325: 名前:HARU☆03/12(土) 17:50:51
辺りを見回しても周りのベッドには違う患者
「他にも巻き込まれた人達がいてね。でも幸いみんな軽症者ばかりで」
「…奏太くんがいない」
まだ寝ている人もいるけど、病衣にも着替えさせられず
怪我の手当てだけが施され、普通に過ごしている
これは軽症者の証
見当たらない、見当たらない…
奏太くんの姿がどこにも…っ
不安に潰されそうになり、お母さんを見ると目を伏せがちに答える
「無事よ…、奏太くん。―――…でも」
その先の言葉をなかなか言わない
でも、…何?
「一定期間の記憶が失われてるの」
なに、それ
326: 名前:HARU☆03/12(土) 18:01:04
「自分で確かめなさい」
そう言われて奏太くんの部屋の前まで連れて来られる
私がいた病室とは違って個室だった
ぎゅっと拳を握り締め、ドアを横に滑らせ開ける
夕焼けの光が差し込んで、ベッドで起き上がっている人の顔がよく見えない
「くるみちゃん、目が覚めたのね」
「日和さん…」
椅子に座っていた日和さんが私に声をかけ、お母さんにはお辞儀をする
足を進め傍に近寄るにつれてはっきりと顔が映る
「奏太く…っ」
私を笑って見る奏太くんの顔に安心して、言葉に詰まりそうになる
よかった、よかった…っ
本当に無事だったんだ…っ
「母さんの知り合い?」
現実とは残酷なもの以外、何物でもない
327: 名前:HARU☆03/12(土) 18:43:53
「あ、南原高校の制服。てことは俺と一緒の学校の人ですか?」
奏太くんは私の着ている制服を見ながらそう言う
病衣を着ている奏太くんの横にはハンガーに綺麗にかけられた制服
「…ごめんね、くるみちゃん」
日和さんが申し訳なさそうに謝る
―――事実
奏太くんは今7月から丸一年の記憶を失ってしまった記憶障害
本人の中では今、南原高校を目指している中学三年の記憶が最後
そこから先の記憶はいくら聞いても「覚えてない」の言葉しか出てこない
「でも俺本当に南原に受かったの?なんか楽した気分」
陽気に笑う奏太くん
頭の包帯以外の外傷は腕と頬の傷だけのようだ
「あ、そっちも事故の被害者。大丈夫ですか?」
「…うん」
今の奏太くんの中に"私"はいない
私は無理して笑うのに奏太くんは平気に笑う
「くるみちゃ「私、今日はもう帰りますねっ、また来ますっ」
日和さんに頭をぺこっと下げて足早に病室を出る
白く長い廊下をただ駆け、徐々に足のスピードが落ちて立ち止まる
「な、…でっ、なんで…っ!」
涙が止まらない
私の中に奏太くんはいるのに、奏太くんの中には私はいない
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い
―――…神様なんて大嫌い
332: 名前:HARU☆03/13(日) 18:21:54
笑って、泣いて、触れて
私に「好き」の言葉をくれた奏太くんは
―――今はいない
*
「はあ?何それ!?」
「何って事実だもーん」
翌日学校で満里奈とのりに起きたこと全てを伝えた
「そんな漫画みたいなことあるわけないでしょう」
「じゃあ奏太くんに会いに行ってみる?」
「……本当に?」
満里奈は批判するけど、こんな冗談私は言わない
こんなふざけた冗談、言わない
「大丈夫なのか、くるみ」
「ショックだけどまた私に惚れさせればいーんだしっ。
それに意外と今の奏太くんも萌えるし、急がなくていっかなーみたいな?」
へらへらっと笑って見せる
そして時計を確認し、
「あ、そろそろ病院行くねっ。午後の授業はさぼりまーすっ」
二人に手を振り、足早に病院に向かう
心配かけたくないの、笑えてた?
平気なふり、できてた?
