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young leaf 続き19

464: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/27(火) 20:04:07
「何してたか……知ってんでしょ?引いたでしょ、嫌になったでしょ……だから、もう、放っておいてよっ……」

「……ふざけんなよ」

「……ふざけて、ない」

声が低い。こういうときは、きっと本気で怒ってる。



「!」



抵抗する間もなく、気付いたらこの人の腕の中にいた。その力はとても強くて、身動きさえほとんど出来ない。知らないうちに体が震えていた。それさえも止めるくらい強く強く抱きしめられる。

「何が放っておいて、だよ……。お前が言ったんだろ……『独りにしないで』って。分かってんだ。前にも約束した通り、俺は莉恵を独りにしねーよ。
だから、何と言われようが離さねぇ」

「……!」

(やっぱり、気付いてたんだ)


響とすれ違い始めてから、保健室で会った時。蓮といた私は、響に向かってある言葉と伝えた。一か八かの賭けで口パクだったけど、分かってくれてたんだ。


「ふ……う、ひっくっ……」


ぼろぼろ涙が零れ出す。きっと私はその言葉が欲しかった。この人は何でいつも私が一番欲しい言葉をくれるのだろう。だから、私は響が大嫌いで、大好きなんだ。


「……全部話してくれるか?」

「……っ
脅されてっインターネット使って、評判、バスケ部の……いっぱい、襲われて、けど……バラすって、響達が……っやめ、ちゃう……嫌で、嫌だったの。
でも、全部嘘で……嘘だった、結局……分かったの、昨日で。
初めて、だった、のにっもう何回も「もういいっ」

こんなぐちゃぐちゃな説明でも大体通じたようで。心なしか、響の手と声も震えているような気がした。

「悪ぃっ……ごめん、ごめんな気付けてやれなくて……!!」

「何で謝るの……らしく、ないよっ……」

響は何も悪くないのに。むしろ助けてくれて、

「ありがとう……助けてくれて」

「……!助けてやれてねぇ……間に合わなかった」

「そんなことない。だから、」


そんな泣きそうな顔しないでよ。


そう言うと、響は目を少し丸くしてからふっと笑った。


465: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/27(火) 20:20:20
あったかい。この人の腕の中にいると一番安心する。さっきとはえらい違いで、自分でも都合が良すぎだろって思うけど。

「そんな顔してるお前には言われたかねぇな……」

「……ふふ」

「!あー、やっと笑ったな」

「へ……?」

そんなに笑ってなかったっけ、私。

「死んだような笑顔か、明らかな作り笑顔しかしばらく最近見てなかったからな……」

酷い言われようだ。だけどそれさえも可笑しくて、またくすくすと笑いを漏らした。

「そうそう、お前を風呂に入れたのと着換えさせたの、並河だから」

「え……!」

嘘、沙耶が……?

「すごい剣幕だったからな……お前運んで保健室出たら、あいつ遅い時間だったのに一人で玄関のところで待ってた。
今にも発狂しそうな勢いで、その代償がコレ」

言いながら響は自分の頬を指した。……うわ、さっきまで気付かなかったけどこれ殴られた痕だ。しかも沙耶に。さすが沙耶というべきか。

「親友のあいつにも言ってなかったんだな……すんげぇ心配してて、寮に泊まるって言って聞かなかったんだからな」

「沙耶……」

再び目頭が熱くなるのを感じた。ごめん、ごめんね沙耶。
一番の友達だったのに本当のことを言えなくて、きっと苦しめたと思う。私の様子がおかしいことにも気付いてくれてたのに。

「伝言。無理しなくていいから話せるときに話してくれって」

「……分かった」

(ありがとう)


それからしばらく沈黙が続いた。でも決して気まずくはなくて、安心出来るような空気だった。

「……今、何時?」

「まだ朝の6時半。朝練の習慣か?こんな時間に目覚めるなんてよ……」

「!!あ、朝練……!」

やっば、遅刻……

「今日は文化祭の代休だから、休みな」

「……忘れてた」

抜けてんなぁ、すっかり……。

「だから、今日はゆっくり一日休んどけ。
俺も、部屋戻ってもう一回寝るわ」

そう言いながらあくびしながらベッドから立ち上がった。
私も、少し話しただけでまた疲れてきちゃった。

「ん……分かった。おやすみ」

「あぁ……おやすみ」



(やっと、悪夢から醒めた)


あなたも、良い夢を見れますように。


467: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/28(水) 16:42:41
 のッちさま
ほ、本当ですか(>_<)喜ぶべきことですね……ありがとうございます!

