※短編だらけ※

2: 名前:時雨☆10/03(土) 04:50:23
※BL
【猫は飼い主に恋をした】




 突然だが、僕は飼われている。
 正しくはお腹が空き過ぎて倒れてた所をご主人様に拾われたのだ。それでもまぁ、飼われてる事には変わりない。
 家はペット禁止のマンションだけど僕なら平気だ。
 種類は“人間”ですけどなにか?
 ちゃんと首輪だって着けて貰ってる。


「ただいまー」


 ガチャ、てドアの開く音がしてすぐにご主人様の声がする。
 僕は急いで玄関に向かった。


「おかえりなさい!」


 大きな声で出迎えれば仕事終わりのご主人様が僕の頭を撫でてくれる。気持ち良くてご主人様の手に擦り寄ればクスリ、と小さく笑われた。
 僕がもしも猫だったなら喉を鳴らしてるに違いない。


「ご飯、出来てますよ」
「あぁ。ありがとな」
「はいっ」


 上着を脱ぎながら廊下を歩くご主人様の後をくっついて歩いて、ご主人様の背中を眺めて息を吐く。
 ペットって立場が嫌なんじゃない。実際ペットだから側に置いて貰えてる。
 でも、それじゃあ我が儘な僕には足りない。頭を撫でて貰うだけじゃ足りない。
 ご主人様のキスが、身体が、心が、全部が欲しい。


「にゃあー」


 “好き”って言葉の代わりに鳴く。
 振り返ったご主人様が苦笑した。


「なんだよそれ」


 苦笑したご主人様に僕も苦笑する。

 ほんと、なにやってるんだろ……


「あんまり可愛い事すると食事の前にお前を食べちまうぞ?」


 悪戯っぽく整った唇を歪めたご主人様に僕は驚いた。


「ぜ、ぜひ! 食べて下さいにゃ!」




 猫は飼い主に恋をした。




 結果、美味しく頂かれた。




3: 名前:時雨☆10/03(土) 04:57:45
【洗脳、じゃなくて。催眠の方です。】




 俺は目がおかしくなったのだろうか。
 今、俺は学生時代の男の友人二人と俺の計三人で飲食店に来ている。
 友人二人は所謂恋人同士って奴で。俺は別に偏見とかそういうのが無いから良いんだけど(というより俺自身、今の連れが男だったりする)さすがにこれは無いだろう。
 此所が個室だから良いものの、此見よがしにぴったりくっついて腕を組んでるってさ。


「何。こいつそんなキャラだっけ?」


 一度目を擦ってから改めて確認するけどもちろん状況は変わらない。
 俺の知ってるこの二人はこんなベタベタしてなかった筈だ。
 所謂タチの方が触れようとしようもんならすぐさまネコの右ストレートが飛んで、それでもなんだかんだでバカップルみたいな感じだった気がする。


「えぇ。彼はいつもこんな風です」
「いやいやいや。目が笑ってねぇから。なんだよ、やっぱなんかしたのか? 洗脳?」


 だって有り得ねぇだろ。
 あんだけ人前でイチャつくの嫌がってたのに俺の目の前で堂々とこんな……さ。


「ねぇ……キス、して?」


 アホかっ! 俺が居るのになんて事言ってんだ!
 何年もつるんでた俺でさえ聞いた事のない甘ったるい声でのおねだり。
 ねだられた方も満更でも無い様子で微笑んで、俺が居るのにも関わらず軽く触れるだけのキスをかましやがった。


「マジで洗脳かよ。キャラおかしいって」


 洗脳なんて非現実的だけど、こいつならなんかそういう黒魔術とかそんなん出来そうだ。
 なんたってこいつは学生時代、悪魔の部とまで呼ばれた“裏”科学部の部長兼魔王だった男なんだから。


