1: 名前:浅葱☆07/29(木) 16:46:16
無数のサイレンの音。
人のざわめき。
鮮やかな回転灯の光。
たまに見る夢は、起きるとその記憶だけ抜け落ちたかのように忘れていた。
その夢が何を指し示すのか、私は、何時まで経っても理解できないままだった。
2: 名前:浅葱☆07/29(木) 16:54:13
機械的なアラーム音。
私は毎朝、その音によって目が覚める。
未だ重い瞼を擦りながら身体を起こし、制服を身に纏い、階段を下りる。
そこには毎朝決まった風景が広がっている。
朝食の匂い。
父と母の会話。
テレビから聞こえてくるアナウンサーの声。
「お早う」
そう言って私の指定席に腰を下ろす。
「お早う、憂。昨日は遅くまで起きてたんだって?あまり夜更かししないようにな」
「そうなの?朝、起きられなくなるわよ」
「分かってるって。昨日は課題やってたら寝るのが遅くなったの」
1人っ子の所為か、両親は直ぐ私を心配する。
優しい、と言ったらそうだが、もう高校生の私にとってそれは億劫な会話でしかなかった。
頂きますと言って朝食に手を付ける。
それでも今日はあまり食欲がなく、パンを少し食べただけで席を立った。
「あら、憂。もう良いの?」
「うん。なんか食欲ないから」
「夏バテか?貧血で倒れたりするなよ」
「大丈夫だって。行ってきます」
玄関で素早く靴を履き、家を出る。
夏の日差しが、私の体力を消耗させる。
少し溜息をついて、学校へ向かった。
「憂…大丈夫よね」
「あぁ…、何も思い出してはいないようだな」
「憂は、このまま何も思い出さないまま生きて行くのかしら…?」
「……どっちにしろ、あの記憶は思い出さない方がいい。このままでいいんだ」
平凡な、平和な毎日。
だから私は気付かなかった。
否、気付けなかった。
両親の、あんな会話を―――
7: 名前:浅葱☆07/29(木) 19:48:58
「あっ憂!おっはよー」
「朋榎。お早う」
「今日早いね、なんかあった?」
「ううん、別に」
佐伯朋榎。
私の一番仲の良い友達。
性格はさばさばとしていて、話していて楽しい。
私の良き理解者だ。
「ちょっと、今日1限目から数学だよ。ホントやだ」
言いたいことは言いたいときに言う。がモットーらしい。
「朋榎は、数学が嫌いなんじゃなくて、先生が嫌いなんでしょ?」
「先生が嫌いだったらその教科も嫌いになるよー」
私たちに数学を教えてる先生は、年を取った先生で、授業を聞いていても解らないところが多い。
私は未だ理解しているが、苦手意識を持ってしまった朋榎にとって数学は地獄なんだとか。
「あ、あとあたし彼氏と別れた」
「え!?」
「何そんなに驚いてんの」
「や。だって朋榎、今度は大丈夫だって、絶対続くって言ってたのに」
「だってさぁ、付き合う前とか超良い人だったのに、付き合ってみたら最悪だったの。
マザコンだよ、マザコン。自分の母親のことママとか言っちゃってる時点でもう無理だったね」
朋榎は、付き合ってもあまり長続きしない。
自分の中で相手の厭なところを見つけてしまったらもう無理らしい。
それじゃあ、いつまで経っても続かないと思うのだが、敢えて言わない。
っていうか言えない。
8: 名前:浅葱☆07/29(木) 20:00:39
「憂は?紹介するって言ってんじゃん」
「えーっと、私は、今はいいかなぁ…」
「もう、いっつもそればっかり。もう高校生になったんだしさぁ、彼氏いないと損だよ?憂、可愛いんだし」
「そんなことないよ、それに今は未だ彼氏とかそういう気分じゃないんだ」
私が言うと、丁度教室に着いた。
戸を開けると何人かはもう来ていた。
自分の席で静かに本を読む者、友達と楽しそうに会話する者。
私は今まで前者だったが、朋榎が別れた今、後者になることだろう。
教室の一番後ろの窓側。
色んな人に羨ましいと言われる此処が私の席だ。
鞄から筆箱やら何やら取り出していると、予想通り朋榎がやって来た。
「そーだっ憂ちょっと体育館までついてきてくれない?」
「良いけど、どうかしたの?」
