神よ彼らをお許しください

1: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/26(月) 17:36:46
 彼らは何をしているのか分からずにいるのです
Father, forgive them; for they know not what they do.





†  †  †
これは一般の「― Desire ―」と「RELAYS - リレイズ -」に登場するキャラ達でのコラボ作品です。
BLから派生したので若干そういう風に見える場面もあるかも知れませんがそういった表現が苦手・駄目だと言う方は回れ右でお願いします(あからさまな表現はありません)。
尚、登場キャラクターの性格や言動が本編と異なる場合もあります。ご了承下さい。
「― Desire ―」のかなり重要な部分のネタバレも含まれてたりするのでその辺もご理解の上でどうぞ。
苦情は基本受け付けませんのであしからず☆キラッ



2: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/26(月) 22:47:32
 何の音も聞こえてこない耳鳴りがしそうな程の静寂に包まれた懺悔室に、一人の青年が跪いていた。
 短く切り揃えられた銀髪は薄暗い懺悔室の中で、まるで月明かりのようにぼんやりと朧気に浮かんで見える。
 そんな闇夜に浮かぶ青白い月のような銀髪とは違い、彼の身体は黒いロングマフラーや黒いロングコート、黒い革手袋等の黒衣で覆われている。僅かに見える肌もまた、白かった。
 微動だにせずに跪く青年――ソーマはただ何も言わずに手を組んでいる。
 何も言わずに、というのは語弊があるかも知れない。彼の口は何かを呟くように僅かに動いている。ただ声が出ていないだけ、声が聞こえないだけだ。
 その様は普段の彼からは考えられないようなもので、もしもこの場に彼をよく知る人間が来れば一体どうしたんだと驚いてしまう物だろう、という程だった。



3: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/26(月) 23:07:50
 夢遊病の患者さながりにふらふらと覚束ない足取りで廊下を進んでいる男――デザイアは欠伸を噛み殺しながらある男を捜していた。
 夜も深まった時分、草木も眠る丑三つ時。
 神父と言う職業柄自然に規則正しい生活が身に付いてしまっているデザイアからすればこの時間は特に眠くなる時間だった。だが今回に限っては色々とやる事が重なりこんな時間まで起きる羽目になっていた。
 それでも廊下をうろついている理由は先に述べた通り。
 ここに宿泊している筈の男の一人――ソーマを捜していた。
 先程用心の為に部屋を覗いた時何故だか姿が見えなかったのだ。
 ふと、デザイアは地下にある懺悔室へと繋がる階段の前で立ち止まり眠気で鈍い思考を働かせる。
「……まさか、な」
 ぼそりと呟き、地下へと繋がる階段を一歩一歩下りていった。
 最下まで下り、普段なら完全に閉まっている筈の扉が僅かに開いているのに気付きデザイアは溜め息を吐く。
 何をしているのかと中を覗いて、デザイアは驚いた。



4: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/26(月) 23:12:11
 懺悔室の外から僅かな足音が聞こえてくるが、それにもソーマは顔を上げようとしない。別に誰が入ってこようが構わない。
 というより、勝手に懺悔室に入り込んでこんな柄にもないことをしているのは自分なのだからそんな事を言えるわけでもない。
 だからといって、この懺悔室――もとい教会の主である男に謝る気は更々無いが。
 僅かに扉を開いておいた所為か、やはりここに自分が居る事は解ってしまったらしい。別にそれを狙ったわけでもない。
 ソーマは今まで静かに細く、それでいて深かった呼吸を徐々に普段通りのものへと変えていく。
 背後に気配を感じながら、彼は溜め息を吐いた。それと同時に何かが込み上げてくるが、それも無理矢理押し留める。
 こんな物は自分に似合わない。似合わない、という以前に“必要ない”。感情も感傷も涙も何も自分には要らない。
 まるでそれを必死で押し殺そうとしているかのように、ソーマは組んでいた手に力を込めた。



5: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/26(月) 23:20:31
 懺悔室の中を覗き、そこにあった姿には見覚えがあった。
 というよりも探していた人物――ソーマその人で、デザイアは無事な姿が確認出来た事もあり無言で立ち去ろうとする。
 自分は何も見ていない。そう自分に思い込ませ、くるりと扉に背を向けた。
 誰にだって知られたくない事はある。自分だってそうだ。
 だからここは何も見なかった事にして立ち去るのが正しい。
 此処で中に入ってソーマに何を言えば良い。何をしていた? 懺悔だろう。こんな場所で、跪いてする事と言えばそれ以外に思いつかない。
「ふぅ……」
 デザイアは小さく息を吐くと下りてきたばかりの階段を上ろうと一歩、足を踏み出した。



