231: 名前:サスライ☆09/24(木) 19:50:29
笑師範は、私、銀田一 雪に、手招きをしました。これから、大切な何かが失われる。嫌な予感の、真っ最中、でした。
「ゆ…き…。封の事は…お前が…ゴホッ!」
笑師範は、沢山の血を、吐きます。私は、泣きながら、手持ちのハンカチで、拭き取りました。
蚕の糸より、か細い声が、私に入って来ます。それは、シェンフォニー様も同じらしく、反応を見せました。
「なぁ…、村を…見てみ…?」
山から、見渡す村。調度、日の出が昇る時間。イネ科の植物に、太陽光が反射して、白く見える。雪景色の如く、美しい…。
銀田一 雪。
嗚呼、素晴らしい名前だ。思う以外にどう感じれば良い。更に、彼は続ける。
「コレが…俺の
守った…モ…ノ…」
最期の一声は、普段なら聞き取れ無かった、音量だろう。しかし、私達は、確かに聞き取って居た。
音楽とは、違う。『声と言う名の芸術』を。
シェンフォニー様は、反応する。反応している事を、隠す様に、格好付けて、反応する。
笑師範の身体を、樹を背もたれにして、置く。無表情を、維持する。
少しだけ、呟いて。
「貴様の心は救われた。だが、守られなかった
この、馬鹿者が…」
『馬鹿者』。それは、己に対して。則ち自虐にも、聞こえる。
232: 名前:サスライ☆09/25(金) 18:33:03
朝日は、村は白く、美しく照らすが、影で動く、私達は、そうでは無い。
森の影で、暁の様に、薄暗く照らされる、笑師範の身体。
そして、影のせいで、表情が解らない、シェンフォニー様。しかし、予感がした。それは、裏路地生活で磨かれた、本能。
『これから失う』と言う、確信。
「この帝国は、貴族の支配する、議会制だ。
国の長である『帝王』が、意見を出し、貴族達の会議で、修正。後に、帝王が、承認する」
シェンフォニー様は足を動かす、腰を捻る。顔を、此方へ、向ける為。
「しかし、貴族の、議会は、腐敗した!
その修正は、最早!
意見の、原型を、失わせる!!」
怖い…。
何が怖いか、良く、分からなかった。
失うから?威圧するから?喪ったから?それとも、全部?
「俺はこれより、都に、殴り込みに、行く。
今では、飾りとなった、太子の身分を、用いて、帝王の座を乗っ取る。
その後、議会制を排除!
独裁政治を、行う!」
口調の強い、シェンフォニー様は、完全に、私に、振り向いた。そこには、今度こそ、何も無い。只の、無表情。
そして理解。私は、怖かったのは、彼が、変わった事だったんだ。最早、少しも、温かみが無い。
「暴 君と、呼ばれようと、俺は、国を守る。
雪、俺を殺すなら、今の内だぞ?」
「いえ、お供します。ずっと、一緒です…」
シェンフォニー様は、何時か、帰ってくる。愚かだろうが、そう、信じて…。
235: 名前:サスライ☆09/26(土) 19:05:28
私は、両手の指を絡め、机に置き、真剣に、過去を聞くシェンフォニー様に、目を、合わせる。
彼の真剣に、答える為に。
「策略です。
ありとあらゆる策略で、貴方は帝王の座を、乗っ取りました…。
帝王は、敵に闇討ちを、喰らったと聞きますが、実は、貴方の暗殺です」
「…ああ、思い出すよ。パズルの、欠けた部分が、浮かぶ様に。過去の、欠けた部分が、雪によって、思い出される」
絡めた指をほどくと、人差し指を、額に当てた。目を瞑り、微妙なズレを、修正しているのだろう。
「帝王に、信頼を、持たせたんだっけ。
そして利用して、殺した…」
人差し指以外の指が、握りから開いて、シェンフォニー様の顔面を、覆った。
そして、下を向く。私だったら、吐いてるのを通り越して、発狂しているかも知れない。
だって、自分に、信頼を持つ者を、裏切ったんだから。
当時は、冷酷だったとは言え、コレは酷い。
顔を、覆った手を握り、シェンフォニー様は、私に向き直す。
