銀田一 雪さんとシェンフォニー様と後、なんかの話 続き4

91: 名前:サスライ☆06/13(土) 21:35:23
 仲の良い二人を見て昔、ずっと昔を思い出す。
 この島に来る前の昔。「本国」から国家機密の研究をする為、無人島だった「村雲島」に彼と私、その他研究員が来た。

「宗厳君。君にはこの研究を護る番犬になってもらおう」

 彼は背を高く見せる為にいつも背の高い、絹で出来た帽子を被っていた、たしか「シルクハット」と言ったか。白衣にそれは余りにも不恰好過ぎて突っ込むのは暗黙の禁止とされていた。
 笑うと必死で振り向いてくるが…。

私にも大切な人が居たんだ、でも、ある日

「本国の戦火が広がり、技術者が不足したらしい。本国に向かう。
暫くこの研究所を空けるだろう」
「わ、 私も…!」

 お供します。
 言おうとした時に唇に彼の人差し指が当たる。
 私の顔面は思わず爆発しそうになった。彼は微笑みを浮かべる、成功を確定させた時に浮かべる微笑みを。

「直ぐに戻る。宗厳君、君は研究所を護りたまえ」

 彼は人差し指を白衣のポケットに突っ込んで私に背中を向ける、そして歩む。その背中は小さくなっていく、
 が、止まって彼の声が聞こえてきた。

「も しも、私が帰って来たら…
いや、よそう。科学者らしくないが野暮というものだな」

 そして、とうとう背中は見えなくなり

 これが彼を見た最後の姿だった…。


92: 名前:サスライ☆06/13(土) 22:19:03
 あの後、三人分の料金を結局シェンフォニー様に奢らせて、私はシェンフォニー様と商店街を歩く。

 天童ちゃんは何やら喫茶店に残るらしい。何だろう、まさか丈治さんに求婚!?
 そう言えば彼女は私達がギャラ無しのどつき漫才(自覚有り)を繰り広げている間、クレープをかじりながら難しい顔をしていたし、
 食べ終わった時には、何やら眉を寄せて決心した顔になっていた。具体的には目がキラーンって光る具合に。

 ヤバい、もしかしてコレは犯罪では無いのか!?しかし、彼女の愛を抑える能力は私には無い、

 ならば仕方ない、オッサンと幼女の恋を応援してしまおうではないか。

「ねぇ、シェンフォニー様」
「なんだ、雪。アホな話か?」

 なんてことを。
 人の愛をアホな事だなんて、我が主ながらなんて乙女心の分からない男なのだろう。
 ここはビシッと言わなければいけない。

「失礼な、ちょっとオッサンと幼女が恋愛をしてるだけです」
「雪は凄いドジッ娘メイドなんだと自覚したよ」

 む、バカに思われてる。コレはなんか賢い事を言わざるを得ない。

「越 えちゃならない壁なんて無いんです!」
「じゃあオッサンと幼女は別として男同志で交じったら子供が出来たりすんの?」
「勿論です!」

 時が止まる。私ら二人を残し、周りの時間だけが経過。
 この感覚が「爆弾発言」ってやつか。


93: 名前:サスライ☆06/14(日) 10:47:39
 雪がギャーギャー騒いでいる間、俺は【何か】を思い出しそうだった。
 何かが引っ掛かる、喉の奥まで出ている。しかし、言葉や映像にするのが困難、そんな感覚が押し寄せていた。

 しかし、少したった時だろうか。俺はふとした事から雪のアイアンクローを喰らうことになる。

「ウギャー!」
「初めてそう叫んだ人の顔って気になりますよねぇ」

 等と暢気な会話を繰り広げつつも、アイアンクローの痛みを和らげる。

 …あれ?俺ってどうやってアイアンクロー(顔を握力で握り潰す技)を防いでるんだ?いや、そりゃあ鉄面皮だったら別だが。
 例えば宗厳!…は、別に違うか。うん、例なんてどうでもいいね♪

 兎に角俺はアイアンクローの痛みを和らげる事に成功している。
 そんな事を考えていたら

 過去が、思い出された。

 † † †

 道場だった。木の臭いと独特の冷たさが身を引き締めさせる。

 目の前には眼帯を付けた男が居る。年齢は不詳。
 か~、嫌だね~、ピリピリしちゃって。ピリピリしてんのは今日食べた辛子マヨネーズパンで十分だっての。腐ってたけど。


94: 名前:サスライ☆06/14(日) 14:01:53
 喫茶店を照らすあのライトは、先程までは温かい印象を与えていたが、今度は真実を暗闇に逃げられない印象にする。

