有色人種。

2: 名前:みるみる☆02/20(金) 16:51:15
世界は今日も、平和でした。
小鳥たちがさえずり、草木が萌え立ち、人々の楽しそうな声が、町に響いていました。

鳶色の瞳をした商人が、鳶色の髪をしたおばさんに、綺麗な赤色のリボンを渡しました。そしてそのおばさんは、鳶色のまつげをした自分の可愛い娘に、そのリボンを渡しました。
リボンを持った女の子は嬉しそうに笑いました。

世界は今日も、平和でした。


3: 名前:みるみる☆02/20(金) 17:01:18

道ゆく人々が、みんな私を見ている。
驚いていたり、眉をひそめていたり、表情はまちまちだ。

「……はっ」

手前等には真似できないだろう。
集団に埋もれることしか考えてない大人共が。

「ざまあみろ」

太ったばあちゃんが、ひそひそ声で隣のおばあちゃんに何か話している。
私を見ながら。

「文句があるなら、直接言えよ」

わたしがそっちを見ると、ばあちゃんは急いで目を逸らした。
それを見て、私は満足そうに笑ったと思う。
そして、高いところでポニーテールにした緑色の髪を揺らして、学校の校門をくぐった。


4: 名前:みるみる☆02/21(土) 13:57:20
私に向けられる視線は、校舎の中に入っても変わることがなかった。

そもそも何で私が髪を緑に染めたかというと、元々地毛が茶色な私に、ハゲの担任が「髪を染めるな、校則違反だ」と言って原稿用紙6枚分の反省文を書かせたからだった。
ただむかついた。

だから、開き直ってやった。
髪は勿論のこと、爪も緑にてかてかと光らせているし、眉も剃って、代わりにメイク用品専門店で入手した緑のペンシルを描き入れた。瞳には緑のカラーコンタクトを入れた。
徹底的にしたかったので、睫毛もエタノールで脱色してから、緑に染めてやった(これが一番危険で時間がかかった)。

教室に入ろうとすると、入り口で背の低い禿げた頭がこっちを向いていた。私は身長が165センチあるので、ハゲは私を見上げるかたちになる。
担任だ。

「おはようございます」

私は勝ち誇った笑みを浮かべて、横を通り抜け、教室に入った。
教室が一気に静かになり、そしてざわめきが起こった。
後ろから、怒り狂ったのか怯えているのかよく分からない声が聞こえる。

「貴様、ふざけるなよ……」

「大真面目です」

私は振り向いて、ハゲにウインクしてやった。


5: 名前:みるみる☆02/23(月) 16:49:10
「すっごい髪! 碧ちゃん、それどうしたの?」

桃花が私に駆け寄ってきた。
小さい体によく似合う2つ結びが、桃花の後ろで踊った。
あ、そうそう、『みどり』っていうのは私の名前だ。
『碧』で、『みどり』だ。

「どうしたも何も、染めてやったんだよ」

私は自慢げに、ポニーテールを指で弄んだ

「きゃー、格好良い! てゆーか爪も緑じゃん! どうして? 緑好きなの?」

「単純明快、私の名前が『碧』だから」

「あはは、やっぱり? じゃあ桃花、桃色に染めちゃおっかなー」

「うわ、2人で並んで歩いたら、超目立つよな」

「セーラームーンみたいかもっ」

そして2人で笑いあった。


6: 名前:みるみる☆02/26(木) 16:17:24
ちょっと変かも知れないけど、笑っている桃花を私は素直に可愛いと思う。
別にガールズラブなわけじゃない。
桃花のまわりには、白やピンクの小さい花が舞っているような気がする。そんな雰囲気がある。
それに比べたら、私のまわりには花なんて多分無い。
あったとしても、それはしおれたり枯れたりしているはずだ。
茎には棘もありそうだ。

