旅人の詩

1: 名前:サスライ☆01/08(金) 20:50:13
かつてこの国が、巨大な軍事国家であった頃、東の国、今で言うチャイニー地方は帝国で、技術力と武術を以て互角であった。
その技術力によってもたらされた発明;『ロボット』。そして、独特の武術『千鳥流古武術』。胡散臭い話だが、気によって肉体を強化する武術との事。これを、帝国軍人は標準装備していた。
ロボット発明の天才と、千鳥流古武術師範、更に帝国重役。これ等が田舎地方に居ると知り我が国は田舎に中隊を放つ。が、田舎の警備に中隊は敗れた。この時、我が国で有名な英雄も中隊に居た。この戦で武術師範は死に、天才は行方不明、そして重役は国の頂点に立ち守る方針にする。しかし、独裁故に暴君と呼ばれていた。
その後帝国は勢いを徐々に失い、英雄が死去した大戦にて、とうとう滅ぶのであった。


2: 名前:サスライ☆01/08(金) 21:20:29
風と一緒に、ハーモニカの金属的な音色が聞こえる。奏でるは皮のマントに、赤羽が刺さったカウボーイハットと、西部劇のガンマンの格好をした男。黄色い肌と、帽子から垂れている三つ編みからチャイニーの人種と分かる。
男の隣には、男の格好を劣化させた様な、やはりガンマン調の、しかし服がダボダボの少女が居た。肌は色白、ショートカットの髪は緑で人種は不明。
少女はハーモニカに合わせて歌う。
「サイフスられたぜ、ヘヘイヘ~イ♪あり得ね~ぜ、ヘヘイヘ~イ♪お腹空いたよ、バカヤロ~♪
……ん、曲を止めてどうしたのデス?ハンプティ」
ハーモニカの男、ハンプティは演奏を止めて手を震わせ、下を向く。
そしてハーモニカを上に投げて、頭を抱えて叫ぶ。
「あああああ!
うっせ~なチシャ!俺だって注意くらいしてるっての!でもあん時はチョット博打に夢中でなあ~!」
「それを注意してないっていうじゃ~んデス」
黙っていれば「可愛い」と思う少女ことチシャは、ニヤニヤしながらハンプティに、ささやく様に言う。
ハンプティは落ちてきたハーモニカをキャッチすると、舌打ちを一つして葉の付いた棒を口にくわえた。
「全く、姿が姿だけに殴れやしねーから余計に質悪ぃ」
「ウフフ~♪」
「うっわマジで殴りてぇ」
仲良く談笑して道を歩くハンプティとチシャ。その後、変な虫を食べて何故かハンプティだけ腹を壊したのは、別の話。


3: 名前:サスライ☆01/09(土) 02:10:32
【一曲目・賞金稼ぎ】

ごく普通の黄色いトラックで、護身としてはショットガン程度しか持っていない。何故なら、この道は特に盗賊が隠れる所もなく、商人達の話では安全と専らの噂だ。
だからこそ、正直に強盗に来られるとどうしようも無かった。停まったトラックの回りには、柔軟が効くように敢えて馬に乗っている盗賊に、ドラム缶に手足を付けたようなロボットが一体。ロボットの装甲がショットガンの意味をなさない上に、囲まれている。
車の主の商人の女性は顔を青くして、色々とネガティブになっていた。
(うっわー、もう駄目だ。こんな事なら灯籠亭の裏メニュー『ビクトリーシュークリーム』をお腹一杯食べておくんだった。
ああ~、どうしよう。このままじゃ犯られて殺られて剥がれちゃうよ?)
騒ごうにも、騒いだら真っ先に殺されるから顔を青くするしかない。
用心棒費用をケチった自分を呪いながら、盗賊の一人が話しかけてくる。
「ヒャッハッヒ(笑い声)。
嬢ちゃん、俺達に目をつけられた事を光栄に思いな」
冗談では無い。懐には、拳銃がある。これで目の前の男を撃ち殺し、注意が反れてる間にトラックでロボットを轢けば何とか出来るかも。そんな可能性の低い賭けに出ざるを得なくて、出ようとした時だ。
「ヒーローキック!」
それは、一陣の風の様に現れた。突如、皮のマントを羽織った男が目の前の男に跳び蹴りを喰らわしたのである。