「……全然大丈夫じゃないな」
「…だね」
満里奈とのりは不安そうにくるみの背中を見つめる
泣き腫らした目に、笑っていない声
誰が今のくるみをいつも通りだと思うのだろうか
―――少しでも思い出して欲しい
その想いがくるみの足を病院へと進める
333: 名前:HARU☆03/13(日) 18:36:08
病室の前できゅっと足を止め、勢いよくドアを開ける
「あれ、昨日の南原生の人だ」
「こんにちはっ」
読んでいた本を閉じ、奏太くんがこちらを向く
やっぱりまだ思い出してない、よね…
「相沢さん、でしたよね」
「え、…うん」
「昨日母さんから聞いて、先輩だって」
"相沢さん"
なんてよそよそしく他人な呼び方なんだろう
「相沢くるみ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
私達はこんな始まりじゃなかった
駄目だ、現実目にするたびに胸が痛む…
すると後ろでドアの開く音がする
「あらま、先客」
「あ、朱美ちゃんっ?」
ぶっきらぼうな顔で入口に立っていたのは朱美ちゃん
「何、さぼり?」
「朱美ちゃんだって同じじゃん」
「早退だっつーの」
「もう、同じじゃん!」
二人のやり取りを見た奏太くんは「相沢さんと知り合い?」と言う
私が伏せ目がちにしている様子を朱美ちゃんが見て、「ふうん」と呟く
「あんたちょっと病室から出ていって」
「へ?」
「いいから、5分間外にいろっての」
「ちょ、っと朱美ちゃんっ?」
背中をぐいぐい押されて病室を追い出されてしまった
な、なんなの?
334: 名前:HARU☆03/13(日) 19:07:29
「朱美も南原受かったの?」
「本当に記憶、丸一年抜けてんだね」
朱美がそう言うと、奏太は少し陰った表情をする
「中学のみんなと卒業したことも、南原に受かったこっも
どんな学校生活を送っていたのかもわからない。―――…思い出せない」
「さっきの子が彼女だってことも?」
「え……」
日和はくるみが"彼女"ということは伝えなかった
それはくるみ自身が必要であれば伝えると思っていたからだった
しかしくるみは伝える勇気が持てず、今朱美が
伝えたことによって奏太に新しい事実が吹き込まれたのだ
「……彼女?」
「知らなかったの?高校に入学してすぐできたんだよ。
一つ年上の、私には勘に触るけど学校では人気者のあんたの彼女」
奏太は記憶を探ろうとするが痛みが走り、どうやっても思い出せない
そんな奏太に朱美は苛立ち、言葉をぶつける
「散々くるみくるみ言ってて何肝心なこと忘れちゃってんの!
都合のいい記憶喪失だね、本当に!少女漫画か馬鹿野郎!
第三者から見てもわかるほど奏太はあの子を大切に想ってたんだよ!」
「あ、朱美サン…?」
奏太は驚いて呆気にとられる
朱美が自分に怒ることなんて早々ないからだ
「私だってその一年の間に奏太にいろいろ伝えてる。
簡単に忘れてもらっちゃ困ることもたくさんあるんだよ」
「俺、は…―――、俺は…」
奏太はわけがわからなく頭に手をあてる
自分はたった一年と思っていたが安い価値の一年ではない、と思い知らされる
「一番大切な人傷つけて泣かすくらいならいっそ全部の記憶なくせばいいよ」
「朱美…」
「じゃ、それだけだから。お大事に」
朱美は奏太にひらひら手を振り、病室から退出する
337: 名前:HARU☆03/13(日) 20:08:06
朱美ちゃんが病室から出てきた
「な、何話してたの?途中から大声聞こえて…」
「別に。じゃ、私帰るから」
へ?もう帰っちゃうの?
よくわからずに朱美ちゃんの背を見送ると、再び病室のドアを開け入る
奏太くんの様子がさっきと違うように感じた
「奏太くん、朱美ちゃんと何話して「―――…ごめんなさい」
急に謝られた
…何を?何に対して?