でも、そんな正反対の2人だけど、私達は、友達として最高の組み合わせだと思う。
そう思えるくらい、私と桃花は仲が良かった。

そんなことを考えながら、桃花との雑談に花を咲かせていると、和んだ空気を叩き割るような大きな音がした。
再度教室の中が凍りつく。

音の出たドアの方を見ると、扉を全開にして仁王立ちになっている痩せたゴリラがいた。
否、痩せたゴリラのような容姿の体育の先生がいた。

「お前か、生意気にも染髪をしおったやつは」

先生のごつごつした藤のような人差し指は、私を指していた。

「……ハゲめ、自分じゃどうにも出来ないからってチクりやがったな」

「そうみだいだねっ!」

でも、もう担任に仕返し(のようなもの)は出来たんだし、この髪に用はない。
済んだ事で先生に叱られるのも癪に障る。
それにしても、こいつが来るとは想定外だった。
でも、想定外のことが起きても、私は動じない。

私は、まるでレッドカーペットを歩く大女優の如く、痩せゴリラのいる方へ歩いていった。

「そうだ。最初からそういう風に素直な態度で――」

素直?
そう見える?
じゃあお前の目は節穴以下だ。

力じゃ敵わないし、口論になってもねじ伏せられるだけ。だったら――

私はドアと先生の体の間から、バスケットのダックインみたいにするりと抜けて、廊下を走り出した。

「逃げろっ」


7: 名前:みるみる☆02/28(土) 09:39:51
後ろからゴリラの咆吼が聞こえる。
確かあいつは足が速い。

「でも私だって速い(多分)!」

外に出ようとしたが、1時間目が体育のクラスがあるらしく、通路が塞がっていた。

「畜生っ」

私は階段を駆け上がっていった。
上に行ったって出口はないのに。
ただの時間稼ぎだ。

階段にいた生徒が私を避ける。
みんな私の緑の髪を見る。

「はぁっ、はっ、まだ追ってきてるよ……、しつこいぞゴリラ!」

「なんだと!」

まずい。
私のさっきの一言が、ゴリラをもっと怒らせてしまったらしい。

「わあああああ! ちょ、速いって!」

前を見ると、もう階段はなくなっていた。
代わりに、屋上へ出られる銀色の扉があった。

「うらあっ!」

私はドアを蹴破ると、朝日が眩しい屋上に飛び出した。

しょうがない。
このまま逃走劇を繰り広げていたら、私が絶対に追いつかれる。
このへんで、終わりにしておかなければいかないのだ。

「でも、どうするよ」

このだだっ広い屋上には隠れる場所なんて無い。

「人質作戦決行!」

私は、朝露に濡れたフェンスをよじ登って、一番上に座った。

「そこから降りろぉ!」

ゴリラが屋上に入ってきた。
額に青筋が浮かんでいる。

私はわざと足を揺らしながら、ゴリラに言った。

「先生、近づかないでください。もし、私にちょっとでも触ったら……私ここから落ちますよ?」

「なっ……」

緑の髪が風にはためく。
自分でも綺麗だと思った。



9: 名前:みるみる☆03/02(月) 17:12:36
8結衣様 ありがとうございます!ああもう嬉しくて泣きそうかも;て言うかもう半泣きです。
こんな小説見に来てくれてありがとうございます!


ぐらぐらと体を揺すりながら、私は笑う。
もちろん本気じゃない。
死ぬなんて、まっぴらご免だ。

「そこから、降りろっ!」

「ぎゃっ」

ところがゴリラは、血相を変えて、すごいスピードで私の足に掴みかかってきた。
落ちるわけ無いのに、必死になっちゃって、まあ。
そんなに強く掴まないでよ。血が止まる。

とそのとき、強い風が吹いて、私のスカートをめくり上げた。

「や、ああああっ!」

ゴリラの目は、完全にスカートの中を見ていた。
私は慌ててスカートを両手で押さえた。

「わああ、離せ! このエロゴリラ! 変態!」

「あ、暴れるな!」

「わ」

スカートを両手で押さえていたから、とっさにフェンスを掴める訳もなく。

暴れたせいで、両足はゴリラの手からすり抜けて。

フェンスのような細いものに座っていた私に、安定感などと言う言葉はなく。





「                          」





私は地上4階分の高さを、地球の重力に従って落ちていった。



11: 名前:みるみる☆03/03(火) 16:02:04
10めい様 あげありがとうございます!私は亀更新なのでかなり遅いです;多分多くても1日1回ですね……すみません。
でもなるべく多く書くように努力しますw