4: 名前:サスライ☆01/10(日) 00:10:58
飛び蹴りを喰らわせられた男は伸びていた。そして、喰らわせたハンプティは集団の中心で、格闘技らしき構えをとる。
皮マントが自重でなびかなくなった時、ハンプティは満足そうに微笑む。
そして拳銃で、心臓部を撃たれた。
背中から豪快に倒れるハンプティを見て、商人の女性は思わず突っ込んでしまう。
「まさか、お約束の台詞が相手から出てくるのを期待してた!?」
「うん、多分そ~デスね」
「え、誰?君。
いつの間にか車内へ」
「あ、自己紹介が遅れました。ワタシ、あのガンマン気取りの馬鹿こと、ハンプティの相方のチシャって言うデス」
「は、はぁどうも……。
てか、相方やられちゃったよ!?何、君って人の命を軽く見る系?」
「う~ん、ワタシの考えはそれに近いんデスが、それ以前にやられてないんデスよ。ほら、見て下さい」
チシャが指差したのは倒れているハンプティ。
撃たれた筈の彼は、片腕を地面に付けて軸に回転。上手く自分の足首を伸びている男の足首に引っ掻けて、男の身体を拳銃の男に放り投げた。
そのスキに、両手を地面に付けて足を広げ回転。自分の回りの盗賊の顎に上手く足を当て、脳を揺さぶる事で意識を奪う。
そして、目眩ましを解いたばかりの拳銃の男へ走りながら一言。
「そこは、王道的に『誰だお前は!』だろ!空気読めよバーカ」
そして、勢いのまま殴り飛ばす。


5: 名前:サスライ☆01/11(月) 19:54:33
「野郎共、やっちまえ~!」
超展開に付いていけずに脳内で出来事を整理していたが為に、若干に反応が遅れた盗賊が掛け声を上げる。同じ様にアホ見たく口を開けていた男達は目を覚ましてハンプティに、やれ斧やら、やれ槍やらで襲い掛かった。
「お前は空気が読めてるねぇ。そうこなくっちゃ、喧嘩しがいがねぇ。
かかってこいやぁ~!!」
車の中で縮こまり、打撃や足音等の音を聞く商人。効果音ならガクブルと。そして、ちゃっかり隣に体育座りで座っているチシャ。チシャは口笛を吹きながら、軽くソロバンを弾きながら、手本の様な笑顔で話し掛けた。
「あ、ど~もど~も。
ワタシ、チシャって言いまして、勘定等を任されているデス」
「い、いや、勝てるって保証されて無いのに何でソロバン弾いてるの!?一対多数で、向こうはロボット付きだよ?」
「そりゃ勝てない保証も無いからデス。
さて、どうするデス?値段次第で生存率は上がるかもデス♪」
値段を強い語彙で言われて、ぐっとくる。しかし見れば、少しだけ苦戦している様子。こう言う交渉は、向こうは何かを隠し持っている可能性があると商人の勘が告げている。
しかし、安くすれば逃げる恐れ有り。若い商人は決断を迫られていたのであった。


6: 名前:サスライ☆01/12(火) 16:42:02
商人は考える、この状況を交渉と題して。
目の前の旅人はどうにか出来る手段を隠している。
真っ先に考えられるのは、盗賊とグルと言うケース、これなら素手で相手をしているのも頷ける。しかし、それなら一緒にトラックを奪った方が早く、目の前のソロバンは支払える範囲だ。よって、グルの可能性は低い。が、漁夫の利を狙う者かも知れない。なら、危機を減らし、且つ、手懐ける手段を取るべきだ。
一番の危機はロボット、二人の目的は金と見る。だから商人は決意する。
「ロボットを倒せたら、その二倍出しましょう」
チシャはニヤリと歯を見せて笑う。まるで、『鏡の国のアリス』に出てくる『チシャ猫』の様に。だから車外に向かって、悪戯に人の気に触る事を、軽く言ってのけた。
「ハンプティ!商人さんの話によると、君はあの鉄兵より下らしいよ~♪」
ハンプティは高血圧宜しく、血管を額に浮かべ真っ赤になり、拳を握りしめた。
「んだとゴルァ!こんなん一撃でスクラップにしてやらぁ!」
ハンプティの怒気に当てられたのは商人で、彼女は怯えてチシャに抗議する。
「いや、そう言う意味じゃ……」
「え、違いマス?ワタシにはそう聞こえマシタ♪いやぁ、想いは正しく伝わらないデスね~」
ほくそ笑みを浮かべながらの棒読みに、商人は殺気を飛ばすが、解ってるのかチシャが更に笑うだけだった。


