74: 名前:サスライ☆05/03(火) 12:31:55
3人はテクテクと道路を歩いていた、全員共通の話題が無いので気まずく、何か話さなくてはとメイだけは必死に模索するが他は気まずいとは思っていない。
あれ、コレって食堂の時と同じじゃね?否、人は変わろう変わろうと三歩進んで二歩下がる。きっと一歩は変わってる。
「クックック、下がる過程あったっけ」
ササヤキが何か言っているが、ササヤキの事だしきっと自分を惑わす何かだろう。誰だってそう思う筈、だからメイもそう思う。
そう言うわけで、最近のこの通路に関するゴシップネタでも披露しよう。だから口を開いたその時、コンマ一秒の差で口を開くのが早かったのはマオだった。
「そう言えば、何かホラーな話題が欲しいね。ハンプティ」
「うん、そうだなあ。じゃあ通路に関するホラーでも話すか」
取られた。メイは内心苦虫を噛み潰すのを通り過ぎて胃袋を潰された顔になる。しかし内心だから顔には現れない。
ならば、その土俵で戦ってやろうと考えるが、このフィクションの制限された世界でマトモなホラーの話題なんてある筈も無くて無情。
くそうコイツ苦手だ。メイが内心思うと、ササヤキが返す。
「クックック。ループしてるねえ」
75: 名前:サスライ☆05/04(水) 10:17:02
ハンプティが腕を組みながら天を向き少し眉を潜めると、天からナニか振ってきたのか目を見開く。そして二人に向いて口を開いた。
「んじゃ、トンカラトンの話でもしようか」
「覚え辛い名前」
「……変な名前」
名前について怪談で言ったらキリが無い。おかしな名前、素朴な名前、それ等の内容のギャップ差も怪談の楽しさの一つだから。
故にハンプティは、俺もそう思うと苦笑い飛ばして話はじめた。
「トンカラトンってのは、正式名は良く解らないけど、台詞からついた名前でな。こう言う感じに人気の無い道路を歩いていると現れるのさ」
静岡県の遺跡には『トンカラリン』と言う物があるが、実は関係は不明。
「全身包帯グルグル巻きであ」
「何だと、それは大怪我じゃないか。早く病院に行かなくちゃ」
何故かメイが食い付くが、メイなので無視する。と、言うかもしかしてコイツウザキャラじゃね。
「んで、日本刀背にして手を離して自転車をこいでいてなあ」
「何だと、それでは比重が大変ではないか」
今度はマオが反応する。もう何なのコイツ等、話をグだらせたいのか。思いながらもハンプティは話を続ける。
「トンカラトンって言いながら迫って来たと思ったら、『トンカラトンと言え』と言う。
んで、言わないと斬られる。斬られたらトンカラトンになる」
じゃあ刀を避ければ良いじゃないかと案が出たが、ハンプティはニヤリと笑って目の前に迫って来る人影を見た。
「きっと、もの凄え達人なんだろうさ。な、そうだろジュウザ」
目の前には、眼帯にスーツ。そして日本刀。妖怪と言われても違和感無いナニかを纏った男がそこに居た。
76: 名前:サスライ☆05/04(水) 19:34:02
ジュウザは、左膝を立てて座る。そして右側に刀を置いて溜め息一つ吐いた。崩れた体制は彼が行うからこそ逆に一つの遊びになって印象派の絵画の様な安定感を醸し出していた。
『居合』の構えだ。余談だが一般に知られる立って膝を少し折り、腰で溜めるのは『立合』と言われている。だが、総じて『居合道』なので間違ってはいない。
そんな仕草に飲まれずにいられたのはこの中で二人。一人はササヤキ、もう一人はハンプティだ。
「やれやれ、物騒だな。俺は紳士的にいきたいんだがな」
「クックック、好き放題殴る蹴るをしてるのが言う台詞じゃ無いねえ」
