209: 名前:サスライ☆09/17(木) 17:03:51
笑から報告書を渡されると今までの心に重力の無い感覚が無くなったが、逆にそれが重くのし掛かる。
やはりクロか。重要人物狙いとあってか逃げ場は全て固められている。
が、顔に関する知識はアヤフヤらしい。これは敵が比較的に小勢力な分、偵察に予算が掛けられなかったのと、村を落とすついでに俺と博士も亡き者に出来ると踏んだ算段か。舐めおって。
「笑…ウグッ!」
「俺が敵を引き付けるからお前は雪を連れて逃げろってか?聞けないな」
笑の方に振り向くと突然殴られた。少数勢力だから敵を引き付ければ逃げ場を作る事が可能。コイツは妙な場面で鋭いから質が悪い。
そして俺を見下ろしながら叫ぶ。
「殴り合いじゃいっつも灰色決着だったけどよ、純粋な戦じゃ俺の方が強いって知ってんだろ?
それに、テメェ以外の誰が雪を守れるんだよ!?アアン?」
腰に手を当てて俺をチンピラの様に上から睨んで来る。俺は口についた血を拭(ヌグ)うと、敵に太子とバレない様に私服に着替える準備をした。呟きが漏れてしまう。
「……ありがとう」
「キメえ事言ってね~で早く行っちまいな。
追い付くから」
210: 名前:サスライ☆09/18(金) 20:27:02
絹服の袖を通して、綿糸で固定する。肌触りが自然過ぎて逆に気持ち悪い。
俺、笑は多分「ワライ」って呼ばれているのだろうから言って置こう。俺は「シャオ」であると。
と、こんな俺がこんな封みたいな中華服を着るのは俺が封のふりをして敵を引き付ける為だ。鏡を見て、ポーズを作って、封よりも似合うんじゃないかと思う。
流石俺!惚れちまうじゃないか!
と、ポーズを付けてる時に俺を後ろから見る下っぱ兵士が鏡に見えた。際どい沈黙が場面を支配、これを「オワタ現象」と呼ぶ。俺命名。ネーミングセンスまで素晴らしい俺!
鏡にヒビがあるな、前からあったに違いない。
「あ、あの~、笑師範…。報告ですが良いでしょぅか?」
「ああ、断ったら逆にスゲーよ」
「偵察に気付いた敵戦力は進軍を開始。30分後には第一波が直撃する模様。場所と数は…」
想像より少ないな、これは逃げ場を固めるのに使いたいからだろう。
じゃあ、誘き寄せようか。
「俺 自ら…に、向かう」
「ん。そこって一番敵が攻め易い所ですよね」
だから良いんだよ。敵に太子がソコに居るって事を知らせる。んで、全滅させてソコに引き付ける。
穴だらけ?良いんだよ。俺、強いもん
211: 名前:サスライ☆09/19(土) 16:06:37
これは最前線で戦っていた、とある一兵卒の言葉である。
あの姿は、千鳥流による肉体強化を超えた何かでした…。武神、魔神、最終兵器。色々な言い方はありますが、一番シックリと来るのはやっぱり最初にあの姿を見た時に漏れた一言ですか…。
私達は敵を引き付ける為に千鳥師範が神封太子に入れ替わる事を聞かされた時は正直、無謀だと感じていましたね。だってロクに顔を知らない神封太子が戦っている事を教える事が条件でしょう?だから必然的に最前線に立つ事になるんです。
故に来たんですよ…
「我が名は神封。死にたい者からかかってこい!」
でも普通、最前線で有名になる可能性なんて一握りですよ。三國志じゃあるまいし。言っちゃいけませんが私は途中で師範は力尽きると思っていました。
でも、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、アアアアアアアア!
す、すみません。取り乱しました。取り敢えずです。そんな堂々と言えば銃弾が一斉に飛んで来ますよね?普通に避けられませんよね?
彼は…
「うおりゃああああ!」
ライフルの弾を【弾きながら突進】したんですよ。勿論生身で。その時、呟いていたんです。
「…鬼」と。
212: 名前:サスライ☆09/19(土) 17:04:52
私はエピソード共和国で今回の作戦の司令を任されている者だ。階級は准将。
私はキセルを飲みつつ、貧乏揺すりをしていた。最前線の報告が遅い。
最前線の敵兵の数はそこまで多くないからてこずる様な事でも無いし、牽制だから危なくなれば撤退するように言っている筈だが…。
急ぐ音と血の臭い。報告がやって来たか。見ると血まみれの兵士とソレに肩を貸している兵士の二人。血まみれの兵士は武装からして牽制に使った尖兵だ。
「どうした!最前線で何があった!?」
「コ イツはもうロクに息も出来ない状況なので私めがコイツの言った事を代弁させて頂きます!」
肩を貸している方が口を開く。あれは逃げ道を囲む部隊の者か。つまり、尖兵は命からがら撤退。それを逃げ道に居たヤツに発見された訳だな。
「尖兵は全滅です!」
「バカな!?いくら鉄兵と言えどもそこまでの深手を負わせられる筈が無いだろう!?」
「鉄兵ではありません、【神封】と名乗る人間に全滅です!」
「武 器は!?」
「徒手空拳。則ち素手にライフル5、機関銃2の部隊は全滅です!」
合点がいった
…ここには天才が居たな。成る程、つまり神封とは自己を護るためサイボーグと化した新型の人形兵。いや、生物兵器か。
だからこんな田舎に太子と天才が暮らして居たのか!
