217: 名前:みるみる☆09/01(火) 00:47:31
気合いを入れるだけじゃ、何も起こらない。
具体的な行動を起こさなければならない。
私はお世辞にも性能が良いとは言えない脳をフルに稼働させる。
体力を使う仕事なら、多分やれる。
人が嫌がるような、臭くて汚いような仕事だってやれる。
但し、この髪。
『colored』を受け入れてくれる人が、いったいどのくらいいるのだろう。
「雇ってくれるかなぁ……」
はりきって家を出たものの、見切り発車だったようだ。
接客業は絶対に駄目だ。コートなんて着ていられないし、自分の素性がばれるに決まっている。
なるべく人目につかない職業、それでいて資格が要らないもの。
悶々と考え込んでいると、目の前をえらくレトロな自転車に乗った少年が横切った。
慌ててそれをかわすと、少年はそれを気にも留めない風で、家々の郵便受けに紙の束をつっこみながら走り去っていった。
「新聞配達!」
文句を言おうとした口が、ひらめきによって笑顔の形を作った。
そうだ、なんですぐに思いつかなかった!
224: 名前:みるみる☆09/07(月) 23:58:59
223高坂陽様 いつの間にこんな事に……。救ってくださってありがとうございます;
◆
自転車の少年を、フードが脱げないようにしっかりと握りしめて全力で追いかけた。
「待ってよー!」
少年は聞いているのかいないのか、こちらには振り返らずにペダルをこぎ続けている。
自転車の後ろに付いている籠には、まだ朝刊が2,3部入っていた。
「もー! 話、聞きなさいよ! 少年よっ、先輩を、敬えっ!」
叫ぶと息が切れる。
最後の朝刊をすとんと郵便受けに入れたところで、少年は自転車を止めた。
「何?」
無愛想な声だった。
「何よ、聞こえてたんじゃない」
ぜえぜえと息を切らしながら、必死で言葉を紡ぐ。
コートを着ているせいか、随分と体が重かった。
「仕事、探してるのよ」
「あっそ。でも新聞配達とか人手は足りてるから、要らないっす」
「いや、そこを何とか」
「嫌だ、これ以上給料減ったらどうするんだよ」
そこで少年はハンドルを切り、自転車を発進させた。
あ、と声を漏らしたが、追いかける気にはなれなかった。
そんな余力はどこにもない。
230: 名前:みるみる☆09/16(水) 23:56:26
225伊月葵様 おお、これはもしや一般の方にもコメントを下さった方では! まちがっていたらごめんなさい。
更新がなかなかできなくて困っています。
陸上をやってるので、家に帰ったら課題やってくたばるだけなんですよね←
226夜様 ありがとうございます! 名前は…ちょっと洒落た名前にしたいと思いつつ、面倒くさいのでこのままにしていますw
229犀様 漢字、これで合ってますか? 自信ないです…。
嬉しすぎでハナヂが(え
最高って、高いがMAXってことですよね←
そんな言葉は華やかすぎて貰えませんw
そうなんです、地毛は確か…
◆
「…… ああ、もう」
歩道と車道の間、ちょうど段差になっているところに、私はどすんと腰を下ろした。
衝撃が直に響いて、虚しく痛むお尻が情けない。
早朝だから車はあまり通らない。
地面がレンガ敷きなので、コートさえなければお洒落な風景になっただろう。
「どうしよう」
とうとうというか、早速行き詰まってしまった。
無意識のうちに、自分の頭は新聞配達をしようと決め込んでいたらしい。
だから、この先のことは何も考えていない。
困ったなあ。
いっそ盗みを――
否、否。そんなことは断じて許されない。
段々、自分がいつかの現代文で習った羅生門の下で雨止みを待つ下人のように思われてきた。
目線をこのあたりで一番高い建物、少し遠くにある時計台に移した。
あの上には死体がたくさん転がっていて、老婆が死人髪の毛を抜いているんだろうか。
「そりゃないわ」
だってここはこんなにお洒落で豊かで幸せな街だもの。
236: 名前:みるみる☆09/27(日) 12:25:52
◆
段々と日差しが明るくなってきて、、通りも賑やかになってきた。
世界が目覚めて、動き出すのを緑色の瞳に映して、私は何度目かの溜息をついた。
座るというのも長時間になると疲れるものだ。
もうお尻が痺れたように痛い。
「あぁ、もう!」
両手を広げ、ばたぁん、と大きな音を響かせて、自分の背中を地面に激突させてみる。
割と痛かった。
「いったー!」
通りを歩いていた何人かがこちらを見下ろしてきたが、すぐに視線を他へ移して歩いていった。
その背中を思いっきり睨み付けて、それから正面を向いた。
目の前に大きな空が広がる。
ああもう、何やってるんだろう、私。
「仕事くださぁーい!」
大声に、何人かがびくっと方を振るわせた。
構わない。
自棄になっているのが、自分でも分かる。
この苛々を、声にして吐きだしているだけだ。
「何でもしますからぁー! トイレだって掃除しますからー! おむつだって替えますからぁ!」
寝たまま叫ぶのも相当疲れる。
はぁはぁ息を切らしていると、耳元でかつんと足音が響いた。
「きみ、仕事探してるの?」
若い男の声だった。
人を雇うような年齢の声ではない。
雇えない癖に、声を掛けないでよ。
「そうですよー?」
私が腹立だしげにそう答えると、男の笑ったような呼吸音が聞こえた。
何がそんなにおかしい。
「なんですか。雇ってくれないなら、構わないでくださいよ」
「雇わないなんて言ってないじゃないか。君を雇ってあげるよ」
「え、ほんと!?」
その言葉に、私は跳ね起きた。
ああ、この言葉を待っていた!
