31: 名前:サスライ☆01/16(日) 00:29:15
第二章 マオ
筆者が聞いた話に、とある都市伝説がある。
独り暮らしの男の話で、ある日家具が毎日微妙にズレているのを発見した。
そこで男は部屋にカメラを付けて外出したようだ。
帰ってきた男がカメラを見ると、押し入れから一人の女が出てきて、部屋を物色。暫くするとまた押し入れに戻ったらしい。映像はそのまま変わらず、女は押し入れから出ていない事になる。
と、この様に押し入れとは人が隠れるには実は最適の場所であり、人とは案外他者が居る事には鈍感だ。
だからこそ、何を考えているのか解らない他者が居る時、他者とは主観的には人の範疇を超えて恐怖になるのだと思う。
メイはマオを取り敢えず自分の部屋の押し入れに入れた。
何時メイの家族が来ても良い様に気配を殺している。バレるかバレないかではメイは安心出来た。
チクチクと、時計の針の音が何にも邪魔されずに響く。メイが部屋で宿題を始めて2時間程経った、真後ろの押し入れからは何も無い。
「いや、何か話してよ。怖いんだけど」
「…………」
あれからマオはここに至るまで終始無言だ。特に害は無いから放っているが、シャワーよろしく後ろからチクチクと視線を感じ、不安を感じて落ち着かない。
32: 名前:サスライ☆01/21(金) 01:00:03
次の日の朝。太陽が昇りつつも冷たい風が肌に触り夜の名残を残す午前6時の事だ。
やや大きめのホテル近くの河川敷に、杭が打ち込まれていた。長さは1メートル程で、木製。所々から繊維がはみ出している。
その繊維は、全てクレーターを描いていた。
杭の大分遠くに男が立って居る。ジュウザがメイに言っていたハンプティだ。
格好はジーンズにシャツと見ているだけで生肉程度なら保存出来そうな位寒そうな格好だ。
しかし、ハンプティは寒そうな表情はせずに、熱意のある真剣な眼差しで杭を睨んでいた。
身体中からSASUKEよろしく白い湯気が出て暑苦しい。
彼の手はゴツゴツしていて強そうだ。が、それだけで道具は持っていない、尚、彼はジュウザの様に特別な力がある訳でも無い。
しかし、彼は己の『銃』を構えて、咆哮と同時に『弾丸』を放った。
「覇ァ!」
汗が一気に飛び散ると同時、その向こう側の杭では繊維や幹が千切れて飛び散った。
これが無敵の銃の使い手ハンプティの銃の一つ、『マグナム』の稽古訓練である。
33: 名前:サスライ☆02/10(木) 18:09:39
訓練を1キロ程離れた石橋の上から見る人影が二つ。
一つはコートを着て、少し引いた表情のメイで、もう一つはローブを着てフードを深被りしているが明らかに表情を崩していないマオだった。
メイの直感が告げている。どうしよう頼っちゃいけないタイプだと。
「クックック。でも、君は頼らなきゃいけないだろう、結局気まずいままだったじゃないか」
ずっと話題も無くて此処に来るまで何も話さず、マオの考えている事がまるで分からず不安ばかりが溜まって疲れるだけだった。
そうしてハンプティに話しかけようとしても、苦手なタイプっぽくて今一歩が踏み出せない。
だからずっと二人で此処に居た。しかしマオの考えている事は分からないので、気まずさはドンドン増していく。
そんな時に意外な所から助け船が来た。
「んーで、お前等何やってんの?ファンなのか、追い掛けか、ストーカーか?言っとくがサインは後にしてくれ」
男の声だ、野太くも無くて爽やかでも無い。しかし心の底に染みる様な声だった、まるで歌手の声だ。ハードロックの。
その声は1キロ離れた所から聞こえる、そこにはTシャツGパンの寒い姿しか無かった。
特別大声と言う訳では無い、しかしこの距離で何故か届いていたのだった。
34: 名前:サスライ☆02/10(木) 18:34:30
一瞬唖然とするメイだったが、直ぐに落ち着く。別に驚いていない訳では無い。