ニュートンの林檎になった気分だ。
もっとふわふわと落下するものだと思っていたのに。
なんだこの空気を切る音は。

「ああ、死ぬ」

あれ?
こんなに「死」って簡単に訪れるものなのだろうか。
私の頭の中は、こんな時だというのに、酷く冷静だった。

多分、さっきまで桃花と喋っていたこの口から、もうすぐ血が流れ出す。
廊下を走っていた足は、ぐしゃぐしゃに砕けて。
緑の髪は、己の血液で真っ赤に染め上げられることだろう。

さっきまで、元気だったのに。

眩しい青空の中に、小さくゴリラの青ざめた顔が見えた。

校舎の中から、女の子の悲鳴が聞こえる。

ああ、もう――

「さよなら」

私は、緑色の睫毛を伏せた。



背中に、衝撃。


………………


………………あれ?


「あは、女の子が、空から降ってきたよ」

瞳を開けた。




そこには、青色の男がいて、私を抱きかかえていた。


12: 名前:みるみる☆03/04(水) 17:02:23

「……死んでない」


「死んでないねぇ」

どうして?
て言うか――

「あんた、誰?」

私は、深くフードを被った、青色の瞳をした男に聞く。

「うん? 僕? 僕はただの通りすがり。君が空から降ってきたんで、たまたま受け止めた。それだけだよ。飛行石でも持ってるかと思ったけど、あの速さじゃ持ってなかったみたいだね」

「ラピュタじゃありませんから……て言うか、普通屋上から落ちた人間って受け止めきれなくない?」

そんなことをしたら、腕が折れてしまうではないか。

「ああ、本当だね。どうして受け止められたんだろう。それより――」

青色は、のんびりした口調のままで続ける。

「君、高い屋上なんて、この辺には無いよ?」

「え?」

私は視線を男から空に移した。

そこは本当にだだっ広い空で、学校の校舎はおろか、2階建ての小さな建物が並んでいるだけだった。

「…… 天国?」

確かに、私は学校の屋上から落ちたのに。
4階分の高さを、落下したはずなのに。
ここは見たこともない場所だった。
それどころか、この建物達の色、見た目からして、日本ではないように感じる。


14: 名前:みるみる☆03/05(木) 16:24:44
13想愛様 ぎゃあああ← 嬉しいです!
ありがとうございます。いつも見てくださってるなんて……
精一杯頑張りますv


「あはは、残念ながら天国じゃないよ」

「でも、学校じゃない! 日本でもないんじゃないの!?」

「にほん?」

青い男は、初めて聞いたかの様に、不思議そうな口調で聞いた。

「それは国の名前?」

「そうよ、もう! 日本国! 日章旗! 君が代!」

さらに分からない、と言うように、男は首を傾げた。

「?…… お嬢ちゃん、残念ながらここは『日本』ではないよ。多分、君がいたところは、もっと別の世界だ」

突然、世界とかスケールの大きいことを言われたので、私は頭が混乱してきた。
何を言っているんだ、このお兄さんは。
そんなことをぐるぐる考えていたから、周りのざわめきやこちらを見る目に気付かなかった。

「…………お嬢ちゃん、君とお話しするのはとっても楽しいんだけどさ、もうそろそろ限界かもね」

限界?
何のことだろうか。
あ、そういえばこのお兄さん、さっきから私をお姫様だっこしたままだ。
腕が限界なんだろうか。

「あ、あの、降りましょうか?」

私は、折り曲げていた足を伸ばして、地面に降りようとした。

「いやいや、限界なのは腕じゃなくって」

「?」

べちゃっ。

突然、私の目の前、お兄さんの鎖骨のところに、生卵が投げつけられた。

「なっ……」

卵が飛んできた方を見ると、パン屋の帽子を被ったおじさんが、こちらを睨み付けていた。

「なんでこんなところにいる!」

おじさんの周りには、おばさんと女の子がいて、こっちを同じように睨んでいた。

あれ?
なんだか、おかしい。
この人たち、日本では見慣れない感じがする。
どうして?

