episode10-1 直人編
《愁目線》
よし、後はお皿によそうだけ……。
今日は恋人達のクリスマス。
俺達も今年は恋人同士として二人きりでゆっくり過ごせるなんて……本当に夢みたいだ。
「ナオー、そろそろご飯できるから飲み物冷蔵庫から出してー」
背中越しにはーい、とナオの元気のいい声が聞こえる。
「おまたせ……っ!?」
しばらくしてから料理を運ぼうとテーブルを振り向くと、意外な光景が目に入ってきて言葉に詰まってしまった。
俺の目に入ってきたのは、母さん達が保存していたスパークリングワインをゴクゴクと一気飲みする直人の姿。
「ナオ、ダメ! それっ……!」
俺が止めた時にはすでに遅くて、直人の持っているグラスは空になっていた。
「……何杯飲んだの」
「んーと、喉渇いてたから3杯……ぐらい? あ、愁ちゃんも飲みたかった? 先に飲んじゃってごめんね」
……いや、そう言う問題じゃなくて。
ボトルを持ち上げてみると半分近く減っている。
「ナオ……何ともないの?」
「何がぁ? この葡萄ジュース美味しいね……あ、れ……何か…………ヒック」
みるみるうちに直人の顔が赤くなり、目がトロンとなっていく。
あー……これはヤバい。
「……しゅーちゃ、ん」
グラスをテーブルに置いて直人がゆっくりと近づいてくる。
「……何」
「ご飯は、後で食べるから……」
「えっ……?」
「シたい」
首に手を回されて上目づかいで見つめられると身動きが取れなくなる。
直人は少し背伸びをして俺の唇に重ね合わせると、そのまま舌を絡ませてきた。
「……っ、ふ……」
ナオの口腔に舌を伸ばすと、仄かにワインの味が広がる。
酔いが回っているのか、いつもより積極的に舌を絡めてくる。
唇を離すと直人が熱っぽい目で俺を見つめながら、舌足らずに喋る。
「んじゃあ、早くしゅーちゃん服脱いで」
クスクスと笑いながら直人は俺のシャツのボタンを一つずつ外していく。
……ナオ、なんだか性格豹変してませんか。
これ……俺の前だけならいいけど、他の奴の前でもこうなるのかな。
大人になってからの直人を想像すると頭が痛くなる。
まあ、今の状況は俺にとってはむしろ喜ばしい事だけど。
「……ナオのは、俺が脱がせばいいの?」
「うん、脱がせて……」
俺のはだけたシャツに手を入れながら、胸にツゥと舌を這わせて直人が答える。
直人のシャツも脱がせると、可愛らしい突起が俺を誘った。
そこを一舐めすると、直人は高い嬌声をあげて身体を震わせた。
流石に感覚が高まっているらしく、肌を仄かなピンク色に染めて甘い息を洩らす。
「はぅ……、気持ちいい、よぉ……」
愛撫を続けていると、足に力が入らなくなったようでペタリと床に座りこんでしまったので、そのままダイニングの床に押し倒す。
「ベッド、連れて行こうか?」
「……いい」
はやく挿れて欲しいから、とまだ舌が回らない口調のまま耳元で囁かれた瞬間、俺の頭の中で理性が飛ぶ音がした。
ズボンを脱がし、すでに熱を帯びた直人のそれに接吻けをしてから、もう一方の方へと舌を這わせてゆく。
そこは自分の意志で潤すことは不可能な場所なので、たっぷりと水分を送り込むように舌を入れる。
指を入れて肌と馴染ますように掻き回すと、直人は高い声をあげて喘いだ。
「んあっ! あぁっ……ふぁ、んん!!」
直人が啼く度に自身のものも昂ぶってくるのがわかる。
舌は動かしながらも、手でそっと直人のものを撫でるとビクビクと腰が浮いた。
掠れた声で名前を呼ばれたので愛撫を止めて顔をあげると、荒い息のまま直人がゆっくりと身体を起こす。
「そこまで、でいいよ。はぁっ……今日は、オレが上になるのぉ……」
「えっ、ちょ……ナオ」
トンと胸を押されて、直人が上に乗ってくる。
