353: 名前:雷蓮☆2011/08/19(金) 13:48:03
~屋上~
バアンッ!!
「海馬先輩!!」
屋上にはフェンスの外で下を見下ろす、
海馬先輩の姿があった。
「っ……舞さん……みんな……」
「そんなことしないで、こっちに戻ってきてください」
「私は生きるなんて、もうできない……」
「そんなこと、誰が決めたんですか……?」
「あなたは恵まれていいですわね……。
私は小さいころから性格が悪くて、
みんなに嫌われてきた……。
親にも捨てられて、養子としてもらわれ
それでまた捨てられて……」
「せんぱ……」
「変に同情してもらうより、死んでって言ってくれた方がいい」
「私、そんなこと思ってないです」
「うそ……。人間、口先では何とでも言えるわ」
「先輩から何をされても、何を言われても
この気持ちは変わらないです」
「嘘って言ってるでしょ!!」
「何を根拠に言ってますか?」
「何って……」
「先輩は私の心を見すえているんですか?
エスパーなんですか?
違いますよね? もし、そうだとしたら
その答えは間違っていますよ?」
「だって、私はあなたにこんなヒドイことを……」
「そうですね。リハビリもしなきゃならないので、ヒドイです。
でも、そんなこと気にしてませんよ?
私は生きているんですから。
それに、あの場から逃げ出さないで救急車を呼んでくれた。
そのとき、私は先輩のこと
本当はすっごく優しい人なんだなーって思いました。
もし、本当に私のことが嫌いなら
車に引かれた私を助けるなんて到底できないですからね」
「っ……舞さん……」
「それに、土下座なんてめったにできないですよ」
「あなた!!起きていたの!?」
「そうですよ? 目は開けてませんが、耳だけは聞こえてます」
「っ……」
少しの沈黙が流れると同時に、ポツポツと雨が降り始める。
やがてそれは、大粒の雨へと変わり
闇夜をなお暗黙にさせる。
「先輩、やっぱり譲れません」
「えっ?」
「蓮は今まで会った異性の中で、一番の人です」
「っ……!!」
「たとえ、何を言われてもいじめられても。
蓮を好きって気持ちは変わらないです。
彼の一言で舞い上がったり、落ち込んだりするけど
それも楽しいって思えるから。
こんな幸せ、他には絶対にないと思うんです。
だから、譲れないんです。
たとえ、それが一番仲良しの鈴音だとしても」
「っ……」
「自殺なんてしたら、本当に地獄に落ちちゃいますよ!?」
「はっ……!!っ……い」
「え……」
「生きたい!!」
「っ……!」
「舞さんみたいに、素敵な人を見つけて
みんなから羨ましがられたい!!」
「なら!!なら……生きて、…生きて頑張ってください!!」
「舞……さ」
「私は先輩みたいに、鬼畜派がいても気にしません!」
「ふ…、ふふふっ……。それ、褒めてんの……?」
「ほ、ほ、褒めてます!!たぶん!!」
「ぷっ……あはははははは!
自殺なんてやーめた!!
何か、全世界の人間に羨ましがられたくなった」
「えぇ……」
「鬼畜らしく、希望はでっかく持たなきゃ」
「先輩……」
「ありがとう、舞さん。
あたし、やっぱり生きて人生楽しみたい。
舞さんみたいにいっぱい笑って、好きな人と一緒にいたい。
自殺したら、舞さんの結婚式に呼ばれなくなっちゃうし」
「そうですよー…って、えぇっ!?」
先輩はくるっと向きを変えて、
フェンスをのぼってこっち側にこようとしたとき---。
スルッ
「あっ……!!」
「海馬先輩!!」
先輩は滑って、
下へ真っ逆さまに落ちた。
「先輩!!」
「舞!!お前も行ってどうする!!」
「蓮、先輩……え……」
ヒュッ
ストン
なんと、下から颯斗くんが
海馬先輩を抱えて屋上へ飛んできた。
彼は本当に運動神経がはかりしれない。
脚力がハンパなかった。
「は、ははは、は颯斗くん!!?」
驚きと焦りを隠せないで、動揺していた。
「何だ?」
何食わぬ顔でこちらを見る。
先輩は気絶しているようだ。
「どどどどどどうやって!?」
「あぁ、地面を一蹴りしてここに来た」
「颯斗はスパイだからな。何でもアリだ」
「いわば、二次元で起こることもお手の物ってわけ」
蔵間くんが海馬先輩を颯斗くんから受け取り、
横抱きで屋上を後にする。
「これくらい、みんなもで普通にきるのだろう?」
「いや、できねーよ!!」
康介がツッコんた。
その後、看護師さんに見つかり
30分のお説教を受けました。
365: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 10:04:20
~海馬side~
~翌日~
ここ……は……?