おじさんは、卵をもう一つ投げつけながら、私達に怒鳴った。





「ここは、『colored』の来て良いような場所じゃない!」






「……からーど?」

「うん。お嬢ちゃん、行こうか」

にっこり私に笑いかける男。

「え、行くって――」

どこに、と私が言い終わる前に、男は私を抱えて歩き出した。
生卵がたくさん投げつけられた。
私にも当たった。
子どもの、楽しげな笑い声が聞こえてきた。
もっとやれ、と言う声も聞こえてきた。

混乱しっぱなしの私は、それでも1つ気がついた。

ああ、あの人達、目も髪も睫毛もみんな茶色だった。

だから、おかしく見えたんだ、と。



15: 名前:みるみる☆03/07(土) 14:19:53
男は私を抱えたまま、薄暗い細い路地へ入っていった。
私は急に不安になった。

「あの、お兄さんてもしかして怪しい商売とかされてます?」

「あはは、面白いこと言うね」

顔は笑っているけど、歩みが止まることはない。
私は生命の危機を感じた。

「さようなら……私の処女……私の命……」

逃げだそうかとも思ったが、逃げ出したところで、このへんてこな町の地図なんて持ってない。
それに、このお兄さんの笑顔怖い。

路地はどんどんじめじめとした暗い空気に覆われてきた。

「さあ、着いたよ」

私は腕から降ろされた。

着いたって、ここ?

「あの――」

「誰だ、お前」

私ではない、女の声。

突如、首筋に何か冷たいものを突きつけられた。
金属棒?バット?
……銃?

反射的に、私は両手を顔の横で広げた。
降参のポーズ。

男が言う。

「大丈夫だよ。この子『colored』だから」

さっきも聞いた単語だ。

「なんだ、この町にもまだいたのか。ふうん」

首にあった冷たいものが離された。

16: 名前:みるみる☆03/09(月) 14:11:20
「……?」

なんで急に自由の身になったか、私には分からない。
でも、まあ緊張状態が解けたのは安心だ。

それよりも気になることがある。
「colored」って何?
さっきから何度も聞く単語だ。

少し、暗がりに目が慣れてきて、にっこり笑う男の顔が見えた。
男は、いつの間にか持っていたランプに灯を付けた。

「お嬢ちゃん、紹介するね。僕の仲間、『赤』だよ」

男の視線は私を通り過ぎたところにあった。
あわてて私は振り返る。

そこには、赤い女がいた。

赤い髪に、赤い瞳。
眉毛はきりりと強い印象で、睫毛と同じく真っ赤だ。
爪と唇が、やけにセクシーにてらてらと赤く光る。
それに加えて、この女は赤い服を着ていた。
ワンピースのようだけれど、とてつもなく丈が短い。
そこから覗く白い太ももは、女の私でもどきりとしてしまうものがあった。
ベルトやら襟やらで派手に飾られた服は、エナメル地なのか、ランプの光を反射して、妖しい光沢があった。
胸が大きいな、と貧乳の私は羨ましく思った。

「よろしく。あんたは『緑』か」

「よ、よろしくお願いします」

「敬語はいいよ。あたしはそういうの、嫌なんだ」

見た目通り気の強そうな女だ。
だけど私は、なぜか彼女に好印象を持った。


17: 名前:みるみる☆03/10(火) 13:10:13
「言葉は汚いけど、優しい奴だよ」

後ろからの声に、私は目をやった。
男がフードを脱ぐところだった。
男もまた、髪が青かった。

「わあ……」

「ごめん。自己紹介してなかったね。ぼくは『青』。よろしく」

握手を求められたので、取り敢えず男の手を握ってみた。
青い爪は、不健康そうには見えない、綺麗な青だった。

こうして3人いるとカラフルだなぁ。
なんか朝のテレビでやってる戦隊ものみたい。
ブルー!
レッド!
グリーン!
みたいな!?

「何にやけてんだ?」

「あ、ううん! 考え事!」

「それにしてもさぁ、お前」

赤が言う。
唇の中から覗く、白い歯が艶めかしい。

「よく生きてたよなぁ」

「…… え?」

「顔とかに傷もねぇし、服も綺麗だな。生卵は付いてるけど」

生卵が付いているだけで、かなり汚いんじゃないだろうか。
私には赤の言っていることの意味が分からなかった。

「どういうこと?」

「え。お前本当に何もなかったの? 人身売買とか」

「じんっ……!?」

突然そんなことを言われても。

私は青い男に救いを求めた。


19: 名前:みるみる☆03/11(水) 13:28:12
18ちか様 天才!?お世辞もほどほどにしてくださいよw
まだ話の始めで読む方はつまらないと思いますが、長い目で見てくれたら嬉しいですv
ありがとうございました!


