苦手存在×苦手存在+無垢なる魔性
さて、どうしたものだろう。
あれから数分、もしかしたら数時間経ったのかもしれない。
時間が進むにつれて、必ずどこかで戦いは行われているに違いない。
つまりは今も尚、死者が出ているということ。
殺し合いは止まらない。簡単には止められない。
だから止めようとする者は、考える時間を欲す。
一分でも一秒でも欲しいと願う。
そんな最中だというのに、彼女――萩原雪歩は未だ教室から出ようとしない。
雪歩が望んでいるのは殺し合いに関する事でも何でもない。
ただ一人だけという空間に耐えがたいが為に同僚のアイドルを求めている。
だが、雪歩はそんな願いがありつつも動かずにいた。
行動力や勇気のある人達は既に行動を開始して殺し合いのゲームに挑戦している。
それでも雪歩は未だスタートライン………そこに立ってるかすらの位置。
遅れを取れば取るだけ、後々響いてくるのは明らか。
チラリと横を見る。
そこにあるのは、デイパックから取り出した一つの鎌。
霊退治に有効の鎌―――でも、やっぱりこれも武器。
普通の人間をも殺傷出来る程の危険な武器。
これを持ってる姿を見れば、殺し合いに乗ってると思われそうな武器。
鎌を持つなんて……しかも本来の目的に使わずにこれは………。
(やっぱり……殺し合い……のため……)
これを使って人殺しをせよ、と言われてる気がした。
言われてなくてもそれを意味してるのは容易に分かる。
人の首を刈ってしまえそうなぐらい鋭い刃。
勢いよく振れば本当にそうなってしまいそう………。
アイドルが持つような物ではないけど、ここじゃそんなの関係無い。
例えどんな容姿だろうが身分だろうがここでは何もかもが許される。
人を殺せと言われて、殺さない方が悪いような場所………。
雪歩は考える。本当に人殺しをしなきゃ駄目なのかと。
答えは簡単、絶対にしては駄目。………でも、それはいた世界での約束。
この世界では逆。人を殺す事が善い行いであると思われる。
もし人を殺さなかったら、どうなってしまうのか?
そんなの分かる訳が無い。それを試す勇気も生まれない。
だからって今までのルールに逆らって人殺しをするなんていう勇気も生まれない。
結局、何をしても駄目。そんな残酷な世界だった。
(どうしたら……いいんですか………プロデューサーさん………)
雪歩は涙目になりつつ、心でそう呟いた。
アイドル活動をいつも支えてくれたプロデューサー。
どんなピンチも助けてくれた。どんな時も励ましてくれた。
ダメダメな自分をどんどん有名にしていった凄い存在。
そんな頼れるプロデューサーは、どこにもいない。
この世界に呼ばれなかった。だからいない。
いない存在に聞いても答えが返ってくる訳が無い。
「……う、ぅぅぅ……っ………」
孤独―――何を聞いても何も返答が無い空間。
いつも傍にいた存在が消えてしまった空間。
目の前で起きた事―――今起きてる惨劇の舞台。
それだけで雪歩を絶望させるのは簡単な話だった。
武器である鎌、これがあっても……むしろこれがあるから絶望させた。
か弱き者にこの戦場はあまりにも過酷で辛すぎる場所だったのだ。
雪歩の涙は暫く止まることはなかった。
◆◇
雪歩は泣き出す頃、同じく泣きたくなる気持ちになってる者がいた。
別に泣いていないししっかり行動はしている訳だが………。
殺し合いに関して、彼は少し不安がありつつも自信はあった。
毎朝のアレと比べればやっぱりこれはさすがにヤバイが………。
その毎朝のアレとは、彼の妹の過激的な起こし方にあった。
伊達に技をかけられまくってるだけあって、防御面には自信はあった。
とはいっても刃物すら防げる訳じゃあない。
結局の所、やっぱり駄目だ。幾ら頑丈な身体があってもこれはやばい。
しかも参加者は男だけとか女だけとかそういうことは言われてない。
彼の弱点――女性に触れられると鼻血が出てしまうという事。
そんな弱点を持ってる男とは、坂町近次郎のことである。
近次郎はまだ女性恐怖症克服特訓の真っ最中である。
その為にまだその症状は治っていないのだ。
身体から出血し、さらに鼻血まで出せば最悪失血死。
おぉ、こわいこわい。冗談じゃない結末だ。
鼻血の出血死で死亡なんてカッコ悪すぎるだろう?
