××× 続き6

episode9

《直人目線》

――学校もすっかり冬休みに入って、あと数日もすれば恋人達のクリスマス。
……なのに全っ然嬉しくない!
それと言うのも愁ちゃんが実家に帰っちゃったから。
1週間程前、夏はオレん家で過ごしたからって愁ちゃんは遠慮して、冬休みの間は実家に戻るっていきなり言い出した。
オレは泣いてでも引き留めるつもりだったけど……。
伯母さん達も大晦日とお正月だけは日本に戻ってくるらしいから、さすがに家族水入らずの時間を壊すのは悪いと思って渋々納得した。

「じゃあギリギリまで家にいたらいいじゃん!」って諦められずに言ってみたけど、愁ちゃんも家の大掃除とかしたいらしくて。
……そうして冬休みが始まったものの愁ちゃんと恋人同士になってから長期間離れるなんて初めてで、オレはやっぱり寂しくて耐えれなかった。
最初の数日は拓也や桜と遊んだりしてたけど、家に帰ってお母さん達が帰ってくるまでは独りぼっち。
――なでなでしてくれたり、ギュってしてくれたり、キスしてくれる人は勿論いない。

「……ただいま」

夕方、学校から帰ってきてリビングの電気をつける。
シンと真っ暗なリビングに自分の声だけが響く。
愁ちゃんが先に帰ってたら……笑いながらおかえり、って言ってくれるのに。
そのまま愁ちゃんの部屋に入り、ランドセルを背負ったままベッドにボフンと倒れこんだ。
愁ちゃんのニオイ……。
……ニオイでも嗅げば寂しさが紛れるかと思ったけど……余計会いたくなっただけだよ。
目を瞑って愁ちゃんを想う。

お母さん達がすぐ近くにいるのにキスをねだると見せる困った顔。
愁ちゃんの名前を呼ぶと振り向いて微笑んでくれる優しい笑顔。
オレの横でスウスウと寝息をたてる綺麗な寝顔。

いろんな愁ちゃんの表情を思い浮かべると胸が締め付けられる。

会いたい。
会いたい。
愁ちゃんに会いたい。

顔だけ上げて、時計に目をやると今は5時前。
愁ちゃん家はここから電車で2時間半近くかかる。
……だから愁ちゃん家に行く時は車がほとんどで、駅からはおぼろげにしか覚えていない。
でも、会いたくて。
お母さんには愁ちゃん家についてから電話しよう。
オレは決心すると、家を飛び出した。

×

電車を乗り継ぎ、駅の改札を抜けると、オレはおぼろげな記憶をたよりに歩きだした。
冬は日が落ちるのも早く、すでに外は真っ暗で。
愁ちゃんがオレん家に居候する事になってからは一度も行った事がなくて、半年以上経って久しぶりに見ると街もすっかり変わっていた。

「多分……こっちかな……」

一人で夜に、それもこんなに遠くまで来たのは初めてで心細くなる。
それらしき道を歩いていると同じ様な家が並ぶ住宅街に出た。
あの辺りだったかも……、いや、あっちだったかも……。
うろうろと歩き回ってふと周りを見渡すと、もうすっかり道に迷ってしまった自分に気付く。
ただでさえよく知らない道なのに、とっぷりと暗闇につつまれては、もうどっちへ進んでいいのか全く分からなくなってしまった。

「足……痛い……」

さっきから休みなく動かし続けた足はジンジンと痺れ、鉛のように重い。

「……愁、ちゃん……ぅっく……」

我慢してたのに、じわぁっと涙が出てきて視界がぼやける。
こんな事で泣くなんてみっともなさすぎる。
ゴシゴシと上着で目を擦って、流れてこないように上を向くと顔にポツポツと冷たいものが当たった。
……もう最悪。
雨まで降りだしてきちゃった……。

雨は小降りながらも冷たくて、すでに手足の先は感覚を失うほど冷えきってしまっている。
少しでも暖めようとかじかんだ手を合わせてハァーっと息をかけると、白い息となってすぐに暗闇に消えていった。
傘も差さずに当てもなくノロノロと歩いているオレを周りの人は不思議そうに見ていて。

「……オレ、ほんとに何にも考え無しに来ちゃった……」

凍える唇でポツリと呟く。
そう言えば、お母さんにまだ連絡もしていなかった事に気付く。
時計も携帯もないからわからないけど、多分9時ぐらいだとしたらもう帰ってきてるに違いない。
……もう、諦めて帰ろう。
お母さん、心配してるだろうな。
駅についたら公衆電話から電話して謝ろう。
そう思い、オレは雨の中、駅の方へと歩きだした。

