258: 名前:HARU☆02/28(月) 22:49:48
*
「ふうっ」
月曜日、文化祭の代休、時間は只今1時
場所は市内にある公園
の、ベンチで只今人待ちしてます
それも結構重い空気を持ち合わせて
ベンチに座って足をクロスさせたり、周囲をきょろきょろしたり
なんだか落ち着きません
「相沢」
振り向くとそこには普段見慣れない私服姿の人
「おっす、八尾くんっ」
「おっす」
手を出して明るく挨拶すると同じように反してくれる
事の始まりは昨日
奏太くんが帰った後、すぐに八尾くんに連絡をした
今日会えるなら返事をしたい、と
「ごめん、遅かった?」
「全然?私が早かったんだって」
私は自分の隣の席をとんとんと叩き、座って?と言う
八尾くんはジーパンのポケットに手を突っ込んだまま腰を落とす
静かに私は一息つく
「この前は言わなかったけど、八尾くんの気持ち。すっごい嬉しかった」
「…うん」
鳥のさえずり、公園にいる人達の声が間を埋める
「あの日…、勝手なことしてごめん」
「もういいよお、そんな顔しないで、ね?」
勝手なこと、とはキスをしたことだろう
その事実は消えなくて私も奏太くんも、八尾くん自身も傷つけた
だから責めたり蒸し返したりするつもりは更々ないよ
静かに思ったことを伝えるから
261: 名前:HARU☆03/01(火) 19:45:06
午後の太陽が気持ち良く降る
「まず、謝りたいの。八尾くんの気持ち知らなかったとはいえ
無神経なことしたり言ったりしたこと。本当にごめんなさい」
「ううん、相沢が謝ることじゃないよ」
八尾くんは優しく笑いながら首を横に振る
優しいよね、いつだって
「そうゆうとこ、八尾くんの良いとこだと思う。
あといつでも周り見てて気が利いたりするとこも」
「べた褒めだね」
はは、と笑う八尾くんに「正直な気持ちだもん」と伝える
この時間、私にはなんてことない時間だけど大切に思ってるよ
だけどね
「傷つけたくない人がいるの」
「……うん」
返事のトーンが下がる
変わらないのは背景の音だけ
真っ直ぐただ想いを伝える
「その人のことは大好きで、不安な顔をさせた。
それではっきりしなきゃって…、気付いたの」
目を一度、閉じる
「私は奏太くんが好き。だから八尾くんの気持ちには応えられません」
「うん」
友達として大好きなあなたがこんな私を好きと言ってくれて嬉しかった
ありがとう、そして
「---…ごめんなさい」
264: 名前:HARU☆03/01(火) 21:39:50
一息置いて、口を開いたのは八尾くんだった
「ま、普通に考えて俺振られるの決定だったしね。気にしないでよ」
「あ、うん…」
八尾くんがあまりにもはっきりと笑顔で言うから言葉に詰まってしまう
よいしょ、とポケットに手を突っ込んだままベンチから腰を上げる八尾くん
私が申し訳ない顔をしてたのか、「笑って?」と言ってくれる
「じゃあ、俺帰るね。また明日」
そう言って手を振ると、笑って帰って行く
「や、八尾くん!」
後ろ姿の八尾くんを引き止める
なんだかこのまま何も言わずに終わったらいけない気がした
「何?」と振り返るけど、何を言えばいいかわからない
「あ、あの…っ、大好きだから!」
「うん」
「大好き…だから、また明日も仲良くしてね…っ」
友達として、という言葉を飲み込んだ
「当たり前じゃん。気を付けて帰ってね」
そうはにかんで、また手を振ってくれた
そのまま帰ってく後ろ姿をただ見つめる
「…ありがとう」
小さく小さく、大好きな大切な人にお礼を伝えた
そんな暖かい昼下がりの日
265: 名前:HARU☆03/01(火) 22:04:34
家に帰ろうとすると携帯に着信が入る
名前を見ると奏太くんからだった
「奏太くん?」
『あ、今から家に来れますか?』
「今から…、大丈夫だけど。何で?」
そう聞くと、電話ごしに奏太くんと誰かの声が混雑している
『あっ、くるみちゃーん?私だけどちょっと頼みたいことがあって!』
「ひ、日和さんっ?」
電話の向こうで聞こえる明るい声で話す、奏太くんのお母さん日和さん
何が何だか急でわけがわからなかったけど、来て来てと
連呼されるので少し小走りに奏太くんの家へと向かった
一軒家が並ぶ住宅街に奏太くんの家がある
奏太くん家は初めてで何だか緊張してしちゃうな…
インターホンを鳴らすと勢いよく扉が開く
「あ、いらっしゃ「くるみちゃんありがとねーっ」
奏太くんが出て来たけどそれを遮り乗っかるように
日和さんが口を開き歓迎ムードで私をぎゅうっと抱き締める
「ちょっ、母さん!本当すみません、母さんの我が儘に付き合わせて…」
「いや、あの…。私なんで呼ばれたの?」
日和さんに抱き締められたまま奏太くんに尋ねる
とりあえず来たけど日和さんが何の用があって
私を呼んだのか全然聞かされてないんですけども…
266: 名前:HARU☆03/01(火) 22:38:01
奏太くんの家に入って案内されたのは一番奥の扉の向こうの部屋
壁や天井など全部真っ白で隅っこに机とたくさんの画材
そして散らばったカメラ器材といくつかの洋服
普通の家には考えられない独特の部屋
「えっと…、ここ」
「私の仕事部屋。あ、私デザイナーやってんの」
へー、デザイナー
…デザイナー?
