385: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 20:35:11
~放課後~
私は日直の仕事を済ませ、変える準備をしていた。
「迷惑だった……?」
ふと前の方から女の子の声。
「舞ちゃん?」
「さっき、余計なことしちゃったかなって思って……」
「ううん、全然」
むしろ、嬉しかったし……。
自分でも何か分かんないけど……。
「私が見てる限り、しずほちゃん、恋してると思って」
「コイ?」
このアタシがコイ?
「あ、これ秘密。みーこには内緒ね」
「え……」
「みーこより、しずほの方が似合ってるって思ってね。んじゃ、また明日」
タタタッ……
それって……アタシが蔵間に恋してるってコト!?
「そうそう、そうだよー」
「うにゃっ!?」
突然、背後から聞き覚えのあるボイス。
胸がキュンと苦しくなる。
「なーに、その不審者扱い……」
「べ、別に……」
「ヤンキーのくせに、シャイなんだね」
「シャっ……!?」
「あ、この後暇?」
「は?」
「いいから、つきあってよ」
「何言って……」
「はい、しゅっぱーつ!」
「は!? おいっ、ちょっ……!!」
言われるがままに手を引っ張られる私。
無抵抗な自分に、少し違和感を覚えた。
386: 名前:雷蓮☆2011/08/30(火) 21:44:46
~カフエ~
「……ちょっと」
「ん~?」
ここは港にあるカフエ。
人が少なくて、落ち着いて休むことができる。
ってチガウ!!そーじゃない!!
「何でここにいるの!?」
ガタッ
いきなり大声で立ったアタシにちょっと驚く蔵間。
「まぁまぁ、座って~」
昨日と全然態度がチガウじゃん。
ついてったらめっちゃ怒ったクセに……。
「気分屋」
「俺はそんくらいで怒んないよ~?」
ハハハッっと笑い、コーヒーを飲む。
蓮の言ったとおり、ブラックだ。
「しずちゃんがまた、ついてくるかなって思って」
「誰がしずちゃんじゃ。いっぺん地獄にご案内してやろうか?」
「それは楽しそうだね~」
えへへっとなぜか頬を染める彼。
まったく……。調子、狂いっぱなしだってば……。
てか、こんなとこみーこに見られたら……
「もうあんたのコト、ストーカーしないから。それじゃ」
ガタッ
私は危機感を感じたため、即座にその場から去ろうとした。
……が、
ガシッ
「っ……!?」
「食い逃げ厳禁~」
「は……?」
「俺の話、まだ途中なんだけど?」
いや、全部聞いてくとか言ってないからねーっ!!
「アタシ、用事あるんで帰ります」
「俺より大事な用事?」
「そうじゃない。ただ帰りたいか……あ」
「俺のコト、そんなに嫌いなんだ」
なえかウルウルな瞳になる彼。
まさかとは思うが……アタシが泣かせてしまった?
「い、いや!!別にそんなことはないぞ!!じょ、冗談に決まっている!」
「……本当?」
「あぁ!もちろんだ!」
何言ってんだよーーっ!!
自分で言っといてなんだけど、アタシバカなんじゃね!?
「んじゃ、今日から1習間俺の奴隷!」
「……すいません。何かすっごい幻聴聞こえたんでもう一回……」
「今日から俺の彼女!」
「いや、何か悪化してるんですけど!!?」
「ハハッ!ナイスリアクション!採用!」
「あ、ありがとうございますー。一生懸命勤めま……ってチガーウ!!」
こうして私はきょうから1週間、蔵間の奴隷(パシリ)になった。
「あ、変なコトしないから大丈夫!しずちゃんには期待しないようにしてるから」
「あーそうかい。つれない女で悪かったな、クソガキ」
「しずちゃんって言ってるとこ、ツッコまないんだ?」
「あ」
389: 名前:雷蓮☆2011/09/01(木) 18:11:55
~3日後~
土日の休日をはさみ、
またの学校日和がやってくる。
何よりも憂鬱だ---。
なぜなら、アタシが蔵間の奴隷になったこと知られたら
絶交の危機におちいる可能性が
大になるからである。
でも……なんか最近、そういう関係に疲れてきた。
正直、アタシって男気が強いから
女子との意見とはまったく違かったりする。
ようするに、アタシがあっさりしているから
ねちねち付き合いの女子とは気が合わないということ。
それに最近のみーこの態度、冷たいし……。
きっと仲良いから嫉妬してるんだろう。
けど、アタシは嬉しくもなんともない。
蔵間への気持ちが変わってきていることに気づいたから……。
だって、会うたびに胸がキュンってなって
他の女の子と話してたりすると苦しくなっちゃう。
「これが……恋って病気……?」
そっと胸に手を当ててみる。
どんどん心臓が加速していくのが、すぐ分かった。
「心臓痛いの?」
「ぎゃっ!?」
「おはよ~」
教室にいつの間にか来ていた蔵間。
男の子の香水の匂いがする。
「お、おは、よ……」
「ん? 元気ないじゃん」
「い、いやー……」
ぎこちない私の態度に、彼はんー?っと首をかしげる。
ちょ、かわいいじゃんか!ばかやろー!