ササヤキは言うが、ハンプティは敢えて無視して只、『良いからメイのトコに帰れ。実は他人とも会話出来る事をバラされたく無かったらな』と言う。
すると常人では、ササヤキが違和感に手を加えるので気付かないササヤキ独特のパルス侵入の『流れ』が消えるのを確認した。
「……その様子だと、俺の活動に気付いているようだ」
ジュウザがそう判断したには三つの理由があった。一つはスパイもしくは工作員が殺された事。もう一つは、その犯人は自然にジュウザが浮かんできて、ならば敵対の可能性があり実際に居合の体勢を取っても動じない事。
以上の事を総じて下調べをしている可能性は高く、またマオが近くに居る等情報を得易い環境にあるの三つだ。
だからこそ、ジュウザは精神的に一気に踏み込んだ。
「……さて、貴様等は俺に協力するか。敵対するか。どちらかな」
77: 名前:サスライ☆05/05(木) 18:40:54
番外編
イラスト☆コーナー
はいどうもやって来たね。この小説のアイドル、ササヤキだよ。
さて、このコーナーは読者様にイメージを固めて貰う為に筆者のキャラ絵を載せていくよ。でもコレ、僕って永遠に出ないよね。何これ、馬鹿なの死ぬの。
と、グダグダじゃいかないね。サクサクやらなきゃね、時代はスピードを求めている。
じゃ、今回はメイン3人。ハンプティ、メイ、マオだね。てゆうか、これ載せたら殆ど載せるキャラ無いよね。
では、実はハンプティ意外ロクにイメージ作らないで十分で考えた超適当イメージスタート。
それじゃ、本日はこれにて。また会おう諸君、クックック。
78: 名前:サスライ☆05/09(月) 16:54:48
ハッと飲まれてた意識を戻したメイが言う。
「勝手に話進めてるけどそれって難しくないかな」
「……ほう?」
ジュウザは二流ホラーの殺られ役程度なら睨むだけで殺せそうなドス黒い視線を向けた。
マオを睨む様を見るのも怖かったが、実際睨まれると内臓が収縮する様な感触を覚えてしまい、実際隣でマオが納得した顔でメイを見ていた。
それでも脳内麻薬を射ち、収縮した肺を無理矢理膨らませて機械的に声帯を震わせて平静を装う。
「アンタにとって、隣国反対派も賛成派もどっちも敵だ。基準が解らないんじゃどう動けば良いか解らない」
「……ふむ、成る程。
それは申し訳ない」
ジュウザは姿勢を正座にすると、礼を一つ。この時は僅かに隙が生まれ、ハンプティはそれに気付いてない訳では無かった。
しかし、敢えて手を出さなかった。そんな、歪な信頼関係があってかジュウザは静かに目を閉じて、口を開いた。
「……俺にとって、敵は『民主主義を謳(ウタ)う独裁者』だ。
『全ての平等』を謳い、国民を平等に管理する為に独裁を行う隣国。
『安全』を謳い、何もかもを規制して都合の悪い真実を隠すこの国。
結局みんな『独裁』だ。自分の作った物しか認めない。だから俺が、正義に則り正そうと言うのだ!」
79: 名前:サスライ☆05/09(月) 18:33:37
ジュウザがマオに出会ったのは、第三勢力の活動の最中の事だ。隣国派の警察が居ると聞いて暗殺しに行ったら第三勢力からマオが来るとの連絡を受けた。
この純粋無垢な少女にこの世を見せてやろうと暗殺課が動くのを予想して、ハンプティに預ける。自分は第三勢力の活動に戻った。
そして、暗殺課がやられたとの知らせを受け、同時に工作員が一人捕まったと知り、前生かしておいたスパイと同時に暗殺した。ハンプティ達をおびき寄せる為に。
以上が、ジュウザの活動だ。これで番外編も作れそうだけど、デロデロになりそうなので止めておこうそうしよう。
兎に角、ハンプティ達にこれ等を伝えたジュウザは無言で居合の体勢に戻る。それは再び選択させると言う意味だ。