7: 名前:サスライ☆01/12(火) 17:03:33
【番外編;チシャちゃんの、補足コ~ナ~♪】

これはワタシ、チシャがちょっと補足しちゃう蛇足的なコーナーなんデス。
ぶっちゃけちゃうと、入りきらなかった物を紹介する作者の文才が無いのが解るコーナーデスね~。
さて、今回は『ロボット』について!
これは帝国の天才に作られ、正確には設計の骨格を発明された兵器デスね、帝国の主力デシタ。
帝国は今は戦争に負け、吸収され、チャイニー地方なんて呼ばれてる。チャイニー故に、中国と何故か日本が混ざった様な国だったから、当時は『鉄兵(ロボ型)』と『人形兵(ヒト型)』って漢字で呼ばれてたんデス。
今でもそう呼ぶ、古臭い人は居て、ハンプティなんて良い例デスね~♪うわ、臭い!
このロボット、意思はあるのかと問われたら物によりマスね。量産機で単調な命令をこなすだけのロボットも居れば、特別機で他のロボットに指示を出したりするロボットも居マス。
と、ロボットのプログラムの差はあれ根源は似たような機械的思考……の、筈なのデスが、最初期に作られた人形兵で、感情が芽生え人を殺せなくて、左遷された突然変異も居るそうデス。まあ、どうなったかは知りませんガ、幸せになってると良いデスねぇ。
補足はここまで。有り難う御座いましたデス♪


10: 名前:サスライ☆01/16(土) 11:48:15
現在盗賊3人と1体。盗賊2人はハンプティを取り囲む様に、そして後衛に1人。更に1体は目の前に、壁の様に立ち塞がる。所謂、上から見るとハンプティ中心の、白鳥座の様な布陣だ。
こうすると、ハンプティが目の前の下手すると1tありそうな、ドラム缶の様なロボットを一撃で倒さない事には、背後に目が行かない。更にロボットの反応の遅さを逆手に取って、後ろを相手にするとロボット後衛の盗賊からの攻撃が来る。
しかし、ハンプティは口元を吊り上げて笑う、笑いすぎて逆に不安な程に笑う。
「クックック…アーハッハッハ!それか、それで俺の動きを封じた気か!」
しかし盗賊団は動じない。何故ならハッタリも、フェイントと同じ位に立派な戦術だ。ハッタリにより動きを鈍くする。
「甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い!!
テメェ等みーんな、甘ったるい!」
そして、左足で踏み込んだ。右足で前蹴りをロボットのど真ん中、一番装甲が厚い部分へ放つ。その反動で、上に跳んだ。しかし、盗賊はそれに気付かない。
1tはあるロボットが、装甲板を凹ませて、後衛を巻き込み吹き飛ばされていたから。
その時、この中の盗賊はある言葉を思い出していた。
『100人の戦術など、1人の英雄的戦力によって覆される』
考えて、動こうとした時には、既に意識は闇の中への落ちていた。


12: 名前:サスライ☆01/19(火) 19:27:13
ある日いきなり上司に「ちょっとこのロードローラー、素手で持ってきて」と、言われたら無理だろう。ハンプティが行った事はソレに近い。あのタイプのロボットは、戦場では専ら壁訳で、防御だけには特化しているからだ。
商人は、ならばハンプティもロボットかと考えたが、旅人のロボットは彼処まで上等な格闘技を使わない。あれ程の性能のロボットは戦争でほぼ全てが失われ、戦後にロボットの危険性の為、規制が掛けられたからだ。
なら、考えられるのはハンプティは身体を改造した人間。則ち、サイボーグであると言うことだ。胸に鉄板を埋め込んでいるなら、銃弾が効かないのも納得がいく。
「サイボーグなら、値段はもう少し妥協して頂けませんか?」
「え、彼は人間デスよ?」
笑みを浮かべるチシャに更に言及する。内容は「あれは人間の力では無い」「銃弾が効かないのはおかしい」等。チシャはそれを聴いてニヤニヤする。
「いやいや、アレは気の力デスよ。気を使うと人間の身体は丈夫になるのデス。
アレは、銃が構えられた途端に『気を引き締めた』んデスね~」
「そんな出鱈目……」
倒れる盗賊の中心に立つハンプティの後頭部へチシャは石を投げた。
すると、一撃で倒し、得意になって気が緩んでいたハンプティは直撃を受けてギャーと叫び頭を抱える。
「胸にプレート埋め込むなら、後頭部は何でショ。
疑問ならもう少し試しマス?統一体で力を上げるトカ、そのトラックで押し潰すトカ」
「いや、いいです……」
よく分からない自信に押されて、商人は折れる決意をした。
そして思う。なんでコイツがこんなに偉そうなんだと。突っ込むと屁理屈を返されそうだが。


