1: 名前:みるみる☆05/12(水) 20:23:44
半径2mで愛して。
2: 名前:みるみる☆05/12(水) 20:27:31
こんにちは!
ついこの間までカラダのほうで書かせて貰っていたみるみると申します。
かなり短編になると思います。
しかも、らぶとか言いながら多分そんなにらぶらぶしないと思います。
ちょっとしたファンタジーですから、苦手な方はお戻り下さい;
あと、私の更新は亀どころではなく、でんでん虫より遅いので←
気長に見守ってくだされば嬉しいです!
3: 名前:みるみる☆05/15(土) 14:30:44
1. 旧・最新
例えば、なまこを最初に食べた人を尊敬するっておっしゃる方、沢山いますよね。
確かにあのような生き物を食べようとするなんて、尊敬に値する偉業だと思います。
でも、それまでに河豚を食べて死んだ人もたくさんいるんじゃないでしょうか。
どこに毒があるかなんて、もう半分動物実験的に危険な試しを繰り返した結果ですよね。
そう、数え切れない失敗の上に、一つの成功がある。
無数の実験の上に、初めて完全が出来上がるのです。
私は、そんな風に実験体として送り込まれた、不完全なモノのお話をさせていただきたいのです。
4: 名前:みるみる☆05/15(土) 22:24:35
◆
嫌に厳重な段ボールの包装を、おそるおそる開ける手には汗が滲んでいた。
この暑さの中では汗くらい出るだろう、そう男は自分に言い聞かせて、現れた白い発泡スチロールをゆっくりと持ち上げた。
「……おお」
そこには瞼を閉じた女がいた。何故か髪は真っ白である。
茶色の箱に横たわる様は、まるで棺桶のようだ。
ビニールのような、タイヤのような化学の匂いが漂い、そこで男はようやく、ああ、そういえばこいつは人間じゃなかった、と我に返った。
説明書など読む気も起こらない。恐れと好奇心がごちゃ混ぜになった男は、そのロボットの踵に繋がっているコードを引っ張り、部屋に1つしかないコンセントに差し込む。
音もなくロボットは起き上がった。
「うわ」
男には棺桶から目覚めたドラキュラにしか見えない。
しかも、声を上げた拍子に、ロボットは白いロングヘアーを揺らして首だけでこちらを見た。
無表情である。
慌てて後ずさろうとしたら、右足が攣った。
「っつー!」
どうしてこのタイミングで、と男は己の日頃の運動不足を呪った。
ロボットは無表情でそれを見つめている。
「Hello.Nice to meet you.」
「え?」
「Please set your...」
「ちょっと待って、英語無理だって! 日本語喋って! 郷に入りては郷に」
「ニホンゴ」
男の言葉を遮るようにロボットは呟いて、暫くの間硬直している。
何かを探しているような気がした。
「こんにちは」
「……日本語喋れるんじゃん」
ほっとしたように溜息をつく男。
「貴方の名前を教えてください」
6: 名前:みるみる☆05/16(日) 22:58:55
看鬼様
ありがとうございます……! こんな書き方するのは初めてなんです、だからとても内心びくびくで……。
安心しました。自分なりに頑張ります!
◆
「安藤、優希」
「性別と年齢を」
「男で26歳だよ」
「結婚は」
「してなかったら何なんだよ。なんだこれ、尋問?」
「いえ、重要な設定項目です」
ロボットは何度か瞬きをした。どうやら中にあるコンピュータが情報の整理をしているようだが、瞬きをするなんて、良くできたロボットだと優希は思った。
「では、私を購入した理由と、主な私の任務、私の性格を決定してください」
「購入してない。お前を創った奴にモニターを頼まれただけだよ。任務って言うか、雑用してくれれば助かるかな。て言うか性格って何? 決めるの俺なの? どうでもいいよ、適当で」
そう、優希は知人の開発した所謂人型ロボットのモニターを任されたのだ。
開発といってもまだ途中で、不具合などをチェックする為にモニターを使った実験をすることにしたらしい。
だから理由なんて、お金が貰えるから、くらいしかない。
その素っ気ない解答にも関わらず、ロボットは全く動じない。
最新鋭のプライドなど無いのだ。
7: 名前:みるみる☆05/19(水) 20:52:57
「そうですか。では私の自己紹介をさせていただきます」
優希はそのロボットに興味があるわけではなかったし、自己紹介なんて人間のそれを聞くのも面倒なのにましてや機械かよ、とうんざりした。
