銀田一 雪さんとシェンフォニー様と後、なんかの話

1: 名前:サスライ☆04/21(火) 23:12:13
 えーと、本日はこのグダグダなタイトルをご覧に頂いた勇気に誠に感謝いたします。

 あぁ、申し遅れましたが私、銀田一 雪(ギンダイチ ユキ)と申しまして、この館「辰凪館」で唯一のメイドであり、メイド長を勝手にさせて頂いている者です。
 取り敢えずペコリ。お辞儀をさせて頂き…

 グシャ★

 ってギャアアア!!デコをタンスの角にモロぶつけたー!痛すぎる、メッサメッサに大出血、そして痛えよぉーー!!
 ひぃ、ひぃ、バンソコバンソコ…

 えっと、すみません。少々取り乱してしまいました。昔から注意力が無い方で、その、アハハ…。

 さて、この物語は私と、この館の主であるシェンフォニーと、その他アクの濃い人達が織り成す、笑いあり、涙ありの…

 ん、シェンフォニー様、何をそんなに急いでいるのですか?トイレは逆方向ですよ?

「あ、雪、ちょっとその鳥捕まえて!俺の腕時計、丸のみしやがった!」

 え、チョ、言うの遅…
 ギャー!デコにクチバシからダイブは止めてー!さっきの怪我がー!!

 † † †

 えっと、その、
 泣いてイイですか?


2: 名前:サスライ☆04/22(水) 18:14:44
 第一話

 スラリと伸びた腕に足。だから長身、しかし無駄な脂肪は見当たら無い。美青年の教科書がそこで紅茶をすすっていた。
 垂れ目がちの鋭くない眼は左手に置かれた本を眺め、ティーカップを持つ右手を落ち着いて動かす。

「ハァ…」

 遠くでそれを見ていた私は溜め息一つ。原因は彼、シェンフォニー様、つまり私の主の顔にあった。

 いや、別に彼は不細工な顔と言う訳では無い。
 接近出来ない程に鼻が長過ぎる訳でも無いし、睫毛が1メートルを超すほど長い訳でも無い。

 寧ろスマートなのだが…

「ハァ…シェンフォニー様。紅茶をお持ちしましたよ」
「お、 悪いねぇ。しかし溜め息なんてどうしたの、何か企んでいる?」
「溜め息を吐いて企んでいる人が真っ先に浮かぶ貴方こそ何か企んでません!?」

 私が予想だにしない事を言う彼は、まるで私が予想だにしない企みを考えていそうです。

 † † †

 まぁ。こんな風に一話をパート毎に区切る形式になると思います、
 意見があれば有り難いです。

 と、台本に…って落書き?あ、消しゴムで消して落書きで書かれてた所が見えて…えーと、「台詞;シェンフォニー」?
 シェンフォニー様!ここ、あんたのセリフだったんすかぁーー!
「あ、 やっと気付いたの?」


3: 名前:サスライ☆04/23(木) 22:42:05
「と、朝から溜め息と企みの話題ばっかじゃ気が滅入るね。
おはよう、雪」

 シェンフォニー様は特に悪びれた様子も無く本から眼を離して普通の挨拶をした。
 眼が笑っている事から先程のは故意であったと思われる。
 コイツ、狙ってやがった!

 シェンフォニー様の陽光のような、もっと欲しいのに掴めない顔を見て先程の想いをぶちまけてみる。

「シェンフォニー様、髭を剃って下さい」
「雪の発言にはたまに度肝を抜かれる。
 まさか挨拶して髭剃りを要求されるとは」

 あのシェンフォニー様が目を丸くして片眉を上げて、紅茶をすすっていた。
 まだ予測の範囲内と言ったところだろう。
 しかし成る程。確かに「おはよう」に「髭を剃れ」と返すのもどうかと思う。なら、挨拶に繋げた方が良かったかも知れない。

「…ん、黙ってどうしたの?」
「いや、考え事を少々」
「ふ~ん、どんな?」
「おはようございます髭を剃れ」

 私に見えたのは彼の口から吹き出された紅茶。赤葉の多い紅茶のせいか吐血にも見える。

「うん。それはそれでシュールな発言だな」

 口の周りに紅茶を貼り付けて言い残す。


4: 名前:サスライ☆04/24(金) 16:38:06
 シェンフォニー様は無精髭だ。
 決して関羽雲長(三国志)の様にグランドロングと言う訳では無い。

 しかしそのせいで彼は老けて見えるし、だらしなく見える。実年齢より6歳は老けて見える。

 私の主としては、いえ、「ご主人様」としてはもっと恥ずかしくない人であってほしい訳だ。

「…と、言う訳で剃りやがれ!この半ニート!!」
「落ち着けって、口が悪くなってるぞ~」
「アンタがチンコクサイ真似ばっかしょるからアタイがこんなクラウをすんだっぺ!」
「マ ジで落ち着け、お国言葉が出てるぞ」

 シェンフォニー様は本でペシリと脳天を叩く。私はそれで冷静になった。
 しまった。流れに身を預けすぎた結果、己の世界を総ての常識と捕らえてしまっていた!