13: 名前:サスライ☆01/27(水) 21:31:56
商人は、護衛料を払うとエンジンをかけようとした。しかし、ハンプティがそれを荒々しい声で止める。
「おい、待ちな」
まさか、『これからの護衛料』だとか、まだタカるつもりなのか。そう言ったパターンは幾つもある。だから商人は、運の悪い日だと諦めた。
「どうせだし、一緒に町に行かねーか?一人だと暇だろ」
「はあ。それで、いくつ払えば……」
「ええとデスネ……」
チシャがソロバンを弾き始めると、「馬鹿野郎」と言った声と同時に、拳骨がチシャに来た。チシャは頭を擦りながら、プゥと頬を膨らます。
「良いじゃないデスカ、貰える物は貰えれば!」
「馬鹿野郎!そんな真似、出来るわきゃねぇだろ。
ハ!まさか、お前また勝手に金を取ったりしてねーか!?」
急展開に商人は着いていけない。最も、銃弾を生身で弾く事で、既に急展開だが。ハンプティが商人と目を合わせると、犬を払う様に手でシッシとする。
「あー、コイツが何か金取るよーな事があっても無視して良いから」
「え、でも……」
「バーカ。俺が勝手にあの盗賊に喧嘩売っただけで、何で金払う必要があんだよ。そんな金、こっちから願い下げだっての」
そして、ハンプティはトラックの助手席に座り、チシャはその膝に乗る。
ハンプティは商人に向いて、拳を鳴らしながら言った。
「で、お前……
俺があのドラム缶ごときを倒せないって?」
商人は直感で感じた。コイツは悪い奴では無い。只の馬鹿なんだ。
有意義な三人旅にする為に、ロボットの件についての誤解を解くことに頭を使う。


14: 名前:サスライ☆01/27(水) 21:53:18
【閑話】

チシャから渋々金を返して貰った商人は、二人の話を聞きつつも運転をする。何だかんだで、話していると愉しいし、滅多に人の通らない見晴らしの良い田舎道だから話していて注意が反れて事故を起こす事も無い。
「へぇ、それで結局財布は取られちゃったんですか」
「やっぱ博打は胴元が勝つように出来ているんだな!」
「いやいや、関係ないでしょ……」
溜め息を吐いて、運転を続ける。と、そこでハンプティが口に喰わえている棒が気になったので、聞いてみるとチシャが答える。
「ああ、これは噛んでいると口臭が綺麗になる植物デスネ。地獄の様に息が臭いから勧めて見たのデス」
「バカ、ワイルドな臭いって言いやがれ」
商人は旅人に歯を磨く習慣はあまり無い事を考える。
金を取ったりする憎々しいチシャに、少しだけ感謝した。トラックだから席が二つしか無い程、人の入る空間は狭いのだ。

絵;ハンプティ
http://x.upup.be/?3fmcDK2W0d


15: 名前:サスライ☆02/04(木) 01:37:42
地平線まで続きかねない広大な畑に、何処からもなく香る馬糞の匂い。絵に描いた様に、のどかな田舎村である。
ハンプティとチシャは肩の凝らない顔で車を出ると、定食屋に入る。財布を落としたからの商人なりの礼だそうで、こればかりはハンプティも折れた。
田舎村特有の、ボリュームたっぷりで安い定食を待っている最中、ハンプティは口を動かす。
「……そりゃそうと、こんな村に『武器』なんて売ってどうすんだ?」
「アハハ、バレちゃいましたか」
「火薬と鉄と油の臭いは誤魔化せねぇしな。そのトラックの中身は、鉄砲や鉄兵の部品ってトコだろ」
「素晴らしい、ビンゴです。これはですね、自警に使うのです」
少し嬉しそうに商人は語り出す。この村の歴史を。
この村は豊かな環境に恵まれて、故に盗賊がよく現れた。戦争中の物資不足の上に国の防御が甘い時なら、敵国兵も襲って来たり盗賊が更に手強くなったりと散々だったと言う。
そこで発足されたのが自警団『ガンマ一家』。今回の納品はこのガンマ一家への納品だ。
茶を飲むチシャは口を挟む。
「あれ?でもケイサツはあるんじゃないんデスカ?」
商人は苦笑い。そして自警団の意味を語る事にした。


16: 名前:サスライ☆02/04(木) 14:30:38
戦争で頭を失ったケイサツは中央から来た役人が、今その位置に居る。それが、ガンマ一家が今も尚在る理由だ。
ケイサツは、働かないのだ。ケイサツの任期を小金カセギ程度しか思っていない役人。資金を惜しんで盗賊の駆除にやたら消極的だし、点数カセギの為に、ヒゴウホウで武器を取り扱っているとの理由でガンマ一家を取り締まる始末。更に、別の盗賊と繋がっているとの噂まである。
それを語る商人は、やりきれない表情。今にも泣き出しそうな表情をしていた。眉間に皺を寄せるハンプティの反応で、ハッと自覚した商人は直ぐに笑顔になる。
「あ、スミマセン。何か暗くなっちゃいましたね。料理が美味しく無くなっちゃいますね……アハハ」
ハンプティは強がる商人の頭に、手を乗せた。そして安心感のある微笑みを与えて一言。
「俺、馬鹿なんだ」
「……へ?」
目を点に、口を半円に、顔を白に、商人はギャグ漫画顔になる。それでもハンプティは躊躇わずに続ける。
「三歩歩けば忘れちまうのさ。なら、今の内に散々グチっとけ♪」
「あ、その……
ありがとぅ、ござい……」
そしてハンプティは商人の頭を胸に抱き寄せる。顔が見えない様に。商人は小動物宜しく細い肩を震わしていた。
その光景を冷淡な眼で見詰める者が居る。チシャだ。チシャは思う。
(だからって、何かが変わる訳でも無いんデスけどね……)