その時、突然後ろから「ナオッ!」と声がして、ビクリと後ろを振り向く。
――そこには、会いたくて堪らなかった人の姿。
息を切らせてオレを見つめる愁ちゃんがいて。

「しゅ……愁ちゃん!」
「ナオ!」

突然の事に立ち尽くすオレに駆け寄って、愁ちゃんはギュウとオレを抱きしめる。
道行く人が好奇の目でオレ達を見ているけど、愁ちゃんはおかまいなしに苦しくなる程強い力でオレを包んだ。

「なんで……なんで……オレがここに居るって、わかったの?」

震える声で愁ちゃんに尋ねると、愁ちゃんは抱きしめながら答える。

「叔母さんからナオがいないって連絡があって……もしかしたらと思って探してたんだよ。……心配かけて」

「ごめん……なさい。……オレ、愁ちゃんにどうしても、会いたくなって……」
「だからって……こんな遅くに誰にも連絡なしにいなくなったら心配するだろ……」

愁ちゃんの胸に涙でぐちゃぐちゃの顔を押し付けながら謝ると、愁ちゃんの声は本当に心配していたみたいで、少し震えているみたいだった。
ごめん。
ごめんね愁ちゃん。

「そうだ……叔母さんに連絡しないと」

愁ちゃんは思い出したように身体を離して、携帯電話を取り出すとお母さんに電話をかけた。

「……はい。ナオには僕からも良く言っておきますので……はい。今日はこちらに泊めさせます。……はい」

愁ちゃんと目が合い、困ったような顔で電話を渡される。
愁ちゃんの表情から察しはついたけれど――電話を代わると耳をつんざくような罵声から始まり――――お母さんに死ぬほど怒られた。

「――しばらく愁君家に泊まってもいいけど、次からこんな勝手な事しない事!! わかった!?」

「……はい。お母さん……ごめんなさい」

――――電話を切った後、愁ちゃんをおそるおそる見上げる。

「……次からは、俺の携帯に連絡しなね? 番号、後で教えるから」

愁ちゃんは優しくそう言ってハンカチを取り出すと、涙と雨でぐちゃぐちゃな顔を拭いてくれた。
自分の首に巻いていたマフラーをフワリとオレの首に巻き付けてから、もう一度ギュッと抱きしめられる。
まだ身体は冷えきっているけれど、心はもう寒くはなくて。

「ナオ、帰ろっか」
「……うん」

愁ちゃんに差し出された手を握ってゆっくりと歩き出す。
歩きながら愁ちゃんに聞いたら、愁ちゃん家はもう少し先にあったようで、後少しだったねと慰められた。
そのまま道を歩いていると、ある事に気付いて顔を上げる。

「あ……雪だぁ」

雨はいつの間にか雪に変わっていて、地面にフワリと落ちては消えてゆく。

「雪……今年初めてだね」
「うん。キレイ……」
「まだ、ナオの手冷たいね」

そう言って愁ちゃんはオレの手を両手で包み、ハァーっと温かい息をかける。
じんわりと温かさが拡がる。
さっき、自分でも同じ事をしたけれど、愁ちゃんにされる方が何倍も温かく感じる。
止まっていた涙がまたじわりと浮かんでは零れる。

「愁ちゃん……心配かけて……ほんとにごめんね……」
「もう謝らなくていいから。俺に会いにきてくれたんだし。嬉しいよ。それに……」
「……それに?」
「初雪まで、一緒に見る事が出来たんだから」

