旅人の詩 続き4

103: 名前:サスライ☆07/11(日) 20:19:54
【三曲目・旅人】

沈む肉。良く解らないが、麗にはこの言葉がピッタリする表現だと思えた。筆者もそう思う。
シェンフォニー襲撃の後、麗達は樹の影に退けられていて、直ぐに目を丸くしてドラゴンの鱗に仕込んだ発信器を確認する。発信器から、山賊団全員が近くに居るらしいと確認して胸を撫でる。
ところが目の前は先程自分達が居た場所で、ソコには黒服の男達が居た。これには実は見覚えがあって、堂島山賊団が『武器商人』と呼ぶ物のボディーガードだ。
しかし、ご機嫌いかが?と軽く挨拶する訳にもいかないのは、付き合いが表面なのも理由にあるが、何よりも小脇に物騒な物を持っている。
「衝撃弾式マシンガンに、P3グレネードショットガン、しかもロボットが3体と……
役立たずは処分って事でゲスか」
ハンプティとの決戦の際に、武器商人はかなりの安値で武器を提供してくれた。絶対裏があるが、知ってどうすると言う事で放置していたが、どうも麗は此処になって命が惜しくなったらしい。
特殊な信号電波を送り、周りの山賊メンバーに合図を送る。内容は、何時も通り山賊するぞと。
何も知らずに死ぬ訳にはいかない。それもあるが、何よりも今は牢獄の棟梁の居場所を守る為に。
「さて……お手並み拝見」
気配を消して麗の真後ろに居るシェンフォニーが、本人に聞こえない程度に言った。


104: 名前:サスライ☆07/15(木) 21:47:02
衝撃弾式ショットガン三丁、刀五本、拳銃数丁にナイフ数本。麗は自分達の全ての戦力を確認して、それでも相手の性能に劣っている事を思う。
相手は最新式重機2丁に加え、片手がマシンガンになっている戦闘用ロボットを3機も連れているのだから。
しかし、性能の差が戦力の決定的な差にならない事は知っていて、それを実現してみせようと先ずは『刀』を3人動かす。
刀持ちは元堂島ゲリラ部隊の部下が多い為か、千鳥流の使い手に限られ、故に白虎咆哮による速度強化が使える者が居る。
突然森の中から1人目の山賊団員が飛び出した為に、ロボットは反応出来なくて、ボディーガードも一瞬の間を突かれるが、ならばとナイフを取り出してカウンターを狙おうと突きにかかった。
その持ち手に多数の拳銃による銃弾が飛んで来て、狙いが定まらない。ロボットが反応しようとするが、そこへ衝撃弾を撃つ事で暫く動きを止める。
綺麗な上段回し蹴りが顎に入り、ボディーガードは脳を揺さぶられ失神。マシンガンを落とす。もう一人のボディーガードはグレネード(爆弾)を放つタイプの銃の為に近距離だとどうしても拳銃に持ち替えるまでの時間差が出る。
しかし、はじめに飛び出した山賊団員はその為に残り2体のロボットに狙われる事になるが、
それは後から森の奥から飛び出して来た、合計2人の山賊団員による、青龍咆哮で上半身を強化した一閃で間接を叩き斬られて、マシンガンがポトリと落ちた。
つまり、一人目の山賊団員にロックオンしている隙をついたと言う事だ。


106: 名前:サスライ☆07/16(金) 20:55:36
白虎咆哮で一番手に飛び出した団員を、今度は拳銃を構えるボディーガードに向ける。もう片手は重火器を担いでいるので、そう素早い動きは出来ない筈だから、素早さで翻弄してやれば良い。
しかし、その団員は足を撃たれた。何故なら、ボディーガードが予想と反して素早い動きをしてみせたから。更にボディーガードは、キロ単位の重火器を担いだまま上に飛び、グリップで殴りつける。
しかし、注意が反れている間に追加した団員が、衝撃弾式マシンガンを手に取り、放つ。
ショットガンで動きを一旦封じただけの、片手にまだ武器を持つロボットに。
潰れた蜜柑の如く内部が破壊されているのを確認するのも束の間、武器を切り落とされた方のロボットがもう片腕を振り上げて後から来た団員に殴りかかる。
しかし、拳法家と只の力持ちでは勝負になる筈も無かった。
一人は横にスイングされる拳を上に跳ぶ事でかわし、主要な回路が詰まった頭を蹴り潰し、天にでも行くのかと言う程跳ぶ。その先に居るのは、ボディーガード。
一人は直進する拳を合気の原理で上に受け流し、バランスが上に向いた所に大地を踏み締め、一気に蹴り飛ばした。その先に居るのは、ボディーガード。
刀による斬撃、鉄塊の投擲。さて、ボディーガードはどう対応するかと大体読めていたのは3人。
シェンフォニー、麗、そしてボディーガード。


