから」
「あっそ」
さっき自分が考えていたことがお見通しだったみたいで何だか悔しい。
最終更新:2010年08月10日 14:57