「えぇえぇっ!?日和さんデザイナーなんですか!?」
「そだよ~、意外でしょ?」
日和さんはふふん、と誇らしげに笑う
急すぎてとにかく驚き…!
奏太くんのお母さんすごい職業じゃん!
「服のデザイン書いたり、気が向いたら自分で作ってみたり。
最近は息抜きがてらにカメラ器材も揃えて撮影とかしてるの」
「ほわあ…」
もうなんか唖然とした声しか出ません
「先輩、口開いてます」
「え、わ。…えへ」
恥ずかしくて口に手をあてる
確かに日和さん細身だし、デザイナーって言われても納得しちゃうな
とゆうことは奏太くんはデザイナーの息子かあ
「うん、萌え」
「意味わからん」
その漏れた発言にぺしっ、と奏太くんが軽く頭を叩く
「くるみちゃんには私の服着てもらって、写真撮らせてもらおうと思って」
「……ん?」
さらっと発言した日和さんの言葉の意味がわからず、奏太くんに目を移すと
「まあ…、そういうことです」
うっそお…?
274: 名前:HARU☆03/05(土) 19:13:43
あの、状況が理解できません
「私が作る服はそれこそモデルさんみたいな背の高い人が
着るように似合うようにデザインしてるんだけど、
息抜きで全く違ったデザインも書いたり作ったりしてるのね。
これは私が勝手にやってることだからどこにも提供はしない作品」
ぺらぺらと話を続ける日和さん
とりあえず呆然と部屋に散らばる服や器材に目を移す
「で、文化祭の時にくるみちゃんに会ったら妄想止まんなくなっちゃって」
「も、妄想?」
「くるみちゃんに似合う服はーとか、こんな服着せたいーとか」
「は、はあ…」
奏太くんに横目で助けを求めると「すみません」と言われた
日和さんのテンションはだいぶマックスだ
「ねっ、お願いっ。別に編集長とかに提出したりしないから。
私のデザインした服着て、写真撮らせて欲しいのっ。ね、ね?」
日和さんがぱんっ、と手を合わせてお願いと強請る
え、えーと…、
「別に大丈夫です、けど…」
「本当っ?」
日和さんの目がきらきらと光る
いや、だって日和さんの服試着して写真撮るだけでしょ?