しかし自分に害が無いと思ったからどうでも良い事に彼女の脳内では解釈されていた。
肺に空気を、脳に台詞を貯めて一気に放出する。
「違い!ます!よー!」
「あー、そんな叫ばなくても聞こえるっての。
しかし俺のサインがいらないとは、お前は悪いヤツだな」
小指で耳をほじくるハンプティのはじめの台詞を聞いて深く後悔し、後半は無視する。だからメイは返答をする事が出来なくなってしまった。
そして次に声を放ったのはマオだ。
「……貴様、何者だ?」
「なんだいお前はサイン欲しいのか。お前は良いヤツだな」
「……はぐらかす気か」
フードから覗くつり目で一人ハンプティを睨み付け、そして一人で納得する。
端から見たら只の中二病にしか見えない。年齢を考えると実際その通りかも知れないが。
彼女の年齢になると選択肢が急に増える。だから全てに手を付けられず、しかし未知を克服する為に分かった気でいる。
「何だかよく分からないけど、もう俺ホテル戻って良いかな?腹減ったんだけど」
尤も、当人からしたらこの程度の認識しか無いが。
35: 名前:サスライ☆02/14(月) 10:24:24
ホテルの食堂、ここの朝食はセルフサービスになっていて、所謂バイキングだ。そしてハンプティはドンブリにチャンポンで山盛りにした食材をガツガツ食べる。
コーヒーをチビチビ飲みながら、その様子を胸焼けがする気持ちで二人は見ていた。
ゲップを一つすると、ハンプティは二人に向かう。既にドンブリ一杯の食材はイリュージョンよろしく消えていた。
「んで、どこまで話したっけ?」
「えーとですね、ジュウザが……って聞いて下さいよ!」
「前置きトロトロしてる方が悪いんだよ旅人の胃袋舐めんなバーカ」
途切れない口に合わせて、素早くハンプティは新しいメニューに取り掛かっていた。サラダバーが全滅する。
席に戻るとまたガツガツ食べ出して話を聞こうとしない。そしてマオはデザートコーナーで軽めの食材を取りに行っていた。
そんな中で取り残されているメイは果たして自分が取り残されいるのか焦っているのか解らないが、取り敢えず浮いているのは魂で理解した。
理解した途端にスクッと立ち上がると、ハンプティと同じ様にドンブリにチャンポンで盛ると席に戻りヤケ喰いする。
そしてリバースしそうになる。メイは魂で感じる、やっぱコイツ(ハンプティ)苦手だと。
「クックック。まるで無理に面白い事を言おうとして滑るKY君だな」
ササヤキの声は無視して、リバースを飲み込んだ。
36: 名前:サスライ☆02/17(木) 14:55:46
ホテルのロビーにて、3人はソファーを使ってテーブル越しに向かい合っていた。
「やっぱホテルのロビーは落ち着くな。よく止まり木に使わせて貰った物だ。
んで、ソイツからお前を守れってジュウザから言われた訳だ」
「ハイ、お願いします」
メイがそう言うと、ハンプティはジィとマオの目を見た。それと比べて、彼女の隣に座るメイの目を見る。
すると、彼は鼻息一つ飛ばして苦笑いを浮かべ、方眉を下げた。
「……ふぅん、成る程。ジュウザらしい。
メイ、お前は嘘をついてるな」
「え、嘘?いや、私は……」
その時、ホテルの従業員がハンプティの肩を叩いて、語りかけた。するとハンプティはこの何かの前触れの様な台詞を作る。
「うん?すまんな、ちょっと待っててくれるか。
誰か俺に用があるらしい」
こうしてソファーに残るはメイとマオの2人。その『3人目』、ササヤキが相変わらず囁く。
「クックック、死亡フラグ乙。だね」
死亡フラグ?と、思う。ホラー映画等フィクションの世界において誰かが死ぬ前触れの行動の事だが、このフィクションの制限された世界において何か知る者は非常に少ない。
「クックック、そうさ、そしてこのままフラグに沿うと死ぬのは案外君かなあ。性格的な意味で」