奏太くんは再び申し訳なさそうに謝る
「彼女、って聞いて…、覚えてなくて…―――、ごめんなさい」
どくん、と脈打つ
朱美ちゃん…、ありがとう…
でも、辛い
「本当にごめんなさい…」
奏太くんの中に私がいないことが、より現実味になる
思い出すこともできない事実が私を痛める
謝って欲しいんじゃない
「謝って欲しいんじゃないの…っ」
「あ、相沢さ「嫌だ!!」
泣くつもりじゃなかった、声を上げるつもりでもなかった
ただ平気なふりをしていたかった
「謝ったって…、思い出さないんでしょ…。
私を知ってる奏太くんは今いないんでしょ…?」
困らせた
奏太くんは今のままで充分なのかもしれないのに
こんなこと言ったからそんな悲しい顔にさせた
今の私は他人なのに、他人に泣かれて迷惑なのに
「なのに…っ、私は奏太くんがいないと駄目なの…」
奏太くんが無事なだけで幸せなはずなのに、やっぱり私を見てくれる
奏太くんがいないと涙も止めることができない駄目で弱い私は
―――我が儘ですか?
338: 名前:HARU☆03/13(日) 20:55:03
涙が止まらない
困らせたくないのに、迷惑かけたくないのに
"奏太くん"が、いない
自分の涙を拭う手を、奏太くんが優しく掴む
「泣かないで、ください」
悲しそうな表情で言う
そう言う奏太くんはどこかやっぱり私の知ってる奏太くんで
好きでどうしようもなくなる
「ごめんね…?困らせて…」
「俺はどうしてました?」
「へ…?」
「こういう時、どうしてました…?」
胸がきゅうってなる
私なんかほっとけばいいのにって思うのに、言葉をくれる奏太くんに
「ぎゅーして…っ」
涙を流しながら伏せ目がちにそう伝える
今はそれ以上望まないから、触れて抱き締めて…?
壊れるものに触れるかのように優しく、ゆっくり包まれる
いつもと違う病衣の匂いがした
339: 名前:HARU☆03/13(日) 21:39:37
普通に中学生活最後の年を送っていた
事故にあって無事で、それだけだと思ってた
話の中に身に覚えのない話や名前が出てきた
―――俺の記憶は一年失われてしまったと
だからそこに俺が受験するはずだった南原高校の制服がかかってるんだ
だからみんな少し様子が変なんだ
実際高校に入学したってたかだか4ヶ月
まだいくらだってやり直せる
―――この子は、なんで泣いているんだろう
何度も当たり前のように"奏太くん"と呼ぶ
"彼女"だと朱美は言う
母さんとも親しいようだった
俺が覚えてないことに涙を流す女の子
年上で小さくて可愛くて明るくて、でもこんなにも脆い
そのたびに俺はこうやって触れてきたんだろうか
最後の記憶、
誰かの手を握っていた記憶
握っていた手はこの子の手だったのか、それさえもわからない
ただこの子には他の人とは別の感情があった気がする
…だから"彼女"なんだ
343: 名前:HARU☆03/14(月) 20:47:49
「……っぐす、…ごめん」
ゆっくりと奏太くんの腕の中から抜ける
泣いたって奏太くんの記憶が戻るわけじゃないのに
「手を、繋いでました」
「え?」
奏太くんがゆっくり口を開く
自分の中を探り探りしながら言葉を出す
「最後に覚えていたのは、誰かと手を繋いでいたことなんです…」
自分の手のひらを見つめる奏太くん
そしてその手をきゅっと握り締める
「俺は、あなただった気がします…」
目を合わせて、私にそう言う
真っ直ぐな瞳から目を離せなくなる
病室のカーテンが風によって揺れ、ふわっと外の匂いが香る
「違い、ますか…?」
「違わない…、違わないよ…っ」
はぐれないように繋いでくれていた手
私はその手が離れたものとばかり思ってた
でも奏太くんは覚えてた
私が覚えてなくても…、覚えてたんだ……
「ちゃんと繋いでくれてたんだね、…ありがとう」
お礼を言うと、奏太くんは嬉しそうに笑った
344: 名前:HARU☆03/14(月) 21:16:02
