69: 名前:サスライ☆05/07(金) 01:09:53
【二曲目・ハンプティ ダンプティ】
ハンプティ達はこの町に暫く滞在する事にした。町をユルリと楽しむのも旅の醍醐味だと、今回チシャは強く言った。
堂島の件で大分稼いだと言うのに、六畳の安い宿屋に陽が差して、ベッドの上で大きなイビキをかくハンプティを照らす。
その隣には闇があり、針の形で視認できる程僅かながらに差し込む光で浮かび上がる像は若い女性の裸体。
最も、女性と解るギリギリの年代の身体で幼いが。
彼女は緑の髪を揺らしてワイシャツを白い袖に通して、カーゴパンツを履いて出かける支度をする。
「……さて、何故デショウかね」
眉間に皺を寄せて、チシャはワイシャツのボタンを留めて、深い黒目が写る景色を飲み込もうとする。
チシャには引っ掛かる事があった。何故、堂島山賊団は自分達が来る事が解っていたのか。武器や他山賊団との連携等下準備が出来過ぎている。
「考えられるのは、あの武器商人デスカね」
始めに助けた武器商人。ソコからしか情報は漏れない筈だし、この件と関わりのある『決定的な証拠』も後で解った。
「さて、行きま……」
「グオー!三千体のバキュームカーがボクシングキックぅ~」
「この馬鹿、棄てて良いんでしょうカネ」
更に深くなった眉間の皺に答える者は否定する己しか居なかった。
70: 名前:サスライ☆05/07(金) 01:45:01
【チシャなオマケ】
ハンプティ、ハンプティ。あの突然イビキと同時に言い出した奇妙キテレツ珍妙にして奇怪な台詞はなんデスか。
「ん、寝言じゃねーの?」
そうデスか、納得できマセン馬鹿野郎。どんなカオスな夢デスか。
「いや、夢だし。よく覚えてね~よ」
そうデスか、そうデスよね。脳ミソ引き裂きマスよ。
「そうすると、一万の流星群がデフレスパイラル……」
……もしかして、さっきのも寝言デスか。この下等生物的な粗大塵が。
71: 名前:サスライ☆05/14(金) 21:58:35
チシャが騒音出すハンプティを打ち上げられた腐ったワカメを見る様な目で見てる時、町には堂島の手配書と入れ替わる様に手配書が出回っていた。
手配犯を示す四角い枠組みの中には、ハンプティ達がはじめ助けた商人の顔が納められ、『山賊への武器の提供』と罪状がある。
途中買った林檎をかじりながら、赤いスカーフをなびかせるシェンフォニーはそれを見て、顎に人差し指を沿えて考える。
「……ああ、成る程ね」
一言呟き、また林檎をかじる。新鮮な食感と、瑞々しく甘い味が口内を潤した。
すると固くて苦い物に歯が当たる、林檎の芯だ。それを強引にかじると飲み込んだ。
シェンフォニーには前情報がある。この商人の娘は自警団ガンマ一家への武器の提供を行っていた。堂島が捕まった今、武器の供給源が割れて、それが身内だった為の手配書発行の早さだろう。
身内の不祥事を早めに処分するのは何処も変わらない。腐った林檎しかり放っておけば周りを腐らせる。
そこは良い。そこは正解だが、『そこ』であって『そこまで』では無い。もしも、はじめから何かが間違っていたらどうだろう。それが、林檎に見せた何かだったらどうだろう。
これは、奇妙な事なのだ。だって、堂島はそんなにポロリとボロを出す人柄でも無ければ、麗をはじめとする堂島山賊団の面子は『捕まっていない』。実は、麗を気絶させても役所に差し出した訳では無いのだから。
つまり、何かが彼女を犯人にしたがっている。
「ふぅ、まあ、先ずは本人に聞こうかなぁ」
ゴクリと、固くて苦い芯を飲み込み、完全に林檎を食べた。
72: 名前:サスライ☆05/16(日) 19:34:06
チシャが今回商人が裏で糸を引いていたと、先ず考える『決定的な証拠』として、山賊があの時トラックの積み荷に見た武器と同型を使っていたと言う物だ。
