京介と白の情報整理タイム
空を覆っていた夜の闇が、時と共にゆっくりと白み始める。
その流れに合わせて、街に灯っていた人工灯はその光を消してゆく。
時刻は午前五時前。もうあと少しの時間も経てば、陽の光が無機質なコンクリートジャングルを照らすだろう。
ブラインドの僅かな隙間から、僅かに白く染まった空と無機質な街を見渡しながら、浅井京介は疲れ切った溜息を吐きだした。
「……夢じゃないのかよ」
言葉にも疲れが滲んでいる。実際に彼は疲れていた。
首を鳴らし、肩を回す。今いる場所は彼の家の筈だが、全く気を落ち着けることが出来なかった。
腕を伸ばしてみたり、屈伸してみたり、手首を振ってみたり。溜まっている疲労感を少しでも和らげようと、京介は忙しなく身体を動かしていた。
それは。もし彼を知る者が見れば驚くほど無駄な行為であり。
引いては、彼が如何に頭の整理が出来ていないかを示すものでもあった。
「……クソッ」
ガシガシと頭を掻いて悪態をつく、がそんな行為に意味が有る筈もない。
やや乱暴気に椅子に腰を下ろして天井を見上げる。
傍のスタンドが薄く照らすホワイトカラー。
何故か無性にそれが苛立つ。
「……落ち着け、阿呆が」
深く息を吸って吐く。
言葉通り、ここでイラついていても仕方が無い。
荒ぶる感情を無理矢理に抑えると、漸く京介の眼に冷静さが戻ってくる。
そうして一分もすれば、先ほどまでの感情は締めだす事が出来た。
現実逃避なんて実に自分らしくも無い行為だったと言わざるを得ない。
開始宣言からここまで。相変わらず受け入れるには訳の分からない事が多すぎるが、いい加減向き合わなければ自身の身も危うい。
(優先すべきは……生き残る方法。ともかくソレが全てだ)
行動方針は、あくまでも現実的路線に。脳の一部が現状について行けずにショート気味ではあるが、その程度を理由に立ち止まるほど現状が見えていないわけではない。
自分が今為すべきこと。立てるべき目標。生きる為の理由。
聡明な頭は為すべき事を順序立てし、その通りに身体に信号を送る。まず彼が行ったのは、自分のデスクに戻ることだった。
そしてノートパソコンを開き、電源を入れる。起動する合間に電話を取り……僅かな逡巡の後、ある番号を打ち込んだ。
ピッピッという無機質な音の後、京介の耳に流れたのは、同じような無機質な女性の声。
「……繋がらないか」
さしたる驚きも見せず、しかし京介は鬱々とした溜息を吐きだした。
かけた番号は、日本国民なら誰もが知っている警察機関への電話番号。
平時であれば異常事態であることを示しかねないが、開始時からぶっ飛んだ状況が連続していただけに、今更この程度で驚くことは無い。
加えて幾つか知り合いにかけて見るが応答は無し。
外部からの救出は見込めない。
「さて……どうするか?」
わざわざ声に出した自問の言葉に、都合良く返ってくる考えなんてあるわけが無い。
若干の空しさすら覚えつつ、京介は立ち上がったスクリーンセイバーへと目を向ける。
カーソルを動かした先にあるのは、インターネットへとつなぐ省略アイコン。それ一つだけ。
躊躇うことなく、クリック。
「……む?」
一瞬画面が真っ白な無地に塗り替えられ……すぐに緑色のホームページへと繋がる。どういうことかは分からないが、ネット回線は繋がっているらしい。
だがもちろん、それは平時の状況と繋がっているわけではない。開かれた先にあるのは、一つの掲示板。当然京介には、そんなサイトをスタートページに設定した覚えは無い。
手が加えられている。念のため大手検索サイトのURLを打ち込んでみたが、予想通り繋がることは無かった。
「何が目的だ……?」
掲示板には、スレッドが一つ立っているだけ。そのスレッドにも、書き込みが一つあるだけだった。
『ようこそ、バトルロワイアルへ』
他に記載は無し。
スレッドタイトルそのままの書き込みは、まだ誰も目にしていないということだろう。
あるいは、知った上で誰かが書き込むまで静観しているのか。
何れにせよ、確かめる術を京介は知らない。
だが、だからといって手を拱いているのも得策ではないだろう。
「……『test』っと」
ベタな書き込み。こんな場所に書き込んだ事が無いので勝手は分からない故の、文字通りのテストである。
一瞬画面が真っ白に染まると、書き込みの反映を知らせる文章が出た。リロードをしてみると、確かに自分の打った文字が、最初の書き込みの下に反映されている。
「……」