メイは、一旦整理してある矛盾に行き着いた。それは敵対の肯定でもある。
目の前の『トンカラトン』の実力を知っているだけに彼女は悩むが、そこに声が入った。ササヤキの声だ。
「嘘は言わない方が良い。自分の態度も信じられない人間が、人を信じられる筈無いから」
「……そうだね、有り難う。やっぱアンタは私じゃ無い。アンタが私だったら、誘導なんて面倒な手段は使わないから」
脳内で作られた鼻で笑う音を聞くと、温かい微笑む。そして次の瞬間には凛とした態度でジュウザに挑んだ。
「アンタは矛盾しているよ。アンタだって、『民主主義』を謳って『殺人』を正当化しているじゃないか。
そうやって死の恐怖で人を縛り続けるのは独裁者のやり方だ」
80: 名前:サスライ☆05/11(水) 14:26:08
ヨーロッパのとある独裁者と呼ばれた男は、『女性は適応力がある。特に若い女性は蝋の様に柔軟だ』と言った。
ジュウザもそう思う。故に、マオを(ついでにメイも)現実に晒した。そして自分と同じ思想に行き着くと思っていた。何故なら、自分は自然にこの性格と言う型に適応していたからだ。
だが、結果は違ってしまった。何故と思う。実はジュウザがその性格になるには、発狂を通り越した更なる修羅場を潜る必要があるのだが、それに気付くのは何時の話なのだろうか。
只、ジュウザはジュウザ成りの正義に従っていた。
実は隣国に対してテロを行い、それを基に隣国を脅そうと言う反隣国の集団を斬った。
反省せず、牢屋から脱獄した後にこの国に対して報復してやろうと壁越しに会話していた二人も斬った。
彼にとっての正義は斬る事で安定していた。殺られる前に殺らなければ生きられない世界で過ごしてきた故に。
しかし目の前の女は、それを否定している。正義を否定すると言う事はもう一つの反する正義があると言う事で、則ち悪と認識した。
気付けば無表情のまま感情が高ぶり黄金の刃が鞘から放たれていて、メイに吸い寄せられていた。
81: 名前:サスライ☆05/13(金) 12:32:14
金属音がした。刃に対して硬質化した拳を突き出し、衝撃波で軸をずらして刀身を殴って食い止めた音だ。
ハンプティはジュウザとそれなりの付き合いだ、怒りも尤もと思う。
今までの苦しみを全て否定されたのだから。
でもハンプティは『正義の味方』だ。だから『悪』を見過ごす訳にはいかなかった。
「……ハンプティ」
やはりジュウザの表現からは何も読めない。しかし、呼吸や体温の流れがどこか乱れていて様々な感情が混ざっているのが解る。
「ジュウザ。
お前がどんな御大層な理由
(御大層な理由と書いてハンプティ・ダンプティと読む。ハンプティ・ダンプティとは、どんな権力者でも一度壊れたら直せない物の意。卵で比喩されるケースが多く、卵の殻の様に薄っぺらな物とも言える)
があっても、ガキに手出しして良い理由には成らねえよ。それを押し通したいなら、この俺を倒していけ!」
ジュウザの腹に前蹴りを食らわせた。それこそフィクションの如く派手に身体が吹き飛び、コンクリートが破壊される。フィクション禁止のこの国では取り締まらなければいけないかも知れない。
ハンプティの身体は怒りによって開放されていた。開放はエロい意味じゃ無い。身体の流れを操作する事による開放だ。
食物をATP(エネルギー)に全て変換するエネルギーを8時間とするならば、原子力発電所並のエネルギーが発生(計算筆者)。その時間を早める。
更には人体のゲノムに含まれる未解読部分(ジャンク遺伝子)を開放。
他にもセロトニン等の神経伝達物質、BCAA等の筋肉エネルギーを早く合成する等の事で、まるで神話の英雄の如くの姿になっていた。