しかし、そのままではまだ言い訳が効く。が、そこにはチシャの髪の毛が付いた物が混ざっていた事で、その日商人が持っていた武器と同一と断定した。
そして、だからこそ、『商人は犯人では無い』とも思い至る事が出来た。
武器とはそう易々と大量に仕入れる様な物か、否、普通は弾薬等の補充に収まる筈だ。
考えられるシナリオとしては、ハンプティ等から逃げてる移動先に、今回の戦いの為の武器を求めた。
そして山賊に納入する為に武器を運ぶなら、建前上の納入先のガンマ一家の目の付く場所にソレを置かないだろう。
チシャは本屋で一冊の薄い本を手に取って、店主に金を払う。表紙には『ポロリもあるよ!この町ガイド』と、柔らかく艶やかなタッチで印刷されている。
「あれ、お嬢ちゃん観光かい?」
「ハイ。青春の思い出に一人旅をしてみたくて」
「そうかい。じゃあ少し、まけて上げるよ」
「キャー、おじ様太っ腹ー」
黄色い声と黄色い笑顔を作って自己愛の強い人が見れば、苦笑いを浮かべそうな空間を作りだす。
本屋を出て、笑顔を直ぐに険の顔にしてガイドブックの地図を開き、一つの場所を選択した。
「ガンマ一家アジト……と。一番怪しいのは此処デスかね」
武器がどの様に山賊に渡ったかを考えると自然にこの考えになる。
納入された後、その武器を山賊に横流ししたのだ。
73: 名前:サスライ☆05/19(水) 18:52:40
エピソード共和国は、大国だった。それ故に戦争になると指令部や国境に国力を注がなくてはいけなくなり、地方の管理は手薄になる。
そこに付け込んで田舎に現れるのは、賊だった。が、この町は比較的田舎だと言うのに賊に攻め込まれた形跡が余り無い。
当時、この町の不良を力で制圧していた青年、ジャヴァ・ガンマが町中の不良を徹底的に組織化して『ガンマ一家』を発足し賊に対抗して戦争を乗り越えたからだ。これは、チャイニー地方における『武士』の発生にも似ている。
その後近代化が進むがガンマ一家は礼儀と信頼で町の名物として今も残されている。
「で、そのアジトが此処デス……と」
ガイドブックをパタンと閉じて、僅かな埃は風に流され何れも知らぬ所へ行くだろう。チシャは目の前の中型ビルを見上げた。
さて、どうやって尻尾を掴んでやろうと首を捻っていると、声をかけられる。爽やかな男性の声だ。
「観光ですか?お嬢さん」
「え、ええ。まぁ……」
見物するのだから観光には違いないのだろうかと一考。しかし、対照は組織の裏側だが。
「実は私、ガンマ一家って親切な組織を見てみたくて」
「ああ、なんか照れます。実は俺もガンマ一家なんですよ」
男は苦笑いを浮かべて頬をポリポリと掻く。どうも押しに弱そうで、暴力団とは思えない。こう言うイメージも支持される由縁なのだろう。
「あ、じゃあ見せて下サイよぉー」
「ちょっと無理ですね」
「なんでー、ケチー、減るものじゃ無いじゃないデスかー」
「いや、これが減るんですよ。
……例えば、お嬢さんの命とか」
「……え?」
男は、何時の間にかチシャに接近していて、そしてナイフをチシャの左胸に刺していた。
「いや、ホントスミマセン」
ナイフを刺した部位から服に滲み出る緑の血を見て、再び男は困った顔で頬をポリポリ掻いていた。
74: 名前:サスライ☆05/21(金) 18:06:33
人間で言うと心臓の部位にナイフが刺されていようと、チシャは動ける。何故なら、この未確認生物には『心臓は存在しない』から。
しかし動けない原因は覚えのある痙攣。麗に刺されたナイフの毒に似ている。
「いや、スミマセン。
貴女、暗殺じゃ死ななそうですし、取り敢えず堂島山賊団で使われた500倍濃度の毒で動けなくさせて頂きました
