銀田一 雪さんとシェンフォニー様と後、なんかの話 続き1

39: 名前:サスライ☆05/10(日) 17:03:05
 シェンフォニー様はパチンと指を鳴らす。すると昭和中期のBGMが鳴った。それに合わせて彼は足を動かす。昭和中期のダンスだ。

 嗚呼、私はこの背中を知っている。

「天が呼ばない、地も呼んでくれない!
 人が呼ばずとも雪が呼ぶなら俺は来よう!」

 クルリとターン。拳銃の真似事か、私に人差し指が向けられる。

 とってもアホな背中。突っ込まずにはいられない。

「恥ずかしいわぁ!馬鹿主!!」
「アウチ!」

 エプロンから取り出したカビだらけでモッサリしているフランスパンを彼の顔にぶつける。精神的ダメージは強大ナリ~。

「って言うか何でアンタが居るんですか!」
「いやな、何となく山に入ったらさ、お国言葉で叫び、山を下る雪が見えるじゃないの。
 そこで俺は急きょ、ラジカセを宗厳に借りて…アウチ!」

 痛いように調節した脳天チョップが彼にヒットした。
 私の命<BGMかい!

  …ん?と、言うか草原!?今草原って言ったか!

「草原さんを知っているのですか!?」
「そりゃ、BGMを流してるの宗厳だし… アウチ!」

 なんだか良く解らないが殴りたくなった。それでも彼は何時もの砕けた笑顔で、逆になんかムカついた。


40: 名前:サスライ☆05/10(日) 18:21:46
 慣れてくるとBGMがどこから流れているか解る。
 草影。
 そこに視線を浴びさせると人影が草を分けて出てきた。

「ん…どっこいしょっと」

 私はその姿にあんぐりする、だって【彼女】は私の知っている人だったのだから。

「なあシェンフォニー。私は、この『ヴァーニングラブ』よりも『荒野を越えて』の方が好きなのだが」
「だけど、それでは空気に合わない。だからこちらを流したのだろうに」
「ふむ。今度からは私の推薦が似合う登場をして欲しくてな」

 軍服にマント、そしてロリヴォイス。てん…

「天童ちゃんー!?」
「さんを付けてくれ!恥ずかしい!」
「あ あ、スミマセン、天童さん」

 確かに可能性はあった。しかし余りにも仙人という言葉が似合わない。だから候補から除外していたが…。

 私が口をパクパクさせているその時だ、シェンフォニー様が蹴り飛ばした鉄兵が動き出した。

「!?」

 シェンフォニー様は直ぐに構えをとる。しかし、この場面を制したのは天童ちゃんだった。

「君達は何をしているのかね?」
「へ?だってあれは私達に襲い掛かって…」

 聞いた途端に天童ちゃんは鉄兵に歩み寄る。そして目を合わせて、数秒。
 結論を出した。

「ど うやら『宗厳を探しているみたいだから連れていこうとしたら逃げた。だから追いかけた。そしたら攻撃が来たから反撃した』だ、そうだが…」

 呆然な私、その前に聞きたいことがある。

「あの、どうやって意志疎通したんで?」
「電波だ!」

 恥ずかしげも無く言う彼女にもはや肩を落とすしかなかった。
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41: 名前:サスライ☆05/11(月) 20:40:48
 懐中電灯にも使えそうに光る、蝿の目玉の様なカメラを左右交互に点滅させて鉄兵は起き上がった。

「ああ、紹介しよう。彼の名は『クロガネ』、この山の清掃をしている」

 クロガネはデコピンを喰らった時を思わせる動きで額をさすった。俺に蹴られたソコは靴の爪先型に凹んでいる。

「クロガネさんね、はじめまして。シェンフォニーだ。勘違いして悪かったねぇ」
「『それ程でもない』だそうだ」

 宗厳が代弁する。
 額を蹴られても冷静だ。凄いなー、憧れちゃうなーってか。

「て、言うか普段会わないよね。何時もは何してんの、ポップンしてんの?」

 これは雪にもある疑問だろう。山菜取りによく来るのに全く巨体に会わないのだから。

「『朝・昼は誰も来ない滝の水力発電で充電、寝静まった頃に山のゴミ拾いと警備をしている』」
「うわ、いい人だな。人は見かけによらないってやつか」
「…突っ込みませんからね!」
「えぇ~、 いけずうぅ~♪」