107: 名前:サスライ☆07/17(土) 17:27:02
ボディーガードは、グレネードで鉄塊を爆撃し、叩き落とし、斬撃を空中で身を捻ってかわし、刀を持つ団員の手の甲を蹴ってその更に上に跳ぶ。
ボディーガードが、天高く跳んで、拳銃を構えた時に麗は呟いた。
「チェックメイト」
ボディーガードの頭に衝撃が来る。これは衝撃段による痛みでは無い、只、脳天に鉄塊が激突したのだ。
しかし鉄塊はグレネードで叩き落としたから存在しない筈と、薄れ行く意識の中で見たのはマシンガンで中身が潰れたロボット。
中身が潰れて、それが装甲の粘土の様な変型に繋がっているのも印象的だが、更に印象的なのは、その上半身が無い事だ。
見れば近くに更に見慣れぬ男。刀を持っているから、5人目の刀だが、この男の刀は実は特別製だった。
堂島の大和刀。重くて実戦では堂島程度しか使えないが威力のみは健在で、ロボットを装甲もろとも一閃して2つに斬れる。
その上半身を、青龍咆哮した二人がかりで思い切り投げ飛ばす事で、物凄く高く上に飛ばせる。つまり、刀と鉄塊ははじめから囮だったのだ。
ドスンとロボット上半身の下敷きになって、そのまま地面に寝るボディーガード。
圧倒的な性能差を、麗は知恵で補って見せたのだ。


108: 名前:サスライ☆07/18(日) 22:39:51
監視担当の団員は、ここを観察していたシェンフォニーに特に怪しい動きは無い事を、麗に連絡する。
ところが、みんな終わった途端に麗に向けて、しかしあくまで見物する見下した目線で歩き出したので、情報が送られた麗は油断してるからと、あなどる事無く命令を発信した。
木の影からシェンフォニーに向けてショットガン。ボディーガードがロボットの上半身をかわした時に備えていたモノだ。
四方八方とは言わないが、それでも変な話、一方向から包囲されている様に感じる、散弾による逃げ場の無い弾幕。だが、シェンフォニーは笑っていた。
衝撃弾とは、高威力の代わりに構造上随分とかさ張る。その為、拳銃にしてもロマンチックなビッグサイズになってしまう。ショットガン等ライフル状の銃でも同様の事が騙れる。
造形から、既にシェンフォニーはそれが衝撃弾を吐き出すと推理し、先ずの次に対象になるは自分と推理していた。
だから、赤いスカーフを巧みに動かし、炎の蛇の様に上手く広範囲の射程距離を取る。
弾丸を歴戦の感覚で、総て横から叩き落とせば弾丸の信管刺激による小さな爆発が幾つもおきた。
そのまま身体を回して、義足で後ろ蹴りを放つと、そこには監視の放った拳銃の銃弾。
銃弾は跳ね返り、銃口に入れば変なジャムを起こして暫く使い物に無くなる。
シェンフォニーのそこに硬直が生まれた。今だと忍び寄った麗がナイフを振り下ろすと、シェンフォニーはそれを指二本で止めて見せた。少なくとも、人間の反射神経では無い。
「『龍虎咆哮』。油断の理由も考えておくと良いかもね、まあ……」
このシチュエーションにはハンプティとの会合で慣れている。だから、次の手として、この距離から拳銃を放つ選択を考えておいた。
しかし、訳も解らず空へ放つ終わるのは、空中にスカーフがチラリと見えたので納得する。
詰められた刹那、手首を動かしてスカーフを麗の皮膚の上から筋肉の筋にぶつけて、間接を無理矢理上に動かしたのだ。
「……化け物め」
「人間さ。一人ではたった一つの国も守れない、小さな人間だ」


