死のゲーム 続き5

165: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/29(水) 17:39:49
「いつか、渡そうと思ってたんだ。これ」
そう言って取り出したのは、ハートのネックレスだった。こっそりと、三谷部が殊子の為に買っていたものだった。
「お前はどんなのが好きかな? とか、ハートじゃベタかな? とか、色々考えたんだぜ。なのに、他の男とヤってたなんて。んなのねぇよ……」
166: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/30(木) 03:01:18 HOST:05004033726783_hd.ezweb.ne.jp

屍と化した殊子と三谷部以外に誰もいない、病院の一室。人前で泣き顔など見せたことのない。親ですら、その泣き顔を見たことはない。

そんな三谷部が屍に向かって思い切り泣いた。すすり泣く声が開けっ放しのドアを通じて、廊下へと伝わる。部屋を出て目の前にあるベンチに座り、眉間に皺を寄せ俯いているのは、東雲だ。
三谷部自身、「人前では泣かない」と決めていた。無論、廊下にいる東雲には気付いていた。しかし、今回ばかりは泣かずにはいられなかった。泣いてなければ、やってられなかった。




三谷部はその翌日、学校を欠席した。自分の部屋に居れば、辛い現実から目を背けられる。背けていれば、忘れられる。そんな気がした。飯を食らうわけでもなし。水分を蓄えるわけでもなし。

感情に任せ、ただ壁を殴りつける。バッドでぶつける。そのバッドで、机を潰し、携帯を潰し、遂に当たる的が無くなれば床に叩きつける。
まるで今までの人生を全てを掻き消すように。父親が何やらドアの向こうで自分の名前を叫んでいる。母親がドアを叩く。外から聞こえる近所迷惑を訴える罵声。

それすらも掻き消そうとするかのように、バッドは勢いを増す。自分の部屋にあったノートパソコンは、元の綺麗な姿を失い、最早何だったのかすらわからない。


173: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/02(土) 16:43:52
部屋の中にあるものを片っ端から破壊し、最早暴れるパワーも無くなり、破片が散らばる部屋のベッドにグッタリと倒れ込む三谷部。先程まで名前を連呼していた父はうるさいのが収まったからか、いつまで経っても出て来ないからか、諦めて一階へ降りていった。
その数秒後、家のインターホンが鳴った。どうせ「今のは何だったんだ」とか「何をやったらそんなに騒音が出るんだとかの苦情だろう、と思っていたが、以外にも聞き覚えのある声がした。
「すいませーん。三谷部さんのお宅でしょうか? 馴君のクラスメイトの東雲と申しますが、馴君いますかー」
まるで担任教師の家庭訪問の時のような丁寧な口振りでそう声をあげると、母親が対応した。
「ごめんなさいね、馴は今とても人前に出られる状態じゃないのよ」
「そうですか。あんなことがあったら無理もないですね。でも、今どうしても話しておきたいんです。何とか出来ないですか?」
「そうね。わかったわ、馴を呼んで来るわね」
何故母親は帰さないのか。そんな素朴な疑問を抱いていると、「あ、僕があがっちゃダメですか」と言って、あがってきた。
「三谷部」
ガチャッ と音がして、自分の名前を呼ぶ人物へ目を向ける。哀れむような目で自分を見下ろす人物。無論、東雲であった。
「人んちの母ちゃんにゃ随分丁寧だなぁ」
嫌みたらしい微笑みを向けながらそう言って見せると、東雲はそれを流し本題に入った。
「何で殊子ちゃんが自殺すんだよ。お前そこにいたんだろ? 止めなかったのかよ!」
「アイツがそもそも二股かけたのが原因だよ!」
「違う!! お前が殊子ちゃんを信じなかったのが悪い! 何で 殊子ちゃんの言い分に耳を傾けてやれなかった! 何で必死に何かを訴えようとしてるって気付かなかった!」
三谷部は途端に、さっきまで暴れていた自分が恥ずかしくなった。確かにそうだ。何かを訴えようとしていた。しかし、それを言うことを躊躇しているようにも見えた。
「俺は別にお前を責めに来たワケじゃない。転校するんだ。親父の都合で。だから、その前にしとこうと思ってな、種明かし」
三谷部はその言葉を聞いた途端、頭の中にハテナが浮かんだ。種明かしとは、どういったことだろうか?
「お前が病院情報提供者のことを話してたろう? その情報提供者は、俺。で、今までのことも、全て俺が仕組んだんだよ」
東雲が何を言っているか、さっぱりわからない三谷部だった。何故なら、それは有り得ないからだ。


