××× 続き2

追加キャスト
 □桜井 奈央(サクライ ナオ)   
 ■安藤 拓也(アンドウ タクヤ)

episode4

《直人目線》

「久しぶりー!」
「わー! 焼けたねー!」

クラスではガヤガヤと1ヶ月ぶりの再会を喜ぶ声が聞こえる。
――あっという間に夏休みが終わって、新学期が始まった。
あーあ。夏休み終わっちゃった……。
……これで愁ちゃんと一緒にいる時間も減っちゃうなぁ。
そんな事を考えながら頬杖をついていると、後ろからバシッと背中を叩かれた。

「おっはよ。新学期早々なにつまんなそーな顔してんのよ?」
「いったぁ……! 桜かぁ。おはよ。」 
「夏休みも途中から全然遊んでくれなくなったし。三人揃わないと面白くないじゃんっ!」
「この夏休みは……ちょっと色々忙しかったんだもん。三人揃わなくても拓也と遊べば良かったじゃん」
「二人で遊んだってつまんないよ……って拓也もちゃんと聞いてるのー?」
「ちょっ……俺宿題終わってなくて本気ヤバイんだって!!」

確かに桜と拓也と会うのも久しぶりだ。
後ろの席の桜は桜井奈央。
オレと名前が似てるからみんな桜って呼んでる。
隣で必死でオレのノートを写してるのが安藤拓也。 
サッカーが上手いけど、その分勉強が苦手。
オレ達三人は席が近いのもあって仲が良くて、いつも一緒に遊んでいる。

「よっし! 写し終わったああー!」
「……バカ」

拓也がバンザイをすると呆れたように桜が呟く。

「つーかさ、直人のノート完璧じゃね? ……まさか夏休みの間勉強しまくってたとか?」
「まあね」

オレはニッと笑顔を返す。
……愁ちゃんのご褒美が欲しくて頑張って宿題終わらしたなんて、……言えるわけないよね。

「……って言うか、拓也は宿題やってなさすぎ!」
「うっせーよっ! 俺はサッカーとかで色々忙しかったんだよっ!」
「そんなの言い訳になってません!」

いつもの桜と拓也の言い合いが始まったその時、ガラリと扉が開き先生が教室に入ってきた。

『起立!』
『礼!』
『着席!』

「ハイ、皆おはよー。じゃあ早速夏休みの宿題集めるから後ろの席から回せー」

先生がそう言って、次々とノートが回される。

「はーっ……ギリセーフ……」

小さく声を漏らした拓也と目が合い、声を出さずに口パクで会話する。

「あ・り・が・と・なっ!」
「間・に・合・っ・て・良・か・っ・た・ねっ!」

拓也と笑いあっていると、先生がノートを揃えながら思いがけない言葉を発した。

「あー、早速この範囲で来週確認テストするからなー。復習しとけよー」
『えええーっ!?』
『マジかよー!?』

ザワザワと教室がざわめく。
多分オレは大丈夫だと思うけど……。
隣をチラリと見ると、拓也は頭を抱えていて思わず笑ってしまった。

×

放課後、帰り仕度を始めていると拓也が思いがけない事を言い出した。

「な、今週の日曜日、直人ん家で勉強会しよーぜ!」
「あ、それいいね!」

勝手に話を進めだす二人。

「えっ……いや……ちょっと……」
「え? なんか出かける予定とか入ってんの?」

ぐいぐいと拓也が詰め寄ってくる。

「いや、入ってはないけど……」

日曜日なんて、愁ちゃんと一緒にいられる滅多にないチャンスなのにぃ……。

「そー言えばさ、直人ん家って今イトコのお兄さんが居候してんだっけー?」

桜が思い出したように言う。

「そ、そう! だからダ――」
「おーそうだった! 確か高校生だろ? 小学生の問題とか余裕じゃん! 教えてもらおーぜっ! なるほどー、だからお前宿題完璧だったのかー……」

納得したように拓也がウンウンと頷く。

「じゃっ直人、そのお兄さんにも言っててね」

勝手に決めて、さっさと帰る桜。
……完全に断るタイミングを逃してしまった。
……もーっ!