 しかし、これだけ言えば彼も髭を剃ってくれるはず。その念が通じたのか髭に手を当てる。

「しかし髭か~、確かにだらしないかもな~」
「じゃあ剃ってくれるのですね!?」

 私はエプロンから取り出した髭剃りセットを構えた。

「だが断る!」

 そして反論でずっこけた。あ、やべ、パンツ見えるかも…



7: 名前:サスライ☆04/25(土) 08:31:40
 時刻は午前8時。場所は辰凪館(タツナギカン)2階展望台。
 此処にメイドと主の意地とプライドを懸けた闘いの火蓋が切って落とされようとしていた!(BGM;【なんかデン、デン、デデン!ってイントロのヤツ】)

「何 でそこで断っちゃうんですか!此処は剃るでしょ、空気的に!」
「確かに空気的には剃るべきだった、しかし!その程度では揺るがん、
 何故ならそれが俺の男のプライドだからさ!」
「んなプライド丸めて燃えないゴミにでも捨てちまえ、バカヤロー!」

 現在、私とシェンフォニー様は牽制し合い、お互いの間合いを確認している。口調から戦いの規模を予測するのだ。

『只の口喧嘩をそんな偉そうに言ってもなぁ~』

 しかし高が口喧嘩、然れど口喧嘩。
 これを制した方が先手を…っておい!何、心の声に割り込んでんですか、シェンフォニー様!

『だって雪ばっかズルいんだも~ん』

「常識を守れー!周りの痛い目が気にならないんですか!」
「ふぅ、 いいか雪…。
男ってのは皆、常識に流されない力を持ってるもんなんだぜ」
「なんか良い言葉で誤魔化さんで下さい!」

 あれ、もしかして私、何だかんだでペース握られてる?


8: 名前:サスライ☆04/26(日) 09:49:29
「一人の女が居た!その女、剃刀を片手に髭を剃れと脅迫しては追い掛けて来る…。
これぞ都市伝説;髭剃り女!!」
「って何、勝手に人を都市伝説にしてんスか!」

 現在、私とシェンフォニー様は目下追いかけっこ中だ。こうなれば強制的に髭を剃るしか無い!
 そう考え、館内で髭剃りデスマッチ鬼ごっこが勃発したのであった。

「フ フフ…もう逃げられませんよ~」

 彼を図書室の角まで追い詰めた。効果音をつけるなら、「ジリ、ジリ…」と足音を立てて近づく。

「未 熟未熟未熟千万!だからお前はアホなのだ!!」
「なん…だと…」

 彼が本を一冊引っ張れば何やらカチリと機械的な音がして本棚が回転した。

「こんな事もあろうかと隠し扉を見つけておいたのさ!」

 実はこの館、建てたのはシェンフォニー様では無い。元々あった古ぼけた館を改修工事した物だ。だから知らない機能があったりする。落とし穴とか…

 まぁ、そんな事は良いとして彼の後を追う。
 てか、「こんな事もあろうかと」って、髭はツッコミ待ちだったんかい!!


9: 名前:サスライ☆04/26(日) 12:27:01
 石を積み上げて作った壁。埋め込まれたランプによる光。

 私は地下室に居た。外にそのまま逃げるという手もあるだろう。
 しかし、シェンフォニー様の事だ。絶対面白さ優先で何処かに隠れている!

 本棚しかり、彼は追い詰められるフリをしながら逆転への方程式を論理的に組み立てている。
 そして逆転した所を楽しむのだ。

 だから本棚の隠し扉は使わない。絶対罠が仕掛けられている!
 多分足元にバナナの皮があって、ちょうど倒れた先の顔の辺りに使い古しの雑巾があるとかそんなトラップだ。

 そんなシェンフォニー様が逃げ込むと予想するのは普段使わない部分、【地下室】。別名【井時(イドキ)室】。

 此処には館に私達が住む前から無断で住んでいる住人が居る。外に出る事は滅多に無い。

 それが彼女、井時 晶(イドキ アキラ)である。
 広い部屋の隅で只でさえ小さな身体を丸めて何やら難しい本を読んでいる。背中までの銀髪を後ろで長い三つ編みにしてサイコロの形の髪止めで止めていた。

 さて、聞き込みといこう、腕が鳴るぜ!
 彼女は本から視線を私にずらす。眼が合う。くっそぅ綺麗な顔してんな、お持ち帰りすんぞコノヤロー!


10: 名前:サスライ☆04/26(日) 12:57:07
 時刻は少し遡る。雪が訪れる前、地下室にて。

「や あ、晶ちゃん」
「……やぁ」

 隠し扉で調達したのか手提げ袋を持ったシェンフォニーはしゃがみ、笑顔で右手をひょいと挙げて挨拶。井時もそれに習い右手を挙げる。

「……で、今日はどうしたの?」
「いやね、ちょっと雪に剃刀片手に追いかけられちゃってさ。テヘ☆」

 単品だと爆弾発言を投下した後に、彼は首を傾げてウィンクして舌を出した。

「そぅ。てゆーかキモいよ、老け顔」
「まあまあ、ちょっとした茶目っ気じゃん。あ、そうそうコレを渡しに来たんだ」

 表情を戻して井時に何かを渡した。それは、一つのザ・焼きそばパンであった。

「ふぅん…。ボクを買収か。
 君の居場所を聞かれたら『居ない』って言えば良いの?」
「いや、言っても良いぞ」
「…?言ったら買収の意味が無いじゃん、返さないけど」