「洗脳、じゃなくて。催眠の方です」


 その時俺はこいつの笑顔に悪魔を見た。




 とりあえず
 今すぐこの場から逃げたいです。


6: 名前:時雨☆10/03(土) 07:35:02
【眠りたいのならひつじを数えようか】





「眠れない」


 深夜。遅い眠りにつこうかとベッドに入ると、ベッドの隣りに入ったそいつがベッドに入って僅か3秒でそう言った。
 の○太くんじゃないが、疲れていて今にも意識を手放さんばかりだった俺は「羊数えとけ」とそれだけ言ってそいつに背を向けた。


「羊がいっぴき。羊がにひき。羊が……」


 うんうん。珍しく素直に俺の言う通りにしてるな。
 背後から聞こえる声を聞きながら俺も眠りにつこうと瞼を下ろす。


「ひつじがじゅうごひき、しつじがじゅうろっぴき……」


 うん? 今執事って言ったか?
 いや言い間違えただけだ。ひつじとしつじって似てるし。なんて、しなくて良いのに自分に言い訳しながら眠ろうとする。


「格好良い執事さんがじゅうはちにん。へへっ。眼鏡執事さんがじゅうきゅうに」
「待てコラッ! 執事じゃなくて“羊”を数えろよ!」


 なんだ、格好良い執事さんて! 眼鏡執事ってまんまお前の趣味じゃねぇかよ!


「自分で言って「へへっ」とか笑うな! 気持ち悪い!」
「別に良いじゃん! この間執事喫茶行ったばっかりなんだもん! 萌えたんだい!」
「とにかく羊を数えろ!」
「いーやーだー! つまんないもん」


 さっきまで疲れて眠ろうとしてた事も忘れて叫ぶ。
 このままじゃ寝ようと思っても眠れやしない。後ろが気になって気になってしょうがない。
 つか俺に黙って執事喫茶なんかに行ったのか!? お前男なのに!?


「「お帰りなさいませご主人様」ってね、つい涎という名の聖水が出ちゃったよ」


 そう言ったそいつの緩んだ表情に俺は久し振りにドン引きした。


 なんで俺はこんな奴と付き合ってんだ。




 逝ってらっしゃいませご主人様。
 そのまま甦ってくんなッ。



7: 名前:時雨☆10/03(土) 10:24:39
【オープン過ぎてウザイ】




 ウザイ。
 なにがウザイかって? そりゃ、オレの後ろに居る奴の視線だよ。
 突然ウチにやってきたかと思えばゲームをするオレの背後から痛い程の視線を寄越してくる。
 しかも耳を澄ませてみればなんかブツブツ言ってるし。


「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ--」
「キモいんだよテメーッ!」

 ブツブツ言ってたまさかのそれに、思わず飛び蹴り。オレの足がそいつの顔面にクリーンヒットする。


「げふぅっ!」


 普段以上の奇声を発して倒れたそいつの顔を足蹴にして、ぎゅうぎゅう踏み付けてやる。


「痛たたたっ! 愛が、愛が痛いですよ!」
「黙れこの変態!」


 一々癇に障るこいつの言動。
 こんな状況だからなのかいつにも増して苛ついて、オレは踏み付けるそれに更に体重をかけた。


「痛ぁっ! なんでですか!? なんで俺の愛を分かってくれないんですか!?」


 ってか、そんな歪みっ放しの愛なんて要らない! 人に顔を踏まれながら愛を語るとかそれはもう愛じゃない!

「分りたくないわ!」
「そ、それならもっと分りやすく愛を伝えますから! ねっ?」
「なにが「ねっ?」だ、ボケーッ! お前の場合はオブラートに包みやがれ!」




「大好きだーーっ!」
「人の話を聞けーーッ」




 ちょっと本気で泣きたくなりました。


8: 名前:時雨☆10/03(土) 15:47:52
【たくさん可愛がってあげる】




「あっ…… や、ぁん」


 自分の頭上から聞こえる甘い喘ぎ。暗い部屋でも浮かび上がる程に色の白い肌には斑に俺の付けた情痕が淫らに散ってる。


「胸、ばっかりしないで……」
「でも好きだろ?」


 言いながら刺激を求めて尖る胸の突起に吸い付けばそいつはまた、甘く声をあげて身体を震わせた。
 その中心も身体が震えたのに合わせて揺れて、先端は快感によって溢れ出た蜜でしとどに濡れている。
 焦らせば焦らすほどその後に乱れてくれる姿を思い起こせば、もう少しこの状態を楽しんでいたい。