そう言って愁ちゃんはオレを包んでいた手を引き寄せて、オレの唇に自分の唇を重ねた。

×

愁ちゃん家に着いて、リビングに通されながら周りを見渡す。
……久しぶりに愁ちゃん家に来たけどやっぱり広いなぁ。
おなじ一軒家でもオレん家とは全然違う。

「何キョロキョロしてんの」

タオルを持ってきた愁ちゃんに声をかけられ、慌てて視線を愁ちゃんに向ける。

「あっ……やっぱり愁ちゃん家は大きいなぁと思って」

一人だと広すぎて困るけどね、と淋しげに笑ってから、愁ちゃんはオレに近づいて濡れた髪を拭いてくれた。
愁ちゃんの温かな手がそっとオレの頬に当てられる。

「まだ体冷えきってるし、お風呂入っておいで?」
「一緒に入る」

ギュ、と愁ちゃんの服を掴みながら答えると、愁ちゃんは少し驚いたようだった。

「俺、さっき入っちゃったもん」
「……じゃあ入んない」
「なんか、今日は甘えただね」

唇を少し尖らせながらワガママを言うと、愁ちゃんが困ったような表情を見せた。
自分でも子供染みた事を言ってる事ぐらいわかってる。

「……もう、離れたくないんだもん」

掴んだ服を引き寄せて愁ちゃんの腰に手を回す。
やっと会えたのに一瞬でも離れたくない。
そんなオレを愁ちゃんは優しく抱きしめてから、頬にキスをして答える。

「わかった、じゃあ着替え持ってくるからそれに着替えよ? そのままじゃ風邪引いちゃう」
「……うん」

ちょっと待ってて、と言って愁ちゃんは自分の部屋から服を持ってくると、オレの濡れた服を脱がせ始めた。

「ナオ、両手上げてー」

オレが言われた通り両腕を上げると、着ていたセーターとシャツを脱がせて、愁ちゃんの長袖のTシャツを頭から被せてくれる。
オレにはちょっと大きくて袖がもたつくけど、愁ちゃんの匂いに包まれて幸せだった。

×

「……ナオ? お皿洗いにくいからもうちょっとだけ離れてもらっても……」
「やだ」

ご飯を食べてからも、後片付けをしたり愁ちゃんは忙しそうだけれど、オレは小さな子供みたいにずっと愁ちゃんの服の端を握って、ピッタリと後にくっついていた。

「……仕方ないな」

洗い物を諦めた愁ちゃんはソファに移動して、オレを膝の上に乗せると抱きしめながら頭を撫でてくれる。

「愁……ちゃん」

探し回っていた時の不安感が徐々にほぐれてゆき、少しずつうつらうつらと睡魔が襲ってくる。
なんか、頭もボンヤリする……。

「ふぁ……っくしゅ!」
「あーあ……。やっぱり風邪引いたんじゃない?」

オレの熱を計ろうと愁ちゃんがおでこを合わせる。

「んー……、ちょっと熱いかも」

……違うよ。愁ちゃん。
この熱さは風邪じゃなくて、愁ちゃんが近くにいるからだよ?
顔を寄せて、愁ちゃんの唇に自分から唇を重ねる。

「っ……んん、ん」

愁ちゃんの舌を絡めとるように接吻けを交わし、しばらくして少し顔を離すと愁ちゃんの手が両頬に添えられる。

「……やっぱり顔熱いよ、ナオ。熱あるみたいだしもう寝ないと」

愁ちゃんのバカ。
誘ってるのに。

「……寝ない。愁ちゃんとずっと一緒にいる」

はぁ、と愁ちゃんは困ったような顔をして溜め息をつくと立ち上がると、奥の部屋から毛布を出してきてオレと愁ちゃんを包むようにくるまった。

「ナオ、今本当に熱あるんだって。……今日はもうダメ。ずっとナオの側にいるから、今日はもう寝な? 歩き回ってしんどかったんでしょ」

……自分ではよくわからないけど、どうやら本当にオレは熱があるみたいで、愁ちゃんが真剣な顔で言うからコクリと頷くしかなかった。
すると愁ちゃんはやっと安心した表情をみせてオレを優しく包み込んだ。
――そのまま愁ちゃんの胸に耳を当てるとトクントクンと柔らかい鼓動が聴こえて、まるで子守唄みたいに聞こえる。
サワリと緩やかに髪を鋤かれるように撫でられているとウトウトと目蓋が重くなってくる。

「愁、ちゃん……大好きだからね」
「知ってるよ。俺も大好きだよ」

愁ちゃんの静かな声を聞きながら、オレはゆっくりと目を閉じた。

×

「ん……んん……」

ぼんやりと霞んだ視界の中、うっすらと目を開ける。
頭がガンガンして、寒気がするのに身体は熱くて汗が流れている。
……そうだ。オレ……昨日から熱が出て……。
回らない頭で昨日の事を思い出す。
確か愁ちゃんとソファで毛布にくるまって寝たんだけど……。

今、オレがいるのはベッドの上。
おそらく愁ちゃんがオレが寝付いたのを見計らってベッドに運んでくれたんだろう。
起き上がろうと身体を少し起こそうとしたが、頭を上げた瞬間フラリと目眩が襲い、またポスンと枕に頭を沈めた。
愁ちゃんは……?
頭だけ横を向けると、愁ちゃんがスウスウと寝息を立ててベッドに寄り添うような形で眠っているのが見えた。
……多分、一晩中オレに付き添ってくれていたんだろう。