 彼女はブカブカの服のポケットに焼きそばパンを突っ込んだ。悪びれる事も無く。

「おいおい、返さないのかよ。まあいい。
 部屋に罠を仕掛ける、罠があることを黙っていて欲しい!」
「…ふぅん。因みにどんな罠?」
「近寄ると上からパイ投げのパイが!」
「…ふ~ん」

 井時は手提げ袋を見ていた。それは丸々と太っている。


11: 名前:サスライ☆04/26(日) 22:01:28
 私は晶ちゃんと向かい合っていた。しかし彼女は無表情で、なんと言うか…怖い。

「じ~…」

 そう思っていると彼女は声に出してこちらを見てくる。あ、これはこれで可愛いかも。

「… ヨダレ、出てるよ」
「ハッ!これはウッカリ。
 ところでシェンフォニー様の居場所とか知らない?」
「……褒めても、情報は出さない。ボクは口が固いんだ」

 ここまでは想定の範囲内。そこで私はエプロンから厨房から持ってきたアレを取り出す。
 ザ・コロッケパンである!

「晶ちゃん、本当に知らないの?」
「奥行って右にある広間に隠れているよ」

 あっさりと口を割る。コロッケパン美味しいもんね。

 と、そこで晶ちゃんの服から焼きそばパンがチラリと顔を見せる。
 恐らくこれ以上の情報は更に何か与えなければいけない。

 …と言うこともあろうかと
 秘密兵器、ザ・メロンパンがエプロンより出撃する。

「ね え、他には何か情報ある?」
「うん、罠を準備する為の手提げ袋を持っていてね、罠の内容としては…」

 メロンパン、美味しいもんね…。


12: 名前:サスライ☆04/26(日) 22:18:29
 我輩はシェンフォニーである。名は未だ無い。
 なんちゃってな♪

 俺は今広間に隠れている。隠れる、と、言ってもソファーで堂々とくつろいで焼きそばパン同様、厨房から拝借したジャムパンをかじってるんだけどな。

 この部屋には罠がある。手提げ袋に入れていた【大量のバナナの皮】による罠が。

 雪は今頃は晶ちゃんにクリームパンでも渡して罠の存在でも知っている頃だろう…。

 上からパイが落ちてくると言う、【嘘の罠】の情報を!

 上から落ちてくるのだから当然上を注意せずには、いられない。そこで足元にはバナナの皮、しかもこの時の為に床の色に塗装済み!
 え?下らないだと!?だからこそ良いんじゃないか。雪のあの、少し涙目の悔しがる顔が可愛いくてなぁ…。

 と、言う訳でバナナの皮の先には使い古し雑巾も準備完了。これが調度雪の顔の位置に来る訳だ。

 さあ、やる事はやった。
 何時でもかかってこい!あ、ジャムパン美味え。


13: 名前:サスライ☆04/28(火) 21:48:46
 私は赤錆のついた鉄の扉を開けた。ギィとホラーな音がする。
 正面奥にテレビでもあれば怖そうだ。中から髪の長い女の人とかド畜生の吸血鬼とか出てきそうで。

 しかし正面には予想通り、ある意味期待外れソファー。そこに座るは無駄にラスボスの風格を漂わせる我が主。

「フッフッフ…よく来たな人間よ」

 古いヤスリの様にギザギザと滑りの悪い声を上げている。

「いや、あんたも人間だから。つーか体調悪いんですか?なんか滑舌悪いですよ?」
「う む。さっき食べてたジャムパンが腐っていてな…」
「何故にジャムパン!?」
「カリスマはソファーに座ってワインを飲むという方程式が…」
「だ から何故にジャムパン!?」
「ワインないから赤ワインの代わりにジャムパンをだな」
「…もう、良いですよ」

 顔色の悪いシェンフォニー様はそれでも格好つけてソファーに座って足を組んでいた。男の意地と言うやつだろうか。

「とにかく行きますよ、馬鹿主!」
「人間の力、見せてみろ!ワレの力を…ウッ!」

 腹を押さえる。あーあ、腹壊している状態で大声出すから。


14: 名前:サスライ☆04/29(水) 07:10:01
 駆け引きと言う名の勝負は一瞬で決着した。
 勝負とは長い年月の積み重ねのぶつかり合いで、片方がそれを失うのは一瞬なのだ。よく分かんないけど。

「な、何ぃ!何故だ、何故このシェンフォニーが人間ごときにいぃぃ!!」
「捕まったのは腹を壊してロクに動けなかったからです。そしてもぅ小芝居はいいですよ」
「あ、そう?で、どーしてばれちゃったかなぁ」

 私が手をパンパンと叩くとそこには何食わぬ顔のシェンフォニー様が居た。やっぱり芝居かよ。冷静なヤツめ。
 いや、もしかすると表情の通り彼にとってこれも何時も通りの認識なのかも知れない。

「トラップがバナナの皮と解ったのは晶ちゃんです」
「へぇ。 なんでバレちゃ…ああ、解った。【臭い】か」
「そうです。長い間地下室に生息している晶ちゃんは視角以外の機能が発達してます。パイでは無いと気づいていたのです。
 私はそれをメロンパンで聞き出しました」

