どうして変態なんですか 続き11

家に帰るとまず、財布の中から慎也にもらったネックレスを出した。

ヤツには言わないが実はずっと肌身離さず持っている。

何かこんな高価なものを家に置いておくのは…心配というか。

あ、いや別に泥棒が入るとかそういうことを見越しているわけではないのだが。

はぁぁぁぁぁぁ。

正直しんどいなぁ。慎也と二人で居るの。

前まではそんなこと一切無かったのに。イライラすることはあったけど。

…心臓が持たん。

あっ、今のなし!!!

って俺は何をまた一人でごちゃごちゃと…。

俺は気を紛らそうと携帯を開いた。

新着メールが一件着ている。誰だ?

開くと、それは慎也からだった。

『俺のせいで気分悪くしてごめんな。でもお前のこと好きなのは絶対変わらねえから』

だから何で普段はちゃらけてるくせにたまにカッコいいんだよ!

こういうことされるからどうしていいか分からなくなる。

気付くと携帯を投げ捨てていた。

「旭くん、ご飯だよ」

ついさっき仕事から帰ってきたみぞれが部屋の前で俺を呼んだ。

部屋から出るとみぞれが待ち構えていた。

「ねぇねぇ旭くん、それキレイだね」


みぞれは俺が持っていたネックレスを物珍しそうに見た。

あ、持ってきてしまった。まぁいいか。

ついでに手に持ってたら邪魔になるから付けとこう。

「それどーしたの? 旭くんの?」

まるで、"欲しい"と言っているかのようにみぞれは俺に質問攻めしてくる。

「ああ、コレな。慎也にもらった。えっと…ほら前に学校来てくれたときに会っただろ?」

「慎也お兄ちゃんに? ふうん…」

もらえないものだと分かったのかみぞれはしゅんとなり、それ以上は何も聞かなくなった。

リビングに向かうと父さんと母さんが既にいて、晩ご飯の用意が出来上がっていた。

ちなみに両親にもこのネックレスのことを聞かれた。

答えると驚愕されたのは言うまでもない。

「普通恋人にあげるもんでしょ?」

「慎也くんって、小学校から一緒の? 旭のことが好きなのか?」

こちらも質問攻めだ。っていうか父さん、最後のその質問はやめてくれ。

「へぇ…彼女がなかなか出来ないって思ってたら、そういうことだったのね」

と母さん。

何その変な解釈! 違う俺はホモじゃないんだ!!

「大丈夫だ、俺も明美さんもそういうことに偏見を持ったりしないから」

明美とは母さんの名。ちなみに父さんは俊彦さん。

ってこんなことを言っている場合ではない!

確かに父さんは心からそういってくれているみたいだけど、一番重要なのは"俺はホモではない"。

ってことなんだ。

…誤解しないでください。頼むから。


そして、一週間後。

ほらな!! 一週間経つのはあっという間だって言っただろ。

べ、別に間を埋めることのネタが切れたとかそういうのじゃないんだぞ。

今日に限って学校ですよ。

慎也はどこの空港から行くかは言ってくれたけど、何時かは言ってくれなかった。

何回聞いてもはぐらかされた。

慎也~、まぁ向こうでも頑張ってきてくれ。

俺は見送りにいけないけど…ごめん。



やばい! 俺マジで行ってほしくないって思ってるよ!!

どうしよ、イヤだ。せめて見送りくらい行きたいよ。

でも何時かわからん。もしかするともう旅立っているかもしれないし…。

自分の席でうなだれていると、担任の先生が入ってきた。

「みんな知っていると思うが、中田が今日アメリカに旅立つそうだ。離陸時間は…12時半だったかな」

先生、後半ナイス! …でも学校終わってない時刻だ。

フケるか。いや、でも待て。

慎也が俺に出発時刻を伝えなかったのは、来て欲しくないからじゃ?

俺は授業が始まったのも構うことなく考え続けた。

行きたい、けど…。

ずっとこの思考を廻りきらしている。気付いたら40分近く経っていた。

よし、

…行こう。

行かなきゃ後悔するに決まっている。

やらない後悔よりやった後悔っていうしな!

