442: 名前:HARU☆03/24(木) 17:26:19
廊下の隅の方に連れてこられる
奏太くんは困ったように頭をかきながら私を見る
「浮気とかね、本当にしてませんから。てゆうか噂に尾ヒレつきすぎ」
「じゃあ奏太くんはその子のこと好きとかじゃないの?」
「全く」
なんだあ、よかった
付きまとわれてるっていうから流されたりしてるのかと思った
「ねぇ、どんな子?」
「妄想癖有りの、勘違い不思議少女」
「外見の話ー」
さらっと酷いこと言ったな、奏太くん
そして性格が酷い子だな、その子
「外見はー…、肩までの黒髪に小さめの背で、変に視線が痛い子…?」
「あんな感じの子?」
「え?あ、そうそう」
後ろからこっちを見てる女の子がいたから指を差してみると奏太くんは頷く
が、急に言葉を止めて目を丸くし始める
「奏太くん?」
「………あ、の子。…です」
しどろもどろに指の先の子を見て答える
え?あの子?
「北條くん…っ!」
明らかに目をきらきらさせてこちらに近寄って来る
すると、私がいるのにも関わらず
「今日も会えて嬉しいっ」
と、奏太くんの腕に抱き付く
んななななななにこの子―――っ!?
444: 名前:HARU☆03/24(木) 18:04:50
べたべたと奏太くんに寄り添い、一方的に言葉を吐いている
「伊藤さん!離れて!」
「腕が男の子だあ…っ、かっこいい…」
「話聞いてよ!本当!」
な、なんかすっごーくムカつくんですけど
人の前でもお構いなしですか?
「離れ、て!」
ぐいっと反対側の奏太くんの腕を掴み、引っ張る
「うわっ」と奏太くんの身体がよろめく
は、離さないわけ!?
「こ、んにちはっ、二年の先輩ですね…。北條くんから離れて下さい…っ」
「あーら、こんにちは。そちらこそ離れて下さいますか…っ」
じりじりと睨み合い、言葉を交える
なんだか、苛々しちゃう
「北條くんは私の王子様なんです…っ、私はお姫様なんでっすっ」
「奏太くんは伊藤さんのものでも何でもないから離してくっだっさっい!」
「何なんですか先輩、頭の悪いこと言わないで下さいよ…っ」
綱引き状態で奏太くんを引っ張る
すると、ぶんっと反対側の腕が伊藤さんから離れる
伊藤さんは目を丸くして驚き、奏太くんを見上げる
「この人にあんまり酷いこと言わないで」
その言葉に胸がきゅんとなる
446: 名前:HARU☆03/24(木) 18:26:35
「良い機会だから紹介しておく。…この人が俺の彼女だから」
そう言って私の肩に手を置く
う、わ…
ちゃんと改まって"彼女"って紹介された…
こんな時に不謹慎かもしれないけどドキドキしてる
「嘘、嘘よ…!」
「二年の相沢くるみ。名前は聞いたことあるでしょ?」
奏太くんがそう言うと更に目を丸くする
これが相沢くるみ?とでも言いたそうな顔で私を見る
「だ、だって相沢先輩って言ったら男の召使や奴隷が
たくさんいるっていうあの相沢くるみ先輩でしょ…!?」
「ちょ…っ、私!?何それどこ情報!?やめてよそんなくだらない噂!」
何一つ合ってなくて逆に驚くわ!そして引くわ!
え?違うの?という顔すらしてくる伊藤さんに妙にペースを乱される
本当…、変わった子
「北條くん騙されてる!相沢先輩のその他の男の一部にされてるよ…!?」
「してないっつーの!てゆうか私たくさんの男の人と関係持ってません!」
「陰でこそこそ男の人と密会してるじゃない!毎回違う男の人と!」
「はあ!?」
何言ってるんだこの子!
……あ、もしかして
「毎回相手に頭下げさせてるの私見たもん!」
「違…っ、てかそれもしかして告白現場見てんの…っ?」
「自慢ですか先輩!わー羨ましいー」
「伊藤さん面倒くさい!」
こそこそ毎回違う男の人と密会って…、
どう考えても告白されてる現場のこと、だよね…?
言い合いの隙間にちらっと奏太くんを見ると案の定不機嫌そうな顔
い、言うつもりはなかったのにー…っ
447: 名前:HARU☆03/24(木) 18:38:14
「あ、あの奏太くん…?」
奏太くんはムスッとしたまま
変に焦ってしまう
「あ、あのねっ。いちいち奏太くんに報告することじゃないかなー…って」
「告白されるたび報告してたらきりないですもんね」
「そっ、そうじゃなくて…っ」
伊藤さんを見るとにやにやしてるし、……性格悪い!