17: 名前:サスライ☆02/04(木) 15:30:43
チシャは少し顔色を悪くしていた。ハンプティの目の前に出された料理がオリジナリティー溢れ過ぎる料理だから。例えるなら、ホビロンを何も知らずに初めて食べた日本人の反応に近い。
「何デスか、アレ?」
「ああ、アレはこの地の名産品『超筋肉』です。意外と美味しいですよ、食べます?」
「いや、野菜炒め食べているのでいいデス」
モッサモッサ食べるハンプティ。彼はチシャの顔色を見て、ニンマリと悪そうな笑みを浮かべる。
超筋肉の一部をフォークで刺し、チシャに近付ける。
「うりうり」
「……やめナサイ!」
チシャは木刀でハンプティの頭を思いっ切りタタいた。「アウチ!」との叫びと同時に木刀は折れる。
「あれ?その木刀何処から……」
「マントの中に隠し持っていたのデス」
「それにしてはサイズが……」
「遠近ホウデス」
「は、はぁ」
商人のツッコミを鏡よろしく反射してこれ以上の追求を許さないチシャ。
そしてチシャは再び超筋肉を見て、顔色を悪くするのだった。
「何時の世も、人間は何を考えているのだか……」
「ん、何か言いました?」
「イイエ、ナニモ言ッテイマセンヨ~」


20: 名前:サスライ☆02/08(月) 00:39:23
商人は三枚の写真をハンプティに見せられていた。二枚は手配書。もう一枚は新聞の切り抜きで、大分古い記事だがパックされていて繊維が崩れていない。
大切にパックされている写真には、アジア系の顔、服装から見るにチャイニー人の男が写っていた。まだ若くタレ目だが、どこか鋭い印象を受ける。
「コイツを見なかったか?」
「いや、見てませんね。てか、この人『神封(シェンフォウ)』ですよね。チャイニー地方が帝国だった時の皇帝の」
「ああ、そうさ。
会ったら文句言ってやろうと思ってな」
神封。チャイニー地方が帝国だった時の頂点で、議会を無視して国防を推進し、攻めなかった為に物量差で戦争に負けた男である。
その、余りにも議会を無視した行動から『暴君』と呼ばれていた。
そして、ハンプティは見るからにチャイニー系だ。語尾に『~アル』を付けてラーメンを食べても違和感が無いだろう(偏見)。
態々こんな『過去の人物』を探すのはハンプティ成りに事情があるに違いないし、言いたい事も特別だろう。
それは防戦一方だった事かも知れないし独裁政治についてかも知れない。
只、この人物は死体が上がらないだけで、既に王の証である剣もへし折られた状態で出てるし、多分死んでる。
でも商人はハンプティを想って言わなかった。これを言ったら、ハンプティは旅に何らかの影響を出しそうだから。
『多分、これからも会う事は無いでしょう』と。


21: 名前:サスライ☆02/21(日) 00:55:40
神封の写真が仕舞われると、今まで写真を見ていたせいか売れ残りの萎びた薔薇宜しく、残り二つの写真、則ち手配書にも目がいった。
商人は水を一口唇につけて、その後口を開くイメージをし、水の入った硝子コップに手をつけて、硝子コップ特有の冷たさを指先からゾワワと感じた時に、ふと思った。
「……あれ?そういや、なんでこんな事私に聞くんですか?
こう言う事は情報屋に聞けば良いのでは」
「そんな事、決まってるじゃないか」
どないや顔のハンプティは、何処から取り出したのか新しく取り出して再び喰わえた枝を唇で調整して天井に向ける。
「何となくだ!」
「……さいですか」
それを聞いて商人は安心と呆れが同時に発生して混ざりあった感覚に陥る。つまり、肩に何か重石を乗せられた感覚だ。
安心と言うのは、ハンプティがやはり自分の見込んだ通りの男だった事。ハンプティの人間性と言う問題用紙に書いた答えに○をつけられた安心感。
そして呆れとは、その通り故に疲れた感情。この男は何処までも正義なのだが、故に優先順位が自分優先だ。所謂、『KY』である。勿論これがハンプティの総てとは思わないが、基本的にはそうだろう。
「手配書、『盗賊バグ』?うーん知りませんね。あ、でもこっちは分かります」
手配書には白い仮面にマントの人物、もう一枚は丸い目の青年。商人が反応したのは後者だった。


