154: 名前:サスライ☆08/10(月) 22:33:39
俺、シェンフォニーが教師をやって思ったのは「色々なヤツが居るな」と、言う事だ。
実のところ、真面目に授業を受けている奴なんて一握りで、他の奴は自分の事に精を出す。
つまり、自分の事で精一杯なんだろうなぁ…
そんな奴等を見て、それぞれの生き方というものを学ばせて貰った。
記憶喪失に多大な刺激となる。
結局は他の奴から学ばせて貰うのが一番手っ取り早い。
鼓動がする。
この鼓動は何だろう。
思いあたる事と言えば昨日、井時のプリンを食べた罪を雪になすり付けた事だ。
まあ、違うだろうが。
と、言うよりもそんな日常のネタで終わらせたい。
井時が黒くて、雲吉がフリーダムで、
そして隣には必ず雪が居る。
そんな日常の一コマであって欲しいが、違うことは本能が告げている。
『生徒』とは、自分を探す事が多い。そんな奴等に向き合って記憶喪失に多大な刺激を受けた。
記憶が、戻って来ている…。
脳裏に場面がページを高速で捲るように巡る巡る浮かび上がる。
嗚呼、俺は確か
死ぬ為に戦場に向かい、そして…!!
しかし、今の俺は廊下を見る。これから廊下を渡り、職員室に行かなくてはいけない。これが今の俺だ。
俺は俺だ。
だから一息、言葉をもらした。
「ま、ど~でもいっか♪」
足取りは何処となく軽い。
155: 名前:サスライ☆08/11(火) 15:28:06
「彼はそう簡単に変わらない」
と、先程自分で言ってみせたが不安の波が再び押し寄せる。
波は私の心臓を呑み込み、暗くて冷たい世界へ連れ去ろうとしていた。
いけない。
何を弱気になっているのだか、何か別の事でも考えて明るくなろう。
そう言えば晶ちゃんが何か私を見て言っていたな。プリンがどうのこーの…
「… あ゛!まさか、私がプリンを食べたことになってる!?」
結論に達する。私の心臓は一気に跳ね上がり、その衝撃波はチッポケな波なんか惑星の向こうまで跳ね返す。
確かシェンフォニー様は、まとめをする為に職員室に向かっている!
ならばこの先の廊下だ。
今日一日雑用をしていたから地理はお手の物。
首を洗って待っておれ!
とか、考えている間に見えるのは歩くシェンフォニー様。
私は足音を東洋の隠密顔負けの忍び足で消して、素早く近付き、ハリセンを振り上げ…
そしてズベシャッ!と転ぶ。
しかも一回転して転ぶ。新体操なら10点だ。
「な、なにぃ…」
「ふっふっふ…雪、甘いな!俺が雪の臭いに気付かないとでも思ったか!
バナナの皮を仕掛けさせてもらった!」
なんか発言が変態チックですよ!?馬鹿主!
156: 名前:サスライ☆08/12(水) 17:43:31
私は呆れていた。それを形容するなら未だに「チェキラ★」を使う人間をリアルで見た位の呆れだ。
もっとも、シェンフォニー様ならやりかねないが。まぁ、今はシェンフォニー様に呆れている訳では無い。実際「チェキラ★」をしてる訳では無いし。
だからと言ってバナナの皮を使った事に呆れている訳でも無いし、
それに私が地味に引っ掛かった事に呆れている訳で無ければ、
シェンフォニー様の顔に私がバナナの皮により滑った時拍子に手からスッポ抜けた鉛仕込みのハリセンが上から直撃して、彼が頭を押さえてながらも言葉にならない悲鳴をあげながら廊下を転がっている事に呆れている訳でも無い。
自分がシェンフォニー様の記憶【なんか】で怯えていた事だ。
プリンの事なんかで吹き飛ぶ様な悩み、ある意味自分の罠で自爆している彼。
そんな事に何を真剣に悩んでいたんだか…。
こんなのに悩む自分が世界で一番頭が悪く、そして幸せなのでは、ないのかと感じる。
決めた。
言おう。グジグジ悩む位なら。
彼の記憶を言ってしまおう。
私は心で気合を入れて、
ハリセンを拾い上げ、
取り敢えずシェンフォニー様に追い討ちの一撃をかけた。
流石に手応えがあるなぁと思いました…あれ、作文?