×

そして日曜日。
―ピンポーン―

「はーい」
「おばさん、お邪魔しまーす!」

桜と拓也が元気良く挨拶をしてリビングに入ってきた。

「おーっす! 直人……っと、えーっと、この人がイトコの兄ちゃん?」

拓也が戸惑ったようにオレに言うと、オレの横に座っていた愁ちゃんがニコッと微笑む。

「初めまして。ナオの従兄弟の愁です。よろしくね。」
「「は、初めまして!」」

……なんか、拓也も桜もいつもと態度違うくない?

「じゃあ、早速やろっか。教科書と問題集見せてくれる?」

リビングのテーブルの上に準備をしていると、拓也がこそっとオレに耳打ちをしてきた。

「お前の従兄弟……すっげー美形じゃね? 俺、びびったよ……!」

桜も反対から耳打ちしてくる。

「直人と全然似てないね……! 超キレーな顔……」

そんなの知ってるよ。
……愁ちゃんは全然自覚してないけどね。

「……? 何か顔についてる?」

愁ちゃんが不思議そうに尋ねると桜が慌てて答えた。

「いえいえっ! さ、よろしくお願いしまーす!」

―――そうして、勉強会は始まった。

×

「えっと、この問題はどうやって解くんすか?」

拓也が尋ねると、愁ちゃんが覗きこむ。

「これは……ここをこうして……。……ここまではわかる?」
「んんんー……なんとか」

拓也と愁ちゃん、顔……近すぎ。

「私、できましたー!」

今度は桜が嬉しそうに愁ちゃんに話しかける。

「えーっと……。……あ、正解! 良く出来たねー」

ポンポンと桜の頭に手を置く。
!!
それ、いっつもオレにやってくれるヤツじゃん……!
……なんか……イライラする。
オレだけの……愁ちゃんなのに……。
愁ちゃんは桜と拓也に教えるのに必死で(主に拓也にだけど)、さっきから全然オレを見てくれない。

「愁ちゃん、オレも……ここわかんないんだけど……」

本当は自分でも解ける問題なのに、愁ちゃんの気を引きたくてわざとわからないふりをする。

「……っと、ごめん、ナオは夜でも教えられるからちょっとだけ待ってて?」

申し訳無さそうに愁ちゃんが謝る。

「だああーっ!! さっきの問題、言われた通りしたのに答え合わねぇっー!!」

拓也がグシャグシャと頭を書きながら声を上げると、愁ちゃんはまた拓也の方に顔を向ける。

「え? えーっと、ちょっと見せて……」

愁ちゃんは、全然悪くない……。
だけど。
……オレだけを見てくれないとヤダ。
俺は耐えれなくなってスクッと立ち上がった。

「? どーした直人?」

拓也が顔を上げてオレを見上げる。

「……ごめん。オレちょっと頭痛くなっちゃったから自分の部屋で休んでくる。みんなは勉強会続けてて?」
「ナオ? 大丈夫?」

愁ちゃんが心配そうに声をかけてくれるけど、今はそんな愁ちゃんにもイライラしてしてしまう。
……愁ちゃんがみんなに愛想振り向くからじゃん。

「大丈夫」

一言だけ答えて、クルリと背を向けて二階へと歩いていく。
……今の言い方、冷たくなっちゃったかも……。
あー……もうっ!
こんな事で不機嫌になる自分もヤダ!
なんだかもう全てがムシャクシャしてきて、自分の部屋に入って扉をバタンと閉める。
そのままズルズルと扉にもたれる様に座り込む。
一階からみんなの会話が小さく聞こえてくる。

「……なんか、変なのアイツ!」

拓也の声。

「頭痛いって大丈夫かな……。ゆっくり休ましてあげた方がいいよね。もう夕方だし……もう少ししたら帰ろっか」

桜の声。

「……後で、様子見てみるよ」

……愁ちゃんの声。

しばらくして、お母さんと拓也達の声が聞こえた。

「気をつけて帰りなさいねー」
「はーい。今日はありがとうございましたー!」

バタン、と玄関の閉まる音。
オレはノロノロと立ち上がり、ようやくベッドに移動した。

×

「ナオ、入るよ?」

カチャ……。
数十分たって、愁ちゃんが部屋に入ってきた。
オレは慌てて漫画を読むふりをして、愁ちゃんと目を合わせないようにする。

「……頭痛いの治った?」
「治った」

頁を捲りながら答える。
頭になんか入ってないのに。

「良かった……」

ホッと息を洩らし、愁ちゃんが隣に腰掛ける。

「みんな、あの後しばらくして帰ったよ。心配してたから明日お礼言いなよ? そうだ、さっきわかんないって言ってた問題見よっか?」
「……お礼なんて言わないし、問題も、もういい」
「……何か怒ってる?」