「昨日、部活のときに忘れ物しちゃってさぁ」
「ふーん。じゃあ行こ」
朋榎はバレー部に所属している。
一見運動などしなそうなイメージだが、好きなものはとことんやる。そんな朋榎が好きなのだ。
体育館で無事忘れ物を見つけ、戻ろうとしたら、急に放送がかかった。
こんな朝から珍しい、と思ったら案の定呼ばれたのは私だった。
「ちょっと憂。あんたなんかしたの?」
「さぁ…?取り敢えず行ってくるね」
朋榎と別れ、職員室へ向かった。
10: 名前:浅葱☆07/29(木) 20:08:06
「失礼します」
「お!三島。朝早いんだな。お陰で助かった」
「いえ、私に何か?」
「嗚呼、三島、確か進路係だったよな?進路資料室から資料を教室まで運んでくれないか?」
自分でやれ、と思ったが、流石に担任なので何も言えず“はい”とだけ言う。
あ、因みに私の名前は三島 憂だ。
職員室を後にし、進路資料室まで向かう。
この学校にも大分慣れてきたが、あまり行ったことのない場所などは未だ把握していなかった。
進路資料室など、滅多に行かないところだ。
当然の如く、私は迷ってしまった。
「……此処、何処?」
周りを見渡してみると、選択教室と書かれた教室が沢山あった。
「こんなとこ来たことないし、分かんないって」
彷徨うように歩いていると、物音が聞こえた。
…誰か居る?
まさか幽霊とかじゃないよね…?
未だ朝だし……。
恐る恐る物音のした教室を覗いてみた。
「!」
12: 名前:浅葱☆07/29(木) 20:21:55
そこには、行為の真っ只中の男女が居た。
(っちょ、幾ら誰も来なそうな選択教室だからって…!てか何朝から盛ってんの!?)
走って逃げたくなったがそうはいかず、目の前の光景を見た所為か、私の足は動かなくなってしまった。
男が動くたびに大きな喘ぎ声を上げる女。
そんな経験などあるはずもない私にとってそれは刺激の強すぎるものだった。
そして女が一際大きな喘ぎ声を上げた瞬間―――
「おいそっちじゃねぇだろ!?」
「あれーそうだっけ?やべ、間違えた」
先輩たちの声。
声のする方を見たが、先輩たちは反対方向へ行ったらしく声が遠ざかって行った。
ホッとして、目の前の選択教室を見たら、男がこっちを見ていた。
(やば……っ!)
体の向きを変え、全力で走る。
(顔、顔、見られた…っ)
闇雲に走っているうちに進路資料室と書かれたところに着いた。
資料を取って、教室へ向かう。
その間、ずっと心臓の高鳴りは治まらないままだった。
16: 名前:浅葱☆07/29(木) 21:28:39
「憂ー先生なんだって?」
「朋榎…」
「どうかした?元気ないよ?」
「あ…いや、なんでもない。資料取ってくるの頼まれただけ」
朋榎には言えなかった。
なんとなく、言ってはいけない気がした。
…それにしてもあの男子は誰だったんだろうか?
同級生なのか先輩なのかすら見当もつかない。
キーンコーンカーンコーン
「あーチャイム鳴っちゃった。じゃあまたあとでね、憂」
そう言って朋榎は自分の席に戻って行った。
私も自分の席に着く。
担任が入ってきて、SHRが始まった。
担任の話など耳に入って来ず、1限目の数学の内容も頭に入って来なかった。
朝の光景が頭から離れない。
厭な予感がする。
どうか、今日は何もありませんように。
17: 名前:浅葱☆07/30(金) 10:50:40
そして、いつの間にか放課後。
朋榎は部活なので、私は帰り支度を始めた。
誰も居ない教室。
私は完全に油断していた。
「三島さん?」
不意に名前を呼ばれて顔を上げる。
入口に立っていたのは男。
全く気配を感じなかった。
逆光で顔が見えなくて、目を細める。
「…誰、ですか?」
「誰なんて酷いなぁ」
男が私に向かって歩いてくる。
徐々に顔が見えてくる。
「憶えてない?」
はっきり顔が見えた。
整った顔。
何処かで見た気が………?
「全く、三島さんは人のセックスを見る趣味はあるのに、人の顔は憶えられないんだね」
目を見開く。
思い出した。
こいつ、朝の……っ!!