6: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/26(月) 23:21:55
「――待て」
 息を吐く声、それと恐らく懺悔室に背を向けて階段を上る為に踏み出した足音。
 それを聞き、ソーマは短く制止をかけるとゆっくりと立ち上がる。その動きはどこかふらついており、倒れてしまうのではと心配になる程だった。
 彼は服を軽く手で払うと、振り返らないままで扉を隔てた向こうに居るであろう男に言葉を紡ぐ。
「ここまで来て、どこに行くつもりだ? 俺を捜しに来たと言うのなら、そのまま来ればいい」
 彼が自分を探しに来たこと等解りきっている。大方自分に気を遣ってここは離れようと思ったのだろうが、ソーマにとってはそんなものも必要なかった。



7: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/26(月) 23:34:42
 ソーマに中から呼び止められ、デザイアは思わず舌打ちしたくなった。
 人が折角気を使って立ち去ろうとしているのだから素直に甘えれば良いものを。
 デザイアはぶつけようのない苛立ちを表情にありありと浮かばせながら懺悔室の扉を開けた。
「何勝手に入ってるんだよ」
 あえて普段通りの、神父とは思えない傲慢な言い方でそう口にしたのはデザイアなりに気を使った結果だった。



8: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/26(月) 23:38:52
 彼が自分に気を遣ってくれたのは解っている。だがそれに甘えるような真似はしたくなかったしする気もなかった。
 今までほんの僅かに開けられているだけだった懺悔室の扉が開けられ、光が入ってくる。
 ソーマは緩やかな動きで振り返り、前髪で隠されていない右目に男――デザイアの姿を映す。
 自分とは対照的な金髪に白い神父服は正しく神父というような格好だったが、その言葉は全く持って神父とは思えない程に傲慢だった。
 だがそれがデザイアという人間だし、元から殆ど他人に興味のないソーマにとってはどうでもよかった。
「……貴様を見付けるのが面倒だった。それに許可を取らずとも入って祈りを捧げられて懺悔をできる。それが “教会”だろう?」
 喉の奥で笑い、ぎこちなく笑みを浮かべたソーマの頬に何かが伝う。
 勿論雨でもない。今までのように血でもない。それは彼が理解できないだけで“涙”だった。



9: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/26(月) 23:54:19
 正論を言われたのがまたデザイアの癇に障った。
「だからってな、一言くらい声を掛けようと思え」
 喉で笑い、下手な笑顔を作ろうとするソーマは見ている此方が顔を顰めそうになる程に痛々しかった。
 本人は気付いているのか定かでは無かったが、その頬に伝ったものもデザイアは見なかった事にする。
 拭えという事も口にはしない。
「ちょっと顔貸せ。説教してやるクソ餓鬼」
 ふんっ、と鼻を鳴らし、デザイアはソーマに背を向けると階段を上っていった。



10: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 00:00:35
 声を掛けるということを考えなかった訳ではない。それでも眠りが浅くそこまで睡眠を取らずとも大丈夫な自分とは違い、デザイアは自分が部屋を出て行く時点で既に眠っているものだと思っていた。
 眠りを妨げるような真似はしたくなかった、と言えばデザイアのことを考えているとも取れて聞こえがいいが、実際はただ単に自分という人間が懺悔室等という似合わない所に行くのを悟られたくなかっただけだ。
 所謂、自分の下らなすぎるプライドだ。
 糞餓鬼、と称されたソーマは若干不服そうに眉を顰めるも言い返すこともなく、デザイアに続いて懺悔室を出て行く。
 最後に律儀に扉を閉め、ソーマは階段に足をかけた。



11: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 00:04:35
 後ろから付いて来るソーマの気配を感じながらわざとゆっくりとした歩調で礼拝堂へと向かう。
 この間にもソーマが色々整理をつけられれば良いし、自分も説教の内容を考えられる。
 デザイアは階段を上り終えるとソーマが来るまで待ってから礼拝堂へと向かい歩を進めた。



12: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 00:11:23
 ソーマが歩を進める度、足音が反響して消えていく。
 自分を待っているらしいデザイアの姿を僅かに視認し、彼は歩く速さを若干速めた。
 階段を上り終え、どうやら礼拝堂に向かっているらしいデザイアと並んで歩く。
 デザイアは何を考えているのか一言も言葉を発そうとしない。別に自分は沈黙を気にするような人間ではないが、何となく今回だけは居心地が悪かった。
「……俺が懺悔室に居る等、笑い話でしかないな」
 自虐的な言葉を吐き、ソーマはマフラーに手を掛けると僅かに緩める。その後すぐに黒い革製の手袋を外し、それをコートのポケットに入れた。



