218: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/08(火) 21:53:41
(ん……けど、あんまりそういう形跡(←)はないっていうか……。噂に聞く血、も出てない……?)
「っん!!」
響の身体に倒れこんだ状態のまま考えていると、かぷっと肩のあたりを噛まれた。
それと同時にようやく今の自分の体勢を理解する。
ばっと何とか身体を起こし、浴衣で胸が見えないように隠してきっと相手を睨みつける。
「……最低」
「あ?昨日善がってたのはどこのどいつだ?」
「誰が!!」
「いやいや、もっと触って欲しいって強請ったのは誰だ?」
(うっ……)
確かに、そんなことを言ってしまったような記憶が。
本当に最悪だ。自分自身の行動に腹が立つ。
「……図星か」
ニヤリと笑われて、悔しさに唇を噛みしめる。
「違うから」
「お前が気失わなかったら最後までヤってたと思うけどな」
「……!」
良かった、やっぱり最後までは……。
「なんなら今続きしてもいいけど」
「へ?っん――!!」
219: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/08(火) 22:02:34
「……ぷはぁっ!!」
口内に入ってくる熱い舌に逃れようとするが、何時ものようにあっさりと絡め取られたっぷり数十秒間は繋がっていたような気がする。
ようやく離れたと思った瞬間、ぐいと顔を近づけられる。
ドキン!!!
(ち、近い!!)
咄嗟に顔を背けようとしたが、それも叶わず無理やり前を向かされ、嫌でも目が合ってしまう。いつも思うことだけど、何もかもを見透かしているみたいなこの人の瞳が苦手だったりする。
「……莉恵」
さっきまでとは裏腹に、柔らかい声音だ。
そっと頬に手が添えられた。
「さ、最悪だから。朝から……。昨日だって」
「未遂だろ」
私が失神しなかったらどうするつもりだったのか、考えた方が恐ろしい。
「怒んなよ、お前だって良かったくせに」
「怒るよそりゃあ。許さないから」
「可愛い」
…………はい?
220: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/08(火) 22:12:10
話の繋ぎ方がおかしかったと思うのは私だけでしょうか。怒ってるんだよ私は。許さないって言ったのに、何を……
「……て言ったらどうする?」
「え」
「機嫌直ったか?」
(は、ハメられた!)
クックッと喉の奥で笑われて私はプツンと切れた。
「どこまでも最低な男……!!そんなんで機嫌とれると思って」
「とか言って、さっきから顔赤いぞ」
「……!!」
思わずばっと離れて顔を両手で抑える。本当だ、確かに熱い。こんなやつの性質の悪い冗談を本気にとるなんて。可愛いなんてあんまり言われたことないから免疫ないってのに、本当に腸が煮えくりかえりそうだ。
「……」
「そう怒るな」
笑いが止まらないのか、響はひとしきり笑うだけ笑ってふと真顔に戻った。私と同じ目線に顔を合わせて、
「……可愛いよ。お前は」
(っ……最悪)
私が今現在理不尽に思うことは二つ。
一つ目は、目の前にいるこの人について。冗談のくせに真剣な顔でそんな言葉を言うのは反則だと思う。思ってもいないくせに、言わないでよ。
二つ目は、他でもない自分自身だ。不覚にも、最後のこの人の一言で心臓が変に高鳴ってしまった自分に。
225: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/09(水) 21:15:25
「莉恵」
「……っ」
再び頬に手を添えられ、名前を呼ばれる。
トクン……という胸の鼓動を感じた。
(また、だ)
昨日と同じ。こんなのって、まるで私が響を……
(な……ないない。それはないと思う。だって)
そんなことを考えている間にゆっくりと、だが確実に響が顔を近づけてくる。抵抗しようと思えば出来るくらいゆっくりとしたスピードだったけど、なぜか私は動かなかった。否、動けなかった。
唇が、触れる。
そう思った、瞬間。
ガチャッ
漫画か!と突っ込まれそうな見事なタイミングで、部屋のドアが開いた。
「グッモーニン!相川さんちのひーびーきさーん……
……って、えーっと……なんだこれは、俺はまだ夢の中に居るのか?」
「!!??」
(う……嘘!!駿んんん!?)