しかし、日曜日の午後、他にすることもないので、胡座をかいてその自己紹介を聞き流した。
それによると、このロボットは介護から相談相手、恋人まで担当できる万能らしい。
髪が真っ白なのは、主人が設定した色に変えられるから。
手触りも本物の人間に近づけてあるらしく、優希が試しに太腿をつつくと、自分のとは違う、ゴムとも違う、滑らかで柔らかい感触がした。
関節から無骨なコードが見えることもなく、それは本当に1人の人間のように見える。
「声も性格も貴方の思うままに。私を便利な家政婦として扱うも良し、性欲の掃き溜めに使われても結構です」
優希は思わず顔をしかめた。
「ロボットとなんて、俺はそんなに悪趣味じゃないよ」
「自己紹介は以上で終わりです。宜しければ、後々便利だと思うので、私に名前を付けてください」
なんともちぐはぐな会話だと思いながら、優希は立ち上がり、クローゼットを開けた。
防虫剤の匂いがつんとする。
ハンガーに掛けられている服は、半分以上が女物だ。
これは別に、優希に女装癖があるわけではない。
そこから適当にワンピースを引き抜くと、ロボットに渡した。
「取り敢えず服を着よう。名前は、澪。澪でいいだろ?」
「みお、ですか」
その襟と裾に細やかなレースが印象的な、薄紫のワンピースを着ながら、ロボットは今貰ったばかりの名前を噛みしめるように呟く。
「この服は、誰のですか?」
「別れた彼女の。名前もそうだよ。なんだかんだ言って、未練たらたらだよな、俺」
2代目澪はここでやっと微笑んだ。
11: 名前:みるみる☆05/28(金) 22:43:02
◆
優希はまずは手始めに、とコインランドリーで乾かしたままの洗濯物を澪の前に山積みにする。
すると澪は、嫌な顔ひとつせずに、てきぱきと5日間溜まったタオルや下着をたたんでいく。
「ふうん。お前、便利だな」
「そういうものですから」
SF小説の読み過ぎなのか、優希はてっきり、何をしろこれをしろと逐一命令しなくてはいけないものだと思っていた。
流石最新鋭といったところだろうか。
友人も暇なのか凄いんだかわからない。
そのどちらとも言える可能性が高い。
優希は暫く4畳半の畳に寝転がって、驚くべき速さで積み上げられる真四角になった衣類を見ていた。
空はどっしり水分を湛えた大きな雲が大粒の雫をばらまき始めた。
暑い上にこの湿気では何のやる気も起きないくらい茹だる。
「腹減ったー」
半分口癖になっているその呟きを漏らすと、全ての洗濯物を畳み終えたらしい澪はすっと立ち上がった。
「はい、只今」
「ん? 作れんの?」
「勿論です。和洋中どれがお好みですか?」
「んー、冷蔵庫にある物で何か作って」
目の前を横切る人間のような踵とくるぶしを見つめながら、こいつはネコ型ロボットよりずっと凄いぞ、と優希は思った。
そのまま部屋の隅にある小さな流し台まで行くのだろうと思っていたら、歩みはその少し手前で止まった。
白い瞳が優希を見下ろした。
「緊急事態です」
「何だ?」
「コンロの所まで行けません」
そう言う澪の踵から伸びるコードは床から浮き、もう1歩踏み出せばコンセントが抜け落ちそうだ。
「…………」
優希は後で友人に電話をする事を決意をした。
12: 名前:みるみる☆05/30(日) 00:18:42
そもそもこの友人、同級生の中で頭はずば抜けて良かったのだが、どこか詰めが甘いというか、抜けている部分があった。
そんな性格だからこそ、優希とは1番交友が深かったのかもしれない。
優希は溜息をつきながら、冷蔵庫からチーズと発泡酒を取り出して、小さなちゃぶ台に置いた。
「昼間からお酒ですか」
「うるせえ。もう4時だ」
些か乱暴な動作でぶしゅ、とプルタブを引き上げ、そのまま口を付けて飲み下す。
特に酒好きというわけではないが、喉まで暑さに参っていたようで、冷たく苦い流れが心地いい。
13: 名前:みるみる☆05/31(月) 15:51:13
チーズも食べ終えた後、優希はタオルと髭剃りと石鹸類を適当な袋に入れて、ちょっと風呂に入ってくる、と言い残して家を出て行った。
これまでの話でも分かるように、優希は決して豊かな生活を送っているわけではない。
贅沢をしようと思えば、それなりにできる蓄えはある。ただ、そうしようと思わないだけ。
だから、部屋は四畳一間で風呂なしという嘘みたいな貧乏アパートを借りて暮らしている。
ちなみに家賃は月48000円。