君の悪い事言わないでくれ。そう思うメイ、そしてマオに近付く怪しい影があり、それが何を及ぼすかは、まだ誰も知らなかった……
うわぁ、フラグっぽく終わらせようとしたら酷い事になってやんの。
40: 名前:サスライ☆02/21(月) 20:39:34
ハンプティがホテルの奥に行ったその少し後だ、相変わらずメイの相手では無言のままマオは紙カップのコーヒーに口を移そうとした。
その時だ、コーヒーの水面に映った物に対し、彼女は大きく目を開く。そしてコーヒーを思い切り投げ捨て、メイを隣から突き飛ばした。メイは勿論床に叩き付けられる。
「ぐひい。な、何すんの痛いじゃないの!」
悲鳴を上げたメイが、頭を擦りながら頭を持ち上げて見た一番目は、真っ赤な光景。
マオのローブの腕のが破れて、肉の一部が爆ぜて、そして血の噴水を作り上げていた。
しかし光景をポカンと眺めているのは刹那。
「クックック。今度こそ、死んじゃうんじゃ無いかなあ」
ササヤキの声が直接頭に響いたお陰で考える時間は無拍子に限りなく近く、マオの怪我をしていない方の腕を引っ張った。
ハンプティは居ない。マオはその内自分を殺すかも知れない。でもマオは一晩一緒に居ても何もしなかった。
そうじゃ無くても、あの時確かに自分はジュウザからマオを庇った。自分が彼女を護る事に何の不思議があろうか。
そう自分に言い聞かせながらメイは走る。それと同時に、『人影』もそこを移動した。
41: 名前:サスライ☆02/22(火) 02:10:00
ハンプティを初めて見た橋の下、そこで二人は羽を休めていた。ローブを破って包帯変わりにしたマオはゼエゼエと顔を赤く苦しみながらも意識を保つ。
「それで、何なの?あれは」
「……駄目」
「駄目?何が駄目って言うの」
初めてのメイに対しての言葉は意味が解らなかった。しかし、ササヤキは一方で薄気味悪く何時も通りに笑う。つまり、メイは心の何処かではマオが喋らない理由を知っていた。
「駄目。メイは関係無い、知っちゃいけない。
……メイは、私みたくなっちゃいけない」
つまりこう言う事だ。メイは只の一般市民なのだから、問題に巻き込んではいけない。
関係無いまま、迷惑のかからないようにしようとした。
だからこそ、メイは怒る。胸ぐらを掴んで、下唇を少し噛んで青筋を浮かべた。
「ふざけるな、何が関係無いだ。アンタは私が居なかったら死んでいたのかも知れないんだぞ。
私が居なかったら、今のアンタは居ないんだ。
それでも私は関係無いのかよ!」
無茶苦茶に自分勝手で穴ぼこだらけ、力も入れすぎた理屈だ。しかし、言わないと収まりがつかなかった。
だって、こうして自分の人生を低く考えるのは、死ぬ気で人生を護ってくれた他人の想いを否定している事だから。
42: 名前:サスライ☆02/23(水) 08:19:30
話は、マオがジュウザと出くわす少し前に遡る。その時マオは、ある任務を受けていた。とは言うもの、具体的な内容は伝えられておらず、取り敢えず『隣国が潜り込ませておいたスパイに会え』との事。
それが、あのジュウザの革靴の染みになった警官だ。ジュウザはそれを知っていたらしく、会話中に乱入して蹴り飛ばし、そこにメイがやって来たと言う事だ。
「それとこれと、どう言う関係があるの?」
マオは溜め息を煙草よろしく吹き出すと、額を人差し指で二回小突いて目を上に向ける。特別な意味は無い。
「……メイは、『暗殺課』って知ってる?」
「うん、知ってる。都市伝説で」
暗殺課。警察の秘密裏に存在するらしい課で特に都合の悪い事を隠す為の組織。メイの国で一時期ブームになったが一週間でブームは去る。
何故なら、根も葉も無い話という結論になったから。
「……実はね、あれ、実在するんだよ」
話を聞くとキョトンとした、今ならそれ位信じても良いが、今まで白と言われていた物を急に黒と言われたのだから。
「根も葉も無いと結論付けたのは誰だろう?
