ただ巡り合わせが悪かった
綾崎ハヤテがB-3の農村区域に到達したころには、すでに時刻は3:00を回っていた。
爆発音は1時間前。到着タイミングを思えば遅いかもしれないが、暗い山中のロクに舗装もされていない道を走ってきたことを思えば、早いくらいのタイミングだ。
だがそんな慰めの言葉をハヤテが思うはずもなく。
恐らくは爆心地であろう、瓦礫の山となっている一帯にくまなく目を凝らす。
彼の探し人である、三千院ナギはいないか。
或いは頼れる同僚であるマリアや友人の桂ヒナギクはいないか。
もしかしたらまだ爆発の仕掛け人がいることも想定し、なるべく余計な音を出さず、また夜に紛れるように気配を殺して散策する。
「お嬢様……」
思い浮かべるは一人の少女。
自分を救ってくれた幼き子供。
弱弱しく、我儘で、しかし確固たる己をもつ、尊敬する主人。
その恩に報いるためにも、彼女の安全を早急に確保しなければならない。
ハヤテの内心は、ほとんどがその思いで占められていた。
「……あれは?」
そんなハヤテの視界に、瓦礫とは別種の何かが映る。
木片でも礫でも何でもない。
――――人?
「お嬢様……ではないか」
ゆっくりと近づき、桃色の髪の毛を視認する。
長さから一瞬、同色の髪を持つ桂ヒナギクを思い浮かべたが、服装がまるで異なる。
そして少女のすぐそばには、大きく空いた穴。
まるでこの穴から這い出てきたかのような格好だ、とハヤテは思った。
もちろん少女の細腕でそんなことができるとは思えないので、ただの偶然だろうが。
「息がある。死んではいない。怪我は……ない?」
ハヤテは医者じゃない。だから正確な判断は下せない。
だがあの爆発音のした場所で、ボロボロの様相で倒れていて。
なのに大きな怪我がないとはどういうことだろうか。
……十中八九、少女はこの爆発に関係している。
ハヤテはそう判断すると、周囲に素早く視線を走らせた。
「無事な家屋まで運び介抱をして……情報を聞くことにしよう」
彼女はハヤテがこの地で出会った初めての参加者である。
情報交換を望めれば、もしかしたら探し人たちに行方についても進展があるかもしれない。
或いはこんな爆発が生じた原因や、或いはその仕掛け人についても分かるかもしれない。
それに何より。この寒空の下で少女を置いておけるほど、ハヤテは人に厳しくない。
困っている人は放っておけない。
要はこの行動は、そんな彼の優しさによる行動だったのだ。
■
ただ結論を先に述べさせてもらうのなら。
今回に限っては。
彼の行動は――――
■
ユイが目を覚ましたのは、細かな振動を感知したからだ。
冒頭から色々とあったこともあり、ユイは非常に疲れていた。
勝手に殺し合いの宣言をされたと思えば、変な場所へ転送をされて。
さらには一発ぶっ放したら爆発に巻き込まれて、がれきの下から頑張って脱出。
そもそもとして。彼女は年ごろの女の子と比較しても体力が低めだ。
そしてそんなか細い体力も、無意識とはいえ月霊髄液を動かしたことで削られている。
ともすれば気絶も致し方なく。
寧ろ一時間で目覚めたことは、思いがけない奇跡的なものであろう。
(……先輩?)
うつろな頭で。ふとそんなことを思う。
ふらふらな頭では詳しいことは考えられないが、わざわざおんぶしてくれるということはそういうことだろう。
ならば安心してもう一眠りしても――――
(あ、違うわ)
ふと思った。
先輩はこんないい匂いしない。
なんかこう……高級な、紳士的な、そんな匂い。
こんな匂い、死んだ世界戦線の男衆からするはずがない。
だってアイツら汗臭さと男臭さの塊みたいなもんだし。
筋肉好きのあの人とか、でっかい斧持っているあの人とか、ちょっとかっこいいあの人とか――――
いや、待った、そうじゃなくて、ええと、その、つまり、
「いや、だから、誰えええええ!!!?」
「あ、起きまし――――」
一瞬だった。
少なくとも。ユイはそう思った。
見知らぬ誰かにおんぶされている。そのことに気が付いて、思わず身を起こし。
ユイが目覚めことに気が付いた男の人が声をかけてくれて。
本当に、その一瞬だった。
閃く。
銀色の何か。
重ねて言おう。
本当に一瞬だった。
スパっと。
そんな擬音を思わせるような勢いで。
銀色の何かは男性を文字通り通過して、
「あうっ!?」
ユイは落ちた。
お尻から地面に。
そして形としては男の人を見上げるような体勢になる。
見上げた男性は、薄青色の髪色をした、中性的な顔の美少年だった。
執事服を身に纏ったその姿は、死んだ世界戦線の男性陣とは誰にも似つかわず。
そしてユイが二の句を告げる前に。
少年の身体がぐらりと傾ぐ。
否。
二つに、割れる。
■
ユイは知らない。
月霊髄液の存在を。
ユイは知らない。
月霊髄液がユイの意志を正しく理解することを。
ユイは知らない。
月霊髄液がユイの意志を正しく理解した上で、端的な行動しかとれないことを。
ユイは知らない。
月霊髄液が今しがたユイが少年――綾崎ハヤテ――に抱いた恐れを感知し、外敵を排除するべく自動で動いたことを。
ユイは知らない。
何も知らない。
だがユイは知っている。
ここが彼女の知る世界ならば、時間を置いて復活できることを。
そしてユイは知らない。
ここは彼女の知る世界ではないことを。
ハヤテは知らない。
何が起こったかを。
ハヤテは知らない。
今しがた自分の身体が倒れた理由を。
ハヤテは知らない。
自分の身体が二つに分かれてしまったことを。
ハヤテは知らない。
誰が悪いとかではなく、ただ巡り合わせが悪かっただけだったことを。
だがハヤテは分かった。
もう自分は死ぬことを。
もう主を守れないことも。
もうなにも残せないことも。
だから、一呼吸の間に。
せめて最期に、
「お……じょ……」
綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!=死亡
【一日目/3時00分/B-3、廃村】
【ユイ@Angel Beats!】
[状態] 疲労(大)
[装備] トンプソンセンター・コンデンター@Fate/Zero、月霊髄液@Fate/Zero
[所持品]基本支給品
[思考・行動]
基本:主催者をぶっ飛ばす
1:……え?
【備考】
- 参戦時期は未定
- 爆発音が周囲一帯に響き渡りました
- 月霊髄液は一時間後に再び使用可能です
最終更新:2024年09月28日 16:57