 それは恐らく私の心構えの違い。そう、人とは心構えで見えるものが変わるのだ。

「さ て、未だにラフ画すら描いて貰えない丈治よ…」
「サラッと残酷だね。実は描いてみるとシェンフォニーと被るという裏話があるんだが、どうでもいいね。
で、何の用かな?」

 シェンフォニーには金は無いと言ったが、実は嘘だ。
 金が無ければクロガネの修理も、修理用の装甲の運送を海運会社に頼む事も出来ない。
 私は札束を取り出した。随分古いが、金には違いない。

「情報屋としての貴様に情報を頼もう」

 彼は目付きを変えた。穏やかな眼から、野生の獣の眼へ。
 下手を言えば自分が死ぬ危機感を飲み込んだ眼だ。

「… とうとう、決心したんだね?覚悟はいいね?」
「節介を言うな」
「フフッ、ゴメンね」

 口では笑っているが眼付きは決して変えようとはしなかった。
 そんな彼は淡々と、只、淡々と言ってみせる。

「輪の帝国は滅んだよ。
社君も含めてね」

 「本国」が滅んだ覚悟はしていた。
 大切な人がもう居ない事も承知の上だ。
 だから私は表情を変えない。

 しかし、涙腺に刺激がある事を否定はしない。


95: 名前:サスライ☆06/14(日) 14:38:02
 カウンターに私は腰をかけると彼は何やら料理を作り出した。
 料理を作りながらの方が集中出来るという事だろうか。

「輪(リン)の帝国は当時の技術ではあり得ない『鉄兵』で東部を統一した。クロガネはその旧式だね。
その開発を行ったのが稀代の天才・社(ヤシロ)君だ」

 淡々と語るそれは詩劇と言う上等なもの等では無くて、ましてや授業なんてものでも無い。
 情報を渡しているだけだ。
 私は息を飲む。これを漏らさない様にと。

「そんな無敗の帝国は、西の軍事国家に攻めたんだね。
これが国の転機となる訳だ」

 彼は卵を取り出し、殻を打ち付けるとそれは割れた。
 黄身がボールに出され、かき混ぜられる。

「西の国には人並み外れた力を持った『英雄』が居た…。
帝国の鉄兵部隊は英雄の指揮する人間の部隊に大敗。
やむ無く逃げたが、その時、輪の帝王が病に倒れたんだね」

 かき混ぜて砂糖やらを加えられた卵を熱した鉄板の上に敷く。
 卵は固くなっていく。

「その後、お偉いさんが帝王に代わって『皇帝』やら名乗って迎え撃とうとしたけど…その先は、いらないよね?」

 彼は出来上がった料理を差し出す。美味しそうなクレープだった。

「僕の奢りさ、これでも食べて元気をだしなよ」

 彼の眼はいつの間にか何時ものノンビリしたものに戻っていた。


96: 名前:サスライ☆06/14(日) 16:08:13
 静かな広間で二人っきりで☆
 …なんてのがロマンチックな物だと思ったら大間違いだよ!何が悲しゅうて道場で野郎と一対一で稽古せにゃいけないのさ。

「噴(フン)!覇(ハ)!!」

 過去のシェンフォニー、つまり俺はそんな事も考えずに一心不乱に拳を振り続ける。
 あ~、馬鹿。未熟過ぎだっての。もうちょい踏み込めるでしょ、その突は。

 眼帯の「老師(あ、先生って意味ね)」もそこを指摘した。だよね~、ったく、その程度で口を尖らせんじゃ無いよ、俺。

 注意されて、俺は拳を止めた。
 拳を見つめ、そして語り出す。なんだぁ?中二病か?

「老師、俺は強くなれるのですか?
俺は強くなりたい。
この世の何よりも!」
「ほう、と、いう事はワシより強いという事じゃぞ?」

 胡座座りの老師は薄ら笑いを浮かべて頬杖をかいて見せた。
 そしてそんな老師の期待に俺は答える、無意識に、若いっていいねぇ~、雪みてぇだな。俺。

「ハ イ!鉄兵の軍隊すらなぎ倒し、国をも一人で落とす力が俺には欲しい!」

 すると老師に笑われた、「夢物語がすきなんじゃな」と。しかし、言葉が加えられる…

「じゃが、ワシの流派は正にそれ、人間の可能性を引き出し続ける事を旨とする!
出来ないのは魂が未熟だから、良いか覚えておけ!