 ともあれ、これでこの島が平和な理由が解った。

 山に限らず、影でこの様な者達が撃退して、ゴミ拾いこそついでだろう。
 と、くると、この島の歴史は、まさか…。

「あ、ところで電波ってどうやってだすの?」
「気合だ!」
「ネーヨ!」

 ところで今回の突っ込みは雲吉か。どうでもいいけど。


42: 名前:サスライ☆05/11(月) 21:06:55
 宗厳は今さら威厳タップリに胸を張って、雪に言わせれば『あ、可愛い』とか思われているのだろうな。

 そんな宗厳が肺に森が生み出したばかりの健康な空気を取り込み、一緒に吐き出す声がある。いい空気なせいか声の調子も良い。

「雪、私は草原ではない!宗厳だ!!」
「今更かよ」

 雲吉のクールな突っ込みが冴え渡り、しかし雪は解らない様子。

 まあ、発音の強弱だけで理解しろと言う方が困難だろう。

「あー。その顔は解ってないなー、ウワーン!」
「ええと、取り敢えず泣き止んでよ天童ちゃん。
 ハイ、クレープ」

 エプロンから紙包みが現れて、宗厳に行き渡る。宗厳はそれを受けとると一心不乱に味わった。

「ム…私がこんなモノに…
 わぁ、甘い♪美味しい♪幸せ~♪♪♪アハハハハ」

 この世のモノとは思えぬ幸せな笑顔を浮かべた。やべえ、この顔撮ってからかうネタに使いたい。

「… ハッ!私をこんなモノで釣ろうとは…
思うなよ!」

 一つのクレープを30分近く、よく噛み完食してからの第一声がそれだった。

「あ の、それで頼み事なのですが…」
「ふむ。普段は受け取らんが今日は【偶々】に機嫌が良いから何でもいいぞ!」

 よし、今の台詞を意訳しよう。『甘味こそ神!』


43: 名前:サスライ☆05/11(月) 21:30:38
 天童ちゃんに聞いてみたのは今回の事件の根幹、『雲吉の世話の仕方』だ。

「雪ー、肉ー」
「あー、ハイハイ」

 私はエプロンに入れていた干し肉(ビーフジャーキー)を取り出す。なんで持ってるかって?シェンフォニー様のオツマミですよ。

「で、雲吉の世話なんですが…」
「雪ー、トイレー」
「あー、 ハイハイ」

 雲吉の胸の辺りを持って糞をさせる。肩にされたらたまったものではないし。

「何かありませんかねぇ…草原さん」
「いや、そこに私が介入する必要はあるのか?
 そして私は草原でなく宗厳だ」

 指摘を受けて雲吉と目を合わせる。その目は何を言いたいか、今はよく解らない。自分自身がどんな感情なのかもよく解らない。
 肩の力がどっと抜けた事は覚えている。言えることは只、一つのみ。

 もはや「草原」でも「宗厳」でもどっちでも構わない!

「なんか、どっちでも構わないや…」
「い や、構ってくれ!」

 天童ソウゲンちゃんが叫ぶ。この思想を読むか、電波パゥワー恐るべし…


44: 名前:サスライ☆05/11(月) 21:53:32
 岸壁が波を砕く。その上にそびえ建つ何時もの辰凪館。

 雲吉を野生に帰して二日程、
 シェンフォニー様は今日も展望台で紅茶を飲んでいる、一体どんな悪戯を頭で組み立てている事やら。

  † † †

 あの後、シェンフォニー様の居ない場面にて。

「ところでな、雪。実はシェンフォニーは私の家に来ていないんだ」
「え?それじゃBGMはどうやって…」

 天童ちゃんの話をまとめるとこうだ。

 私の悲鳴を聞き付けて必死な顔で走るシェンフォニー様が窓から見えた。
 何故かは知らんがクロガネに私が襲われている、これでシェンフォニー様は必死で助けるだろう、
 しかし、助けた後、絶対ふざける。私の安心の為に。シェンフォニー様はそういう人間だ。
 そこでふざける事を自然にする為にラジカセを持ち出したらしい…、シェンフォニー様は読み取ったのか指パッチンまでして自分に非を擦り付けたが。