「ありがとう……愁ちゃん……」

オレは掠れる声でそう呟くとまた、深い眠りに落ちた。

×

「ナオ、ご飯できたよ」

愁ちゃんの声に反応して次に目を開けると、愁ちゃんの顔が間近に見えた。
オレ……どのくらい眠っていたんだろう。

「あ……ありが……ケホッ! ケホッ! ゴホッ!」

お礼を言おうとして口を開いたら咳で上手く喋れない。
熱は少し引いたみたいだけど、まだ身体はだるくて、食欲も全くない。

「食欲無いかもだけど、薬飲まないといけないから食べよう? お粥作ったから」
「ごめ……、愁ちゃ、ケホ……今、食欲ない……」
「じゃあ、飲み物だけでも……」
「いらな……い」

心配してくれる愁ちゃんには本当に申し訳ないけど、今起き上がって何かを食べたり飲んだりはとてもできそうになくて、オレは荒い息を繰り返すしかなかった。
横目で愁ちゃんの様子を伺うと、愁ちゃんは心配そうに眉を寄せてオレを見つめている。
すると少しの間考えた様子で、愁ちゃんはおもむろにコップを口に運んでからオレに顔を近づけて唇を合わせた。

「ん……んん……」

コクリと喉が動き、冷たい飲み物が喉を通る感覚がする。
火照った身体には冷たくて気持ちがいい。
一旦喉を潤すと身体は水分を欲していたらしく、喉がもっと欲しいというように張り付いた。

「だめ……愁ちゃ……、伝染っちゃ……うよ」
「知ってる? 風邪はね、人に伝染した方が早く治るんだって」

そんなの、迷信だと思うんだけど……。
まだ飲む?と聞かれて、つい頷いてしまった自分もどうしようもない。
――愁ちゃんは優しく微笑んでから、また顔をオレに近づけた。

 × × ×
続き
 × × ×

episode9 特別編

※こちらは違う作者様が書かれた小説キャラとのコラボとして書かせて頂いた物でepisode9の途中から別ルート設定になっています。
 special thanks 作者:かずい様/作品名:「どうして 変態 なんですか」/キャラ:中田慎也・雪代旭

 × × ×

《直人目線》

やっぱり愁ちゃんには会えなかったな……。
もう家に帰ろう……。
暗い気持ちのまま、駅に着いたオレは、切符を買って改札口へと向かう。

ドンッ!

下を向いていたため、前に気付かなかったオレは誰かにぶつかって尻餅をついてしまった。

「ごめんねー。大丈夫?」
「あっ、ごめんなさいっ……こちらこ……」

差し出された手を握って立とうとして、相手をみてビックリしてしまった。
栗色の髪の毛に、淡い青色の瞳。
そして何より愁ちゃんに引けをとらない程の美しさに息を呑んでしまう程。

「すげー濡れてるね。傘持ってないの? 名前は?」

オレを起こしながら、愁ちゃんと同い年ぐらいのその人は次々と質問してくる。
あまり知らない人に名前を言ったりするのもどうかと思ったけど、助けてくれたし悪い人では無さそうだし、ずっと一人で心細かったからつい答えてしまった。

「あ、えっと、ちょっと人を探してたら突然雨が降ってきちゃって……。柊、直人です」
「俺は中田慎也。直人君かー。人探してるなら手伝ってあげよっか? 何て言う人?」

絶対、言っても知らないと思うんだけど……。
ぐいぐい詰め寄られて何だか言うしかない状況。
何か、顔、近いっ……!

「えっ……。でも、もう家も見つからなかったしもういいかなと思ってたんですけど……。えっと、南川……愁って言って……」
「あ、俺知ってるけど」

!?

中田、さん(?)の意外な言葉に息が止まりそうになる。

「えっ!? な……何で?」
「だって俺、愁と同じ小学校だもん。学年は違うけど、あんな美形俺が見逃すはずないし」

……最後の方の意味はなんだか良くわからなかったけど、やっと愁ちゃんに会えると思うと嬉しくて心臓が高鳴る。

「あ、あの! 家とかはわかったりしますか?」
「わかるよ。超近所だもん」

やった!
神様っているんだ!
こんな偶然あり得ないよ普通!

「連れてってあげたいけど、今恋人と待ち合わせしてるからなー。どうしよっかな」
「いいです! 大体はわかるので、道順だけ教えて下さいっ!」

息を上げて、中田さんの服を掴む。
すると中田さんは少し考えた後、膝を少し曲げてオレと目線を合わせると、ニコッと笑って答えた。

「わかった。じゃあ、教えるから耳貸して?」

なんで耳打ちなんだろう?と思いながらも耳を寄せる。

ベロッ……

「ひ、ゃっ……!」

不意打ちで耳たぶを舐められて、変な声が出てしまった。
慌てて身体を離そうとするものの、ガシッと腰に手を回されて逃げれない。
人が沢山いる駅の構内なのに、全く構う様子もなく、熱い舌を耳に差しこんでくる。
ピチャ、ピチャと言う音が頭に響く。
怖い……! 何この人……!!