82: 名前:サスライ☆05/14(土) 16:44:58
ジュウザは、人を外れた能力を持っている。しかし、自身を人間だと思っている。
人は弱い。だから群れる。そして群れの本当の怖さは、強くなる事じゃなくて、弱さを克服する事だ。
独りだとどうしても『本当にこれで良いのか。失敗したら大変なんじゃないか』やら責任が付きまとう。しかし、他の人間がやっているなら自分もやって良いと免罪符を作れる。
それは、数が多ければ強くなり、故に上は自分がやらないから酷い指令を出せるし、下は責任は上が取る上、周りもやっているから正しいと思えてくる。
ジュウザは、今まで斬ってきた全ての人間と命日と性格を覚えている。殺した人間の人生と想いを背負わなければ、失礼に感じるからだ。
しかし、斬り過ぎた。沢山の人間の想いが彼の中で重なり、収集がつかなくなった。だからこそ、自分はそれを組織化して司令塔になる事で発狂を逃れている。
尤も、それは殺人の正統性を促している事に繋がるが。
しかし能力的には有利になる。独りの想いよりも、沢山の想いの方が強い。
鞘に刀を納めて、今まで斬った人間ならどうすると言った事を考えながら居合の構えで集中する。
一人の人間から複数の人間の気を出す。これがジュウザの『一騎当千』と言う名の奥義だ。
目の前には百戦錬磨の英雄。「差し詰めこれは一人の英雄対千人の凡兵だろうか」と、ジュウザの想いの内の誰かが言って、想いの内の誰かは笑った。
相変わらず司令塔は無表情だが
83: 名前:サスライ☆05/15(日) 20:09:48
聞こえるとも、あの声援を。感じるとも、あの大群を。ハンプティはジュウザが刀に一点集中させた想いを感じていた。
誰だって経験はある筈だ、集会やら人混みやら面接やらで感じるあの圧迫感。身体の内側まで押し潰されそうで、緊張で本来の力を出せなくなるあの圧迫感だ。
それでもハンプティは、逃げる気は無かった。只、近くにあった建物に凄い勢いで駆けていき、文字通り壁を走る。
勝てないかも知れない。だけど、逃げてはいけない。真のヒーローは仲間を見捨てない。
そんな一種のルールによって己を追い詰める責任感が、人を強くする。
ビルの3階程の高さまで走ると、足と腕に跳ねる為に力を込めた。
どれだけ強くなれるかは、護る者の人数では無くて、どれだけ護る想いが強いか。つまり、どれだけ自分に正直に自分を追い詰められるか。
ハンプティの目付きが何時もの飄々然とした物では無くて、善も悪も内包し、それでも突き進む漢(オトコ)の目付きになった。
力を全て一撃に注ぎ込んでいるから、流れを読んで遠距離の声を聞く能力は聞こえない。それでも、ジュウザの声が聞こえる。
「皆、ちっぽけな俺に力を貸してくれ」
だが、ハンプティは少し記憶の隅に留めておく程度で、壁を跳ねた。コンクリに手形と足形がクッキリと付く。
「必殺……弾丸キック!」
位置エネルギーを利用した只の飛び蹴り。今までの格闘技と比べると随分粗末な物だった。だけど、何故か一番威圧感がある。
本当は、ヒーローには力も技も必要無い。どんな強敵にも怯まない鋼の魂があれば良い。故に、想いが詰まったキックは一番ヒーローらしかった。
84: 名前:サスライ☆05/16(月) 22:29:24
迫り来るハンプティに対して、抜刀した。刀からは鉄骨程度なら余裕で斬る強力なエネルギー波が放たれる。その瞬間、ハンプティは吼えた。
「WOOOOOOOOOOOOOOOO!」
なんと、気合でエネルギー波を跳ね返した。
何故なら、放たれたエネルギー波はどんなに強かろうが気力が形になっただけの存在に過ぎないから無機物は楽に斬れるが、魂の籠った肉体は簡単に斬れない。