157: 名前:サスライ☆08/13(木) 23:10:34
この世はモノクロだ。それで十分だ。
俺、新木 タオはそう思う。
ゴチャゴチャ色を塗りたくったトコロで本質は変わらない。
葉だって、季節毎に色が変わるが結局は葉でしかない。
シェンフォニー教諭の隣に雪さんが居ようと、彼は俺と同じ肉食獣。
…嘘だ。
そうやって自分を誤魔化すことでしか己を認められない。
嫉妬している。
雪さんは暗黒に落ちるか、空白になるかのシェンフォニー教諭を染めてくれている。
第三の選択である『色』が存在している事に嫉妬しているのだ。
そう、世界がモノクロに見えると言うことは自らがモノクロであると言う事に他ならないのだ。
嗚呼、暗いなぁ…
嗚呼、何もないなぁ…
サングラス越しの世界は世界を物理的にモノクロにした。更にモノクロに感じて単なる廊下の冷気を極寒の吹雪に変えてみせた。
その時、救助の声がする。
「タオー!!
太郎をバナナの皮に滑らせてやろうぜ★」
文哉の声。そこで感じるのは彼のキョトンとした表情。
「あれ、どうしちゃったのぉ?何時ものノリはどーしたノリはぁ!」
ふと我に帰る。そこに太郎の声が来た。
「声がでかくて全部聞こえてるんだけど~?」
…世界は色で決まる訳では無いのかもな。こうして音もあれば、感触もある。
「よし、じゃあ太郎にバナナの皮をぶつけてやろう♪」
俺は何時も通り馬鹿馬鹿しい声を上げる。
サングラスの向こうに暖かさを感じた。そんな一日であった。
158: 名前:サスライ☆08/13(木) 23:13:19
第六話 完
159: 名前:サスライ☆08/15(土) 13:44:57
第七話
ボクは誰だっけ?
始めに浮かんだ疑問。視界は低い事から背が小さい事が分かる。
この人達は誰だっけ?
周りにはライフルを構える傷だらけの4人程の男達。
ここは、ドコ…?
自分の尻を見ると、そこには柔らかい椅子があった。
これは知っている。これはボクの様な【アンドロイド】の休眠装置。通称【カプセル】だ。
そのきっかけで記憶が芋ヅル式に脳内から発掘されてくる。
と、その時、ライフルを向けてた男達が邪魔する様に口を動かす。
「貴様は何だ!?
エピソード共和国の手の者か!?」
エピソード共和国…確か、ボクの知ってるのは護る騎士の国であり、自ら戦争をするよーな国じゃなかった。
しかし、ライフルに刻まれた年代を見ると此処はどうやらボクが【休眠】してから15世期程後の世界らしい。
ならば道徳観位は変わっててもおかしくない。
つまり、情報が少なすぎるんだ。
情報を聞くためにボクはリーダー格の男のライフルを奪い、後ろに回り込み、銃を突きつけ、口を開く。
「… 君達の国ってさ、15世紀前はどんな名前だった?」
どうやって動いたか。
高速で動いたんだ。
少し、人間の目では捉えきれない速度なダケだけど。
これが、ボクと輪帝国の出会いだった。
その後、ボクの身体を基に人形兵や鉄兵といった輪帝国の主力平気が作られる事になる。
160: 名前:サスライ☆08/17(月) 18:26:12
銃口を更に押し付ける。しかしリーダー格の男は怯えの表情を取らなかった。
寧ろ周りの小物臭い部下の皆さんが怯えてる位だ。「フヒー!」と。
「ふむ。
取り敢えず私達の国は15世紀前は~」
リーダー格の背が小さくて、伏せ目の白髪。しかし若い男は淡々と説明する。まるで自分の命の事等、他人事であるかの様に。
取り敢えず状況は把握した。
どうやらエピソード共和国と輪帝国は貿易をしていたそうだが、エピソード共和国が交易のメインに使っていた品物を輪帝国が開発出来るようになり、買わなくなった。
しかし押し売りをしようとするエピソード共和国。
買わない事を理由に戦争。
エピソード共和国は本来軍事国家であり、輪帝国は押される一方である。
「つまり押し売りの逆ギレなんだ?」
「うむ。
向こうは軍事に費用をかけている訳だから他が疎かになる。
これで貿易が成り立たないと軍備を縮小しなければいけないからな」
ボクのカプセルが埋まっていた砂地よりも砂っぽい表情で彼は冷静に分析をしている。