13: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 00:21:28
 お互い無言のまま歩いているとふと、ソーマが口を開いた。ソーマが声を掛けてくるとは思っておらず驚いたが、表には出さない。
 ソーマが似合わない自虐的な事を口にしたのにも驚いたがやはり表には出さなかった。
「なんだ。笑って欲しいのか」
 敢えて感情を読ませない声色でそう口にする。
 自虐的な事を言いたくなる気持ちも分からなくはない。自分だって過去を振り返っては自嘲したり悔やんだりする事もある。
 自分にそんな事が似合わないのも十分承知済みだ。
「人間、誰にだって悔やんでも悔やみきれない事がある。神父の俺が言うんだ、間違いない」



14: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 00:22:56
「……別に。笑いたかったら嗤え」
 笑われても別に構わない。そんなことは気にしないし、自分でも十分似合わないと解っている。
 デザイアの口から出た言葉に、ソーマは一瞬怪訝そうな表情を垣間見せたもののすぐに無表情へと戻る。
「……神父か。貴様にとっては神父などどうせ肩書きでしかないだろう」
 こんな傲慢な神父が居たら、世の中の何人が神父になれることだろうか。尤も、デザイアが他人には聖人君子の仮面を被っている事など熟知しているのだが。
 理由を聞いてこない事には若干驚いたものの、ソーマはほんの少し肩の力を抜くとぽつりと漏らす。
「…………例えば、“何の助けにもなれずに両親を目の前で殺害されて数年前から戦場に立ち続けた挙げ句、自分の師すらも自分の手で殺す”――という事等もか」
 悔やんでも悔やみきれない事、それならば沢山ある。ソーマは淡々とした口調で、それだけをデザイアに告げた。



15: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 00:25:56
 笑いたければ、ならば自分は笑わない。
 デザイアは口にこそ出さないものの心の中で返事をする。
 神父を肩書き、と言われ少し癇に障ったが自分の本性を知っている人間から見ればそう思われても仕方のない事だ。
 ソーマが他にも失礼な事を考えているような気がしたが、ソーマが漏らしたその内容にすぐにどうでも良くなった。
 例えば、とは言っているがきっとソーマ自身が悔やんでも悔やみきれないのがそれなのだろう。
「……例えばの話らしいが、ソイツにとって悔やみきれないんだから “そう”なんだろ」
 淡々とした語調なのがまた痛々しい。
 子供のくせに他人の助けを拒絶し、変に片意地を張っているソーマを見ていると昔の自分が重なるようだった。
「……俺の母親も随分前に死んだ。父親は顔すら知らない」
 独り言のように口にしたデザイアの声色こそは平坦だったが、その表情はどこか憂いを含んでいた。



16: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 00:31:03
 両親は自分を守る為に目の前で殺された。今でも時折夢に見る。結局自分は足手まといにしかなっていなかったのかもしれない。
 いつからか自分は戦場で他人の命を奪う事にも何も思わなくなっていたし、依然として悲しみや涙というものも理解できない。喜怒哀楽が殆ど無い、というのは自分でも理解していたが、“哀”だけはどうしても何をしても解らない。
 幼少期に一度全てを無くした自分に、もう一度全てを教えてくれたであろう師すらも自分はこの手で殺したのだ。あの時の自分は何だったのか、と思い出す度に嫌になる。
 他人の助けも要らない、他人も要らない。他人に興味もない。周囲の人間は所詮赤の他人でしかないのだから、どうでもよかった。
 デザイアの平坦な声を聞き、ソーマはゆっくりと彼を見る。
 憂いを含んだような表情に、ソーマは感情が籠もっているのか籠もっていないのかよく解らない瞳に何らかの感情を込めてデザイアの目を見た。



17: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 00:41:47
 顔の片側にソーマの視線を感じるがデザイアはそちらを向こうとはしなかった。
 聖母と同じ名をして、自分に“欲望”と言う意味の『デザイア』という名を与えた美しかった母。
 その母が亡くなった時の事を思い出すのは今でも辛い。
 父は物心がつく前から既に居なかった。顔どころか名前すらも知らない。ただ、自分と同じ金色の髪と暗い青色の瞳を持っているのを母から聞かされた事があるだけ。
 自分と同じ色と言えば、ソーマとは別にここに泊まっている男も金髪碧眼だったな、とデザイアはふと思った。
 と、同時に初めてその男に会った時に胸を過ぎった嫌な感覚。予感、と言うのだろうか。それも思い出す。
 出来る事なら余り関わりたくないと思った程だったが、時間が経つにつれきにならなくなっていった。だがここに来て再び胸の奥に黒いもやもやした感覚を覚えデザイアは顔を僅かに顰めた。