「『赤』、この子はね、この町じゃない、もっと別の世界から来ているみたいなんだ」

「はあ? とうとう頭いかれちまったのか? ファンタジー小説とか、お前好きだったっけ」

「いや、冗談じゃなく、本当の事みたいなんだ」

なんだか2人で会話が進みそうな気がしてきた。
このまま私は、1人何も分からないままになってしまうんだろうか。
そんなの、嫌だ。

「あ、あのっ!」

赤と青の瞳がこっちを見た。
ぞっとするほど、美しい。

「さっきから意味分かんないよ! なんで私が人身売買とか殺されたりとかしなくちゃなんないのよ?」

2人はぽかんと私を見ている。
意味が分からないのはそっちだ、と言わんばかりに。
やがて、青が口を開いた。

「…… あのね、お嬢ちゃん。それは僕たちが『colored』だからだよ」

1足す1は2だよ、と言うみたいに、至極当たり前のことを言う口調だった。

まただ。またその単語だ。

「『からーど』って何よ! さっきから横文字ばっか使っちゃって、苛々するんだけど!」

赤が、ゆっくり長い溜息をついて、私に説明する。

「『colored』は有色人種のことさ」

「ゆうしょくじんしゅ?」

「そうだよ」

青も加わる。

「青かったり、赤かったり、君みたいに緑だったり。とにかく、色の付いた人たちをまとめてそう呼ぶんだ」

この男だったり。
この女だったり。
私だったり?

「でも、町にいる人はみんな茶色だったじゃない! 髪も、睫毛も眉も、瞳でも!」

「あれが、この世界の正しい色だよ」

「正しい?」

色に正しいなんて、あるの?

青は笑顔を崩さない。

「つまり、茶色い人は普通の人、で、こっちは異常な人ってわけだよ」

「はっ。結局、多数決でなにが正しいかは決まってやがるんだ」

赤の眉が、苦々しげに歪む。

「ちょっと待って。そりゃ普通の人に比べたら、私達は目立つけど、それでいいじゃない! カラフルじゃん! それでいいじゃん! 異常なわけじゃないよ!」

そうだ。
そうなんだよ。
中身は普通の人間なのに。

卵を投げつけた奴らの顔が、思い出される。
あれは、こういうことだったのか。
怒りが、沸々とこみ上げてきた。

「あいつらは、自分より下をつくらなきゃ駄目なんだ」

吐き捨てるように、赤が言った。

「どうして? 人間に上も下もないよ。福沢諭吉もそう言ってたよ!」

「弱い人間なのさ。自分より下がいないと安心できない。自分1人じゃ立ってられないんだ」

私は言葉が出なかった。



21: 名前:みるみる☆03/12(木) 16:33:30
20由美様 ありがとうございます! なんかここに来た時に自分の小説が上げられてるとテンションがやばいですw


「分かったかな?」

「……うん、分かった。でも、納得はしてない」

「はは、そりゃあたしもだ」

赤の顔は優しい形を作った。
でも、どこかに自嘲があるようにも感じられた。

「って訳で、お前は今日からここで暮らせ。1人じゃ危ないだろ」

「……え」

「そうだよ、お嬢ちゃん。外に出たら、いつどんな目に遭うか分からないからね。正直、君を僕が受け止めてなかったら、今頃売りさばかれてたかもしれないし」

「ラッキーだな、お前」

売りさばかれるって、私が?
体を?
命を?

考えただけで身震いがした。

そうだ。私本当にラッキーだったんだ。

「狭いけど、一応雨風はしのげる小屋が奥にある。まあ、晴れた日にはこうやって少しでも明るいところに出てるんだけどな。シャワーとトイレも付いてるから、生活には困らねぇよ」

赤の強気な瞳が笑った。

「いいの?」

「こっちが提案してんだから、良いも悪いも無いだろ」

それはつまりOKだということだ。

「ありがとうっ!」

感極まった私が、赤に抱きつこうとした。
少し困った、私の癖だ。
何でも感激すると、抱きつきたくなる。

「とぅわっ!?」

足下の何かにつまずいた。
ああ、格好悪いなぁ、私。
いやいや、そんなことよりも。


なんか大きくなかった?