私たちはパッと弾かれた様にお互いから離れた。私はドアに背を向けた状態だった。恐る恐る後ろを振り向く。
「……おはようございます、朝からお熱いですね」
「……お、はよ……って」
シュルッ
振り返った反動で、私の肩から浴衣がずり落ちた。
そう、このとき私はまだちゃんと着直していなかった。
パラッ……
「っうおっ!?」
「……い、嫌ぁああぁあ!!!み、見るな馬鹿!!」
それからのことはあんまり覚えてない。覚えてるのは、とりあえず枕を駿の顔面に投げつけてから、これでもかってくらい超特急で肌蹴た服装を直し、部屋から逃げた。これだけ。
226: 名前:葵 (Q7URc37si.)☆12/09(水) 21:22:53
ガッ
「(ひいいい)あ、朝から大層ご立腹な様ですねキャプテン。あの、この胸倉にある手は何でしょうか」
「てめぇ……何て事しやがる」
「(お、鬼の目!!)
いや、そりゃあ、まあね?もう高校2年生だし?男女が一緒に一晩過ごして、そりゃあ何もないってことはないと思うよ、まあ俺だってまさか朝までこんなことしてるとは思わないし?」
「……失せろこの野郎」
「で、どうだったんだよ。感想は?莉恵の中に入った感想は」
「……入ってねぇぇ!!!最後どころか序の口で終わったんだよ!!ヤってねーよ!!」
「な、殴るな!!ま、マジでか……あ、そーいや莉恵ってかなり着やせするタイプ?まじでかかったよなあれは」
「……殺す」
「うおぉぉおお!!!」
びくっ
(な、何か今ものすごい悲鳴が聞こえた気がするけど……まぁいいや)
それにしても、駿ってば……どんなタイミングで入ってくるんだ、ノックもせずに。
うちのクラブはキャプテンといい駿といいノックをする習慣がない気がする。次までには徹底しておかないと。
(……それにしても)
「も、もうあの人と顔合わせられない……」
227: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/09(水) 21:30:16
さっきトリップ間違えましたがお気になさらず…。
*
「本当に、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「どういたしまして。これからも頑張ってくださいね」
お昼ちょっと前、私たちはお世話になったホテルの方々に頭を下げた。もう帰路に着くのだ。懐かしいような思いでホテルを見上げる。色々あったなあ、本当に。
「莉恵ちゃん!」
「あ、美菜さん!!」
美菜さんが駆け寄ってきてくれた。
「昨晩辺りヤバかったんじゃない?」
「へ!?なななーに言ってんですか!!」
「動揺するところがまた怪しいわね。会えないけど、沖縄から応援してるから。じゃあね」
何を応援するのかよく分からないけど、
「あ、ありがとうございました……!」
深く頭を下げ、みんなが歩いていく列に加わった。
「莉恵、ばいばーい!」
「じゃあねー!頑張ろうね!」
瞳をはじめ、何人か仲良くなった子とも別れを告げる。寂しいけど、『一人じゃない』って思えるから怖くない。
(みんなが、居てくれるんだな……)
何となく心に温もりを感じて、全員の大きくて広い背中を眺めた。
228: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/09(水) 21:40:32
空港に向かうバス停に向かってぞろぞろと歩いていると、
「……おい」
「え?」
声をかけられたので、見てみるとそこにいたのは何と桐生だった。
「な、何「悪かったな」
「……へ?」
おしまいになぜか髪の毛をぐしゃっと撫でられ(?)、行ってしまった。一瞬すぎて目が点になる。
「な、何あいつ……嘘でしょ」
まさかあの桐生がこんなこと言うなんてね……。何という呆気ない結末。かなりびっくりしたけど、もちろんすごく嬉しかった。これでこれからは、真っ直ぐ向き合ってくれるかな、スポーツにも。
自然が顔がニヤけてくる。ヤバい、今の私かなり怪しいと思う。
「何笑ってんだぁ?」
「何でも~」
上機嫌でそう答え、空を見上げる。うわ、雲ひとつない晴天だ。
(来て良かったな、合宿)
こうしてみんながたくさんの思いを背負って沖縄を後にした。もちろん私にとっても忘れることの出来ない思い出だ。
(さよなら、沖縄)
234: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/11(金) 21:46:35
「……え?あ、そっかお盆休み……ですよね」
「おう、そうだ」
さて、そろそろ合宿から帰ってきて一週間以上が経った。部員達はこれまでに増して練習に身を入れている。そんな中で莫大な量の学校の課題を終わらしているのだから、大したものだ。
しかし、あさってからはお盆休み。当然ながら我がバスケ部も束の間の休息。
久しぶりの休みだから、嬉しい。嬉しいんだけど……。
「……まじですか」
(うっわー!!すっかり忙しすぎて忘れてた……)
どういうことか簡潔に説明すると、とりあえずお盆の期間のみ寮は閉まる。だから、生徒はその間一時の帰宅となる。
元々一般寮は遠いところから来ている生徒が居るし、バスケ部だって全国から集まっているのだから、みんながみんな家が近いというわけではない。
私は全然部活のことなんて考えてなかったから、学校から小一時間のところに住んでいるんだけれども。
「久しぶりにお母さんに会えるんだぞ、滅多にない休みなんだし」
(……そうですけど、監督!私喧嘩してから約2カ月、結局仲直りしてないんです。というより忘れてたし!!!)
