445: 名前:雷蓮☆2011/09/24(土) 18:42:29
~左端side~
「うあーあ。やーっとくっついたかー!」
俺は思いっきり背伸びをして、一息ついた。
それを横目で見る颯斗。
「な~に? 何かご不満?」
「……いや、珍しいと思ってな」
「何がだよ?」
「そんなに清々しい顔、するのかと思っただけだ」
「あれっ? いつもこういうカッコイイ顔じゃなかった?」
「……表情が明るい」
「そーかー。そりゃ、やりがいがあるな」
「……どうかしたのか?」
「いや……。なーんか、俺も恋がしたくなったな!」
「ほーお。見物だな。また、生きる糧が見つかった」
「えっ? そんなことが颯斗っちの生きる糧になるの!?」
「面白いことがあれば、笑っていられるなら糧になる」
「……まずは俺より、颯斗っちの恋が実った方がいいよ」
「何を言っている。俺に焦がれる人などいない」
「だーかーらー!そういう考えがダメなんだってば!」
「なっ……!? お、俺には恋は必要ない!!」
「いーや、必要あるね!だって、ウブすぎるもん!何もかも!」
「俺はそんなピュアではない!」
「嘘つけ!お前今年、赤ちゃんはコウノトリで運ばれてくるのを嘘だって知っ
て落ち込んでたクセに!」
「あ、あれはっ、そのっ」
そう、颯斗っちは完全なるピュアボーイ。
日本のスパイのクセに、ピュア。
人殺しをやったことがない、とは言えないが
こいつはドピュアボーイなのだ。
「と、ところでだ。俺たちの仕事は、これで終わりか?」
「うん、終わりだよー。あとのことは、舞ちゃんたちの仕事~」
「そうか。では、
帰るとしようか」
「あ!そういばさー?」
「ん? どうした」
「何で颯斗っちはさ、この仕事を引き受けたの?」
俺はなんとなく気になった疑問をぶつけてみた。
「気になるのか?」
「うん!」
「そうだな……。面白そう、というのが正解だろう」
「面白そう?」
「ああ。ま、気まぐれだ」
「ふーん?」
「……何だ?」
「たまに颯斗っちって分かんない」
「俺がか?」
「うん。何考えてるの、いつも」
「そうだな……。仕事だ」
「え!普段でも仕事のこと考えてんの!?」
「何か不満でもあるのか?」
「仕事とプライベートは分けるタイプじゃないの!?」
「……? 何の話だ? 俺は常に、平常心でありたいが故、仕事のことを考え
ているが?」
「あー!!もういい!!颯斗っち堅い!!あっち行け!!」
「なっ!?」
また一日、こうして思い出がつくられていく。
俺らは本来、“気持ち”を持ってはいけないと教えられてきた。
けれど、それは仕事のときの話。
プライベートでは、こうして思いっきり笑える。
俺と颯斗は昔、プライベートでも笑えなかった。
それを変えてくれたのが、蓮と蔵間。
あの3人がいてくれなかったら、
俺は笑顔を忘れていた。
今回の仕事は、俺と颯斗、引き受けた理由は同じ。
蔵間と蓮に恩返しするため。
決して恩を返せるとは思ってはいないが、
ほんの感謝の気持ち。
446: 名前:雷蓮☆2011/09/24(土) 19:36:14
~しずほside~
それから、数日後---。
蔵間とアタシは、晴れてカレカノとなった。
「蓮、お弁当食べよー!」
「あぁ。蔵間、お前も来るだろ?」
「あぁ、行くよ。しずちゃんも一緒でいいかな?」
「しずちゃんも!?全然いいよ!」
舞がアタシの手を引っ張る。
「わっ、ちょっ、舞!?」
「屋上でいつも食べてるんだよ!しずちゃんも一緒なら、ご飯もっとおいしくなるね!」
「なっ……!」
舞はなんてことなく、恥ずかしい台詞をサラリと言う。
なんて末恐ろしい子……。
アタシの顔がみるみる赤くなっていく。
「おい、舞。俺の連れが妬くからやめとけ」
グイッ
そう言って、舞の引き寄せる蓮。
舞はすっぽり蓮の腕の中。
なんて可愛い絵……。
「別に妬かないよ? 蓮じゃあるまいし」
「うるせーんだよ、動くあまのじゃく」
「お互いさまじゃないかな?」
蔵間の笑顔を近くで見れる。
アタシの毎日の楽しみで、失いたくない宝物。
ねぇ、蔵間。あなたに出会えて、本当によかった---。
455: 名前:雷蓮☆2011/09/25(日) 15:55:16
~舞side~
「どおおおおおりゃあああー!」
朝8時11分。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ズドォォォォンッ!!