当然そんなアパートが新築であるわけもなく、お隣から夜の営みの一部始終が響いてきて睡眠を妨げられることもしばしばであった。
ぺたんぺたんとゴム草履を鳴らして優希が帰ってくる時、その荷物は少し増えていた。
ただいまも言わずに、玄関に荷物を下し、前を見上げると澪は主人の帰りを待っていた。
ただし、その体は畳にうつ伏せになった姿勢から足を高く高く持ち上げ、そのまま顔の両隣に踵を着地させるという奇妙極まりない姿勢だった。
優希は感電したように飛び上がり、たった今閉めた扉に背中を強く打ち付けた。
一瞬で脳と心臓が握りしめられる感覚。
「ただいまくらい言ってください」
白い瞳は真っ直ぐ優希を見つめている。
「……お前、そのポーズなんだよ、あ、あれか、中国雑伎団、とか?」
「ただいま、と言ってください」
「っ、ただいま……」
「おかえりなさい」
そう言って澪はその姿勢のままこちらに歩いてくる。
がさごそ、畳を擦りながら。
「やめろやめろ、こっち来るな! その姿勢やめろ!」
「このようなジョークはお嫌いですか」
澪の両足が床を離れ、ばたぁんと元の位置に戻った。
15: 名前:みるみる☆06/12(土) 16:12:46
愛海様
遅くなって申し訳ありません;
やっと自分的修羅場の1週間が終わりました。
こんなのろまですがよろしくお願いします。
あげありがとうございます!
◆
一気に跳ね上がった心拍数を元に戻すように、優希は長い息を吐いてから、ゴム草履を脱いで部屋に入った。
「お前にエクソシストは絶対見せねぇ……」
勿論ロボットとして本日誕生したばかりの澪にそんな一昔前の映画のことが分かるわけもなく、ただ白い髪を揺らして首を傾げるだけだった。
そして、優希は雨粒に少し濡れたビニール袋を澪の目の前に置いた。
「何ですか? それ」
「コードが短すぎる君のために」
それは小さなカセットコンロとガスボンベだった。
優希はボンベをしっかりセットして、つまみを一気にひねった。
勢いよく青い炎が燃え上がる。
それを見て、満足そうに頷いた。
「包丁とまな板も持ってくる。水はペットボトルに詰めておく。冷蔵庫はぎりぎり届くだろ? ご飯、頼んだ」
16: 名前:みるみる☆06/12(土) 23:34:53
「それは、ここで料理を作れと言うことですか?」
澪は、早速水道水を空のペットボトルに詰め始めた優希の背中に尋ねる。
「それ以外の何物でもない」
流し台も含め4畳半の家に、コンロやらペットボトルやらを並べ、加えて人間1人分のスペースが無くなったとなれば、優希はこれから2畳分のスペースで生活をしていかなければならない。
ちゃぶ台が急に邪魔に思えてくる。
「有り得ねぇ、とんだ最新ロボだ」
とか何とか言いつつも、優希の表情は少し楽しそうだった。
18: 名前:みるみる☆06/20(日) 22:57:53
愛海様
すすすすすみません……更新遅すぎます。
すこし遠出をしてました;これからはもうちょっとペース上げていきたいです!
板が移動ですか? そんなことがあるんですねΣ
あげありがとうございます!
◆
2.隣人は変人
優希は澪を置いて、朝5時半の冷たい空気の中へ革靴を鳴らして行ってしまった。
優希は自家用車という物を持っていないから、駅まで歩いて、電車で移動するだけの時間を見積もると、いつもこんなに朝早い出勤になる。
澪は眠る必要がないので、朝3時半からそこらのレストランにも引けを取らないくらいの“break fast“を作り上げ、重箱にも詰まらないような弁当を用意し、優希に驚かれた。
「なぜ私が怒られたのでしょう、分かりません」
ほとんど手を付けられていない料理を目の前に、特に残念がるわけでもなく、澪は呟いた。
19: 名前:みるみる☆06/25(金) 21:50:15
暫く蝉のわんわん鳴り響く部屋に正座していると、隣からもの凄い爆音でR&Bが流れてきた。
蝉の声に風流を感じる心を持ち合わせていない澪は、さすがに眉をひそめることこそしなかった。
しかし、「最新」の脳によって、それが非常識な事であることくらいは分かる。
それと同時に、リズム感零の歌声が響き渡った。優希だったら怒るのだろうか。
声は歌いながら移動しているのが分かる。やがて優希の部屋の玄関までやってきた。
「腹減ったんすよー、優希さぁーん」
ごんごん、と乱暴な感じに扉がノックされる。
「優希さーん? 挨拶してないから怒っちゃった系? ちーっす、あ、仕事系?」