あれ……アタシ……昨日、死んだんじゃ……。
「やっと起きたんですね」
この声……
「舞……さん……」
「同じ病室になりましたね」
彼女はそう言って、へらっと笑う。
「私……どうして生きているの……」
「颯斗くんが助けてくれたんです」
「私、あそこから落ちたのに?」
「えぇ。颯斗くんは何でもアリらしいです」
「馬鹿馬鹿しい話……」
「先輩も、自殺だなんて馬鹿馬鹿しいです」
「クスッ……確かに……」
お互いにクスクスと笑い、
病室の天井を見て息をつく。
「……舞さん、ありがとう」
私は少し微笑んで、目を閉じた。
「私、報われない自分が可愛かったの。
誰よりも不幸で、認められなくて、
孤独で可哀想な自分が……。
それが、ここまで事を大きくしてしまうなんて……。
まわりが見えていなかった。
いいえ、まわりを見ようとする心がなかった。
幼い頃、親に捨てられたときのように
あんな怖い想いをしたくはなかったから……」
私は両腕を自分の顔の前でクロスさせ、
彼女に泣いていることを気づかれないようにした。
涙が抑えきれないほど、溢れてくる。
「そんな私に手を差し伸べてくれたのは、
舞さん……あなたよ……。
あなたが、暗闇の中で震えていた私を……
温かい希望の光の中へ連れ戻してくれた……。
本当に……ありがとう……」
声が震えて、これ以上話すことはできなかった。
彼女は私の方を向かず、
天井を向いたまま---
「先輩は怖かっただけなんです。
現実と向き合えば、何か失うことをすでに知っていたから……。
失えば、悲しみが大きいことも……。
だから先輩は私に言いましたよね?
口先では何とでも言えるって……。
私も確かにそうだと思います。
でも、言葉にしなきゃ伝わらないんです。
口では嘘も言えるし、真実も言える。
けど、口がなかったら本音も相手に自分の名前を知ってもらうことも
できないんです」
その言葉に、私の心のどこかで
何かが壊れる音がした。
それはきっと、私のねじ曲がったプライが壊れた音ド。
そして心の奥で新たなものが生まれた気がした。
それはきっと、新しい自分の清らかな心。
「先輩の流した涙は、今までの中で一番綺麗な涙ですよ」
私はこの瞬間から、生まれ変わる。
さっきまでの自分にサヨナラするために。
サヨウナラ、今までの弱虫なアタシ。
コンニチワ、これからの新しいアタシ。
366: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 12:11:26
~舞side(普通視点)~
あれから一ヶ月……。
すっかり元気を取り戻して、無事に退院することができた。
海馬先輩は私より早く、退院してすでに学園へ行っている。
ちょくちょくお見舞いに来てくれたから、全然寂しくなかった。
みんなしょっちゅう来てくれたし。
……ある人を除いては……。
「よぉ。退院だって?」
もう荷物をまとめてある病室に、ひょこっと顔をだす彼---。
「蓮……」
「お前が学校来ねぇから、康介がうるせーんだ」
「蓮だって、充分うるさいでしょ?」
「あいつと一緒にすんな。ほら、行くぞ」
「……いい」
「はぁ? お前、まだ入院してんのかよ?」
「蓮とは一緒に行かない」
ちょっと意地悪しようと、ヘソを曲げる。
だって、お見舞いに1度しか来てくれなかったんだもん!