前の山賊団の戦いで効く毒と解っているので」
どうしようもならない事をどうにかしようと、所謂足掻きで熱くなりつつもう一方の脳では冷静に分析していた。
目の前の自称ガンマ一家の刺客は『堂島山賊団で使われた』と言った。脅迫効果としては寧ろ『麗が使っていた』と言った方が良い。
ソコで考えられる第一の結論として、この男は堂島山賊団との繋がりは幹部の名前も知らない程薄いと見える。
しかし、取り引きをするに当たって相手の情報を調べておかない闇商人が居るだろうか。いや、居ない。
つまりこの男と『武器商人』は同一人物では無いと言う事。と、言う事で最終的に得られる結論として『武器商人』は複数犯もしくは殺し屋を雇えるだけの財力がある人物に絞られる。
男に担がれるのが解る。この先にはセメントを貯めたドラム缶やガソリンタンクがあると考えられるだろう。
身体は動かないしさて、どう抜けようか。そう考えた時、また別の男の声がした。
「あれ君、何やってんの?」
薄らと見えるシルエット。燕尾服を着た細長い肉体。そして、薄らと赤いスカーフが見えた。
75: 名前:サスライ☆05/24(月) 20:09:11
男からシェンフォニーの方向に風が吹いて、赤いスカーフがなびく。
そして燕尾服と、どこぞの舞踏会にでもご出席するのかと言う格好とは反して軽く、シェンフォニーはチシャを担ぐ男を差した。
しかし、困り顔の恵比寿表情で男は頬をポリポリと掻くと返答を出す。そこに焦りの色は無い。
「いやね、この娘がイヤに背伸びして勢いで酒飲んじゃいまして。いやね、私は止めたんですけどね」
何処にでもある笑い話を置き土産に去ろうとした男の耳に、声が届く。
「ああ、嘘は良いんだ。
酒を飲んでるなら、風向き的に酒の臭いが届く筈だよねぇ。
他にも色々あるんだけど、取り敢えず、さ」
ヘラヘラと、表情をユラユラと揺らして近付くシェンフォニーは、風向きに逆らって言の葉を届ける。
「……アンタ、『どの勢力』?」
途端、目にも止まらぬスピードでナイフがシェンフォニーに向かった。あくまで、常人なら目にも止まらぬ程度だが。
金属音。音はマイペースに音速で届く為、ハイペースで男の耳に届き、拳銃どころか無手が引き出す金属音に対しての疑問を持たせるのに一秒以内。
その一秒以内に決着はついた。
透明の日光が映すのは、金色の硬貨。種明かしをすれば簡単だ、種も仕掛けも大して無いのだから。
袖に隠し持っていた金貨を強力な指の力で射出。金の帯を軌跡に引いて、加速する金貨はナイフの側面に命中。
ナイフは弾かれ、しかし金貨は金独特の弾性で上部に反射。くの字の金帯は、鼻と口の間にある人体急所にややめり込み、身体の自由を奪ったのである。
声にならない闇の様に透明な声を上げて顔を抑えて悶える男に声を上から掛けてみる。
「おや、金貨一枚じゃチップとして不満かな?」
76: 名前:サスライ☆05/28(金) 20:48:48
すきま風が送る腐った木の香りに、重みで抜けそうな床の上に置かれた、縛られている刺客。ここは少し離れた町外れの廃倉庫。
シェンフォニーがチシャの顔を覗く。ソコには人形の様に都合良く美しく、しかし蒼白な顔がある。
それもその筈で、ナイフで急所をザクリと貫かれたのだ。普通に即死だが、チシャは人間で無い事が解るし、何よりも手首を伝えて感じ取れる。
「まだ、脈がある」
心臓が動いていないクセにそれも変な話だが、生命反応がある事は確かだ。
さて。どう行動したものか。
この町には今チシャの命を狙う者が居て、迂闊に病院に見せられない。居場所がバレるからだ。
だからと言って闇医者なら良いかと思えば、そもそも人間の為の医療がこの生物に効くか疑わしい。