だけど、ジュウザは勝つと思っている。何故ならジュウザは能力で肉体強化もしている。
そして刀の方が足より長い。同じ肉体強化を用いるなら、リーチが長い方が勝つ。
居合独特の、抜刀のバネを利用した素早く両手に持ち代え立ち上がる動きをして、上段から立ち上がるバネを利用して足狙いで刀を振り降ろした。この間、刹那にも満たない。
しかし、ハンプティは振り降ろされる刃に合わせ、ジュウザの一歩手前で踵を下ろす。踵が下りた先は地面。その反動を利用してもう片足を円状に回し、刀の峰に足を乗っけた。
乗っけたと同時に地面についた足を同じ動きで高く上げ、そのまま踵落としを食らわせた。
後頭部へ衝撃。地面に顔面を叩き付けられ、ジュウザは意識を落とした。地面だけに。
85: 名前:サスライ☆05/18(水) 16:20:28
普通なら植物人間になってもおかしくない一撃だったと言うのに、一時間程でジュウザは意識を取り戻す。メイは、ある意味ハンプティと同じ人種なのだと思った。
だとしたら、やはりジュウザもハンプティと同様に食堂で大量に食事をしたりコイツと一緒に食事すると、またあの惨劇が繰り返されるのか。
いや、それよりも二人居るのが恐ろしい。もしこの二人に挟まれて食事したとなると……。
ここまで豊かに想像した辺りで声がかかった。
「……多分それは無い」
「いや、解らないよササヤキ。もしかしたら、もしかするかも知れない」
「いや、ササヤキって誰」
声をかけたのはマオだった。つまりマオが自分の考えている事を読んで考察を放出したと言う事になる。さてはエスパーか、新手のスタンドか、念能力者か。(自分でもよく解らない単語。恐らくササヤキの知識)
「いや、声に出しているし」
「……それに俺は奴の三分の二程度しか食べない」
メイ一生の不覚。まさかジュウザにも聞こえていたとは。て言うか、三分の二でも十分多くね?
「何で俺はギャグパートになると地味になるかな」
「存在自体がギャグだからじゃないかなクックック……」
そして隅でぼやくハンプティが居た
86: 名前:サスライ☆05/21(土) 02:34:03
「……それで、どうする」
先ずはジュウザの第一声から始まった。どうするとは、ジュウザを捕らえてその先どうするかと言う意味だ。
しかし、空気を読まずにメイは私的に気になっていた事を優先させようとしていた。故にそうなり第二声はメイの言葉になった。
「ねえジュウザ、私は本当に殺しがしたかった訳じゃないと信じるよ。でも、もっと別のやり方だってあった筈だよ」
ジュウザはふんと鼻を鳴らす。彼は鼻で笑っている事を形だけでも行おうとしていた。これから作る場面に必要なパーツだからだ。
「……貴様は何も解っちゃいない。相手が強く出ない限り、人はいくらでも乱暴に振る舞えるんだ。また、相手との関わりが希薄な程酷くなれる」
例として外交がある。軍事力が自分より弱くて聞き分けが良い国が隣にあったとしたら、脅迫に近い外交を申し込んで来るだろう。
この国と隣国の関係が正にそれだ。そして隣国の機嫌を取るために税として大金を吸い取られるのが、この国の国民だ。これで面白いのは、隣国はその『援助金』をこの国を脅す為の武器やらスパイやらの費用に使っている事だ。
では国民は黙っていないだろうと考える人もあるがそうでも無い。制限されたフィクションや管理されたマスメディアによって、人々にその驚異は伝わらないからだ。
そこまで一通り伝えた後に、何時もの無表情でジュウザは言う。
「そして今、国は変革を迎えようとしている。隣国反対派(タカ派)と隣国派(ハト派)が上で争っているのを止めようと、管理しようと、一番上の人間は何を考えたか……」