決して、逃げない。そんな印象が、あった。
「俺は…俺だ…」
「ハイ。貴方は、シェンフォニー様。私は銀田一 雪。共に、今を生きる者です」
238: 名前:サスライ☆09/27(日) 18:59:54
シェンフォニー様は、王族専用の、訓練を受けている。帝王が『闇討ち』に合い、最も、信頼を寄せられていたシェンフォニー様が、【皇帝】と言う身分に付いた為だ。
その訓練では、一般兵では習わない、千鳥流の技を、教わる事に、なる。
笑師範の父君。眼帯の師範は曰く。シェンフォニー様は、身に付けるのが驚異的に、早い。
所謂【天才】らしい。
まあ、技を身に付けていた、帝王より強いのだから、当然と言えば当然か…。
私は専ら、シェンフォニー様の、サポートに入っていた。仕事は主に、書類整理等の雑用。ここで、社博士の頃の、経験が生きるのだから、人生は分からない。
尚、どうでも良いが、シェンフォニー様の、部屋に入れるのは、私だけであり、他の、都遣えの、従者からは、白い目で、見られていた。
「まあ、慣れてる…けどね」
独り言をもらして、シェンフォニー様から預かっていた、破壊された、鉄兵のカメラにある記録装置を、映像化する。
敵データの採取の為に、鉄兵には、こういった機能が付いているのだ。
さて、シェンフォニー様のシーツでも、クンカクンカしようかな。そう思った時だ。
見覚えがあり、見たくない姿があった。笑師範と、一緒に戦った、鉄兵から得た記録の姿。
「…鬼」
私達二人の、仇の通称を呟く。
239: 名前:サスライ☆09/30(水) 17:33:40
千鳥流の真髄とは凄まじいな。俺は、一瞬で壊された、試験用の鉄兵達を思い出していた。
鬼とは、何だろうか。
鬼と名が付けば良いのか。
今の様な、巨大な力か。
それとも、今、雪に映像で再現させた異形の姿か。
此方の兵力は高い筈なのに、決定的な部分で、敗戦している。それを、情報屋に調べさせたら、どうも殆んどの戦に『英雄』が参加しているらしい。
今回は、そんな英雄を自分なりに調べる為に、軍部から取り寄せた、貴重な無事なデータを調べさせた。
「…まさか、こいつだったとはな」
「ハイ。恐れるは、銃弾が効かない表皮と、鉄兵を壊す怪力でしょう。更に…」
雪は、映像を拡大した。すると、表皮が所々鱗になっていたり、爪が長くなっていたりする。
つまり、笑が戦った時よりも、微妙に違うのだ。
「… これでも、成長途中と、言う事です」
俺は、相づちを打つ。外部から情報を取り込みつつ、これからの方針を、考えているからだ。
「総 力を上げて、鬼を討てば、我が国の勝利となる可能性は高いでしょう。
また、千鳥流奥義を用いればあるいは…」
「…いや、俺は国を守る。配置はこのままだ」
総力を上げると、防御が薄くなる。
また、俺が出陣すると頂点不在だし、師範を出すと、俺に千鳥流を教える者が居ない。
表情は変えずに、内心、鬼の様な形相をしている。
本音は、笑の分まで、映像に出てるコイツを、思いっきり殴りたいからだ。
240: 名前:サスライ☆10/01(木) 14:51:56
鉄兵・人形兵を作る為の資源資金が底を尽きた。当然、制圧されていく。
ところで、これは、この国に伝わる神話なのだが。
龍神が天地を創造し、
虎王が人を導いて、
人は龍神へ感謝して、
龍神はまた、天地を創る。
こうして繁栄したのが輪帝国であり、天に住まう龍神に感謝するが為、都を作った。
空を見渡せる海の近くにだ。
あくまでも、神話に過ぎないがな。
が、一理ある。
相手が、引いてくれた時点で相手に感謝し、調和を目指していなかった時点で、既に輪帝国は敗北していたのかも知れないな…。
「まあ、過去を悔やんでも仕方がない、か…」
「そ うですね。貴方は、貴方なりに、国を守ろうとしました。