「あぁん……も、イかせて、ぇ……」


 そんな懇願にも俺は耳を貸す気はない。


 まだまだ時間はたっぷりあるんだし。




 狂うくらい、
 たくさん可愛がってあげる。


11: 名前:時雨☆10/03(土) 18:48:22
【キスってお腹が減ったらするらしい】




「ん、んー……!」


 小鳥のさえずりで目を覚ます休日ほど、良いものはない。


「あ。やっと起きたぁ」
「あぁ、おはよ。早いな」


 それに加えて可愛くて愛しい年下の恋人が笑顔で隣りに居るんだ。言う事はない。


「おはよう。ねぇ、お腹すいたぁ」


 ただ、敢えて言うなら色気が欲しいな。
 ただでさえ久し振りの休日に、いくら恋人の為だとはいえ寝起き数分で台所に立つのは辛い。
 どうやって時間を稼ごうかと鈍い脳内で思案しながら、俺は隣りに寝そべるそいつを自分の方へと抱き寄せた。
 そして、ほんとに触れるだけのキス。


「!? んっ……」
「……知ってるか? キスってのは腹が減った時にするんだぞ」
「そうなの!?」


 あぁ、もちろん嘘だ。
 俺を慕ってくれる純粋なこいつを騙すのは少々、いやかなり心が痛むが仕方ない。
 無言の謝罪を込めながら再度唇同士を重ねる。


「ん、ふぁ……っ」
「…… どうだ? 少しは腹膨れたか?」
「う、ん……多分……」


 本当はそんな事ある筈がないんだが、人間の思い込みってのは凄いんだ。
 頬を染めながら恥ずかしそうに頷いた様子も可愛くてしょうがない。
 これぞプラシーボ効果! プラシーボ効果万歳!


「さて、飯作るか」
「ううん! いらない!」
「え?」


 時間稼ぎももう十分だし、そろそろ俺の腹も限界だ、ってんで、ベッドから降りようとしたら袖を引っ張られて阻止された。
 振り返ってみれば、どこか熱を含んだ大きな瞳に見つめられて。


「…… ね、もっとキスしよ? お腹一杯になるまで、さ」


 プラシーボ効果万歳っ!


 そうして俺は違う意味で腹が一杯になる訳なんだが、後で嘘がバレて一週間エッチ禁止されるのはこの時まだ知らない。




 俺にとって君からのキスは
 高級フルコース並みの御馳走。


12: 名前:時雨☆10/03(土) 20:16:34
【冷たい視線】



 部屋に二人の男が居た。
 一人はフローリングの床に四つん這いに這い蹲り、その首には真っ赤な大型犬用の首輪が嵌められてそこからは薄暗い部屋の中銀色に底光りする鎖が伸びていた。
 床に這う男の首から伸びる鎖が重い金属の擦れる音を立てる。鎖の端を手にしていたもう一人のノンフレームの眼鏡をかけた男は、床に這うそれを無感情な瞳で見下ろしながら神経質そうに眼鏡のブリッジを左手の中指であげた。


「つまらん。もっと俺を楽しませろ」
「ひぐっ、っあ゙……ぅぅっ」


 不意に鎖を強い力が引かれ、赤い首輪が映える男の色白の顔が苦痛に歪む。低く呻いて自分の首を締め上げる首輪に、首輪を掻き毟る勢いで爪を立てた。
 首を圧迫され酸素が十分に回らないのか徐々に男の瞳が濁り始める。
 しかし鎖を引く力は弱まるどころか更に強められた。


「苦しいか? うん?」


 もちろん返事など端から期待などしていない。ただ、ひゅーひゅーと喉を鳴らし、苦痛に顔を歪める様はどうしようもなく眼鏡の男の嗜虐心を煽った。
 眼鏡の奥の目がどこか愉快そうにスッ、と細められたが、すぐにそれも消える。
 ふと、鎖を引く男の手から力が抜けた。


