52:名前:サスライ☆05/19(火) 18:51:35
「なあ、雪。俺は考えた、奴をギャフンと言わせる方法を!」
奴とはシェンフォニー様の事だ。ジャック君が私に会うときは大抵そこから始まる。
ジャック君は小物だから船長のランクを取られた恨みを未だに引きずっている。もう返したのに…
「ハイハイ、で、今度はどんな計画なんですか」
私は今に至るまでジャック君の計画が成功した姿を見た事が無い。彼の計画は規模が大きすぎて、故に穴だらけだからだ。
でも聞くのは面白いからだろう。今度はどう、バカな計画を建てたものか期待しているのだ。
「この島の岸壁を掘って地下室に侵入、そして奴が地下室に来たところを卑怯だが不意討ちで倒す!」
「ワー スゴーイ」
「な、なんだその生暖かい目は!これじゃ俺が無謀みたいじゃねえか」
地下室に来れたとして、晶ちゃんに見つかるし、岸壁を掘る作業が見付からない筈無いし、何より地下室、あんま使わない。
穴だらけにも程がある。
「…で、そのシェンフォニー様になんか聞いてるらしいですが?」
「俺の話終わりかよ!?」
「あ゛?
ええから、話せっちゅうんじゃ、解らんのかいワレ」
「ハ イ」
私と目をジャック君は正座になった。まるで叱られた子犬の様に。
53: 名前:サスライ☆05/20(水) 19:12:30
私は天童 宗厳。軍服をこよなく愛する軍隊マニアであり、ついでに山の管理人なんかもやっている。
私が何時からここに居たか、それは井時 晶と同じ位、つまりは秘密ということだ。
美少女はミステリアスさを含み美少女たりえるのだよ…
いや、私だから!私って美少女だよね!?もしかして私のナルシズムだった!?
まあ、そんな私は今この山の頂上に居る。
頂上はこの環境でしか生えない植物に、時間によって色が変わる色鮮やかな花が咲いたり、
他にも素晴らしい所はあるが言い尽くせない。
この景色の前では都会の擬似的に得られる様な快楽等、無に等しい。
ここはこの島で一番美しい。泣きたくなる程に。
何故、此処に居るか。それはシェンフォニーが何か企んでいるらしい。
ハァ、人を個人的な企みに巻き込むなよ。
ため息は風に流され、そして跡形も無くなった。
54: 名前:サスライ☆05/21(木) 12:56:28
俺、晶ちゃん、そして雪。俺達は今、山道を登っている。
雪は俺の持ってきた荷物を、俺は俺の持ってきた荷物を、それぞれカバンに詰めて登る。
しかし、普段引き込もっているせいか一番息が荒いのは晶ちゃんだった。
彼女は俺を怨めしそうに見る。
「あ~、大丈夫♪宗厳の家には誰も居なかっただろ?」
警戒する晶ちゃんの思考を感じとり、安心させる。
どうも彼女は宗厳が苦手らしい。
理由は「活発過ぎる」との事。宗厳はアウトドア派だから晶ちゃんは苦手なのだろう。
因みに宗厳に聞いてみれば「ネクラだ!」と、一喝。
でも、二人は反対の性格では無い。
磁石は反極を合わせると寧ろ結合する。もし、反発するならばきっと似すぎているのだろう。
そして噛み合わない部分があれば攻める理由になる。人は似すぎると、傷付け合うのだ。
「さて、休憩する?」
俺はカバンから取り出した水を晶ちゃんに渡そうとするが、首を横に振り、
「いい!もっと行くんだ!」
酸素の少ない肺から枯れた声を吐き出して拒否した。
ね、似てるでしょ?
57: 名前:サスライ☆05/23(土) 21:41:41
私達は山頂に着いた。すると待ち受けていたのは見慣れた軍服。
軍服とブカブカの服。個性溢れる二人の悲鳴がこだまする。
「「うわあああああああ!!!」」
アーアーアー…。
高い声が山びこになり私達の耳に流れ込み、それぞれに微妙な気持ちをもたらした。
只、一名を除いて!
「おぅ、雪や。
やっ ぱ悲鳴って良く響くねぇ~♪」
目をつぶり音を楽しむ彼は私にまるで映画の感想を話す様に、愉しげだ。
「もしかしてこれが目的だったんですか!