青々と晴れ渡る空。
「んまだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
小鳥が歌を歌う、
バキボキバキッ!!
清々しい朝は---
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……悲鳴に変わった。
康介は---
「あーあ。だから言ったのに」
「うるせーやい。俺はチャレンジャーなんだよ」
蓮に勝負を挑んで完敗。
対する蓮は---
「あーあ。ガキの相手すんのも、楽じゃねーな」
ものすごい余裕をかましていた。
「康介はガキなんだ?」
蔵間くんが微笑ましいくらい、爽快な顔で言う。
「こいつ以外に誰がいんだよ」
蓮は康介に向かってほくそ笑んだ。
「てめーらぁっ!!」
ブチ切れた康介の声は、廊下まで響いた。
「もー、静かにしてよ康介ー」
「えっ、俺っ!?」
私の我慢は限界に達していた。
「そーだよ!昨日も先輩に怒られたばっかでしょ?」
そう、康介の大声のせいで、他学年からの苦情がよくくる。
「危ない人に目をつけられたらどーすんの?」
「いや、もうつけられてるな」
「どーいうことだよ、蓮」
「そーいうことだよ、脳なし」
「う、うるせーな!!」
蓮はケッと呆れ顔で言い、手元の雑誌に目をおとした。
「蓮のけちんぼ」
「うるせー、ガキ」
「ガキじゃねえもん、大人だもん」
「世も末だな」
「海に沈めてやろうかぁ? あ"ぁん?」
「上等だ、コラァ!!表出ろやぁ!!」
「はいはい、そこまでー。うるさいからね、二人共」
蔵間くんは私と同じで、いつもケンカの仲裁役。
ほっとけば、えらい騒ぎになりかねない。
血圧の高い人たちだから。
「それより、康介。目をつけられてるっていうのは本当だよ」
「はぁ?」
「……」
蓮は蔵間くんの言葉に少し反応したけど、
すぐ雑誌に目を戻した。
「実際、先輩に目をつけられていることは事実。
これ以上やらかせば、変な噂が一人歩きして
他校の連中からも目をつけられる始末になる。
蓮はそれを心配して言っているんだよ」
さすが蔵間くん。
説得の仕方が尋常じゃないくらい、プロ並だ。
「そ、そうだったのか……。ごめん、蓮……」
康介は蓮の優しさを身に感じたのか、照れくさそうにしていた。
「せいぜい、リンチされねーよう頑張るこった」
「お、おぅ……」
「あ、そーだ」
「?」
蓮は、何かを思い出したように言った。
456: 名前:雷蓮☆2011/09/25(日) 16:00:27
「この前武塔に、お前が腹壊して便所から出てこないって嘘ついた。すまねーな」
「え……」
「それだけだ。いつも言おうと思って忘れてたから遅くなったけど、言えてよかった」
「あ……そ、そうなの……。下痢……ね……」
「ん? どうした?」
「いやー、何でもねー」
康介の目からは大粒の涙が零れていた。
その理由は言うまでもない。
459: 名前:雷蓮☆2011/09/25(日) 20:57:22
「はーい、席つけー」
ガラガラと教室のドアを開け、
入ってきたのは武塔先生。
「お前ら、職員室まで声聞こえてるぞ。その肺活力を部活でいかせー」
「うっせーな、ぶどう!!お前はひっこんでろ!」
「ぶどうじゃねぇ!!お前、教師にそんなこと言っていいのか?」
「いいに決まってんだろ!なぁ? 蓮」
いきなりふった相手は蓮。
蓮なら味方についてくれると思ったのか。
けれど、それは大きな間違いだった。
「え……? 俺、そんなことしませんけど?」
「え……」
そう、彼は自分の利益になることしか選ばない。
仲間を裏切るという行為も、簡単にやってのける。
康介は放心状態。
まぁ、無理もない……。
「れ、蓮……。お前……」
「というわけだ。俺に謝るなら、今のうちだぞー?」
ここまでくると、もう手がつけられなくなる。
私、よく今まで康介とつるんでこれたなー……。
「お、お前っ!!裏切るのかよ!?」
涙目で訴える康介。
それはまるで、捨てられた子犬のよう。
「……言っただろ? 俺は自分の利益になることでしか動かないってよ……」
蓮は最高のほくそ笑んだ顔で、康介を見下した。
これは彼にとって、大ダメージを与えた。
「「バカな奴」」
「本当~。脳なしにはぴったりの結末だけどね」
とどめに、彼の彼女の鈴音と、双子の沙奈と瀬奈の毒舌攻撃。
これは地獄である---。
460: 名前:雷蓮☆2011/09/25(日) 21:03:30
康介の反抗は、あだとなって返ってきた。
武塔先生のチョップで気絶。
あと二時間は別世界から戻ってこないと予想される。
「あーあ。からかいがいのある人がいなくなると、寂しいわ~」
「鈴音って毒舌だよね、ほんと」
「そうかな? これが普通じゃない?」
いや、レベル違いすぎるでしょ!