だがまあ、刺されて死ぬとか潰されて死ぬとかいうのも御免だが……。
近次郎は冷静に先ずは支給品を確かめる事にした。
武器、役に立つ物、何でも来い。取り敢えず把握するのは大事。
そんな訳で中身を見てみる。
食料であるパンと水、地図に白紙の紙、おそらくはメモ帳。
そのメモ帳についているボールペン。用意はいい。
その他、新聞に凄く美味しそうなカニチャーハン、数字が書かれた鉛筆。
武器らしきものは無かった。くっ、と一言呟く。
チャーハンと鉛筆はともかく、新聞は読んでみることにした。
普段読まないが、今ここで手に入れた新聞だ。
何か重要な内容が書かれているかもしれない。
そう思って目を通し、まず大きく書かれてる部分を見る。
(児童4名を誘拐……殺害……犯人は学校の校長………なんだこれ……
なんというか……ひどい話だ………)
悲惨な事件の内容が書かれている。
途中まで読むと、近次郎は新聞を丸めてデイパックへと閉まった。
役立つ情報はゼロ、武器にもならない完全なハズレ。
己の不幸を呪う。この先、本当に生きていけるのだろうかと不安になる。
もはや頼れるのは自分の身体のみ。サンドバッグをやらされてるんだから頑丈だ。
それから近次郎は周りの様子を拝観した。
日常の中で見る光景、これは………学校の廊下だ。
窓の向こうは黒一色の為に違和感というものがあるが確かに学校。
ただ、それは自分が知ってる学校ではなかった。
通ってる学校とは別の学校、廊下の作りが僅かながら違う。
やっぱりどこか遠い場所に連れられていると、そう解釈するしかない。
これが夢ならいい。夢だったなら、夢で済む。
現実的に考えれば今までの事なんて全部、夢みたいな内容だ。
………目の前で、人が………しかも首輪が爆発して死ぬなんて………。
そんなのあまりにも非現実的だろう?
近次郎自身も、分かってはいた。
非現実的だがこれは違う。これは本当に夢じゃない。
この首に伝わる鉄の感触。ハッキリと感じれるこの感触。
これが夢だというのか?こんなにも触ってると感じてるのに。
答えはNO。つまりはここは夢じゃなく本当に現実なのだ。
本当に殺し合いが起きている。嘘とでも言いたい。
(本当にさせるつもりなら、もっとちゃんとした武器くらいくれたって………。
まあ、ちゃんとした武器が入ってても人を殺すなんてやりたくねぇけど)
もう一度、支給品を頭の中で思い出してみる。
食料、メモ帳とペン、地図、チャーハン、新聞、鉛筆。
………そういえばと近次郎は何かを取りだした。
それは、鉛筆。もしかしたらこれが武器なんじゃないかと思ったのだ。
鉛筆削りで削った直後の鉛筆は尖っている。
殺害には至らないが、痛い思いをさせるぐらいなら出来る筈だ。
そんな期待を込めて鉛筆を見れば、しっかりと黒の部分は尖っていた。
不幸中の幸いだった。
(よし、これなら―――!?)