それに、貴方じゃ無ければ、既に国は、滅んでいたかも、知れません」
雪は後ろで、語りかける。思えばコイツとも、長い付き合いだったな。
逃げろと言ったのに。
馬鹿者め。
さて、今の状況を説明しようか、完全な負け戦だ。
エピソード共和国は、とうとう都まで、進行。輪帝国の最終防御線も、突破された。
都の窓から、外を見下ろすと、肉眼で、鬼として完全に覚醒した『英雄』を確認出来た。
241: 名前:サスライ☆10/01(木) 15:22:56
高級にあしらわれた、鞘。
豪華な飾りの、柄。
そして、斬ることに特化した、機能美故に芸術性を醸し出す、両刃の剣身。
「…王剣『輪王(リンウォン)』。代々、輪帝国の帝王にのみ、持つ事が許される剣」
俺は、ソレを持ち、階段へ向かう。戦場に行くが為に。
全てに、決着を付けよう。この国にも、『英雄』との因縁にも、己の魂とも。
「シェンフォニー様、行かれるのですね」
「俺を止めるか?雪
この国は腐って、滅亡する。
その業は、上が背負わねばならない」
振り向かずに口のみを動かす。手も足も止めて、立ち止まっているという、意味だ。
「止 められませんよ…、が、私にも出来る事はあります」
「ほう、興味深い。下働きが、どんな業を背負う」
音がする。大理石の床を駆けて、此方に追い付く音が。だから雪は、俺の隣に居る。
「下働きではありません。
貴方と共に居続けた、銀田一 雪として、貴方の最期を、見届けさせて頂きます!」
ふと気になる。
今、俺は、どんな顔をしているのだろう?雪を見ると、口元に笑みを浮かべていた。
俺も、こんな表情だったら良いな。想いながら、向かう。
雪と、共に、何処までも…。
244: 名前:サスライ☆10/02(金) 13:41:18
銀髪から飛び出る金の角。サーベルタイガーの様に発達した牙。赤い肌に、紅い眼。
本にも載ってる、間違う事無き鬼が、目の前に居る。
「俺は神封、身分は皇帝だ。ああ、後ろの彼女は、立会人だから戦いには関係ない。
さて、俺を倒せば、全てが終わる」
海の上の、崖の上にそびえる、都。その入り口が決戦の舞台。俺は剣を構えた。
「最早、伏兵も用意は無い。正々堂々と一対一だ。
皇帝は最期まで国を守る!ゆくぞ『英雄』、最終決戦だ!」
一陣の潮風が吹き、世界を優しく包む。
こうして、独裁者;神封は『英雄』に討ち取られ、帝国は滅んだとさ。
めでたし、めでたし…
……… が、普通だろう?何故だ、何故なんだ。
俺は、王剣を心臓に刺され、動かなくなったソイツこと、『英雄』に叫んだ。
「何 で俺が勝ってるんだ!?鬼と人間が、全力でぶつかり合ったんだぞ?
正義と悪が、全力でぶつかり合ったんだぞ?
解るだろ!?『怪我をしてた』『手加減していた』とか、言い訳の通じる世界じゃ無い!」
知ってる。これは俺の首を締めていると言う事位。
つまり、単純に、実力で人間が鬼に勝ったんだ。
潮風が吹く、俺は静かに耳をすます。ミャーミャーと、鳥の歌が聞こえる。
245: 名前:サスライ☆10/02(金) 19:07:18
立会人の私は、一部始終を見ていた。瞬きを最小限にして、この眼に最期を焼き付ける、筈だった。
シェンフォニー様に対して、銃を向ける『英雄』側の一同。それに対して、『英雄』に刺された剣を抜き、諭(サト)す様に語る、シェンフォニー様。
「諸君、心配はいらない…。決着はつけよう」
剣を逆向きに、顔を下に、矛先は腹に。
自決の姿勢だった。
その光景を眼にした、私は、当然衝動に、かられていた。
背筋が凍り付く、胸が熱くなる、下腹に電流が走る。
脳内で、自分の声の誰かが、語りかける。
【シェンフォニー様と共に居た時間と、今まで、生きて来た時間はどちらが長い?】
後者に決まっている!私は、【私】だ。【シェンフォニー様と共に居続けた、銀田一 雪】じゃ無い!