18: 名前:浅葱☆07/30(金) 11:16:01
「あ、あ、あんた…朝の…っ!!」
「漸く思い出した?」
「ってか、誰?なんで私の名前…」
「俺、隣のクラスの津田千昭」
「隣…?」
ってことは?
「同い年!?」
「そう」
「同級生のくせして朝から何やって…!」
「だってあっちが迫ってくるから」
「そ、そんな理由!?」
「別にどんな理由でも良いでしょ?…で、三島さんは見たんだよね?」
沈黙。
「……見、見てないっスよ…?」
「嘘吐くなっての。“朝の”って言った時点で完璧見てんじゃん」
津田が私に詰め寄ってきた。
あ、なんかこの展開、マズイ。
「え、や、あの」
「言いふらされても困るんだよね」
とうとう壁にまで追い詰められた。
津田が壁に手をつけちゃったから、私は今、逃げられない状況。
「や。わ、私、黙ってますよ?口堅い……!?」
22: 名前:浅葱☆07/30(金) 20:10:09
唇に違和感。
俯きながら言ったせいで、津田の顔が迫っていることに気付かなかった。
私、津田にキスされてる―――?
……キスされてる!?
「っや、津田…んっ」
口を開いた瞬間、津田の舌が侵入してきた。
歯列をなぞり、私の口内を侵す。
「ん、ぅ」
胸板を押してみても、全く意味が無かった。
息が、息が続かない。
「つ、だ、んん…っ」
限界だ、と思った瞬間、唇が離れた。
「これくらいで息上がっちゃって。かわいーね」
褒められても嬉しくないって。
「…ねぇ、彼女なってよ」
………………は?
「おもしれぇ顔」
23: 名前:浅葱☆07/30(金) 20:19:46
そのときの私の顔がどんなだったかは定かではないが、まぁ、酷い顔をしていたのだろう。
「な、何言ってんの?」
「んーまぁ、フリで良いから」
「なっなんで私…!?」
「や、可愛いし?俺の彼女役だったら最適かなって」
「むむむ無理っ絶対無理」
「んなことないって」
「で、でも…」
「それ以上抵抗したらまたキスするよ?」
「そ、それは厭…っ」
「じゃあ良いよね?彼女役」
「……」
「はい、は?」
「……はい」
ぽんぽんと私の頭を叩く。
「ん、良く出来ました」
私を見て微笑む。
「じゃあ明日から宜しくね、憂」
「え、う、うん。じゃあね、津田」
「あ、津田じゃなくて千昭って呼べよ」
「え、無理」
「…キスするよ?」
「じゃあね、……千昭」
私がそう言うと、満足したのか教室を出て行った。
「…困ったことになったなぁ」
大きな溜息を吐いて、私も教室を後にした。
24: 名前:浅葱☆07/31(土) 10:24:08
「ただいま」
家路に着くと、リビングからテレビの音が聞こえた。
「お母さん?」
「嗚呼、憂。お帰り」
さっきから聞こえてくるテレビに目を向けると、人身事故のニュースを流していた。
私がテレビに視線を向けていることに気付いたのか、母がその話題を投げかけた。
「酷いよね、交通事故だって」
「へぇ…事故…」
あれ?
なんか、耳鳴り?めまい?
貧血かな?
身体が少しよろめいた。
「…憂?憂、大丈夫?」
母の私を心配する声。
「だ、大丈夫…。多分貧血、かな」
「…そう?」
「うん。部屋、行くね」
部屋の扉を閉めて、その場に座り込む。
不思議ともうめまいは治まっていた。
どうしたんだろう、私?
今日はいろいろあったから疲れたのかな…?
立ち上がり、ベッドに倒れ込む。
明日から、何もなきゃいいんだけどな…。
そうしていつの間にか寝てしまった。
25: 名前:浅葱☆07/31(土) 10:33:15
アラーム音。
ぱち。と目が覚める。
「…あ、私、寝ちゃって…」
身体を起こし、制服のハンガーに手を掛ける。
「彼女役かぁ…」
ぽつりと呟き、制服を着て、階段をゆっくりと降りていく。
「お早う、憂」
「憂、大丈夫?具合悪い?」
「お早う。大丈夫だよ、全然平気」
今日は、いつも通り朝食を食べた。
母を心配させないように。
ピンポーン
「あら、誰かしら?」
母が玄関に向かう。
玄関から楽しそうな声。
回覧板かな、そう思っていたら、母が戻ってきた。
―――余計な客を引き連れて。
「お早う御座います」
若い男の声。
あれ?この声、どっかで聞いたような…。
そう思い、振り向いて入口を見てみると、母の後ろに―――津田千昭が立っていた。
28: 名前:浅葱☆07/31(土) 13:25:50
「―――…!?ゲホッゲホッ…」
思わず、飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。
「大丈夫?憂さん」
「あ、あんた…っ何し「ちょっと憂ー?彼氏さんなんだって?私たち憂にそんな人がいるなんて知らなかったわよ」
当たり前だ。
言ってないんだから。
「そう、なのか?憂」
「お、お父さん。や、あの、これは「初めまして、お父様」
「お父様!?」
「僕、憂さんとお付き合いさせて頂いている津田千昭と申します」
なんだこの表情、この声。
営業スマイルか?