18: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 00:50:16
 デザイアが僅かに顔を顰めたことに、ソーマは訝るように眼を細めるもすぐに彼から視線を外す。
 思い出すのも嫌な事柄をわざわざ訊こうとも思わない。それに自分には関係のないことだ。そう割り切る以外に方法はない。
 デザイアの過去を聞き出してそれをしっかりと受け止められるほど自分が強いとも思わないし思えない。どんな言葉を他人にかけたらいいのかも解らないのだから、聞いても自分は何も出来ない。
 聞くだけでも助けになる、なんて言葉があるが、あれは所詮自己満足でしかないだろうに。
 自分の足下に落としていた視線を平行へと戻せば、視界に礼拝堂に続くと思われる両開きの扉が入り込んできた。
「……どうだ、説教の内容は固まったか?」
 まるで小馬鹿にするようにソーマはデザイアに言い、僅かに口角を吊り上げた。



19: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 00:53:58
 考え込んでいたところで不意に声を掛けられデザイアははっとする。
 いつの間にか俯き気味になっていた顔を上げればそこには居住区の方から礼拝堂へと続く扉。
 どこかこき下ろすように口にしたソーマに腹を立てる事も無く、デザイアはソーマと同じように口角を持ち上げ、言い放ってやった。
「覚悟しとけ。泣いたって許さねぇからな」
 そう言って礼拝堂への扉を開けたデザイアは誰も居ないと思っていた礼拝堂に人の姿があった事と、その人物に瞠目した。
「……ミスター・デイヴィス。こんなお時間に如何されたのですか?」
 だがすぐに表面を取り繕うと、そう、彼――ソーマとは別にこの教会に泊まっていた自分と同じ髪と瞳の色を持つジャック・デイヴィスに声を掛けた。



20: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 01:03:55
 自分が泣くわけがない。というより、泣き方すら知らない。
 ソーマはデザイアに目を合わせ、楽しそうに眼を細めた。この男がどこまで自分に説教できるか、それが気になるし見物だ。
 デザイアの背後に立つ形で、彼が扉を開け放つのを待つ。
 と、そこで突然デザイアの態度や声音、口調が急変したことにソーマは外していた視線を彼に向ける。
 彼がこの仮面を瞬時に付ける時は、本性を知らない人間がこの場にいるときと決まっている。ならば誰なのか、とソーマもデザイアに習って礼拝堂へと視線を向ける。
 そこに居たのはデザイアと同じような金髪の男で、ソーマ自身見たこともない男だった。
 先程デザイアは彼をミスター・デイヴィスと言っていたが、一体彼は誰なのだろうか。だからといって訊くことも出来ず、ソーマは不意に再び視線を外した。



21: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 01:18:49
「神父様……」
 ジャックの方も、突然デザイア達が現れたのに驚いたようだった。
 座っていた木製の長椅子から立ち上がろうとしたのをデザイアは無言のまま視線と手をそっと差し出す事で制止する。
 再び腰を下ろしたジャックにデザイアは微笑みかけると、静かな声で「どうされたのですか?」と再度問いかけた。
 ジャックは四十代半ばで、妻と息子が居るとデザイアに話していた。昔、戦時中に自分の犯した罪の数々を悔い、こうして様々な場所にある教会に足を運んでは祈りを捧げているらしい。
「祈りを、捧げておりました……」
「……そうですか。神はどんな事でも、心から悔い改めようとすればきっと赦してくださいますよ」
 デザイアの言葉を聞き、ジャックがそれまで思いつめていた所為か固くなっていた表情を僅かにだが和らげる。
 それから、デザイアに自分の罪を聞いて欲しいと訴えてきた。
 それはデザイアも役目の一つであるし、構わなかったのだがソーマが居る。ソーマの方は興味が無いと気にしなさそうだったが、ジャックの方はどうだろうか。
 人にはなるべく聞かれたくない話だろうし、ここは悪いがソーマには席を外して貰おうか等思案した。
「ええ、それは構いませんよ。ですが彼が――」
 ソーマを振り返りそう言いあぐねたデザイアにジャックはソーマさえ良ければ差し支えない、と口にした。
 そう言うことなら、とデザイアは再度ソーマを振り返り尋ねる。
「ソーマ。構いませんか?」
 ソーマは自分の本性を知っているが、ジャックの見ている手前迂闊には本性を出せない。
 その所為か、振り返ったデザイアの表情はジャックからは見えないのを良い事にこの上なく不服気だった。