人間の可能性に不可能は無い!」

 老師はそう言ってみせた。あ、この後の事はよく思い出せる。
 三体の鉄兵を拳で破壊したんだっけな…。


97: 名前:サスライ☆06/14(日) 21:21:17
 そして現在。俺は雪のアイアンクローを受けている。でも、余り痛くない。
 ああ、これも今思えば、あの流派の技だったのか。

 特殊な訓練により、体内のホルモンを意図的に分泌させ、一時的に体の一部へのダメージを極限に減少させる。

 あ、これを応用すれば鉄塊だって砕けるかもしれね。それこそダメージ無しで。周りから見たら人並み外れた力なんだろうなぁ

 と、ここまで考えた所で雪が視界に入る。あ、アイアンクローを受けてたんだった。
 こりゃ、おいしいボケ所だな。

「フッフッフ…
そんなモノじゃプルコックを開けてないジュース缶位しか潰せぬえなぁ~♪」

 尚、プルコックを開けてないジュース缶を潰すには最低200キロの握力が必要である。勿論、雪にそんな握力は無いが。

「いやいやいや、十分ですから!潰れないアンタの顔の方が異常でしょう!」

 必死なのか冗談なのかよくわからない雪の顔を見て、俺は狙った台詞をだす。

「フッ フッフ…
俺とジュース缶なら俺の方が強いに決まってるだろう!」
「スゲー理屈ですよ!?ソレ」

 今日も何時もと変わらない。なんだろうなぁ…
 どう変わろうとも俺は俺で居続けられる気がする。

 そんな気のする、昼あたりの時間だった。


98: 名前:サスライ☆06/15(月) 18:02:17
 想う殿方と静かな所で二人きり☆
 そんなのがロマンチックだと思ったら大間違いだよ。ゴルァ!

「なぁ雪」
「何ですか…シェンフォニー様」

 この台詞を切り取ればロマンチックにも聞こえるだろう。
 一昔前の少女漫画の告白シーンにも使えるだろう。
 しかし相手と場所が悪かった。

「こういう所ってなんかエロ本とか落ちてそうだよな♪」
「話題は少しは性別選びましょうや」

 鼻に触る油の臭い。静かに音を出す怪しげな機械多数。そして鈍い音。
 晶ちゃんに頼まれて時計を受け取りに来た工場である。
 尚、最後のは私がシェンフォニー様を、よく分からないがなんか格好良いキックで蹴った音だ。どうでも良いが。

「雪、俺は服や絵にも言える通り白には黒が合うと思う。コントラストが利いていてな。」
「はぁ、何ですか?突然」

 もしかして、さっき頭を打った衝撃でおかしくなったか。
 しかし、これ以上おかしくなると逆にマトモになるのではないか。
 と、来ればこれはマトモになって芸術に目覚めたシェンフォニー様かも知れない。

「雪 のさっきの蹴りで見えた白いパンツの色のお陰で向こうの黒い機械が目立って…
ギャオーー!」
「ハァ…なんで私はこんなのに付いて行ってるんだか…」

 セクハラに対して斜め四十五度からのチョップで溜め息を吐く昼下がりである。


99: 名前:サスライ☆06/16(火) 18:15:06
 我は鉄兵。人類の文明の象徴たる鉄(クロガネ)の名前を承りし者。

  …と、これじゃ固いね、うん。鉄だけに。
 まあ、クロガネだよ。
 勘違いでシェンフォニーの引き立て役になった絶賛不幸人さ。あ、人じゃないや。ゲラゲラゲラ。

 僕はね、昔、とある帝国の兵器として作られたんだ。んで、研究の護衛の為にここに来たんだけどね…。
 帝国としては新型の鉄兵が出来たから置場所に困ったんだね。ぶっちゃけ左遷されちゃってさ~…ハァ。

 そこから宗厳、そして社と生活が始まったんだね。
 あの頃は楽しかったなぁ。社、今頃どうしてるかなぁ
 …多分死んでるけど。
 で、帝国も多分滅んでるんだろうなぁ。だって絶対無理あるもん、あの国。

 宗厳も薄々気付いていたってのは解る。でも、知ろうととしなかったのはきっと認めたくなかったから。
 あの娘、居場所が無かったんだよな。あそこ以外に。
 それ以外にあるとすれば社か…。
 あ~やだやだ。知っちゃえば、ヘビーにダブルパンチじゃんか~。