 皆様へ
話自体はだいぶ後半なのですが、色んな要素を詰め込みすぎる私は上手く纏めるのが苦手なのでもう少しだけだらだらと続きそうです、お付き合いくださいm(_ _)m
もしかしたら500いってから中途半端に2に突入してしまうかも……
もしそうなったらスレが勿体ないので番外編でもバンバン書こうかと目論んでいます(^^)v←


*


「莉恵……こんの馬鹿!!ドアホ!!大馬鹿!!!!!」

「そっそんな揺らさないで……」

気持ちはすんごく嬉しいんだけど、このままじゃ酔う、肩をゆすぶられ過ぎて。ついでに吐きそうだから、やめて沙耶。

文化祭の代休のあと土日が続いたので三連休だった。日曜日の部活は午後からだったため、午前の少しの時間だけ会いたいと連絡したら沙耶のほうからすっ飛んできたのだ。
ちなみに今いる場所は駅前の小さなファーストフード店。全てを話した後の反応がこれだった。

話している最中も顔が青くなったり怒りに赤くなったりしていて、改めて申し訳なかったと思う。

「ほんっとうに……隠しててごめんなさい」

何度目か分からないその言葉と、頭を下げるとぺいっと叩かれた。見上げると、怒りながらも涙目の沙耶。

「隠してたどーのじゃないわよ……ほんとに馬鹿。馬鹿すぎる。堪える必要なんてなかったのに。
あたしだけは、絶対頼って」

「……うん」

じんわりと目頭が熱くなった。

「絶対、何が起きても莉恵の味方だから。忘れないでよ?」

「ありが、と……」

ついに涙が零れた。


あの日、響に抱えられた私を見た沙耶は発狂したかのように(本人曰く)彼に殴りかかったらしい。
その後、私が意識を失っている間にシャワーにも入れ着替えもさせてくれて。一言でお礼なんて言えない。

「沙耶……ありがとう、大好き」

「んなっ……照れんじゃない。親友として当たり前のことをしただけでしょ!あたしは莉恵が無事ならもう何でも良い。
それに、大好きって言う相手が違うでしょ。いつ相川くんに言うのよ、あんたを守れなかった相川くんに!」

「守れなかったって、そんなこと……て、えぇぇ!?なんで知ってんの!?」

「あたしを誰だと思ってんのよ……相川響に傷をつけた唯一の女、並河沙耶よ!」

(ぷ……)

私が適わない人は、あの人と、ここにもう一人いたみたいだ。


468: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/28(水) 17:38:14
いつの間にか空気はさっきまでと一変して、ガールズトークに突入していた。

「いつ認めるかと思ったら……やっと認めたわね。
両思いなんじゃないの?さっさといっちゃいなさいよ」

「そ、そんな急に無理だってば……」

確かに、付き合ってないのにキスとか、よくされたことはある、けど……

「ただの遊びみたいな感じだったし……」

「それは最初だけじゃないの?お祭りのとき、相川くん鼻の下伸ばしてあんたのこと見てたわよ」

(げ、そんな響想像したくない)


不安だった。いくら体に触れられてもキスされても、何とも思っていないしただの暇つぶしだったのかも……そう思ってしまう。おまけに最近ずっとすれ違いばっかりで、変な話そういうこともされることがなかったし。


「もう莉恵が思ってたような人じゃないでしょ?あの人。随分変わったと思うけどなー、前と比べて」

「んー……監督とか駿も言ってるけど……」

「ああ、じれったい!あんたが好きって思うならそれでいいじゃない。自信もちなさいって。
それに、もう大事な大会始まるんでしょ?マネージャーの莉恵が元気無くしてどうするのよ」

(沙耶……)