その日の放課後に奏太の友達の中杉と来島がお見舞いに来た
「こんにちは、どうぞどうぞ」
日和が奏太の変わりに二人を出迎える
記憶の抜けた事情を説明すると二人は驚きを隠せずにいる
日和は一時退席し、三人の時間へと変えさせる
「奏太はサッカー部で俺等と同じクラス!」
「うん、母さんから聞いたけど…思い出せないんだ。ごめん…」
いつもと違う奏太に戸惑い、「んーっ」と頭を悩ませる二人
自分達と騒いでいた奏太の時間が本当になくなっていると実感する
「くるみ先輩のことも…?」
「……うん」
奏太の表情が陰る
みんながあの人のことを言うんだな、と
それほどに大切にしていた人なんだと
「ねぇ、相沢くるみさんってどんな人?」
「超可愛い」
「うん、超可愛い」
がたっ、と奏太の肩の力が抜ける
二人共即答するから
「そうじゃなくて…、学校でとか、…俺と、とか」
「人気者っ、萌えとか言ってておっかしーけど可愛いんだよなあ」
「文化祭のメイド姿はやばかったよな~、他校から人いっぱい来てさ」
二人は楽しそうにひたすら語る
たった4ヶ月のことなのに話の内容が尽きない
「奏太大好きオーラいつも全快で周りの目全然気にしてなかったよな」
「確かに、奏太しか見えないってか見てないみたいな」
奏太の顔がほんのり赤くなる
そんなに想われていたと思うと恥ずかしくて
「くるみ先輩は奏太を想ってたよ。もちろん、奏太も同じくらい」
「―――……う、ん」
来島がそう笑うと奏太はぎこちなく返事をする
相沢くるみなしでは、自分の高校生活が存在しないのだと
345: 名前:HARU☆03/14(月) 22:32:17
記憶の経過などを計るために今週いっぱいは奏太くんは病院に
私は毎日学校帰りに病院へ通った
「くるみちゃん、毎日大変でしょ?嬉しいけど無理はしないでね」
日和さんが気を遣ってそう言ってくれる
私は黙ったまま笑って、首を横に振る
大丈夫、頑張れるよ
奏太くんが私のこと思い出してくれる日まで頑張るから
「お、くるみも来てたんだ」
「八尋さんっ」
ドアが開くと八尋さんが訪れた
うわあ、のりの話聞いてから始めて会う
「あの、のりから話聞きましたっ。おめでとうございますっ」
「ありがと。紀子のことこれからもよろしくね」
八尋さんはそうにこっと笑う
紀子…かあ、なんだかいいなあ
「あれ、八尋彼女できたの?」
「ま、ね」
八尋さんは日和さんにピースサインをする
今度連れてきなよ、と微笑ましい会話
のり、よかったね
「相沢さん、…八尋とも知り合いなの?」
「相沢さんってよそよそしい呼び方してんね、奏太」
奏太くんが問うと答える間もなく八尋さんが喋る
それも八尋さんの雰囲気が少し悪い気も、…する?
346: 名前:HARU☆03/14(月) 22:47:18
「何々、修羅場?」と日和さんは少し楽しそうに言う
違うけど、八尋さんの言葉がピリピリしてるような…、気のせい?
「他人みたいだね、奏太」
「わざとじゃない。…仕方ないじゃん、今は」
「思い出す気あんの?」
や、やっぱ気のせいじゃない
なんで急にこんな空気に?
「や、八尋さんっ?」
「こんな良い子ほっといて、他の奴が盗ってっちゃうよ。いいわけ?」
「よくはない、けど…」
焦って日和さんに助けを求めるも、にこっと笑われただけ
ひ、日和さーんっ!
私がわたわたしてると肩に手が置かれ、ぐいっと八尋さんの胸に寄せられる
「八尋さんっ?」
「じゃあ、俺がもらっちゃおっかなー。くるみ可愛いし」
「うぇ!?」
ななな何を言い出すんだこの人は!
日和さんに至っては本当に楽しそうだし…っ
「くるみも俺んがいーよね」
「の、のりがいるじゃないですか!ちょ…っ」
八尋さんの手が頬に触れる
変にどきどきするし、何が目的なのか全然わかんない!
「―――っ触んないで!」
病室に大きな声が響く
ベッドから身を乗り出した奏太くんが真剣な表情で見つめる
「その人に、触んないで…」
―――…奏太、くん?