何で一時期ブームになった存在がまた掘り返されていないのだろう。
……何故、君の国はフィクションの抑制をしているのだろう。
上に都合の悪い言論はみんな『有害』だからに他ならないからじゃないかな?」
ブーム直後、小さな雑誌。特にゴシップ誌等がかなり本屋から消えたのを思い出し、少し背筋に冷たいモノが走った。
43: 名前:サスライ☆02/23(水) 16:47:00
そしてマオが言うには、あの時の警官は動ける状態に無かった。と、言う事は同僚に回収されたと考えられる。
警官は、理由を根掘り穴掘り問われてマオがこの国に居る事を知られた為に、暗殺課が動いたと言う推理だ。
現に、コーヒーの水面に銃の様な物を構えた暗殺者を見たと言う。
メイは頷きながらも人差し指を顎に当てながら、どこか腑に落ちないと考えを展開し、整理して、出力する。
「じゃあさ、なんで先ずハンプティが連れていかれたんだろう。なんで、はじめに私が狙われたんだろう?」
マオは答えられなかった。自分の世界にばかり捕らわれているから考えもしなかったからだ。
結局、世界を知った気になってもこの程度と言う事だ。
その時だ、マオの背筋に電流が走る。それは、長年を危険な世界で生きてきた中で身体にインプットされた経験値。勘と呼ぶモノだ。
彼女はメイを押し倒し、両者地面に伏せると、橋を支える柱の一部が砕けた。さっきでメイの顔があった部分だ。
マオが殺気を放って見たその先に攻撃の主が居た。その事実は彼女を仰天させる。
追ってきているのは暗殺課では無くて、彼女の同僚の工作員だったから。
44: 名前:サスライ☆02/25(金) 04:05:56
マオは、直ぐに隠し持っていたナイフで格闘の構えを取った。身体を半身にして、片手のナイフをフェンシングの様に前に向けて、もう片手を槍よろしくその後ろ延長に掌を広げて置くスタンダードな構えだ。
何故かは後で考えれば良い。重要なのは、目の前の人間が自分等を狙っている事だ。
格闘する時、相手が何を考えているかも重要だが、身体の向きや視線等何処に意識が向かっているかで狙いが解る。
狙いは抜け出した工作員のマオでは無くて、関係無い一般市民のメイと言う事だ。
「……何でか解らないけど、行くよ」
相手との距離は大分離れている。ナイフと拳銃ではかなり分が悪いが、それでも拳銃の射程外だ。
ならば、距離を詰めれば逆に自分のみを狙ってくる。もしも無視してメイに向かえば、その時点で後ろからナイフの一撃必殺の危険に晒される事になる。
考えられるのは二つだ。
自分を殺してメイをゆっくり探し出して殺すか、自分の生死問わずメイを殺す事を優先する。
今、考えられるのは後者だ。拳銃があるから早期決着が望めるし、ナイフでは拳銃に勝てない余裕もある。
だから、マオは勝てると確信した。
45: 名前:サスライ☆02/25(金) 04:36:25
「……メイ、跳び箱は得意?」
「まあ、得意だけどその『作戦』、一瞬でも間違ったら死ぬよね」
「……余計は
後で考える!」
マオが駆けた、その際のナイフの煌めきが合わさって全体像はまるで電光だ。
相手は拳銃を足に向けてきた。足を失えば、接近しなければ威力を出せないナイフは無効化される。つまり、マオの生死問わずメイを真っ先に殺す作戦だ。
だからマオは、半身にした際の前足に力を込めて、バックステップを踏んだ。こうすれば、狙いはズレる。
そして次の瞬間、後ろから大声を上げながらメイが突っ込んでくる。
「うわああああ!」
やはりメイは、護る為に囮役を買ってくれた。殺しの標的はあくまでメイだ、だからこそ、一瞬メイに意識が向く。
マオはバックステップの反動を使い、腰を深く落とすと同時にナイフを持つ手を弓よろしく引いた。
メイは深く落とした腰で馬跳びをした、同時に腰の上から飛び蹴りを放つ。
だが悲しいかな所詮素人の蹴り、あっさりかわされる。
だからこそ、マオはナイフを持つ手を引いていた。引いて、もう片手の指でナイフの刃の側面を掴む。