身元が分かれば、どうにかするヒントを得られるのでは無いか。そしてソコから今回の事件のヒントをまた得る可能性が高い。
「ちょっと、ゴメンよ」
チシャの服に手をかける。この辺は絵面的にとても危ないので、小説で良かったなと作者は思ったが、正直読者にとってどうでも良い。
ピンクライトタイムを過ぎて得られたのは古ぼけた新聞紙の切り抜き。ソコに写されているのは、神封。
今でも神封を生きていると信じて探す者は居る。帝国を復興させようだとか、懸賞金を得ようだとか、男のロマンだとか、取り敢えず本人にとっては良い迷惑だ。
「こりゃ、ちょっと厄介な拾い物しちゃった?」
「いや、そうでも無いデス」
何時の間にか蘇生していたチシャが言った。
77: 名前:サスライ☆06/01(火) 16:37:38
チシャは一度喰らった毒は二度と喰らわない。何故なら、身体を作り替える単位の免疫機能を持っているからだ。
体内では毒が入った瞬間、ダイナミックな発生があった。内皮の一部が盛り上がり、新たに毒の特異的な構造を集めるだけの臓器を形成。しかし形成しただけでは解毒は出来ない。
この間にチシャは刺客の男に担がれている。
そして、形成された臓器の作用により体液の流れが変わり、また恒常性により一時的に心臓部への菅を切断。
この時、心臓が動いていないのに体液の流れがあるが故、脈が確認出来る。
毒を集め切ったトコロでそれを体熱による温度変化と、専用の酵素で結晶化。この時点で毒は身体に作用しない為に、動ける。
「こりゃ、ちょっと厄介な拾い物しちゃった?」
「いや、そうでも無いデス」
直後、結晶化した毒は体液の水圧により食道に流されて、緑色の体液ごと口から毒を吐き出す。
「うえっ」
古い木製故にベッタリと床に染み着いた緑色の体液。そして床に転がるは小石程の結晶化した毒。尚、これの殆んどは酵素(タンパク質)なので、人を簡単に殺せる毒の分量は、かなり少ない。
チシャの服に風穴が開いている。しかしそれだけで、既にナイフによる傷は無い。
そんな『怪奇現象』を目の前で見せられてもシェンフォニーは精々顎に手を当てて目を細めて、そしてややウゥムと唸る程度だ。
何故ならこの世界に、幽霊妖怪怪物、そんなオカルトな物なんて居ない。
居るのは、今生きている者達だけだ。
だから、目を反らさずに考える。目の前に、何が居るかを。
78: 名前:サスライ☆06/02(水) 15:31:15
先ず気になるのは、緑の髪の毛だ。何故緑なのか。そもそも、質感からして地毛と思われるが、緑の髪の毛なんて人間が天然に居るのか。
次に目に付くのは、緑の体液。様々な伝説に緑の体液の怪物は居る。そして、緑の体液の動物も居る。血が赤いのは鉄があるからな訳だが、銅が多いとこれが緑色になる。
しかし、吐き出した体液は床に染み着いた色のままで、つまり血漿作用による硬質化が無く、これとは違う物と考えられる。
白い肌がある。きめ細かく出来ていて、まるで作り物の様だ(作り物だが)。
それらの材料を基に整理して、また知識から答えを導く。最後の一文は棒読みで。
「ああ、君。『人間植物』かぁ。全く、化け物かなんかと思っちゃったー」
「……驚きマシタね。まさかこれだけの判断材料で導くとは。やっぱ、皇帝様ってトコデスカ」
「そんな立派な者じゃ無いさ。今は、しがないイケメン紳士だよ」
自分で言うかこの男。シェンフォニーは手を広げて苦笑いしてみた。
『人間植物』。
それは人間に擬態した植物である。一番古いのは幹の形が顔に見える、所謂人面樹と言われているが定かでは無い。
神話や伝説にもそれらしき物が幾つかある。
人喰らいの花マンイーター。人間キノコのマタンゴ。根が人の赤子の姿のマンドラゴラ。