俺のズボンに手をかけてそれを引き出すと、自身の蕾を押し当て少しずつ腰を下ろした。
「……っ……んん」
額に汗を滲ませながらも、笑みを浮かべて俺のものをゆっくりと飲み込んでゆく。
「……っふ……ナオの中、ドロドロに溶けてて熱いんだけど」
「愁ちゃんに舐められて感じちゃったから……んぁっ」
いつもの直人だったら絶対恥ずかしがるのに、さらりと認められて俺の方が逆にドキリとする。
恥ずかしがっているナオをさらに弄るのが好きなんだけど……たまにはこういうのも悪くないかも。
「んっ、はぁっ……愁ちゃんは、動いちゃダメだからね?」
「わかっ、た……どうぞお手柔らかにお願いします」
ゆっくりと俺の上で腰を揺らす直人を見ながら、俺は思う。
……まるで小悪魔だ。俺の心を翻弄して、そして絶対に離さない可愛らしい悪魔。
こんな悪魔になら、魂を売ってもいいかも知れない。
×
翌朝、目が覚めてベッドから身体を起こすと、横で眠る直人を見下ろす。
……本当に昨夜は凄かった。
愁ちゃん、愁ちゃんと俺の名前を掠れた声で連呼しながら、直人は何度も俺の上で果て、それでも「もう一回」とねだってきて……。
最終的には俺がギブアップした程。
「んん……」
俺が昨夜の事を思い返していると、目を擦って直人が目を覚ます。
「愁ちゃん……おはよ」
「おはよう。あの……さ、一応聞くけど、昨夜の事……覚えてる?」
直人はパチパチと幾度かまばたきをし、少し考えた後口を開いた。
「……そういえば夜ご飯食べた記憶無いんだけど。んーと、オレ、寝ちゃったんだっけ?」
「……全く覚えてないの?」
「何を??」
「…………いや、もういい」
俺が大きく溜息をつくと、直人は腑に落ちないようにまだ考えている。
「あ!わかった! 昨日オレまだ愁ちゃんに言ってなかったんだった! 一日遅れだけど……メリークリスマスっ!」
いや、そうじゃなくて。確かにそれもそうなんだけど……。
「…………メリークリスマス」
俺は改めて思った――。
お酒って、未成年には飲ましちゃいけないんだと。
episode10-2 愁編
《直人目線》
「ナオー、そろそろご飯できるから飲み物冷蔵庫から出してー」
「はーい!」
キッチンに立つ愁ちゃんの声に返事をして冷蔵庫を開けると、なんだか高級そうなビンがずらりとならんでいる。
ジュース、ジュースと……。
ふと目に入ったのは葡萄の絵が書かれた綺麗な瓶。
あ、これにしよう。
大きめのグラスを棚から出してコポコポと注ぐと、シュワシュワと小さな泡が弾ける。
オレも飲みたいけど……、愁ちゃんの方が料理作ってくれてるし喉が渇いてるはず!
「愁ちゃん、ジュースついだよー。ハイ!」
テーブルに移動し、料理を盛り付けている愁ちゃんに手渡す。
「あ、ありがとう。ごめん、先に飲んでいい? ちょうど喉渇いてて……」
愁ちゃんはグラスを受け取ると、ゴクゴクと一気飲みした後、すぐに眉をひそめて不思議そうな顔をする。
「このジュース……何か、変じゃない?」
「え、そう?賞味期限切れてるとか?」
「いや……何かそんな感じじゃなくて…………ヒック」
賞味期限を確かめようとまじまじと瓶を見つめると、ラベルの下に『これはお酒です』の小さな文字。
あ。
冷や汗が流れるのを感じながら、そろりと愁ちゃんを見上げる。
「……ナオ」
「えっ。何……」
ゆっくりと愁ちゃんがオレに近づいてくる。
「……料理はもういいからさ、シようよ」
……ヤバイ。愁ちゃん、いつもと違う。
笑ってるけど、いつもの優しい微笑みじゃなくて、口の端だけで笑ってオレを見下ろす。
「えっと……今日は、いい、かなぁ、なんて……」
「へぇ? 俺の誘いを断るんだ?」
なんか……性格豹変して、る……?