 ん?メンテ中で目は見えないけどセンサーに反応あり?
 これは、二人か。
 よく聞こえないけど、声からして男と女。なんか雰囲気がいつぞやの社と宗厳みたいだなぁ。


100: 名前:サスライ☆06/16(火) 18:32:04
 祝・100レス☆
 やっぱりここは主役である俺、シェンフォニーの出番だろう♪

 え、主役は雪?おいおい、話の腰を折るなよ~

「誰に言ってるんだ?」
「何時も思いがけないところで来るよな、雲吉よ」

 俺は雲吉のクチバシを人差し指でペチペチと叩いた。するとキツツキよろしくコメカミにクチバシによる反撃が来る。

「アウチ!」
「な~に、電波な会話をしているんですか馬鹿主」

 雪が呆れてこっちを見ていた、冷ややかな眼で。
 凄いだろ?呆れるだけじゃ事足りず冷ややかな眼のダブルパンチだ!

「いやぁ…折角の100レスだし」
「ハ イハイ、アンタだけの力みたく言わない。読者様の応援あっての連載でしょ」
「ところで、さっき気になったっつー、黒い機械なんだが」
「うわ!度肝抜かれる程に無理ある繋ぎですよ、それ!」

 雪の抗議を断ち切って、黒い機械に焦点を向ける。
 それは、実のところ黒い機械では無かった。
 ネジやら歯車やらの銀色部品が所々で動いていて、所々に黒色の鉄板が貼り付けてある。

 いつぞやか、山で世話になった鉄兵。名前はクロガネっつったかね。


102: 名前:サスライ☆06/18(木) 14:35:54
101
 番外編

「うん、ありがとう!そしてここまで来れたのもひとえに俺のおかげ!俺万歳!」

 ロックンロール宅配便にて、社長であるジャックが返答をしていた。

「いや、絶対に違うと思う。自意識過剰だよ」
「オイオイ、まさか本当にそう思ってるのか?」

 私は「うん」と即答したらジャックは床にヒジをついて、うつむいた。
 ちょっとショックだったらしい。てか、その自信はどっから来る…。

「と、言うわけで夏実s。今まで陰ながらありがとうございます。これからも是非、ご贔屓にして頂ければ嬉しい限りです」

 と、それを言い終わった時、ジャックがこっちを見てきた。

「固い!固い!固い!!
そんな固い返事じゃ、次、レスを出し辛いだろう!」
「でも、ジャックのは【ウザい】よ?それこそ出し辛くないかな」

 また落ち込んだ。
 まあ、良いんだけどね、どうせ30秒もすれば元に…

「ところで、ここに居るって事は俺等に再登場の見込みはあるって事だな!?」
「いや、プロットどころか予定もないよ」

 と、まぁ。ありがとうございますの一言につきます。以上、ジャック船長と秘書でした。



「…本社、島に移すのも悪くねぇなぁ。
シェ ンフォニーには負けらんねぇ」
「運送の需要が物凄く減りますが、やりたいならどーぞ」
http://x.upup.be/?SxzMdAFM54


104: 名前:サスライ☆06/20(土) 02:29:15
 丈治に本国が滅んだ事を聞いた私は、溜め息ばかりついていて、商店街をフラフラと、まるで糸の切れたタコの様に歩いていた。

 商店街を歩けども店には入らず。商品を眺めども鑑賞はせず。
 心ここに在らずとはこう言う状態を言うのだろう。

 私には居場所は無い。
 周りと何の繋がりも無い。
 ならば仙人の様な生活なんか止めてしまえと思えども、止められない。

 実は、研究の秘密は山に隠されているのだから。

 気付くと商店街の出口に居た。そして何もする気になれなかった。
 だからウダウダグチグチと考える。

「居場所…か…」

 そこまで思って私とは何かを考えた。

 研究を護るもの…。

 だからこそ山の管理人なんてしていたが、本国が無くなる事でこれに意味が無くなったなら私とは何だ!
 何故、生きている!
 何故、こうも生き恥を晒しているのだ!