109: 名前:サスライ☆07/19(月) 20:30:49
朽木の枝がポキリと折れたその奥で、シェンフォニーが重厚な服装とは真逆に、麗に軽く話しかける。
「まあ、君達にパシリを頼みたい訳さ。その為の実力を見ていたんだ」
「銃口ケツにぶっこんで、鉛弾鼻から出すでゲスよ?」
眉をハの字にして両手をオイオイと振るのは、麗の目付きに本物の殺気を感じたからで、この時折れる筈の無い若木の枝がポキリと折れたそうな。
シェンフォニーは、こほん。と、一拍置いて如何にも話題を変えそうだなと言った仕草を見せれば、故にそうなった。
「いや、実は俺は今、とある島で市長を勤めていてね。最近高校生の銃発砲事件が発生したんだ」
人差し指でクルクルとチョビ髭を弄くりながら喋る。きもち風が揺らめく。
「調べてみれば此処に行き着いてね。どうも、ガンマ一家の幹部が武器を横流ししているらしいんだ」
「そうでゲスか……で、私達にソレを聞かせてどうしようと言うでゲス?」
今まで揺らいでいた風が突風になって吹き抜け、シェンフォニーと麗の間を通過した時に、シェンフォニーはニヤリとほくそ笑み口を開く。
「調べて見たんだけど、どうやら君達に武器を供給していたのも、その幹部らしくてね……なんで、そんなに武器を供給するんだろうなぁ」
一拍置いて、麗ら堂島山賊団はシェンフォニーの手駒になる事を選択する。
つまり、自分等は何らかの目論見で利用されて、そして滅ぼされたと言う事なのだから。
故に、彼女等は真実を知りに再び町に戻るのだった。
「あれ、ところでどうやってそんな情報を手に入れたんでゲス?」
「そりゃ、グーグル先生で」
「嘘つけぇ!てか、世界観無視すんなゲス!」
折れそうな老木の枝は未だ折れない。後から聞いた話では、独自の情報網と推理能力だそうな。


110: 名前:サスライ☆07/20(火) 22:46:17
チシャが宿屋でハンプティの寝相に悪戦苦闘している頃、麗は電光石火の勢いでシェンフォニーから与えられた仕事をこなす。
その仕事には手配中の商人を探し出し、彼女が持っている武器を知らせろともあった。
シェンフォニーが彼女が持っている拳銃が衝撃弾を吐き出すのを知っていたのはこの為でもある。
その様に他の団員が黒子となり動く中で、麗はジャヴァとの接触を謀っていた。
眼鏡をかけていて髪をオールバックに纏め上げ、更には見られていないのに正装をしていてとチンピラ集団上がりの自警団の頭とは思えない風貌の男である。
だからこそ、麗は侮らない。その格好は学の香りがする物で、学とはどうやら野生を抑える為の物と言う説がある。
寧ろ一番野生を持っている人物であると考えたからだ。
一見窓際で無用心に仕事をしている様に見える。しかし、恐らくガラスは強化ガラスだろう。
その証拠に狙撃が来た時に狙撃の角度等を図りつつも警報を鳴らす高精度な防犯装置が窓の裏に付いている。
もしも暗殺されそうな時に、普通のガラスと油断させて狙撃させておいて、逆に喰ってやろうと言う野生が表れている。
双眼鏡を覗いて麗は冷や汗を一筋垂らした。


111: 名前:サスライ☆07/21(水) 21:00:23
野性味が服を着た様な人物が考える事を麗は考えた。その試行錯誤の上で得た結論が『コレ』だ。
周りの団員の不安そうな目線を麗は怯まない。只、上の立場より心を込めてやれと告げるのみだ。
因みに、『コレ』=矢文
である。成る程、確かに不安がられるのも意味は無い。しかも御丁寧に矢の尖端は綿で包まれて、これではとても窓は貫けない。
手紙が結ばれた矢は団員の手を離れると、羽による回転運動より風を巻き込んで加速。全てを貫かんとする勢いでポコンと擬音を立ててガラスの縁に滑り落ちる。
ああ、もう駄目だぁお仕舞いだぁ。と、どこぞの野菜王子の雰囲気で頭を抱える狙撃手を尻目に麗は堂々とする。何故なら、警報装置は鳴らなかったから。
麗の目論見は正しかった。野性味があると言う事は警戒心が人一倍強い。特に、内部に対して。
自分が能々と仕事をこなしている間に、内部が腐り、歪んだ情報のみ耳に入る事だってあるのだ。
例えばライオンやオオカミの雄はリーダーは実力でコロコロ変わる。野生を忘れないジャヴァはそれを知っていた。
恐らく、窓を割らない限り警報装置は作動せず、しかし狙撃角度は計算される仕組みで麗達の居場所はジャヴァのみに上手く伝わった筈だ。ジャヴァも矢文を後で縁から回収するだろう。
何処から弓矢が出てきたか。気にしたらお仕舞いだ。