ヨッと抱き上げられて、後ろから抱きしめられる。

「別に。……離してよ」

愁ちゃんの腕から抜けようとするけど、離れた途端またグイッと引き寄せられて同じ体勢になる。

「……怒ってるじゃん。……俺、何かした?」

……愁ちゃんは何もしてないよ。
オレが子供だから、つまんないヤキモチ妬いてるだけ。

「知らない」

……素直に言えなくて、また冷たく返してしまう。

「んー……」

オレを抱っこしながら、愁ちゃんはユラユラと前後に揺れる。

「どうしたら……機嫌直してくれる?」

ペロリと首筋を舐められる。

「……やだ。お母さん下にいる」
「……叔母さんならさっき、買い物行ったよ」

……本当は、
向きなおって、
愁ちゃんに抱きついて、
……キスしたい。

なんかでも……、ここまで来たらもう引き下がれないっていうか。
意地になっている自分がいて。
……オレ、ホント馬鹿。

愁ちゃんは構わずオレの首筋に顔を埋めてくる。
プチッ
プチッ
シャツのボタンが外されて、隙間からオレの横腹をなでるようにスルリと手が入る。
ゾワゾワと這うような快感が体に伝わっていく。
本当に嫌なら振りほどけばいいのにそうしないのは……もちろんオレが望んでいるから。
……愁ちゃんも、オレがただ拗ねてるだけってとっくに気付いているんだろうな。

「……ん……ぁっ」

耳をくわえられ舐められる。
ピチャピチャと舐められる音と、愁ちゃんの熱い息が頭に直接響いてくる。

「……シたくなってきた?」  
「し、た……くない……もん」
「へぇー?」 

耳元で「意地っ張り」と囁かれて、胸の突起をキュウとつままれた。
そのまま指でクリクリと弄ばれる。

「ひゃうっ……ぁっ!」
「ここは触って欲しそうなんだけど」

自分でも、もっと刺激を求めてジンジンとしているのがわかる。

「はぁ……んん……っぁ……!」

耳を舐められながら突起をいじられて、どんどん恥ずかしい声が出てくる。

「下も……触ってほしい?」
「あっ、ん……欲、しく……な……」
「そっか……じゃあ、もう止める」

愁ちゃんの手と舌がスッと離れる。

嘘。
触って欲しい。
愁ちゃんに触れていたい。

「や……やだっ!」

パッと振り向いて愁ちゃんに抱きつく。
愁ちゃんはクスクスと笑っている。

「どっち?」
「愁ちゃん……ごめん、なさい。オレ、今日頭痛いって言ったの……ウソ。……愁ちゃんがみんなに優しくしてるの見て、ヤキモチ妬いちゃって……」

ギュウと愁ちゃんに抱きつく腕に力を込めると、ヨシヨシと頭を撫でられた。

「はー……。俺だって嫉妬してたのに、ナオの方が先怒るからタイミング逃したなー」

えっ? と思い愁ちゃんの顔を見る。

「……学校始まったら、俺より友達との方が一緒にいる時間長いじゃん。三人ですごい仲良さそうだし……妬けるよ」 

少しだけ拗ねた顔をする愁ちゃん。
なんだ。愁ちゃんも同じ気持ちだったんだ……。

「オレ達、二人してバカみたいだね」
「それだけラブラブって事なんじゃない?」

顔を見合わせてオレ達は笑いあう。
―――そして、今度はゆっくりと口づけを交わした。

「……で、下は触って欲しくないんだっけ?」

愁ちゃんがニッと笑う。
いつも優しいのに、愁ちゃんは時々すごく意地悪だ。

「愁ちゃんの、意地悪……」
「ナオ、俺に嘘吐いたもん。今日は意地悪する」

キュッとオレのものを握られると背中が反射的に仰け反ってしまう。

「ひゃ、あぅっ……!」

そのままズボンと下着を脱がされてゆく。
先からは早く舐めてほしいとでも言うかように液がトロトロと溢れて止まらない。
愁ちゃんは舌を伸ばして、先をペロリと舐め始めた。
その瞬間、待ち望んだ快感が襲ってくる。
刺激が強すぎて、声が掠れる。