「全く、何でアイツはふざけるのだか…。雪の安心は助けに来ただけで保証されるだろうに」
「いえ、何となく分かります…」
「ほぅ。興味深い」
「秘密ですよ、宗厳ちゃん♪」
「ムゥー」

 私は天童ちゃんの頭を帽子の上から撫でた。小さくて可愛い。なんつーか、アレだ。

 萌え~


45: 名前:サスライ☆05/11(月) 22:12:50
 シェンフォニー様は立ち上がろうとした、が、足を滑らせる。

 このままでは彼は床に激突してしまう。だから素早く肩から支えた。

「む、雪か。助けに来るなんてあれかにゃ、企みかにゃ?」
「ハ イハイ。企んでるのはアンタでしょ、そして猫なで声キモいです」
「そんにゃあ~」

 ヨタヨタと歩く彼を客間のソファーに座らせて、私は部屋を出た。だって、そうでもしないと彼は『治療』をしないから。

 枝や石や切れ味の良い草葉の多い山道を全力で駆け上がったのだ。彼の足は無事だろうか。
 移動にホバークラフトを用いる程に重い鉄の塊を爪先で蹴り飛ばしたのだ。彼の足は無事だろうか。

 そんな訳ない。
 きっと客間では全身汗だくで足を押さえている彼が居るだろう。

「全く、【格好つけたい】だけのは分かりますけどバレバレなんですよ。馬鹿主…」

 扉に背を向けて下を向き、毒づく。 
 と、扉が勢いよく開いて、見ると足が痙攣して、しかし陽気な顔があった。
 尚、扉を開けた時、私は扉に頭をぶつけた。

「よ~、雲吉が遊びに来ちゃったぜ~♪」
「肉ー!肉ー!」

 エサをたかってるだけだろ…、で、叫ぶ。

「この、馬鹿主ーーー!!!」

 第二話 完


46: 名前:サスライ☆05/12(火) 19:54:45
 第三話

 ランプで燈色に照らされた石壁。土臭い空気。
 辰凪館の中でこの地下室だけは異世界と化している。館において、ここだけは建設当初と変わらないからだ。

「歴史から取り残された空間…」

 この空間の主であるボク、井時 晶は何となくそんな事を呟いていた。
 これは今の館の主二人がこの空間を見て「なんだこりゃ?」と、言ったから返した台詞だ。

 シェンフォニーは納得した顔で「ふーん、ところで君って男みたいだね」と言ってた。
 雪は「?、ハ、ハァ…そうですか」と言ってた。

 まぁ、ボクには関係無い。ボクは何時でも傍観者である第三者。触れない、だから傷付かない、だから
 何も感じない。


 正直、あのシェンフォニーって苦手だ。何を考えているのか解らないし、近付いてくる。

 そのくせ、自分がどんなに傷付いても良いと思っている。

 どう接していいか解らない、
 宗厳は、どう接して居るだろうか。

 その時だ。

「ハロー!アッキラちゅあ~ん、シェンフォニーさんだよ~ん」

 向こうから何の嫌味も無い声が聞こえてきた。
 てか、何故にルパン口調!?


47: 名前:サスライ☆05/13(水) 21:07:09
 何…?なんなの!?なんでボクはシェンフォニーに強制的に野外に拉致されているの!?

「シェンフォニーだからー」

 シェンフォニーの肩にとまっている白い鳥に突っ込みを入れられた。うわぁ、なんか屈辱!

「はーなぁーせぇー!離せよー!ボクは地下室に潜って同人誌を読んでいたいんだー!」

 健康的に引き締まった筋肉と小麦色の肌なんていらないやい。因みに同人誌は雪にもらった。読んだ感想は「真面目に生きる必要なんて無いんだろうな…」だ。

「ま あまあ、人生を楽しくエンジョイするのが愉快なコツだぞ?」
「同意語三つ混ざってません!?」
「キャッ、
雪!いつの間に!」

 今、思わず乙女チックな声を出してシェンフォニーにからかわれている気がするけど、

 アーアー、キコエナーイ

 てか、雪がいつの間にか居るのが驚きだ。くの一の称号をかけてもいい驚きだ。そんなもの持ってないけど。

「シェンフォニー様に呼ばれてね、全く、何がしたいんだか…」
「雪は何故かボクの心を読むね」
「そりゃ、あんだけシェンフォニー様にからかわれているにも関わらず私を見て驚いた顔をしてれば、ね」