「「しばらくは3次元に帰ってこない康介に、合掌!」」
縁起でもないことをやり始める双子。
そこでようやく蔵間くんが口をはさむ。
461: 名前:雷蓮☆2011/09/27(火) 17:38:06
「ちょっと、康介が可哀相だよー」
「じゅん・・・」
鈴音が蔵間くんの言葉に反応した。反省してくれたのかな?
「そんなんじゃ、サディスト国の女王はつとまらないじゃない」
「え・・・・・・」
ああ・・・。そうきますか・・・。
蔵間くんが軽く引いてるのは気のせいだろうか・・・?
「さてと、そろそろ本題に入ろうか」
先生が手元の書類を整える。
「えー、このクラスに転入生がくる。ていうか、もう来てる」
ザワッ・・・
クラスのテンションは急上昇する。
なんたって、希望に満ちあふれた瞬間なのだから。
もちろん、一番黙っていられない人が目覚めないワケがない。
ガバッ!
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
康介が勢いよく起き上がる。
その様子を見た鈴音の表情が曇る。
「ん? 鈴音、どうしたの?」
それを察した蔵間くんが声をかける。
「あ、あー、ううん、何でもないよー」
「さしずめ、美女でも来たらっていう不安でしょ?」
「っ!?」
「どーもー」
いきなり鈴音に話しかけたのは左端くん。
「いきなり、何を言い出すんだと思えば・・・。別にそんなこと・・・」
「なら、胸はって誰にもとられない自信あるって言えるの?」
「っ・・・!!」
「なーんて!あはは!」
「てんめぇ!!」
「わーっ!怖い怖い~」
「……舞、鈴音は天の邪鬼なのか?」
「あ、颯斗くん」
颯斗くんが珍しく机に座っている。
いつも教室のどこかの天井にいるのに。
「照れ屋ってだけだよ」
「照れ屋はあんなに暴力をふるうのか?」
「う・・・」
どう答えればいいのか、分かんないよ・・・。
「ま、とにかく、自己紹介させんぞ。おい、中に入れー」
先生が廊下にいる転入生を呼び出した。
ガラッ
「わーお・・・」
左端くんが絶句する。
いや、クラス中が静まり返った。
「初めまして。尾上 四季(おのえ しき)と申します。以後、よしなに」
転入生は男の子。
思った以上の礼儀の正しさに、みなさらに言葉を見失う。
「わぁ~、なんか面白い奴きたね~」
「お前には見習ってもらいたいものだ」
「颯斗っち、テキビシー」
「当たり前だ、バカ」
左端くんが笑いながら転入生をガンミ。
「うちの蓮くんにも、見習ってもらいたいものだね」
「蔵間、お前後でしばくぞ」
「けんかっ早いとことか」
「おい」
「舞ちゃんも怖くて仕方ないって顔してるでしょ? 彼氏なんだからそれくら
い察した方がいいんじゃない?」
「お前、マジで殺す。・・・舞」
「ん?」
「あいつには近づくな」
「え? どうして?」
「蔵間のうまい手料理が食いたかったら、言うこと聞け」
「蓮ってば、そんな命令しないの!素直に嫉妬してるって言えば・・・」
「うっせーよ!!」
「はいはい」
「えー? 何、教えてよ~!」
「お前は教えても意味しらねぇだろ!!」
「言ってくれなきゃ分かんないよ~」
「そーいうことだ!」
私たちがごたごた話してるうちに、
転入生の自己紹介が終わったらしい。
「ま、よろしくな、えーっと季節くんだっけ?」
康介が爽快な顔で話しかけた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。四季と申します」
「四季か!よろしくな~」
「はい。そちらの皆様も、よろしくお願いします」
「・・・あぁ」
「よろしくねー」
蔵間くんと蓮があいさつ。
続いて、双子と左端、颯斗もあいさつ。
「鈴音です、よろしくね」
「こちらこそ。・・・鈴音サン」
「え・・・?」
464: 名前:雷蓮☆2011/09/29(木) 16:52:07
~鈴音side~
「え・・・?」
「はい?」
「あ、いや・・・」
「そうですか。あ」
「え?」
「兄さん、よろしくね」
「兄・・・?」
兄って誰のこと・・・?