少なくとも石ころとかいうレベルじゃない。

「きゃっ」

つまずいたソレは、声を発した。

「――っ!?」

「あれ、お前気付いてなかったの?」

「無視してるのかなぁって思ってたけど、やっぱりそんな酷い子じゃないみたいだね。良かった」

とっさに起き上がって、声のした方を見た。



黒い女の子がいた。



「いたた……」

白い手で押さえている頭は、漆黒だった。
日本人でもびっくりするくらいの、純粋な黒だった。
首の真ん中あたりで切られているショートヘアー。
髪は癖毛なのか、あちこちが跳ねている。
こっちを見る瞳でさえ、吸い込まれそうな黒だった。

「『黒』です……よろしくお願いします」

「……『緑』です」

「さっきからずっと聞いてました……」

「…………」

思ってはいけないことを思ってしまった。

あなたには存在感というものが無いのか。



24: 名前:みるみる☆03/14(土) 11:28:40
カラフルな共同生活が始まった。

とりあえず役割分担。

赤は見張りと仕切り役。
まあそれしかないだろうって思う。

青は食料調達と洗濯物。
これは前からそうだったみたいだ。
ああ、だから町の真ん中で出会うことが出来たんだ。
あのときは食料調達中だったのか。

黒は料理係。
料理がかなり得意らしい。
ちょっと意外。

で、私。
ムードメーカー。
以上。


「っえええええええええ!?」

「だってお前、何にも出来なさそうだし」

「そうだねぇ。お家の手伝いとかしてないでしょ? 指全然荒れてないもん」

「あの、少しずつ慣れていけばいいんじゃないかと……」

「むきゃー! 馬鹿にしないでくれる!?」

でも何も出来ないのは事実。
私にとって、これはかなりの屈辱だった。


25: 名前:みるみる☆03/16(月) 14:11:08
「私に仕事をくれえええええ」

私は手をまっすぐ伸ばして、わきわきと指を動かした。
仕事がないなんて、なんかお客様って感じで嫌だ。
ここで暮らしていく以上、「仲間」でありたかった。

「うーん……じゃあお嬢ちゃん、僕の仕事は2つあるから1つあげるよ。食料調達。どう?」

青がにこにこ笑いながら言った。
顔の筋肉が疲れないんだろうか。

でも仕事がもらえるなんて、嬉しい。
「お客様」脱出、成功!

「うん、頂戴!」

「あ、でも最初のうちは慣れないと思うから、僕が付いていってあげるよ」

「ありがとっ」

「良かったですね」

黒が笑ったのを、初めて見た。


27: 名前:みるみる☆03/17(火) 15:14:08
26流華様 余の辞書に文才の文字はない。うわ、全然格好良くねぇw
褒め言葉ばかり頂いて舞い上がっちゃってますよ、私!

碧ちゃんは、平気で得体の知れないものを持って帰ってきそうです。
あなたの予感、あながち考えすぎでもないかも……←

あげありがとうございます!


「よし、じゃあ行こうか」

「え、もう?」

「うん。本当はもう行く必要なかったんだけどね。今日行きかけてたんだけど、君が空から降ってきたもんだから、一旦帰らなくちゃいけなくなったんだよね」

笑顔でそんなことを言う。

「なんか……ごめん」

「いいよ、気にしてないって」

それに、ここに蓄えてた食料だけじゃ、4人分も無かったからね、と青は付け加えた。

なんか、いきなり足引っ張ってるなぁ。
本当にすまないと思った。

「じゃあ、これ着ていけよ」

赤が、私にベージュの物体を放り投げてきた。

「?」

それは、深いフード付きのコートだった。

「絶対にそのフードを脱ぐなよ。正体ばれたら、どうなるか分からないからな」

「うん、ありがとう」

そのコートが、やけに重たく感じた。


28: 名前:みるみる☆03/18(水) 11:17:05
町は活気に溢れていた。
商人の明るい声が、大通りに響く。
あちこちから良いにおいがしてきて、私は海外旅行に来たような気分になった。