「あ!!」
「えっ!?」
「アロエじゅーす、買ってきて!」
「あ、あろえ?」
「奴隷でしょ? はい、買ってきて~」
「な、自費で買えっての!?」
「うん。何か問題でも?」
「すっごいある。とにかく、無理だか……」
「昨日、泣かせたのは誰……?」
「うっ……」
「しずちゃん、Bダーッシュ!!」
「チクショーーー!!」
こうして、私の奴隷生活24時(仮)は始まった。
391: 名前:雷蓮☆2011/09/01(木) 18:23:11
~蔵間side~
あれっ? こんな朝早くに教室に誰かいる!
蓮とは今日、別々で来たから今はいないはず。
舞ちゃんは蓮と一緒だし。
鈴音と康介はラブラブだから、遅くくるだろうし。
……とするとー……もしやしずちゃん?
ガラッ
「おは……」
俺が教室にあいさつをしかけたとき、
しずちゃんが自分の胸に手を当てて、
何やら苦しい表情を浮かべていた。
一体どうしたというのだろう……。
「これが……恋って病気……?」
ドクンッ
えっ……。
今、しずちゃん……何て言った……?
これ以上のことを聞きたいと思う自分がいたけど、
その気持ちを何とか押し殺して、俺は声をかけた。
「心臓、痛いの?」
「ぎゃっ!?」
思ったより、いい反応。
これだから、しずちゃんいじりは楽しい。
素直に俺のお願い聞いて、アロエじゅーすを買ってきてくれるとことか!
……そういえば、さっき後に誰かいた気配がしたよーな……。
……気のせい……かな?
393: 名前:雷蓮☆2011/09/01(木) 20:10:48
~しずほside~
タタタッ
くっそぉー!!
アタシをいいようにパシリ扱いしやがってー!!
ドンッ
「わっ、ごめんなさ……」
「はろろ~ん」
「げっ」
運悪くぶつかった相手は、宮前左端。
一応、男。
「その反応はないでしょ、しずぽん!」
「うるせぇ。しずぽんゆーな」
「しずぽっぽー!」
「ふざけてると受け取っていいんだな?」
「えへへ~っ。あ、どっか行くの?」
「え、あぁ……まぁ」
「なになに~? 運命の告白~?」
「宮前左端を半殺しにしても、罪にはならねぇよな……?」
「ちょっ、怖いよ~!殺られる前に逃げよっ」
タタタッ
チッ……。道草くっちまったじゃねぇか。
おかげで、嫌なことが終わらねぇ。
「相変わらず、口のききかたが悪いな」
「うわっ!?」
ろうかの天井からぬるっと出てきた黒鉄颯斗。
「おっと、驚かせてしまったようだな。すまない」
「すまないじゃねぇよ!おまっ、どんだけ運動神経いいんだよ!」
「何をそんなに羨ましがっているのだ!そんな褒めてもおごらないわよっ!」
「一言も褒めたつもりないんですけど!? 大丈夫!?
アタシの言ったこと聞こえてました!?