この馬鹿主~~!」
「ハッハッハ、実はそう♪」
私は彼のアゴに跳び膝蹴りを喰らわそうとしたが、なんとそれをクルリと一回転する事で回避。
ポーズを決めていたのが余計に殺意を持たせてくれる。
と、ここでやっと異変に気付いた。晶ちゃんと天童ちゃんだ。
何時もなら口喧嘩をはじめている癖に今日はそれが無い。
そんな視線を二人に浴びせると納得出来る答えが即答されてきた。
「山登りで疲れてるんだ、相手なんかしてられるか…」
「この景色で喧嘩なんかしたら次来る時、嫌な気持ちになるだろう」
私は目を見開く。そこまで考えて今回の事を起こしたものかと。
やっぱりシェンフェニー様は尊敬できる主だ。
「あるえ~、喧嘩がエコーになって楽しいと思ったのに~♪」
私のボディーブローは彼の脇腹に吸い込まれていった。
58: 名前:サスライ☆05/23(土) 22:03:07
彼がジャック君を通して私に頼んだもの、それは
ブルーシートとジュースとコップ、それに弁当だった。
シートをクサビで固定して四人は座る。
「んじゃ、花見でもするか♪」
頂上から町を見下ろし、風に服を当てながらシェンフェニー様は先ず、言った。
そこで私は思うのだ。口喧嘩しては花見など出来ない、やはり彼の狙いは…。
「いやあ、しっかし残念だ」
「残念?」
天童ちゃんはツッコミ待ちの独り言に反応する。
「う ん、喧嘩は祭りの華って言う…ウグ!」
「馬鹿者!他人の不幸を喜ぶな!」
オニギリ片手に天童ちゃんのアッパーが炸裂。彼は良い感じのダメージの仰け反り方をした。
「いや、まだ、言ってるさいちゅ…ヒデブ!」
「………
ばーか」
仰け反りから戻った彼に晶ちゃんはジャムパン片手にドロップキックを喰らわす。
私は凄いコンビネーションだと感嘆した。お互いが理解し合っていなければそうできるものでは無い…。
「ちぇ…本気になっちゃって~」
「んじゃあ、口喧嘩は冗談ですか」
「うんにゃマジ。本気と書いてマジだよ~ん★」
山頂で打撃音がまた一つ…。
その時、滅多に笑わない天童ちゃんが笑った
気がした。
59: 名前:サスライ☆05/24(日) 10:37:11
ジュースに落ちる花びら、心地好い風、鳥のさえずり…、
そして、どんちゃん騒ぎで皆の笑う顔。
「いいねぇ…」
「そ゛~ですね゛ぇ~」
爽やかなシェンフェニー様に私はギザギザの声を浴びせる。
何故かというと…
「何故にアンタ等がいんですか~!!」
私が怒鳴った先にはいつの間にか来ていたロックンロール宅配便のメンバーが宴会をはじめていた。
「それはですね、船長を見れば解ります」
宴会の中から出てきたのは猫科を思わせる顔の、眼鏡をかけた凛々しい女性。海賊時代から秘書だった人だ。
他は酔っていると言うのに彼女だけ酔っていなかった。
「いいか。シェンフェニー!俺はお前に負けるわけにはいかない、例え宴会だとしても!」
「いやぁ~、まさか君達が来るとは思わなんだな」
酔ったガラの悪いチンピラ、イコール、ジャック君に絡まれているシェンフェニー様は彼に感嘆していた。
「船 長は貴女が持ち運んだ道具から何をするか推測したらしいです」
「…マジですか!?」
もしかしたら宴会じゃないかも知れない。山には来ないかも知れない。
しかし、どうやら穴だらけの計画でもたまには当たるそうだ。
60: 名前:サスライ☆05/25(月) 17:38:25
山頂は土に恵まれていた。
だから自然に恵まれていた。
だから美しかった。
ボク、井時はたまにクロガネに乗って人知れず此処まで来る。
インドアだけど、此処は好きだから。
でも今は何故か自然を見ようと言う気にはなれない。
「ヒャッハァ!兄ちゃん酒を飲め!」
「兄ちゃんじゃない、ボクは女だから!生物学的に!」
「な~にぃ~!ならば酒を飲め!」
「意味解らないよ!」
「難しい事言うなよ、女々しいぞ。
あ、俺今、頭良い事言った!天才じゃね」
「馬鹿じゃねーの!」
「バーカ」「バーカ」「ヒャッハァ」
ボクは酒と汗臭い野郎どもにモミクチャにされていた。
自然鑑賞の余裕なんてあるか~!