174: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/02(土) 19:29:15
「今までのことはお前が仕組んでた? おかしいだろ。どうやってお前がそんなこと出来る?何で自分で仕組んだことにいちいち金かける?」

「それだけじゃないぜ」
そう言って東雲は三谷部の方へ自分の携帯を放った。
「その中にある画像見てみろ。お前もよ~く知ってる筈だ」
言われるがまま、三谷部は携帯を拾い、携帯の中の画像を片っ端から見ていった。そこにあったのは……。
「これ……何でお前が」
「その写真の金髪が俺だからだよ」
それは三谷部の携帯に届いたものと同じ、殊子が他の金髪の男と性行為をしている写真だ。東雲は携帯の画像に呆気にとられている三谷部を横目に、バッグをガサガサと探り、何かを取り出し、それを頭に被せた。
「ホラ、こうすれば写真と同じ金髪男のできあがり!」
言葉の最後尾に音符がつくようなノリで東雲が言った。微量の涎が口から垂れるのを、舌でペロリと拭い、唇を舌で一周させる。
「まず俺は路地で奴らがサラリーマンの親父にカツアゲしてるのをみつけ、その画像をワザと携帯をフラッシュさせて撮影した。奴らは当然、フラッシュに気付いて振り返る」
「何でそんなこと」
「奴らの弱みを握って利用する為だよ。そのあと、自宅のPCにメールで画像を送った」
つまり、自宅のPCに送ってしまえば、その場で奴らに力づくで携帯を奪われたとしても、画像は自宅のPCに保存してある。それを警察に届ければ、逮捕させられる、と、三谷部は言わずとも悟った。


175: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/02(土) 23:49:56
「案の定、突っかかって来たアイツ等に言った。金が欲しくないか? ってな」
ここで三谷部はハッとした。病院で東雲が「グッと堪えて金を渡そう」と言ったことを。
「ってことは……」
「わかったか? お前はただ、配達しただけなんだよ。奴らになっ」
しかし、三谷部はまだ納得いかない。それもその筈。あと一つだけ、疑問があり、三谷部はそれを聞かずにはいられなかった。
「じゃあ、殊子は!? それだけのことなら、殊子をヤる必要はない筈だろ!?」
「ああ、そうそう。(それだけのこと)ならな。でもそれだけじゃつまらんだろ? だから、脅したんだよ。殊子ちゃんにも同じように種明かししてな。」
殊子に対し何人もが取り囲み、東雲が自分の仕業だと自白し、ここで性行為の画像を撮影させなければ三谷部はずっと悩み続ける。と脅したのだ。それならば、その後学校で殊子が元気がなかったことにも説明がつく。
殊子は確かに、二股をかけることはしていなかった。東雲は後悔の念を押さえきれない三谷部を余所に、続ける。
「あとは口封じだ。殊子ちゃんに、(このことを三谷部か他の人間に漏らしたら、この画像をバラまく)ってな」
それで殊子は誰にも言えなかった。そして三谷部にも余計な心配はさせまいと、黙っていた。しかし、悪魔は三谷部にだけは見せたのだ。
「しかし馴、お前には見せた。そうすればお前は殊子が二股をかけたと疑う。と、俺は踏んだ。でも面白いことにお前はそれで確信しちまったんだよ。」
176: 名前:ガマガエル (2STbn.bBVI)☆10/03(日) 10:43:28


179: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/03(日) 23:54:57
三谷部はわからなくなった。主犯は、目の前にいる東雲。全ては、東雲が原因で始まったのだ。しかし、殊子を信じなかった自分は…? あの写真を充分な物的証拠とし、事情を話そうとしている殊子の言葉には耳もくれず、突き放していた自分はどうだ。
それは、今更責め立てても仕方がない。しかし、三谷部はそれを悔いずにはいられなかった。三谷部に東雲を攻め立てる権利はない。自分から殊子を奪った犯人を目の前にして、膝を床につけただ呆然とするしかなかった。
途端に、東雲が三谷部の前髪を鷲掴みにして、無理矢理に上を向かせ、言った。
「どうだ? 楽しかったか? 俺の特別なマジックショーは」