でも、起き上がった拍子に、フードが半分、取れかかった。
前髪が露出する形になる。
「う、わ」
慌てて両手でフードを引っ張る。
体中から一斉に冷や汗が出る。
まずい。
ばれた……?
ちらりとその男の方を見ると、男はまだ笑っていた。
「うん、好都合だ」
240: 名前:みるみる☆10/02(金) 14:50:54
◆
からん、と氷が溶けてグラスが音を立てた。
その氷で少し薄くなったであろうアイスコーヒーを飲むべきか迷いながら、私を朝っぱらから喫茶店に連れてきた目の前にいる男に目をやった。
やはり茶色い瞳をした男である。
お洒落なのか何なのか、黒いハットを被っていて、部屋の中でも脱がない。
指輪のような形のピアスが左耳に付いていて、朝の光を反射している。
軽そうな男だ、と思った。
怪しむ私の視線を感じ取ったのか、男は口角を上げた。
「そんなにじろじろ見ないでくれない? 俺、そんなに怪しい奴じゃないから」
「……雇ってくれることには感謝します。でも、私未成年だし、夜のお仕事とかはちょっと……」
「きみさ、」
私の言葉を完全にスルーして、男は話す。
「『colored』だよね? さっき見ちゃった」
さっと全身に緊張が走る。
やっぱり、ばれていた。
いまにでも、ここを抜け出したい気持ちになる。
幸い、早朝の喫茶店、他に客はいない。
従業員は厨房にいるようで、今の話は聞かれていなかったようだ。
「今、逃げようとか考えてた?」
「っ……」
「大丈夫だって。俺はそんなに古い考え持ってないから、そんな酷い目に遭わせたりしないって」
ああそうだ、仕事の話になるけど、と男は指を顎に当てて話し出す。
「日給制ね。働きたくなったらここに来ればいい。俺多分ここにいるし。そんで、俺に指定されたところに派遣される。やれっていわれたことをこなす。仕事はそれだけ。OK?」
「……はい」
なんだか、随分適当な感じだった。
派遣社員、か。
さすがに安定は望めそうにもないけど。
でも、私がお金を集めて、みんなのお腹をいっぱいにするんだ。
そんな使命感に燃えた。
242: 名前:みるみる☆10/04(日) 14:18:24
241蓉子様 あげありがとうございます!
テスト期間中なのに何やってるんだろう私 ←
◆
「んじゃあ、今日は取り敢えず電車に乗ってここまで行ってくれる?」
そう言って男はポケットの中から携帯電話を取りだした。
多分この世界に来て初めて携帯電話を見ると思うが、その画面に片仮名の地名が表示されていた。
「駅はその辺にあると思うから、最初に来る電車ね。始発になると思うけど」
始発って、そんなに遅いんだろうか。
のんびりした街だこと。
終わったらここに戻ってくることを約束して、切符代と、依頼主に分かりやすいようにとペンダントを貰った。
「それ、ずっとつけておいてね。目印だから」
男がウインクしたが、それを無視するように「いってきます」と言って、結局アイスコーヒーには手をつけずに店を出た。
外はすっかり明るくなって、通りにいる人の数も増えていた。
幸いなことに、少し辺りを見渡すと駅らしい物が見えた。
人が次々と入口へ吸い込まれていく。
「よっし、頑張っちゃうもん!」
フードが脱げないように右手で押さえてから、私は駅へと走っていった。
246: 名前:みるみる☆10/18(日) 13:50:10
243夜様 張り切ってますねw 私も張り切らねば!
244棗様 ありがとうございました。本当にこれでいいのか迷っていたので助かりました!