どんな顔して会えば良い?帰りたくない。
――タイムリミットはあと二日
どうしよう。
235: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/11(金) 21:58:34
「あー、これも部屋まで持って行って」
自室のある廊下まで戻ると、色んな服やらタオルやらを運んでいる部員達を見かけた。大方帰る準備だろう。
私も身支度をしなくてはいけないんだけど、気が進まないなぁ……。
けど、寮からは完全に全員が出ないといけないし。
「ほんと最悪……」
パタンと部屋に入り、ベッドにどさっと座り込んだ。
沙耶に相談しようかと思ったけど、沙耶は確か今おばあちゃんの家に行っているとか行ってたし、邪魔するのも悪い。それに私の家の事情を知っているのは、実は響だけだった。
その響に相談するというのも一つ。だけど……
(“あの夜″以来、避けちゃってるんだよねぇ……)
どうしても顔を合わせるのが恥ずかしく、部活中も必要最低限のことしか話していない。部活外の寮に居るときも、なるべく顔合わせないようにしてるし。
こんな時に限って、なんとタイミングの悪い。
(家に帰るしかないよなあ……でも、全然連絡とってない)
両親が離婚を決めた後、初めのうちは何度か着信やらメールが来ていたけど、しばらくしたらそれもなくなった。それが余計に腹立たしい。話がしたいのなら会いに来たら良いのに。だから結局もう離婚届を出したのか、それさえも知らないのだ。
(いきなり帰ったらどうなるかな……?
お盆休みだから、想定はしてる気もする……。でも、突然玄関で顔合わせても気まずいし)
やっぱり連絡はしよう。
そうは決めたけど、その勇気が出なかった。
237: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/11(金) 22:05:56
(あぁ、もうっ)
イラッとして、枕をドアに向かって力任せに投げつけた(おい)。
「……あぁもう!!どーしたらいいの……」
ガチャッ
「……なんだ今の音?」
「あっ監督……す、すみません」
ちょうど部屋の前を通りかかったらしい、監督が枕を拾い上げてぽかんとしていた。
「荷物纏めたかー?」
「いやあ、それが全然……」
苦笑しながら言う私に、監督が不思議そうに首を傾げる。
「帰りたくない理由でもあるのか?おかしいぞ、なんか」
「はぁ……」
思わずしゅんと項垂れる。すると、監督の後ろから声がかかった。
「あー、監督。そいつは俺に任せて下さい」
「ん?あぁ、相川か」
「え……」
「すいません、俺からよく言っとくんで」
「おう、分かった」
(え、え、え、えええええ)
場の空気的に監督が出て行ってしまった。必然的に、部屋にいるのは私とその人の二人だけ。
239: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/11(金) 22:14:01
「……あのよー」
「は、はい」
「お前俺のこと避け過ぎだから」
少し呆れたように言われてしまう。
「別に避けては……」
「いや、完璧に避けてるから。部活中以外は、俺の姿見るなりどっか消えるし、俺がこの部屋の辺り通ったら鍵かけるし」
(お、お見通し……)
だけど今、合宿の最後の夜のことを気にしている様子ではなかった。その証拠に、こう聞いてきたからだ。
「お前、家に戻る気は……ないみたいだな」
荷物を纏めた様子がない部屋の状態を見て、響が言う。
「だって……戻りたくない」
思わず本音を言うと、
「餓鬼か」
と突っ込まれてしまった。
「だ、だって!結局あれから一度も連絡取ってないんだよ?離婚したのかどうかだって分かんないし、すっごく怒ってたら……どうしよう……」
「……」
言っている間にどんどん不安になってきて、俯いてしまう。本当は気まずいとかそういう問題以上に、向こうがどんな風に私を思っているかの方が怖かった。