そりゃ、用事があるから来れないんだろうけど……。
蓮は寂しくないのかなって一人で不安になって、
自分だけ一方的だったのかなとか思って……。だから、お返ししてやるの。
「蔵間くんの方がいい」
「っ……。お前、今何て……」
「私一人、ばかみたいじゃん……」
思いっきりの意地悪で、蓮を困らせようとする。
病室のベットに座っている私は、そっぽを向いて黙った。
さすがにここまで言ったら、謝ってくれるだろうと思った。ところが---。
ガタッ
「え……」
私の真っ正面に椅子を置いて、座る彼。
何がしたいのかよく分からない。
すると、いきなり蓮が自分の膝で私の膝を挟(はさ)み、逃げられないように力を入れる。
そして蓮がアクセでしていたネクタイを、
私の両手に結んで自由に動かせないようにする。
「ちょっ、蓮!?」
「……」
「蓮ってば!!これ、外して……」
「無理」
「なっ……」
「お前、俺の彼女だろ」
「えっ? そ、そうだけど……」
「なら、俺以外の男の名前なんて出すな」
「どーして?」
「どーしても」
「蓮には関係ないでしょ」
「関係あるんだよ!!」
まっすぐな瞳でみつめてくる蓮……。油断すれば吸い込まれそう。
「どうして?」
「っ……」
「蓮……?」
「っ……」
「言ってくれなきゃ分かんない」
「そんくらい気づけ!!鈍感女!!!」
突然の怒声に、肩が跳ねる。
いきなり怒られたから、さすがの私もムカッときて意地でも言わせてやろうと思った。
「何で……怒るの……」
私は頑張って涙腺をうまくコントロールし、涙を流す。
「あ、おい……」
さすがの蓮も、私が泣いて困っている。もう少し……。
「うっうぅー……」
「っわーたよ!!言うから、泣くな!!」
「ほんと……?」
「お前が俺以外の男見てたり、話してたりすると
ムカッときて嫌な気分になる。
お前を俺の部屋に閉じ込めたくなっちまうんだよ。
それが怖ぇから警告してんだよ、バカ!!」
蓮は耳まで真っ赤にして、私から目をそらした。今回は私の勝ち。
「それってヤキモチ?」
「っ!!!」
私が聞いた瞬間、もっと赤くなる彼。
以前、蔵間くんに教えてもらったからこれがヤキモチだってことは分かった。
「そ、そーだよ!!かっこ悪くて悪かったな!!」
あまのじゃくの蓮が何だか可愛くって、
お見舞いにあんまり来なかったことも全部許してしまう。
私は自分で、結ばれたネクタイから両手を外し蓮を思いっきり優しく抱きしめた。
「かっこ悪くないよ? すっごく嬉しい」
「っ……!!」
「蓮がお見舞い来なくて、寂しかったから意地悪しちゃった。ごめんね?」
彼を抱きしめているから顔はよく見えないが、まだ耳は真っ赤になっている。
「……男だから、色々大変なんだよ」
「何が?」
「お前はまだ知らなくていい」
「そう?」
ガチャッ
「あー!!蓮が抜け駆けー!!」
左端君が病室に入ってきた。
「おまっ、下で待ってろっつたろ!」
「舞ぽんにやらしーことするって分かってたもんねー!!」
左端くんは私をお姫様だっこして、さっそうと逃げ出す。
「あ!!てめぇ!!」
「蓮は荷物係~!!」
「おい!!舞に触ってんじゃねぇ!!」
この後、左端くんが蓮にお仕置きされたことは言うまでもない。
それと、なぜか私も罰として一週間と離れちゃダメという
命令をくだされました。
370: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 13:21:23
~番外編「もう二度と戻らない時間」~
「こんのぉぉぉぉぉー!!」
騒がしい教室で俺は一人、読書に専念する。
それは他の人たちにとって難しいことだとよく言うが、俺は違う。
どんな場所にいたっても冷静でいられる。
つまり、どんなに騒がしいところだろうと苛立つことはない。
「こおおおおおすけええええええーーっ!!」
ガッシャーン
バリバリバリバリバリ……
パリーンッ!
