96: 名前:海☆08/12(木) 18:25:45
ミーン ミーン
今日もセミは鳴りやまないまま、
外ではセミの声が町中に響きわたっていた。
ミーン ミーン
今日も空は雲ひとつない晴れ晴れした日だった。
ミーン ミーン……
今日も、あたしは優太君一色だった。
きっと明日も、明後日も
きっと頭の中は優太君だけなんだろうな。
会えない日が続くからこそ、余計に。
97: 名前:海☆08/12(木) 19:07:24
そんな毎日を繰り返した。
毎日が再生されてるように。繰り返していた。
今日も同じように優太君にメールをうっていた。
【優太君 今日も暑いから、熱中症には気をつけてね!】
送信。携帯をパタンと、ゆっくり閉じた。
そして、座っていたベットから立ち上がり
あたしの部屋からリビングに向かった。
シーンと沈黙に包まれている、リビング。
あたしは一人っ子だから一人には慣れていた。
親はきっと今日も帰りは夜だろう。
「寂しい」が言えないのは、
家で「寂しい」を慣れているからなのかもしれない。
そんな事を思いながら、
冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注いだ。
98: 名前:海☆08/12(木) 19:19:31
そんな時
あたしの携帯が鳴った。
優太君?優太君なの?
麦茶を置き、急いで携帯をとった。
期待を膨らませ携帯を開いた。
携帯を開いてあった文字。
【外で人が倒れています】
そう書かれたメール。
知らないメールアドレス。
外で人が倒れてる?
ただ確信できることは
優太君じゃないってこと。
99: 名前:海☆08/12(木) 19:31:49
知らない人からだけど……
外で人が倒れてる? ……一大事だ!
急いで外へでた。
熱中症かもしれなかったから、保冷剤を持って行った。
ガチャリ、久しぶりに玄関のドアを開けた。
「やっぱり来た」
一瞬、優太君かと思った影は
会いたいとは願わない人の姿。
「なんで、あたしの家にいんの
西希 大地」
手に持った保冷剤は、
夏の暑さで溶けてしまいそうだ。
103: 名前:海☆08/14(土) 18:52:42
「なんでフルネーム!?」
「なんでも、いいでしょ!」
あたしが聞いた言葉を無視して、違う話に変えた。
何で……大地が…
「お前、昔から困ってる奴とか
見捨てられないタイプだよなあ」
「そうだったら…何?」
大地が二ヤリ笑った。
あたしは、はっとした。
携帯をパッと開き、さっき来たメールを見た。
【外で人が倒れています】
これって…
「あ、これ俺」
大地が携帯を覗き言った。
……やっぱり。
「用件は何ですか」
あたしが冷たく言った。
保冷剤…こんなに沢山、手に持ってる
あたしはバカらしくなった。
「今日さ、花火大会なんだよね」
「? 知ってるよ…」
何で、こんな所まで来て
そんな事言うのか不思議だった。
104: 名前:海☆08/14(土) 18:56:46
「だから……
一緒に行かね?……こと」
ミーン ミン ミーン
セミは今日も一生懸命生きていた。
きっと、あたしの鼓動が速くなって うるさいのも、
きっと、セミのせい。
105: 名前:海☆08/14(土) 19:17:54
「好きだよ、桃
けど…今日で、あきらめたいから」
俺様な大地が、『あきらめる』と言った。
告白も驚いた。
けど、『あきらめる』という言葉のほうが驚いた。
「あたし、好きな人いるから……
誤解されたりしたら困る……」
あたしは、この時
「彼氏がいるから」とは言えなかった。
きっと今、優太君の彼女である自信がないから。
会えない分、大きく。
あたしが、そう言い残し
家へ戻ろうと後ろを向いた瞬間
あたしの身体は大きく後ろへ引っ張られ、
それと同時に保冷剤を落としてしまった。
「なっ……!?」
「んー! お願い!
今日だけ付き合ってよ」
そう言って、大地はあたしの手を引っ張り走った。
抵抗できなかったのも
きっと、夏のせいだ。
そして、あたしは家の前に保冷剤を落としたまま 大地と走った。
108: 名前:海☆08/15(日) 14:53:30
公園の時計から、20時を知らせる音楽が流れた。
それと同時に花火が夜空に大きく舞った。
ドーン ドーン
「うっあー! すげぇ、大きいな! なっ桃!」
「……」
あたしは大地の言葉を、思いっきり無視した。
「え、怒ってる?」
「知らない」
次は冷たく返答した。
今日で、あきらめるって言うなら
あたしの事を、思いっきり嫌いになればいい。
そう思うのと、
優太君と来たかった花火大会。
終わった人なんかと来たくなかったから。
「バカな桃」
「なっ、バカ!?」
いきなり「バカ」扱いされて、
あたしは、つい言い返してしまった。
「桃はバカだよ。
冷たくしたら、俺が嫌いになると思った?」
それは『俺は嫌いにならない』と言っているようだった。
その言葉が、少し嬉しかった。
109: 名前:海☆08/15(日) 15:09:13
「だって……あきらめるって言ってたから……
だ、だから、手伝ってあげたの! バカ大地!」
顔が熱くなった。あぁ……どうして、
いつもペースを崩されてしまうのだろ。
「ははっ…桃は優しいなぁ」
「か、からかわないでよ……」
もう頭がおかしくなりそうだ。
これ以上、あたしを狂わせないで。
「なぁ…桃」
ドン ドーン……花火が一瞬の花を咲かせる。
「俺と付き合ってよ」
花火の音にかき消されないくらい、
はっきり聞こえた大地の低い声。
110: 名前:海☆08/15(日) 15:20:19
「あきらめるって言ってたじゃん……」
何か、何か理由がほしい。
大地の鋭い目から逃げる、口実がほしい。
「ごめん、無理だ。
桃……俺を好きになって」
ぎゅっと、大地の体温が伝わる。
前に抱きしめられた時より、もっと
大地が近くにいる気がした。
どうして、大地はいつも
あたしが「寂しい」と思ってるときに、傍にいるのだろう。
どうして、いつも
あたしの中に無理やり入ってこようとするのだろう。
あたしは、またこの優しさに付け込んで
大地に、すがってしまうのだろうか。
ヒュ―――……ド―ン
夏の花火は夜の街に散った。
111: 名前:海☆08/15(日) 16:00:50
――あたしは自分の部屋のベットで寝ころんでいた。
あたしは、大地に抱きしめられてた時
タイミングよくお母さんから電話がきて
電話に出るふりして大地から離れて、走って帰ったのだった。
どうしよう。どうしようもなく、
顔が熱い。
鼓動が速い。
あの時のことを
『俺を好きになって』
一瞬でも考えるだけで、あたしの迷いがぶつかってくる。
優太君がいると分かっていても、
大地が最低な奴だって知っていても、
あたしの迷いは消えていかない。
112: 名前:海☆08/16(月) 15:11:26
次の日、
昨日の花火大会の日は、とても晴れていたのに
今日は夏休みはいって初の土砂降りだった。
「桃子、ちょっと卵買ってきてくれない?」
お母さんの久しぶりの休暇だった。
「ん、いーよ。
今日お昼オムライス?」
「そうよ、桃子の大好きなね」
あたしは「やった」とガッツポーズをし、
お母さんに手を振って家を出た。
「わわっ、すごい雨……」
あたしは水玉の傘を広げ、
外へ踏み出した。
雨の今日もセミは鳴いていた。
最終更新:2010年11月18日 17:26