てか、何でお母さん口調になってんだよ!!」
「あらまぁ、宮前さんじゃないのお~」
「あらま、颯斗さん!?」
「何でお前はこっちに戻ってきてんだよ!!」
颯斗にツッコミを入れている途中、
左端がまたこちらに戻ってきた。
もう疲れてきたんですけど……。
なかなか、自動販売機にたどり着けない昼下がり---。
396: 名前:雷蓮☆2011/09/02(金) 21:47:11
~教室~
コンッ
「いてっ」
「買ってきたぞ、この野郎」
「この野郎って……」
疲れ果てて、不機嫌なアタシ。
「何か問題でも?」
「本当は朝に頼んだのに、
お昼になってから買いにいくから
猛スピードで行って当たり前だろ。
それに、寝たふりするからさー」
「だからって、アタシが実はストーカーとかいう変な噂たてんのヤメロ」
「えーっ」
「えーじゃない。もう、お前といると疲れる」
「どこに行くの?」
「疲れたから寝る。また明日ー」
スタスタ…
「……保健室?」
アタシは変な気持ちを引きずって、
常連の保健室へと向かった。
397: 名前:雷蓮☆2011/09/02(金) 22:01:41
~保健室~
「それじゃあ、そこのベットで休んでなさい」
「はい」
シャッ
保健室の女の先生は、
いつもアタシをベットに寝かせてくれる。
なんか常連で、いつもここにくるときは
大抵嫌なことがあったときか悩んでいるとき。
それを察しているのか、先生はあっさりと承諾する。
「……恋なんて……できないって思ってたのに」
ぽつり、口から零れたその言葉には少しの切なさも入り交じっていた。
「女はいずれ、自分の過ちに気づく。たとえどんな形であろうとも」
先生が記録のファイルを見返しながら言う。
「アイツのこと、嫌いだった」
ベットの上で、体育座りをして窓の外を見る。
「でも……最近、
アイツへの気持ちが変わってきた。
アイツとまだ一緒の時間を過ごしたいとか、
もっとアイツの事を知りたいって思う」
独り言のはずが、声がだんだん大きくなっていく。
398: 名前:雷蓮☆2011/09/03(土) 07:29:58
「しずほちゃんも恋するのね」
先生が面白いものでも見るような目でアタシを見る。
「別に……アタシは」
「も~、しずちゃんはツンデレなんだから~」
「しずちゃんゆーな!!お休み!!」
ボフッ
お決まりの捨て台詞を吐いて、アタシは布団をかぶった。
恋……か。
きっとそうなんだろうな……。
アタシもいつの間にか、蔵間に恋しちゃってんだ。
いや、自分では薄々気づいてた。
なのに、気づこうとしなかっただけなのかもしれない。
「あら、みいこさんじゃない」
「すいません、ベット空いてますか? 腹痛がヒドくて……」
え……。みーこ!?
「えぇ、空いてるわよ。どーぞ」
「ありがとうございます」
どうしよう……今朝のこととか見られてたからヤバいよね……。
シャッ
……
…………
運良く、みーこは私の二つ隣で寝た。
ふぅー……。
やっと一安心したところだった。
「協力してくれるんじゃなかったの?」
ドキンッ!
大きく心臓が跳ねる。
じわじわと迫る恐怖を感じていた。
「知ってる? 嘘つきは泥棒の始まり」
ドクンッ!!
「しずほは嘘つきなのかな……?」
「やめて……」
やめてよ……。
「それとも……」
お願い、やめて……。
「泥棒かなぁ?」
「やめてよ!!」
シャッ
「しずほさん、人の傷を悪化させるなら教室に戻りなさい」
「っ……」
「ここは保健室よ。場をわきまえなさい」
「すいません」
シャッ
アタシは布団の中でうずくまり、
早くみーこが出ていくのをただただ待っていた。
401: 名前:雷蓮☆2011/09/03(土) 10:26:18
~放課後~
「しずちゃん、下校時刻過ぎてるけど?」
「……」
「彼女なら、もう帰ったわ」
「……」
「なんかいじめられてたみたいだけど?」
「そんなんじゃないです」
「早く解決した方がいいんじゃない?」
「どうやって解決しろってんですか……。もう後戻りなんてできないのに」
「あら、恋のライバルだったの!?」
「……そーですよ」
「あらまぁ!あ、そうそう!さっき男の子があなたのカバン、持ってきてくれたわよ?」
「えっ……」
「たしかあなたの同じクラスの蔵間くん!あの子、イケメンよねぇ」
「っ……」
ダッ
「あ、ちょっと、しずちゃん!?」
アタシは蔵間に会いたくて、飛び出した。
どうしてもあの顔がみたくて、朝早くきて……。
いつも目をとじればアイツが浮かんで‥…。
アタシはアイツがいそうなところを全部探したが、見つからなかった。
来た形跡もない。
……仕方ない、帰ろう。
下駄箱へ向かったその時だった。
「奴隷のくせに、待たせるって何様?」
「っ!!」
この声……!!