鉛筆を確認していたら、後ろから何かがぶつかるような感覚がした。
ぶつかったのは下半身辺り、痛みは全くない。
「おー?誰かいるー?」
暗闇から聞こえたのは、そんな声。
殺し合いという恐怖のゲームに怖さを抱いてない雰囲気の声。
幼さを感じる可愛らしい、そしておっとりした"女の子"の声だった。
近次郎は振り返った。そこにいるであろう存在を確認する為に。
(―――!?小学生……?)
そこにいたのは小さな小さな女の子。
何処から見ても小学生低学年辺りだと思われる子。
綺麗に整った髪、顔には幼さがたっぷり、そして―――。
「おー?おにーちゃん、だれー?」
蕩けるような可愛い声。
近次郎は一瞬だけ鼻血が出そうになったが堪える。
症状ではあるが、さすがに小学生女児に対して鼻血を出すのは危ない。
どう見ても変人にしか見えない。むしろこの光景すら怪しまれるかもしれない。
そんな色々と危ない状態だが女の子は質問をしているからそれに答えないとならない。
「お、俺は………次郎だ。」
近次郎はフルネームを言わなかった。嫌だからである。
フルネームだと名前の一部に"チキン"という単語が入るから嫌なのだ。
だから次郎だけを名乗った。周りから言われる名前だ。
「おー、じろー」
目の前の女の子は近次郎の名前を呼んだ。
おそらくインプットした、って感じの行為なんだろう。
近次郎は女の子の名前を聞こうとするが、先に行動に出たのは向こう。
「ひなた、はかまだひなた」
目の前の女の子―――ひなたちゃんはそう言った。
一瞬、何のことか理解しかねたが直ぐにそれが女の子の名前ということが分かった。
名前が分かったから、次にここの事を聞こうかと思ったが、よくよく考えれば知ってる筈も無い。
それに見えてしまう一つの物体。そう、鉄の首輪。爆発で一瞬にして命を奪う首輪がそこにある。
おそらくは自分にも同じ形、同じ仕掛けが施された首輪がついてるのだろう。
目の前にいるひなたちゃんもジッと自分の首を見ている気がした。
「ひな、おうちにいたのに……なんでだろう」
そんな呟きが目の前にいるひなたちゃんから聞こえてくる。
おそらくこの場の誰もが思う一つの疑問だ。
俺だって、家で寝て気がつけばここにいる訳だ。
また妹の紅葉に技をかけられる覚悟だったのにこれだ。
こんな最悪なゲームは夢だったとしても御免だ。
ひなたちゃんは、殺し合いを理解しているようには見えない。
だからこちらを殺すような真似をする筈が無い。
即ち、完全な白の人物。何の情報が無くともそう言える。
分かっている。自分のこの判断が甘過ぎるのも分かっている。
でも仕方ないだろう?だって、さ………。
女の子が苦手な俺でも、ヤバイんだよ………。
何というか、目の前の女の子を………。
袴田ひなたちゃんを、守りたいっていう衝動がさ………。
よく分からないけど………この子は死んじゃだめだ。
俺の命をかけてでも、守らないと―――。
「おー?じろー、どうしたー?」
「ん、何でもない。取り敢えず、一緒に行こうか」
「おー、たんけんにしゅっぱーつ」
この無邪気さに、己を忘れてしまいそうになる………。
ある意味、これは恐ろしい存在だ………。
別に殺し合いを打倒とか、そんなのいいだろう。
俺はこの子を守る。それが一番、自分にとってやるべきなことがした。
近衛とかもここにいるんだろうか?紅葉もいるんだろうか?
できたらいないでほしいな。アイツ等には殺し合いをさせたくなんかない。
いない事を祈るしか出来ない。こんな醜い目に遭うのは俺だけで十分だ。
だから、こんな小さな子まで殺し合いをさせなくたっていいだろうに………。
「……う、ぅぅぅ……っ………」
突然、そんな泣き声が聞こえてきた。
どう聞いても男が出せるような泣き声ではなかった。
また女の子。自分の身が持たなくなりそうだ。
だが、放ってはおけなかった。ひなたちゃんみたいにまた小さい子だったら?