 部屋に入った私はバナナの皮を跳び跳ねてシェンフォニー様の目の前に着地。ボディーブローを一発浴びせて制圧したのであった。

 死にたくなる様な青空を見る様に、遠くを見る眼で彼は唇の隙間から声を吹き出す。

「メロンパン、美味しいもんね…」


15: 名前:サスライ☆04/29(水) 13:24:49
 渡しに後ろから首を腕に挟まれている事でシェンフォニー様に余裕は無くなっていた。

 しかし、焦りも見当たら無かった。彼は深く笑う。勝者のごとく。

「フッフッフ…」
「何が可笑しいのですか?」
「未だにコレが終わりだと感じている君が滑稽なのだよ」

 うわぁ…。何、何なのその安い上から目線。

「確 かに俺は今こうして髭を剃られようとしている。
 しかし!コレを剃っても第二第三の無精髭が表れる事を忘れるな!」

 えっと、はい。まぁ、髭ですしね。

「メビウスの輪よろしく何処までも終わらぬ不毛な戦いを、これを剃る事で未だ続ける気かぁ!!」

 威厳タップリと、言い逃れをしようと頑張る彼。確かについ、威圧で押し出されそうだが。

「取り敢えず剃りますよ?剃ってから考えときます」
「グアアアア!!!」

 こうして、髭剃り戦争は幕を閉じた。だが、忘れてはいけない。
 今回一番得したのは晶ちゃんと言うことを…。

 † † †

 次の日。

「シェンフォニー様、紅茶をお持ち…」
「ん、どうした。口と目を物理的に大きく開けて」

 私は彼の顔を物凄い勢いとスピードで指差す。

「なんで、一日で無精髭生えてんスカー!」

 そこには昨日剃った筈の無精髭。彼は得意気に笑う。

「言ったろぅ?男には常識に流されない力があるんだぜ!」

「オマエ、それでも人間かぁー!!」

 顔を真っ赤に熱くして、私は今日も両手で頭を押さえるのだった。

  † † †
 第一話;完


16: 名前:サスライ☆04/30(木) 22:48:26
 番外編

「…と、言う訳で番外編だな」

 何が「と、言う訳で」なんですか、シェンフォニー様!まだ一話が終わったばかりですよ!

「まぁ、いいじゃん。俺の髭に免じてさ♪」

 何が髭に免じてですか!?まぁ、突っ込んだらキリがありません…。取り敢えず、宣伝いきますよ。

 ある日突然PCがドSっ子の男の子に!持ち主とPCの繰り広げる愉快でダークな物語、「私のPCは男の子でした」!

「何で突然他の小説の宣伝をしてるんだ?
 それに面白さが伝わって無いぞ?著者のあやのsも嘆いておられる」

 マトモに辛口トークせんで下さい!作者が宣伝をやりたいって言い出したんですから!

「いや、作者が訳わからないのは何時も通りだが、それにしてもあの必死な顔が、ヤバイな♪」

 五月蝿ーい!私だって突然話振られて頑張ったんですよ!
 しかもこの後、あやのsの企画をパクって絵まで晒すんだから露出プレイもイイトコです!

「あ、 だから俺の手元にこんな写真が在る訳だ」

 そ、それは!!

「ハッハッハ。知ってたよ、たまに雪が鏡の前で『キャハ ☆』とか言ってポーズつけるの。
 疲れてるぅ~☆」

 アンタのせいだーー!!

「あやのs。本日は誠に有り難うございました♪お目汚しに雪の恥態でもどうぞ」


19: 名前:サスライ☆05/01(金) 22:25:06
第二話

 俺はシェンフォニー。人呼んで【紅い虚】!
 異名の由来は何時も紅茶ばっか飲んでるからだとか、実は記憶喪失な裏設定だとか様々な逸話があるナイスガイさ☆

「シェンフォニー様ー、何にやけてるんですか。キモいですよ」

 おっと雪が来たか。さて、どんな風にからかうか…あ、挨拶がまだだったか。

「メ ソ…
あ、いや、おはよう。雪」
「ハイ。おはよう御座いますシェンフォニー様、で、メソって何ですか」
「……」

 俺はクールな目付きで雪を射抜く。あくまでもイメージだが。
 つまり、冷たい目付きで目を合わせて口を閉じるのだ。

「な、何で黙ってるんですかー!」

 これだから、コイツをからかうのは止められないわー♪過剰表現な反応が可愛すぎる。

「何なんですかー!思い当たる事有り過ぎて怖いんですけどー!?」

 ちょっと、過剰表現過ぎるかな…おぃおぃ、肩を掴んでブンブン揺らしすぎだって。脳震盪(ノウシントウ)モノだって。

「フッフッフ…実は、何にも無い!」
「はあ、さぃですか」

 雪は肩をヘニャリと落として、下を向いた。
 と、この様に俺の朝は雪をからかう事から始まるのである。


20: 名前:サスライ☆05/02(土) 17:28:45
 紅茶を飲み、優雅な一時を展望台で送る。ふと、上を見たら鳥が居た。糞が紅茶に落ちてきたら撃ち落とすか。ゴム鉄砲で。

 俺の視線に気付いたのか鳥は此方に向かってきた。とっさに、卓上に置いてある腕時計をポケットに入れる。何故ならこの小説のオープニングを参照の通り一回腕時計を呑み込まれているからだ。