筋肉は動物のソレよりも少ないが、多様な酵素作用により活性化させて、動物並の動きが出来る上に、細胞壁を持つ為に高い防御力を持つ。
「まあ、シェンフォニーさん。コレで説明する手間が省けました」
「説明?と、言う事は俺を探している理由に関わるのかな」
「ハイ。あれは、そうですね、私が鳥のウンコの中に居た頃の話デシタ」
チシャの顔は、これ以上無い、下手すると麗と戦っていた時よりも真剣な顔だった。
79: 名前:サスライ☆06/02(水) 15:48:19
【補足・チシャちゃんのオマケコーナー】
ハイ、やって来ました。オマケコーナーと言う名の予定調和。回数数えるのもめんどいんでサクッと行きまショウ。
今回は、私ことチシャについてデス。
私の髪の毛は緑デスネ。これは、私が人間植物だからデス。これ、実は物凄く細くて柔らかい『葉』なんデス。だから、葉緑素の濃度を変えて赤くしたり、黄色くしたり出来るんデスネ。つまり、紅葉デス。一応、昆布とかの応用で黒くも出来るんデスが、ヌルヌルするから、普段は緑デス。
植物なのに動けるのか。動けマス。植物って実は細胞骨格に使われてる微小管って筋肉がありマス。これを、独自の反応で活発にさせるんデス。因みに、身体は茎、足は根で出来てマス。だから、内臓なんて人間の暮らしをする為の物で、急所と呼べる急所は無かったりしマス。
これの応用で、体内にも体外にも変化を及ぼしたり出来マス。
例えば、細胞に酵素を作用させて身体の作りを変えたり。手持ちの植物の種を急成長させて操る事で、只の太いツルを触手に見せたり。
まあ、ゴチャゴチャしとりマスが、つまり私のやってる事には実はタネも仕掛けもあると言う事なのデスよ。
81: 名前:サスライ☆06/03(木) 21:53:53
麻は牧場の純朴な香りを思わせて、磨かれた木の光沢は太陽を、そして生命の営みが生い茂り、総じて神秘を味わい感じる。
しかしコレをハンプティはそう感じない。何故なら、人とは、ソレがどんな美しい物であろうと自分に害があるなら醜く見えるからだ。
ぶっちゃけてしまえば、ハンプティが起きてみれば麻縄でグルグル縛られていて、カビがやや生える床にゴロンと転がされている。
チシャが寝ているハンプティをどう想っているかが解る貴重な一枚絵だ。
「……おりゃっ!」
一気に手を広げれば、複数の麻の繊維が一気に、ブチリと言うよりはビリリと言う、盛大に破れる音がした。余談であるが、麻縄は弓の弦に使われる程の強度を持つ。
朝日が見える、実は南中に昇っているからもう昼だが。
フワァと窓の様に大きく口を開けてアクビをしてみれば、先程破って空気中に舞った麻の破片が口やら鼻やらに入って大ダメージの証拠の奇怪な咳だ。
「ゲフ!ゴホ!!アヂュ!!!あ゛~、チシャのヤツめ……」
涙を少し浮かべて、ふと日を見る。そこには、ハンプティが見てきた限りでは今も昔も何処でも変わらない太陽があった。
「ああ、そぅいや、アイツ(チシャ)に初めて会ったのもこんな朝日で、咳ゴホゴホしてたっけな」
朝日では無い。
ツッコミは不在なので読者諸君がセルフでツッコンでくれると有難い。
82: 名前:サスライ☆06/04(金) 22:19:19
何故、戦うか。負けたら皆死んでしまう。封も、雪も、この世界(村)も死んでしまう。
守れるのは自分だけ、故にこの拳に懸けて、勝たなければいけない。
「かかって来い、雑魚共がぁ!」
血塗れになりつつも、素手でマシンガンやら大層な武器に無策に立ち向かい、しかし勝つ彼の姿はまるで物語に出てくる『正義の味方』だった。
彼の名は千鳥 笑。この一対多数の戦争で、勝利した直後に弁慶の立ち往生宜しく拳を構えたまま絶命した帝国の英雄だ。