「教えて下さい、社博士…」

 何時も考え事をしていて、研究の事しか考えてないように見えて、
 実は部下の気持ちを第一に考えてる不器用な人。

 それは、クロガネの様な鉄兵も例外ではなく、

「私も、例外じゃなかった…。
私の様な気持ちに欠陥があって島に送られた【人形兵】も…」

 人形兵…。それは、鉄兵を人形の形にした、人の様で人で無い存在。

 さっき食べたクレープが分解されて、私の体内の歯車を動かすエネルギーに変換されるのを感じた。


107: 名前:サスライ☆06/20(土) 18:24:27
「そろそろ休みたまえよ」「ひぃっ!」

 研究所の警備中、私の肩に突然後ろから手が当てられた。思わず抜刀してしまう。

「ハッハッハ、君は相変わらず茶目っ気に溢れているねぇ」

 呑気に、しかしテキパキと彼、向日葵 社(ヒマワリ ヤシロ)は言葉を紡ぐ。私に刀を突き付けられた状態で。

「は、博士。あ、あ、ああああ、あの…」
「ん、何かね?先ずは落ち着きたまえよ」

 私は肺(正確には肺の役目をする部品)の位置に右手を当てて深呼吸をした。スーハーと。

「あの、博士…。私は休む必要はありませんので、平気なのですが~」

 何故だか知らないが、私は両手の人差し指をチョンチョンと当てて上目遣いをとる。

「ふむ。何故かね?」
「いや、人形兵だからに決まってるでしょう!」

 夜だと言うのに声を張り上げてしまう。森中に声が反発して赤面してしまう。
 そんな大きな声を、彼は小さな声で無力にした。

「ふ む。だから何だと言うのかね?
君は確かに機械だが、それは人間を模して造られている。
私(科学者)に言わせれば君と人間に大差は無いよ」

 私は言い返せなかった。言い返せないままに彼は言葉を続ける。

「さて、警備はクロガネが代わってくれる。
今日の夕飯はシチューを用意してあるから冷めない内に食べねばね」

 背は小さいけど、大きい背中の彼。それに向かって私は言った。

「はい…」

 この時私は笑顔だったと思う。
108: 名前:サスライ☆06/20(土) 18:48:01
 鉄兵の開発は、一体の人形兵の発見から始まった。

 当時、戦争で負けそうな輪の国の兵士が、偶然土砂崩れで見つけてしまったカプセル。
 その中に入っていたのは人にそっくりな人形。

 それを調べて、目が開いた事に驚いていると、
 「彼女」は先ずはこう言ったらしい。

「お腹減ったなぁ…」

 敵を倒したらご飯をあげると言われた彼女は敵を圧倒的な戦闘力で殲滅。

 それを聞いた輪の国の帝王は彼女と同じモノを造れないか?と、一人の天才に言って、そして…

「数体作った中に、私が居た…」

 私は只、只、何となく過去を掘り出す。自分が何者であるか見付ける為に。

「私は…」

 気付くと声に出していた。気付くと、下を向いていた。しかし歩みは止まらない。

「痛っ」

 だから電柱に頭をぶつけたりした。犬の糞を踏まなくて良かったなぁ…。
 そしてブツブツと続ける。

「私は、『欠陥品』だった…。非情に徹せず、殺せず、怯え、兵士に向かなかった」

 そこまで考えて、前を見るとメンテナンス中のクロガネが居た。
 いつの間にか工場に来てしまったらしい。
 そう言えば、コイツも『欠陥品』なんだっけ。

 私はクロガネのボディを見て、また呟いた。

「ねぇクロガネ。私達は救われるのかなぁ…」


109: 名前:サスライ☆06/20(土) 19:09:01
 俺、シェンフォニーは雪と館に帰る途中だった。
 俺が空を見上げて雲を見詰める。過ぎ去りし時の空を
 …ってちょっとこのネタはもう古いか。
 まあ、ダベりながら帰ってたんじゃね?

 その会話に雪がこんな話題を持ち出してきた。

「シェンフォニー様って、もしかして記憶、戻ってません?」

 どう答えたら面白いか考えてみる。しかしそれだとグダグダになるからストレートに返す。
 いや、ホントはギャグに走りたかったんだけどさぁ

「う ん。断片的にだけどね。俺と雪の関係は全然わかんね」

 すると雪が表情を曇らせた。なんだろう?記憶に自分が無いことが悔しいのかな?
 ならば俺は雪を励まさねばならん。よし、いくぞ!最上級のギャグを喰らうがいい!

