episode5
《直人目線》
―――愁ちゃんとオレがリビングでテレビを見ていると、お母さんがタオルで髪を拭きながらオレ達に声をかけた。
「はー……さっぱり! お風呂、先にもらったわよー。なんだか今日、ガスの調子が悪いみたいで、追い炊きできなかったのよね。シャワーも水しか出ないし……」
「そうなのー? ガス屋さんに修理に来てもらったらー?」
顔はテレビに向けたままお母さんに言う。
「……もう、こんな時間だしやってないんじゃないかな」
壁に掛かった時計をチラリと見て、愁ちゃんがお母さんの代わりに答える。
……あ、確かに。
「うーん……お父さんにはメールしとけば銭湯でも寄って帰るだろうけど……」
お母さんはちょっと考えてから、思いがけない事を言い出した。
「……だから、ちょっと狭いけどお湯が冷める前に二人でパパーッと入っちゃってくれない?」
「はーい……って、えぇぇ!?」
自分でもびっくりするぐらい大きな声が出て、今度はテレビから勢いよく顔を離してお母さんの方に向ける。
「修理の電話は明日しておくわね」
お母さんはニコリと微笑む。
「あのさ、でもっ!」
「あらなーに、ナオ、恥ずかしいの?」
「いや、恥ずかしいって言うか、あの、その、いいのかな~、なんて」
アワアワとうろたえてしまう。
お母さんは、オレ達の関係を知らないからそんな事さらっと言えるんだよ。
お母さんはヤレヤレと言った表情で愁ちゃんと顔を見合わせた。
「……男同士なのにねぇ?」
「……ねぇ?」
オレの気持ちも全部わかってる愁ちゃんは、意味深な笑みを浮かべてお母さんに同意する。
愁ちゃんの余裕が、こんな時ほんと羨ましい。
こないだの勉強会の後も、愁ちゃんに「バレそうになっても何で焦らないの?」ってこっそり質問したら、「焦るからバレるんだよ」って笑ってたっけ。
今、自分でも顔赤いのわかるし、確かにバレバレかも……。
「アンタ、愁君にいっつも勉強教わってるんだから、背中の一つでも流してあげなさい! ホラ、お湯冷めるよ!」
「~~~わかった……」
オレ達は半ば強制的なお母さんの命令に従い、そのままお風呂場に向かった。
×
脱衣所でモジモジと服を脱ぐのをためらっていると愁ちゃんが呆れたように言う。
「何今更恥ずかしがってんの。いっつも見てんじゃん。……あんなあからさまに挙動不審になると、さすがに叔母さんにも気付かれるよ?」
「だって、なんか、いつもとは違うし……」
お母さんも知ってて、堂々と二人で裸で一緒にいるなんてなんか変な感じ。
「……いつもみたいに脱がせてあげよっか?」
愁ちゃんの手がオレの上着にかかる。
「じ、自分で脱ぐからいいっ!」
かああっと顔が熱くなるのを感じながらオレはやっと服を脱ぎ始めた。
×
チャプ……。
湯船に二人で向かい合わせで浸かると、お湯はギリギリ溢れる寸前で止まった。
ぴったりくっついてるから緊張する……。
お母さんが入浴剤を入れてくれてたお陰で乳白色に濁っていて、愁ちゃんの身体を直視せずに済むのがまだ幸いだった。
オレの下半身はすでに少し反応していたけど、それも隠れるし……。
男って、興奮してるか、してないか一目瞭然だから恥ずかしい。
チラリと愁ちゃんを見ると、首筋に濡れた髪の毛が張り付いていて……すっごい、なんていうか、艶っぽい。
こんなカッコいい愁ちゃんに好かれてるオレって、ほんと幸せ者かも……。
ジィッと見つめていると愁ちゃんとバチッと目が合った。
「……何?」
「何でもないよっ……。愁ちゃん、背中洗ってあげる!」
あ。
慌ててザバッと立ち上がると、ちょうどオレのモノが愁ちゃんの目の前にピョンと突き出す様な格好になってしまった。
「……どう考えても、これ、誘ってるよね」
グイと俺の腰を引き寄せて愁ちゃんにパクリと咥えられる。
「あっ……や!」
腰を引こうとしても、愁ちゃんの両腕が腰に回されて根元まで口に入っていく。
大きい声出したら、お母さんに聞こえちゃう……!