この昔話は、この戦争の後、大戦が幕を降ろし、敗戦国の人間である彼の墓の存在が薄れてきた辺りから始まる。
†
茂る森があった。風とかで木の葉が唄い、パンダとか野性動物が自由に走り回る森があった。
そんな人工の踏み入る隙の無い森なのに、人工物がある。
直径にして約1メートルの黒い四角柱。月光が光沢をかもし出し、『千鳥 笑』と言う彫られた文字を浮き彫りにする。
しかし人工物だからと言って恐れる動物は居なかった。生前彼が修行にこの森で半分原人の様な生活をしていたからだろうか、寧ろ墓場に寄ってくる始末だ。パンダが寄り掛かったり、鳥がフンを落として来たり。
だから今日もフンを落とされる。しかしそれが、彼の運命の歯車を再び動かす。
83: 名前:サスライ☆06/14(月) 22:42:07
なんか、携帯では入れないのでPCから書かせて頂きます。
†
北欧神話にはユグドラシルという名の世界樹がある。文字を並べただけに見えるがなにか語呂が良くてスムーズに言えるこれの語源には諸説あり、その一つに主神オーディーン(別名ユグ)の馬と言うのがある。
ユグドラシルの基となった存在かは定かでは無いが、ある時代のある国ではそう呼ばれていた植物の種子は神の馬の如く空を渡る。
と、大袈裟に言えばそうなのだが、実際は単に鳥の腹の中に入れられて運送されているに過ぎない。これは種子植物の宿命とも言える。
種子植物は生育領域を拡げる為に種子を他の生物に運ばせる(勿論、タンポポ等例外はあり大分間違った言い方だがこう言った方が物語的に有利なのである)。そして、糞を肥料として生長するのだ。
しかしこの無敵最強とも思われる方法にも欠点があった。場所を選べないのだ。例えば海に落とされたら魚の餌だし、砂漠に落ちれば水が無い。
つまりこれは選択肢なんて無い只の偶然なのだ。勿論墓の主も鳥も予想していなかった。
糞が落ちれば根が生える。場所が墓石の上だろうと、例えば雨水等水分があれば石を突き破って地面に向かい根を伸ばし続ける。
それを知るのは一名。毎日の様に墓石を休憩所に使っていたパンダだが、超自然の一部の彼にとって別にどうでも良い事だった。だから、それを見た人間は居ない。
大人三人分程のサイズだろうか、巨大な花が三個咲いていた。一つは天使の翼の様に白い花、もう二つはなんとも言えない毒々しい色の花。
後にチシャと呼ばれるモノは、ここで生まれた。
84: 名前:サスライ☆06/16(水) 16:23:04
雨の様に言葉があるからには静かでは無い倉庫だが、チシャとシェンフォニーお互いの温度差により台風の目の様な静かな雰囲気と言う名の天気を作り出す。
パワパワと身振り手振りを交えながらチシャは特に真面目でも無い顔で、物語りながら物語る。
「……さて、ユグドラシルって神話じゃどんなのか解りマス?」
「確か天界まで続く大樹で、その根は異世界に繋がっているんだっけか」
「その通り、流石はシェンフォウ……いや、シェンフォニーさんデスねぇ。博識デス」
『神封』と言い切ろうとしたのを、目を見て止める。しかし表情はニヤケている。他意は勿論ある。
チシャがその表情で、まるでキョロリと視線を身動きが取れない状態で床に転がってる殺し屋に移した。
「この世は、進化の過程で強い生物が生き残ってきまシタか?いや、違うでショウ。環境に適応した者が生き残ってきただけデス」
今度は覗き込む目で、しかし再びニヤニヤと笑う。シェンフォニーは表情を微笑みにしているだけ。
つまり表情は変わっていないが。
「まあ、そうだね。俺の昔の政策が駄目だったのも、時間がチトいかんかったからねい」
皮肉の無い微笑みで皮肉しかない台詞を言ってのける。しかし、ここでシェンフォニーはある事を考えてキーワードを並べてみる。
「ん、待てよ?