………いや、小さい子限定じゃないが、泣いてしまうということは気は強くない。
これが罠という可能性だって考えていなかった訳じゃない。
でも、やっぱり自分はそれに乗っかってしまう。それだけ自分は甘いのだ。
甘過ぎる行為は何れ自分に不幸をもたらすであろう、そう言われそうなぐらいに甘い。
可能性を考えて尚、自分はそれに手を出すのだ。
開かれた扉の先には、鎌を持った女の子が一人―――。
直ぐに考えが出てきた。
罠―――泣いてると見せかけて、開いた所を襲うつもりだった。
完全な油断、そんな隙を衝いて殺害をする。完璧に近い策。
勿論、"チキン"な俺がする事は一つだった。
「逃げるぞ!ひなたちゃん!!」
「おー?」
強引にひなたちゃんの手を繋いで走りだした。
俺は急ぎ過ぎた。少し先へと走って後ろを見れば疲れ果てたひなたちゃん。
無理をさせてしまった。残ったのは巨大な罪悪感。
「ご、ごめんひなたちゃん!」
「だいじょうぶ。ひな、バスケしてるから」
疲れて地に座っていたが、その発言と同時にひなたは立ち上がった。
バスケで体力はついた。妹であるかげつと同等なぐらいについた。
これぐらい大丈夫。練習よりも楽勝。そんな感じ。
それでも魔法の効果で、凄く心配になってしまう男。
「いや、不安だ。保健室……保健室はどこだ!?」
直ぐにひなたを抱え上げて、近次郎は走った。
保健室といえば1階。外での怪我人の為に1階に設置されている。
2階とかにあれば、外で怪我した場合、保健室に行くには階段を上る必要がある。
そんな無茶をさせる鬼畜学校が何処にある?知らない学校ながらも冷静にそう考えた。
階段を駆け降りる、足音が暗闇の学校に響く。
―――保健室の姿は、現れようとはしない。
【D-3 - 学校 旧校舎 3階】
【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
【状態】健康 不安
【服装】私服
【装備】成仏の鎌@風来のシレン
【道具】基本支給品
【思考】基本思考:同僚に会いたい。
1、早く同僚のアイドルに会いたい。
2、どうしたらいいんですか……プロデューサーさん……。
3、と、扉が……?!
【D-3 - 学校 旧校舎 1階】
【坂町近次郎@まよチキ!】
【状態】健康 無垢なる魔性の餌食
【服装】浪嵐学園制服
【装備】律の番号付六角鉛筆@けいおん!
【道具】基本支給品 カニチャーハン@ガチムチパンツレスリング 天神町奉知新聞@コープスパーティ
【思考】基本思考:ひなたを命懸けで守る。
1、保健室は何処だ!?
2、もっとしっかりした武器を確保したい。
※ひなたの無垢なる魔性に掛かっています。解除方法は不明です。
【D-3 - 学校 旧校舎 1階】
【袴田ひなた@ロウきゅーぶ!】
【状態】健康
【服装】慧心学園初等部制服
【装備】なし
【道具】基本支給品 不明支給品1~3
【思考】基本思考:???
1、おー、たんけんー。
【律の番号付六角鉛筆@けいおん!】
マークシート式テストの秘密兵器。
田井中律が言うに、それなりに正解するらしい。
………だが、7以上の選択肢だと詰む。
【カニチャーハン@ガチムチパンツレスリング】
蟹になりたいね?蟹になりたいね?
蟹になりたいね?蟹になりたいね?
蟹になりたいね?蟹になりたいね?
【天神町奉知新聞@コープスパーティ】
児童4名 連続誘拐・殺害事件について書かれた新聞。
とにかく残酷な事が文字に書き記されてある。
この記事が役立つ場面などないであろうから、
立派なハズレ支給品。
最終更新:2011年10月15日 01:18