「ぎいいいいやあああああああーーー……」
……。
「ちょっとちょっと!!蓮!!」
「うるせぇ蒼太!!」
…………。
「へへっざまーみろ、蓮!!」
「てめぇ!!康介ーっ!!」
………………ブチッ!
ズドォォォォォンッ!!
「ちょーっと、静かにしてもらえない?」
「「はい……」」
俺はこんなやんちゃな二人を仕付けする。毎日こんな感じ。
「蔵間くん、おはよう」
「あ、おはよう舞ちゃん」
「ごめんね、なんかまた迷惑かけたみたいで」
「全然大丈夫だよ~。舞ちゃんのためなら!」
あと、舞ちゃんを見守ったり。たまに危ないことするしね。
舞ちゃんの言動と行動にしょっちゅう驚く。
男相手だって本当に分かっているのか、
この俺でも驚いてしまうほど。
天然で鈍感で可愛い舞ちゃんだから、かなりモテる。
蓮もそれには困りきってるけど。
371: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 14:19:44
「おい、蔵間!!」
「……君は?」
赤い髪の毛にロングヘアー。腰まで髪が長い。
「アタシは波野目 しずほ(なみのめ しずほ)。聞き覚え、あるでしょ?」
「あぁ、もちろんさ」
今のは俺じゃない。康介だ。
「お前じゃない!!邪魔だ、羽柴康介!!」
ドカッ
「うごぉっ」
彼女のみぞおちが見事、康介に大ダメージを与えた。
「俺は君と話したことはないよね?」
「あぁ。何か不満か?」
「いいや。女の子に声をかけられるのは嬉しいけど……」
「私じゃ女の子に見えないってか?」
「そういうことじゃなくて」
「じゃあ何なんだ?」
「スカートのファスナー、開いてるよ?」
「っ……!!」
バチンッ!
「いってぇ……」
「変態野郎!!」
初めて女の子に叩かれた……。
ま、本当は痛くないんだけど。
大抵こういうときって、ありがとうとか言わないかな?
「大丈夫、蔵間くん?」
舞ちゃんが優しく俺の頬を触る。
あぁ……なんて可愛いんだろう……。
あ、蓮がすっごい剣幕でこっち見てる。
これはヤバいな。
「全然大丈夫だよ~。心配してくれてありがとうね」
「本当? なら、よかった~」
だって、ああでも言わなきゃ殺されちゃうよ……。
372: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 15:54:15
俺はいつも帰りは寄り道をする。
俺とアイツしか知らない……いや、俺とアイツだけが知っていた場所。
商店街を抜けて外れにある小さな森。
細道を抜けると大木がある。そこを左に曲がってまっすぐ進む。
黄色い家の屋根が見えたら右に曲がって、行き止まりになったら二歩下がって左に進む。
そうすれば森を抜けて、海を一面見渡せる崖の上の花畑につく。
「また……きちゃったよ……」
俺とアイツはここで毎日語り合った。
友達の愚痴とか、噂話とか、お互いのこととか……。
「もう3年もたつのか……」
海風が髪をなびかせる。
あの日の思い出を思い起こさせるように、花の香りが胸の奥を突く。
ガサッ
ふいに後ろから音がした。
ここには俺しか来ていないハズなのに……。
そうか……。俺はいつもここに来ると、背後の警戒が緩くなるんだった……。
ただただ、この場所を求めて……行けばまた、アイツが待っていてくれるようで……。
俺はゆっくりと振り返った。
「……しずほ、ちゃん?」
「うぁ……」
「どうして俺の後をついてきたの?」
「え……と」
「言わないと、ストーカーになるよ?」
「ま、待て!!そんなつもりは……」
「なら、どういうつもりで来たの?