† † †
こうして間違った情報が流れていく…
213: 名前:サスライ☆09/19(土) 17:51:09
【BGM;未来への咆哮】
これからが本番だ。神封が居ると分かった敵は最前線に流れ込んで来るだろう。俺、笑はそれを皆に伝えて、殆ど他の小競り合いに行ってしまった。
「結局残ったのは3人と、鉄兵達か…」
周りを見渡すと何とも最前線では頼り無く思える面子だ。しかし、負ける気がしなかった。
俺は中華服の邪魔な下を破いてバンダナにし、頭に巻いた。それを3つ作って他の奴等にも渡す。
「最高級の絹で作ったバンダナだ。格好良いだろ。鉄兵はゴメンな…流石にデカ過ぎるわ」
代わりに、鉄兵の腕にソレを巻いた。鉄兵達は腕を高らかに上げる。喜んでやんの、可愛いヤツだな…。そして俺は叫んだ。怒声よりも高潔で、演説よりも下染な声を。
大地が唸(ウナ)る、草木が唸る、風が唸る、天が唸る、そして宇宙まで唸れよ俺の声!
「いいか、残った奴等全員馬鹿野郎だ。
俺みたく千鳥流を深く使える訳でもねーのにノコノコ付いて来やがった」
すると周りから声がする。「一番の馬鹿は貴方でしょう」とか「師範だけ良い格好させませんよ」とか「ゴチャゴチャ言わんで下さいよ」とか。全く、お前等よ…
「お前等最高だぜ!良いか、俺等は最強だ!絶対に負けない、それを弱い者虐めしか出来ない奴等に見せてやれ!
お前等、やああああああって…やるぜぇ!」
「「「応!」」」
この美しい世界を守る為に…
214: 名前:サスライ☆09/20(日) 18:15:15
龍虎咆哮。独特の呼吸により肉体強化をする千鳥流の代表である。が、出来て精々、鉄兵を蹴り飛ばす程度だろう。
だが俺には、どうしてもこの技はその程度では無いと言う確信がある。
相手はロケットランチャーを構えていた。避ければ俺の後ろの森が繁った自然の要塞が爆破されて、敵が村に入り易くなる。
「逃げて下さい、殺したく無いんです!」
「じゃあテメエが逃げろ。こちとら腹くくってんだ!」
「この、分からず屋ああ!!」
思ったより情けない音をあげながらロケットが飛んできた。これを受けたら死ぬんだろうか。
こんな奴に?
戦士を見下した虐めしか出来ない卑怯モンに?
「フ ザケルナヨ?」
敗けたくない。守りたい。
ところで封から聞いたんだが、どんな天才でも脳ミソは大して働いてないらしい。なら、その扉をこじ開けて勝利への幕開けとしよう。
龍虎咆哮、この技に更に改造を加える。全てを守りたい想いで改造を加える。今俺が、格闘家が何十年もかけてやっと出来る事をやり遂げた事を俺は知らない。
「玄武咆哮!」
爆炎が舞い、瓦礫が弾け、ロケットを受けた俺は間抜けな顔の奴の眼前に現れる。
「よぉ~。さっきぶりだな、会いたかったぜぇぇ!」
強化繊維の上から回し蹴りを喰らわせて、吹っ飛んで、何処まで行ったか確認するのが面倒になった。
215: 名前:サスライ☆09/20(日) 18:42:32
何か後ろが騒がしくなって来た。敵が増えて来ているのは分かるが、それでも気配が多い。
チラリと毛の様な物が見えた。それで確信した。
二人一組で戦っている敵が居る。前衛と後衛といったトコロか。でも、構わず突っ込む。
「どけどけどけぇい!俺様のお通りだ!」
機関銃(マシンガン)の弾を弾きながら進む俺、格好良いが骨がきしむ…。
肉体強化のやり過ぎで肉と骨に限界が来はじめて来ているのだ。でも、負けない。
驚いた顔をしている前衛の機関銃に下段蹴りを放つ。すると後衛が機関銃をこちらに向けようとした。
普通なら終わりだが、俺達には力強い味方が付いている。
「ア オオオン!」
オペラよりも高らかな雄叫び。
野生の狼。そいつが機関銃を口で奪い取り、更に別の狼が喉笛に噛み付く。