113: 名前:サスライ☆07/23(金) 15:39:03

拝啓ジャヴァ・ガンマ様。
今回は貴方の組織に気掛かりを発見しましたので手紙をこの様な形で送ることをお許し下さい。
つきましては、×××まで一人で来て頂けると有り難いのです。貴方の身は私の部下供がひっそりと警護しますので、ご安心下さい。

怪盗バグより

ジャヴァの仕事場の窓は、微弱電流が常に流れているフィルターを強化ガラスでサンドする形になっており、何かが触れると振動から演算機が角度を算出する仕組みになっている。
つまり神経の仕組みであり、何かしらの刺激にとても敏感だと言う事だ。今の手紙を破りそうなジャヴァの様に。
現在、ガンマ一家は戦争の平定による政府の町への介入と言う背景があり、壊滅の危機に追いやられている。町を守る役目を政府に取られていると言うのもあるが、それで部下がアタフタしているのが大きい。
そのストレスは自然の摂理だろうか上に行き、凄く苛立っていて、手紙を読んだ時にコメカミの血管が落雷からの大炎上しかねない勢いだ。
地方新聞が同封されていて、今日の物であるのが解る。見ればガンマ一家が馴染みの商人を武器横流しの罪で指名手配したとの事。
しかし、ジャヴァはこんな広告を出した覚えは無いし、今日の地方新聞は休みと下から聞いている。
しかし、新聞自体偽装とも取れる。


114: 名前:サスライ☆07/25(日) 17:24:49
『怪盗バグ』について、少し説明しよう。怪盗を一々付けるのも歯の隙間に何時までもスルメを入れた雰囲気なので、今後は『バグ』と呼ぶ事にする。
バグとは、ギョロ目のみが付いた白仮面を被っていて、シルクハットに黒マントと言った何ともモノクロな人物だ。
だからなのか、やる事もモノクロ映画の様なモノで、発生場所は神出鬼没。ステッキと軽業を武器にした怪盗との事。
そして何故かハンプティが行方を追っているらしい。序盤に商人に見せた手配書で見つかっていない最後の一人だ。
ジャヴァに送られた手紙はそんな人物の名前が書かれていて、彼の嗅覚は違和感を感じた。
バグとは本当に『怪盗』で、盗みはするが人を殺したりはしないと聞いている。
しかし文章には『私の部下供が警護』とある。
これはいざと言う時は自分を『ひっそりと』、つまり見えない所から暗殺出来ると言うアピールで、バグはワンマンだからと言う理由も重なりやはり妙だ。
つまり、このバグは偽物と言う事だが、ならば何故名乗ると感じる。それは、バグの立場が関係しているのではないか。
バグの立場は『ハンプティに追われる者』。最近でこれと似たのは堂島山賊団が有名だ、しかし堂島山賊団の残党が捕まったと言う報せは無い。
つまり、自分達は堂島山賊団の残党ですよと言いたい訳だ。相手は山賊、ここは行かないべきだろうか。
ジャヴァは尚考える。


115: 名前:サスライ☆07/25(日) 19:08:33
とある喫茶店で、男が頬を掻いてる。後にチシャの心臓部分にナイフを刺す暗殺者だ。
喫茶店の窓からは、ハンプティ達の泊まっている、特に言う特徴も無いのが寧ろ特徴な宿屋があった。
宿屋からチシャが出てくるのが見えた時に、彼は喫茶店の席を立つ。
それを見た団員は、シェンフォニーに信号で報告した。声では無くて信号なのは音で情報を漏らさない為だ。