手を浴室の壁に当てて、必死で声を出すのを我慢する。
「んっ……! ……!」
愁ちゃんの腕の力が弱まる度に逃げようと腰を引いて、戻されて、を繰り返してると、まるでオレが自分から愁ちゃんの口を犯してるような錯覚に陥ってくる。
舌を使って先の方をスリスリと擦られると、足先に痺れるような感覚が走る。
膝がガクガクと震えて立っていられない。
オレはいつの間にか逃げる事を諦め、愁ちゃんに身体を預けて快感に酔い知れた。
「ふっ……んんっ……ぁぁ……!」
キュゥと強く吸い上げれた途端、弾けるように快感が膨らんで……オレは、愁ちゃんの口の中であっさりとイッてしまった。
オレの腰からやっと手を離した愁ちゃんはコクリと喉を鳴らす。
……何度繰り返しても、やっぱり自分のものを飲まれるのは恥ずかしい。
愁ちゃんはペロリと舌を出して唇を舐めると、オレに微笑む。
「ごちそうさま。 じゃ、身体洗おっか」
「は、ぁい……」
まだ身体の力が抜けきっているオレの身体は、ヒョイと抱き抱えられて湯船から出された。
お互いの髪の毛を洗いっこした後、ようやく愁ちゃんの背中を流す時がきた。
「あのね、オレ、誘ったわけじゃ……なかったんだよ?」
ボソボソと言い訳をしながらスポンジにボディソープを取って泡立てる。
「でも、気持ち良かったでしょ?」
「う、ん」
そんな会話をしながら愁ちゃんの背中に泡々になったスポンジを滑らせる。
愁ちゃんの滑らかな肌に泡がツゥと流れてゆく。
ヤバ……。さっき、出したばっかなのにまた興奮してきちゃった……。
「愁ちゃんさ……」
「んー?」
ゴシゴシと背中を洗いながら話しかける。
「……オレのどこが、好きなの?」
「フフッ……なんでそんな事聞くの?」
愁ちゃんは少し笑いながら聞き返す。
「んー……、愁ちゃんぐらいカッコ良かったらオレじゃなくてもモテモテなはずなのにって思ったから」
ゆっくりと愁ちゃんが振り向いてキスをしてきた。
「交替」
スポンジをスルリと奪われて愁ちゃんの前に移動する。
「ナオ、上向いてー」
上を向くと首の辺りをコシコシと洗われると、フワリとボディソープの香りが鼻をくすぐる。
あ、気持ちいいー……。
視線が愁ちゃんから離れた隙に胸の突起をカリッと甘噛みされる。
「っ……ぁ!」
思いがけない刺激にピクンと身体が疼く。
「全部だよ」
「……っ……え?」
「ナオのクリクリした目も、柔らかい髪の毛も、コロコロ変わる表情も、俺に嫉妬するところも……全部、愛してる」
愁ちゃんがチュウと胸の辺りに吸い付いて唇を離すと、薄赤い斑点となって身体に残った。
「……もっと言おうか?」
「も……充分です」
愛してる、なんて初めて言われて死ぬほど照れる。
ダメだ、のぼせそう……。
「もちろん、ココもね」
そう言ってまだ泡の残る手で再び大きくなり始めたモノをゆっくりと握られる。
泡で滑るからなのか、それとも二回目だからなのか。
とにかく、いつもよりも気持ちいいのは確かで。
「はぁっ……ぁ……んん!」
「こんなにエッチだったのは意外だったけど。なんか、感度どんどん良くなってるよね」
「んっ、あっ……声、出、ちゃう……ょぅ……」
クチュクチュと指を絡められると自分でも笑えるくらい甘い声が出る。
「キスしてれば大丈夫。ナオ、上に乗って?」
愁ちゃんの太股に跨がるように座ると、ピットリと愁ちゃんのモノとくっつく。
トクントクンと愁ちゃんの脈を感じる。
「……一緒に、する」
オレは愁ちゃんのモノに手を添えると、上下にゆっくりと動かした。
「うん。一緒に、気持ち良くなろ……」
愁ちゃんもオレのものを優しく掌で包む。
二人で手を動かしながら舌を絡ませる。
「んっ……はぁっ……ふ」
どうしよう。
いつもよりも、興奮する。
湯気の熱気の中、浴室に二人の音が響く。
「……っ……手、止まってるよ」
「だ、って……ぁっ、んん!」
気を抜くと、自分の事にいっぱいいっぱいで手が疎かになってしまう。
……愁ちゃんの動かし方が、巧すぎるんだよ。
「ナオ、手、貸して……」
愁ちゃんはそう言ってオレの両手を手に取ると、愁ちゃんとオレのを一緒に包むように誘導する。
その上から愁ちゃんの掌が重なって、ゆっくりと上下する。
「ふぁっ……ぁっ……ん!」
「……っ……ん」
愁ちゃんのとピッタリくっついて、まるで一つになったみたいに錯覚する。
「ぁ、っん……も……出ちゃ……う」
「……っ……俺、も」
二人同時に達すると、お腹に熱い精液がねっとりとかかる。
しばらく大きく肩で息をしながら、二人で見つめあって。
――もう一度だけ強く抱き合ってから深く口づけをした。
× × ×
《番外編 直人目線》
授業終了のチャイムがなると、ガヤガヤとクラスが騒がしくなる。
「よっし! オレ様の時間がやっと来た! オレのサッカーの上手さをとくと見やがれ!」
今学期の体育はサッカーなので拓也がいつも以上に張り切っている。
次は体育かあ……。
トレーナーの首元を広げ、チラリと隙間から覗くとうっすらと胸に紅い斑点が見える。
まだ消えてないや……。
こないだのお風呂で……愁ちゃんにつけられたキスマーク。
見るたびにあの時の事を思い出して体が熱くなる。
でも、さすがに体育の時は誰かに見られたらヤバイ。
どうしようかな……。
「おい直人ー。早く着替えてグラウンドに行こうぜー」
待ちきれないように拓也がせっついてくる。
「う、うん!」
拓也にキスマークを見られないように素早く体操服に着替えようとしたつもり……だったのに。
「あれ? お前の胸の赤いの何?」
言われた瞬間ギクリと肩が上がってしまった。
……拓也、こーいう所は目ざと過ぎだよ。
「えーっと……」
何て言い訳しようか迷ってモゴモゴと口ごもる。
その間にも拓也はまじまじと見ていて。
「……まさか……お前、それ……」
もうダメだ。
バレる。
ギュッと目を瞑る。
「ダニ?」
「……えっ?」
「……お前、布団はちゃんと干してもらえよ?」
拓也は言いにくそうに小さな声で言う。
「ち、違っ……」
「オーイ早くしねぇと遅れるぞー!」
「おー、今いく!」
否定しようと口を開いた瞬間、別の子がオレ達を急かしたので会話が途切れてしまった。
「……皆にはカワイイ直人がダニに刺されたなんて言わねえから、安心しろ。うん」
さらにコソッと耳うちして拓也は教室を出ていった。
……良かったけど……何かヤダッ!!