そう、もうすぐ本当に大事な冬の大会が始まる。それに勝ち進んでいけば、春休みに行われる全国大会に出場が決定するのだ。いくら毎年の常連校とは言え油断は出来ないし、目指すところは頂点なのだ。


「そうだね……。大会終わってちょっと落ち着いたら、もう一回真剣に考えてくる。
……じゃあそろそ戻らないと練習遅れちゃう!ありがとう、本当に本当に!」

「はいはい。頑張りなさいよー、あ、無理はしないこと、何かあったらすぐ言うこと」

「分かった!じゃあねっ」


まるで口うるさい親のような沙耶に手をひらひらと振って店を後にする。
とりあえず、今は今の私達の目標がある。それに向かって走らないと。


469: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/28(水) 19:41:31






―――そろそろ本格的に寒くなってきた。街中ではクリスマスカラーがあちこちで見られて、時折自宅にもイルミネーションを飾っているものが目立つ、そんなとき。




「……六年連続全国大会出場決定を祝って!!かんぱーーい!!」

「「「「かんぱーい!!」」」」


今は夜9時半をもう回っていて、本来なら閉まっている食堂を特別に貸出してもらっている。
コップを片手に乾杯しているメンバーはバスケ部のメンバーだ。
そう、今日の試合で念願の全国大会出場が決まったんだよ!

「ほんとにほんとに、今日の試合すごかった……よく最後に決めたよね」

「俺、最後にキャプテンが決めたときほんとに感動したっす……!!」

「なあ、俺の活躍は?」

「はいはい、駿も頑張ってたの知ってるってば!」

みんな本当に頑張ってて、相手も結構強かったんだけど結構な大差で勝てたんだ。素直に感動して、鳥肌が立った。

「なあ、クリスマスの夜どっかの部屋でパーティーしようぜ!クリパ!」

「おーいいな!橋場、ケーキよろしく」

「いいけど、作る暇無いから買ったやつだよ」

そんなこんなで騒いでいたけど、さすがに決勝戦の日の晩なだけあってみんなもう眠たそう。明日も学校だし、早めに寝ないとね。クリスマスにまた騒ぐんだろうし。
全員同じことを思っていたようで、思いのほか早めに解散した。

「おやすみ」

「ん、おやすみ。おめでとう、ゆっくり休んでね」

最後に私が食堂を出たときに、響がそこに立っていた。

「響もお疲れ様。おめでとう」

「あぁ……サンキューな。もう泣きやんだか?」

悪戯っぽくそう言ってにやにやしながら顔を覗きこまれる。そう、今日の勝利と同時にぼろぼろ泣いてしまって散々みんなに笑われたのだ。

「もう泣きやみました~」

ふざけて笑いながらそう言うと、ぽんと頭に手を乗せられた。

「……?」

「……大丈夫か?」

「!……うん、もう大丈夫……ありがとう」

まだあの時のことを気にかけてくれているようで、時々こうして言葉をかけられる。私としては、そうされるたびにどんどん元気になっていっているような気がする。

「大丈夫だから、響、全国頑張ってね。
……またいいとこ見せてよ?」

「上等だ」

にっと笑い、最後に頭をぽんぽんと軽く叩いて部屋の方に戻っていった。ぼーっとしながらその後ろ姿を見送る。

(……やっぱり、今更言いづらいなあ)

もちろん、伝えられるのが一番だし、自分でも言いたいっていう気持ちはある。だけどせっかく元の関係に戻れて、その関係に慣れ過ぎて、安心しているからこれが崩れそうな気がして怖い。

「……全国終わったら、とか言ってたら一生言えなさそうだし。
あ、そうだ」

お母さんに今日の試合の報告しないと。
最近時々連絡をとるようになっていて、この大会の結果は必ず教えてほしいと言われていたのだ。だんだん普通に戻ってきているような気がして結構嬉しかったりする。


「――もしもし?うん、勝ったよ!!え、何、知ってたの?何だ……
え?話がある?うん、分かった」


少し長くなりそうだったので携帯を耳に当てながら部屋に向かい歩き出す。





「うん、うん……
……―――え?」


474: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/29(木) 22:17:49
 はっち&さま
夏休みですから☆!←
というより、だいぶストーリーが頭に出来ているので早く更新したいんです最近。
頑張ります、ありがとうございます。