23: 名前:サスライ☆02/21(日) 19:54:29
この町の外が物騒になってきた。前は、ガンマ一家のみでどうにかなっていた。ショットガン一丁あれば外に出ても危なげない位だ。
しかし最近、異国の山賊団と手を組んだ事により平衡状態が崩れてきている。故にこの町は単独の外がどれ程恐ろしいか知っているし、労う事も知っている。だから自覚しているかは兎も角、店に居座り続ける迷惑な商人に口を出さない事で労っている。


25: 名前:サスライ☆02/22(月) 13:13:33
爆弾は爆風を作り、爆風は皮膚を剥ぎ臓器を散らせる。チシャは爆弾は持っていないないが、爆弾発言は出来る。そして爆弾発言は精神的に臓器を散らせる。
「あ、その異国の山賊団連れて来たの、多分私達デス。この手配書の人がそうデショ?」
「はぃ……って、オイ!え、ええ、ええええー!?」
爆弾発言の爆風により、抽象表現では商人の目玉は飛び出した。
しかし、ハンプティが手配書をつまみ上げて弁解する。手配書には『堂島山賊団棟梁・堂島 藤吉郎(ドウジマトウキチロウ)』と、書いてあった。山賊団の棟梁にしては中々の金額だ。
「ああ、正確には俺等が取り逃がした奴等だ。追ってるんだけどよ、まさかこんなトコで悪事を働いてるなんてなぁ」
口をクシャクシャに歪めた渋い顔で言うと、ハンプティはカウボーイハットを深被りして表情が見えない様にした。
トーンを少し下げた声で、商人に頭を下げる。
「すまんかったなぁ。俺がもっとシッカリしてりゃ良かったんだけどよ……」
商人は何も言わない。ハンプティが悪くないのは知っている。しかし災悪をもたらしたのは根源的に彼なのだ。商人は受け入れていない、只、どうして良いのか解らない。
この世の災悪を詰め込んだ箱を開けてしまったパンドラを前にした気分だった。


28: 名前:サスライ☆02/22(月) 21:55:01
優雅とは対称的なのに別ベクトルで芸術性のある香りがする。森林が放つ新鮮な酸素や、生物の代謝を活発にするホルモン等様々な物質の臭い。
ここは、ハンプティ達の居る町とは少し離れた森。
木々が絡み合い、サワサワと風が葉音を伝える。
何年も掛けて作られた獣道を、先頭の巨大角の鹿を筆頭にした鹿の行列が横切る。
半分程に差し掛かった時、風の声が微笑みから悲鳴に変わる。それは何かが猛スピードで迫っている証拠。
ザワザワと迫る悲鳴。巨大角の鹿は行列を急がせる。しかし願い空しく悲鳴は辿り着いてしまった。
グワ。
そんな音がした後、空から巨体が突っ込んで来た。白いギザギザ、赤い肉。それが捕食者の顎の内側であるのを一匹の鹿が認識した時は、ギザギザの牙に噛まれた後だった。
地面に写るシルエットは馬に似ているが大きすぎる。
深緑色の鱗は鰐に似ているがここは地上だ。
鋭い爪は虎に似ているが毛皮が無い。
大きな翼は蝙蝠に似ているが、鱗が付いていた。
『未確認生物・ドラゴン』。様々な種類が伝記より伝えられているが、正確な個体は未だ登録されていない。
ドラゴンの背には馬にも付ける鞍が付いていて、日本刀がぶら下げられている。
鞍には男が股がっていた。この男こそ、堂島 藤吉郎。手配書よりも猛禽類の様にギョロリとした目で、鹿の群れを見る。