投げナイフの構えだ。
そして、馬跳びの腰を深く落とした反動で現れた身体のバネを利用して、今度は天に昇る火の様に思い切り跳躍した。
メイが石よろしく影になっているお陰で、その動きは相手には見えない。
その、『電光石火』の流れで狙うは勿論急所の額だった。
46: 名前:サスライ☆02/25(金) 18:11:32
ナイフを投げ出そうとするその時マオに電流走る。電流の正体はナイフを投げる腕の、奇襲によって作られた傷によって起こる痛覚による物だ。
一瞬マオは、顔を強張らせる。そして直ぐ様元に戻り、行動を再び展開し、ナイフを投げた。
だが、相手がメイに意識を向けてくれているのは一瞬だ。だから、銃はマオに向けられる。
この時マオが思ったのは一瞬故に些細な事。
『何故、銃で腕が爆ぜる程の傷が出来たのか』と言う、後で考えれば良い学術的好奇心より湧く思考だ。
ナイフが放たれると同時、既に引き金は引かれていた。しかし、これでマオがやられてもナイフは回避不能だ。
その筈だが、そうは成らなかった。ナイフは引き金が引かれると同時に砕け散ったから。
キョトンとしたが、銃の形状を見て納得する。ラッパの様に広がった銃口に、異様に肥大化した銃身。それは、そもそも拳銃では無かった。
超小型の、音響装置だ。メガホンみたいな物と考えれば良い。
マオが居た組織でごく一部に渡される暗殺武器『蝙蝠七型』。物質に合った波長で超音波を発する事で、物質を爆発させる(銃で言うハンマーの部分が調整部分になっていて、これを親指で回す事で波長を変えられる)。ガラスが音で割れるのと同じ原理だ。
超音波だから聞こえないし、銃弾も残らない。
それで、相手はナイフの煌めきが見えた瞬間波長を対人体から対金属に変えて音波を放った。
マオに代わりのナイフは無い。所謂『チェックメイト』だ。
47: 名前:サスライ☆02/25(金) 18:39:48
マオは、悔しかった。
訳の解らないまま死ぬのも悔しい、結局何も出来ないのも悔しい。そして、初めて出来た友達をそうして喪うのが悔しい。
「……畜生」
ギリリと下唇を噛んで泣きそうな目をした時に、チラリとメイを見る。その表情にゾッとした。
彼女は、笑っていたから。
「クックック……」
そんな、薄気味悪く『メイ』が笑い、『メイ』は信じられないスピードで相手に向かって駆けた。
人間と思えない初速のタックルの肩は腹に入り、相手を1メートル程吹き飛ばす。
吹き飛ばされ、しかし地面に着地した相手は超音波をメイに向かって放つが、メイは不気味にケタケタ笑いながら横向きヘッドバッキングでそれをかわした。
確かに、超音波は目に見えないし音だが、結局は銃口の面積以上の波長を飛ばせない。理論値からズレて音波が散らばったら、ダメージにはならないからだ。
「クックック、ケキャキャキャキャ、アハハハハハハ!」
メイがヘッドバッキングしつつ再び駆ける。だが、相手は冷静だった。
「アキャ……」
銃口を上に向けて注意を上半身に振り、右足でローキック。そして左足でハイキック。脳が揺さぶられ、崩れ落ちる。
今度こそ終わったと感じた時だ。相手の意識が突然切れて、今度は相手が崩れ落ちた。
48: 名前:サスライ☆02/27(日) 21:21:55
相手の意識を奪い、マオ達の窮地を救った犯人が、橋の上で決めポーズを取っていた。ポーズは読者の好きな様に。そして犯人は叫ぶ。
「天が呼ばない、地も呼んでくれない。人が呼んで無くても俺は来る!」
トウと一声上げて橋から飛び降り、マオの前に立った。マオは涙目で言う。
「ハンプティ、遅いよ……」
「よく、頑張ったな。もう大丈夫だ」
ハンプティは微笑みながらマオの頭を大きな手で撫でた。そして、続ける。
「ヒーローは後から来るものなんだぜ」
「言い訳になってないよお……」
マオが表情を崩して泣き出した。今まで似た状況は何度もあったが、彼女は初めて感情を露にした。
