114: 名前:海☆08/16(月) 15:26:50
いつも、おつかいを頼まれる時行くスーパー。
あたしは、いつもの道を歩いていた。
歩くたび、
あたしの足に雨が飛び散る。
下を向いていた顔をあげた。
信号が赤に変わった。
土砂降りの中、
あまり誰も使わない信号の向こうに、人がいた。
青い傘の男の人。
どことなく、誰かに似ている。
信号が青に変わり、あたしは歩いた。
青い傘の男の人が、あたしの横を通った。
「あっ」
思わず声をあげてしまった。
それに気付き、青い傘の人は、こっちを向いた。
どうしよう。
傘の向こうにいた人は、会いたくてたまらなかった人。
優太君だ。
116: 名前:海☆08/16(月) 16:00:17
「ゆっ…優太君」
いっぱい聞きたいことあるのに、言葉が出ない。
そう固まっていると、信号が点滅しているのに気付いた。
その点滅と同時に、優太君は走っていった。
「待って、行かないで、優太君…!」
あたしは傘を投げ出し、追いかけた。
前に見える青い傘は、あたしから、どんどん離れていった。
「何で、何で避けるの!?
バカバカっ、行かないでよ……」
そう言うのが限界だった。
あたしは、走りながら泣きじゃくった。
そして、走っている途中バランスを崩して、転んでしまった。
117: 名前:海☆08/16(月) 16:18:47
「行っちゃ……やだ…」
優太君には聞こえてないと思うけど、
精一杯の声をぶつけた。
雨に交じりながら、
小さな声は、小さな恋は、壊れかけていた。
下を向き、声を枯らして泣いた。
「悪い」
身体に、バチバチあたっていた雨が
あたしの身体から離れた。
泣きじゃくって、顔をあげても前がくすんで、
何も見えなかった。
「こんなに泣かすつもりはなかった。
悪かった。ごめんな。」
くすんだ視界から、かすかに見える。
声で分かる。
優太君。
118: 名前:海☆08/16(月) 16:34:19
「優太君…?」
あたしが涙を拭い顔をあげた。
でも、大きな手があたしの目に覆いかぶさった。
「俺、わけあって学校辞めるんだ。
だから、もう一緒にいられない」
「学校……辞めちゃうの?」
突然起こった出来事。
まいぶれもなく放たれた言葉。
驚きを隠せず、拭った涙が、また更にでてきた。
そんな、あたしに優太君は耳元で、
言葉を残し、傘を置いて走って行ってしまった。
優太君の残した最後の言葉。
『お前の誕生日、12月26日迎いに来るから』
そんな言葉だった。
121: 名前:海☆08/17(火) 15:13:37
優太君が、あたしに言葉を残していった、
長い夏休みは終わった。
今日から、2学期が始まる。
「桃子っ! 佐野が学校辞めたの、聞いた?」
藍が朝から、
あたしの机を勢いよく叩いた。
「え、う、うん知ってる」
藍の行動に少し驚いたが、
あたしは冷静に答えた。
「桃子の彼氏だよね? 寂しくないの?」
「うん…優太君、帰ってくるって言ってたし」
ヘラッと笑って見せた。
それと同時に藍の表情が変わった。
「ほんとに、そう思ってる?」
122: 名前:海☆08/17(火) 15:27:46
「え、ほ、本当だよ?」
藍の顔が、あまり見えないように、
目を細めて笑った。
「桃子、我慢して強がんないでよ。
バレバレだよ、嘘ついてんの」
「さっ…寂しくなんか…」
あたしが言葉を詰まらせた。
『寂しくない』そう言いたいのに。
言えなくて。
本当は、どうしようもなく寂しいんだ。
あたしは、その場で泣いた。
周りの人には気づかれないように、声を殺して。
寂しいって言えたら、少しでも楽なのかな――
123: 名前:海☆08/18(水) 14:52:49
――放課後
はれた目をおさえて、
自転車置き場に向かっていた。
誰かが、あたしの自転車にもたれかかっていた。
「あのー…その自転車、あたしのだと思うんですけど」
不審者にでも、会ったかのような顔でその人を見た。
その人は、赤い眼鏡で、髪は茶髪だった。
大地のチャラいキャラと少し一致する雰囲気。
「あ……日風桃子さんスか?」
「え、あ、はいっ」
このチャラそうな人は、あたしの名前を知っていた。
名前を聞かれたと思ったら、チャラそうな人は、
あたしに近づいてきた。
「なななっ、何ですか!?」
「逃げないで、話聞いてくんね? 頼むから……」
そう言ったと思ったら、いきなり頭を下げてきた。
「えっ、そんな困ります! 頭上げてください」
「西希のこと、ちゃんと好きになってほしい」
チャラそうな人は、名乗りもせず、
頭を下げたまま、不思議な事を言った。
124: 名前:海☆08/18(水) 15:05:48
「どうして…大地を……」
「西希は、小学生の時も中学の時も
今も、ずっと日風さんだけなんスよ?