「アンタ、何やってるんですか!」
「ゲェ、姐さん!」
「お 仕置きの時間ですよ~」
ギャハハハハ
クヒヒヒヒヒ
アハハハハハ
渦巻く風に流されて耳を横切り続ける笑い声。
静かに本でも読むか景色を眺めるか…快楽はそれだけの筈だったのに。
「楽しいな…」
シェンフォニーが酒蔵から無断で持ち出した高級酒を雪に見つかり、スクリューアッパーを喰らってるシェンフォニーを見ながら言った。
その時、彼と目が合う。彼は歯を見せて笑いながら言った。
「やっと笑ってくれた♪」
61: 名前:サスライ☆05/29(金) 23:21:57
昨日まであの海運会社が此処に泊まっていた。だから今は居ない。
「さ て、と…」
俺は背伸びをした。先程まで読んでいた本でしおりを挟む。
ポケットに手を突っ込んで口笛を吹きながら階段を下った。
ランプで照らされた薄暗い見慣れた光景。そこに彼女はやはり居た。
「あっきらっちゅわ~ん♪あっそびっましょ」
挨拶に彼女は挨拶を返す。
「そろそろセクハラで訴えるよ」
「シャイなんだから~」
「…馬鹿?」
受け流す様な罵倒の返事だ。聞き慣れているから気にしないが。
兎に角本題に移る事にした。
「愉(タノ)しかった?」
「外へ連れ出した原因はそれ?」
「まぁね~」
得意気に胸をはってやった。
彼女は俺を無視して想いを告げる。本で口元を隠しながら。
「…よく解らない。本を読んでも自然を眺めるのは『楽しい』だけど
なんか、今回は違うんだ…只、」
彼女は俺を見た。口元を本から話して、開いた。思わず俺はにやけてしまう。
「只…?」
「………
……
… また、ボクも呼んで欲しい!」
ここは相変わらず薄暗い。しかし、少しだけ明るくなった気がする。
まるで、俺等の住んでる地上の明かりが入った様に。
65: 名前:サスライ☆05/30(土) 23:23:37
第五話
都会の喧騒も離れ、今日も海岸に建てられた館ではメイドと主の追いかけっこが繰り広げられる島、村雲島。
因みに追いかけっこの原因はメイドってゆーか雪のプリンを俺ことシェンフォニーが食べたのが原因ね。
そこは書斎。地下室程では無いが大体の書物は揃う。
そんな紙臭い部屋の角に追い詰められていた。
「フッ フッフ…観念しなさいよぉ~」
雪の手がワキワキと動く。勿論、目は笑っていない。
こういうのって立場逆じゃね?いや、逆は逆でヤバイか。
「無駄無駄無駄ァ!」
俺は書斎にあったマンガ本のキャラクターの台詞を言いながら一冊の本を引っ張る。
そう、隠し扉は一つではないんだね、これが。
そんな俺を見て雪は呆れた目をしていた。
…まさか。
「あ れ?開かないんデスケド、隠し扉」
「探して見つけて鍵をかけさせてもらいました」
困ったな。隠し扉を蹴りで叩き割れば通路には出れるけど、割に合わないしなぁ。
だからって本棚を登って雪を飛び越えれば本が崩れる。
雪を殴るなんて問題外。
「ど うですか、自分が一方的に責められる気分は」
勝ち誇った雪に対して、いい思いじゃないと苦笑いを返して、言葉を紡ぐ。
「お 前の欲しい物は何だ?」
「取り敢えずプリン買ってきてください!楽しみだったんですからああああ!」
直後、書斎に俺の悲鳴が響いた。「図書室では静かに」のポスターが見えた。
66: 名前:サスライ☆05/31(日) 15:08:38
俺がプリンを買いに商店街に入ろうとした時、上から聞き覚えのある機械で再生した様な声がした。
「1、2、⑨、バーカ、バーカ!」
声の主である白い鳥、雲吉は俺の肩を止まり木にする。
彼にとっちゃ発声練習みたいなものだろうが偶然にも的を獲ていた。
「ったく、うるせーな」
「そうか、尻に敷かれているのか」
どこでそんな言葉覚えてくるのやら、ポケットに突っ込んでいた片手でチョイチョイとクチバシをつついてやる。
「負 けてねー、倒されただけだっちゅーの」
「イッツ負け惜しみ」
全く、コイツは。からかっても面白くねーし、でも、言いたい事は言いやがんでやんの。
喰えないよなぁ…。
俺は苦笑いを返す。今日は苦笑いをよくする日だと思った。
からかって面白い奴なんてこの辺に居たっけ?
