365日. 続き11

186: 名前:海☆09/03(金) 17:21:17





「桃子っ目も病気も治るんだな……!」




俺は桃子を嬉しさのあまり抱きしめた。

身体が勝手に動いたて言うのは、こういうことなんだろうか。





「さ、さ、さ、佐野君っ」



「桃子、良かったなっ」





桃子の反応も大地の反応も気にしてなんかいられなかった。

もう記憶が戻らなくても、ただ桃子が生きているだけで、それだけで もういい。

桃子、お前の幸せが俺の幸せだと思うから。





「おい……早く離れろよ」





俺に大地の低い声が飛んだ。

桃子には、もう大事な奴がいる そう分かっていた。

現実に一瞬で戻された瞬間だった。












187: 名前:海☆09/03(金) 17:50:32




俺は桃子の幸せを願いたいから、桃子を今、守るのは俺じゃないから。

そうやって何度も何度も自分に言い聞かせる。






「……桃子、もう俺お見舞い来れない」



「……佐野君? どうして、あたし治るんだよ」





俺は桃子から身体を離してから、片手で桃子を また引き寄せた。





「じゃーな」






そう桃子の耳元で呟き、病室をでた。

もう桃子には会いに来ないと、胸に誓った。

病室を出た後、桃子が俺の名前を呼んだのも もう聞こえない。










188: 名前:海☆09/03(金) 19:25:04




――


桃子と会わなくなってから、3週間が過ぎた。

4月5日




【一応伝えとく、今日桃の目の手術だから】





携帯を開くと、そんな文字があった 大地からのものだった。

俺は、のんびりテレビを見ていた。

パタンと携帯を閉じて、テレビの電源を切った。





「桃子……」





俺は、小さいお守りをギュッと握りしめた。









191: 名前:海☆09/05(日) 15:49:25




ピンポーン




ベットの上で、ずっと桃子の事を考えながら部屋の天井を見ていた。

そんな時に俺の家のインターホンが鳴った。

郵便か新聞配達のやつだろ、そう思いながら玄関にむかった。





「……はい」




ガチャリと玄関のドアを開けた。





「優太、久しぶり」





ドアの向こうにいた人物は、俺の目の前に存在するはずのない奴の姿。

もう声も名前も忘れかけていた。

もう会うことのないと思った奴の姿。






「どうして、お前がココにいるんだ」






俺は、きっとまだ気づいていなかった。

こいつとの出会いが、桃子を本当に失ってしまうことを。










192: 名前:海☆09/05(日) 17:14:39





俺は、そいつを懸命に睨んだ。

お願いだから、俺の過去をえぐり返そうとしないでくれ。






「中学の時から、ずっとココに住んでるんだねっ」



「何しに来たんだ」






茶髪で、ふんわりした巻き髪 中学の時は全然印象が違う。

喋り方も、笑い方も、声も。






「元カノだからって、そんな言い方酷くなーい?」






津崎梨華

俺が中学時代、付き合った女。









195: 名前:海☆09/06(月) 16:15:38



「元カノとか関係ねぇし」




俺はハアと大きくため息をついて、あきれたように眉間にシワを寄せて下を向いた。
「帰れ」そう言いたいのに、言う気にもなれない。


俺は家のドアを閉めようとした。
すると、何かの大きな力がドアを思い切り引き戻した。




「行かないで、話を聞いて」




梨華の小さな手が、ドアを閉めようとしたのを塞いでいた。
俺を真っ直ぐ見つめる梨華の目は昔と変わらないものだった。
俺は、とりあえず話だけは聞いてやろうと俺はドアから少し力を抜いた。




「……何だよ」



「単刀直入に言うよ?」




何か嫌な予感が俺をよぎった。俺は小さく頷いき、梨華の方に目を送った。
すると梨華は、小さく深呼吸してから口を開いた。





「……優太、あたしとやり直そうよ」





梨華の、そんな一言が沈黙を装った。
俺は何回か梨華の言った言葉を頭の中で繰り返した。

今、こいつは何て言った?