episode6
《愁目線》
「……ただいまー」
学校から帰ってきて、玄関を開ける。
いつもの直人の靴が玄関に無造作に散らばっている……って事は……。
……
……
……あれ?
先に帰ってきてるなら、絶対飛びついてくるのに。
不思議に思いながらリビングの扉を開ける。
……電気も消えてるし、直人の姿はない。
靴を履き替えて遊びにでも行ったんだろうか。
台所に向かい冷蔵庫から水を取りだす。
喉を潤してから、そのまま二階の自分の部屋に上がった。
カチャ……。
パチッ。
電気をつけると、意外なものが目に入ってギョッとした。
…………直人?
直人が俺のベッドで、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。
ランドセルまで床に投げ捨ててあるし。
自分の部屋、すぐ隣なんだから、そっちで寝たらいいのに。
ふ、と笑いをこらえてそのままベッドに腰かける。
制服の上着を脱ぎ、ネクタイを少し緩めながら横で寝ている直人を眺める。
……気持ち良さそうに寝てる。
Tシャツからお腹がチラリと見えている。
……無防備過ぎ……。
俺はTシャツの隙間から手をいれて直人の脇腹に触れる。
直人はくすぐったそうにモゾモゾと身体を揺すっただけで起きる気配がない。
そのまま脇腹を触りながら、直人の首筋に顔を埋める。
柔らかい髪。
フワッとシャンプーの香りが広がった。
首筋にキスをしてから耳元で「ナーオー」と小さく呼び掛ける。
「んん……」
ムニャムニャと寝返りを打つ。
これ……どこまでやったら起きるもんなんだろ。
今度はTシャツをめくっておへそから胸まで舌でツゥーッとなぞる。
そのまま胸の突起を口に含む。
直人のはちっちゃくて可愛い。
舌で転がすようにチロチロと舐めると、ピクッと身体が反応した。
顔を上げて、直人を見る。
……まだ、目、瞑ってる。
寝ながらでも感じたりするんだ……。
そのまま舐め続けてると、少し直人の呼吸が荒くなってきた。
今度は腰に手を這わして、と背中まで手を滑らせる。
ピクンとまた直人の身体が反応する。
さらに今度は直人のズボンの上から口を押しあて、直人のモノに当たるようにフーっと熱い息を送ると、腰がビクンとさっきよりも大きく反応した。
「ふぁっ……んぁ……? ……愁ちゃ……?」
あ。さすがに起こしちゃったか。
直人はコシコシと目を擦ったものの、まだ眠いようで目がトロンとしたまま俺に言った。
「ぁ……愁ちゃんだぁー……、おかえりぃー……」
「ゴメン。寝てたのに起こしちゃったね」
「んー……」
コロンと寝惚けながら寝返りをうつ。
俺は体を起こして、直人の隣に頬杖をつきながら寝転がる。
片手を伸ばして直人の髪をすくように撫でると、直人はまた気持ち良さそうに目を閉じる。
「ナオ、何で俺の部屋に居たの?」
直人は夢うつつの中、舌っ足らずな口調でゆっくりと答える。
「……ん、とねぇー、しゅうちゃんのニオイ……かぎたくてねぇー……、だから、オレはやくかえったのにぃー……」
寝惚けているせいもあっていつもより甘えた口調で俺の胸に擦り寄る。
「あ、しゅうちゃんのニオイー……」
幸せそうに笑って、スリスリと顔を埋めてくる。
……何、この動物。
可愛いすぎるでしょ。
このまま押し倒してもいいけど……どうしよっかな。
直人の頭を撫でながらしばらく考える。
……ま、その可愛いさに免じて今日は寝かしてあげる。
「……ナオ、好きだよ。おやすみ」
おでこに優しくキスをすると、またスウスウと幸せそうな寝息が聞こえた。
ギュウと直人を抱きしめながらゆっくりと俺も目を閉じる。
――おやすみなさい。いい夢を。
最終更新:2010年05月16日 03:23