22: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 01:22:36
 デザイアの紡ぐ言葉、もといその声音にソーマは思わず噴き出しそうになるのを必死で堪える。ここで笑ったら色々な物が水の泡になりかねない。
 勿論自分は何故デザイアが聖人君子の善人であるという仮面を被って対応しているのかは解らない。確かに神父になるには彼の元々の性格では無理だろうが、それ以前に何故神父になろうと思ったのかも。
 別に自分はどうでもいい。男――ジャックがどんな罪を犯したのか聞いても別に気にしないし、興味もない。
 口調は今まで通りにしても、表情がまたこれ以上なく不服そうなデザイアにソーマは僅かに口角を吊り上げる。
「……別に興味もない。勝手にしろ」
 自分のことを知らない他人が居ようが、自分は態度を改めるつもりはない。
 自分のような人間が神父と一緒に歩いているなんて、それこそ笑い話にしかならないだろうなとソーマは心の中で自嘲めいた笑みを漏らした。



23: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 01:31:40
 自分の思っていた通り「興味がない」と答えたソーマにデザイアは素早く表情を変えるとジャックに向き直る。
 正直、ソーマが口角を吊り上げたのには気付かなければ良かった、とデザイアは心の中で盛大に舌打ちを打った。
 ジャックに向き直った際の、どこか慈愛の滲むその表情はデザイアの本性を知っている者が見たら信じられない、と思うようなものだ。
 こうでもしていないと色々と面倒なのだから仕方が無い。
「――ではミスター・デイヴィス。話をお聞かせ下さい」
 そう促され、ジャックは一つ頷くとぽつぽつと今にも消え入りそうな程の声色で話を始めた。



24: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 01:38:21
 ソーマはジャックの話す話を殆ど、というか7,8割ほど聞き流していた。
 他人の罪にそこまで興味はない。興味をそそられもしない。だからこそ聞き流してどうにか間を保つことを選んだ。
 ただ、どうしてもソーマはこの男の何かに引っ掛かる。デザイアと同じ髪の色に瞳の色、何か裏があるんじゃないか、と。
 まあだからといって、恐らく自分はどうもしない。
 ソーマは何もせず、というかすることもなく不意に息を吐いた。それにしても、いつまでこの話は続くのだろう。



25: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 01:53:02
 デザイアはジャックの話を聴きながら混乱していた。
 ジャックの“懺悔”の内容というのがデザイアが幼い頃、今は亡き母から聴かされた話と酷く似ていたのである。
 そんな訳がない。そんな偶然があってたまるか。とデザイアは木製の長椅子の腰掛け、膝の上で手を組むジャックを見て思う。
 しかし聴けば聴くほどそれは確信へと繋がった。
 戦時中に襲った村の人々を虐殺し、村の若い娘に乱暴を働いた。娘に至っては村を離れる際に村に捨て置いた。
 初めてジャックを見た時の嫌な予感はこれか。
 デザイアは自分と同じ色の髪と瞳を半ば呆然と見つめながら思った。
「あ、貴方が……その、暴漢して、しまったその女性、名は何と言ったか覚えていますか……?」
 震えが止まらない。今にも気がどうにかなってしまいそうだった。
「もしや、マリア……という名では……っ」
 違うと、マリアではないと言ってくれ。
 半ば確信がある状態で尋ねておきながらデザイアの心はジャックが「違う」と口にしてくれるのを望んでいた。
 だがデザイアの口からマリアの名前が出た瞬間、ジャックの表情が豹変したのにデザイアは無惨にも気付いてしまう。
「何故、神父様がそれを……」
 それはまさしくジャックが罪を犯してしまった相手の名がマリアである事を肯定する言葉だった。
 ふと何かが落ちる音を耳が拾い、はっとデザイアが我に返る。
 側には先程の音の正体であろう自分の物である聖書が落ちていて、デザイアは椅子に腰掛けていたジャックの服の襟部分を掴んでいた。
 自分のと同じ忌々しいブルーの瞳が自分を映す。
「テメェか……っ、テメェがマリアを他の仲間と輪姦した野郎かッ!」
 デザイアが怒声をあげる。
 自分は暴漢を働いたと言っただけで輪姦までしたとは言っていない。
 ジャックは自分が言っていない事まで口にしたデザイアに瞠目する。
 未だ混乱する頭でなんとか搾り出すように口にしたデザイアにジャックもまた、混乱した頭でなんとか言葉を紡いだ。
「何故……貴方がそれを、知っているのだ…………」