それなのか!?
「憂さんとは健全なお付き合いをさせて頂いております。
今日から朝と放課後、憂さんを送り迎えしようと思いまして、今日はそのご挨拶に」
「えっ、ちょ「あらそうなの?それは有難いわー。ねぇ、お父さん?」
「…嗚呼、そう、だな」
「え!?お父さ「あらやだお父さんってば、憂に彼氏が出来たから妬いてるの?」
「ご安心ください、お父さ「あーもう行こう!学校行こう!!」
「え、憂もう行くの?」
「うん!!御馳走様でしたっ」
そう言って津田の腕を引っ張り、勢い良く家を飛び出した。
29: 名前:浅葱☆07/31(土) 13:43:00
「っちょ、あんた、なにしちゃってんの!?」
「え、見たままじゃん。彼氏なんだし挨拶しとこうと思って」
「いやいやいや、フリでしょ?ホントの恋人じゃないんだか
言い終わる前に津田の人差し指によって口を閉じられた。
「…大きな声で言わない」
叱るような声に少しドキ、とした。
……いやいやいやいや、してないしてない。
何言ってんだ私。
「…ごめん」
「じゃあ行きますか、学校」
ん、と津田が手を伸ばしてきた。
「…何?」
「や。手繋ぐに決まってんでしょ」
「え、や、あの」
戸惑っていたら、急に手を掴まれた。
「っちょ、津田」
「千昭」
「、千、昭っ…手!」
「良いじゃん、恋人でしょ?」
恥ずかしくて俯いた。
慣れてないんだってば。
30: 名前:浅葱☆07/31(土) 21:24:47
ずっと俯いたままでいたらいつの間にか学校に着いていた。
視線、を感じる。
顔を上げると、生徒たちが私たちを見ていた。
(え!?何、カップルってそんな珍しいものなの!?)
そう思ったが、どうやら違ったらしい。
珍しいのは“カップル”ではなく、“津田千昭の彼女”だった。
「ちょっと千昭ー?彼女出来たのー?」
「うん。だからもう相手してやれないんだ。こいつ、独占欲強いから」
そう言って私を引き寄せた。
ってか顔!顔近いって!!
「っちょ、つ「千昭」
周りに聞こえないくらい小さな声で私を注意する。
ていうか、女の子たちの睨みがヤバい。
こいつ、どんだけモテてんの!?
「ね、憂」
「え?あ、えと」
「ちょっと、ホントに付き合ってんの?千昭が本命作るなんて有り得ない!」
「本当だって。俺が好きになって告白したの」
キャーッという女の子たちの甲高い声。
……五月蝿い。
31: 名前:浅葱☆07/31(土) 21:43:14
「…憂?」
私を呼ぶ声。
「と、朋榎…っ」
助かった。
「つ…じゃない、千昭。私もう行くね。じゃっ」
手短に言って、そこから逃げ出す。
朋榎のところに駆け寄ると、彼女は驚いた顔をしていた。
「憂、あんたどうしたの?あの津田千昭と付き合うなんて」
「え、そそんなにあいつモテるの?」
「そりゃあもう。うちの学年1でしょ?たぶん」
「へ…へぇ…」
初めて知った。
そんなに有名だったのか。
振り返ってみると、女の子たちが未だ私を睨みつけていた。
「…朋榎…私、怖い。ってかすっごい不安になって来た」
「…お気の毒に」
「えっ、ちょ、朋榎!裏切るの!?」
「裏切るの前に付き合うって決断したのはあんたでしょ?」
「だって…あんなの誘導尋問だよ…」
思わず泣きそうになる。
「はいはい、話は教室で聞くから。今は泣かないの」
朋榎に促されて私たちは教室へ向かった。
32: 名前:浅葱☆07/31(土) 21:56:52
「へーそんなことが…」
「これじゃ拒否権ないよね!?」
「でもねー見ちゃった憂にも責任あるって」
「そんな…」
「とりあえず、巻き込まれたくなかったら大人しくしてることね」
朋榎の言葉を素直に受け入れ、今日は何もありませんように、と祈るばかりだった。
だが、現実はそんな上手くは行かず、昼休み、津田が私のところへやってきた。
「一緒に飯食おうぜ」
「へ…?」
「だから、一緒に飯食おうって。行くぞ」
強引に腕を引っ張られる。
向かった先はあの選択教室だった。
「…なんで此処?」
「だって此処人来ねぇもん」
お弁当を開いて2人で食べ始めた。
津田はコンビニで買ったのだろうか?