信号を受け取ったシェンフォニーは、それでは暗殺者の後を追おうかと動こうとした時に別の信号が入る。
麗からの信号で、声で話したいから一旦離れてくれとの事。
人が通らない裏路地にて、聞けばジャヴァを呼び寄せる為に手紙を送ったらしい。成る程手紙の内容を知らせるには此方の方が手っ取り早い。
しかし通信はそれだけで終わらなかった。なんでもシェンフォニー本人に動いて欲しいと言う。
「ほう何でだい。戦力補充なら既に十分だろう」
「いや相手も情報源を見て納得したいと思うでゲス。そうでもしなきゃ、来たとしてもその後に彼は動かせない。
それに、別に尾行は貴方が必ずしもやらなきゃいけない訳では無いでゲス」
口の片端を吊り上げて苦笑いをするシェンフォニーに、また一声来た。磨かれて光を放つ金色の声だ。
「まあ、本音はアンタが上から目線だから顎で使ってやりたいからなんでゲス」


118: 名前:サスライ☆07/26(月) 20:21:46
ジャヴァは麗の指定に従う事にした。大量のピストルの弾をポケットに、人骨程度なら砕けそうな鉄の指輪を両手の全ての指に。
上に厚手の手袋をする事でそれは見えなくなった。
堂島山賊団ら山賊は、ジャヴァの部下で少し臭う奴と繋がっていたと噂で聞く。ならば、ジャヴァを呼び出してやる事は、暗殺。
勿論、噂を鵜呑みにする訳にはいかない。しかし火の無い所に煙は出ない。何よりも彼は自分の嗅覚を信じた、行き先に何か『ヤバい』存在が待ち受けていると。
だが、これが上手くいけば部下の怪しいのは一掃出来るし、ジャヴァを大きく見せる事で部下の不安も取り除ける。彼は自信を背負って歩いていた。


着けば人通りの少ない裏路地だ、やれパイプやら、やれドラム缶やらがエントロピーに従って散らばっている。居心地の良い空間では無いが、多人数相手なら有難い。
目の前に現れるのは軍服を羽織った女性。前髪を伸ばしすぎて顔が見えないが、美人の枠に入るのではと思う。
彼女は、想像を絶する語尾で言った。
「おはようございますでゲス、ジャヴァ・ガンマ様。堂島山賊団団長代理、麗でゲス。
苗字はゲスりません」
取り敢えず、ゲスりませんって何だろうと思った。


119: 名前:サスライ☆07/28(水) 17:35:19
麗は順を振り返る為に己の肘を人差し指でトントンと叩いて、腕を組む。
「いや、しかしソチラが来てくれて光栄でゲス。それで、少し向かって貰いたい場所があるのでゲスが……」
ジャヴァは、麗の折れた棒の様に精気の無い言葉を遮って、ザワザワとした雰囲気の声を出す。
「その事なんですが、聞きたい事があります。私共の組織の穴があると仰いましたが、その情報源が見えないのですよ」
ジャヴァの考えで、特定の場所に向かわせるのに、この様に中間するのは解答が出ていた。一端、『当事者』を見せておいて安心させる為だ。
しかし、向かった先に実はガンマ一家の臭い奴が待ち受けていましたと言ったパターンを予測した。
「と、言うよりも本筋が見えません。いえ、見えない様にしている。
だから言いましょう、貴女方はどの様な目的に向かっているので?」
麗も実は知らされていない。只、シェンフォニーに『決まった時間にジャヴァを指定する廃倉庫に連れてきてくれ』と、聞かされただけだ。それに、本当の事を言った所で信じるだろうか、いや、無い。
だから、こう答える。
「それに関しては私の口からは言える所に無いでゲス。ゲスから、こう言うのはどうでゲス?」
軍服の中からチョロリと腕を出して人差し指を立て、そして僅かに覗く目元でウインク一つ。
「強い方が、言う事を聞く。タイマンでゲス」
「……面白ぇじゃねえか」
ジャヴァは服の下の凶器の下の殺気を思う存分目から噴出して、静かな狂喜を浮かべた。