…この鳴き声、修行で世話になった奴じゃねぇか(敵的な意味で)。助けに来てくれたのか、良く見ると他にも沢山似た様なのが居た。昔散々泣かされた熊だったり、食い物取られた猿だったり、触ろうとしてボコボコにされたパンダだったり…。
「昔の敵が助けに来てくれるってか、頼もしいねぇ!」
最早、骨のきしみは何処かに行っていた。
216: 名前:サスライ☆09/21(月) 16:44:40
勝てる。周りの3人も俺レベルじゃないが龍虎咆哮を使い、とっくに銃弾は切れてるのに刀で戦い、圧していた。同時に獣も独自のタフネスと機敏さと剛力で銃弾に負けていない。
思わず片目から涙が出る。やっぱり世界は偉大だと感じたからだ。
敵も退却が大量に出て来た時だった、鉄兵が味方のフォローに入るのが目に入る。装甲を貫かれたのがその一瞬後だ。
何かと考える事はしない、アドレナリンだらけで志の元に動く事しかしない。
【よくも友達(ダチ)を殺りやがったな】と。
接近して見えるは弾頭でも槍でも剣でも無い。千鳥流を使えない兵士の抜き手が鋼で出来た鉄兵の装甲を貫いていた。
オイルが漏れて引火して爆発する。
仇を討つため木を蹴る。体が浮く、更に蹴って更に浮く。これを繰り返すと木から木へのピンボールになり、翻弄になる。
月光の影を利用して森の奥の木の枝に飛び移ると弾性を利用して跳躍した。蹴り足を構えて上からの飛び蹴りで狙うは仇。
近付くにつれて徐々に顔が近くなる。見覚えのある顔だ、「殺したくない」とかほざいて俺にロケットを放った男。
「てめえかああああ!!」
217: 名前:サスライ☆09/21(月) 18:50:08
俺の恨みを思い知れ。叫んで飛び蹴りを放っている時には敵は避けられない間合いに居る。しかし敵は避けずに頭を此方に向けてきた。つまり俺の蹴りに頭突きで対抗しようと考える訳だ。
因みに、俺の蹴りは鉄兵の装甲を貫くどころか、大木を一撃で折れる。
そして運命の交差。
結果は蹴りの軌道が反れたの事。何かおかしい。
何故、俺の身体はバランスが悪くなっているんだ?
何故、俺の脚から大量の血が出ているんだ?
何故、奴の額に角が生えているんだ?
角に俺の肉が付いていた。つまり、蹴りを角で反らしたついでに脚を貫いた訳だ。何故、角なんかある。恐らく鬼かなんかが実は実在していて、覚醒したんだろう。うん、納得。
奴の意識は半分飛んでいる様で、同じ言葉を繰り返すのみ。
「殺したくない、殺したくない、殺したくない、殺したくない…!」
念仏の様にブツブツと「殺したくない」を繰り返す鬼。見下して、やられて、この期に及んで殺っといて、あまつさえ理性が無くなる位に力に振り回されて、それか。
ふざけんな。「殺したくない」なんて、相手より強い事が前提だろ?圧されてる奴が何をほざいてやがる。
「テメエは俺等の何だってんだよ!ゴラァッ!!」
218: 名前:サスライ☆09/21(月) 23:58:41
【BGM;英雄】
服で脚を固く縛って止血する。まだだ、まだ終わらんよ。止血が終了するとキッと鬼を睨んみ、他の敵兵と平等に機関銃を弾いた時みたく突貫する。
口から焔でも角から小さな毒針でも目からビームでも何でも来い、全て弾いてやる。
が、予想外に何も無くて俺達は取っ組み合いになった。野郎、野生のゴリラに腕力で勝る龍虎咆哮モードの俺に対等になってやがる。向こうは無傷、俺は重症。それでも俺は張り合うのを止めない。
「ちょっっと、角がついたからって偉そうにしてんじゃねーぞゴラァッ!!」
コイツには敗けたくない。その想いもある、しかし根幹の想いは正反対のモノだった。割と対立するモノとは同じモノから派生するのかも知れない。
ライフルの時も機関銃の時も今も、決して怖くない訳じゃない。寧ろ物凄く怖い。
しかし、俺の後ろには守らなきゃいけない物がある。守らなきゃいけない世界がある。
世界を守るのは何時もヒーローと相場が決まってるモノだ、だからそれに習う。ヒーローは、強大な敵にも怯まない!