 鳥は白く、カラスや鷹の様に凶暴そうな顔付きをしている。それが、

 グシャ

 テーブルに墜落した。

 よく見れば羽が丸く、赤く染まっている。ああ、撃たれてたのか。

 どうしようかな、狼狽える(ウロタエル)のは良くないな。

 とは言えドライ過ぎるのも良くない。が、今、俺の行動に命が懸かっている。医者はドライな現実主義が向いているらしい。

 と、言う訳でドライに行動した後に慌ててみよう。

「雪、緊急事態だ。取り敢えずエタノールとガーゼと包帯と割りばし持ってこい。理由は後で話す!」
「… え、ハ、ハイ!」

 遠くにも聞こえる様にオヤブンヴォイスで遠くに呼び掛け、お陰で治療具は直ぐに来た。

 † †  †

 よし、接ぎ木をして、応急措置完了っと。さて、驚くか。

「どっひゃああああ!!!」
「え?え!?え、え、えええええー!?」

 驚いている俺を見て雪の方が驚いている事に敗北感を感じる。


21: 名前:サスライ☆05/03(日) 12:06:22
「しかし、一体だれがやったんだか…物騒だねぇ」
「シェンフォニー様が間違って撃ち落としたんじゃ無いですか?」
「む。失敬な!俺じゃない、まだやってない!ゴム鉄砲で」
「予定はあったんですね!?」

 私がシェンフォニー様に普通は有り得ないが彼ならやりかねない事を聞いてみると未遂らしい。
 て、いうかゴム鉄砲で鳥を打ち落とすってどんだけだよ!

「で、どう為さるので。やっぱり犯人探しですか?」
「いや、やらない」

 おや、意外に普通の考え。何時もなら「この天才的頭脳で~」とか言って探偵ゴッコでもやると思ったのに。

「俺の天才的頭脳は雪への犯行へ使われる!」
「わー、わー
それ一歩間違えりゃ犯罪発言ですからー!」

 前言撤回!コイツ、私の予想を上回る馬鹿だ。そのくせ今、私が勢いで振り降ろしたフライパンを真剣白刃取りでキャッチする位に、無駄に、スペックが高い!

「さて、怪我が治るまで休めとく…おや、雪」
「にゃんでしょ…」
「これ、フライパンじゃなくてフランスパンだぞ。喰っちゃえ♪」

 あ、間違えた。こうして私のオヤツはシェンフォニー様の腹に消えるのでしたとさ。ガックリ。


22: 名前:サスライ☆05/03(日) 13:29:18
「先ずは名前を付ける事から始めよう、イェーイ」
「名前は分かりますが何ですか?『イェーイ』って」
「業務的会話じゃノリがイマイチだからな。俺式にアレンジだ」

 鳥を天に掲げ、クルクルと回り「イェー!イェー!」と叫ぶシェンフォニー様がソコに居た。
 私は「さいですか…」と、肩を落とす。ああ、ウゼエ。

「名 前は『ユッキー』なんてどうだろう」
「ほう、由来を聞きましょう」

 シェンフォニー様は指で目を吊り上げてこちらを見た。それは鳥の鷹の様な顔に良く似ていた。

「怒ったときの雪にとっても良く似ている」

 私は無言でシェンフォニー様の後頭部を前回の反省を生かし凍らせたフランスパンで引っ叩いた。「アウチ!」と痛そうな声をだす。

「はい、他には!」
「えぇと、銀田一だから『銀ちゃん』で…」
「私から離れて下さい!」
「てへっ☆」

 彼は舌を出して手を広げて見せた。くっそ~、コレで髭さえ無ければ萌えるのに!

「さて、雪をからかうのも済んだし考えといた『雲吉』って名付けるか♪」

 鳥改め雲吉を掲げてクルクル回るシェンフォニー様。てかアンタ、始めっから考えていたんじゃないスか!


23: 名前:サスライ☆05/04(月) 17:06:42
 私達の住む「村雲島(ムラクモジマ)」の商店街でひっそりと経営されている店、「喫茶店・ジョージ」。

 そこで私はジョッキに満たされた液体を一気に飲み干した。

「…っぷはー!!ぢくしょー、やってられっかーー、もう一杯!」

 ロレツの回らない口調で目の前にいる喫茶店のマスター;丈治さん(ジョウジサン)にジョッキを突き付けた。

「ふぅ。雪ちゃん、飲むのは勝手だけどね、飲み過ぎは体に毒だよ?」
「うるへー!酔うんが怖くてカフェオレが飲めんかちゅーや!」

 丈治さんは目を合わせて少しだけ黙った後にヤレヤレと渋い声でジョッキに茶色い液体を注いでくれた。
 私は丈治さんを指差して座った目付きで質悪く叫んだ。

「あ゛ーー!今、絶対私の事変な奴と思ったー!」
「そんな事は無いよ」
「嘘 だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!うわああああああん!!どうぜ、アタイは変な娘なんだぁ~」

 完全に泣き上戸に入って腕枕で中学の英語の時の様に机で寝てしまった。

 丈治さんの溜め息が聞こえる。風邪引いちゃうよとか言ってるのも聞こえる。でも、起きなくていいや、泣き疲れたし。

 後で丈治さんに聞いた話だが、「変な娘」とは思わなくとも「カフェオレで酔っ払う奴は始めて見た」とは思ったらしい。


24: 名前:サスライ☆05/05(火) 13:01:00
 私がこの様にヤケでカフェオレを飲んで腹具合を悪くしている背景にはシェンフォニー様の発言が絡んでいた。

 ☆回想スタート☆

「さて、名前も決まったし、世話は雪に任せるよ」
「ハ イィ~~!?」

 仰天した。目を丸くして指を己の顔に指差し、再確認をとる。

「雲吉が治るまで雪は【生き物係】ね」
「ひょ、 ひょんな突然な…」

 本来ならば鯉の様に口をパクパクさせて、ポカンとしたいが、せめてもの抵抗だった。切ねえ~。

「YO☆
雪は・今日から・イキモノガカリ♪イヤー♪」

 突然だからって、ノリを重視してラップ調で言っても駄目ですから!