245ruki様 ありがとうございます。すみません;時間がなくて更新停滞中です……。
◆
駅の構内は、人いきれでむっとした。
きっとこれからそれぞれの仕事場所へ向かうのだろう。
そして、私も自分の仕事のためにこの駅にいる。
ここでは誰も自分の正体に気付かない。
自分のことで精一杯、あるいは大勢の中の一人には目がいかないのだろう。
『孤独な群衆』――そんな、またも社会の授業で習った知識を引っ張り出しながら、構内の券売所で切符を買った。
どうやら通勤ラッシュのようなので、列車の発着時間など調べる必要もなさそうだった。
ただ、人の波に乗って列車に乗ればいい。
方向さえ間違えなければ、きちんと目的地に着くはずだ。
ベルが構内に鳴り響いて、黒い車体がレールを軋ませながらやってくる。
ドアが開き、列車からたくさんの人がはき出されるように出てきて、私は人に揉まれながら狭い車内へと入った。
女性客が少ないのが少しだけ不安だった。
私の後にもたくさんの人が列車に乗り込み、あっという間に私は車両の隅へ押し流された。
「っ苦し……」
ぎゅうぎゅうと押しくらまんじゅうされているように周りの客と密着して、ともすると足が浮いてしまうんじゃないかと思うほどだ。
隣の人の息が耳にかかる。
はっきり言って不快だ。
列車が重たそうな体をゆっくりと前進させ始めた。
251: 名前:みるみる☆11/26(木) 00:07:33
247奈央様 わわわ…更新遅くなって申し訳ないです(スライディング土下座
本当に放置としか思えないですよね、すみません。
最近1日を乗り切るので精一杯で、なかなか書く時間が見つかりません……。
248みお様 ありがとうございます! て言うか褒めすぎです; お待たせして申し訳ないです。これからもこんな感じの更新になると思いますが、たまに上がってるのを見つけたら生暖かいくらいの目で見守ってくだされば幸いです←日本語おかしいですね;
249夜様 本当に何回も上げてくださってるのにお待たせして申し訳ないです。情けない(号泣
時間を見つけて更新したいです!
250とーよ様 下がりまくったスレを見つけてくださって感謝感謝です!
一ヶ月も更新してませんでした……。
もう、私の馬鹿っ(びんた
◆
慣性の法則に従って、中の乗客がぐっと体を傾かせる。
「ぐえ」
車両の端にいる私は、隣の客と壁でサンドウィッチにされてしまった。
もう、隣の身長の高いこの客(多分男だろう)とは半身がぴったり密着していて、だけど逃れるスペースはなかった。
女の人だったら、こんなに嫌じゃないのに。
この男の人が悪いわけではないのに、わざとしかめっ面をした。
そんなときだった。
ちゃり、と軽く金属音がして、首にかけていたネックレスが動いた。
私が動いたからではない。
電車が揺れたわけではない。
その、まさに私に密着している男が、鎖を握っていた。
どうしたんですか、と言おうとしたが、その前に男が呟いた。
「君で、あってるよね?」
列車の走行音に紛れそうなくらい小さく、そしてじっとりとくらい響きの声だった。
253: 名前:みるみる☆12/02(水) 15:13:57
252容子様 気付いてくださってなんて……!おぅ(卒倒
あげありがとうございます!
◆
「えっ……」
嫌に煙草臭いその囁きに、私は何と言っていいかわからなかった。
もしかして、自分の雇い主だろうか。
そうだとしたら、なぜこの人も同じ列車に乗っているのだろう。自分が向かう必要なんて無いじゃないか。
私が何も応えないのを肯定の返事と受け取ったのか、男は鎖を持つ手を離した。
その手は、私の太腿へ移動した。
「な、えっ……?」
これじゃあまるで痴漢だ。
相手の顔を確認しようとするが、狭くて首さえも動かない。
「静かにしててね。金払ってるんだから、言うこと聞けるよね?」
じゃあ、よろしく。と、その男は笑った。
その手から逃れることなんて、出来そうもなかった。
ただ、体を強ばらせることが、ただ一つの防御。
冷たい指が太腿を這って、ただ、不快感に肌が粟立った。
嫌だ。
見ず知らずの男に、金を貰って公共の面前でこんなことをされている自分。
分厚いコートの中をうごめく指が、下着の上をなぞった。
「っ!」
気持ち悪い。
何か、得体の知れない生き物――ミミズのような感触。
本当は、今すぐ叫び声を上げて、この男を蹴り倒してやりたい。
それが出来ないのが、歯痒かった。状況的にも、立場的にも――
そう、ここで『仕事』をこなさなかったら、自分はそのうち飢え死にをしてしまう身なのだ。自分だけではない、3人の大切な人を巻き添えにして。
綺麗事なんて言える存在じゃない。
お前には、それがぴったりだよ。
さあ、頭を空っぽにして全てを流れに委ねればいいじゃないか。