だから、走り出していた。シェンフォニー様に向かって。
銃を向ける『英雄』側は突然シェンフォニー様に向かうのだから、ビクッとした。
腹に向かう、剣を払いのけ、シェンフォニー様を抱き締める。
そして、崖から海へ、飛び込んだ。海面が接近する空中で、叫ぶ。
「も う、孤独は嫌だ!」
シェンフォニー様は『英雄』との戦いで、余程血を失っている。
だから、余程運が良くなければ助からない。
海に叩き付けられた痛みを互いに感じていると、シェンフォニー様の声が聞こえた気がした。
「生まれ変わったら、次は楽しく、生きてみたいモノだなぁ…」
† † †
空になったティーポット。話終えた私は、何処かスッキリしていた。
「海 に流されてる中、岩に頭をぶつけながらも生き延びます。
しかし、シェンフォニー様は記憶を、失っていました」
250: 名前:サスライ☆10/04(日) 19:37:11
静寂。シェンフォニー様は、岩の如く黙り込む。
上を見ていた、だから釣られて私も上を見ると、海鳥がミャーミャーと鳴いていて、同調し、吸い込まれてしまいそうだった。
そんな私のトランス状態は、シェンフォニー様の一言で現実に戻される。
「雪…」
「え!?ハィ、何でしょう!?」
「何で、雪だったんだろうなぁ」
「…? どう言う事でしょう?」
「当時、似た状況なんざ幾らでもあったのにさ。
何で、俺は雪を助けて、笑の部屋を渡したんだろうなぁ」
「え と、それは…」
解らない。自分の事なのに、空を掴む様に解らなかった。
只、解るのは二つ。
少なくとも気紛れでは無い。当時のシェンフォニー様は、そこまで気分屋じゃ無い。そしてもう一つは、それを、シェンフォニー様も知っている。
と、言う事だ。涙眼になりたくなる。
「でも、何か解ったんだ。当時の俺は、身分が身分だからさ、色んな汚い人間の心を見てきた。
だから、本能的に人の性格を読む力が強くなってたんだ…」
シェンフォニー様は、そう言って立ち上がり、私に近付くと抱き締め、私の胸に顔を埋めた。
否、これは、私に抱かれたいのだと思う。だから、私はシェンフォニー様を抱き締める。
「一目見て、解ったんだ。雪なら、俺の孤独と悲壮を受け止めてくれるって…」
私は、より強く抱き締める。きっと、私に見られたく無い顔をしている。
…泣いているんだろうな。
そんな彼に、私は一言落とした。
周りからは、差別を受け続け、親友を失い、国を乗っ取らざるを得なくて、守りたい国を失った彼に、一言。
「よく、頑張りました…」「ウワアアアア!!」
号泣のシェンフォニー様は小さく見えた。
辰凪館の下では、波が弾け、上では鳥が鳴く。
よく晴れた、午前の話であった。
251: 名前:サスライ☆10/04(日) 19:38:25
第七話 完
254: 名前:サスライ☆10/05(月) 17:16:26
最終話
朝陽が水平線から昇り、まつ毛に当たると、ムズムズする。
取り敢えず目を開ければ、そこは何時も通りの寝室で、背筋を伸ばした。朝の空気は、妙に美味い。
俺、シェンフォニーは何となく、部屋に作った止まり木に留まっている、雲吉に話かける。
あ、そこ、見た目は、寂しいオッサンとか言わない様に。
「な あ、雲吉…
やっぱり、あの後はエロシーンとか入れた方が良かったかな?」
「いや、小説のジャンルが変わるから止めた方が良し」
「デ スよね~♪」
前回がシリアスだったから、いきなり直球ギャグは無いとでも、思ったのかね?フハハハハ。
うん、本編関係無くなってるな。よし、この話題は此処で切ろう。
取り敢えず、何時ものスーツに着替える。いい加減に着てる様に見せる。
こうする事で、高価なスーツが安く見えて、バランスが取れているんだ。
まるで、無駄に良い動きをする、隠しキャラの様に。
「さて、行こうかな、皇帝の後始末に…」
今は、雪も寝ているだろう。そう思い、ドアノブに手をかけようとしたら、扉が勝手に開き、その先には雪が居た。
「…今度は何処に行くつもりか知りませんが、今度はお供しますよ」
数秒間を開けた後、質問をしてみる。
「気 付いてた?」
「気付いてましたよ、ずっと。
貴方の仕草を、私は沢山知ってるんですから」
255: 名前:サスライ☆10/07(水) 18:46:5
いい加減に見せる為に、今日のスーツは羽織る程度。うん、中二病だね♪
廊下を歩く最中、雪に何をするかを聞かれる。だから包み隠さず答えた。
国を守ると決意したあの日、俺は一人の人物を訪ねていた。
社博士である。彼は研究所を置いて、流浪の旅をしていた。
† † †
「…と、言う訳で国を盗る。
さて、社博士。
君には任務がある。それは、人形の強化だ」
「浮き世を捨てた私に、最早博士の称号は無いのですがね。しかし、私とて、可能不可能はある。
今の技術では、あれ以上の機能能力は望めない」
この国の全てを得るために、心の全てを置いてきた俺に対し、この国の、全てを捨てた彼は活きた眼で立ち向かう。
それは互角に感じられた。
だから、俺は頭を下げた。太子が流浪人に、頭を下げたのだ。
「あの戦いの後、最前線で、笑と共に戦った鉄兵の記録を回収した。
これには、千鳥流師範;笑の【本気】が入っている」
「千鳥流を使う人形兵。しかも師範クラスのを量産する気ですか。
しかし、記録は記録です。
今の技術では、人形兵に刷り込ませられませんよ」
「知っている。だからこそ、社博士だ。
頼む、国を守りたいんだ!