「ムゥー、 部下の要求にたまには答えたのにぃー。
 ま、いいか。取り敢えず館長命令ね♪」

 答えてなーい!横暴だー!
 そして…
 思想を勝手に読むなー!

 ☆回想終了☆

「てな訳で、どうしたモンですかねぇ…」

 私は重くなっている肩に視線を置く。そこには真っ白な雲吉が決戦前の武士の様に眼を瞑って佇んでいた。
 寝てるだけかも知れんが…。てか、

「ZZZ…」
「う わ!本当に寝てやがるこの鳥類!!」
「すごいね、鼻提灯だしてるよ」

 丈治さ~ん!感心してないでヘルプフリーズ!
 じゃ、なくて、ヘルププリーズ!


25: 名前:サスライ☆05/05(火) 13:48:22
「鳥の世話なら宗厳に聞くといいよ」
「草…原…!?」
「ん、 なんか間違えている気がするけどまあ良いや」

 この後の丈治さんの話によれば「草原さん」とは、山で動物と戯れながら自給自足の生活をしている人物らしい。

 善く言えば仙人。悪く言えばホームレス。でも、ウチの主人も無職って意味じゃ似た様なモンだから余り声高には言えない。
 あの金、どっから仕入れてくるんだろ。
 思考していると丈治さんの言葉が横切った。

「只、アイツは名前通り気難しいからな。土産に甘い物でも持っていくと良い。アイツは甘い物が好きなんだ」
「ハ、ハァ…。性格の割に意外と可愛いッスね」

 失礼な事に思ったことを口にしてしまい、直ぐに口を塞ぐ。が、丈治さんはそれを苦笑いで済ませてくれた。
 彼の、この器の大きさが思わず口に出してしまう由縁であり、また、「好い人」止まりな由縁でもあるのだと思う。丈治さん…そろそろ三十路なんだよな、彼女居ないけど。

 と、私は肩がまた重くなったのを感じた。雲吉が更に体重を私に預けてきたのだ。

「てか、何時まで寝てやがる、この鳥類!」
「悪いね、今は料理で手が放せない。それに、雪ちゃんが信頼されてる証だと思うよ」

 嬉しくねえんだけどー!ヨダレたらすなー!


26: 名前:サスライ☆05/05(火) 15:36:49
 雪ちゃんがバーを出た後、僕こと、根本丈治(ネモトジョウジ)はカウンターの下に貯まっている書類に手をかけた。山のゴミを思い浮かべるこれ等は
 やったところで一向に減らない。しかし、始末をつけなければいけない。

 カラン♪

 客を知らせる、扉に取り付けた鈴が鳴り、逆光に照らされた人影が見える。
 人型であり僕がそっち側の人間が故に僕には影より闇という言葉が早く浮かんだ。

 取り敢えず書類をカウンターの下に隠し、いらっしゃいと言えば、一般的でない言葉が返ってきた。

「"カウンターの下で出来る仕事ってある?"」

 これは隠語だ。カウンターの下にある書類に書いてある仕事、【おおやけに出来ない仕事】について仕事が欲しい人はウチではそう言う事にしてる。

 彼は僕の目の前に座る。同時に僕は山程の書類を彼の目の前に置いて見せた。

 僕は彼に言って見せる、おおやけに出来ない仕事をやろうとする彼に苦笑いを浮かべながら言って見せる、彼に、

 シェンフォニーに言って見せる。

「山程あるよ」
やったところで一向に減らない。しかし、始末をつけなければいけない。
http://p.upup.be/?lpL590d9F0


27: 名前:サスライ☆05/05(火) 17:09:05
 俺、シェンフォニーはクリップで留められた分厚い書類をパラパラとめくる。
 単純に目を通しただけだが、用心棒、強盗、暗殺、エトセトラエトセトラ~っと、ロクな仕事が無い。
 いや、ロクでは無いのは当たり前か。非合法の世界その物がロクじゃ無いし。
 頼んだカフェオレを一口すすると丈治が声をかけてきた。

「で、昔の記憶は思い出せたか?」
「うんにゃ、じぇ~んじぇん見らないよ~んっと」

 とてもお道化てみせる。
 こうでもしないと、自分の暗く冷たい世界観とマッチしないのだ。まぁ、可哀想なんて思った事はないけどね。

「でも、探すんだな」
「うぃ。自分の人生位知っときたいしね~」
「でも雪ちゃんはそれを拒んでいるけどな」

 銀田一 雪。
 気付いたら隣に居て、俺の世話をやってくれる。そして恐らく昔の俺を知っている。
 俺のワガママに何だかんだで付き合ってくれて、慕ってくれている。
 館にも金にも身分にも変えられない、