26: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 01:58:51
 今まで興味なさそうにデザイアとジャックから視線を外して話を聞いていたソーマが、デザイアの怒声と聖書の落ちる音を聞いてやっと視線を向ける。
 どんな流れでそうなったのか知らないが、デザイアはジャックの胸倉を掴んで怒鳴っている。
「……落ち着け、デザイア」
 ソーマは盛大に溜め息を吐くと、ジャックの胸倉を掴む彼の手を引き剥がすような真似もせず、ただ傍観しているだけで口を開いた。
 普段ならば名も呼ばずに“馬鹿”とでも一蹴するところだが、この空気でそんな事も出来ない。変なところで几帳面だと言われても気にしないから別に構わない。
 ソーマは足を組んだ膝の上に手を組んで置くと、ジャックを一瞥する。
「…… 何がどうなったか説明しろ。生憎興味のない事は聞き流す質だからな、理解できない」
 明らかにソーマ自身に非があるが、それを認めさせない程に彼は傲慢に言い放つ。
 ジャックの罪だの懺悔だのに対しての興味はなかったが、デザイアがここまで激高したというのならば話は別だ。



27: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 02:15:05
 デザイアは背後でソーマの声がするまでソーマもこの場に居る事をすっかりと失念していた。
 ジャックの襟を掴む手はデザイアの指が真っ白になる程で、ジャックの方はといえばデザイアの豹変振りとソーマの問いに見るからに戸惑っている。
 ふいに、襟を掴んでいたデザイアの手から力が抜けた。
 ふらふらと覚束ない足取りで玄関から見て正面に鎮座する祭壇に背を凭れ、手で顔を隠しつつ項垂れる。
 ジャックが暫しの間を置いてソーマの問いに漸く首だけを振った。見るからに困惑した表情でソーマとデザイアを交互に見遣る。
 すると祭壇に凭れ俯いていたデザイアがゆっくりと顔を上げ、座っているソーマを見遣った。
 その表情は今にも泣き出しそうなのを必死に堪えているようにも見える、言うなれば泣き笑いだろうか。
 そんな悲痛な面持ちでデザイアはソーマを見遣り、どこか困った風に口を開く。
「ソーマ。さっき教えただろ? 俺は父親の顔を知らないってさ。アレ、実はな俺が俺の母親――マリアが暴漢に襲われて出来た餓鬼だからなんだ」
 デザイアがゆっくりと話し出したそれは、普段なら小説や何かで無いと聞かないような悲惨な内容で、たった今ジャックの話したそれと酷似していた。
 それをデザイアは口元に歪な笑みを浮かべながら話していく。
 それを聞くソーマの反応にまで気を回す余裕はなかったが、不思議とジャックが動揺したのは分かった。
 話が進むにつれ徐々にデザイアの声が小さくなっていく。
「――でな。その中で俺と同じ金髪碧眼だったのは一人だけだったらしい。他の奴は髪か瞳に茶色が混じってたんだと。という事は――」
 ふとデザイアが言葉を切り、ジャックに視線を向けた。
 ジャックに視線を流せばそこには真っ青になり、「信じられない」と言わんばかりの表情をしたジャックの姿。
 デザイアはわざとジャックに微笑んでみせる。
 信じられない位穏やかなその笑みにジャックは一瞬昔自分が暴漢した女の面影が重なった気がした。
「――ソーマ。親父が、見つかった」



28: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 02:22:55
 自分がここに居ることすら忘れてしまうほど、デザイアはショックを受けていたらしい。ソーマはさほどそれを気にすることもなく、ジャックが首を振ったのを見て舌打ちした。
 そんな不機嫌さも、デザイアが見せるとは思えない表情を見てすぐに消え失せる。
 ソーマは表情を変えることも、相槌を打つこともせずにただ彼の話を聞き続ける。気軽に相槌を打てる話でもない。
 自分が先程過去を示唆したときにはデザイアは自分に言葉を書けてくれた。それでも自分はそれができない。だから、ソーマはただデザイアを見据えていた。
 それでも、少なからず動揺を感じていたのは確かな事。まるで作り話としか思えないデザイアの話は、ソーマの精神をこれ以上なく掻き乱した。
 自分とは比べものにならないような話だ。何だ、彼の人生は。彼の生まれた意味は。常人であれば最後まで聞くことすらできないかもしれないくらいに陰惨な話。
 両親を目の前で殺されて自分も殺されそうになって、気付けばもう戦場で戦っていて普通に人間を殺していて、挙げ句の果てには尊敬するであろう師すらも自分の手で殺した。
 そんな自分の過去なんて、デザイアの母の話の前では霞んでしまうように思える。
 微笑んだデザイアが何となく泣いているように見えたのは気のせいか。彼の頬に涙は一筋も流れていないし、逆に穏やかな表情で居る。
 デザイアの話、最後の一字一句まで聞き届けてから、ソーマは細く長く、静かに息を吐いた。
「……そうか」
 それから感情の読み取りづらい目をジャックに向け、これまた平坦な口調で問う。
「……本当の話なんだろうな?」