 あやさま
奮発してみました*
激あげありがとうございます!そして嬉しいお言葉…大好きだなんて(';ω;`)

 まゆさま
初めまして!小説にしていい、ですと!?無理ですが、思わずにやけてしまいましたwww←
本当にありがとうございます~

 塩バターのポップコーンさま
美味しそうな名前ですね!初めまして!コメありがとうございます。
気まぐれロマンティックの歌詞を今必死で思いだしています……どんな感じでしたか?(おい
テーマになるような歌詞があると面白いですよね。ちょっと見てみます^^

 お知らせ的な
なんとか500以内にお話終わらせたいので、今後一つのレスに書く話が多分長くなります
本当は話の内容的に切りたい部分などもあるし見にくいところもあると思いますがご了承くださいませ(汗)

*

「おはよー!」

「おはー」

もう冬休みが始まるということで、教室中のみんなが一足先に浮足立っているような気がする。そりゃそうだよね。クリスマスに大みそかにお正月が来るんだもん。
本当なら私も、部の全国大会まで決まったんだから何も考えず騒ぎたい……ところ。だけど、昨日のお母さんとの***の内容が頭から離れない。

こういうときに頼りにする人は、決まっている。

「莉恵?おはよー、何か暗いじゃない……
まさかまた何かあった……!?」

早速落ち込んでいる私を沙耶が目ざとく見つけてくれた。

「う、ううん。そういうんじゃないんだけど……あ」

ちょうどその時担任の先生が入って来たため、一旦話は中断となった。ざわつきながら席に着くクラスメイト達を見ていたら、鼻の奥が少しツンとした。


*



「……え。う、嘘でしょ?いや、嘘じゃないか……
けど、そんな急に……」

午前授業は移動教室が多かったため、昼休み。沙耶と窓際で話をした。

「うちの家族のことは、前に話してたでしょ?
私だってびっくりしたけど……どうしたらいいか、分かんない……」

「そんな……」

だって、私、みんなが大好きだから。
でも、それと同じくらい大切なことだ。

「……あたしに言えるのは、自分で決めなさいってことだけかな。
だって、莉恵、もしあたしにどっちがいい?て聞いたら、そんなの一つしか答えないじゃないっ……」

「っ……そ、だよね……ごめんね、沙耶……、泣いてる?」

「なっ泣いてないし!これ汗だから!」

びっくりさせたと思うけど、それでも冷静に考えていつも的確な返事をくれる沙耶に心から感謝しないと。

「また……色々と決まったらちゃんと言うから」

「あったり前でしょ……待ってる」

(本当に、ありがとう)

自分の道は、自分で決めなきゃ―――





*





―――12月25日、午後8時


結局まだ半分しか決心をつけられずに、この日を迎えてしまった。
だけど、ある意味私は後の半分を今晩に賭けてみようかと思う。

「「「「メリークリスマース!!!!」」」」

パーン!!

「うわっうるさ……ちょっと西野君、耳元で鳴らさないでよ」

「すんません……あ、それケーキっすか!?」

「あ、ちょっとみんな押さないでよ!!ストップ!!」

結局人数が多いこともあり、寮の多目的ルームで行われることになったパーティー。ソファーもあるし暖房完備だし、なかなか良い場所だ。(こういう良い場所を簡単に取れるのってバスケ部の特権?)

「……?あれ、これ店の箱じゃねーな……手作り!?」

「う、うん。昨日部活午前だったから、昼から慌てて家まで帰って作ったの……で、食堂のおばさんたちに冷蔵庫貸してもらった」

「確かに、昨日昼から見なかったな……何でわざわざ?」

そう問いかけてきた響に、一瞬返事を返すことが出来なかった。

「ん……何て言うか、気分が乗ったから……はは」

「やるじゃねーかさすがマネージャー!」

「でしょ?」

私に訝しそうな目線を向けた響にかぶる様に大声を出したのは駿。(ここでは駿のKYなところに感謝!)それにしてもやっぱり響は侮れないなぁ……。
こういうことでしか、私はみんなに恩返しが出来ないから。

「んじゃいただきまーす」

「お!うめぇ!」

(クリームつけて、子供みたい)