「あれ? 聞いてないのかな?」
「おい!てめぇ。さっきから鈴音と何しゃべってんだよ!」
「こ、康介!」
「鈴音、こいつから離れ・・・」
「はぁ・・・。やっぱり、忘れているようですね」
「はぁ? お前、何言って・・・」
「この顔、忘れたの? 兄さん・・・」
「っ・・・!!お、お前っ」
「久しぶりですね、兄さん」
「四季!!」
「康介、どういうこと?」
「おい、康介。お前、舎弟とかいたのか?」
「チゲェよ!こいつは義理の弟なんだ!」
「義理の?」
「康介に、弟・・・」
「兄さんがお世話になってます。
弟といっても、年は変わりませんが。
以後、よしなに」
「お前っ!!京都に修行に行ってたんじゃ・・・」
「何年前の話ですか? 修行は終わりましたよ」
「えー・・・」
「もしかして、母様から何も聞いていないんですか?」
「え、あ、そ、その・・・」
「その顔は、聞いていたけど忘れてたって顔ですね・・・」
「いや、違うんだよ!!その、あれだよ!!あれ!!」
「何ですか? 命乞いですか?」
「や、本当ごめん!!」
私はその光景をただ、唖然として見ている。
康介に弟がいるなんて、聞いたことない。
それに、本人からも教えてもらったことすら・・・。
「弟の方が礼儀正しいな、こりゃ」
「意外だったね。まさか弟だったとは・・・」
「誰も、康介の弟かな?って想像しないだろ」
「そうだったー」
「お前ら!!笑顔でこっち見てんじゃねぇ
!」
「はいはい、ごめんなさいねー」
じゅんは手をひらひらとふって、
蓮とまたいろいろ話している。
舞は康介を見て笑いをちょーこらえてる。
466: 名前:雷蓮☆2011/09/29(木) 17:52:25
「はいはい、じゃ早く席につけよー」
武塔先生がだるそうに言う。
「俺は今日調子が悪いので、帰ります!」
ガシッ
「おい待て、コラァ。まだ一時間目だぞ。さっさと授業やれや。
こちとら、お前らのつまんねぇ授業に、
わざわざ顔出してやってるってのによー」
「ででででででででも、蓮ー。先生、具合が悪くて・・・」
「関係ねーよ、俺には。さっさと授業始めやがれ、ロリコン」
「うぅ・・・」
「先生、本当に具合悪いんですか?」
じゅんが先生に問いかける。
「あぁ・・・。昨日の飲み会で二日酔いでねー・・・」
「滅多にお酒、飲まないですもんね」
「無理矢理なんだよね、校長が・・・」
「蓮、先生は本当に具合が悪いみたいだよ」
「・・・珍しいな」
「なれていない人にお酒はキツイからね。許してあげよう?」
「そーだな。今回は蔵間のに免じて、許す!」
「そりゃ、よかった・・・」
「先生、大丈夫ですか?」
舞も先生を心配そうに見つめる。
「あぁ、ありがとうね。なんとか、大丈夫ですよー・・・」
そうは言っても、顔は真っ青だ。
「大人げねぇな、ロリコン教師」
「ははは・・・
もう反抗する力も残っていない先生。
「兄さん。まさかとは思いますけど、
先生にご迷惑をかけるようなことはしてませんよね?」
「えっ!? あ、あはは・・・」
「後で母様に伝えておきます」
「えっ!? ちょっ、待ってぇぇぇぇ
」
「教師に迷惑をかけるなど、言語道断!
いいかげんに気づいてください。
兄さんは大切な後継ぎなのですから」
「・・・
あぁ・・・そう、だったな」
今、なんて言ったの?