口だけで笑う。目は笑っていない。でも、笑うしか無い状況の事実だから笑う。
「この国に住んでる隣国の人間に警察以上の権力を持たせて、『差別者』を取り締まると言うのだ」
87: 名前:サスライ☆05/21(土) 02:55:54
隣国のモットーは『全てを平等に』。尤も、それに他の国の人間が混ざっているかは別の話。
「……そこまで付け上がった人間が、そこまで戻れない所まで来た人間が人の話を聞くものか。ならば、暴力以外の何に訴えろと言うのだ。
始めからやる気の無い奴に何を言っても無駄だと言う事位解るだろう!」
何時までもジュウザはブレ無い。ところが、どこか脱力感を覚えると、彼は囁きかけてきた。
「……それで、どうする」
ジュウザを倒したと言う事はそのやり方を否定したと言う事だ。だから同じ手段を使う事は矛盾に近い。
もし、人口の三分の二程の大規模な暴動が起きれば事は単純に終わるだろう。だが、メイにそこまでの力があるだろうか。いや、無いと自己判断兼自虐。
自分の事を誰も解っていないと感じるのは、他人の事を解っていないからだ。そんな人間が今から出来る事は何だろう。
ハンプティ、ジュウザ、コイツ等の様に超人的な腕力も能力もカリスマも自分に無い。それでも、この国の人間を動かすのはこの国の人間では無いといけない。
詰んだ。何て自分は矮小なのだろう。そう感じた時に、朧気な記憶だったので忘れかけていたある事を思い出した。
そうだ、まだ手はあるかも知れない。
「ササヤキ、アンタにこの国の未来を頼みたいんだ」
88: 名前:サスライ☆05/21(土) 21:52:22
昔々、それこそ電気の概念も無かった昔。ある植物人間が居た。その植物人間は、ある医者が必死に成る程大切な人だった。そんな必死に応えたかどうかは解らない、でも、植物人間は意志を以て起き上がった。その事実だけはあった。
意志の正体は特殊な鞭毛で宙をプロペラの様に飛ぶ微生物の集合体。それが化学物質のやり取りをして、あたかも脳の役目をしていた。思考とは、化学物質のやり取りに過ぎない。
しかし『ソレ』に取って、自分の正体はどうでも良かった。この『取り憑いた』人間の存在意義こそが現在の自分の存在意義だから。知識は取り憑いた物体を媒体にしているが故にだ。
ソレは精一杯、本人を振る舞った。医者も気付いて居ないので上手くいっている様に感じたが、医者は最期にこう言う。
「ありがとう、こんな老いぼれになるまで嘘を付き続けてくれて」
ソレは驚く顔を見せたが、医者は笑みを浮かべて頭を撫でて続ける。
「……目の前に自分の存在意義も何も知らずに困っている『人間』が居た。
だったら、真っ当に暮らせる様に『治療』するのが医者じゃないか」
そんなと返すが、医者は既に息を引き取っていた。以来、ソレは心に興味を持つ傾向を見せ、狂気にも近い強い意志に惹かれる様になっていた。
一つ前はサーパと言う人間の死体に憑いていた。そして今、ソレはササヤキと呼ばれメイと言う人間に憑いている。
89: 名前:サスライ☆05/23(月) 20:49:29
ササヤキは、意識の無い者や意志の薄い者なら身体を乗っ取る事が出来る。工作員に襲われたメイを守ろうとした時がそうだった。ある人はこれを悪霊とも呼んで、ある人は神の言葉と呼んでいた。
今回、ササヤキに任せるのはそれを利用した情報操作だ。人は何故か必死に叫ぶ個人には耳を貸さない癖に、テレビの話は企業がやっているからだと信用する。だから簡単に操られる。企業も上に操られている縦社会に過ぎないのに。
しかし、それを逆手に取ればどうだろう。つまりササヤキに重要な人物を操ってもらい人を煽ろうと言うのだ。