パンを食べていた。
「…ねぇ、なんで誰とでもそういうことするの?」
「そういうことって?」
「……此処でしてたこと」
「嗚呼、だって女なんてそんなもんだろ?」
「そんなもん?」
「カラダ目的ってこと。俺に近寄ってくる女たちは大抵そんな奴らばっかりだ」
「…私は、違うよ…?」
「分かってるって。だからお前に彼女役頼んだんだろ?」
「…でも私じゃなくても良かったんじゃ」
「全く…俺はお前だから頼んだんだって。何回言えば分かるの?」
「……そっか」
そこで会話が途切れた。
やっぱり知り合ったばっかりだから会話が続かない。
ってか話題がない。
33: 名前:浅葱☆07/31(土) 22:13:03
そして2人でお昼ご飯を食べ終えたとき、津田が口を開いた。
「…なぁ、」
「うん?」
「やっぱ飯食った後はさぁ、」
「…うん」
あれ?厭な予感。
「デザート食いたくなるよな」
「……」
「なぁ」
私にどうしろと!!
「何も言わないってことは、襲っていいってこと?」
「え、違…
違う、と言おうと思ったのに、口を塞がれた。
…津田の唇によって。
昨日の二の舞にならぬようにと堅く口を閉ざしていたのに、いとも容易く口を開かれた。
「ん、津田…っ」
「だから、千昭だって」
「ふ…っ」
駄目だ。
津田にキスされると何も考えられなくなる。
そう思っていたら、津田の唇が離れた。
「…今日は抵抗しないんだね」
34: 名前:浅葱☆08/02(月) 18:48:31
津田がいやらしい笑顔を浮かべ、口を拭う。
「だ、って」
「もう続きして良い?」
「え、駄目…っ」
私の止める声は津田の耳に届いていた筈。
なのに津田は何事も無かったかのように制服のボタンを外し始めた。
「ちょ、津田…っ駄目だって…」
いつの間にかボタンが全部外し終わっていて、津田の手はブラのホックまで到達していた。
器用に片手だけでホックを外す。
私の決して大きくない胸が露わになった。
「も、ホント、無理…っ」
恥ずかしさで顔を隠す。
すると津田が胸に触れた。
「…っ…」
「声、我慢しなくていいよ」
「や、無理」
「無理じゃねぇし、聞かせろよ」
そう言うと、触っていない方の胸の突起を舌で舐め始めた。
「…ん…っ」
生温かい舌の温度と感触がリアルで厭になる。
こんなことされたことないのに。
35: 名前:浅葱☆08/02(月) 19:00:46
「ねぇ、もう硬くなってるよ」
津田の声で更に顔が熱くなる。
不意に、硬くなった胸の突起を摘まれた。
「っぁ!」
何この声。
私がこんな声出してるの?
「声かわいー」
津田がそう言った瞬間、廊下から女の子たちの甲高い笑い声が聞こえてきた。
ピタ、と津田の手が止まった。
助かった…。
あのまま流されてたらどうなってたんだろう…?
「サボる?」
「え…」
「続きしよーよ」
こ、こいつわ…!
「馬鹿っ授業はちゃんと出なきゃ駄目でしょ!?」
「…変なとこ真面目なんだから」
「…なんか言った?」
「いーえ。…戻るか」
ちゅ、と唇にキスされた。
不意打ち。
「また今度続きしよーね」
そう言って選択教室を後にした。
最終更新:2011年07月03日 14:41