196: 名前:海☆09/06(月) 16:57:19



「……は? お前何言ってんの」




ドッキリ企画なら他にあたってくれ、と言うのが俺の心境だった。
梨華はさっきまで真っ直ぐ俺を見ていた目が、いきなり潤んでおどおどし始めた。
嘘か真かなんて、もう見当もつかない。





「振られてからも、ずっと優太が好きだった」



「嘘言ってんじゃねぇよ、俺とは遊びだったんだろ?」





梨華は俺の金目当てで俺に近づいた、そんなの告白された時から知っていた。
また金目当てだろう、と今うすうす思っていた。





「付き合ったのも全部、金目当てだろ?」



「さ、最初はそうだった……もう許してもらえないと思うけど……」





梨華はあげていた顔を下に下げてグスグスと泣き始めた。
嘘泣きか本気で泣いてんのかは分からないが。
俺が梨華の対応に困っていると、梨華が、そのうち口を開いた。





「優太……好きだよ……?」





頬をピンク色に染めて涙をこらえた目が俺に向けられた。
さすがに、この顔には俺も不覚にもドキっとしてしまった。

俺は梨華から目を逸らした。





「日風桃子を忘れたいんでしょ?」





そして、梨華から意外な言葉が飛んだ。








197: 名前:海☆09/06(月) 17:13:28




「何で、それを知って……」




そう言いかけた時、梨華が俺に抱きついた。
振り払おうとしようと思ったが、梨華の身体が小刻みに震えてるのに気がついた。





「優太……優太っ……」





梨華の手に力がはいって俺の服を思い切り握った。
俺は戸惑いを隠せるはずもなかった。
俺は桃子を忘れたいんだ、もう桃子をあきらめる。





「梨華……」





俺は梨華の小さな肩を力強く抱きしめた。
もう振りかえらないと決めた、前に進むと誓った。
これからは桃子じゃなくて、今俺の目の前にいる女の子を守ろうと誓った。





「梨華……俺が、お前を守るよ」





桃子、お別れだ。







203: 名前:ちう☆09/07(火) 21:11:07



――日風桃子



あれ以来、佐野君は本当に病院に来なくなった。
何だか病室の空気が寂しい。





「桃! 目の手術、成功おめでとう!」





大地の声が病室に響き、ふわんと花のいい香りがした。そう、あたしの目の手術は無事成功した。
だけど、あたしは目の回りの包帯をまだ怖くて外していない。手術が終わって、もう一週間も経つのに。





「桃……包帯外さないの?」



「ん、何かまだ怖いというか……」





あたしはヘラっと笑った。今までなかった世界が急に見えるなんて想像もつかない。
かすかに覚えてる学校の校舎。でも、それも幻想にすぎないのかもしれないし。
色々考えると、やっぱり怖いという感情が生まれる。





「俺が外したげる」





そんな大地の声があたしの耳元で聞こえて、あたしの頭に手が回り込んだのに気づいた。
心では抵抗しようと思っているのに、体が全く抵抗をしめさない。
あたしは、そのままゆっくりと大地によって包帯を外し始めた。





「包帯外したら、一番最初にちゃんと俺の顔見ろよな」



「も……分かってる」





あたしの目を覆っていた包帯が取れた。
何だか少し、くすぐったい感覚があった。あたしは、まだ目を閉じたまま黙り込んでいた。





「……目、開けろよ桃」



「あ、開けるよ 開ける……」





一生懸命、目を開けようとするが、あたしの体はあまりにも正直で目が開けられなかった。
そんな事を3分くらい続けていると、大地が あたしの身体を引き寄せた。





「怖くないから、俺がいるから」





そうやって、大地はあたしの背中をポンポンと優しく叩いた。
そんな感覚に安心感を覚え、次第に怖いという感情は消えていた。


そして、あたしは目を開けた。







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最終更新:2010年11月18日 05:58
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