29: 名前:サスライ☆02/22(月) 22:38:04
【番外編;チシャちゃんの、補足コ~ナ~♪】

さぁて、やって参りマシタ二回目。しかし天丼は二回まで!どうするこのコーナー!
と、言う訳で今回は『未確認生物』についてお話しまショウ。
未確認生物とは、公式で国に登録されていない生物を指しマス。
でも、戦争したての国としては新境地開拓より、復興に忙しいんデスネ。
だから簡単に発見されたりしてマス。今回のドラゴンとかそうデスネ。
それでも見つかり辛いのは居マス。人の入れない様な自然の奥地は勿論、他の生物にソックリ過ぎたり。
他の生物。『ヒト』にソックリとか、ありマスね。しかも、本人が自覚して無かったリ。
例えば『オーガ』って言う未確認生物が居マス。漢字で書くと『鬼』デスネ。
この生物は伝記の通り角を生やしていたり赤かったりとヒトと区別を付け易いのデスガ、条件を満たさないと特徴を出さない種族も居マス。ヒトで言うアレルギーみたいな物デスカ。
ああ、この国の英雄は鬼だったって説がありマス。精神が極限に達すると額から角が生えて皮膚が赤くなって人外の力を発揮するトカ。
まあ、赤い鎧と剣を持っていた故の誇張表現かも知れマセン。なんせ、噂ですカラ。
そう言えば、そんな英雄を力で追い詰めたのがチャイニー地方に二人居ましたネ。
一人は、『千鳥流古武術師範・千鳥 笑(チドリシャオ)』
もう一人は、『帝国皇帝・神封』。
まあ、笑は死亡。神封は瀕死の傷で海に飛び込んで行方不明。英雄は神封との一騎討ちに敗れて死亡。
結局、『誰が』未確認生物だったのか確かめようが有りませんが、ネ♪


30: 名前:サスライ☆02/23(火) 03:46:37
逃げる鹿達をギョロ目で睨みながら堂島は鞍にぶら下げられている刀を抜く。実はこの刀、少し特殊な刀である。
『大和鋼』と言う特殊な鋼で作られた日本刀、その名も『大和刀』。達人なら一太刀で滝を切り裂くと呼ばれる程驚異的な刀だ。
が、使い手も驚異的に少ない。大和鋼の加工に高い技術が必要な事や、大和刀が普通の刀より高価等理由は多々あるが、一番の理由は、威力故に重すぎて振り回せないとの事。
戦争中の大和鋼の役割と言えばナイフやヘルメット等脇役的な物で、重い大和刀を持ち歩き、かつ振り回せるのはロボット程度であった。
しかし帝国兵時代、堂島は大和刀を好んで使っていた。銃や戦車が主流の時代でだ。
がに股気味でバットを垂直に立てた様な構えを、刀でやる。平安~戦国で主流だった八相の型。
剣道では隙だらけで誰も使わないが、体重を乗せ易い為に実戦では必殺の型に近い。
堂島はピューピューと千鳥の鳴き声の様な独特の呼吸をする。特殊な呼吸により身体能力を弄くっているのだ。帝国兵だったからこそ使える、千鳥流古武術。
鹿の群れは脅威に対し、死ぬ気で駆ける。ドラゴンは脅威だが、本能が一瞬で理解させた。最も危険なのはあの人間だと。
駆ける鹿に向かって、堂島は踏み込んだ。


31: 名前:サスライ☆02/23(火) 12:20:21
普通、人は鹿より早く走れない。生き残る為の進化の結果、人は頭脳を発達させたのに対して鹿は脚部を発達させた。
種族差と言う絶対的な境界だ。余談だが同じ様に脚部を発達させたシマウマは、時に虎をも蹴り殺す。
しかしあくまで、普通の話。では、『全力』の人間と『必死』の鹿ではどちらが速いか。
「白虎咆哮……」
枝を踏み抜き、大地を蹴り、堂島は駆ける。
実は生物はその身体能力の大半を脳でセーブしている。しかし千鳥流古武術はそのリミッターを外して、身体能力の文字通り全力を引き出す。一歩間違えれば、身体への負担がとんでもない。
脅威が見えなくなっても、鹿は安心するが油断はしない。周囲を見渡す為に横に付いた目で辺りを見回す。本能が言っているのだ『危険』と。
さて、この周囲を見回す目だが死角が存在する。一つは背後、そしてもう一つは……
「俺は……上だ!」
上から刀を構えた堂島が飛び込んで来た。刀の重さを利用し、空中で回転。逆サマーソルトキックで、踵は警戒していた一匹の鹿を、茂みの向こうまで蹴り飛ばす。
白虎咆哮。
青龍咆哮と並ぶ千鳥流古武術の基本呼吸術で、特殊な呼吸により、主に脚部を強化する。青龍咆哮は上半身だ。
それでも無理なのではないか、そんな事は無い。全力の鰐は草食獣クラスのスピードを持つし、ヒトの女性とて400~500キロを片手で振り回す事が出来る(男性はその倍)。