 俺の唯一の財産…

 雪が拒むくらいだ。ロクな人間じゃ無かったのだろうな。昔を思い出すのは財産を失うかも知れない。
 でも、ゴメンな。俺は、人間なんだ。

「でも、ほら、気になるじゃん」
「…そうかぃ」

 俺は笑い、丈治は肩をすくめた。


28: 名前:サスライ☆05/05(火) 21:33:09
 私は山を登る事がよくある。山菜を取る為だ。何だかんだで都市化の進んでない島。こう言うのは有効に使わなきゃいけない。

「ギャーギャー!」
「うわっ、落ち着いて雲吉。羽が、はにぇが~…ブアックチョン!」

 山の空気に感化されて羽を文字通り広げて羽ばたこうとする雲吉の羽が鼻に入った。

「ギャーギャーギャ…!!きゅう…」

 突然、雲吉はビクリと電流に当てられた様に一瞬痙攣して、そして大人しくなった。
 あーあ、翼の骨が折れてるから接ぎ木してるのに…暴れるから。
 もしかして、この子もアホの子なのだろうか。

 山菜を取るには管理人の許可が必要だ。その為に管理人の家に行く。

 山中で私が向かった先には中々こ洒落たウッドハウスがあった。金持ちの別荘とかに使われてそうで、ヒノキの臭いがする気がする。

「あー、天童さーん。銀田一でーす」
「ウム!」

 ウッドハウスからは普通に言うなら高い声、堅気じゃ無い言い方ならロリヴォイスがする。

「銀田一か。山菜取りの割にはカゴが無いな。寛大な私が貸してやろうか」

 この、軍人口調で灰色の軍服に身を包んだ、普通に言うなら女の子、堅気じゃ無い言い方なら幼女が管理人の天童ちゃん(テンドウチャン)である。


31: 名前:サスライ☆05/06(水) 11:28:30
 天童ちゃんの家には洗濯物が干してある。
 軍服にマントに軍服にマントに軍服にマントに…ズラリと並ぶ軍服とマント。下着もあるのだろうが、マントに隠れてる。

「…」
「どうした?笑顔で固まって。そうか、カゴを持ってきてないのは軍服が欲しいからか。良いぞ」
「要りません!」
「何だと!ではまさか下着が欲しいのか!?」

 天童ちゃんは顔を真っ赤にして目を丸くする。アバアバと少し唸った後に人差し指同士をチョンチョンとくっ付けては離すを繰り返す。

「あ、あのな…私はそう言うのは、お互いに認証があってこそ成り立つのであってと思うんだ。
 私が望むのは普通の恋愛でだな…ひょの、あう~あう~」
「断じて違います安心して下さい!!」

 取り敢えずチョップを痛くない程度に脳天に叩き込む。
 ハァ…この娘、シェンフォニー様に似てるんだよな。天然な分可愛いげがあるけど。

「では、何だという?カゴなら住所…は、君は必要無いか。
 で、
大、中、小、DQN。
 どれがいい?」
「ハァ、最後のはともかく、小で…」
「良いのか?茶碗程度だぞ?」
「ああ。今回は人探しのついでなんです」

 途端、天童ちゃんは顎に指に当てと反応する。
 尚、私が彼女を「天童さん」と呼び、かつ、敬語であるのは、「そうしないと駄目だ!」と、ポコポコ駄々をこねてきたから。
 それはそれで、萌えたが。


32: 名前:サスライ☆05/07(木) 12:22:40
 私はカゴを持って出発しようとする。天童ちゃんはそれを見送る。

 彼女は人探しという言葉に一瞬だが反応した。彼女の年齢を考えると、興味を持ったものには触れようとしないのはどうも、しっくりこない。
 故に問答をだす。

「あれ?誰を探して居るか聞かないのですか?」
「君のプライベートを知ってどうする」

 どうも達観していた。冷めている訳ではない。笑みが少しだけ浮かんでいる。
 しかし、達観されっぱなしも面白くない。そこでつついてやる。

「い やぁ、女としてショックだなぁ~~♪(棒読み)」
「~~~~!!??わ、私はノーマルだあぁぁぁ!!」

 流石、達観している。その手の知識も心得ていた。

「フッフ、冗談ですよ」
「ムゥー」

 頬を膨らませる。やべぇ、つつきたい。嗚呼そんな事をしたらきっとまた怒りだして、ジタバタパンチでポコポコ痛くもない暴力を振るいながら必死で抗議するのだろう…。

「あはは、萌え萌え~…
グフッ!」

 雲吉のクチバシが私を現実の世界へ引き戻した。
 グワグワという鳴き声しか聞こえないが目で

「い い加減にせい」

 と、語りかけてきているのがよく分かる。


33: 名前:サスライ☆05/07(木) 15:28:10
 ふと、私は昔の事を思い出していた。あれはそう、シェンフォニー様に会ったばかりの事…。

 † † †

「神封太子なんて止めてくれ」
「……え!?」

 突然の言葉に私は喉が詰まった思いがした。何故ならばそれ以外に彼を呼ぶ言葉が無いからだ。
 名前は神封(シェンフウ)、偉いから太子(ティツィ)。それ以外に彼を呼ぶ言葉が無い。