まさか、プライベートを探ってるんじゃないよね?」
「ち、違っ……」
「……俺は女の子相手なら、
何でもいい顔するわけじゃないよ」
「その、すまなかった……。お前をたまたま見つけてつい、ここまで……」
「……ま、いいや。次はないから、気をつけてね」
「あ……」
「まだ何かあるの?」
「……その……ごめん」
「……しずほちゃん、女の子らしくね」
「なっ……!!」
「ははっ……。また明日ね」
「あ、あぁ……」
俺はしずほちゃんを見送ってから、静かにため息をついた。
誰もいないことを確認し、ひっそりと言う。
「……もう戻らないのに、何やってんだよ……俺」
373: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 16:12:20
~次の日~
俺は今日も変わらない毎日を送る。
いつものようにペースを崩さずに……。
「あ、舞ちゃんおはよ」
「あぁ、そうだよ。男が恋愛小説って笑えるよね」
「ううん。私はそんなことないと思う。
蔵間くんにしては珍しいねーって……」
「あぁ、そうかもしれないね。でも、これ悲恋だから」
「ハッピーエンドじゃないってこと?」
「そうだよ。俺、そういうのばっかだから」
「そうなの? あ、これオススメだよ!」
サッ
「ひまわり畑と金平糖……?」
「うん!これ、悲恋なんだけど感動するお話!」
悲恋なのに感動なんて、するのだろうか?
「読んでみてね~!」
「う、うん……」
「おい、蔵間!!まだそんなもん読んでたのか?」
「え……あぁ、ま、まぁ」
「……いいかげん、目を覚ませ」
「っ……分かってる……」
「……? 蔵間くん……?」
あれから3年たった今……。
俺はまだ引きずっている。
アイツとの思い出、笑顔、声、姿、触れた体温、感触……。
すべてこの手に、目に、頭に残っている……。
そう、俺の元カノ……。
374: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 18:44:15
~しずほside~
なんか、さっきの雰囲気……いつもの蔵間違かった……。
私はさきほどの蔵間の様子を、ばっちり見ていた。
あっ!それより、みーこに頼まれてたこと!!
みーことは、私の親友の近藤みいこ。通称みーこ。
彼女に蔵間のことを色々探るように頼まれた。
探るっていうか、気になる人がいるかを聞き出すって言うか……。
でも、さすがにさっきの後じゃ、聞けないよね……。
「はぁー……」
「しずほっち、悩み事?」
「へ? あ、ううん!まったく、これっぽちも~」
隣の舞ちゃんが優しく声をかけてくれる。
375: 名前:雷蓮☆2011/08/29(月) 18:47:56
「そう? 困ったことあったら、何でも言ってね」
「うん!ありがとう」
なんて優しい子……。
この学園1、モテるだけあるなぁ~。
あ……。そういえば、舞ちゃんって蔵間と仲いいよね!
でも、舞ちゃんに下手に聞いても怪しまれるよね……。
私はうーんと唸り声をあげながら、悩んでいた。
378: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 19:20:59
~お昼~
「しず、蔵間くんに聞けた?」
話しかけてきたのは、みーこだった。
「ううん、ごめん……」
「あ、謝んないでよ!しず、悪くないし!ごめんね、ありがとう」
「うん……」
みーこは蔵間のことが好きだ。
もちろん、恋愛の方向で。
私はまだ、恋とかしたことないから分かんない。
けど、いつかそんな人ができたらいいなーとは思う。
……女たらしの蔵間のどこがいいんだか。
私は一人、心の中でつぶやいた。
「俺って、そんな風に見えるの?」
「ぎゃっ!?」
いきなり私の顔を覗き込んできた蔵間。
しかも、私の心の中の言葉を読まれた。
「ちっ、近い!!」
ドンッ
「おっ……と」
「何でアタシの心の中が読めんだよ!!」
「顔に書いてある。それに、そっちからアツイ視線送ってきたんじゃん?」
「なっ、おまっ……!!」
だんだん顔が熱くなっていくのが手に取って分かる。
「あれ? もしかして、こういうこと言われると恥ずか……」
「いっぺん死ね!!」
私は暴言を吐いて、みーこの元へ駆け寄って行った。
「……意外とシャイなんだな」
380: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 19:33:36
~体育の授業中~
ダメだ……。
さっきのことが頭から離れん……。
「しずー!しずってばー!」
それに、顔近くてびっくりしたよー……。
「サーブ、しずだよー!?」
あぁーもう!!なんか顔、あっついんだけど!!