別に世に出ないなら断る理由も特にないし…
「嬉しいっ。じゃあさっそく着替えて着替えてっ。
あ、覗きたい気持ちはわかるけど奏太は部屋の外に出て下さーい」
「げほっ…か、母さん!」
日和さんのペースに巻き込まれ、奏太くんはむせながら部屋の外に出る
ひゃ~っ、なんだかこんな体験初めてでどきどきするっ
275: 名前:HARU☆03/05(土) 19:48:06
「わっ、くるみちゃん胸大き~いっ」
奏太は部屋の中から聞こえる声に静かに咳き込む
たぶん母さんがわざと聞こえるように言ってるんだろう、と
「全く、なにやってんだか…」
奏太が顔を赤くしてそう呟くと「入っていいわよ」と中から声が聞こえる
扉を開けると空気が変わった
「あ、奏太くんっ。似合う似合う?日和さんの服すごい可愛いねっ」
着替えと髪型を変えたくるみの姿が奏太の目に映る
私服姿から一変して、純白のワンピースに移り変わる
袖がパフになっているシフォン素材
胸と裾に花柄の刺繍が施されているナチュラル且、甘めのデザイン
髪型もそれに合わせて緩めに広げたポニーテールに
「日和さんすっごーい!」
「予想以上にイメージ通り。私の目に狂いはなかったわね」
腕組みをして誇らしげに言う日和さん
テンション上がってくるくる回るとひらひらと裾が綺麗に回る
誰かが自分の為に作ってくれた服がこんなに嬉しいなんて思わなかった
「奏太くん、ど?」
何も喋らないから傍に近寄って聞いてみる
手で口を覆って、本当に何も言わないから不安になって
「あの…、似合いませんか?」と日和さんに問うとくすっと笑う
「大丈夫よ。勝手にときめいてるだーけ」
「っ母さん!」
そう言った奏太くんの顔はとても恥ずかしそうだった
277: 名前:HARU☆03/05(土) 20:05:36
「ほら、彼氏なら何か褒めの言葉言いなさいよ」
日和さんが手をひらひらさせて奏太くんに促す
奏太くんは「う、」と少し黙って、
「か、わいいです…」
と小さく呟いた
「小さくて聞こえないんですけどー。もっと他に言えないわけ?
可愛すぎて興奮して今すぐにキスしちゃいたいよ!とか」
「母さん本当に黙って!」
このやりとりを見ておかしくて笑う
なんだか楽しいなあ
その後写真を数枚と2~3着の服を着た
日和さんは満足気にありがとうと言ってくれた
「また服できたら着てくれる?」
「わ、私でよければ」
「くるみちゃんの為に作ったんだからくるみちゃんがいいな?」
「あ、…ありがとうございます」
素直に嬉しくて、日和さんに私がいいって言ってくれたことに
大好きな奏太くんのお母さんにそう思われてるってことに
私、幸せだなあ
「奏太の部屋にでも行ってきたら?汚いけど」
「汚なくないし、一言多い」
「そ?八尋よりは綺麗かもね」
八尋…?
誰の名前か気になったけど一通り着替えを終えて
二階にある奏太くんの部屋に案内された
初めて入る奏太くんの部屋に妙にどきどきする
279: 名前:HARU☆03/05(土) 21:43:40
どうぞ、と扉を開けてくれる
初めて入る部屋を見渡すと男の子って感じだった
部活のジャージや私服がベッドの周りに散らばっていて
雑誌やゲーム、学校のものなどが不規則的に配置されてある
そして奏太くんの家とは違う奏太くんの部屋の匂いが香る
「ふわあ~、意外だった」
「いや、俺整理整頓とか苦手なんで」
苦い顔をする奏太くん
全然気にはしてないのに
「適当に足で蹴って座るとこ作ってて下さい。
なんか飲み物とか持ってきますんで」
「え、あ。お気遣いなく」
遠慮するけど「いいから待ってて下さい」と言って下に下りていった
床に散らばっている服を手に取りたたみ、そこにぺたんと座る
意味もなくぐるりと部屋中を見渡す
そわそわなんだか落ち着かない
するとガチャ、と扉が開く
「あ、奏太く………、ん?」
扉を開けた方向に目をやり名前を呼ぶが、どうも…
その…、なんてゆうか…
「あれ、ここ奏太の部屋だよね。あんた誰?」
奏太くんじゃない人が立ってるんですけども…?
280: 名前:HARU☆03/05(土) 21:58:08
つり目気味で背の高い男の人
黒縁眼鏡をかけていてラフな格好に髪の毛は綺麗に染められた茶色
そして低いのにどこか甘さを感じる声
てゆうか…、誰?
「あ、飴いる?」
「へっ?あ、わっ」
自分が舐めている飴と同じ色をした飴を
パーカーのポケットから取り出し「はい」と投げる
慌てて立ち上がりキャッチする
「うわー、あんた小さいね。てゆうかどっかのモデルさん?」
「ち、違い、ます」
近寄ってきて私の目線に合わせながらそう言う
発する言葉から甘い匂いが漂う
「ちょ…っ、何やってんの!」
「わっ、奏太くんっ?」
男の人の肩を掴んでそう言ってきたのは奏太くん
持っていた飲み物やお菓子を机に雑に置く
「だって奏太にCD借りようと思って」
「だったらくるみ先輩に近づかなくたっていいだろっ」
「くるみ?……ああっ、噂の彼女?」
思い出したようにその男の人は私を指差す
な、なにがなんだかわかりませんけど…
「か、奏太くん。この人誰…?」
「八尋」
や、ひろ…ってさっき日和さんが言ってた八尋?