352: 名前:HARU☆03/15(火) 18:57:12
しん…、と病室が静まり返る
「か、奏太くん?」
「―――え、…あっ」
はっ、と奏太くんは口を手で塞ぐ
そして小さくごめんなさいと謝る
「…なんだ、対して変わんないじゃん」
八尋さんが笑いながらそう言うと、私からぱっと手を離す
な、なに?
「記憶があろーがなかろーが、大切なものは大切だってこと」
「八尋…?」
問い掛ける奏太くんの傍に八尋さんが寄り、耳元で小さく囁く
「やきもち、やくくらいならちゃんと捕まえとけ」
八尋さんが奏太くんに何て言ったかわからなかったけど
奏太くんの顔が赤くなったことだけは見ててわかった
「じゃ、俺帰るわ。またね、くるみ」
「あ、はいっ」
八尋さんが手を振りながら病室から出ていく
再び奏太くんの方を向くと、顔を赤くしたままふいっと反らされる
「今、八尋さん何て言ってたの?」
「な、何も…っ」
「?」
……気になる
日和さんに尋ねても「さあ?」とにっこり返事されて躱されてしまう
……でも、もしかしたら自惚れかもしれないけど
触るな、って
―――やきもち、なのかな?
353: 名前:HARU☆03/15(火) 19:13:33
普段なら「やきもち?」って聞けるのに、今は…聞けない
「さーてと、私も帰っかなあ」
「え、じゃあ私も」
「二人も帰ったら奏太が寂しがるから、くるみちゃんはまだいてよ」
ね?と日和さんにお願いされ、「じゃあ…」と残ることにした
なんだか日和さんに上手いことされてるなあ…
日和さんが帰ると病室に二人きりになる
椅子に座り、ちらっと奏太くんを横目で見るけど
窓の方を見ていてまだこっちを向いてくれない
寂しい、な…
「…八尋と、仲良いんですね」
窓の方を向いたまま奏太くんが話す
「仲良いっていうか…、からかってるというか…」
「…ふーん」
機嫌、悪くなった?
のりのこと説明してもいいけど今の奏太くんには
「のりって誰?」ってことになってややこしくなるから
う~ん、えっとー、んー?
頭の中で簡潔な伝え方を探すがなかなか思いつかない
頭弱いもんなあ、私
「俺、前も八尋に似たような怒り方した気がする…」
「…それ、って」
八尋さんと初めて会った日にさっきと同じように
触るな、って奏太くんが怒りながら言ったことを思い出す
「……よかった」
「え?」
私の言葉に奏太くんが振り向く
よかった、よかった
「奏太くん…、ちゃんと思い出してきてる…っ」
些細なことが嬉しくて、面倒くさいのにいちいち涙が出る
355: 名前:HARU☆03/15(火) 19:52:18
涙を流すと奏太くんが焦り困った様子
親指で涙を掬ってくれる
大丈夫だよ、悲しくて泣いてるわけじゃないから
「何でそんなに、…俺のこと好きだったんですか」
「さぁ、わかんないっ」
にこっと笑って答えると、奏太くんは?マークを浮かべる
わかんない、ただがむしゃらに好きになってた
「最初はね、年下でタイプだからで。…なんて、今はもうどうでもいいの」
「どうでもいい?」
そんな条件なんて、どうでもいい
「奏太くんが奏太くんだから好きなのっ」
そのくるみの笑顔が奏太の中を揺らす
どこかで聞いた言葉、くれた笑顔
どこかで感じた想い
―――好きという感情
「こうやって涙をよく拭ってくれて…ひゃっ」
ぎゅうっと奏太がくるみを抱き締める
奏太の中に"相沢くるみ"を好きだという感情が心を揺らす
「奏太く…?」
「もう少しだから…」
「へ?」
どこか懐かしい想い
だけどまだ足りない、何かが足りない
「もう少し、全部思い出すまで時間を下さい…」
その言葉がくるみを再び涙させる
同じように奏太を抱き締め、
「はい……」
と目をゆっくり閉じ、小さく返事をする
最終更新:2011年05月22日 07:15