182: 名前:サスライ☆09/06(日) 19:01:59
私は太子と呼ばれた男をジィと見てた。黒髪のオールバックでタレ目、そして貴族特有の白布に金を散りばめた中華服を手本の様に着ている。
私とは遠く離れた存在であり助ける理由等、天文学的数字が関与する程あり得ない。明日は水虫に侵された火星人が侵略してきてもおかしくは無いだろう。
「何で助けたのさ?」
「コイツが税を不当に懐に入れていて罰を与えようと探していたら偶然貴様が殴られそうだったからだ」
彼は冷たく淡々と、私を掴んでいた役人をカカトで踏みながら答える。グリグリと…。
彼は役人を片手で担いで私に背を向ける。役人は都に戻され、新しい役人が都から来るのだろう。
「と ころで、何で殴ったのさ」
「…?」
「殴らなくても一声かければ良かったじゃないのさ」
問いかけに彼は歩くのを止めた。彼は上を向いて担いでいない方の手でアゴに手を当てた。
そして数秒して、彼は役人を地面に落とし、肩や手やらの動きから推測するに懐から何やら取り出して書き始めた。
すると私に振り向いて紙を渡す。字が書いてあるが勿論学の無い私にそんな物は読めない。
「これを、役所まで持っていって『神封太子の命令だ』と言って来い…。
マトモな飯くらいなら喰える」
そう言って彼こと神封は、また役人を担いで去って行った。
突然過ぎて呆然として、結局答えを聞いていない事に気付く。
184: 名前:サスライ☆09/06(日) 20:40:50
183
そうですか。そりゃ嬉しい♪ならば、少し頑張りましょう
† † †
役所に例の紙切れを手渡すと、手渡された側は猜疑(サイギ)の表情を私に向けた。私は学が無い分そういう感情を読むことには自信がある。勿論役人を殴った時の神封の感情も。
あれは『焦燥(ショウソウ)』。則ち焦りだ。
ワキガに侵された木星人が近々攻めてくる予定で、それに焦ってるのかも知れないといったのが私程度の予想だが、学の無い私だから恐らく違うだろう。
無駄な事を考えている内に何やら部屋に案内された。向こうは、はじめと打って変わって敬語を私に垂れる程に頭が低い。猜疑は残っているが。
「こちらにございます。お嬢様」
「…凄い」
私はアゴの骨が外れるかと思う位に呆然とした。
何やら柔らかそうな布団と敷物に、ヒノキの机に棚。棚には沢山の本がある。そして埃らしい物は見当たらない。
「これ、タダで使って良いの?」
「ハイ。太子の命令で御座います」
何か泣けてきた。恵まれた事はあっても、ここまで恵まれた事は無い…。
掌を顔に当てて膝を付く。自分の感情がよく解らなくなってきた。
その時、後ろから神封と同じく私より少し歳上っぽい男の陽気な声がする。
「たっだいま~。って、俺の部屋で何してるの~?」
私はバカだから、神封の感情は解っても考えは解らない。てか、何と無くだけど頭が良くても解らない気がするよ…。
187: 名前:サスライ☆09/07(月) 13:38:41
俺の名は千鳥 笑(チドリ シャオ)。15の若さだがこの地方の警備兵の師範をしている。
何でそんな奴がそんな役職かは、俺が代々王族が使う千鳥流武術の長男だからであり、何でこんな田舎にいるかは、千鳥流の長男は、若い内は独りで修業する義務があるからだ。
とは言え、腐り切った事に定評のある都に居るよりはずっと気楽だ。田舎の山で一週間程修業して、役所に用意された余り使わない部屋に帰ってくる。
で、帰ってきたら知らない奴が俺の部屋で泣き崩れていた訳なんだが、どう解釈してくれようか。
困り顔の俺に役人が何やら「太子が、コレを師範に」と、紙を渡して来た。
あのインテリ野郎の封が俺に?