「ゲホッ! ゴホッ、カハッ……!」


 呼吸を奪われる程の圧迫感から漸く解放された男が一気に肺を満たしていった酸素に盛大に噎せる。
 しかも、未だ呼吸が定まらない状態の男を眼鏡の硝子越しに見下していた男が、自分の足元で咳き込んでいる男の手を革靴で踏み付けた。


「休むな。お前は俺を楽しませる為の道具だろう?」


 踏み躙られる男の手は勿論、プライドまでもがギリギリと音をたてた。肉体的な痛みと、人としての尊厳を文字通り土足で踏み躙られるという精神的な痛みに男は悔しさで歯を食いしばる。


「そうだ。簡単に堕ちて貰っては面白くないからな。精々、俺を退屈させるなよ?」


 嗤笑にも似たそれを口元に象りながらも男の目は硝子の奥でこれまで以上に冷たい色を宿していた。


「お前は、俺に買われたんだからな」




 買われた玩具に
 拒否権なんてある筈がない。


15: 名前:時雨☆10/03(土) 22:35:07
【好きな様に動いてごらん(騎乗位)】




 性行為に必ずと言って良い程“慣らし”というものは必要だ。
 それは男同士のものになると尚の事で、自発的に濡れる事のない男にとってそれが無いという事は想像を絶する程の痛みを伴う。
 とまぁ、そんな常識は置いときまして。


「今日は貴方の好きなようにさせてあげますね」
「っ……ふ、ぇ?」


 負担が少しでも減らせる様にと丹念に彼の内壁を潤滑油等を使用して慣らし、私は彼のすぐ横に仰向けに寝転がった。
 案の定、彼は私の様子に良く判っていない表情。


「上に、乗って下さい」


 私の言いたい事を理解したのか、小さく頷いた彼が寝転ぶ私の身体を跨ぐ。
 先程の前戯も含めた慣らしに呼吸を僅かに乱した彼が既に準備万端の私自身の上に腰を下ろした。ゆっくりと私のそれが彼の内部に包まれてゆく。
 熱い息を吐きながら私のを受け入れ、ぎりぎりまで広がる彼の秘部と私の腹に滴を零す彼自身が私の位置からは良く見えた。


「ふぁ……熱い……っ」
「んっ。貴方の中の方が熱いですよ」


 私の猛りが完全に彼の中に埋め込まれ、彼が緩く腰を揺らして私のを中と馴染ませようとする。
 深い所まで私のものを銜え込み腰を揺らす彼を不意に突き上げれば良い声が部屋に響く。


「んぁあっ!」
「ほら、好きな様に動いてごらん?」


 私の言葉に素直に従う彼は私の腹に両手をついて欲望のまま厭らしく腰を揺らし始める。それを眺めながら私はこの上ない征服感に浸るのだ。


 夜はまだまだこれからです。




 さあ、私の掌の上で踊り狂いなさい。


16: 名前:時雨☆10/04(日) 01:24:5
【嘘吐きな貴方】




『悪い。明日早いんだ』


 そう言って彼はこの部屋を後にした。

 彼は大手企業の重役で、いつも忙しそうにいている。だから今回と同じ理由でこの部屋を早めに後にするのは良くある事。

『そっか。頑張ってね』

 そして僕はいつもと同じ台詞で彼を見送った。
 彼が居なくなった途端この部屋は異様なまでに静かになる。


 僕は知っている
 貴方がこれから行く所を。


 僕は知っている
 貴方がこれから会う人を。


 僕は知っている




『…… 続いてのニュースです。……昨夜八時頃、××県△△市の住宅で会社員の男性二人が何者かに殺害されているのが見つかりました。その内の一人、大手企業に勤める○○さんの首から上が切断され、○○さんへ余程の怨恨を持つ者の犯行として人間関係を詳しく調査する上で、○○さんの頭部の行方を警視庁が捜索して--』