当のササヤキは少し驚く、自分がメイの外に介入出来る事は言っていない。そう伝えると、メイは微笑んで言う。
「だって、知識は共有してんだからそりゃ解るって」
それでもササヤキは納得しなかった。同じ知識を共有しようにも何を考えていると言う流動的な物は捉えられない。
そして、自分が他人へ干渉するのは『行けるかも』と言う感情から起こった物だし、知識が更新されたとしてササヤキ自身の知識と混ざってしまう。
「難しく考えているなあ、前の私みたいだ。アンタが必死に『私』を守ろうとした知識は自分の名前が複数の名前の中で呼ばれたみたく反応しちゃうもんさ。
何より、私はそんなアンタが好きだ。だから何を知って、何を考えているかついつい分析しちゃう」
90: 名前:サスライ☆05/23(月) 21:14:08
ササヤキは一旦目を見開いて(目は無いけど)、微笑み返した(口も無いけど)。だってメイがあの時の医者と同じ顔をしているから。気恥ずかしい気持ちになりながら、脳内だけで会話する。
メイ、ありがとう。(私に)(僕に)(俺に)居場所をくれて。君は思っていた以上に立派な人だったよ。
ううん、そうでも無いよ。寧ろ居場所を与えられたのは私。だって、アンタが居なければ私は今の私じゃ無かったから。
クックック、じゃあお互い様だね。……さて、そろそろ行くとするよ。旅人は唯流れるのみさ。
そうでも無いよ。流れない物もあるさ。
……クックック。そうかなあ。
何をと返そうとした時、頭から何かスウと抜ける感覚を味わう。微生物であるササヤキ本体が抜けたからだ。どこか知識に妙に広い空白を感じたが、心は満ち足りていた。
空に向かって手を振ってみせる。知識が切り離された今ササヤキの方が、どれ程メイとの約束を覚えているかは解らない。
だから計画も成功するとは限らない。でも、メイは忘れないと信じている。
「……想いは、流れない」
ポツリと言って、言葉は風に流れた。丁度、ササヤキの本体に向かって。
さて、一方で取り残されたマオは頭上に色とりどりのクエスチョンマークを浮かべている。既に事情を知っているハンプティ、そして心を感じ取れるので事情を察知できたジュウザ。
お互い、どうやって話を切り出そうか悩み、ササヤキを大いに恨んでいた。
91: 名前:サスライ☆05/23(月) 21:30:48
それから数ヶ月後。
風が吹く。その風は何処から来たのか、聞いても答える者は無いが、荒野を道行く男女の男の方の顔に新聞紙を張り付かせるには十分だった。
「ウビャラッパ!」
「……」
「おいおい、マオ、せめて突っ込み位入れてくれよ」
「……うわー、変なうめき声」
監督を小馬鹿にした様な棒読みをマオは言うと、男の方(ハンプティ)にくっ付いていた新聞紙を取ってやった。
苦しそうに顔を真っ赤にしたハンプティをよそ目に新聞を見る、そこにはついこないだまで滞在していた国の事が書いてあった。
「……あの国、まだデモが続いているらしいね」
「ああ、ササヤキが頑張ったからなあ」
あの後、メイの作戦は成功した。突然国の上の何人かが、テレビや新聞で狂った様に内密にしていた案を暴露しだした。そして、それを行う時には決まって『クックック』と妙な笑いを浮かべる物だった。
ジュウザは暫くして姿を消していた。未だに消息は掴めていないが、つまり過激なやり方からは手を引いたと言う事でもある。
「……メイ、元気かなあ」
「さあ、どうだろうなあ。まあ、何はともあれ俺達は俺達に今出来る事をするしかない。そうだろう?」
「そうだね、じゃあ……」
「飯にすっか!」
二人は別ベクトルの種類で、しかし同じ意味で笑いながら弁当箱を荒野に広げた。
最終更新:2011年07月03日 14:31