「そうだな、神封・兄(シェンフウ・ニイ)…
 繋げて気楽に【シェンフォニー】とでも呼んでくれ」
「そ、そんな、恐れ多いです!神封太子!」

 顔を青くして脇を締め、両手を振るいながら反論する私が居たが、

「太 子命令だ」
「あぅ~」

 彼は困る私に目を弓にする。これが初めて彼の笑い顔を見た瞬間であった。

 † †  †

 ふと、私は現実に引き戻された。
 この目の前のモノはそう、山を「草原さ~ん」と大声で呼んで探していた時、木々を分けて出てきたんだ。

 身長は190程。丸いボディに黒色は威圧感を与え、目の位置で光るカメラは恐怖を与える。

 熊よりも大きな腕、樹よりも太い足、ガンダムの様な鳴き声。

「…えぇと、熊の一種かなあ」
「グワグワ(訳;ねーよ)」

 雲吉の突っ込みも聞かず(よく解らないけど)、私は目の前のロボットに向かってへっぴり腰であった。


34:名前:サスライ☆05/08(金) 22:53:09
「さて、ど~すっかなぁ」

 喫茶店;ジョージで仕事を一通り見た後に、俺は商店街をブラブラしていた。

 「バッチンガム」という玩具がショーウインドゥに飾られている。
 これとか絶対に雪、引っ掛かるだろうなぁ、雪だし、ドジッ娘メイドだし。

 でも買うのはまた今度でいい。と、言うのは嫌な仕事を見たせいか、鬱な感情になったせいか、はたまた気まぐれか、買う気分では無いのだ。

 何気なく空を見た。青い、どうせ買わないショーウインドゥよりこっちを見た方が安らぐ。撫でられているような優しい風が気持ちよかった。

 雲吉はあそこから落ちてきたのだったか、そう言えば雪に押し付けたのだったか。
 雪が忙しくなれば俺の仕事の目眩ましになる。それに丁度良いと思ったからだ。

 しかし、いざ、仕事の事が終わって見ると何時もよりも退屈だ。

「あ~、ヒマだな~」

 愚痴を吐く。風の吐息に押し戻されて自分に息が返ってきた、生暖かい。

 たまには風の向くままに歩くのも悪くない。歩き出したその先は…

「山か…」

 あそこは宗厳が居る山だ。俺と宗厳がどうやって知り合ったか。

 と、どうでもいい事を考えつつも足は山へ向かって行った。


35: 名前:サスライ☆05/10(日) 12:24:46

 我が主よ
 貴方も同じ景色を見てますか?
 青い空白い雲…
 そして黒い鉄兵。

「見とる筈ねーじゃろが!」

 私はお国言葉であるのも忘れて必死に山道を下る! さっきから鉄兵が追ってくるからだ、ホバー移動で。

「アソコに隠れるトコ!」
「よっしゃ来た!」

 私は岩影に隠れる、と、ここである事に気付く。

「あれ、アンタ喋れたの?」

 視線は滑る様に雲吉に向かった、雲吉はクチバシを開ける。

「オウムと同じ。
今までの独り言で大体は…」

 そう言えば色々叫びながら下った覚えがある。関係ないセリフも愚痴も込みで。
 途端に恥ずかしくなり顔を赤くする、横には白い鳥の顔。何か向かいを見てグワグワと鳴いている。

「え えと…」
「シャチョサンイラッシャイ」

 そこには鉄兵が居た。まぁ、あれだけ叫べば見つかるよね?
 てか、シャチョサンイラッシャイなんて言ったか私…。

 ふと、昔を思い出したくなる。そりゃ現実から逃げたくもなるさ。

 鉄兵の巨大な腕が伸びてきた。あの握力ならクルミ程度なら握っただけでバターにしてしまうに違いない!
 …いや、そりゃないか(どんな手品?)。

 余計な事を考えている間に手は迫る。昔の事がフラッシュバックする、あ、走馬灯ってやつか。

 故に気付くと叫んでいた。

「助 けて、シェンフォニー様ー!」
「いいだろう!」

 後ろから影が飛び出した。


37: 名前:サスライ☆05/10(日) 16:20:59
 飛んできた影は、長い足を生かして鉄兵の腕に爪先を引っ掛け、全体重と遠心力を利用してサッカーのオーバーヘッドキックの様に弾いた。バク宙の様に回転するものだから背中がしっかりと見える。

 嗚呼、私は知っている。細い。しかし、逞しい背中を。

 鉄兵は影に襲いかかる。攻撃は巨大な拳の手首を竜巻の様に回してパンチ。単純、故に強力。

 だが、私は安心していた。
 だって、彼は…

 拳がスーツを貫いた。しかし、肉体は存在しない。スーツを身代わりに上へ跳んだのだ。スーツはそのまま目眩ましになっていた。

 だって、彼は…

 彼の姿は鉄兵の頭上にあった。なんと、頭上で片腕で倒立している。
 その位置で回転、身をひねり爪先が鉄兵の額に行くようにする。

 神封兄様(シェンフォニー様)は、とっても、強いんだから!

 190センチ以上の位置エネルギー、鉄兵の重力エネルギー、そこに足技のエネルギーが掛け合わされ、爪先に収束した!

 バッキャアアアアン!!

 約2メートルの鉄球が人間の足技により吹き飛び、木に激突した。

「立てるか、雪?」

 何時もの砕けた笑顔でシェンフォニー様は手を差しのべる。私は両手でそれを握りしめ、泣いた。

「…ウワアアアア!
 遅かったですよ!馬鹿主!!」

 手が暖かい、生きている。私達は繋がっている。



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最終更新:2010年05月08日 18:04
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