「あのさ~、雪…」
「シェンフォニー様。聞いて下さい。私は、貴方に記憶を取り戻して欲しくない」

 うわ~お、被ったよ。しかも真面目な台詞で。

「貴方は、記憶を取り戻したらきっと絶望する。
その時、貴方がどうなるか解らない…
只、貴方を失いたくは無い!」

 俺は彼女の台詞に軽く返す。

「んな事言われてもなぁ~。ま、なるようになんじゃね?」
「そんな、私は真面目に…!」

 雪の口を人差し指で押さえてみた。夕陽のせいか彼女の頬が紅く見える。

「俺は、俺さ」

 彼女の瞳を見る。どこまでも、力強く。


110: 名前:サスライ☆06/20(土) 20:15:05
 クロガネのボディを見る。
 無言で。
 原因は落書きがしてあった事だ。しかし私は怒る事も無ければ、「うぇ~、もうイヤ~」と泣き声を洩らす訳でもなく、無言なのは只の落書きでは無いからだ。

 私はクロガネと通信を開始する。
 電波でクロガネと会話できる、普段会う私としてはホンヤクコンニャクの様に便利な代物だ。

(こ れを描いたのは誰?)

 言葉に訳すとそう言う意味の電波をクロガネに渡す。
 そして直ぐに返ってきた。

(宗厳が来る前に今日、ここに来てた男女の二人組)(その時の状況を詳しく教えて)

 クロガネは少し返事を返すのに間を開けた。メンテナンス中でよく思い出せない情景を必死で思い出しているのだろう。
 しかし、私にはそれが非常に苛々した。焦っているのだ。
 私にとっては藁をも掴む想いだったのだから。
 そして、返事が来る。

(男は呑気な性格。女は過保護。
男がこれを描いた時、「あ、なんか頭に思い浮かんだ!芸術的だぜ!」とか言って女を呆れさせたが、
暫くして女は声が震えた。女にとって何か重要なモノと思われる…)

 クロガネとの回線を切り、改めてその落書きを見る。やはり驚くしかない。
 だってそれは、

 輪の帝国の、
 王家の家紋だったのだから。


111: 名前:サスライ☆06/21(日) 10:45:28
 私に家紋を見た時、浮かび上がった感情は、
 「憤怒」だった。

 それは、その家紋を描いた者に居場所を見出だしたからではなく、
 あの戦争の生き残りがこの島で生き延びているが故にだった。

 何故、これを描いた男は最後まで戦わなかった?
 何故、これを描いた男は社博士を護ってくれなかった?
 何故、これを描いた男は、私はこんなに苦しんでいるのに呑気に生きられる?

 何故、何故、何故、何故、何故、何故何故何故、何故何故何故何故…


 感情の向くままに考え出したら止まらない。知っている、感情に身を任せれば流されるだけ。
 だから私は兵士になれなかった。

 それでも、やはり感情に流されるしかない。この憤怒を収められる程に私は大人ではない。

 私は、気付けば喫茶店;ジョージに居た。男について情報を得る為だ。

「丈治。また、情報を頼むよ」
「…どんな情報だい?」
「輪の帝国の生き残り兵士がこの島に居ないか?」

 私と眼を合わせて、彼は眼の色を変えた。
 冷たくて、圧迫感のある、
 哀れみと同情の色へ。

「…これは僕の老婆心だけどね、止めといた方が良いよ?復讐なんて」
「節介を言うな」

 自覚はしているんだから。


112: 名前:サスライ☆06/21(日) 11:57:19
 さてさて、本日の夕飯も美味しゅうございました~っと。
 やあ。皆のヒーロー、シェンフォニーだよ。

 今、ちょっと用事が入っちゃったんだ。ねえねえ、聞いてくれよ~、

 矢文で果たし状叩き付けられちった。

 矢文によれば、なんか俺は輪の帝国か、それと戦争をしていた西の国とやらの生き残りで仇討ちがしたいんだと…。

 てか、これ完璧に八つ当たりだよね!?俺って記憶ないし。

 全く、宗厳も人騒がせだよねぇ~、
 だからこそ、からかいがいがあるんだけどさ。

「あれ?お出かけですか?」
「うん。ちょっと自分探しの旅に出掛けてくるね~」
「あ゛~ ハイハイ。朝には戻ってきて下さいね」

 雪と玄関で何時ものやり取りをする。相変わらず雪は疲れた顔で返事をした。
 その顔を見送り、その言葉に見送られ、俺は何時ものスーツを来て外に出た。

 潮風が身に染みて、身を引き締まらせて満月が心に落ち着きを与える。

 そして、満天の星空が鼓舞を与える。

 俺はスーツ玄関に立て掛けておいた杖を手に取った。材質は骨だが鋼より硬い杖…。
 俺はそれを掲げて、海に言った。

「シェンフォニー。参る」

 あ、でもズルズルとバトル小説になったりはしないから安心してね。
 多分だけど♪

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最終更新:2010年05月08日 17:45
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