墓場、天界、ユグドラシル、進化。
……多分、君ってアレだよね。今の時代の生物の遺伝子を根から吸って、ある程度復元させて、適応してきた生物じゃないかな?
だから、正確な記述が無い」
「大当たり。様々な生物の遺伝子を比べ、生き残るに最適な形を選んで様々な時代を生きてきまシタ」
シェンフォニーの口は微笑んだままだが、目付きが険しくなる。ジグソーパズルのピースを必死で埋める目だ。
「身体を造る仮定で、崩れた地中の遺伝子を復元する必要があるよね。
て、事は一種類の遺伝子の濃度が高ければその生物を再現出来たりするのかな」
「まあ、出来ますネ。それが、何なんでショウ?」
シェンフォニーの顔から完全に笑みが消える。逆にこれでもかと言う位にチシャがニタリと笑う。
「最後の質問なんだけどさ、花の意味って多分君の身体を造る為だよね。植物における果実的な意味で。
でも何で、『3つ』もあるのかなぁ」
「決まっているでショウ。地中の『老廃物』を排出する為デス」
台風が一気に強くなる。
85: 名前:サスライ☆06/16(水) 20:33:22
ハンプティの元に、珍しい客が来ていた。珍しいと言うのは、直接的にも間接的にも会った覚えの無い客だったからだ。
客は言う。
「堂島山賊団を倒した貴方と見込んで話があります。ある娘を助けて欲しいのです」
客自体は珍しいが、こう言った依頼が舞い込んで来るのはハンプティにとって特に珍しく無い。
故に、片膝立てて耳をほじくるとヤケにリラックスしている。
「どんな娘なんだよ。
犯罪者とかだったらあんま気乗りしねーなぁ」
「その、スミマセン。実は犯罪者なんです」
それを聞いた途端に眉をハの字にして口を台形にして、物凄い面倒な顔をする。
犯罪者の警護は、後で自分に色々と付き纏うが問題は護衛相手が馬鹿な奴が多くて、命を懸けて護る気になれない事だ。
例えばブクブク太るだけの金持ちや、人の話を聞かないテロリスト等である。
ソレでも重くて粘りっこい声でどんな人間か聞くのはそうでない場合もあるからだ。
依頼しに来た客は、そう言う人種の仲介人とはどこか違う。ボディーガードに囲まれていなければ、大きなトランクを持っている訳でも無い。しかも真っ直ぐな眼を持っていた。
「護衛を頼みたいのは、そこの人です」
客が指差したのは宿屋の掲示板。そこに貼ってある、手配書の一枚。
この町に来る前に助けた商人の娘だった。
ハンプティは、態度を変えない代わりに雰囲気を変える。ソレは、どんな時代も誰もが憧れた雰囲気。
所謂、『英雄』の気質だった。
最終更新:2010年09月04日 12:04