この時は訳も分からず同調した。今思えばボクも似たような境遇だったからかも知れない。
自分がどうでも良いと言う意味で。
それこそ、この小説の話数が実は間違っていのを作者が気にしてる位にどうでも良い。
161: 名前:サスライ☆08/19(水) 16:18:38
ジリジリと日が肌を照らす。海辺のワカメだったら臭いがキツくなる温度だ。
日光はは二つの小さな人影を作った。一つは銃を突き付けているボクで、もう一つは銃を押し付けられた隊長。
あ、ついでに彼の部下とかも居たっけ。どうでも良いけど…。
ボクは彼等に問い掛けると隊長のみが呆然としていなかったので答える事が出来た。
隊長はその死んだ魚の様な眼を持つ顔から、腐ったワカメの臭いがしそうな台詞を吐く。魚だけに淡白に。
「ふむ。白旗を振るから捕虜、だろうな」
「捕虜になったらどうなるの?」
「酷い扱いだろう。腐ったワカメが食事に出てもおかしくは無いと思うのだよ」
「君はそれで良いの…?」
「ふむ。私は隊長だが、錬金術師でもあってね。
大好きな実験が出来ないのは残念だが、それだけだ」
15世紀前の物語の台詞にこんなのがあった。
人は自分を見る事が最も不快な事である。
だからボクの顔は無表情だが(影の薄い部下に後から聞いた。因みに影の薄い部下は丈治とは関係無い)、
コメカミには青筋が浮かび、
ライフルの柄で彼の後頭部を引っ叩くとライフルは手元で震える振動を起こす。
ところで、『震える振動』ってナンダロ…
162: 名前:サスライ☆08/22(土) 01:35:25
謎の少女に頭を打たれた衝撃だろうか、隊長である私には名案が浮かんだ。
アイデアとは、過去の様々な体験が寄り添い、突拍子も無く浮かんでくる物だとしたなら、
このアイデアは殴られたせいだ。殴られた理由は分かる。彼女が私と同じ目をしていたからだ。
自分を見て憤りを感じて、感情を抑えられなかったからだ。
それが殴るという選択肢に繋がり、その考えに至った時、自分は何でこんな目をしているのかと思えば、
欠けている事に気付く。『私である』といった『誇り』が。
それは傲慢なのかも知れない。しかし負の感情では無くて、寧ろ無くてはいけないもの。容量を間違えれば破滅に向かうだけだ。
傲慢は、薬にとても似てる。
だからこそ、私は今の行動に移っていた。これを打破できる行動だ。
打破すると言う事は自らを護ると言うこと。なんと誇り高い行動なのだろう。
土砂を疾風が如くに、駆け抜ける。後ろに部下が付いてきてるが正直二の次だ。
行き先は我が国。詰まる所…
今、私は逃げている!
誇りだと?
私は誇りを護る為ならば手段は選ばん!
言ってる事が逝っている様に聞こえるのは気のせいだ!
163: 名前:サスライ☆08/23(日) 13:41:49
ザワザワ、ガヤガヤと隊長が逃げた反対側から多数ジャンルな人の声の混ぜ合わせがする。
恐らくは輪帝国の敵国であるエピソード共和国の兵だろう。
ところで、エピソード共和国は軍事国家らしい。素人考えだが、エピソード共和国はあんまりご飯が美味しく無さそうだ。
それに、さっきの隊長は錬金術師。
と、言う事は匿ってくれるかも知れないし、金が沢山ありそうで美味しいご飯にありつけそうだ。
ボクの中で、アンドロイドになる前のの記憶…
【人間だった】頃の記憶が呼び覚まされる。
† † †
それは、かつてボクと共に居た人であり、ボクをアンドロイドに変えた人との記憶。
その人は言う。
「アンドロイドに変えた事で、君が僕を恨んでいなくて良かったよ。
だって、君をアンドロイドに変える事で病気から救えても、君が私から離れたら私は恐らく砕けてしまう。
君の命は、それ程までに尊いんだ…」
その人はその後ボクを抱いて泣き出した。
† † †
その人が居なくなって世界に大した価値を感じなくなった。
そして、ボクは、何世紀かすれば面白い世界になるかなと眠りについた。
声のする方に戦闘の構えをとる。勘違いしないでよ…
これは、え~と、
お腹が空いてたからなんだから!