「しずちゃん、おかえりー」
「くら、ま……?」
会いたかった人にようやく会えた。
もう一度だけでいいから、あの顔が見たかった。
「ん? どうした?」
その誰にでも優しい言葉と、笑顔と、声……。
包み込んでくれるような眼差し‥…。
すべて、抱きしめたくなった……。
414: 名前:雷蓮☆2011/09/17(土) 10:22:30
「ん? どうした?」
「か、カバン……あり、がと」
少し照れくさくなって、
素直にありがとうと言えない。
「ん? あぁ、お礼はアメちゃんでいいよ」
アメちゃん……?
私が ? を頭に浮かべていると、
彼は呆れたように
「飴のことだよ」と教えてくれた。
妙に可愛げがある蔵間に、私は少し嫉妬した。
「何か元気ないね?」
ドキッ
「そんなこと、ないって」
ハハッと微笑して、下駄箱から自分の靴をとる。
「ふーん。めずらしいね、笑うなんて」
「え……」
「いっつも仏頂面なのに、こういうときだけ笑うんだ?」
な、何が言いたいのよ……。
「それとも、こういうときだけごまかしてんの?」
何……言ってんの……。
「しずちゃんってさ、八方美人?」
「やめてよ!!」
「っ……!」
蔵間がハッとした顔で私を見た。
「あ……ごめん。取り乱したかも」
何、謝ってんの?
「あんたはいいよね。誰にでも優しくできて、人気でさ」
心の中で思ってもない言葉が、嫌味となって口から零れる。
「おまけに顔も完璧じゃん。よかったね、生まれてきて」
違う。こんなことが言いたいんじゃない。
「こういうときだけ笑う? じゃあ、いつ笑えばいいんだよ」
黙れ、私の口。お願いだから、これ以上言うな。
「八方美人? あぁ、そうかもしれないな。
アタシなんて、人の気色うかがってばっかりの弱虫女だよ」
自分で自分を傷つけた。
残ったものは、涙と切なさと虚しさと……。
「しず……ちゃん?」
聞きたくない愛しい人の声。
「アタシがあんたに近づいたのは、みーこのため。
別にあんたに好意があったんじゃない。
プライベートに首突っ込んだのも、アタシの思いじゃない。
最初から、あんたにはうんざりしてたんだよね。
だから、もう奴隷とかやめてくんない?」
どうして、こんなにヒドい言葉しか出てこないんだろう。
本当は別れたくないのに。お願い、もう何も言わないで。
私に突き刺さった刃は、深い傷を残して床に落ちた。
「……じゃあさ、しずちゃんは俺が嫌だったから笑わなかったの?」
私は自分の口を制御しきれず、話すのを許してしまった。
「そうだよ? おかげで疲れちゃった。いいかげん、やめてよ」
蔵間はきっと傷ついた。なんてこと、してくれたんだ。
「そ……か。無理させて、ごめん……」
こんなこと聞きたかったんじゃない。
アタシが望んだ結末は、こんなんじゃないでしょ?
後悔はいつも、私をどん底へ突き落とす。
そして、その場から消えたくなる。
「っ……もう、しゃべりたくないんだよ、ばか」
ダッ……
結局結末は、アタシの一人の暴走で終わった。
415: 名前:雷蓮☆2011/09/17(土) 10:27:15
~蔵間side~
「っ……もう、しゃべりたくないんだよ、ばか」
なぜかその言葉が、俺の心に刺激を与えた。
アイツはなんで、悲しそうな顔をした?
俺はどうして、追いかけないんだ?
いつもの俺なら、女の子を傷つけないで終わらせるのに。
どうして、俺の心はこんなにも痛くなるんだ?
一人、床に転がったアイツの靴を見つめていた。
最終更新:2012年08月13日 01:32