 ブチッ。




 嘘吐きな貴方が、


 僕の元に帰ってくるという事を。




 おかえりなさい--


17: 名前:時雨☆10/04(日) 16:39:30
【これで、どこにも行けない】




 今度という今度は僕もさすがに堪忍袋の緒が切れた。


「ちょっ、なんだよこれ!」


 今、僕の目の前には寝ていたところに僕によって両手首を縛られた彼。僕が縛り終えたのと同時に漸く自分の違和感に気付いて意識を覚醒させたらしい。
 自分の腹に跨がってる僕を見てから、一纏めに縛られた自分の両手首に目を丸くさせた。


「なに、って縛ったんだけど?」
「だからなんで縛るんだよ!」


 なに。今更そんな事聞く訳?
 僕は本当におつむの弱い彼に隠しもせずに溜め息を吐いた。
 そんな僕に彼が眉を寄せたけど知らない振りだ。


「幾ら待っても君が手を出してこないからでしょ。このヘタレ!」
「ヘタ……っ! くそっ、言い返せないっ」


 本当はヘタレを否定されたらチキンだとかもっと色々言ってやるつもりだったんだけど……


「自分で言っちゃう訳? 馬鹿じゃない?」


 まさか自分で認めるなんてね……
 なんかもう逆に可哀相になってきた気がする。
 こうなるんだったら、もっと早くに自分から行動を起こすべきだったと心の中で一人反省会をしてから僕は取り敢えず彼の身に着けてるものを脱がせる事にした。


「あ。先に縛っちゃったから脱がせられないや。……別に良いよね?」
「あぁ、うん。そうだな……って、んな訳ないだろ!? 解けよ!」
「嫌に決まってるでしょ。それに、逃げられたらそれこそ僕、やだし」


 とにかく上は仕方ないから下半身だけひん剥く。
 そこは、ぎゃーぎゃー自分の意見が通らなくて癇癪を起した子供みたいに喚いてた割にはしっかり反応してて、僕はほくそ笑んだ。


「なーんだ。ヘタレな上にMだったんだ」
「違っ……!」
「跨がれて縛られて、それでココこんな風にさせちゃったんでしょ? 被虐趣味?」


 僕が小さく笑ったら彼は顔を林檎みたいに真っ赤にさせて俯いちゃった。
 そんな姿も僕のただでさえ溜まってた熱を煽るだけ。
 手は使えないし、彼が僕を傷付けるなんて有り得ない。僕が跨がってるから本格的に彼が僕から逃げる事は不可能だ。


「僕が色んな事、してあげる」




 心配しないで?
 気持ち良い事するだけだよ。


18: 名前:時雨☆10/04(日) 19:51:38
【タオル一枚の向こう】




 俺は今、猛烈にチラリズムの良さを実感しているっ!
 それはというと、俺の思い人である人が腰にタオル一枚という格好で目の前に居るからだ!
 超インドア派なお陰で日に全くといって良い程焼けていない肌。
 細身だけど決してガリガリではなく、程よく筋肉の付いたしなやかな身体。
 今はタオルのせいで隠れてはいるけど、いつかは俺を受け入れて悦んでくれるであろう場所は、そこ“だけ”が見えていないという所で俺の豊か過ぎる妄想…… いや、想像力を高ぶらせた。


「おい。気持ち悪い」
「え!? どこか気分が悪いんですか!?」


 大変だ! 具合が悪いって早く寝た方が良いんじゃないか!? もしもの事があったら大変だ!


「あぁ、悪い。お前のせいでな」
「えぇっ!? 俺ですか!?」


 半ば吐き捨てるように言われて驚いたらまさかの蹴りが飛んできた。


「ぐへっ!」
「他になにがあるんだよ、え゙ぇ?」


 ソファーに倒れ込んだ俺の顔を容赦無く踏み付けられる。
 下から見上げれば、かなりご立腹の様子が見て取れた。


「あ。今ちょっと見えた」
「見るな変態!」


 いけない。つい心の声が。
 でも見えそうで見えないのならコッチの方が良いかもしれない。


「あの、もうちょっと上の方を踏んで貰って良いですか?」


 そしたら見えそうなんだよな。
 辛い状況での僅かな至福。堪らない。


「あイタァっ!」
「マジで一回逝って来い!」
「え。そんな大胆な!」
「頬を染めるなっ。ムカつくだろ!」

 なんでだろうか。大人しく踏まれていたのに、余計に怒らせてしまったみたいだ。 それにどうやら勘違いしてしまったみたいだぞ?