その結論に達した時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「旭、早く行かなきゃ!」

一時間目が終わると間もなく葵が俺を急かした。

「わかってる! 今から行くから」

「僕が先生に言っててあげるからね」

「ありがと」

成田空港まで少なく見積もっても1時間半はかかる。

時刻は9時30分を差しているが、2時間目も授業を受けていては確実に間に合わん。

俺は制カバンを教室に置き去りにし、財布だけを持って飛び出した。

財布には常に慎也からもらったネックレスを入れてある。

俺は走りながらそれを取り出すと、首につけた。

特急電車に飛び乗ってやっと冷静さを取り戻した時だ。

「あ…、携帯忘れた」

ポケットをまさぐるが携帯はない。

やばい…どうやって慎也を見つけるんだ、広い空港内で。

俺…ってホントにバカだ。バカ以外の何者でもない。

もしかしたら慎也に会えないかもと思うと、涙が出そうになった。

引き戻ることも出来ない。なぜならこの電車、一気に終点まで向かうから。

そこから戻っていたらたぶん間に合わなくなる。

どちらにしても駄目じゃないか。

とりあえず行こう。

会えると信じて行こう。

お願いします神様、俺にありったけの運をください。


空港までどうやって行ったか覚えていないほど俺は茫然としていた。

慎也、どこだろう。

今頃手続きとかしてるだろうから、カウンター付近にいるかな?

自動ドアが開いてすぐ、俺は回りの目も気にせず、

「慎也ぁぁッ!」

と彼の名を叫んだ。

「そんなに大声出さなくてもここにいるよ」

すると驚いたことに後ろから慎也の声が聞こえた。

「うわあ!!」

お前って本当に背後から俺を脅かすの好きだな。

「葵くんが、電話でお前が来るって教えてくれたんだ。だから早く会いたくて入り口近くにいたってわけ」

「あ、あ、葵ぃぃ~!!」

俺は泣きそうになりながら慎也に抱きついた。

葵サマ、お前ってばなんて…なんていいヤツなんだ!!

「何で葵くんなの。そこは俺の名前のはずだろ?」

「だって俺っ…あお、葵のおかげで…ッ慎也に会え…だって、うれし…っだもん」

うわ、ホントに涙が出てきた。

しゃっくりを上げながら慎也を我も忘れて抱きしめていた。

「そういう姿勢でしかも泣き顔でそういうこと言われたら下半身暴走するぞ?」

「な、最低!」

慎也のその一言で俺は一歩下がり、ついでに涙も止まってしまった。

今日初めて、慎也の顔をじっくり見た。

落ち着いて周りの状況を把握してみると、女性の方々がちらちら慎也を見ている。

やっぱりカッコいいんだな…こいつは。

…何で俺なんか好きなんだろう。


「で、手続きとか終わったの?」

空港内にある喫茶店に俺たちは入った。

「終わった。あとは荷物検査して搭乗するだけだ」

ウーロン茶をすすりながら慎也は言う。

そっか。やっぱりもう…本当にいくんだな。

「エマさんと義人さんは?」

「先に行ってる。昨日から」

「そ、そうなんだ」

何か信じられない。俺だったら一人で海外なんかとてもじゃないけど行くことが出来ないと思う。

英語も全然ダメだし、そもそもどうやって行くのか分からないし。

慎也ってすげー。

「やべ、もう行かなきゃな」

そう呟くと慎也はシャツの袖をめくり、腕時計を見た。

俺も同じように腕時計を見る。ちなみに葵にもらったやつ。

11時半ちょっとすぎ。あと一時間くらいってところかな。

「それ、付けてきてくれありがとな」

慎也は俺の首もとのネックレスを指差した。

そういや、つけてきてたんだっけ。

「予約の証だから。帰ってきたら結婚申し込むからな」

…ん?

慎也、今何て言った?

結婚申し込む。

つまり、プロポーズ。

プロポーズぅ!!?


「え、ちょっ、ええ??? なっ何言ってんの??」

俺は思いっきり動揺した。

だって結婚申し込むって、…俺一応17年間男として生きてきたはずなんだけど。

「帰ってきたら俺も旭も21歳だろ。結婚適齢期だ」

あれぇ? 結婚適齢期って20代後半じゃねーの?