180: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/04(月) 02:14:58
東雲はポケットから一本のシャープペンシルを取り出し、先端を三谷部の眼球に近付ける。ハァ、ハァ、と、何時の間にか呼吸が乱れている。
「なぁ。もう現実なんて見たくないだろ? これで潰してやろうか? そうすれば、何も見なくて済む」
東雲は一旦シャープペンシルを三谷部から遠ざけ、勢いをつけて振り下ろす。しかし、三谷部の目は血があふれ出るどころか、傷一つついてはいない。
見下ろすと、三谷部の股間の近く、床でシャープペンシルが真っ二つに折れていた。
「はははははははははははははははははははは! あはははははははははははははははははははは!!」
「お……、……えの腕を…………て…………よ」
三谷部がボソボソと何かを言った。声が小さく、震えている為、東雲には何を言っているかさっぱりわからない。どこか怒りが籠もっているような声だった。東雲はそれを逆撫でした。
「はぁ? 聞こえねぇッん!!」
聞こえねぇんだけど、と言おうとしたのは、十分わかる。何故最後まで言い切ることが出来なかったか。真正面から固く握られた拳が飛んだのだ。


181: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/04(月) 04:55:13
拳は東雲の顔面に直撃。東雲は不意をつかれ、為す術もなくただ後方にある壁に頭をぶつける。
鼻の穴から垂れている紅い液体、血を舌でペロリと拭い、ニッと笑う。何と挑発的であろうか、というよりは、普通なら心底ゾッとさせられるだろう。しかし、怒り狂った三谷部に対してはただの挑発でしかない。
三谷部の目から頬を伝い床にポタポタと落ちるものが一体何なのか、を、最早説明する必要があるだろうか?しかし東雲は不気味な笑顔を絶やさない。東雲は無抵抗だが、殊子を奪われた三谷部にとっては、東雲の頭を金属バッドでかち割る行為は、最早躊躇するに値しなかった。


182: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/04(月) 17:16:45
金属バッドを手に取り、勢いよく振り下ろす。もちろん、その先には東雲の頭部がある。

ガチャッ

東雲の頭部に金属バッドが触れる寸前、そんな音がして振り返って見るとそこには眉間に皺を寄せ、鋭い眼を此方に向ける母親がいた。
「止めろって、少しは落ち着けよ!!」
いきなり東雲が表情を変化させ、三谷部に覆い被さった。両手を床に押さえながら東雲は俯いてこう言った。
「辛いのはわかるよ、あんなに仲良かったもんな。でも、暴れたって殊子ちゃん、戻っちゃ来ないぞ」
と言う東雲は、薄笑いを浮かべていた。そのまま東雲は三谷部を起こし、強く抱きしめた。耳元に口を近付ける。三谷部の耳に東雲の吐息がかかる。
「ザマーミロ。苦しめばいいさ」


185: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/05(火) 04:55:27
三谷部は決意した。いつか、コイツを殺す。コイツにも、殊子がどれだけ辛い思いをしたか知らしめる必要がある。その為に殺す。


*




トレーラーは、次のゲーム会場へと4つの車輪を走らせる。もうどれだけ走っているだろうか。三谷部は不思議と落ち着いていた。まるで、今から向かう場所がどんなところか、わかっていないように。


188: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/05(火) 16:58:36
結局、何故三谷部はこのゲームを辞退しなかったか。それは殊子の分まで、目一杯生きると決めたからだ。ならば尚更、このゲームを辞退すべきだと思うだろう。しかし三谷部は、このゲームを辞退したら、これからの人生、逃げっぱなしなだけだと感じた。勿論、根拠などない。
トレーラーは尚も速度を変えず、走行音を立て続ける。


189: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/05(火) 17:00:09
死のゲーム
season1 END



190: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆10/05(火) 17:09:06
あとがき(的なもの)





死のゲーム、ようやくseason1完結致しました。今までご愛読下さった皆様、誠にありがとうございます。season2をやるかどうかは、未だ未定です。
何だか終わり方が自分でも何かしっくり来ませんので、season2をやるのならば、しっかり終わらせたいですな。
やらないにしても、次に書く小説でも皆様にまた楽しんでいただけるよう、頑張りたい所存で御座います。

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最終更新:2010年10月12日 20:03
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