 それにしてもチラリズム、奥が深い。


「あっ。この角度、維持して下さい!」
「黙れッ! そして逝けぇッ!」


 痛い。痛いけど、イイッ!



 俺もチラリズム、挑戦してみようかな。


21: 名前:時雨☆10/05(月) 19:44:55
【理想はあと5cm】





「あぁーっ! もうっ!」
「祐依。落ち着け」


 教室で俺の前の席に座る上代 祐依が何の前触れもなく叫んだのに、心の中で苦笑しつつ、声をかける。
 俺を振り返ってきた祐依は半ば不貞腐れながら見つめてきた。


「どうした?」
「間宮はいくつだったの、身長」


 祐依の最大のコンプレックスは背が低い事だ。可愛い見た目とは裏腹に中身は誰よりも男前な祐依には、背の高さはかなり重要な事らしい。
 今回学校で行われた身体測定の事も一週間も前から気にしていた程だ。


「……173cm だけど? 祐依は?」
「…………163cm……」


 10cmの差は祐依にとってかなり大きな差なんだろう。
 祐依の声が小さくなる。


「そうか。あと5cm……」


 俺は祐依の言葉に、無意識の内に俺のトレードマークでもある眼鏡のブリッジを指で上げながら呟いていた。


「なにが5cmなんだ?」


 聞かれてから自分が口に出していた事に気付く。
 普段ならばこんな初歩的なミスはしない筈なんだが、今回は失言だった。


「いや……」
「なんだよ。間宮、オレにも言えない事なのか?」


 祐依が顔を近付けてくる。
 男しか居ないこの学校のアイドルとも言える祐依が俺を選んでくれたのはつい数週間前の話。
 付き合いたての頃こそ周りからも色々な顰蹙を買ったが今ではそれも落ち着いて。
 もう次の段階へ進んでも良いのではないかと思う訳だ。


「--……だ」
「え? 間宮。もう一回」
「だから、キスがしやすい位置なんだ」
「っ!? ばかっ! なに言ってんだよ!」


 祐依が顔を真っ赤にさせながら席から立ち上がって叫ぶ。
 その声の大きさに教室に居た他の生徒達の視線が一瞬にして集まったが、今の祐依にはそれを気にする余裕すらないらしい。
 因みに、このクラスの生徒達は全員俺達の関係を知っている。
 ふと思い立ち、俺も椅子を引き立ち上がれば祐依が10cmの差がある俺を見上げて来て、その瞳がいつの間にか潤んでいた事に気付く。


「ま……」
「尚貴だ、祐依」
「っ……な、尚貴……、っん!?」


 これもずっと気になっていた、名字ではなく名前で呼ばせる事。
 俺の満足のいく答えが返ってきたのと同時に机を挟みながら祐依の唇をも奪ってやった。クラス中の視線が集まる中で。


 10cmじゃ、足りないんだ……。


 余程驚いたのか、固まってしまった祐依の耳元で祐依にしか聞こえない程度の大きさの声で俺はそう、囁いた。




 成長期をナメるなよ。
 理想なんかで終わらせるつもりはない。


24: 名前:時雨☆10/05(月) 20:56:05
【再生不可能】




「んっ……」


 埃臭い。なんだかじめじめしてる。

 此所は一体……?


「っ、痛……」


 周りを確認しようと頭を動かしたら頭に走った鈍い痛み。反射的に頭を押さえようとして違和感に気付いた。


 腕に感覚がない。


「え、?」


 ウ デ ガ ナ イ ?