いや、いやいや、突っ込むところはそこじゃないぞ俺。

「…とりあえず外出ようぜ」

俺が慎也の言葉に翻弄されている間に、慎也は俺の分のウーロン茶代も払った後に俺の腕を引っ張って喫茶店から出た。

やっと我に返り、慎也に金を払ってもらったと知った俺はいそいそと財布から小銭を出す。

それを慎也に渡そうとすると、

「いらない。奢る」

と断られた。

「いや、悪いよそんなの」

「しょーもないことで気を遣わなくいい。奢るって言ってんだから奢られろ。…見送りに来てくれたお礼」

あ、ちょっと笑った。そういえば空港についてから慎也の笑顔、みてなかった気がする。

それに…こんなに人がいるのにいつもの変態ぷりを発揮しないんだな…。

どうなってんだろ。

いつもならちょっと出るとこ出ている人見かけたら触りに行こうとしてたのに。

「何か、いつもの慎也と違うな」

思ったとおりのことを気付くと口にしていた。

「いつもの俺って?」

「その…いきなりフラッと見知らぬ人に抱きつきに行ったり触りに行ったりセックスしようって言いに行ったり」

「あはははっ、そうだな」

さっきよりも慎也はより笑顔になった。

するとまたもや俺の心臓は高鳴る。


「そりゃあ、今は旭だけが好きだからな」

やばい…どんどん心臓の動く速さが増してくる。

本当に俺、慎也のこと…好きなんだろうか。

こんな変態なのに? …嘘だ。

「何で俺なんか好きなんだよ?」

お前のその顔だったらもっといい人、いくらでも見つかると思うけどな。

「旭だから好きなの」

「いっ、いつから?」

「初めて抱いたとき」

うわ!!! 今絶対俺顔赤い! また慎也に可愛いとか言われちゃうフラグなんだ。

…恥ずかしすぎる。溶けそう。

冷たいはずの手のひらで顔を押さえつける。やっぱり顔面、熱い。

「旭」

知らぬ間に、パスポートを提示する場所まで来ていた。

これ以上先には俺は入れない。

慎也は名前を囁くと俺を自分の胸元へ抱き寄せた。

「や、一般人がっ」

いるんだぞ。それもたくさん。

って言おうとしたけど言えなかった。

今回ばかりは慎也のやりたいようにさせてやろうと思った。

「最後にキスしてもいいか?」

「はっはぁ?? お前、好きな人としかするなって何回も言ってるじゃねーか」

「うん。だからしていいか聞いてんだろ」

それって好きか? って聞いてることと同じになるんじゃ?


好き…。キスされても良い?

う~~ん…。キスされるのはもう…不快には感じない。

それ以上のことを何度もされたし。

「早く答えて。もう行かなきゃならないんだから」

そんなに急かされてもだなぁ!

や、やばい…周りの人がこっちを見だしている。

するならさっさとしないと、公衆の面前で男にキスされるのをさらけ出すことに…いや、早くしなくてもそれは一緒か。

「わ、わかった。しても良い。しても良いから早く」

自分でも信じられない答えを俺は出していた。

慎也の唇が俺の唇にあたる。と、すぐさま温かいザラッとした舌が口の中に入り込む。

「は…ッ、ぁん」

口の中を慎也の舌が這うと、嬌声を出さずにいられない。

「し…ん、んぁッ」

くちゅ、ちゅぐ…

何か色んな水の効果音が聞こえて俺は耳から脳髄まで痺れそうだった。

なかなか唇を離そうとしない。

何度も入れる角度を変えては、慎也は俺の口内を舐め続けた。

「あ…っぁ、ん…」

慎也の唾液。キス。

甘くてとろとろで、濃厚で…気持ちが良い。

周囲の目など、もうあまり気にならなくなっていた。

それほど彼のキスの心地が俺の脳内を占領していたからだ。


「…ふぅ」

やっと開放されると、ポタポタ流れ落ちた唾液を俺はふき取った。

そこで俺は周りの痛い視線に気付く。

…やってしまった…公衆の面前でこんなこと。

前に電車の中でいちゃいちゃしていたカップル見て気分が悪くなったことがあったけど、俺も同じことしてるじゃねえか。

「旭、顔真っ赤だね」

慎也は笑いながら、からかうように言う。

「う、うるせぇ…」

「可愛いな」

「可愛いっていうな!」

またこのパターンですか。いつになったら卒業できるんだ。

「じゃ…、俺はもう行くよ」

名残惜しそうに慎也は言うと、くるりと俺に背を向けた。

あ…。

行っちゃう。慎也が行ってしまう。

何か言いたいこと、いっぱいあったはずなのに、何一つとして思いつかない。

慎也…慎也!