29: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 02:25:05
 デザイアが、他人に自分の過去を話したのはこれが初めてだった。
 聞いていて気分が良いものでは無いのは分かっているし、何より自分自身が未だ整理しきれていない部分がある。そんな状態で話しきる自信が今までになかったのだ。
 だが今回は不思議とすらすらと言葉が出てきた。
 ソーマが黙ったまま聞いてくれていたからだろうか。ここで相槌などを打たれたり、変な同情をされたら最後まで話せてはいなかっただろう。
 “親父”と言った瞬間のジャックの表情は一生忘れられないと、デザイアは思った。


「私、の、息子……?」
 ソーマに再度問われたジャックはデザイアから視線を外さないまま独り言のように呟く。
 デザイアは何も言わずただ微笑を浮かべているだけだった。



30: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 02:38:07
 自分の問いに答えることもしないジャックを、ソーマは何の感情も籠もっていないような目で見る。
 当たり前と言えば当たり前の事だが、この男は今の状況が理解できていないらしい。
 デザイアに視線を向ければ、彼は未だに微笑を浮かべているだけで何も言おうとはしない。頷くことも否定することもしなかった。
 デザイアに同情を向けるつもりはない。彼もそんな物は臨んでいないだろうし、他人を憐れむ心も殆ど持ち合わせていないと思える自分には無縁のことだ。
 それでも、ソーマは心の中に徐々にジャックへの何らかの感情が湧いてくる事に気付く。
 恐らくデザイアと彼の母親を酷く苦しめた――恐らくと言っても、彼の母親に至っては確かではあるが、その人間が今までのうのうと生きてきた。
 この胸の内にある感情を表せば、“怒り”だろうか。それも普通のではなく、激情と表すのがいい程の。
 ソーマは先程息を吐いたのとは全く違い、盛大に溜め息を吐くと突然ジャックの襟首を掴み、適当に壁へと投げ飛ばした。



31: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 02:43:21
「――ッ!? あぐっ!」
 ソーマに投げ飛ばされたジャックは背中を教会の壁に強く背中をぶつけ呻き声を上げる。
 デザイアはと言えば、ソーマの突然の暴挙に微かに目を瞠った。
 しかしこうなったソーマがそう簡単に止められないのを知っているデザイアはどうしようかと思案する。だがふと、ジャックを助けようとしている自分への違和感に気付いた。
 何故自分は憎い筈の男を助けようとしている? 何故いっその事自分の手で始末してやろうと思わない?
 そんな、到底答えの見つからないような問いを自分に繰り返す。
 ジャックが死んだところで少なくとも自分は何も思わない。幾ら血が繋がっていようとも自分からすれば所詮、赤の他人だ。
 この世で一番強い繋がりだろうが自分には関係が無い。
 幼い頃、無駄だとは分かっていながらも愛する母親以外にも望んだこの繋がりなど、成長した今、デザイアには必要が無かった。
「マリア……俺はどうすれば良い」
 教えてくれよ、母さん――――



32: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 02:50:59
 ソーマは呻き声を上げたジャックの首を容赦なく掴み、壁へと縫いつける。
 先程まで何の感情も籠もっていなかった瞳が、今は殺意で煌々と輝いていた。
「……貴様とは直接関係はない。間接的な関係もない。今出会ったばかりだからな」
 無理矢理に感情を押し殺しているといった声で、ソーマは淡々と言葉を紡ぐ。
 首を掴む手に更に力を込めながら、彼は真っ直ぐジャックを見据えて言葉を続けた。
「他人を苦しめた人間が今までのうのうと息を吸って生きてきた。デザイアがそれを許そうが神がそれを許そうが関係ない」
 そこでデザイアの呟きが聞こえてきたが、それすらどうでもいい。そう、どうでもよかった。今の自分にとってはただの音としか捉えられなかった。
 ソーマはそこで柄も刃も全てが白い、どこか神秘的な雰囲気すら感じさせる大鎌を男の首にかけていない左手に瞬時に発現させ、持つ。
「悪いが、俺は貴様のような屑を許す気はない」
 はっきりと、今度は僅かに声を張り上げてソーマは言い、大鎌を振り上げた。



33: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 03:04:42
 壁に縫い付けられた際に後頭部を背後の壁に強くぶつけ、目の前に火花が散る。
 どう考えても悪いのは自分だ。
 ジャックはデザイアの事で“友人”であるソーマが怒るのは無理ないと思った。
「――っ?」
 淡々を言葉を発するソーマも霞む視界で見つめていたジャックは、一瞬何が起こったのか理解が出来なかった。
 目の前に迫る男の手に突如として現れた大鎌。
 原理など分からない。
 例え頭をぶつけておらずとも、首を絞められておらず意識が混濁状態でなくとも、今目の前で起きた不可解な現象を説明しろと言われても出来なかっただろう。
 ジャックは振り上げられた大鎌をただただ視線で追う事しか出来なかった。