そんなことを口ぐちに言いながらケーキに手を伸ばすみんなを見ていると、お母さんみたいな気分だ。
もう半分の決心が、緩々と埋まっていくのを感じた。

(やっぱり、私は――……)




「……あー、腹いっぱい」

それから約一時間経って夜9時。ほとんどの部員が食べて飲んで、眠たそうだ。

「当たり前でしょ……ご飯にケーキにどんだけお菓子食べてんのよ」

「莉恵全然食べてねーじゃん」

「私はいいの!太る、こんな時間にいっぱい食べたら!」

「太れよー、これから先もっとハードの練習に着いていかねぇといけないんだぜ?体力つけろー」


(ドキッ)


「それにしてもお前、夏の合宿以外熱とか出してなくね?すげーよな、頑張ってんなー」

「な……何よ駿、いきなり褒めたりして」

「そーっすよ!俺らいつも、先輩には感謝してます!!重い飲み物運んだり、汗だくな俺ら励ましてくれたり、その他も……!!」

(みんな……)

「あーあ、結城、お前橋場のこと泣かせた」

「へっ!?……ああ、すいませんすいませんそんなつもりじゃ……!!」

「違うの……ありがとっ……」

周りが西野君の慌てっぷりに爆笑する中、私は一人ぽろぽろと涙を零した。
嬉しい、涙。それに――……


(言わなきゃ。今しか、ない)


「自慢のマネージャーだからな、お前は」

くしゃくしゃと頭を撫でられる。これをするのは、あの人一人だけだ。

「全国行った時も、いっぱい頼「……けないの」

「え?橋場何て?聞こえなかった、おいお前らうるさいぞー」

「行けない……私、全国……それに、その後も」

(言った――……)

私の頭を撫でていた響の手が凍りついたように静止する。部屋中が水を打ったように静まり返った。


475: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆07/29(木) 23:05:12
「おいおいお前何言ってんだよ……来んだろ?こないだも、あんなに喜んでただろ……」

「その日の晩に……親から***、あって」

その言葉に隣に座る響だけが驚いたのが空気で分かった。(響しか私の家の事情はしらない)まだ怖くてみんなの顔は見れない。

「また、カナダ戻るって……ちょっとね、色々あったの。何にも説明しなくてごめんなさい……詳しいことは言えない。だけど今しかないし、もうこれ以上私も逃げたくない……
すごく勝手だって、分かってる。だけど、もう一回だけ……チャンスが、欲しい」

さっきとは違う意味の大粒の涙が床に点々と零れた。
部屋の中は、すっかり物音一つしなくなってしまった。ああ、みんな失望したかな……。

「ほんとに、ごめんなさい……!!私だって行きたい、みんなと離れたくない、だけど……!!」

「……いいんじゃね?」

(え……)

最初に口を開いたのは駿だった。

「俺ら何にも詳しいこと知らないけど、そんだけ迷って決めたんだろ。今まで真剣に俺らのサポートしてくれてんのを一番知ってるのは、何より俺達自身だし」

「駿……今、初めてカッコよく見えた……」

「俺はいつでもカッコイイんですぅー」

少しだけ和やかになったムードに畳みかけるように、次々とみんなが声を上げた。

「橋場がそう言うんなら、それを応援するしかねーな!」

「また英語の成績上げる気かよー」

「おっ俺も、何があっても先輩の背中押します……!!」

「あーあ、今度は結城まで泣いてやがんの」

「行って来い!自分で決めたんならな!!」

(優しすぎるよ……)

「み、みんな……ほ、本当にありがとう」

「……よっしゃ、もういっちょ食べて騒ぐか!!おい莉恵、お前も食え!!」

「へ!?ちょ、押しつけないでよっ……!!」


それからまたどんちゃん騒ぎが再開された。その波に呑まれるように、みんなの中へ吸い込まれていく。
まるで酔っぱらったかのように時々泣く男まで見られ、お互いにたくさん笑い合った。
……だけど。

(まだ、大事な人からの反応を見てない……)

その人は、何時の間にか部屋から姿を消してしまっていた。
それにも気付かず、否気付いているのかもしれないが、みんなは騒ぎに騒いで、その辺の床で雑魚寝してしまった。

(……探しに行こう)