20: 名前:みるみる☆06/29(火) 00:41:53
一度澪はその声に応えるべきか否か迷ったのだが、なんだか自問自答をしているようにも聞こえて、暫く迷った後、「優希さんなら仕事に行きました」と答えた。
許可の言葉も無いのに、声の主は扉を開けた。
「……まじかよ」
相手は眉毛のない外国人だった。
地毛なのかは判断できないが、オリーブ色の髪をピンでこれでもかと言うくらい留めて、雑で小さなポニーテールにしている。
耳朶にはぎらぎら光るピアスと、携帯のストラップみたいな物(澪にはそう見える)を通している。
肩からちらりと覗くタトゥーもなんだか禍々しい。
スナイパーやってました、と言っても9割信じるぐらい、とても危ない感じの男だ。
でも、どこかちぐはぐなところがあって、威圧感は感じられない。
ひゅー、と男は口笛を吹いた。日本人よりは似合う。
「え、リアルリアル? 優希さんカノジョ系ー?」
澪の白い肩をがっちり掴み、その髪と同じ深い色の瞳で、澪の顔面を舐め回すように見つめる。
「えーやばい、まじ可愛いんですけど。てか白っ! あ、ひょっとしてあれ? 美白クリーム目と髪まで塗っちゃったーみたいな」
21: 名前:みるみる☆07/01(木) 16:11:46
外国人にしてはあまりにも流暢すぎる、というか通り越して崩れた日本語を使う男だ。
「失礼ですが、ご出身は?」
「ごしゅっしん? あ、俺のこと留学生か何かと思ってるー? 親はどっちもイギリス人なんだよねぇ。ま、俺は日本で生まれて日本で育った、生粋の江戸っ子的な」
ぺらぺらと喋っている間にも、澪は髪を触られたり、白い瞳をのぞき込まれたり、とにかくおもちゃにされている。
「そういうあんた、どこ出身? 名前は? あ、俺言ってなかったね、クレアっていうの。女っぽくて嫌なんだけど、優希さんも似たようなもんだしね」
22: 名前:みるみる☆07/05(月) 16:38:23
出身と言われても、澪にはどう答えて良いか分からない。
そんな回路は存在していないようだ。
「澪です。出身地は今のところありません」
「今のところって……」
「私は機械です」
澪のほっぺたをぶにぶにやっていた手がぴたりと止まった。
そして、色素の薄い睫毛が引っ張られるように上を向く。
比例するように、口角も上がる。
そしてクレアは、うくっ、というしゃっくりを無理に飲み込んだ様な声を出し、そして爆笑した。
何故そんなに笑われるのかは分からない。
ただ澪は、途中から目に涙を浮かべて腹を抱えるクレアを、呼吸でも苦しいのかと不思議そうに見つめるだけだ。
「……冗談がぶっ飛びすぎだよ、澪ちゃん」
「いえ、大真面目です」
そういって、澪は自分の踵に付いているコードを指さした。
23: 名前:みるみる☆07/12(月) 16:51:06
「だから『彼女』ではありません。優希さんは私のモニターです。お腹が減っているようでしたら、そこにある物をご自由に」
クレアはコードを見て固まっている。
澪は、フリーズでもしたのだろうかと思ったが、人間だから勿論そんなこともなく、やがておそるおそるコードが握られた。
くい、とコードが引かれると同時に、澪の踵もささくれ立った畳の上を滑る。
24: 名前:みるみる☆07/14(水) 17:22:57
今度はもっと強く引っ張られる。
何かを確認するかのように、何度も何度も畳を擦る音がする。
やがてクレアは、ふうん、と落ち着いたように言った。
そして、ジャンクフードでも摘むように、冷え切ったオムレツを手掴みで口に運ぶ。
その味が気に入ったのか、飲み込む前に右手はもう一切れを摘んでいた。
「君、ジョークの才能に長けてるのかもねぇ」
それはつまり、まだ澪のことをロボットだとは信じず、ただ周到に用意された「どっきり」だと思っているという事だが、澪にはよく分からなかったのか、「ありがとうございます」と感謝を口にした。
夕方になり、澪も夕飯の準備を整えた頃に優希は帰宅する。
ブリッジをしたまま近寄って行くと、上に向いた顎を叩かれた。
「本当にやりやがった……」
もうするなと言われてしまったことを何故やったのかと詰問されると、澪は「ジョークの才能があると言われたので」と反省する素振りもなく答えた。
「言われたのでって……誰に?」
「お隣のクレアさんです」
優希は重い溜息をつく。面倒なことが起こりそうな予感がしたのかもしれない。
最終更新:2010年10月13日 22:41