康介が切ない表情を浮かべている理由を、
このときはまだ知らなかったーー-。
467: 名前:雷蓮☆2011/09/30(金) 07:52:35
ー放課後ー
いつもは康介と一緒に帰るのに、今日だけは違った。
弟の四季くんが来ているから、忙しいんだろう。
だから仕方がない。
本当は今日も一緒に帰りたかった。
いつものように、笑いながら。わがままだって分かってる。
でも、どうしても一緒に帰りたいって思うほど好きなの。
「ダメだ・・・調子狂う・・・」
一人、誰もいない教室で呟いた。ここにいても何もならない。
もう帰ろう。
そう思った瞬間だった。
「その呟き・・・混沌の中に在り」
突然、背後から声がした。
「誰っ!?」
振り向くと、そこには幼い容姿の女の子がいた。
まだ10歳にもならないだろう、小さな女の子。
「今宵は夕日が綺麗だ。燃えるように紅い」
女の子の目は澄んだ青で、髪の毛は黒。
教室の窓から入ってくる風になびいて、とっても綺麗。
「ちょっ、誰よもう!こんな小さい女の子つれてきたの」
「・・・我は子供ではない」
「え・・・」
「我は海の子、天の子、大地の子」
「・・・お母さんはどこかな?」
いったい、どこから入ってきたんだろう?
校門の前には先生が立っている。ここに小さい子が入れるようなことはないは
ず・・・。
「せめて、名前だけ聞かせてくれる?」
「・・・名は隗龍(かいりゅう)」
「か、かい、りゅー?」
今時、難しい名前をつける親もいるんだ・・・。
「ぬしにはこれから、重要な選択肢が待っている」
「え・・・」
「ぬしが思いを寄せる愛しき人も、また同じ」
「ちょっと待って。何、言ってるの・・・」
「それと、選択を少しでも誤れば大事になりかねぬ」
「おお・・・ごと?」
「・・・日が沈む。ぬしも現(うつつ)へ帰れ」 ※現とは現実のことです。
「ちょっと、待って!君、何で康介のこと知ってるの?」
「・・・まだ知るには早い。またな、娘」
「待っ・・・」
ブワッ
窓からの風が突風に変わる。
「っ・・・!?」
「一つ教えてやる。我は一度、死んでいる」
「っ・・・え」
バサッ
「っ!!」
隗龍は漆黒の羽をひとひら、
残して去っていった。
「羽・・・?」
ガラッ
「うわっ!!」
「っ!?」
後ろで教室のドアが開く音がした。
「さ、左端?」
「いっててー・・・。あ!鈴音!!」
「どうしたの・・・?」
「どうしたのじゃないよ!!教室のドアが中々開かないからー・・・。
待って・・・。鈴音、その手に持っているのは・・・?」
「え? あぁ、さっき隗龍っていう女の子から・・・」
「隗龍!?」
「なっ、なに?」
「隗龍に会ったの!?」
「え、左端の知り合い?」
「知り合いも何も、秘密国家機関の同士だよ!」
「えっ」
「彼女は俺とか颯斗みたいに、特殊な能力持ってるんだ」
「確かに、普通ではないね」
「隗龍は予言者で、未来のことは何でも知ってる」
「いや、それすごくない!?」
「それに、実際の隗龍の年齢は分からない」
「え、そうなの?」
「容姿からしては5、6歳なんだけどね。あと、一回死んでるっていうし」
「あ、それさっき言ってた」
「本当のことは全部、俺の親父が知ってるんだ」
「ちょっとびっくりなんだけど・・・」
「俺らの仕事に関わる人材も特殊だからねー」
「そう・・・」
「・・・予言されちゃったみたいだねー」
「お前も分かるもんね、未来のこと」
「うん!当ててほしい?」
「・・・」
「重要な選択があるってことでしょ?
隗龍ってば、未来のことあんまりベラベラしゃべるもんじゃないのにー」
「康介とアタシに何かあるんだって・・・」
「・・・もう、起きてると思うけどね」
「え・・・」
「さーてと、俺も帰って仕事しよーっと」
「ちょっ・・・」
「大丈夫大丈夫!鈴音なら乗り越えられるから~」
「聞きたいことがっ」
「また明日ね~」
「ちょっ・・・」
ガラッ・・・
行っちゃった・・・。
一体、何が起こってるのよ?
最終更新:2012年08月13日 01:35