「いや、でも、その……」
「じゃあ、もう一生しないけど? そうだ、年が明けてもこのままこっちに居ておこうかな」
「そ、それはやだっ」
冷たく突き放されて、焦ったオレは慌てて返答する。
愁ちゃんが本気かどうかはわからないけど、オレにとってその言葉は死刑宣告をされるのと同じ。
「じゃあ、早く服脱いで」
「……わかった」
ゆっくりと愁ちゃんの前で一枚ずつ服を脱いでいく。
愁ちゃんはテーブルに少しもたれるように立ったまま、まだ残っているジュース……ではなく、お酒をグラスに継ぎ足して口に運ぶ。
腕を組んで、嫌な感じで微笑みながら俺の様子を眺めていて。
下着もだよ、と付け足す様に言われてカァッと顔が熱くなった。
脱ぎ終わり、もじもじと立ちながら、愁ちゃんに目をやる。
てっきり愁ちゃんも服を脱ぐのかと思っていたのに、服を脱ぐどころか、その場から動こうともしない。
「しゅ……愁、ちゃん?」
震える声で愁ちゃんに恐る恐る尋ねると、信じられない答えが返ってきた。
「ハイ。次は一人で乳首弄って」
「えっ!?」
「俺の言う事、聞くんでしょう?」
静かに言われて思わず後ずさる。
ありえない。愁ちゃんの口からそんな言葉が出るなんて。
「今日は、ナオが一回イクまで触らない」
「や、だぁ……」
フルフルと首を振る。
「大丈夫。その後、朝まで愛してあげるから」
いつもの笑顔でニコリと微笑まれる。
お酒を飲んでから初めての愁ちゃんらしい笑顔なのに、言葉が全く合ってない。
……ダメだ。
酔っ払った愁ちゃんに何を言ってももう戻ってくれそうにない。
そもそも間違えて飲ませた自分が悪いんだし。
オレは唇を噛んで、ゆっくりと自分の胸に手を伸ばす。
突起を摘まむとピリッと電気が走って、途端に甘い声になるのがわかった。
「……っふ、やぁ、ん」
愁ちゃんはグラスを口に運びながら、口の端を上げてクスクスと微笑んでいる。
「そのまま、下も扱いて?」
「やぁ……」
恥ずかしさで涙が滲んできた。
「早く」
冷酷に命令が下される。
愁ちゃんの命令は……絶対。
愁ちゃんに見られている事でいつもよりも強い快感が襲う。
少し触れただけで、オレのものはビクビクと震える。
「……んぁっ、あっ、あっ」
愁ちゃんはやっと足を動かすと、耳元で囁いた。
「ナオ、俺に見られて感じてるの? ……変態だね」
指は一本も触れていないのに、愁ちゃんの声は聴覚を犯し、腰が痙攣を始めた。
「あっ、んぁ、ひぁ……」
愁ちゃんの声に反応して、オレはあっさりと溜まった白濁を噴き出した。
白濁と共に床にポタポタと落ちるのは、オレの涙。
……恥ずかしくて死んでしまいそう。
「良く出来ました。じゃ、今からたっぷりご褒美あげるね」
そう言って愁ちゃんはオレを抱き上げると、寝室へと足を進めた。
×
……結局、腰が痛くて一睡もできなかった…。
横で眠る愁ちゃんを眺めてから、自分の身体に目を移す。
身体中に数えきれない程の接吻けの印。
何度イかされたのかわからないけど……まさかオレが出なくなるまでするなんて。
「んん……」
小さな声を上げて愁ちゃんの目が開く。
愁ちゃんの事が嫌いになった訳じゃないけれど、ビクリと肩が上がる。
オレはとりあえず慌ててシーツで身体を隠した。
「愁、ちゃん……あの、一応聞くけど、昨夜の事……覚えてる?」
「ん、あー……俺達ご飯食べずに……あれ? そのまま寝ちゃったんだっけ……?」
恐る恐る尋ねると、いつもの優しい愁ちゃんの口調。
「全く……覚えてないの?」
何が、と欠伸をしながら答える愁ちゃんに続けて尋ねる。
「……いつもの、愁ちゃんだよね?」
「……どう言う意味?あ、朝ごはん何が食べたい?」
「良かったぁ……!」
思わず愁ちゃんに抱き付く。
まだ意味を理解してない愁ちゃんに顔を近づけて、オレは真剣な顔で見つめる。
「愁ちゃん、お願いがあるんだけど」
「……な、何?」
「絶対に、これからお酒飲まないで」
――それからすぐ、身体中のキスマークに気付いた愁ちゃんは顔面蒼白。
一日中オレに平謝りを続けた。
……別に怒ってないけど、これでしばらく愁ちゃんにワガママし放題。
キスマークが消えるまで、愁ちゃん家に泊めさせてもらおうっと。
最終更新:2010年05月16日 17:02