すると授業開始予鈴のチャイムが鳴る
「…じゃ、またね先輩」
「か、奏太く…!」
ひらひらと手を振ると、背を向けて帰って行く
その後ろを甘い声を響かせながらついていく伊藤さん
……あぁー、もう
墓穴、馬鹿みたい
言い合いの中ですっかり伊藤さんのペースに乗せられて軽いこと口走った
「怒ると機嫌なかなか直んないのに……」
はあ、と顔に手をあてため息をつく
人の目にわかるように拗ねるなんて子供みたい
……や、子供は私か
後先考えず素直に暴露したり言い合ったり
ちゃんと、仲直りしなくちゃ
453: 名前:HARU☆03/25(金) 15:49:41
奏太の後ろをついていく春菜
「ねー、相沢先輩ってひどいよねっ。隠し事たくさんしてるよ絶対」
「んー…」
「北條くんは悪くないと思うよっ?」
「んー…」
気の抜けた返事しかしない奏太
春菜はそれでも会話を続ける
「ぱぁっと遊ぼうよっ、ねっ?ほら、もうすぐ夏休みだし
明日も終業式で授業半日で終わるからさ、もしよかったら…私、と」
奏太の足がピタッと止まる
「……明日」
「うんっ、明日…っ」
「……はぁ」
奏太はため息をつき、再び足を進める
その後ろを慌てたようにまた春菜がついていく
「私はいつだって北條くんの味方だよ?あんなわがままな先輩が
彼女…なんて可哀想っ!やっぱり北條くんのお姫様は私…だよねぇーっ」
春菜の一方的な言葉を横耳に流す奏太
明日は終業式、
そしてくるみの17歳の誕生日である
454: 名前:HARU☆03/25(金) 16:41:06
「喧嘩したあ!?」
満里奈とのりに話すと、半分飽きられた顔で言われる
馬鹿じゃないの、何が原因?噂の子と関係あんの?…など質問攻め
「喧嘩…ってゆうか、私が悪い?…ってゆうか」
「馬鹿だねぇ、誕生日前日に喧嘩するなんて。祝ってもらえないかもよ?」
「素直に仲直りしに行くんだな」
「……はい」
ふう、と二人はため息をつく
放課後、は部活だろうから終わるまで待ってよ
メールや電話じゃなくて、ちゃんと目を合わせてごめんなさい…って
奏太くんなら、きっと笑って許してくれる
いつもみたいにすぐ元通りになるよね
*
6限終了のチャイムが鳴る
「じゃ、頑張るんだな」
のりが肩をぽんっと叩き、また明日と言ってくれる
満里奈も同じ言葉を言ってまたね、と笑う
部活、下校と教室からどんどん人が減っていく
席が空くとグランドの見える窓際へと移動をし、座り、外を眺める
部活の準備をしている奏太くんの姿が見える
ユニフォーム姿…、萌え
455: 名前:HARU☆03/25(金) 16:52:31
初めて見るかも、奏太くんの部活姿
ちゃんと一生懸命やってたんだなあ
その姿を見るだけで胸がきゅんとなる
心の中で、どんな言葉で謝ろうって試行錯誤する
明るかった空がだんだん赤みがかって綺麗な夕焼けに変わる
賑やかだったグランドも声が薄れて、ちらほら片付けを始める
サッカー部も集合の号令がかかったようで、片付けをし始めた様子
…そろそろ行こっかな
席を立ち鞄に手をかけた瞬間、ガラッと教室の扉が開く
「相沢さん、…俺、8組の鴨島って言うんだけど…」
「うん」
見たことのある顔、だけどそれだけ
そしてほとんどが下校しているこの学校で
この人がわざわざ私に何の用があるかなんて大方察しもついていた
「彼氏、いるのは知ってるんだけど…言いたくて」
「うん」
鴨島くんは目を伏せがちに、
「好き、…です」
456: 名前:HARU☆03/25(金) 17:46:26
部室の鍵を閉め、帰宅し始める部員達
そんな奏太の肩をとんとんと叩く
「佐々木、何?」
「や、二年の教室にずっと相沢先輩一人でいたっぽいんだわ」
「え……」
「ずっとグランド見てたから奏太に用あんのかなーって。まだ電気ついてたし」
奏太は校舎のくるみの教室を見上げる
すると確かにまだ教室の電気はついていた
「知らなかった?」
「うん…」
「んー、…喧嘩でもした?」
「喧嘩っていうか、俺が悪い…」
佐々木はふうっと息を吐き、「行ってきなさい」と奏太の背中を押す
「うん、ありがと」
そうお礼を言うと急いで校舎に向かい、階段を上る
静まった校舎の中を足音を立てて駆ける
二年の階に着くと、くるみのクラスから一人の男子生徒が出てきた
それも落ち込んだ様子で
「………あ、」
奏太と目が合うと、小さく声を漏らして足早に去る
奏太の頭の中に一つの予感が過る
確かめるために教室を覗くとやはりくるみがいた
「か、奏太くん…っ」
目を丸くして驚くくるみ
奏太の顔が少し不機嫌なものに変わる
457: 名前:HARU☆03/25(金) 18:11:59
奏太くんに会いに行こうとしたら奏太くんが来て正直驚いた
だけど気持ちを切り替えて、ちゃんと謝らなくちゃ
「奏太く「さっきの人、誰」
私の言葉を遮り、奏太くんが口を開く
さっきの人…?鴨島くんの、こと…?
「聞いてた、の…?」
「聞く?」
「え?あ、わっ、何でもない!」
「―――…また誤魔化すんだ」
え…、誤魔化すって
奏太くんは誰がどう見たって不機嫌そのものだった
「告白、されたんでしょ?」
私の返事なんていらなかった、必要なかった
なんて答えたらいいか戸惑っている私を見て「やっぱりね」と言ったから
深くため息をつく奏太くん
「はっきり言ってくれたらいいのに」
「え…?」
「告白されたにしろ何にしろ全部言ってくれるだけでいいのに」
頭をぐしゃっと雑にかきながら言う
だって全部なんて言えないよ、自惚れみたいだし
奏太くんだって良い気持ちになんか絶対ならないもん…
「だ、って奏太くんが嫌な思いしたら嫌だから、…だから」
「―――っ隠される方が嫌に決まってんだろ!」
ガンッ、と大きな音を立てて壁を拳で殴る
びっくりして反射的に目を瞑り、身体がビクッとして縮まる
教室に余韻が残る
「……すみません。俺が悪かったから、…もういいです」
「か、奏太くん…っ」
「頭冷やします。すみません」
目も合わさずにそれだけ言うと教室を出ていった
なんで、違う、違うのに
奏太くんが初めて私に対して本気でキレて怒って…
怖かった……―――
最終更新:2011年05月22日 08:32