あの馬鹿の愛したこの世界を!!」
一瞬、間が空き、彼は目を丸くする。そして、彼は呟く。
「…解りました。が、私が、何かをしていると知られたら、敵が黙ってはいませんよ?
秘密裏に行わないと」
「その場所なら用意してあるんだ。
その名は…」
† † †
「この、村雲島だったんですね…」
「ああ。廃棄物置場程度の領土という名目で、研究はあの山で行われていた」
雪は表情を変えず、しかし何とも言い難い表情だった。
256: 名前:サスライ☆10/08(木) 09:35:09
やあ皆、この小説の美形キャラ・シェンフォニーだよ!
「微 形じゃネーノ?」
「アッハッハ、うっさい鳥肉だなぁ。ワイン蒸しにしちゃうぞ」
「何をブツブツ言ってんスか。馬鹿主」
さて、兵器の研究の結果は、勿論厳重に守られた。否、今も守られ続けている。
俺達は、地下室に居た。だから井時も、勿論居る。
相変わらず体育座りで、怪しげな本を読んでいた。
「さて、晶ちゃん。
単刀直入に言おう。
研究の成果を渡して貰おうかな。
一応、試作型は完成してたって連絡を受けてたんだけどね。
確かさ、暴走の危険有りで封印だっけ」
「…記憶、戻っちゃったんだね」
研究の番人をしているのは、最強である必要がある。それが、最初の人形兵である、井時だった。
場所は目立たない廃城の地下室。今の辰凪館だね。
ま~つまりだ。実は、社博士は、見えない所で彼女に会ってた事になるって、事さ。
本を閉じた時の、パタンと乾燥した音がすると、彼女は聞く。
「… 試作型を、どうするの?」
俺は、微笑みを浮かべて頷いて気持ち良く言ってみせた。
「解放する!」
雪が口から、井時が口から、そして雲吉が鼻から吹き出した。
そりゃそうだ。
暴走するから、封印されてる物を解き放つんだもん。
257: 名前:サスライ☆10/08(木) 16:36:02
私は思わず胃液を吹き出しそうになったが、別の液を吹き出すに留まった。
と、言うよりシェンフォニー様。
「今、何と…」
「いや、だから解放すんの、兵器君を♪ちゃんと聞いててよ~」
「いやいやいやいや!
Why!?」
口から台詞が漏れて、条件反射に記憶された様な、慌てぶりで慌ててみせた。
お陰で、方言を通り越た何かになった。気がする。
「まぁ、ワガママの一種だな。
なあ雪、笑と戦った鉄兵の記録を見て、思ったんだよ。
『コイツの方が、逃げた兵士より根性あるな』
ってさ」
「…はい。確かにそうですね」
「で、それは段々と別の想いになって行った。
それは無意識に刷り込まれ、記憶が無い時でも残り続ける。
そして、宗厳の時にハッキリした!」
溜め込んでいた何かを吐き出す様に、シェンフォニー様は一息で大量の言葉を発する。
その眼は、無邪気な子供の、はたまた、明るい未来を見る大人の、生きた目付きだ。
シェンフォニー様は、手を広げた。羽織ってたスーツがバッと音を立てて広がり、彼を大きく見せる。
「思うんだ、
『コイツ等にも、人間と同じ。命と魂はあるんだ』
ってね。
だから俺は、解放したい。
こんなの、死んでいるのと同じじゃないか。
それが、暴君としての、せめての贖罪のつもりだよ…」
最終更新:2010年05月08日 17:54