友達、とか?
「八尋は俺の兄ちゃんです」
……お、お兄ちゃん!?
282: 名前:HARU☆03/05(土) 22:23:36
え?え?えぇ!?
お兄ちゃんってお兄ちゃんっ?
だって兄弟の話とかしないからてっきり一人っ子かと…っ、てゆうか
「に、似てない…」
「母似と父似ですからね」
「どうも。北條八尋、19歳大学一年生」
「CDでしょ、早く取って帰ってってよ!」
奏太くんを余所に自己紹介を始める八尋さん
と、いうことは奏太くんのお父さんは八尋さんみたいな顔なのか
「はー、母さんが言うように本当に可愛い子だな」
「あ、う。どうも…」
感心したようにまじまじと見つめられる
どういう反応をすればいいかよくわからない…
「もういいから出て行け!」
「何、見せたくないの?やだ~、独占欲強すぎ。
どうせ俺がいなくなったらいちゃいちゃすんだろ?」
「しねぇーよ!」
どうしていいやら、わたわたと二人を交互に見る
不仲?不仲なの?私何言えばいい?
「あ、じゃあさっき母さんが撮影とかしてたのはくるみか。
写真現像できたら俺も見せてもらうね。てか今度は俺と一緒に写ろうよ」
「あの…、えっとー…」
私の返事を待たずに、にこにこと笑って話を続ける
すると八尋さんの頭にかかと落としをする奏太くん
ゴッ…、と鈍い音がした
いや…、それはやりすぎですよ奏太くん
「痛…。あ、くるみはスイーツ好きそうだよね。今度どっか行こっか」
「話を進めるな口説くな名前で呼ぶな部屋に引きこもれ!」
も、もうどうしたらいいのおっ!?
288: 名前:HARU☆03/06(日) 18:09:36
「もー、奏太うるさいよ。ほら、飴あげるから」
「いらん!」
八尋さんが飴をまたポケットから取り出す
常備済み…?
奏太くんに断られると「仕方ないなあ」とため息をつきCDを選び始める
数枚手に取ると、
「くるみ」
「は、はい」
ちゅ、と頬にキスをされた
「っ!?」
「挨拶代わり~。じゃね」
ひらひらと手を振り、扉を閉めて出ていった
驚いて手を頬にあてる
な、なんだあの人…っ
「うわっ、な、何っ?」
「殺菌消毒。有害な毒が回る前に」
眉間にしわを寄せた奏太くんは苛々した口調でタオルで私の頬を拭く
奏太くんの顔を見るけど本当に似てないんだなあ…
「八尋がいる日に先輩を呼ぶべきじゃなかった」
「で、でもいつもと違う一面の奏太くん見れてよかったよ?」
「そういう問題じゃない」
…お、怒ってるーっ!
声も口調もいつもの感じじゃないんですけども…
タオルで拭き終わるとそのまま私の頬にキスを落とす
「ちょ…っと、奏太く」
一度しかキスされてないのに明らかに何度もキスを落とす
それも頬だけでなく首筋や鎖骨にまで
くすぐったいのか恥ずかしいのか…、どきどきする
「もう絶対八尋ににこにこしないで下さい」
「…は、はい」
ねぇ、やきもち?
289: 名前:HARU☆03/06(日) 18:25:40
「なーんだ、結局いちゃついてんじゃん」
扉の向こうで扉と背中合わせに立っている八尋が呟く
飴を口の中で転がしながら、ふーっと長い息を吐く
「くるみ、ねぇ。結構いい女じゃん」
ふ、と笑って扉から背中を離し、自分の部屋に戻る
*
「兄弟なのに八尋って呼ぶんだねえ」
飲み物を注いでくれる奏太くんにそう言う
あー、と記憶を探っているようだが特に思い当たらないようだ
「意味はないですよ」
「ふうん?でも兄弟って羨ましいなあ」
私は一人っ子だからお兄ちゃん、ていうだけでいいなって思っちゃう
奏太くんがコップを渡してくれながら「八尋の話は終わり」と言う
もっと二人のこと知りたいのに…
「やきもち?」
「そう、やきもち」
どきっとした
あまりにもストレートに言葉を返されたから
嬉しい反面、なんだかやっぱ恥ずかしい…っ
「奏太くん実はドSだよね…」
「萌えるんでしょう?」
「萌え死にするよ、馬鹿」
そう言うと、唇が重なる
甘い甘いオレンジジュースの味がした
最終更新:2011年05月22日 06:53