164: 名前:サスライ☆08/24(月) 08:11:05
ボクは戦う、蟻の様に群がる敵と。あれ?蟻って事はボクは甘いお菓子?
や~、照れるなぁ…
でもむさい男はお断り。ボクはヒゲモジャ顔の首裏に手刀を加えて気絶させる。
「これを乗り越えたらあの人は褒めてくれるかなぁ…」
呟いて、目付きの悪い男の肩を外す。一気に目が開かれて冷血が苦悶の表情に変わる。しかし、ボクは上の空で目をキラキラさせていた。
「あの人は、撫でてくれるかなぁ…」
ボクは次々と相手を戦闘不能にしていくが、上の空の顔の目は昔の少女漫画の様にキラキラしていた。
今なら「テクマクマヤコーン」って言えば変身出来る気がするし、
今なら「イナズマキーク!」と、跳び蹴りを放てば宇宙怪獣を倒せる気がする。
…ネタがマイナー過ぎたかな。お腹空いたなぁ。
「大尉!あの小さいのは何でありますか!?帝国の生物兵器でありますか!?」
「恐らくは、だな。それにしても奇怪な目付きをしてやがる。
くっつけりゃ良いってモンじゃねーぞ!
アイツにホントの萌えって物を…グワー!」
「大尉~!」
なんかムカついたから大尉って奴の肩を痛目に外しておいた。
そんな大尉はボクに叫ぶ。
「くそ…なんなんだよ、テメエは!」
「ボク?ボクは…
井時 晶だ」
これは、ボクが村雲島に来る前の話…。
165: 名前:サスライ☆08/25(火) 20:43:59
向日葵 社(ヒマワリ ヤシロ)。
錬金術師である。輪帝国から命を受け、村雲島で秘密裏に何かの研究を進めていた。その護衛に天童 宗厳やクロガネを置いた。
そして、かつては輪帝国で一兵団で隊長を任され、井時 晶の第一発見者である。
これが私のプロフィールだ。こればかりを見れば輝かしい事この上無い。
しかし、これは恥ずべき事なのだ。
私は、逃げている最中に罪悪感に囚われていた。女子供を置いて逃げたから?
いや、この様にせざるを得ない自分に、帰ってきた誇りが手を広げて呆れているのだ。
どうしようもなく、泣きたくなった。
そこで、追っ手が来ない事に気付く。何故だと考えを追加させていると部下が声を張り上げてライフルを構える。
「人影が来ます!」と。
しかし手を下ろす合図で、私はライフルを下ろさせた。人影とは井時 晶だと視認出来たからだ。
本能的に脳内で私は無理にでも罪を否定する。
生きてたから良いではないか!逃げなければ誇りもクソも無いだろう!
しかし、もう一つの本能は正直だ。
私の涙は頬をつたい、彼女に駆け寄り抱き締めた。戦争中、敵か味方かも分からない彼女をだ。
そして叫ぶ。
「生きていてくれてありがとう!私の罪を軽くしてくれて!!」
「そんな事より、お腹減ったなぁ…」
何故だか余計に安心した。
166: 名前:サスライ☆08/26(水) 18:53:3
戦場から逃げた私は同時に軍そのものから逃げた。
逃げると言っても反旗を翻した訳でも無く、脱退したと言う意味で、
脱退は神封と言う名前の、上官が上に掛け合ってくれたのと、井時 晶のコピーを造ると言った理由から流れる様にスンナリ行った。寧ろ、国から研究資金が来た位だ。
造るつもりなど毛頭無いのに…。
その資金を以て私は町外れに研究所を建てた。勿論井時も『研究対象』と言う名目で一緒に住んでいる。
本音は井時に私と同じ孤独感を感じたからなのだが。
彼女は椅子に意味もなく反対に座り背もたれに腕を乗せて、腕にアゴを乗せて意味もなく回転しつつ、
メロンパンを口に入れながら何故か私に喋れている。
「ねぇ、社…」
「ふむ。何かね?」
私は失敗作だが味はまぁまぁの紫色の粒入り茶をビーカーで飲みながら話を聞く。
「もしかして、社ってホモの人?」
「ブッ!!ブホァ!!ゲホゲハァ!!」
茶を吹いてむせるというテンプレートな行動を起こしながらも彼女を睨む。
「な~ん~で~、そう思うのかねぇ~?井時晶くぅ~ん」
「だって女と一つ屋根の下で何もしてないじゃないか」
口を清潔なハンカチで拭い、冷静さを取り戻す。
「それは君が子供だから…
「15 世紀は歳上…♪」
酷い屁理屈を見た!因みに淑女諸君!私は女性の扱いが解らないだけだから誤解しない様に!!