「凄いねっ、お洒落な町だねっ」

私はぴょんぴょん飛び跳ねながら、青に声をかけた。

「はは、そんなに飛び跳ねたらフード脱げちゃうよ」

「あ、そうか」

私は、フードを引っ張って、なるべく深く被った。

「ねえ、君ってさ」

青が、笑顔のまま私に話しかけた。

「順応力高いよね」

「へ? そうかなぁ?」

「うん。だって、普通の人なら元の世界に戻ろうと必死になるでしょ? なのに君は、この世界のことを疑いもしないし、並外れた順応力だよ」

「……それって褒めてる?」

「うん。でも、見知らぬ人をすぐに信じちゃうのは良くないかもね。例えば、僕が殺人鬼だったりしたら、君もう死んじゃってるよ」

「殺人鬼っ!?」

「だから、例え話だって」

そして、また青は笑った。
私もつられて、笑ってしまった。
何か、カラフル3人組の中で、青が一番話しやすいかもなぁ。
いつも笑顔だし。

ちょっと気になってることとか、聞いちゃっても良いのかな?

「あのさ、みんなの名前って何なの?」

「ん?」

突然話が飛んだので、青は言葉の意味を分かっていない様だった。

「私は、『碧』なんだよね。みんなも、『赤』とか『青』とかなの?」

「うーん……」

青は何故か、考える素振りを見せた。

「それは、ちょっと言いにくいところなんだけどね」

言いにくい。
重い空気を感じる言葉。
聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がした。




「僕たちに、名前はないんだ」




そんなことも、笑顔で言う。

名前がない。
どういう事だ。
思考が追いつかない。
背筋が、冷たくなる。

「僕たちは『普通の人』から突然変異で生まれてくるんだ。勿論、お父さんやお母さんは僕たちを忌み嫌うでしょ? 当然だよね。自分の体から、こんな異形が出てくるんだもん。異形って言っても、形は普通の赤ちゃんだけどね」

頭の中で、青の優しい声が響く。
しかしそれは、何回も反響して、ぐわんぐわんと鳴り響く。
ああ、私の頭が、分かることを拒否している。

「で、そんな子どもが自分の子だなんて認めないわけだね。だから名前も付けられず、ろくに世話もして貰えずに、結局捨てられちゃうんだ。それの生き残りが、今の僕たち。いやぁ、まったくしぶとく生き残っちゃったねー」

「…………」

「だから僕たちは、色で呼び合うんだ。分かりやすくて良いでしょ?」

「……辛かった?」

やっとの事で絞り出した声。
それは掠れて小さく震える音だった。

「うーん。そうだね。辛いって言えば辛いんだろうけど、生まれた時からそうだったから、感覚が麻痺しちゃってるのかな? だからあんまり辛くはないよ。その点、可哀想なのは黒かなぁ」

「黒?」

「そう、あの子、12歳までは『普通の子』だったんだ」

青の発した言葉の意味が、すぐには分からなかった。

「本当、黒は12歳まで茶髪で茶色の瞳だったんだよ。何が起こったのかは分からないけど、僕らのところに来た時は、片眼が黒になって、髪の毛にも黒が混じってた。しばらく一緒に暮らしてたら、真っ黒になったよ」

「そんな……」

そんなことが、起こっていいのか。
それが本当なら、黒は――

「幸せ」を知っている黒は。
「異形」になった黒は。
名前を無くした、黒は。

その心は、どれほどの傷を負っただろうか。
それは、闇に溶け込んでしまうほどに、彼女を苦しめたのだろうか。

「さあ、店に入ろう」

「うん……」

頭が、石を詰めたように重く、歩くのも辛かった。


31: 名前:みるみる☆03/19(木) 14:50:59
心とは裏腹に、明るい空気が私達を包んだ。
棚には、たくさんのパンが並べられていた。
香ばしい、焼きたての匂いがする。
ここはパン屋さんのようだ。