見たときは目が開きすぎて血の涙が出ると思った。デカイ熊に出会った時より驚きだ。そこに書いてあるのは、要約するとこんなトコである。
「笑 か。お前の部屋をコイツに譲れ、お前に選択肢は無い。太子命令だからな。
どうせ使わないだろうから俺の部屋じゃ無くて、お前の部屋にした。
お前は仲良く大自然でパンダとでも一緒に寝床を探せ」
破りてぇ…。
その時、俺の中で何かが弾けそうだったが、泣き崩れていた奴の顔が目に入る。
「やっぱ、ダメ…?」
兎、小鳥、猫、色々と比喩出来るがそんな弱々しい表情で俺に語りかける。
封のヤロウ…、俺がこういう表情は弱いって知った上でやってやがるだろ。
くれてやるよチクショウめ。
188: 名前:サスライ☆09/07(月) 15:10:37
千鳥師範はその後、客間で寝ていて、何故か頻繁に私に会いに来てくれる。因みに神封太子に出会うとよく殴り合いになるが挨拶の様なモノらしい。
偉い人は何を考えているか本当に解らない。
ココに来て三ヶ月が経つ。こう時間が経つと御伽の国の様な感覚にも慣れてくる。未だに不満を感じて、ジロジロ見てくる役人が居るが千鳥師範や神封太子曰く、「俺等も似た様な扱いだから気にするな」の事。
ところで、私に名前が出来た。銀世界になった田んぼの油絵を見てたら、何か勝手に『銀田一 雪』と命名された。照れ臭いが気に入っている。
さて、三ヶ月とは意外に長いモノで、ここの環境に慣れてきて自然に『神封太子』、『千鳥師範』と呼ぶようになったり、敬語になったり、メイド服になったりしている。
千鳥師範と神封太子に着せられて、その後二人はメイド服の好みについて二時間程熱く議論した挙げ句に殴り合いになった。
偉い人は何を考えているか本当に解らない。
そう言えば、ある日の事だ。私が神封太子に本を教わっている最中こんな話になった。
「神封太子なんて止めてくれ」
「……え?」
「そ うだな。神封・兄、繋げてシェンフォニーとでも呼んでくれ」
「そんな!?恐れ多いです神封太子!」
「太子命令だ」
「あう~」
神封太子改めシェンフォニー様は、その呼び方を偉く気に入っていたが千鳥師範がそれを呼ぶと殴り合いになる。うわぁ、ミンチより酷ぇ(建物が壊れる的な意味で)。
偉い人は何を考えているか本当に解らない。
190: 名前:サスライ☆09/09(水) 14:42:38
「フッフッフ、甘いね♪ギャグが小説で小説がギャグ。小説とギャグは表裏一体にして宇宙の神秘なのだよ!」
「いきなり何を電波に目覚めとるんスか、馬鹿主!」
過去を説明途中に、レスに返信とか言った感じの電波に目覚めたシェンフォニー様に対して私はチョップした。
彼が痛そうに頭をさする状況、兎に角話を続けなければグダグダになるといった危機感を感じた。昔、毒キノコで死にそうになったのがフラッシュバックする。
「…と、言う訳で私がシェンフォニー様に拾われた後です。
シェンフォニー様に学問を教わり、笑師範は相変わらず修行三昧で、たまに帰って来ては貴方と殴り合いになりました。そんな日常は幸せでした」
シェンフォニー様は指を絡めて下を向き、頷く。まるで懺悔する様に。
「ああ、大体思い出して来たよ。笑とは良く下らない事で喧嘩したっけな…。
懐かしい」
シェンフォニー様は下を向いている上に髪で隠れて表情が見えない。只、泣いてる様にも見える。【今は亡き】笑師範の事を、思い出したのだろう。
あの後の戦争の悪化。そこでシェンフォニー様は彼を守れなかった。救えたけど、守れなかった。それを思い出しているのだろう。
私は黙って紅茶を注ぐ。
191: 名前:サスライ☆09/10(木) 21:09:50 HOST:a2P2WiEOwpslpqha_softbank.co.jp
私と千鳥師範とシェンフォニー様で部屋で話していて、シェンフォニー様が輸入品の紅茶を飲んでいた時だ。千鳥師範が言った。
「トコロで、封がシェンフォニーなら俺は下の名前で読んでくれよ♪」
「分 かりました笑師範。」
「あっるぇ、なんか封よりスムーズだよ~」
「お前は下の名前で呼ぶ事に違和感が無いからな」
身長的な問題と背を曲げてるか立ててるかの違いで千鳥師範改め笑師範が見上げる形になる。シェンフォニー様は相変わらず優雅に紅茶を啜っていた。
「アッ ハッハ。自分が上だってのかコノヤロー」