商店街をブラブラしながら目を上にして考える。
こうして思い出されるのは一人の少女だった。
そういやぁ、アイツと会ったのここだっけなぁ。
「ニヤニヤキモい」
「うっせえな~、焼き鳥にすんぞ~」
気の抜けた声だと思う。
そして、俺は所謂「玩具」を探してキョロキョロしてたと思う。
「…ん、あいつは」
「玩具」を見つけた今、俺は目を輝かさせているだろう、苦笑いとセットで。
67: 名前:サスライ☆05/31(日) 15:31:27
商店街に見慣れない姿がある、いや、「浮いている」と言った方が正しいか。
そいつは島中の珍品等が取り扱われる【マニアック堂】の前でウロチョロしていた。
そんなウロチョロしている奴にチェシャ猫の様にニタリと笑みを浮かべ、フック船長の様に常識的に近付いてみせる。
だから彼女に話しかけた。
「や、宗厳ちゃん♪」
「ヒッ!イヤァ!」
後ろから突然声をかけられた為か肩をビクリとふるわせる。
いやぁ、それにしてもホント変なトコで乙女チックな事と言い、似てるよな~、晶ちゃんと。
違いと言えばアクションがある事位だ。
「安心しなってば、俺だから。
シェンフォニーだから。
だからソレをしまってくれ」
挨拶と同時に抜き放たれた刀を指差す。マジ怖ぇ。
「な、 なんだ。シェンフォニーならそうと言え!」
「カッカッカ♪後ろから突然『シェンフォニーだよ~』って言ってたらお前どーするよ」
「勿論斬る!」
凄い矛盾を見せつけられた気分になったがそれはそれで面白いので放って置くことにするが…。
「じゃあ意味なくね?」
取り敢えず雲吉が落ちをつけた。
68: 名前:サスライ☆05/31(日) 15:59:23
彼女は丁寧に刀を納める。それはとても素人の動きとは思えず、そんな腕前で斬られたら一刀両断だっただろう。
少し後ろから声をかけて良かったと感じて苦笑い。
「ココは笑うトコロだろうか」
独り言に反応した宗厳は再び刀に手を付け、居合い斬りの構えをとる。
「いやいや、別に宗厳が商店街に居ても笑いはしないから」
そうか。と胸を撫で下ろし、彼女は再び刀を鞘に戻そうとする。
で、雲吉が余計な一言。
「でも、引く」
俺の目の前に突如として伸びてきた白刃。
その、「突き」は調度俺の肩の上、則ち雲吉の居たトコロを汽車の様なスピードで素通りした。
雲吉は野生の本能だろうか突きが放たれる直前に空に逃げたのが分かる。
で、また俺の肩に戻った。
宗厳を見て、「実はコイツ刀を振り回したいだけの危ない奴なんじゃねーの」と、どうでもいい事を考えてみる。
「流石にそれじゃ誰も近付けねーぞ?」
「安心しろ。今日の刀は刃潰ししてあるから命に別状は無い!」
偉業を達成したかの様に胸を張って言う彼女に雲吉が突っ込みをいれた。
「そ れ、いつもは真剣って事じゃネーカ!」
「男がワガママを言うな!」と、カオスな反論を眺めていると頬から横一文字に傷が出来ているのがわかった。
これ、さっきの突きの風圧でやったの?スゲェなぁ…。
感想はそれだけだが。
69: 名前:サスライ☆06/01(月) 18:37:26
「てか、珍しいね~、町まで降りて来るなんてさ」
何となく宗厳の頭を撫でながら言ってみた。こういう時、何故か彼女は抵抗しない。
むしろ安らいでる。背景が点描だし。あ、小説じゃわかんねーか。
「ふむ、今回はクロガネの修理でな。貴様のやったやつだ」
そう言えば思いっきり蹴ったっけ。装甲に足形つけちゃったからなぁ…。
「悪いな、弁償するか?」
「いや、あれはどうしようも無かった」
「お~、男らしい♪」
「私 は女だ!」
顔を、額も真っ赤にした宗厳の頭突きが鼻と口の間にヒット!
これ、力加減間違えたら陥没すんじゃね?
「テ テ…、で、こんなトコで何してんの?」
店頭に奇妙なオブジェが飾られ、時折獣のうめき声がする店【マニアック堂】。
「今 回の装甲張り替えで、クロガネにも飾りもつけようと思ってな…」
「ふむふむ」
「デコレーション用のシールを買いに来たのだ!」
「ブッ!」
流石に吹く。ブラックボディのゴツい鉄兵にキラキラのデコレーションシールが大量に貼ってあるのを想像した。
分かり辛いなら、黒電話に大量のキラキラデコレーションシールが貼ってあるのを想像すれば良い。
「でも、こういう店は、その…恥ずかしくて」
頬を赤らめた上目遣いだが、軍服マントで言っても説得力が無いと思うんだぜ。
最終更新:2010年05月08日 17:41