「うおおおぉぉ!!」
† † †
そこからは、よく覚えていない。只、鬼が途中で意識を取り戻した瞬間にソイツは今度こそ逃げた事は憶えている。言い訳に何かグダグダ言ってたけど記憶に無かった。
222: 名前:サスライ☆09/22(火) 18:12:07
「太子、エピソード共和国の兵が、退いて行きます!」
避難所で、雪と一緒に聞いた俺は雪を脇に担いだ。何故か、頬を赤らめているが、まあいい。
今は笑の安否の確認が先決と、考える以前に細胞が訴える。一応、近くに馬が居るがそれでは遅い。独特の呼吸で、肺に酸素を注ぎ、代謝を限界まで上げる。それが、もたらすのは、馬よりも強い脚力。
これが、龍虎咆哮だ。
疾風の如く翔るは、我が身体。風害の如く草木を薙ぎ倒すは、我が拳。目指すは阿呆。しかし、死んではいけない、高潔な阿呆。
「「間に合えぇぇぇ!」」
叫びは二つで、同時。一つは、自分の口から。もう一つは、脇から。雪も想っているのだ、あの阿呆を。
これで間に合わなくて、何の為の千鳥流か!何の為の友か!何の為の太子か!
笑が、何時も修行に使う山。ここが、本日最前線となった場所だ。村を一望出来、かつ、兵を潜らせ易い。これ程征服すれば、攻め落とし易い場所は、この辺りには無いだろう。
村が、見える。何時も通りの、田舎村だ。川音が、聞こえる。せせらぎは、心を洗うようだ。そして、笑が居た。
血塗れで、包帯だらけで、致命傷ばかりで、それでも、敵がやって来る方向へ未だに、構えを取り続けている。
「笑…」
朝日が昇る、直ぐ前の時間だった。
ませんが頑張って下さい、そして合格して来て下されば拍手喝采でお迎えしましょう♪
225: 名前:サスライ☆09/23(水) 18:59:40
笑は、俺達に振り向かずに、フラフラ揺れながら、呟く様に答えた。声は枯れ尽きて、砂漠の風の、印象を受ける。それは砂漠の様に、逞しいのも、印象なのだろう。
「封…何で…居る?さっさと、逃げ…ろ」
「終 わったんだ、敵は退いた。予想だが、敵の司令官が、お前の火力に怯んで逃げたんだ」
暫し、沈黙が続く。10秒にもならない時間が、30分にも、思える。沈黙を破ったのは、笑。
振り向いただけ。なのに、轟音より、壮大な気がした。想像以上に、血塗れの顔は、微笑んで見える。
「あ の…鬼野郎も…また来ると…思ったら…来ないたぁ、そんな…」
「いいえ!違います!」
声は、後ろから。そこには、負傷だらけで、動けなくなって、木にもたれ掛かっている兵士。そいつは、バンダナを巻いていた。
「あの鬼は、そうでなくとも、来ません!何故なら、確かにアレはあの鬼が、師範に怯んで、逃げたからです!」
「そうか…、俺って…スゲェ…だろ?鬼も…大国も…逃げ出す…。スーパーヒーローだ」
そして俺は、笑を担ごうと近付く。このまま、死んでは、スーパーヒーローもクソも、無いだろう。と。
そして、笑に触った時、俺は理解した。否、理解してしまった。
「笑、お前…!?」
「…解るよ。そろそろ…お迎えが…来るん、だ」
226: 名前:サスライ☆09/23(水) 18:59:45
笑は、俺達に振り向かずに、フラフラ揺れながら、呟く様に答えた。声は枯れ尽きて、砂漠の風の、印象を受ける。それは砂漠の様に、逞しいのも、印象なのだろう。
「封…何で…居る?さっさと、逃げ…ろ」
「終 わったんだ、敵は退いた。予想だが、敵の司令官が、お前の火力に怯んで逃げたんだ」
暫し、沈黙が続く。10秒にもならない時間が、30分にも、思える。沈黙を破ったのは、笑。
振り向いただけ。なのに、轟音より、壮大な気がした。想像以上に、血塗れの顔は、微笑んで見える。
「あ の…鬼野郎も…また来ると…思ったら…来ないたぁ、そんな…」
「いいえ!違います!」
声は、後ろから。そこには、負傷だらけで、動けなくなって、木にもたれ掛かっている兵士。そいつは、バンダナを巻いていた。
「あの鬼は、そうでなくとも、来ません!何故なら、確かにアレはあの鬼が、師範に怯んで、逃げたからです!」
「そうか…、俺って…スゲェ…だろ?鬼も…大国も…逃げ出す…。スーパーヒーローだ」
そして俺は、笑を担ごうと近付く。このまま、死んでは、スーパーヒーローもクソも、無いだろう。と。
そして、笑に触った時、俺は理解した。否、理解してしまった。
「笑、お前…!?」
「…解るよ。そろそろ…お迎えが…来るん、だ」
最終更新:2010年05月08日 17:52