240: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/11(金) 22:21:05
「とりあえず、この期間は寮から出るってのが規則だ。分かるな?」
小さい子に諭すようにそう言ってきたので、少し私はムっとする。
「分かるよそのくらい。けど、親に何て連絡して帰ったら良いの?」
「いや、連絡する必要はないだろ」
「……え」
な、なんで?という顔をする私に響は言った。
「どうせ帰ることには変わりねぇだろ。連絡したくないんだろ、どうせ。だったら手っ取り早くさっさと帰って顔見せて来い」
「な……」
こ、この人は……。私がずっと悩んでいたことをすっぱりと切り捨ててしまった。
「でも、いきなり会うのもなんか」
「どうせ休みが終わったらすぐ部活も始まるしすぐ帰ってこれるだろ。
親子だろ、何遠慮してんだよ。大体今の状況で電話も結構気まずいと思うぞ」
(まぁ、確かにそうだけど……)
さらに念押しするように響が続ける。
「お前はお前の家に帰るんだよ。心配することは何もねぇよ」
「そ……そんなもんでいいの?」
「あぁ、そんなもんだ」
納得したくないと思うけど、妙に説得力のある言葉だ。
244: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/13(日) 18:00:35
―――二日後
ガタンゴトンと久しぶりの電車に揺られ、荷物を持って外の風景を眺める。主要なものは寮に置いていても平気だけど、一応それなりに荷物はある。
只今午前9時半。外から暑い朝の日差しが入ってきて、思わず顔を顰めた。こっち側に立つんじゃなかったな……。
頭の中で今朝の響との会話を思い出す。
『やっぱ行きたくない……どっか泊まるとこ探す』
『行け』
『うー……』
『もしどっか泊まったら見つけ出して今度こそ最後まで犯すから』
『行ってきます!!』
と、まぁそんなわけだけど。どうしてこんなにもあの人は私の背中を押して(押してるのか?)くれるんだろう。
人の家族の事情なんて放っておいたらいいのに。
【――駅、○○線はお乗り換えです……】
「あー、着いた」
近いからな、割と。すぐに着いてしまう。電車から降りて、重い荷物と身体を引きずるように家の方まで歩いた。
駅から10分も歩けば着く久しぶりの我が家。家の前まで着いてから、私はまだ迷っていた。
しかし、今朝の響の言葉を思いだす。
(あーもう、行けばいいんでしょ!すぐ帰ってやるんだから!)
半ばやけくそで呼び鈴を鳴らした。
249: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆12/17(木) 20:12:00
ピンポーン
(き、緊張!!自分の家なのに……)
我が家なのになんでこんなに怖がらないといけないわけ?今になって自分がどれほど学校の寮に馴染んでいたのか実感した。
ガチャッ
「はーい……
……!」
「た……ただいま」
「莉、莉恵……!?あんた、帰ってくるんなら電話の一本くらい入れたら良かったのに……!」
相当驚いたようだが、ドアを開けてくれる。一瞬躊躇したけどドアの向こうに広がった懐かしい空間に勇気づけられて、足を踏み出した。
(ほらね、響。やっぱり連絡したほうが良かったんだよ、びっくりさせたし)
それに……
(お母さん、痩せたなあ)
やつれたというべきなのだろうか、顔からも疲れが滲み出ている。
とりあえず家に入って、数か月ぶりに自分の部屋に行ってみる。
「……懐かしい」
ほんの数カ月ぶりなのに、とっても懐かしく感じる。荷物をそこに置いて、自分のベッドに倒れ込んだ。なんだかどっと疲れが押し寄せてきて、家に帰って来たばかりだというのにそのまま私は寝てしまった。
最終更新:2010年08月11日 00:02