「そこまで理解するなんて。明日の天気は空から大量の胸毛でも降ってくるかな」
「よし表に出やがれコノヤロー」
「あ、雪。紅茶は処分してくれて構わない」
笑師範が親指で示した先に向かう時にシェンフォニー様は私に言い残し、直後殴り合いの音がする。ワッショイワッショイ的な。
一人部屋に残され紅茶を飲みながら窓を見た。以前居た村が見下ろせる。色々幸福に変わった。
しかしこのままで良いのだろうか。何時からか生きる為、私の中には誇りが刻まれていた。【私は自分の力で生きている。だから偉い】と。
今の自分はどうだろう。まるで私らしく無いと思う。しかし紅茶を飲み干した。
「このままで良い訳ないなあ…」
一人ごこちる。
196: 名前:サスライ☆09/12(土) 17:17:49
私は向日葵 社。
早速だが、ひまわり研究所には貴族が来る事は無い。有るとしたら前上司の神封太子が友人をからかう為に商品を購入する位だ。
しかし今日は別の貴族が来ていた。小太りの貴族は部屋見て、機材見て、眉間にシワを寄せて散々文句垂れた後にやっと嫌々席に付く。
「態々都からお疲れ様です」
「ああ。だが私は忙しいのでね、直ぐに都に帰らねばならない」
つまり都にサッさと帰りたいって事だろうに。素直に言わない所がまた頭に来る。
さて、貴族本人が来たと言う事は最近の戦争の押され気味に拍車が掛かった件だろう。技術者として私を求めているのか。
だが私の都に帰る気は0どころかマイナスだ。しかしこの陰湿な貴族は私の心を動かす。
「単刀直入に言おう。君のカラクリを全て譲渡したまえ。で、無ければ都に来たまえ」
つまり『全て渡せ』。
そういう事か。コイツ、井時が私の弱味と知っている!もし、断って都に行かなくても普通に井時を兵士として使う気だ。
貴族のほくそ笑みがシャクに触る。私は冷や汗を垂らす。汚い手で心臓を握られた気分だ。
197: 名前:サスライ☆09/12(土) 18:21:08
満月を眺めるボクは井時 晶。社と一緒に住んで暫く、一つ解ったのは社は意外と面白い。からかいながらも親しみを。そんな毎日は充実だ。
これから月光浴にでも行こうかと考えたその時、社の声がして振り向くと、彼は大きな旅行鞄を担いでいて突然口走る。
「…これには札束がギッシリ入っている」
「銀行強盗でも、した…?」
ボクは冗談を吹っ掛けるが無反応。これは解る、覚悟した人間だ。
そして今日の朝に起こった事を社は言うと心に衝撃を受けた。何時かそうなるのでは無いか頭ではあったが、心が認めたく無かったのだ。
ボクは此処に来て始めて顔を焦らせる。対称に腹をククっているのか社は冷静だ。
社は旅行鞄を押し付けると指を裏口に向ける。
「表口だと見られる可能性があるからな」
「そ、そんな…」
「喧しいぞ井時 晶!私をまた逃げる臆病者にする気か!」
社の目には独特の真っ直ぐな光がこもっていた。人間だった時に見てきた。テコでも動かない、武人の目。そんなボクに出来るのは一言を浴びせる位だ。
「死ぬなよ…?」
裏口の扉を開いて、ボクは駆ける。夜風が染みて月光は遠ざかる。その時、聞こえる筈の無い社の声がした。
「幸せに、なれ…」
198: 名前:サスライ☆09/13(日) 18:40:17
私は都に行かない事を告げた。すると貴族は面白い位に顔を真っ赤にして机を叩く。おお、脂肪まみれなクセに強そうだ。サンプルを取ってみたいね。
「人形は何処かね!?私は『全て』のカラクリと言ったんだ。帝国直々に渡された人形が有る筈だろう」
いや、偶然の産物で帝国のモンじゃ無くね?何なのそのジャイアン理論。そういやコイツ、ジャイアンみたいな顔してるな。やはり歌で窓を割れるのだろうか。
兎も角。これで無いと言えば反乱とでも見なされ最悪極刑だ、でもそんなつもり等はサラサラに無い。この貴族のカリスマ程も無い。極刑になりたくないのは兵士時代の生への執着か、はたまた井時の一言か…
私は逃げる臆病者にはならない。研究者には研究者なりの戦い方がある。研究者はアイデアの世界、私もそれに習おうか。
貴族の濁った目を見て、うわ、マジで汚い目付きしてんなコイツ。まあ、汚物を見ながら告げる。
「人形は実験に使った結果、壊れてしまいました」
「何だと!?どうしてくれるのかね」
臭ぇ息吐くなぁ。コイツ生物兵器かなんかじゃね?