 右腕の二の腕の途中辺りから下。その先がない。左も同じ。二の腕からその先が。


「…… あ゙、あ゙あ゙あぁあ゙あぁっっ!」


 俺の絶叫が狭い部屋に反響する。
 気付くまでは何とも無かったのに、気付いた途端焼け付くような痛みが全身を襲った。額には脂汗が滲んで呼吸が浅くなる。


「痛ッ、あ゙っ、な、んで……? っあ゙」



 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い


 身体中が熱くて堪らない。熱でも出したみたいに熱くて、痛くて。頭がクラクラして気持ちが悪い。吐き気もする。口を押さえようとしても腕が無いんじゃ押さえられない。


「ど、して。誰が、こんな……、ッ!?」


 アレ、オレノアシハ?


 ア シ ハ ド コ ?


「ゔげえ゙ぇぇ゙ッ!」


 胃液が逆流する。身体を痙攣させながら胃の中の物を自分の、四肢の無くなった身体と床にブチまける。臭いが酷い。酸っぱい臭いが辺り一面に充満。その臭いでまた胃の中を空っぽにしていく。


「げえ゙っ、あ゙がっ゙……かはっ」



 クスクス。ふふっ。あはは。


「……?」

 漸く嘔吐が治まってきた所で微かな人の笑い声みたいなものを耳が拾った。
 顔を上げれば部屋が薄暗いせいでハッキリとは分からないけど確かに人影が。


「ひぐぅ……た、助けて……ッ」
「助ける?」
「たすけ、っ、お願い、助けて……」


 その人影にみっともなく縋る。助けを請う。
 でもその人影は俺の姿に、懇願にクスクスと笑い声をたてるだけ。


「汚いなぁ。それじゃ、色男も台無しだ」


 そいつは笑いながら言う。俺はその声に聞き覚えはなくて。漸く暗闇に慣れた目でそいつの姿を確認するけどやっぱり俺の知らない奴。


「あーあ。吐いちゃった上に失禁まで」


 言われて気付く。股間が冷たい。カッ、と頬に熱が。

 痛い。苦しい。恥ずかしい。

 もういやだ。死にたい。

 ふと、今の自分の姿を思い出した。
 なんでこいつはこんなにも“普通”なんだ?
今の俺の姿を見て笑っていられるんだ?


「お、お前が俺をこんな風に……?」
「うん? あぁ、そうだよ。貴方、大きいからここまで運ぶの大変だったなぁ」


 その言葉に一気に頭に血が上った。身体の痛みも忘れて叫ぶ。


「なんでだよ!? 俺がお前に何したっていうんだ!? これは犯罪だぞ!?」


 こんな罵声を浴びせて、今度は何されるかなんて分からないけど叫ばずにはいられなかった。自分がなんでこんな目に遭わされなきゃいけないのか分からない。


「ふふっ。こんな姿になったら誰も貴方を愛してくれないね」


 まるで俺の声なんか聞いてない風にそいつが笑う。ゆっくりと俺の方に近付いてきて、俺のすぐ目の前にしゃがんだ。
 そいつの冷たい手に頬を撫でられる。ゾクリと背中が粟立つ。得体の恐怖に襲われて身体が震えて、声にならない声が喉から発せられた。歯がガチガチと音をたてる。


「あっ……あ、ぁ……っ」
「どうしたの? これからは僕が貴方のお世話をしてあげるからね」


 狂ってる。こいつ、狂ってやがる。


「いや、っ、嫌だ! 出せっ、ここから出してくれ! 俺は家に帰る!」
「家なんて無いよ?」


 …………え?


「貴方の住んでた家、僕が燃やしたから。今日からは此所が貴方の家」
「う、嘘……だろ……っ?」
「ご飯もお風呂もトイレも。下のお世話だって全部僕がやってあげるからね」


 思考が上手く纏まらない。余りのショックに、普通だったら有り得ない非現実的な事に脳味噌がマヒしちまった。

 身体も動かせない。頭もまともに働かない。人形みたいにされるがまま、そいつに抱き締められる。


「貴方には僕が居ないとダメなんだから」


「ずーっと、一緒だよ」




 俺は思考する事を放棄した。


29: 名前:時雨☆10/05(月) 22:26:52
【君に好かれるためのあれこれ】




 好きな奴のためなら出来る限りの事をしてやりたいと思うのは当然の事だと思う。
 付き合ってたりすればもちろんだが、自分の片思いなら尚更。相手に自分の事も好きになって欲しくて、好きになって貰うためにあれこれ試行錯誤するんだ。