 ボクは耳まで顔が熱くなるのがわかった。


48: 名前:サスライ☆05/15(金) 16:41:04
 シェンフォニー様が晶ちゃんを拉致った少し後
  † † †

私は銀田一 雪。メイドだ。愚直ガールとシェンフォニー様に呼ばれた事が二回程あるが決して違う、と、思いたい。

 さて、私達二人はこの村雲島に来る前は何をしていたか。言わなくても良いが台本に書いてあるから言うしかない。

 それは、海運会社だ。

 ある事情でクルーごと手に入れた海賊船を、貨物船に改造。そして海賊の多い海域での運送に使っていた。元が海賊なだけあって皆強いのに加え、シェンフォニー様が居たお陰で営業は安定した。

 今では一線を引いて隠居している。たまにその手伝いをして生活費を稼いでるらしいが…

 絶対、ケタがおかしいから!なんで一日で20年は遊んで暮らせる額が入ってるんだよ!?

 でも、言わないんだろうな、強がりだから。

 と、何故に今回こんな話をしたか。

「酒だ~!!」
「酒池肉林じゃあ~!!」
「見せてやる!俺の下半身を!!」

 私はズボンを下ろそうとした彼の股間を下から上へサッカーボールキックする。

「うわおぉ!なんか新しい感覚に目覚めちまいそーだぜ!」
「ギャ ハハ、バーカ」
「バーカ」

 大広間。現在、運送会社のメンバーが宴会を始めていた。


50: 名前:サスライ☆05/16(土) 21:41:47
 彼等は何時も通り届け物をしていた。今日の届け先はこの島。島への滞在中に現れたのがシェンフォニー様だ。
 彼は言った。「宴会やらない?」。

 と、言う事で大広間は現在カオスになっている訳だ。因みに先程股間を蹴られた彼はまだ痛がっている。

「ハァ…、なんでシェンフォニー様もこんな事するんだか」

 私は溜め息を吐いた。今回ばかりは意味は無いと思うから。
 しかし、ある事に気付く。肝心のシェンフォニー様が居ないのだ。右にも左にも下にも上にもスカートの中にも。実際に調べたのだから居ないのだろう。
 そして最後のは明らかに必要無いと感じた、得たものはそれだけだ。

 そこで私は生暖かく、酒臭い宴会の中に身を飛び込ませる。
「あ、シェンフォニー様知りません?」
「ん~、船長がそういや姐さんを探してたな~」

 シェンフォニー様を探して居るのだ。ジャック君(船長の名前)はどうでもいい。尚、姐さんとは私の事だ。

「い や、シェンフォニー様についてですよ、聞いてるのは」
「あ~、船長がシェンフォニー様に付いてなんか話があるってよ~」

 こいつ、わざと遠回しに言ってないか?と、思う今日この頃…。


51: 名前:サスライ☆05/17(日) 22:37:52
 アルファベットのUを二つ重ねた様な形の金属があった、船が停泊する時に用いられる錨(イカリ)だ。
 「海運会社;ロックンロール宅配便」の社長兼、「貨物船;ヘビメタ号」の船長であるジャック君のメイン武器だ。
 武器が巨大で特徴的だからだからジャック君はとても見つけやすい。

 ジャック君はシェンフォニー様と同い年位で、中肉中背の、髪をベリーショートにカットした金髪をしていて、目には一文字の傷がある。そしてジャラジャラとアクセサリーを付けていた。
 ぶっちゃけ小物チンピラ臭がプンプンする。
 始めてあった時は「こいつ絶対カマセだろ」とか思ったものだ。
 実際、シェンフォニー様にボコされたからそうなのだけど。

「雪、今凄い失礼な目線だったぞ、哀れむような」

 流石に小物!その手の気配には敏感だ、なんか卑怯な手を使って人の頭を踏んで「どうだ悔しいか!フヒヒヒヒ」とか言ってそうだ。

「おい、そこは驚くか反省だろ、なんで感心してんだ虎羅(コラ)」

 今、物凄いアホみたいな当て字があった気がするけど聞かなかった事にした。


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最終更新:2010年05月08日 17:39
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