みんなを起こさないよう、そっと部屋を出た。



*




「……響ー?」

あんまり行くような場所はここには数ない。だから、あの人が行くような場所なんて限られているはずだ。

(……あ)

やっぱり、ここにいた。
少し広めのラウンジ。そこのソファーに腰掛けたその人は、俯いているため寝てるのか起きてるのかも分からない。
私は、静かにその横に座った。まだ反応はない。気にせず勝手に話し出すことにする。


「……お父さんからね、連絡あったんだって……
別に二人はお互い嫌いで離婚したんじゃないって知ってるでしょ?
だけど、もし仮にまた結婚したって仕事が忙しすぎるから今までと同じ。でも今度は、前居たのと同じところに住めるらしいの、カナダの。何でも、お父さん結構バスケ部の活躍見てくれてたらしくて……学校のHPとかで。
昔みたいに家族、っていう形には戻れないけど、そこで少しでも家族に近い形で暮さないか、って。
これ以上私が大きくなったらそういうわけにもいかないし、本当に今回しかないの……。

迷ったけど、みんなに勇気……もらったから」

そう。さっきのみんなの顔を見ていたら、声を聞いていたら。今度はそのもらった勇気使わなきゃって思った。

「だから……ほんとに、辛い、でも……同じくらい、家族も大切で……っ」

「……い」

「え?」

やっぱり、起きてた。けど掠れた声で聞き取れない。

「行って来い、お前が決めたんなら……家族のところに。俺は止めねえよ」

「……!!
ありが、と……」

またぽろぽろ涙が零れた。顔を上げたこの人は、優しい顔をしていてそれがまた泣けた。
もう一つ、この人に伝えるのには今しかない。なぜか、そう思った。



「……莉恵」

「っん……」

唇にちゅっと軽い柔らかい感触。久しぶりのキス。
すぐに離れてしまったそれが何だか惜しくて、

「っ……!莉、恵……?」

「っはあ……」

初めて、私からキスをした。
顔を離した時、心底驚いた顔をした響と目が合って照れくさくなった。顔を隠そうとして響の胸に顔を埋める。

「……きだよ」

「?」

「好き、だよ」

「……!!」


言った瞬間、抱きしめられた。苦しいくらいだったので少し顔を上げると、また目の前に響の顔のドアップが。今度はさっきみたいな優しいものじゃなく、舌が侵入してくるような激しいキス。頭がくらくらするけど、それさえも心地よい。
拒む理由は今や何もないので、必死でそれに絡ませようと反応する。心臓が、あり得ないくらいドキドキいってる。

「んっは……ひび、き」

「……好きだ。離さねぇ、
離したくねぇよ……離れんなよ……!」

「……!!」

強く強く抱きしめられる。今だからこそ漏れた響の本音に、また涙が零れた。

「……離れないよ。想い合ってるから」

「あぁ……そうだな」

腕にしっかりと抱かれたまま、ゆっくりと話をする。
不思議なことに、今思うとこうなることはずっと前から分かっていたような気もする。初めは大嫌いだったっていうのに、何が起こるか分からないもんだ。

「いつ、発つんだ?」

「一月、下旬くらいかな……」

「そうか……帰って来んのは?」

「多分、みんなが大学なって、結構長いかも……また連絡すると思うけど」

まだ若い私たちにとっては長すぎる期間の別れ。寂しいけど、もう決めたんだ。

「離れちゃうけど、ずっと応援してるからね」

「あぁ……お前も頑張れよ」

「……うん」

きっと、不器用な彼にとっての精一杯の応援の言葉だろう。


「……ありがとう」

最後にもう一度ぎゅっと彼にしがみ付く。一番安心する、私の居場所だ。
その中で私はそっと目を閉じた。





「……良かったな、あの二人。一緒に寝てるぜ今」

「響も素直じゃねーからな……つうかどんな格好してんだよあいつら」

「シーッ!今は仲良くああさせとけよ、また起こしたら響の機嫌最強に悪いぜ」



星が瞬くクリスマス。こんな何気なかった日常の終わりまでのカウントダウンは、あと少し。

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最終更新:2010年08月11日 11:32
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