「--で。こうなるんだよ」
「あぁっ! なるほど!」


 なんて、現実はそう甘くない。
 何かしてやりたいと思った所で相手より色々とデキの悪い自分じゃ意味がない。
 事実、俺、檻影 翼(オリカゲ ツバサ)は今現在進行形で片思い中の桐谷 皐(キリタニ サツキ)に勉強を教えて貰ってる。


「やっぱ桐谷に教えて貰って正解だな。すっげー解りやすい」
「そんな事ないよ。檻影くんが飲み込みが早いから」


 そう照れながら謙遜する桐谷は惚れた欲目を引いても最高に可愛い。
 自分だって予習とか勉強しなくちゃいけない筈なのに俺の勉強を見てくれて、しかも教え方だってすごい丁寧だ。


「いつもごめんな。桐谷だって自分の事やんなきゃいけないのにさ」
「そ、そんな事ないよ! 僕が好きでやってるんだし!」


 慌てた様な桐谷は嘘を言ってるようには見えなかったけど、やっぱりなんだか申し訳なくなった。
 俺だって桐谷にやってやれる事があれば良いのに、なんて今の俺じゃ無茶な事を思う。


「僕、檻影くんに出来る限りの事はしてあげたいんだ」
「え?」
「檻影くん、僕と違って運動はなんでも出来るし友達も多いし……」


 そこまで言って桐谷が僅かに俯いて、チラッと見えた頬がうっすらと染まってたのに俺は変に期待してしまう。
 まさか。いやでも有り得ないって。桐谷も俺の事……


「僕が檻影くんに出来る事なんて、こうして勉強みてあげる事だけだもん……」


 最後はどこか寂しそうに声も小さくなっていった桐谷に俺は思わず叫んでた。


「そんな事ねぇって! 俺、桐谷にはかなり世話になってるぞ!」


 俺が教科書忘れた時に隣りで見せてくれたり、宿題忘れた時なんかには綺麗な文字が並んだノートを見せてくれて、先生に指されて黒板の問題が解けなかった時にこっそり紙に答えを書いて教えてくれたのは全部桐谷だ。
 俺は何度も桐谷に助けて貰ってる。


「だって、それは檻影くんに好かれたかったから……」
「……へ?」


 不意を突かれてつい間抜けた声が出た。小さな声で、多少聞き取りにくかったけど確かに今、桐谷は“俺に好かれたかった”って言った。
 俺は自分の耳を疑ったけど、さっきより更に顔を赤く染めてる桐谷の姿に、自分の聞き間違いじゃなかった事を確信。


「お、俺、桐谷の事好きだ!」
「ほんと……?」


 不安そうに聞いてくる桐谷に可愛いなんて思いつつ、首がもげるんじゃってくらい激しく上下に振った。


「僕も、檻影くんの事……すき」


 そう言った桐谷が俺の大好きな笑顔を見せた。
 俺、今すっげー幸せだ。




 君に好かれるためにあれこれする筈が。




 どうやらこっちが
 あれこれした君を好いちゃったらしい。


35: 名前:時雨☆10/06(火) 00:45:38
【その優しさを罪とも知らずに】




 あの人は誰にでも優しい。

 そう、“誰にでも”だ。


 だから勘違いしちゃいけない。
 オレに向けられるその笑顔も。オレの名前を呼ぶ弾んだ声も。


 全てが全てあの人の優しさなんだ。


 あの人はオレのモノじゃない。誰のモノでもない。



 貴方の優しさが痛い。
 貴方の優しさに腹が立つ。
 貴方の優しさに惑わされる。



 優しさなんて要らない。
 だから、オレに貴方の愛を下さい。




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最終更新:2010年05月15日 23:43
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