167: 名前:サスライ☆08/27(木) 17:47:31
我が研究所の今日の夕飯はステーキである。向かいのテーブルには井時が座り、そのステーキを見て、言う。
「青いステーキなんて始めて見た。とても不味そうだ…」
「仕方ないだろう。売れ残りをなるべく無駄にしたくないんだ」
私は生活する為に商品作りの研究をしている。科学者(最近では錬金術師をそう呼ぶらしい)が言うのも変だが国から渡された資金には、なるべく頼りたく無いのだ。
だからアイデアを出し続ける悪戦苦闘の毎日を続けているが、中々成功の商品にはならない。
このステーキも『低コストな肉』と言う専売文句で作り上げた物だが、売れ残ってしまった。
因みに評判は、
「見た目が不味そう」
「カエルみたいな味がする」
「社、メロンパン買ってきてよ」
「あ、じゃあ私ジャムパン」
「私フランスパンね~」
…との大評判だ。悪い意味で。てか後半関係なくね?
まあ、アイデアは幾らでも出る。昔は天才だ何だの言われて嫌な気分になったが助かっている。
井時との平和な生活に感謝しつつ、ナイフをステーキに入れると頭でアイデアが浮かんだが、それは暫く封印される事になる。
アイデアとは兵器、『人形兵』の作り方であったからだ。
取り敢えず肉を頬張り、呟く。
「不味いな…」
「うん…」
井時もそれに肯定した。
169: 名前:サスライ☆08/31(月) 15:34:29
私の名前は向日葵 社で、研究所の名前とは大抵持ち主の名前が付く。故にこの研究所の名前は『ひまわり研究所』だ。
…なんだこの名前?
メルヘンチック過ぎやしないだろうかと思うと同時に、向日葵の研究しかしていないと誤解されやしないかと思うと同時に、なんで平仮名なんだろうと考えさせる。
「君、ネーミングセンス無いから…」と言われて、井時に付けさせた名前と思い出す。
全く、「愚連明光アックスボンバー研究所」の何が悪いのだが皆目見当がつかない。
と、まぁ、そんな研究所だが客は多い。
理由は三つで私の研究進度を進める為に憲兵がやって来るのと、技術提供を求めるのと(小さな村の為に技術者が少ない)、利益狙いに私の元にやって来るのだ。
例を上げてみようと思う。
先ずは兵士の場合。
「さて、向日葵君。研究の進み具合はどうかね?」
「難解ですね」
そう言って、何時も解らない振りをして追い返す。このまま戦争が終われば有難い。
二番目に技術を求める場合だ。
「ねぇ、向日
葵さん。植物に盗聴器を忍び込ませられるかしら?」
「可 能ですね」
「そうなんだ。じゃあ頼むわ。彼氏が近々女と飲みに行くらしいから直ぐにね♪」
…あれ?もしかして私は犯罪の手助けをしていないだろうか。
そしてもう一つ…
こいつが一番厄介だ。
「今日こそ貴方の助手にさせてもらいますよ!」
私の利益狙い。それが彼女、銀田一 雪である。
172: 名前:サスライ☆09/01(火) 12:28:22
トコロ変わって現代。社博士の事を思い出しつつ、私、銀田一 雪はどこからシェンフォニー様に話したものか考えていた。
博士がブレンド法を開発した紅茶を淹れながら。
博士と言えば、はじめの頃は何かと「一人で十分だ」と門前払いをうけた。
でも、たまに誰かが居た気がするのだが、どうも思い出せない…。
頭に何か引っ掛かる。
私もシェンフォニー様に「あんな事」をした分、記憶が曖昧だからなぁ。そのせいでシェンフォニー様は記憶が殆んど飛んだから私はまだ、マシと安心付ける。
さて、紅茶が二人分淹れ終わる。一つはシェンフォニー様で、もう一つは晶ちゃんの分だ。
場所が近い分、晶ちゃんの地下室に紅茶を持って行く。
彼女に頼まれた、ちょっと口に出せない様な同人誌と一緒に。仲間が増えて嬉しいモノだ。
「只 の腐女子菌ジャネーノ?」
黙れ雲吉。その口を腐った牛乳を拭いた雑巾で縛ってやろうか?