32: 名前:サスライ☆02/23(火) 14:13:59
追い詰められると防衛本能により、捕食者にも病魔にも立ち向かう。ヒトは勿論、全ての生物に言える事だ。
蹴りにより茂みの向こうの、逃げ場の無い岩場まで飛ばされた鹿も追い詰められた状態であった。
鹿は鼻を地面に向ける。それは降伏の証では無く、角を向ける事での決闘の決意。突撃前のバッファローの如く前肢で地面を慣らし、鹿は構える。
刀を構えながらにじり寄る堂島。鹿の間合いに入るまで、後三歩。
鹿は己の角に自信があった。普段から木々を払ったりしている角での攻撃は、その気になれば丸太程度なら軽くへし折れる。
堂島は明鏡止水の如く静かに呼吸する。冷静に鹿の呼吸と己の呼吸を合わせる。
鹿の間合いに入るまで、後二歩。
風は相変わらずサワワと暢気な声で飛び回るが、この一人と一匹の間の空気は、背筋が凍る緊張感に溢れていた。
鹿の間合いに入るまで、後一歩。
無限に広がる空間を葉が舞う。しかしこの中の空気は空間の一部を圧縮したイメージ。踏み入るなら、葉すら圧縮されそうだ。
そして葉は、それに入った。瞬間、堂島が踏み込む。踏み込んだ跡空間で葉は粉々になっていた。
堂島が踏み込んだ瞬間に鹿は懐へ向かって突貫する。踏み込みの相対速度を利用したカウンターだ。


33: 名前:サスライ☆02/23(火) 15:24:27
鹿は頭の中で映像が細部までイメージ出来ていた。自分の角が、刀を振り下ろす前に腹に突き刺さり、生き残るイメージが。
しかしそんなコンマ一秒の中でも堂島は数時間を圧縮したかのような思考が出来る程に冷静だった。鹿の繰り出すあらゆる攻撃パターンが予測されている。
剣術は剣道では無い。刀の動きの違いは勿論、構えの呼び方や自由の幅も違う。
だから堂島は剣術に則り、『蹴り』を使った。股裂きに成る程、下から突き上げる爪先蹴り。狙いは弱点の鼻先。
それを鹿は本能で察知。角で横から弾く事でかわす。堂島はその刹那で弾かれた事を認識すると、弾かれた足を地面へ。そのまま足首を回転させて身体を横に旋回させる事で直撃直前に角を回避する。
刀を構え直すと既に突貫の第二波が来ていた。堂島は、跳ぶ。それに合わせて鹿も跳ぶ。
しかし、跳躍にしては堂島のソレは余りにも『ノビ』があった。ノーモーションなのに筋肉を振動させる事により身体全体のバネを使って跳ぶ事が出来る。
「青龍咆哮」
上半身が膨れ上がる。交差の瞬間、加速と重さと筋力を利用して、鹿を角ごと叩き斬った。
交差の後に残るは、面を割られた鹿と大和刀を気だるそうに片手で持つ堂島。いつの間にか、圧縮された空間は元に戻っていた。
「今日の訓練兼食糧調、終わりっと……」


34: 名前:サスライ☆02/24(水) 17:46:04
その場で鹿の肉は解体され、皮の袋に入れられると、ドラゴンの鞍にくくり付けられた。
堂島は鞭の要領で手綱を鳴らすと、ドラゴンは走り出す。尚、翼を使わないのは、このドラゴンの翼は奇襲用で少しの時間しか飛べず、エネルギーも馬鹿にならないからである。

堂島を乗せたドラゴンは、森の中のテントが沢山張られている場所に到着する。堂島は一際高い木の上に向かって声を放つ。
「堂島だ、今帰ったぞ!」
「おお、お帰りなさいな。お頭!」
木の上から威勢の良い男の声で返事が来た。
このキャンプ場を思わせる場所が堂島山賊団の現アジトであり、木の上は天然樹を改造した見張り台だからだ。
テントの中から猫背で長い黒髪の女が出て来る。彼女は鹿肉の入った皮袋を、まるで警戒する犬の様にクンクンと嗅ぐと、髪に隠れ気味だが意外と切れ目の目を堂島と目を合わせた。
「この臭い。オヤビン、今日は鹿肉でゲスね」
「ああ。不満か?」
「いや、最近熊肉ばっかで飽きてたから寧ろ願ったり叶ったりでゲス」
また、風が舞う。風は彼女の髪を優しく捲り上げ、儚げだが美人な顔の笑顔を堂島に鑑賞させる一瞬を与えた。
鑑賞した後はギョロ目を少しだけ細めて、口元を緩めて声を空気に乗せる。
「ふ、手厳しいな」
「あれ?どうしちゃったんですかオヤビン。目を縮めちゃって」
「いや、さっき舞い上がったお前の髪が目に入って痛くてな」
「え!?
そ、その、スマンでゲス!切った方が良いゲスかね……」
「いや、今のまんまでいい」
見張りにとっては、それは見慣れた光景なので、眉間に皺を寄せつつ口元をへの字にして呟いた。
「まただよ……」

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最終更新:2010年09月04日 11:53
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