「いらっしゃいませ」

会計のところに立っていた若い青年が、空気に負けない明るい声で私達を迎えた。

「お、君は店長の子どもさん?」

青が、慣れた調子で青年に声をかけた。
ひょっとしてここ、行きつけの店なんだろうか。

「あ、はい。見習いです」

青年は照れくさそうにそう言った。
腰掛けタイプのエプロンをぎゅっと握っていて、あまり接客に慣れていないように見えた。

やっぱり茶色なんだなぁ、と私は思う。
栗色の髪の毛は、耳の下で切られていて、とても清潔感があった。
その栗色の瞳が私を見たので、思わずフードを深く被ってしまった。

「君、新しい子?」

青年が笑顔で言ったので、私はびっくりしてしまった。

「えっ…… と」

「うん、新しい子。空から降ってきたりしてちょっと変わってるんだけど、面白い子だよ。『緑』なんだ」

「! な、なに言って――」

「普通の人」に自分の正体をばらしたら、どうなるか分からないって言ってたじゃないか!
なのに、今青が言った言葉はなんだ。
もしかして、私騙されてたとか!?
青って、本当にやばい職業やってたとか!?

「あ、ごめん。言うの忘れてた。この人は、僕らの事とか全部知ってるんだよ」

「びっくりしちゃった? ごめんね」

「……?」

そんな人もいるの?
私達が「有色人種」だと知りながら、普通の人と同じように接してくれる人がいるの?

驚きと共に、感動もした。

なんだぁ、良かったー。
って言うか――

「先に言えやああああっ!」

この時初めて、私は青に突っ込みをした。


34: 名前:みるみる☆03/22(日) 11:09:35
33流華様 レス遅くなって申し訳ないです;
優しい人だっていますよ! 

可愛いなんて嬉しいです! 自分じゃないのに!
良かったー∀
背が高くて天然キャラを作りたかったので……。
一応キャラ作り成功、かな?

何度もありがとうございます♪
もう今は流華さんが書く原動力っていうか……
見てくれてる人がいるんだなって感じがします!


「元気な子だね」

茶色の青年は、笑顔でそう言った。
青に似ているかなぁ、と思う。
背が高いし、笑顔だし。
でも、芯はしっかりしてそうだな。

「ご挨拶遅れました、碧ですっ」

「こちらこそ遅れちゃってごめんね、僕は琥珀(コハク)です。よろしくね」

私はよそ行きの清楚な女の子を装い、深々とお辞儀をした。
琥珀さんも、笑顔でそうしてくれた。

「今更女の子ぶっても、もう手遅れだと思うけどなぁ」

また青い笑顔がそんなことを言う。
ちょっと静かにしてて。

「あ、あと1つ言うの忘れてた」

「何?」

「琥珀くんはね、『黒』の恋人なんだよ」

「!」

あの黒に、こんな恋人が?
もしかして、自分が茶色だった時の恋人だろうか。
私は、まじまじと琥珀さんを見つめた。

筋の通った鼻、長い睫毛。
体の全てのバランスが整っている。
おまけに優しい。
今まで全然気がつかなかったけど――

「…… 格好良い」

「こらこら、人の彼氏に目を付けないよ」

「面と向かって言われると、もの凄く照れるんだけど」

琥珀さんは右手で顔を覆った。

「あ、ごめんなさい」

私も手で口を覆った。

「いや、褒めてくれてありがとう」

「本当に、彼氏取っちゃ駄目だよ?」

「いやいや、今のは純粋に格好良いって思っちゃっただけだから!」

本当に、口から思わず零れただけなんだ。
可哀想な黒ちゃんから、恋人まで奪うつもりはない。
それに、格好良いことには良いんだけど、私のタイプではない。
タイプって言ったら――

私は、琥珀さんから大きな紙袋を受け取っている青を見た。

「ん、なに?」

「いや、何でもない」

よく見れば、青だって町でスカウトされてもおかしくないくらいの顔立ちをしていた。
顔だけ見れば凛々しいんだけどなぁ。
中身がこれじゃあね。

「じゃあ、琥珀くん、どうもありがとう」

「いえいえ、またどうぞ」

店に入る時とは違う、変に高揚した気持ちで、私達は店を後にした。

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最終更新:2010年05月10日 19:23
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