「まあ、お陰で人形と同等の物を作る方法を見つけました」
懐から取り出した資料を渡す。この交換条件にて、輪帝国は人形兵の投入によりエピソード共和国に対し、一時的に勝利を納めるのである。
199: 名前:サスライ☆09/14(月) 21:10:49
ひまわり研究所に日光が差し込む。照明無しでも物が見える太陽の偉大さを感じると同時に、自分の小ささを思う。
取り敢えず一段落ついて今、突然に思ったんだ。もしかして私はマゾではないのかと。
これを聞いても引かない勇者諸君に理由をお聞かせしよう。取り敢えず私は椅子に腰を掛けて足を組んだ。前方机にあるコーヒーに手を掛けて砂糖を入れようとする時に慌てて砂糖の容器の中身を舐めて砂糖と分かる。
あれは井時が来て間もない頃だ、コーヒーを飲もうとして砂糖を入れたら実は井時によって塩にすり替えられていた。そして次の日、また塩にすり替えられていた。また次の日、流石に三度目は無いなと思いつつも砂糖を舐めたら、味の素だった…。
と、言う訳で確認が武道家が朝起きて正拳突きを練習するような領域にまでなったのである。
しかしこう何も無くては退屈だ。何か面白いモノでもないか。
ボゥとしていると扉を叩く音がした。また銀田一か。私は嬉し半分で扉に向かった。
200: 名前:サスライ☆09/14(月) 21:30:51
【200レス記念番外編】
と、言う訳で200レス行きました~!皆様のお陰です♪
司会は私、辰凪館のメイド長にしてシェンフォニー様のブレーキ役、銀田一 雪でお送りします。
「アッ ハッハ、何を言っている?それではまるで俺にブレーキが無いみたいじゃないか」
いや、その通りですからね!?シェンフォニー様、貴方の悪行の数々はバッファローマンもビックリですよ、砂糖の容器の中身を砕いたデンプンと入れ替えたり。
「バッファローマンとは、作者が産まれる前の懐かしいネタだね。
あ~、そうそう。井時に話を聞いたら対抗心が燃えてきてさ」
いや、んなコトに対抗心燃やさなくて良いですから!どこの二番煎じ連載漫画ですか!?打ち切りの臭いがプンプンしますよ。
「うん。流石に俺も飽きてきた、そこで編み出したのが必殺技、『シェンフォニーウェーブ』だ」
何ですか、その荒ぶる鷹の構えは…、そして何ですか、その中二病丸出しの名前は…
「先 ず、雪の紅茶と緑茶を入れ替えて…」
いやいやいや、そりゃ流石に無理がありますって!
「大丈夫。ソ連の編み出した色料は緑茶を紅茶に見せれる」
この世界にソ連無いでしょ、てかソ連スゲェ。
「最後に一つ。実は俺にブレーキは付いてるが雪の反応が面白くて、ついアクセルを踏んでしまう」
突拍子無いけど、取り敢えずはハリセンで殴らせて頂きます。
201: 名前:サスライ☆09/15(火) 16:18:52
「何故、私の助手なんぞになりたがる?所謂日陰者の助手なんぞに。だ」
「だからです。貴方程の人が敢えて日陰者にあるから日陰者だった私はそれを選ぶのです」
上のやり取りを社さんとして、銀田一 雪、ひまわり研究所の助手に就職成功。このニュースはシェンフォニー様と笑師範の間を稲妻の、もしくはダオスレーザー(初期ティルズのボスの技。トラウマ並の破壊力を誇る)の如く駆けたらしい。
直後彼らは呆然としつつ、お互いがお互いの頬をつねり、殴り合ってやっと夢で無いと理解したそうな。
偉い人は本当に何を考えているか解らない。
初期格闘ゲームの様に痛々しい青アザを顔に付けた二人は口々に言う。異常な顔と常識的な台詞のギャップに吹き出しそうになった。
しかし何とかこらえる事に成功した、ミラクルメイドパワーで。
「助手っつーとヤッパ薬を作ったり、ネジを締めたりすんの?」
「いや、正統な授業な訳では無いから雑用だろう。資料の整理やデータ作り、他には掃除だな」
やはり、こういう事はシェンフォニー様の方が一枚上手らしい。因みに、太子権限で私を正統な学士にする事も出来るが、私が自立したい気持ちを組んでか一度もその話題にはならなかった。
204: 名前:サスライ☆09/15(火) 20:34:23