「は、ぁ……っ……ぁ……」

愁ちゃんはゆっくり、ゆっくりと筋に舌を這わせてゆく。
根元まで丁寧に、これでもかというぐらい優しく。
ねっとりと熱い舌が絡まっていく様子が見なくてもわかる。

「ぁぁ……ん……っ……気、持ちぃ……よぅ」
「……じゃあ、ココは?」

愁ちゃんの舌が下に伝って、オレのおしりまで進んで……。

「ゃぅっ!? 愁、ちゃ……! そこっ……やぁっ!」

舌が、オレの……。
熱い舌がニュルリと入ってくると、今までとは違う感覚で頭がいっぱいになる。
力を入れて拒んでも、息の上がってるオレが大きく呼吸をするたび弛まるそこに舌は侵入してきて。

「き、た……ぁっ……な、からぁっ……!」

必死で愁ちゃんの頭に手をやろうとするけど、力が入らない。

「ナオの身体なんだから汚くないのに……。じゃあ、指にする」

今度はクプッと音を出しながら、愁ちゃんの長い指が入ってくる。
愁ちゃんの唾液で摩擦を失ったそこは、抵抗感なく指を根元まで飲み込んだ。

「んぁっ……んっ……!!」

痛くはない、けど、恥ずかしさと今までにない快感で涙が勝手に出てくる。

「ひゃっ……ぁぁん!!」
「……ココが気持ちいいんだ?」

オレが一際大きな声を出した所を、愁ちゃんは壁面を擦るように狙って指を動かしてくる。

「んぁっ! ……ぁっ! ……あぁっ!」

目の前がチカチカしてきた。
ビクンビクンと腰も痙攣を始め出して、もうそろそろ絶頂を迎える合図だとわかる。
なのに、愁ちゃんは指を……抜いた?

「ッ……ハアッ……ハアッ……。愁ちゃ……な、に?」
「いや、もう十分慣らしたからいいかなーと思って」
「慣……? どういう意……?」

オレは愁ちゃんの意味がわからなくて、聞きなおそうとしたその時―――突然1階から大きな声が聞こえた。

「――――ナオー! 愁君ー! ただいまー! 車から荷物下ろすの手伝ってもらえるー?」

っ!!
お、お母さんだっ!!
慌ててババッと飛び起きる。
愁ちゃんも少しびっくりした様子だったけど、すぐにいつもの愁ちゃんに戻ってペロリと自分の指を舐めている。

どうしよう!
どうしよう!
オレ達の秘密がバレる!

オレはもうパニック寸前で、とりあえず近くの布団をグイと引き寄せてぐちゃぐちゃに乱れた身体を隠す。

「あっ、えっと! えっと! し、愁ちゃん、先にっ! 下降りてて!」

一方の愁ちゃんは落ち着いた声で言う。

「……叔母さん、もう帰って来ちゃったんだ。わかった。ナオは、とりあえずまだ頭痛いって事で寝といて。」
「何してるのー!? 早く降りて来てー!」

せっかちなお母さんが待ちきれずにトントンと階段を昇ってくる音がした。
愁ちゃん…! 早くっ!

「はーい。今行きます」

そう言って、愁ちゃんは乱れた服を整えてからドアに向かっていく。
あ、と立ち止まって、少し戻るとオレに軽くキスをしてから部屋を出ていった。
―――「また、今度ね」という言葉を残して。

 × × ×

―翌日―

昨日、自分勝手な事しちゃったし、二人とも、怒ってるかな……。

「……おはよ」
「うぃーす」
「おはよー」

恐る恐る挨拶をすると、二人ともいつもと変わらない笑顔を返してくれてホッとする。

「昨日は、途中でごめんね」
「やー、気にすんなって」

ケラケラと笑う拓也。

「……今は大丈夫?」

桜は心配そうに眉をよせて気遣ってくれる。

「うん。ありがと」

弱々しく微笑むと、桜は良かったぁ、と心底ホッとしたようだった。
――ごめんね。
……オレのわがままだったのに心配かけちゃって。
チクリと良心が痛む。

先生が来るまでの間、拓也が鉛筆をブラブラ揺らしながら話し出す。

「やー。しっかしお前のイトコ……えーっと、愁ちゃんだっけ? 教え方上手いよなー!」
「今日のテスト、むしろ楽しみだよね!」

桜もウンウンと大きく頷きながら答える。

「つーかさ! あれで顔もいいなんてずりーよ! 高校じゃあモテモテだろーな」

また、拓也の何気ない言葉にピクリと反応してしまう。

「愁ちゃん……男子校だよ」

ポソッと呟く。

「まじで? もったいねー! いや、でもあれは男でもフラッといっちまうかも……」

その言葉を聞いた瞬間ギクリと固まってしまった。
拓也は全くそんなつもりで言ったわけじゃないと思う……。
けど、オレと愁ちゃんの関係を見透かされた様な気がしてつい挙動不審になってしまう。