120: 名前:サスライ☆07/28(水) 21:58:14
ジャヴァは、グローブの下で拳を握り締めると拳が熱くなるのを感じた。
麗の方から代表として出て来たのは燕尾服で義足の男。マトモを気取っているが、絶対に隠せてない。
凶器を持っていない事のアピールなのか、余裕の表れなのか、目を瞑り肩の力を抜いて腕を広げた。
「やれやれ、俺も忙しいんだけどなぁ。あ、私はシェンフォニーと言います。ジャヴァ・ガンマさん、どうぞ宜し……」
挨拶代わりに一発拳を放つ。
目を瞑っていると言うのに、絶妙なタイミングで開いて広げた腕に付いた拳を固めて裏拳で手の甲を弾いて受け流す動き。
しかし、シェンフォニーに攻撃は当たった。受け流をした筈のシェンフォニーの手の甲には血がベットリと付いている。
「紙ヤスリか、俺も鈍ったもんだねぃ」
ジャヴァの嵌めている厚手の手袋は、実はヤスリの様に面が粗い。
だから受け流す事も出来ないし、受け止めると手袋の下の指輪に骨を砕かれる。
拳は当たらなかったから、シェンフォニーは致命傷を免れたが拳を弾く受け流しを何度も出来ないし、拳へ警戒が強まった。
その警戒の隙を突いて、ジャヴァはポケットに手を入れると大量の銃弾をシェンフォニーにぶつけて目潰しに使う。
視界が奪われたから、拳は避けられない。
銃弾の上から一撃を見舞わせば、潰れた銃弾とヤスリの様な手袋の火花が爆発を起こし、他の銃弾と連鎖反応を起こす。
しかし、特注の手袋は爆発を通さない。これが、ジャヴァの鉄板的な攻撃だ。
だから、拳を放った。


121: 名前:サスライ☆07/29(木) 14:56:34
シェンフォニーは拳を弾いた時、筋繊維を伝わる重さの違和感から察していた。ああ、コイツは手袋の下に重い物を付けているなと。
位置からしてメリケンサック辺りだろう、それと銃弾の目潰しと合わせて考えられるのは雷官の刺激による爆発の連鎖反応。
だから『シェンフォニーは』、拳を放った。ジャヴァの拳を完璧にかわして。
受け流しに使っていない方の拳が頬にめり込んで、ジャヴァは仰向けに倒れる。
口元の赤い血を拭いながら、青筋を浮かべなが立ち上がり、ドス黒い声を上げた。
「てめぇ、何で俺の拳の場所が解った。見えない筈だろうが!」
「モミクチャの状態で腕が片方怪我していたらもう片方を振り回そうするよね。
そのメリケンサックだか何だか知らないけど、それと撃ち合いになったら、間違いなくそっちが勝つ。
んで、オマケに銃弾の連鎖反応でこっちは大火傷だ。怪我してない腕をそこまで怪我させれば、心を砕く手段には十分だ。
だから、こっちの怪我している腕を狙わなかったんだろ?」
ヒラヒラと血が付いた腕を見せる。シェンフォニーは飛び散る血を見て、あ。と声を上げて包帯代わりにスカーフを巻き付けた。
ニヤリとジャヴァは一呼吸。肩の力を抜いてシェンフォニーを指差す。
「おいおい、勝ちに行くんだったら俺が顔面狙うのもあり得るだろうが」
「君は、元喧嘩屋だ。殺すんじゃ無くて、屈服させる戦法を取ると思ってね。
顔面が砕けたら殺してしまう。それじゃ自分が強い事を示せても示す相手が居ないじゃないか。
……だから、つまらない小細工無しで、『コレ』で来い!」
シェンフォニーが握り締めた二つの拳。それは、ジャヴァに向けられて、何故か武装してる筈のジャヴァの腕が蟻の細腕に見える。
歯を見せて、笑い、ジャヴァは凶器を取り、その中の凶器を取り、そして凶器の入った上着を脱いで拳を構えた。


122: 名前:サスライ☆07/29(木) 18:39:52
【チシャちゃんの解説コーナー】

久し振りの解説コーナー。と、言うより出番すら久し振りな気がしマスよ、私ハ。
まあ、良いでショウ。今回の解説は、ジャヴァの銃弾について。
ジャヴァが拳を振ったのに、何故銃弾の誘爆が起きなかったかと言う後付けデスね。
銃弾を潰すには、拳と何か『壁』をサンドしてはじめて銃弾を潰せる訳デス。そして、飛び出した火薬と手袋の摩擦で起こす火花で爆発と言う事デスネ。
この場合、ジャヴァはシェンフォニーの腕を壁にして破裂させようとしたんデスね。
え?銃弾はそんな簡単に誘爆しない?
……申し訳ありマセン。勢いで作った戦法デシタので気付きマセンでしタ。
まあ、誘爆し易い様に改造された銃弾に似た何かだと……うわっ、コスト高っ!