そりゃ夏だから、気温のせいかもしれないけど……。
だけど……。なんか、近くで見たら格好良かったんですケド……。
「しずーーーっ!」
「はっ!」
「もぉー!しずって何回も呼んだのにー」
「ご、ごめんねー!えっと、サーブは……」
「しずだよーっ」
「あ、あはは~!ごめんねー」
ダメだ!集中しないと!!
「何キンチョーしてんの?」
「だって、さっきく……え?」
「ん?」
「……」
これはおかしいと思う。
なぜなら、今日は男女合同ではない。
だから、蔵間なんてここには存在しないハズなんだが……。
「こんにちわわ~」
いるんですけどーーーーーっ!!
「こんにちわわ~じゃねーよ!!何とぼけたフリしてこっち来てんだバカ!!」
「バカはないんじゃない? だってさっきアツイ視線送られて……」
「いいから、早くあっち行け!!この変態!!」
「えー」
「えーじゃねぇ!!さっさと動け!!」
まさか、こんなタイミングでこいつに会うとは……。
さすがのアタシも、疲れてくる……。
「じゃ、気を取り直してしずのサーブからいこうか!」
蔵間はアタシの隣で構えのポーズ。
「気を取り直すな!!てか、しずゆーな!!いつからお友達になったんだよ!」
382: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 19:46:36
そんなこんなで騒がしい授業も終わり……。
私は更衣室で着替え中……。
~更衣室~
「仲良かったね」
「……え」
「アタシのためでしょ?」
みーこが制服に着替えながら言う。
「あ、うん!もっちろん……」
ズキンッ
あれ……?なんか、胸がイタイ……。
「しずもいい人、見つかるといいね!」
「あー……うん」
383: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 19:49:42
「でも、あんま蔵間くんと仲良くしなくてもいいよ? ああいうタイプ苦手でしょ?」
「あ、そ、そうだね……」
「それじゃ、先に教室行ってるね」
タタタッ
なんか心臓がイタイ……。……病気なのかな?
私はこの胸の痛みの意味をまだ知らなかった……。
384: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 20:04:32
~教室~
「でね~……」
教室に入ると、みーこが不良の蓮と話している。
珍しい光景なので、つい写メりたくなる。
「それで、好きな飲み物とかは?」
「レモンジュース好きだぜ、アイツ」
「本当!? それ、信じらんない!超かわいすぐる!!」
「あ、舞来た!んじゃな、じゃじゃ馬娘」
みーこのことを、じゃじゃ馬娘と呼ぶ蓮。
なんつーあだ名つけてんだ。
「おう!」
それに突っ込まないみーこも悪いが……。
「あ、そうそう!そこのヤンキー」
「なっ……!?」
お前にだけは言われたくねぇ!!
本当は言いたいけど、殺されそうだから黙っとく。
でも、左手の拳はしっかりつくってある。
こいつが不良じゃなかったら、一発お見舞いしてやるとこだ。
「蔵間はブラックコーヒーが好きだ」
私のそばで誰にも聞こえないくらいの音量で囁いた。
「え……」
「舞から言われてんだ。お前に協力するようにってな」
「なん……」
「俺はそれ以外の奴には、真実を言わない。レモンジュースはデマだ」
「えぇっ!?」
「ちゃんと伝えたからな。俺、じゃじゃ馬娘嫌いなんだよ……。じゃーな」
「ちょっ」
「どうかしたの、蓮」
「おっと!」
着替えが終わった蔵間が教室に入ってきた。
「いや、ちょっと雑談」
「絶対に嘘でしょ」
「お前……いいかげん人を信用することを覚えろよ」
「じゃあ、いいかげん人を騙すのはやめてください」
「うっ……」
「ほらほら、喧嘩しなーい!次、移動だよ!」
舞ちゃんが二人の間に入る。
「次言ったら殺す!!」
「殺したら、おいしいご飯食べれないよ?」
「俺、殺すなんて言ってねーよ!もー、おっちょこちょいだな~」
「そ? じゃ幻聴かな?」
すばらしいコントを交わして、教室から出て行く3人。
舞ちゃんのまとめ具合には、圧巻してしまう。
「舞ちゃんって……実はすごいの?」
あ、移動の準備しなきゃ!
私も3人の後を急いで追った。
最終更新:2012年08月13日 01:31