相手が望むなら靴だって舐めてやればいい。
そしてその口で食べ物が食えるなら、それで良いじゃないか。
どこか遠くで、誰かが囁いているような気がした。
だから、私は心を、体から切り離すことにした。
255: 名前:みるみる☆01/05(火) 17:29:13
254とーよ様 更新遅くなって本当に申し訳ないです。
碧視点はなんだか書きづらいです……。あああ←
◆
それからどれくらい経っただろう。
ぷしゅう、と気の抜けた音を立てて鉄の扉が開いた。
人が雪崩れるようにして外へ吐き出されていく。
駅に着いたのだ。
ふらりとその流れを追うように扉へ向かった。
手は、それ以上追っては来なかった。
構内の喧噪も頭の中でぼんやりと響く。地に足が付いているのかさえ、はっきりとはわからない。
それでも迷わず真っ直ぐと公衆トイレへ向かった。
トイレ内に誰もいないのを確認してから、洋式トイレの個室に入った。
はっきり言って綺麗なトイレではない。
「うっ……」
私は便器に手をついて、胃の中にあるものを全て排出しようとした。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
さっきのあの手の感触がまだ体に残っている。
体をミミズが這うような、あの感触。
吐いても吐いても、出るものは胃液ばかりだった。
当たり前だ。あまり満足な食事も取っていない。
でも嘔吐きだけは止まらない。
それが苦しいのか、辛いのか、それとも哀しいのか、だとしたら何が哀しいのか、わからない。
瞳の裏が猛烈に熱くなって、それ以上何も考えることが出来なくなった。
256: 名前:みるみる☆01/13(水) 17:41:09
しばらくして、ようやくトイレから出て、私は線路沿いを歩いて戻ることにした。これならば迷うことなく元の場所につける。
私の雇い主は相変わらず喫茶店で携帯電話をいじりながら待っていた。
「よぉ、ねーちゃん。お勤めどうだった?」
私が黙っていると、「はい、給料ね」と紙幣を何枚か渡された。
男によると、このお金で切り詰めれば1週間は暮らせるらしい。
「4人なら」
「ん?」
「4人なら、何日分ですか?」
「うーん、3日くらいじゃないの、知らないけど」
耳のピアスをいじりながら、男は答えた。
軽くお礼を言って、外に出た。
頭の中はぼうっとして、何を考えているのか、何も考えていないのか、自分でもわからなかった。
でも、確かに言えることは、瞳だけは目線の先をあちこちに移動させながら――探しながら歩いていた。
そして見つけた。
この古い洋風な町並みにはおおよそ不釣り合いなコンクリートの明るい建物。
ドラッグストア。
ドラッグとは言っても名ばかりで、その商品の多くは食料品、文房具、雑貨、生活必需品が占める。
店に入り、かごを手にとって、手当たり次第栄養になりそうなものを取っていく。
パン、卵、スープの素、それから野菜まで売っているとは意外だった。
そして最後にやって来たのは、化粧品が並ぶコーナー。
一応、一応なんだよ、と自分に言い聞かせて手に取ったのは――除光液と染髪剤。
当たり前といえば当たり前だが、染髪剤といっても売り場には白髪染め用のブラウンしか置いていなかった。
構わない。
一応、だから。
257: 名前:みるみる☆01/21(木) 23:05:58
「ただいま」
昼でも薄暗い路地に、自分の声が響いた。
赤音さんの、ピンヒールなのかよく分からないデザインの靴音が近づいてきた。特徴的な音だ。それも、かなり速く、強く。
少しだけ嫌な予感がする。
「てめえ、」
ほら、的中。
赤々と燃える様な瞳がきっと自分を見つめると、身が竦みそうなくらい迫力がある。
「朝起きたらなんで居ねぇんだよ、こら。小町のやつ、『どうしましょう、家出なんかしてたら』って半泣きで、もう空気しょっぱくなるんじゃねーかって思ったんだけど」
258: 名前:みるみる☆01/23(土) 00:42:59
圧倒的なその迫力にじりじりと後ずさりしながらも、私は答える。
「置き手紙とか、するべきだったって思うよ。ごめん、でもここ、ペンとか紙とか無いじゃん」
「あたしを起こせばいーんだよ。何しに行ってた?」
「ちょっと、働きに」
表情から少し険の抜けた赤音さんに、私はドラッグストアで買った食材の入っているビニール袋を差し出した。
もちろん、除光液と染髪剤は箱から抜き出して制服のスカートにあるポケットに入れた。
ほんの少しふくらんでいるようだが、見た目に問題ないだろう。
例によって笑顔の蒼太くんが間に割って入ってきた。
「わー、偉いね碧ちゃん。赤音が食料がないって言ってたの聞いて、気を利かせたんでしょ? 優しいね。うん、これだけあれば3日は大丈夫なんじゃないかな」
最終更新:2010年05月10日 19:31