34: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 03:19:55
 ジャックが殆ど抵抗してこない事を良いことに、ソーマは鎌を一閃させる。
 一瞬遅れて何かが落ちるような音が響き、更には何か粘着質な液体が落ちるような音も響き渡った。
 その液体はソーマのブーツも汚し、濡らしていく。飛び散ったそれが、彼のコートやスラックス、手も汚していた。
 目の前で両親が死んだときに浴びた。この手に武器を持ったときから最早見慣れた。手を濡らす感覚にも、鉄臭い匂いにも血生臭さにも慣れた。
 ソーマは足下を赤く染めた血にびしゃりと音を立て手足を踏み出し、殊更に“自分がジャックの両足を切断した” という事を誇示した。



35: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 03:32:17
「あっ……っ?」
 ジャックが鎌が振り下ろされた先へとゆっくりと視線を下ろす。
 そこにある筈のものがなく、すぐ側に転がる二つの塊と自分の真下にある真っ赤な水溜り。自分の下半身と二つの塊の間には細い糸のようなものが引いている。
 そして、自分で自分の身体を支えられなくなった事に数秒遅れてジャックは状況を理解した。
「あ……あ゛あ゛ああ゛ぁ――!!」
 途端に自分を襲った焼け付くような痛み。いや、痛みなどと生易しいものではない。激痛と言ってもまだ足りず、ショック死しなかったのが不思議なくらいだった。
 喉が張り裂けんばかりの、それこそ断末魔のような悲鳴が教会の壁に反響する。空気がビリビリと震える。
 鉄分と脂分の混ざった酷い臭いが鼻をつく。
 デザイアと言えばそんな光景も音すらも感じていないような虚ろな表情で居る。
 最早ソーマを止めようとか、無意味な自問自答をする事も考えてはいなかった。



36: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆04/27(火) 03:50:54
 血の臭いに顔を顰めることもなく、ソーマはジャックの切り落とした足を踏みつける。
 残っていた血が溢れ出し、更に血溜まりが大きく、濃くなっていく。それを醒めた眼で見て、ソーマは僅かに眼を細めた。
 それからジャックの首から手を離し、水溜まりに落ちるような格好にする。
「……逃がすわけには行かないからな。どうだ、足を無くした気分は」
 血で赤く濡れた白い鎌を左手に持ったまま、彼はジャックに何のことでもないように問い掛けた。
 足を切断しただけではまだ足りないとでも言いたげに、ソーマは更にその傷口にも鎌の刃を突き立てる。
 綺麗に切断された、とも取れていた傷口をこれ以上ないほどに壊してから、彼はジャックの顔を見た。
「痛いか?」



37: 名前:灰人 (DesireLAOU)☆04/27(火) 04:01:43
 不意に首への圧迫感が薄れた。首から完全に手を離されジャックは真っ赤な水溜りの中に落ちる。ビシャッ、と液体の飛び散る音と、大きな物体――両足を失ったジャックの身体が床にぶつかる鈍い音が教会全体に響いた。
 その音の余韻が残っている間に、ジャックの瞳から堰を切ったように涙が溢れ出てきた。自分の意思ではどうにも出来ない。
 顔を涙と唾液でぐしゃぐしゃにしながら獣の唸り声のような声を漏らしながらジャックは床に蹲っている。
 確かに逃げようとしてもこの痛みじゃ動く事さえ出来ない。ほんの僅かに身動ぐだけでもとんでもない激痛が身体中を駆け巡った。
「あ゛ぐぁぁ゛……ぐぅ゛ぅ゛」
 加えて足の切断面をぐちゃぐちゃにするように鎌の切っ先を突き立てられ一際甲高い絶叫を迸らせた。
 ソーマが何かを言った事さえ分からない。ただただ痛くて苦しくて狂ってしまいそうだった。
 それでも人間というのは意外にもしぶとく、まだこうして意識を保っていれる。
 だが血を流しすぎたショックで身体がビクビクと痙攣を始めた。
 陸に上げられた魚、若しくは極刑の電気椅子に座らされ電流を身体に流された死刑囚の如くジャックの身体が血溜まりの中で跳ねる。
 ソーマが見遣ってくるがジャックの濡れた目は虚ろで何も映さない。
 デザイア――自分の息子の姿すらもジャックには最早認識出来なかった。


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最終更新:2010年05月11日 01:53
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