どうして、ちゃんと見てやってくれないんスか」
名前も知らない、彼の言葉が胸に突き刺さる。
「中学の時、振ったのは向こうですよ……」
「あの日、西希は日風さんを守ったんスよ」
言ってる言葉は、すべてが理解不能だった。
あたしを守る?
あれで守ったことになるの?
彼の言葉の意味が、深く過去を書きかえることになる。
125: 名前:海☆08/18(水) 15:17:25
あたしを振った理由も、
大地が今あたしを好きと言う理由も、
すべては過去に隠されていた。
時は、中学時代。
大地が、あたしを捨てた日へさかのぼる。
126: 名前:海☆08/18(水) 15:38:57
――――中学時代 西希大地
【いつも通り屋上で】
昼休みが始まる前、
俺の携帯が鳴った。桃からだ。
俺は、いつも絵文字がついていないのに不満をもっていた。
けれど、俺にはそれより大きい不満が、不安があった。
『桃は俺を好きにはなってくれない』
そんな大きな不安。
桃が、佐野優太の事が好きなのは、本当は知っていた。
桃がずっと小学校の頃から、ずっと佐野優太を見ていたのを
俺は、遠くから空しく見ていた。
だから、佐野に彼女ができて、
桃がいつも泣きそうな顔をしているのを見るのが、
どうしようもなく胸が痛んだ。
俺は、それを利用した。
桃は佐野に対して、きっとこう思ってる思ったから。
『あきらめたい』
そんな簡単なようで、
空しく残酷な、その言葉を。
きっと、誰にも言えないけど
誰かに、寂しさを包んでもらいたいと。
きっと一人で心の中で、叫んでいたと思った。
127: 名前:海☆08/18(水) 16:24:54
昼休みを知らせるチャイムが鳴った。
桃は、いつも屋上に昼休みが終わる10分前に来る。
そんな桃とは反対で、俺は昼休みが終わったとたん屋上に行くようにしていた。
屋上に行く途中の階段で、
誰かが、もめあっているのが聞こえた。
『まだ、金とれねぇのかよ!』
『しょうがないじゃない。
付き合ったのはいいけど、
全然ヤッてくれそうもないから、まだ、金取れてないんだから』
その、もめあいは、
別れ話でもなく、浮気がバレたとかでもなかった。
何か金の取引みたいな、そんな話をしていた。
『佐野ってぇ、確か3組の日風桃子って奴の事
好きらしぃんだよねぇ』
『はぁ? まじで?
じゃ、日風って奴、傷ものにしてやってさ
佐野に写メったのばら撒かれたくなかったら金だせよ、て脅せばよくね?』
『それいい! 賛成~』……
そんな話が俺の耳にはいった。
俺は、何も考えず階段を駆けあがり、
上った所にいた、二人の男女のうち一人の男に殴りかかった。
『ふざけんじゃねぇ!!』
俺の、その一言はきっと、
廊下に響き渡るくらい大きな声だったと思う。
129: 名前:海☆08/18(水) 16:49:09
俺は殴った後、男の胸倉を掴み、床へ突き倒した。
最後に蹴りを一発いれて、
その後、女の方を髪をひっぱりながら、屋上に連れて行った。
『痛いっ痛いってば! 離してよ!』
屋上のドアをバンッと勢いよく開けて、
女を床へ突き飛ばした。
『……俺の女になにするっつった?』
『はっ……俺の女ぁ?
もしかして、3組の日風桃子と付き合ってるわけぇ?』
屋上のドアを蹴り飛ばした。
ガンと勢いのある音が学校に響いた。
『質問に答えろよっ!!!』
『怖ー…そんなに熱くなっても、無駄ぁ
日風桃子は、いじめられちゃう運命なのー』
この女は、どこと、つるんでるか分からないくらい、
沢山の暴行、レイプを繰り返す奴らと一緒にいる。
俺も一回やりあった。
あの人数を一人で、しめるなんて不可能に近かった。
でも、
それでも、俺は、桃を守りたかった。
130: 名前:海☆08/18(水) 16:57:11
『頼むから……あいつには、桃には、
手ぇださねーでくれよ……』
俺は、こんな女に深く頭を下げた。
俺はこんなことでしか、桃を守れない。
俺がもっと強い奴だったら、
佐野から桃を奪えたかもしれなかったのに。
どうして俺は弱い奴なんだろう。
どうして俺は……
桃を守れるだけの、力がないんだろう。
最終更新:2010年11月18日 05:30