それでは、また。て、言うかシェンフォニーでしゃばり過ぎデスヨ、絶対!


123: 名前:サスライ☆07/30(金) 18:15:35
拳は様々な想いが乗っている程、重くなる。いや、駄洒落でなくて。
案外物事は気合で何とかなるものだ。才能だ何だ言っても結局は努力だし、やる気が無ければ行動もしない。やれないのでは無くて、やらない場合が多いのである。
嗚呼、全力で殴ったのはどれ位ぶりだろうとジャヴァは想うところがある。
初めは只、素手で喧嘩してた。だが、様々な負担が付き纏う内に負けられなくなり、何時の間にか武器に頼っていた。
そんな自分への悔しさも拳に乗せた想いの一つ。
他にも、情熱やプライド等様々な物が乗った拳だ。だから、とても重く、とても速い。
それは空間を突き破り次元の壁を超えるのかと言った勢いで、シェンフォニーの頬に確かにめり込んだ。
麗達全員を相手にしても、プロの殺し屋を相手にしてもかすり傷一つ負わせられなかった彼にコレは大きい。
「……痛い、なぁ」
シェンフォニーの呟きと同時にジャヴァは、白目を向いて膝から崩れ堕ちる。
シェンフォニーの拳は中段突きの型を取っており、つまり顔にめり込んだ直後に、腹に拳を放ったのだ。
「形意拳(拳法の一種)の崩拳だ。喧嘩に使う様な物じゃないのは解ってるんだけど……
喧嘩じゃ、勝てない気がしてね。すまない、俺の敗けで良いよ」
腹に来たのか、ジャヴァは嘔吐物を服に引っ掻けていた、白目を向いて、つまり意識を失いながら。
それでも、膝で立っていて、彼は倒れる事を否定していた。


124: 名前:サスライ☆07/30(金) 20:25:57
政府の、とある課で、ある知らせが入る。
電話を受け取った管理職は『英雄』に憧れていた。現代兵器を無視して、暴れた『千鳥 笑』や国を導き羨望の眼差しの基に喪した『紅の英雄』の事だ。
そして管理職は、何時も彼等を後ろから追いかけて、しかし追い付けずに戦争が終わったが英雄を補佐した戦歴を讃えられ今の地位に居る。
知らせの内容は『×××の時間に、ジャヴァ・ガンマが廃倉庫に来るから一緒に叩こう』との事。
戦後の影響もあってか暴力団等の鎮圧を任された機関があり、今回の物語の舞台を管轄に任されているのが、その管理職だ。
つまり、彼はガンマ一家の敵と言う事になる。
コーヒーを一口啜った。実はポーカーフェイスを気取っているもの戸惑いを隠せない。
知らせが来たのは、ガンマ一家の幹部から。それは良い、元々裏で自分と繋がっていた人間だから。
しかし、指定の位置の廃倉庫と言うのが困る。その位置には情報部隊が知らせてくれた指名手配の商人が隠れている場所だから。
管理職は英雄に憧れていた。故に、超えたいとも思っていた。
現在、裏の情報網で英雄に最も近い男、ハンプティ・ダンプティ。それを自分の作った兵器で倒してみたいと前々から感じていたのだ。
これはある意味英雄であるロボット発明の天才に対する挑戦でもある。
その為に武器の横流しをガンマ一家を通して行いテストしたり、ハンプティが通るルートで現在指名手配の商人を襲うようにした。
堂島山賊団は前から消す様に上から言われていたし、その周囲の山賊とも、適当な武器を与える事を条件にすれば連携するだろう。
指名手配はこちらの指示だ、そうする事で商人は消去法でハンプティに助けを求める。そこで、『一騎討ち』をしたかった。
ハンプティを倒した後は、ガンマ一家はまな板の上の鯉になる。
再び、管理職……いや、【武器商人】はコーヒーを一口啜った。

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最終更新:2010年09月04日 12:08
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