「やめ……て、下さ……!!」
「へぇー。直人君は耳が感じるんだね。俺が調教してあげ……ぐはッ……!!」

いきなり唸り声を上げて、中田さんの手が弛んだので、慌てて身を引くと中田さんの後ろに高校生ぐらいの男の人が血相を変えて立っていた。
どうやら後ろから思いっきり蹴ったらしい。

「慎也ァァァァッ!! ……お前っ!! お前は何をやってんだァァァァ!!」
「あ、旭。いや、今人助けをだな……がはぁッ!!」

旭と呼ばれた人はそのまま中田さんの胸ぐらを掴んでオレから引き剥がすと、お腹に膝蹴りを入れてからボコボコに殴りつけている。
ダメだ。このままでは中田さんが死んでしまう。
しばらく二人をぽかんと眺めていたオレはハッと我に返り二人を止めた。
バタリと床に倒れた中田さんを足蹴にしながら、慌てた様子で旭さんはオレに謝り始めた。

「ごめん!! 大丈夫!? 慎也に変な事されなかったか!? いや、既にされてたか……。あー……本当にごめん!! お願いします!! 警察には言わないでやってくれないか、コイツは変態なだけで悪い奴では……」
「あ……大丈夫、大丈夫ですから、あの、落ち着いて下さい」

自分より焦っている人を見るとなぜか自分がしっかりしなくてはと思ってしまう。

「ナオッ!!」

聞き覚えのある声にバッと振り返ると、ずっと会いたくて堪らなかった人の姿が。

「……愁ちゃん!!」

駆け寄ってきた愁ちゃんに思わず抱き付いた。
なんで愁ちゃんがここにいるの、とか、勝手に会いにきてゴメンとか、話したい事はいっぱいあるんだけど……。

「色々ナオにも話したいけど……とりあえず、何、この状況?」

愁ちゃんが本当にわからないと言った様子でオレ達を見つめる。

「……直人君は愁の家を探してたんだってさ。で、俺に道を聞いてた訳」

いつの間にか立ち上がった中田さんがパンパンと服を払いながら、ものすごく簡単に説明した。
あの……、中田さん、それじゃあなたが今何で鼻血を出しているのか全然説明になってません。

「慎也……。……大体状況が分かったよ……」
「何だよ。久しぶりの再会なのに」
「はぁっ!? 知り合い!?」

愁ちゃんと中田さんが知り合いだった事に、旭さんはビックリして声を上げた。

「……まあ、一応。ナオ、慎也に何されたの?」
「え!? えーっと、何もされてないよ」

愁ちゃんに本当の事を言えば中田さんが何されるかわからなくて、とりあえず嘘をつく。
旭さんとチラリと目が合うと口パクで「ゴメン」とまた謝られた。

「小学校の時ならまだしも、未だに手当たり次第に周りにちょっかい出すの止めてくれませんか」
「最近はしてないよ。旭って言う可愛い恋人が出来たから」

愁ちゃんが冷たく他人行儀に言うと、中田さんはひょうひょうと旭さんを抱き寄せながら答える。
待ち合わせしてた恋人って旭さんの事だったんだ。
……って、ええ? それって、つまり、オレと愁ちゃんみたいな関係ってこと?

「誰が、いつ、お前の恋人になったんだよ!!」

グイッと中田さんを引き剥がしながら旭さんが嫌がってる様子を見ると……違うような気もするけど。

「とにかく、愁に会えて良かったね。直人君」
「あ……はい。ありがとう……ございます」

特に中田さんには何もされていないけどお礼を言った。

「ナオ、叔母さんにも連絡しないといけないし、そろそろ行こう」
「あ、うん」

ぐいと愁ちゃんに手を引かれると、中田さんが笑いながらヒラヒラと手を振った。

「直人君、またねー。あ、愁もなー」
「俺はもう会いたくない」

手を引かれながらチラリと愁ちゃんを見上げると、いつもの優しい愁ちゃんと違って、静かに怒っているようだった。
……何があったんだろう……。とにかく、中田さん……変な人だったな……。
そんな事を考えながら、オレはズルズルと愁ちゃんに引かれながら駅を出た。

特別編 終わり

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最終更新:2010年05月16日 16:37
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