131: 名前:海☆08/19(木) 09:12:32
女は、俺の肩に手を回してきた。
『コレしたら許したあげるから
ね……しよ?』
顔を近づけてくる。
汚い手を使ってでも、桃を守りたい。
ただ、それだけだったのに。
『しゃーねぇな』
そしてキスをおとす。
雨が屋上に降り注いだから、屋上をでようと思った。
そして……
『え……桃』
『バカ、最低』
起こってしまった。あの瞬間。
あんな傷ついた顔見たら、
修正しようも不可能だと思った。
桃の寂しさに付け込んで、悪いことしたと思った。
桃ごめん、上手に守ってやれなくて。
――――
132: 名前:海☆08/19(木) 09:40:11
【桃子、今日の夕飯何がいい?】
あたしの携帯が鳴った。お母さんからだ。
あたしは【オムライス】とうって携帯を閉じた。
『西希あんたが自分のこと、ひきずってるって
聞いたらしいんだよ。それで、この学校転入してきた時さ……』
あの人の話、覚えてるのは、ここまで。
あたしは頭が、いっぱいで、
それ以上、耳に入って来なかった。
あたしの中は、罪悪感で満ちていた。
あたしを、優太君を守ってくれたのに、
あたしは今まで、ずっと大地を憎み続けていたの?
最低なのは、あたしの方だった。
夜の公園になびく風。
セミは、もう鳴き終わる時期が近づく。
ミ―ン……
そうして、夏は終わった。
133: 名前:海☆08/19(木) 10:14:52
秋
季節は変わり、
山が、もみじ色に変えわる時期だった。
「あ、桃子! その花、佐野好きじゃなかったっけ?
いつも、学校の帰り道に買って帰ってたよね?」
藍が学校の帰り道、クレープを口に方張りながら言った。
藍が指をさしていたのは、小さな花屋さんにあった花。
「あ……ワスレナグサだよね?」
「え、そうなの?」
あたしは花が好き。
だから、365日すべての日の花言葉を知っている。
「ワスレナグサは……私を忘れないで、って意味だよ」
「そーなんだ、さすが桃先生!」
そう言い藍が、あたしを、からかってきた。
冗談とか言いながら、おもしろ楽しく帰った道。
それでも、あたしの頭は優太君で埋め尽くされて、
あたしの中は何も考えられずに、空っぽだった。
134: 名前:海☆08/19(木) 10:40:17
冬
季節は変わり、
街はクリスマスシーズンに変わっていた。
あたしは部屋でカレンダーをめくっていた。
「今日は、12月11日……
チューリップかぁ、花言葉は」
あたしは言葉を止めた。
花言葉は、あたしに合いすぎていて。
「花言葉は……正直、早く会いに来て」
12月26日
優太君との約束の日が近づく。
138: 名前:海☆08/20(金) 09:35:45
12月26日
そしてむかえた約束の日。
迎えに来るって言ってたけど、家にいていいのかな?
なんて考えながら部屋のイスで携帯の白クマを眺めていた。
「早く……会いたいです」
携帯をギュっと握りしめた。
トントン
あたしの部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「桃子、悪いんだけど……家の近くのお菓子屋さんあるでしょ?
そこで注文してあるケーキ取ってきてほしいんだけど
いいかしら?」
ドアの向こうからは、お母さんの声が聞こえた。
「ん? いいよ」
「そう? ありがとう」
お母さんが急いで階段を、駆け降りる音が聞こえた。
あたしはコートを、はおり家をでた。
139: 名前:海☆08/20(金) 09:42:58
――――
「ありがとうございましたー」
ケーキを持って、店をでた。
外は、しんしんと雪が降っていた。
街はイルミネーションで飾られていた。
きっと今日は、最高の誕生日だ。
140: 名前:海☆08/20(金) 18:50:01
カチャリ
玄関に雪がはいらないように、ゆっくり玄関のドアを開けた。
ふと下を見ると、玄関には知らない人の靴が一つあった。
リビングからは、お父さんではない男の人の声がした。
玄関とリビングを通じるドアの方へ行き、
ドアに手をかけようとした、その時。
「16歳の誕生日を迎えたら、桃に言うつもりだったの……」
お母さんが放った言葉に、あたしは手を止めた。
あたしの16歳の誕生日は、今日だ。
「本当は桃子はね、私の本当の子じゃないのよって」
いきなり、あたしの耳にはいりこんだ。
お母さんの涙のこもった声がした。
あたし? あたしが本当の子じゃないって?
知らなかった。
どうして今まで黙っていたの。
あたしは頭が何を考えてるのか分からなくなるくらい。
そのくらい混乱した。
141: 名前:海☆08/20(金) 19:11:47
あたしは、その場に持っていたケーキを落としてしまった。
物音がしたのに気づいて、リビングにいた人の視線が、あたしの方を向いた。
「桃子……? あなた、いつから」
「ご、ごめんなさいっごめんなさい……」
あたしは、そう言って家をでた。
幸せな誕生日になるはずだったのに。
久しぶりに家族皆が揃う、特別な日だったのに。
優太君に会える、大切な日だったのに。
あたしは何も見ないで、全力で走った。
受け入れられない現実から、逃げたくて。
家から出来るだけ、遠くの場所へ行きたくて。
142: 名前:海☆08/20(金) 19:18:48
――――プアアアア
あたしの身体が光に包まれた。
視界が急に眩しくなって、車のクラクションが周りに響き渡った。
プツ
そして、あたしの視界が真っ暗になった。
ここで、あたしの意識が途切れた。
最終更新:2010年11月18日 05:38