「そ、そんな事、あるわけないじゃん!」

慌てて否定するものの、拓也はなおも続ける。

「いやいや。あの美形はわかんねーって! なあ? 桜もそう思うよなぁ?」

桜は……気付いたりしてなんか……いないよね?
そう思いながら桜の顔をチラリと伺う。

「あたしは、愁ちゃんより直……って……と!! うんうん! そう思う! うん!」

……桜、なんか言いかけた?
っていうか顔、なんで赤いんだろ?

「えっと、ま、その、これで今日のテストもバッチリだねっ!」

いきなりテストの話に戻される。

「……俺、全教科100点取れてしまう気がしてきた……。ヤベー……」
「いや、せめて問題見てから言いなさいね?」
「ははーん? さては桜、俺様に負けるかも知れないと思っているな?」
「はぁ!? 拓也に勉強で負ける事なんて絶対……」

恒例の言い合いが始まろうとした時、先生がテストを抱えて教室に入ってきた。

 × × ×

 番外編 夏休みテスト返却後

【直人】算93 国92 理90 社95
【桜】 算78 国98 理83 社81
【拓也】算65 国60 理64 社82

 × × ×

《拓也視点》

……ビリッ!

ありえねぇ……。
愁兄ちゃんにあんなに教えてもらったのに……。
てか、全教科100点の自信まであったのに……。
テストを持つ手がワナワナと震える。

「な……納得いかねえぇ!」

クラスに響き渡る声で叫ぶと皆が一斉に振り向く。
チラリと俺の答案を見ながら桜が勝ち誇ったように笑う。

「だから言ったでしょー私が拓也に負ける事なんてないって」
「はあー!? よく見ろ! 社会で勝ってるだろーがっ!」

俺が82点。
桜が81点。

社会は元々得意だから、これまで桜に負けたら洒落になんねぇよ。

「そ、そんなの……、たった1点だけでしょ」

悔しそうに桜は俺を睨む。
ふと、今日の給食のデザートはヨーグルトだった事を思い出した。

「よし。まあ、勝ちは勝ちだからな。給食のデザート、約束通りよこせよ」
「誰が、いつ、そんな約束をしたのよっ!」

直人は俺と桜の言い合いをオロオロと交互に見ていて、俺達をなだめにかかる。

「ま、まあ、でも二人ともスゴイよ? いつもよりは良い点なんだからその辺で……」
「直人は黙ってて!」
「直人は黙ってろ!」

桜と全く同じタイミングで直人を一喝する。
俺達より点数が良い直人に誉められても全然嬉しくないっつーの。
桜と目が合い、考えている事が一緒だとわかると、今度は二人で直人を責める。

「はぁ……良いわよね~。いつでも優秀な家庭教師がいる人は……」
「そーだよ。直人、あの勉強会の時、俺達が帰った後も教えてもらったんだろー」
「えっ!?」

直人の顔がいきなりボッと赤くなる。
はぁ?
なんでここで赤くなる訳?

「……何だよ? 頭治った後、何してた訳?」
「あ、あ、あの後? ……な、何もしてないよっ。寝てただけ……かな?」

……?
そんなに頭痛ひどかったのか?
……なんか良くわかんねーけど、まあいいや。

「……まあ、そう言う訳だ、直人、お前のデザートもよこせよ」
「え……そう言う訳って、オレ全然関係ないと思……」

その時、昼休み開始のチャイムがなった。
――やっべ!俺給食当番だった!

「さっ給食だ、給食だ! 俺当番だからちょっくら行ってくるわー」

全然納得してない二人をそのままに、俺はウキウキと教室を飛び出した。

――今日はヨーグルト三つも食べれるなんて……最高!

 × × ×
続き
 × × ×

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最終更新:2010年05月16日 03:17
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