204: 名前:ちう☆09/07(火) 21:31:42
見えた世界は思ってたより小さかった。
あたしを抱きしめる大きな身体、あたしを包みこんできてくれた人。
あなたは一体、今どんな顔をしているの
「大地君、顔を見せて?」
大地君は、あたしからゆっくり身体を離した。そして、あたしの顔を覗き込んだ。
「大地君なの?」
「あぁ……そうだよ」
目の前にいる男の子は、顔が整っている綺麗な顔立ちをした人だった。
茶髪の髪はサラサラで、まるで王子様のような人だった。
「桃は、やっぱり目も鼻も全部見えてた方が 可愛いよ!」
「やっ恥ずかしいから」
あたしと大地君は顔を見合って笑った。
あたしは、この人と一生寄り添って生きていくんだな、そう思うと病気なんて簡単に治る気がした。
佐野君が気になって仕方がない日が多かったけど、もういいや、もう会えないなら忘れてしまおう。
佐野君、さようなら。
207: 名前: ちう ☆09/08(水) 23:33:47
――佐野優太
「ね~、優太キスしてよ……」
「だーめ」
俺は自分の家のソファーで梨華と一緒にいた。
梨華に何度キスを迫られたか数えきれないくらい迫られた。
俺は携帯を、ずっと いじっていた。
「何かさー……優太、最近携帯見てばっか」
「そう? んなことねーけど」
桃子の携帯のアドレスを消そうか迷っていた。
俺はずっと携帯の画面を眺めながら、口を尖がらせていた。
それを、つまらなく思ったのか梨華が俺の携帯を俺から取った。
「これ……日風桃子の? 何で消してくれないの?」
「別に……今消すとこだった」
俺は梨華から携帯を奪い返そうとすると
梨華は反抗し俺の携帯を返してくれなかった。
「これ……消していいよね?」
梨華が「削除していいですか」の文字の「YES」を押そうとした時
俺の体は自然に動いて梨華を突き飛ばして携帯を奪い取っていた。
自分でも驚きの行動をした俺は、どう梨華に言葉を向けて言いか分からなかった。
「……わり、今日は もう帰ってくんね」
俺は梨華が何も言わず部屋を出て行く時の涙を見逃さなかった。
俺は梨華を守ると決めたのに、どうしても自分がコントロールできない。
誰か俺を止めてくれ。
208: 名前: ちう ☆09/09(木) 18:38:48
――
俺は梨華と中々上手くいかないまま一週間が経とうとしていた。
桃子の手術は上手くいったんだろうか、そんなこと考えながら俺は朝食のパンを口に頬張っていた。
すると俺の携帯が鳴った。
携帯には「新着メールは一件」そう書かれていた。
携帯を開き画面を見た、梨華からのものだった。
【今、家行っていい?】
可愛い絵文字が沢山並べられた短い内容のものだった。
俺は「うん」と素早く打って送信したら、すぐ携帯を閉じた。
梨華には悪いが、俺は……
ピンポーン
色々考えているうちに家のインターホンが響いた。
梨華は予想以上に来るのが早かった。
「はい」
俺はドアを開けて梨華を部屋に入れた。
梨華は、俺の家に来るたび顔が泣きそうだった。
そんな顔を見るのが最近辛くてしょうがなくなっていた。
「優太、日風桃子のこと忘れられないんでしょ?」
「はあ? 何言ってんだよ、んなことねーし」
俺は目を細めて笑った。
梨華の顔が、あまり見えないように。
きっと梨華も、うすうす気づいてんのかな。
俺がまだ桃子が大好きだってこと
209: 名前: ちう ☆09/09(木) 18:55:03
「あ……ごめん、何かそうかなぁて思っただけ!」
梨華は俺から目を思い切り逸らした。
こんな時、何て言えばいいのか 鈍感な俺には一生分かりそうにはなかった。
「あたしが好きなら、キスしてよ」
「や、キスは ちょっと……」
そう途中まで言いかけた時、梨華の顔は だんだん暗くなっていくのが分かった。
もう、この関係も最後にしよう そう思いながらも俺は
「キス……しよか」
俺は梨華にキスを落とす。
この関係が、このまま続いても俺は絶対桃子を忘れられないし梨華を愛せないと思う。
なのに、離れられない。
「優太、無理してくれて ありがとね」
そう言って梨華は今までよりも、一番悲しげに笑った。
もう隠せないか、俺は梨華に合わせて口元を少し上げて笑った。
210: 名前: ちう ☆09/09(木) 19:39:46
ピロリン
そんな時、俺の携帯が鳴った。俺は身を乗り出して携帯を見た。