俺、やっぱりお前のこと…

「す、好きだ!」

こぶしを握り締め、ついでに目もぎゅっと瞑ったまま俺は叫んでいた。


「…?」

目を開けると驚いて振り返った慎也の顔が見えた。

ど、どうしよう。

勢いで言ってしまったが、後が続かない。

暫し沈黙タイムが流れる。

「今なんて?」

慎也は再び俺のところへ寄り添った。

「あ…その、うー…。えと、……待ってるから、絶対帰ってきたら連絡しろ…よ」

とりあえず、それだけは言えた。

恥ずかしくて溶けるどころか沸騰してそのまま水蒸気になってしまいそう。

その言葉を言った後、俺はまた慎也に抱きつかれた。

「嬉しすぎる。もう旭、可愛すぎ」

続いて耳元で、

「帰ったら四年分、抱いてやるから覚悟してろよ」

と囁かれた。

俺は一気に顔の温度が上昇した。

ぼす、と慎也を突き飛ばす。

「さ…っさっさと行けよッ」

顔の紅潮を紛らそうと、ついでに俯く。


「じゃ、今度こそ本当に行くからな」

「う、うん…」

慎也はまた向こう側を向くと、そのまま係の人にパスポートを見せた。

そして、扉の向こうに入った。

その瞬間、もう、俺の手には届かない所に行ってしまったんだ。

ただ俺は茫然と、慎也の姿が見えなくなるまでその場に突っ立っているだけだった。

慎也は去り際にほんの少しだけ俺に微笑んで見せた。

次の瞬間にはもう慎也は俺には見えなかった。

行っちゃった…。

行ってしまったんだな、本当に。

脱力とともに、目元から涙が伝い落ちる。

俺は首につけてあるネックレスを握った。

慎也。

失ってから気付くものってやっぱりあるんだな。

俺、やっぱり、お前のことが好きだったんだ。

声も上げることなく、ただ涙だけがぼろぼろ零れ落ちる。

慎也のアホ。俺のこと好きとか言うくせになんでアメリカ行っちゃうんだよ。

…って言っても仕方ないけどさ。

とぼとぼ歩いていると手続きをするための待合室みたいなところに出た。

待合室…っていうかもう広場みたいな感じのところ。"室"ではないな。

そこの真正面にある大きなガラス張りの窓から滑走路が見えた。

せめて慎也が乗る便、見送っていこう。

俺はそこにあるシートに腰掛けた。


『ニューヨーク行き、12時30分発…』

待合場に女声のアナウンスが流れた。

アーカンソー州に行くにはニューヨークとか大都市を経由するはずだから、慎也が乗るのはこれのはず。

しばらくボーっと窓の外を見ていると、キィィィンと音がして飛行機が大きく見えた。

あー。

つぎに会うのは四年後か。

まぁお互い携帯は持ってるし、連絡はできるけど。

慎也は俺の家の住所知ってるはずだし、手紙送ってくれたらこちらも送られるし。

飛行機が空の彼方へ行ってしまった後、俺は空港を後にした。

カバン、取りに行かなくては。

帰りの電車の中でふと思う。

今大体1時半くらいだから、帰ったら3時頃かな。

6限目の途中くらいか?

…学校サボったので怒られるかな。

まあ良いか…怒られたってどうでも。

脱力して適当に色々なことを考えていると、電車は俺の降りるべき駅に止まっていた。


「雪代、あとで職員室に来い」

授業中の教室にいきなり入ってクラスメート全員の視線を浴びた上、担任の授業だったので俺は即行呼び出しを喰らった。

やっぱり、ね。

自分の席に着くと、隣の葵がニコッと笑った。

「間に合った?」

「うん、葵のおかげでな」

「そう、良かったぁ」

小声で以上の会話を済ませる。と、

「立花、雪代。授業中だ」

先生にばれてしまった。

俺は先生に目を向けて謝罪がてらに軽く会釈をすると、カバンの中から現在の授業である世界史の教科書を取り出した。

授業を受け始めてから30分もしないうちに終業のチャイムが鳴った。

礼をすますと一気に教室内が騒がしくなる。

「旭ぃ、寂しいね…」

「っていうか何で葵は見送りにこなかったの?」

確かに寂しいな、と相槌を打ちながら俺は聞いた。

「だってさ、二人の邪魔になるようなこと僕したくないもん」

葵が瞼を瞬かせてそう言った。

…ホントに俺の友達にしたらもったいないくらい健気で良いヤツだ。


「雪代」

終礼ホームルームが終わったとき、先生は俺を見て手招きした。

招かれるがままに先生の後を付いていく。

「中田には会えたか?」

先生の言葉は、俺の予想に反するものだった。

「え? あ、ああ。会えましたけど…」

「そうか。良かったな。まぁ…学校抜け出すのは悪いことだが、今日は許してやる」

先生は俺の緊張を解くべく笑った。

「中田ってあんなんだろ? みんなに避けられているし、内心担任するの不安だったんだ。

だけど雪代はあいつと仲良いからな。血相変えて雪代が空港に向かうの見たときは本当に良かったって思ったんだ」

「そうですか…」

俺の方も自然と笑顔が浮かんだ。

先生、というか第三者にそういってもらえると嬉しい。

慎也はいつも知り合いからは避けられていたから。性癖からすると仕方の無いことだけど。

「これからも連絡取り合ったりはするんだろ?」

「はい」

「海外に行ったってなんだって、俺は中田もC組の生徒だと思っているからな」

「そ、それはありがとうございます」

別に俺のことではないが、一応お礼を言っておいた。

この先生、今年度になって始めて見たけど、良い先生だな。

慎也…それでももう、四年後が待ち遠しいよ。


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最終更新:2010年05月22日 17:11
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