私が社博士の助手になって暫く、植物データの採集に山に来た訳で山に来て早速見たのが、笑師範の立ちションだったので思わず悲鳴を上げて後頭部にハイキックを喰らわし顔面を木に打ち付けさせて気絶させてしまった。
気絶している笑師範はその内起きるから良いとして、私も随分乙女になったモノだと思う。博士に「思ったよりマトモだ…」と言われた事を思い出した。
数分後、笑師範が起きると記憶が飛んでるらしく、必死に誤魔化そうと世間話を挿入した。どんな流れかこんな話題になる。
「笑師範って修行で山に居るんですよね?」
「違ってたら仙人か、山マニアか、なんかだな」
「何故、笑師範は修行するのですか。義務だからですか?」
「話 聞けよ…。まあいい、ほら、アレを見ろ」
指の差す方を見るとそこは村が上から見れた。山だからだ。田畑が微笑ましい田舎だと思う。
「地 図なんか紙に書かれた物よりも、俺にとっての世界とは俺の認めたモノだ。そしてあれも俺の世界…」
正拳、回し蹴り、裏拳、正拳。笑師範は舞う様に技を空間に放つ。暖かい風が私達を、否、世界を包む。
「この美しい世界を守りたいんだ」
「笑師範…」
貴方に「美しい」は流石に似合いません。と、言おうとしたがKYな気がするので止めておいた。
207: 名前:サスライ☆09/17(木) 14:33:46
シェンフォニー様(ついでに笑師範)の所には本が兎に角沢山あったがこの研究所は量より質と言った勢いで珍しい本が沢山ある。
資料整理をしている最中についつい魅入っていたら後ろから都からの手紙で作ったハリセンで叩かれるくらいだ。
今回見つけた、そんな仕事をサボるきっかけになる本がこの『未確認生物集』である。歴史的に考えると確実に居る筈だが発見例が皆無な生物をまとめた物らしい。
開くとこれまた素敵なゲテモノをスケッチした皆様、しかしたまにマトモな生物もいる。見た目ならヒトと変わらない生物も居た。
「未確認生物、【オーガ】。興奮すると角が生えて強靭な力を…」
へぇ。【鬼】って実在したんだなぁ。驚いていると廊下を駆ける音がした。え、まさか監視カメラでもついてんの!?
扉をバンと開ける音がする。心臓が跳ね上がるというのは、もしくは喉から手が出るとはこんな感じか。いや、後半違うけど取り敢えずは驚いて背中に本を隠した。
「銀田一!…」
何だろうか酷く焦った声。イヤな予感がして後ろを見ると、目を見開き息を枯らす予想以上に焦った博士が居た。
「… エピソード共和国が攻めてきた!ここらは戦場になるぞ!」
私は凍り付き、本が床に落ちる音はヤケに乾いていた。
208: 名前:サスライ☆09/17(木) 16:06:48
俺、神封は不快だった。朝からヤケに倦怠感がある癖に仕事をしなければいけないからだ。嫌な事とは続くモノで、今日は笑が山から帰ってくる日で、その笑は今私の部屋でゴロゴロしてる。不快な余り気に入りの万年筆を指でへし折ってしまった。
「封~、暇~。なんか面白い話して~」
「鏡を見ろ。私と話をするなんかより、ずっと面白いぞ」
「あ゛~、 んだとコンニャロ表出やがれ~」
「よし。更に面白い顔に…ん?」
殴れば少しはスッキリするか。楽しみを目の前に嫌なニュースが立ち塞がる。
俺が今やっている仕事とは軍に用いる鉄兵(人形兵には劣るが活躍する量産品)の承認と、外交に関する報告書に対する意見なのだが、何か引っ掛かる。取り敢えず軍の師範をしている笑に聞く。
「…なあ笑よ。人形兵が配備されたのは何時辺りだったか」
「んあ。確か2年位前だったんじゃね?」
「……そうか」
人形兵配置位置、他国からの情報、都の内部情勢。それ等から今の敵の動向を推測する。
ここは田舎でロクに人形兵が居ない。居ても鉄兵程度だ。
エピソード共和国は人形兵、鉄兵に苦戦してから引くが調子に乗った都は追い討ちをかけている。
「ヤバい!至急偵察部隊をこれから言う位置に配備しろ、人形兵開発者の社博士と太子である俺を狙ったエピソード共和国が攻めてくるかもしれん」
嫌な事とは続けて起こるものだな。
最終更新:2010年05月08日 17:51