だって、この着信音は……
その懐かしい着信音の主は、一度だって忘れたことなんてない。
俺は目を丸くして、何度も目をこすって携帯を見た。
間違いじゃないよな、そう思いながらも誰から来たのかも何度も見かえした。
「……行ってきたら?」
梨華が俺の様子を見て言った。
この時、梨華の顔は下を向いて全く見えなかった。
「さんきゅ、」
俺は梨華を優しく抱きしめて家を出た。
家を出た後、梨華の嗚咽が聞こえた。
梨華の優しさに付け込んで悪かった、帰ってきたら ちゃんと梨華に伝えよう。
行ってくるよ。
【会いに来て、】
日風桃子より。
211: 名前: ちう ☆09/09(木) 20:42:44
――日風桃子
パタンと携帯を閉じた。
あたしが事故に合うまで使っていた携帯を、お母さんから受け取った。
可愛いとは言い切れない白クマのストラップを、あたしは眺めていた。
【じゃ、また学校で】
【彼カノなれて、まじで嬉しい】
あたしの受信ボックスには沢山の佐野君からのメ-ルがあった。
知らなかったことが一つの携帯から沢山の事が分かった。
このクマは佐野君が、あたしにくれたもので
佐野君は、あたしの彼氏で あたしは ずっと佐野君が好きだったんだ。
中学校の時の写真から高校の時の写真まで、沢山の佐野君の写真。
送信ボックスには、佐野君に充てて沢山の「会いたい」の文字。
「佐野、優太君……」
これは最初で最後だよ、佐野君。
【会いに来て】――
212: 名前: ちう ☆09/09(木) 21:10:50
――
カチカチカチ……
病室にある時計が病室に鳴り響く。
メ-ルを佐野君に送信してから、もう何時間が経つだろう。
また「会いたい」の文字は返されてしまうの?
記憶が戻らない、あたしだけど佐野君が気になって しょうがないよ。
その時、病室のドアが ゆっくり開いた。
「あ、佐野く……」
「佐野?」
ドアを開けて病室に入ろうとしたのは、大地君だった。
あたしは、はっと口を抑えた。
大地君は手に持っていた花束を握り締めて、暗い顔になった。
「佐野じゃねぇ……俺と、あいつを一緒にすんな」
「ご、ごめんなさい……」
大地君は、いつもの優しい顔が嘘みたいに見たことない怖い顔で あたしを見た。
あたしは怖くて硬直してしまった。
「その携帯、見たのか?」
「……み、た」
ビクビクしながら、あたしは答えた。
すると大地君は、あたしが そう答えた瞬間手に持っていた花束を下に投げつけた。
213: 名前: ちう ☆09/09(木) 21:22:08
「お前は俺のものだよな? そうだよな? なあっ!」
あたしは、大地君にベットの上に突き飛ばされていた。
手首を掴まれて身動きが出来ない。
あんなに大好きだと思ってた彼が、こんなにも怖くて冷たい。
「大地君っ……お願い離して……!」
「俺のものって言うまで離さない」
大地君は、あたしに無理やりキスをしようとする。
あたしは首を振って精一杯振り払った。
涙が頬を伝う、痛い、もう優しい彼はいない。
もう、あの頃には戻れない。
「ごめっ……でも、あたしは大地君のものじゃない……」
あたしは、声が震えて涙は止めようと思う程止まらなかった。
大地君が、どんな顔をして あたしを見ているのか。
あたしは大地君から顔を背けて顔が見えなかった。
215: 名前: ちう ☆09/10(金) 21:00:51
外では救急車のサイレンの音が聞こえた。
あたしは大地君に押し倒されたまま、数分の時間が過ぎた。
病室の外の廊下で看護師さん達の話声が聞こえた。
「今、運ばれてきた男の子意識不明だって 大丈夫かな」
「その子携帯握ったまま離さないみたいよー」
今の救急車に乗ってきた人の話だった。
あたしは泣きじゃくったまま聞こえる声を聞いていた。
「その携帯の画面がさ、
女の子から【会いに来て】て来てるメ-ルだったんだよね
彼女と会う予定だったんじゃない?」
会いに来て
聞いたことのある、その文字は あたしの頭を何度もよぎった。
まさかとは思った。別に、彼が事故にあったなんて思ったわけじゃなかった。
なのに、あたしの身体は勝手に動いていた。
「どこに行く気だよ……俺から離れんな」
「離して! お願い大地君!」
どうかお願いだから、あたしと あの人をこれ以上引き離そうとしないでください。
最終更新:2010年11月18日 16:46