まあ、何はともあれ「井時室(地下室)」に付く。私は晶ちゃんに本と紅茶を渡した。
「しかし晶ちゃん、そのブレンド好きだよね~」
「まあね…。
懐かしい気分になれるからかな」
「…ふ~ん?
トコロで、私達ってどっかで会ったっけ?」
引っ掛かっていた事を言うと彼女は紅茶を吹き出し、カップからの反射で顔面パックみたいに紅茶を顔に付けた。
「そ、そ、そそそそんな筈無いじゃないか!」
ま、いいか。シェンフォニー様のヤツが冷めちゃうし。
176: 名前:サスライ☆09/03(木) 12:06:18
シェンフォニー様に何時も通り紅茶を渡して、ボケの後にボディーブローを加えると深呼吸する。
横隔膜は私の度胸、酸素は私の気迫。目を見開いて過去を語る決意をする。
「シェンフォニー様、ちょっと真面目な話をします」
「…ふむ。
過去か。良いだろう、君が言いたいのならば俺は拒まない」
ボディーブローから復活した彼は私と目を合わせた。
なんだ、私が過去を隠している事、解っていたんですか…
「トコロで雪…」
「如 何なさいました?シェンフォニー様。ボケだったらサッカーボールキックしますよ?」
「う~ん、でも無理だろ
だって雪の足、震えてるもん」
ホントだ。過去に集中し過ぎて気付かなかったが、私は未だに、過去を語り今を失う事が怖いらしい。
シェンフォニー様は溜め息を一つ吐いて私の顔を覗き込む様に見た。
普段見上げている側としてはギャップが激しくて威圧感がある。
そのまま彼は顎に手を当てて一考。顔を傾げて口を開く。
それは、地面から来た様に低い声だった。
「だからトイレは早く済ませ…プギャー!!」
「アンタにシリアスを求めた私がバカでした!」
彼は顎を蹴り上げられて吹っ飛んだ。復活には時間がかかりそうで面倒な事になったと感じる。
そして足の震えは消えていた。
179:名前:サスライ☆09/05(土) 20:16:35
私に過去は無かった。只、日の当たらない路地裏で育ち野良猫の様に暮らしていたのは覚えている。
多分、その頃の歳は12~14位じゃなかったかな
ワラで造った不細工な家の中、私は役人から盗んだサツマイモをかじっていた。
焼いていないので味気無いが、食べれる物があるだけで十分。何の為に生きるかとか、考えもしなかったし死にたいとも思わなかった。
かじっていた時だ、何やら、上流階級独特の革靴の音がして身を隠す。多分役人が私を追って来たのだろう。
だから捕まる事になるのだ。この家は怪し過ぎるし、それに火をつけようとしたから必死で飛び掛かったら掴まれた。
この後殴られるんだろうな。捕まった時は大抵そうだからわかってる。
でも、泣かない。水分が勿体無いから。恐らく私は仮面よりも無表情なのだろう。
役人が私の顔を殴ろうとした時だ、来ると思っていた時に拳はやって来なかった。
代わりに、頬を殴られる役人の顔があった。
「貴 様、何をしている?」
「な、なにをす…
テェ、太子!?ええとですね、これは税を盗んだ小僧に罰を…」
「ほう。不当に懐にソレを納めている貴様が言える事か?」
「ヒ、ヒィ!お許しを!」
役人は私を自然に離していて、偉そうな人に懇願して、滑稽だった。
これが、私と神封兄様(シェンフォニー様)との出会い…
最終更新:2010年05月08日 17:49