ジュウザを初めとする想いに触れて、成長し出した心がハンプティの優しさが切っ掛けで漏れたからだ。
一通り泣いた後で、マオがハンプティに聞く。
「そう言えば、どうやってコイツの意識をあの距離から奪ったの?」
すると相変わらずの隠す所も無いシマムラファッションで言った。
「顎を狙ったんだ。顎に衝撃を与えれば脳が揺れて意識を落とす事が出来る。ボクシングとかでアッパーが入った時のKOパターンな」
「あ、うん。それは分かったけど『橋の上』から『素手』でどうやって」
キョトンと目を点にして首を傾げるマオに、歯を見せて豪快に笑い、ハンプティは答えにならない事を言った。
「俺には、『精霊』が付いているからだな」
故にマオは、頬を膨らませた。呑気な光景だが、色々と問題を抱えているからこそ呑気に誰かに頼らずにはいられなかった。
49: 名前:サスライ☆03/04(金) 23:38:32
ハンプティは取り敢えず、マオを一方的に質問攻めにした。それで段々飽きてきたのか、冷静さを取り戻しつつあった。
「ふうん、暗殺課ね。成る程大体繋がった、全くジュウザも面倒な物押し付けるな」
「……どう言う事なの?」
それに対し珍しくハンプティが相槌を打つと、連れて行かれた後の事を話し出そうとする。その時、意識を取り戻したメイの声が上がった。
「うわっ、何時の間にかハンプティが居る!」
「お前なあ、空気読めよ」
「え、何で私意識を取り戻した途端に怒られてるの?」
「……今回はどっちかと言えばメイが悪い」
「理不尽な四面楚歌なんだけど!?」
荒れるメイに特に触れず、勝手に落ち着くのも待たずに話を進めると勢いに負けて勝手に落ち着いた。
ハンプティの話を起承転結で纏めると以下の通りだ。
(起)連れて行かれると警官が居た。
(承)理由無く、いきなり殺されそうになった。
(転)窓をユパ様よろしく突き破ってダイレクト脱出
(結)ヤバそうなメイとマオを見付けたので援護する。
これを相関図の様に纏めるとこうなる。尚、ハンプティは警官に狙われる心当たりは無い物とする。
- メイ(一般人)は隣国の暗殺者(相手)に狙われている。
- ハンプティ(旅人)は暗殺課(存在は極秘)に狙われている。
- ジュウザが懲らしめた警官は隣国のスパイである。この警官からマオ(工作員)の情報が漏れたと思われる。
マオはここで思った事が一つあった。実は自分だけ狙われていない。
しかし、実は『この計画』はマオが集中して狙われる筈だった。只、ボタンを少し掛け間違えただけに過ぎないのだ。本人はまだ気付いていないが。
50: 名前:サスライ☆03/08(火) 02:01:44
今何が起こっているのか、今度こそハンプティが言いかけた時、彼の目付きが変わる。穏から険へ。
そして、橋の上に向かって手を振った。すると、掌から『目に見えない何か』が飛び出して、橋の上の影に衝突。クワンと、オタマとフライパンの底の相性よろしく音が響いた。
そこに居たのは黒い警察服の巨漢の男で、表情はまるで鉄の様。故に何処か冷徹な軍人にも見えた。
メイが驚いていると、直ぐにマオと一緒に、被害が出ない様に橋の下に隠れる。アレこそが暗殺課なのだから。
「ふむ、音は立てなかった筈なのだが、何故解ったのかな?」
「精霊が教えてくれる。テメエのネクラな風なんてあっさり読めんのさ」
「宗教かね。下らんな、そんな物古臭い思想を引き摺った弱者を利用する詭弁に過ぎんでは無いかな」
「へっ、そう言う宗教感を人に植え付けたのは、お前等警察がしっかりしてないからだろ」
そう言ってお互いに戦闘体勢を取った。暗殺課は構えを見られない様に日光を背にして、ハンプティはローブをマントの様に羽織って腕を見せなくしている。
それは西部劇の早打ちのシーンにとても良く似ていた。
「……あ、謎の答えはお前等で勝手に考えておいて」
「ええっ酷い!」
緊張感ぶち壊し。マオちゃん大ショック。
最終更新:2011年07月03日 14:18