少しの間、画面を睨んで京介は思考する。
そうして何度かキーボードを打つと、首を振って画面を閉じた。
■
怖い夢を見ていた気がする。
目覚めた東儀白が思ったのは、まずそんなことだった。
記憶には残っていない。けど何となく後味が悪いような。
そんな言葉にしがたい不快感の気分。
「……あれ?」
だがそんな不快感も、全く見覚えのない場所で目覚めた事実に塗り潰される。
いつも目覚める部屋でも、修智館学院の別の部屋でもなく、ここは――――
――――殺し合いをしてもらいたい
「っ!」
脳内に突如リフレインした、あの言葉。
夢ではなかった、あの地獄のような宣告。
神職に仕える身でありながら、殺し合いを強いるなど、あってはならないことなのに。
だが今ここに自身がいること自体が、白にとってはどうしようもない事実であり、まぎれもない現実であった。
――――寝かしてくれ
そうだ、と。白は思いだした。
ゲームが開始してすぐに、出会った人がいることに。
その人はここに不法侵入して……
――――鍵、掛けといてくれ
違う、その人はここが自分の家だと言っていた。
そして言われるがままに鍵をかけて、それから部屋の隅で寝ることにして……
そこまで考えて、白は自分に毛布が掛けられていることに気が付く。
少なくとも眠る前は、白は毛布にくるまりはしなかった。
これは、つまり――――
「起きたか」
まるで見計らったかのように、タイミングよくかけられたその声に。
またも思考を強制中断して、白は驚きに跳びあがるのだった。
■
「よし。それじゃ、第一回放送前に情報の再整理な。準備はいいか?」
「はいっ!」
白の目覚めから約30分。
情報の共有を行い、互いの指針を確認したところで、時間はもうすぐAM5:30。
第一回放送まで約30分であることから、京介は情報の整理を提案した。
無論、白とてやぶさかでなく、賛成の意を示す。
「まず互いの知り合いで参加しているのは合わせて9名だ。全員こんな阿呆みたいなゲームには乗らないっと」
「はい、も、勿論ですっ」
「俺ら二人を合わせれば11名。少なくとも全体の内約6分の1は信頼できるわけだな」
「はいっ!」
約60名の参加者に対して、11名はこのゲームに乗らない。
これを多いと見るか、少ないと見るかは人によりけりではあるが……
「まぁ普通の学生なら、好き好んで殺し合いに参加はしないよな」
「はいっ」
「てことは多分みんな同じだよな、きっとゲームに乗りはしないよな」
「その通りだと思います」
「たわけ」
「えっ!?」
突然の京介の言葉に驚きを見せる白。
その様子を見て、京介は溜息を吐いた。
「全員が全員ゲームに乗らなかったら成り立たないだろうが」
「え、でも……その方がよいのでは?」
「俺らはな。けどこんな企画考えた馬鹿野郎どもは違うだろ」
少なくとも、このゲームの企画者たちは争いを見たいと考えている。
そうでなければ、わざわざ60人近く連れ去らうなんて、こんな大掛かりな仕掛けに着手はしない。
それも一般人であるならまだしも、京介のような反社会的勢力に縁があるような奴や、フィギュアスケーターである浅井花音のような有名人にまで手を伸ばしているのだ。
ならばこそ想定は悪い方向で考えていくべきである。
「60人も拉致しておいて、無傷で返すことは無いだろう。多分、と言うか確実に最初の放送で殺された奴らが読み上げられるぞ」
「そ、そんなことは……」
「このゲームを円滑に進めるために、殺人願望のあるやつ、あるいは慣れている奴は紛れ込まされているだろう。性善説じゃどうしようもならん」
京介の言葉に、返答が出来ずに詰まる白。
神職に仕える神父が人を殺した。その事実が、白の人を信じたいという気持ちを蝕んではいるのだ。
故に、冷たいことを言う京介に否定の言葉をぶつけることが出来ない。
(……言い過ぎたか?)
対して。黙ってしまった白を見て、京介はそれ以上の言葉を飲み込んでいた。
何を言われても言い返せる自信はあったが、相手はまだ小学生(京介視点)である。
実際には白は高校生なのだが、小柄な体躯と童顔もあいまり、また年齢までの自己紹介を怠っていたこともあり、誤解が生じているのだ。
つまりは京介からすれば、今の自分は子どもをやり込めている最低な大人と変わらないわけである。
「……まぁ、信じるのは大切だし……殺さないのが一番だけどさ」
「っ!」
「無事だといいよな、みんな」
「はいっ!」
すでにこのやり取りだけで、京介の中で白は小学生確定である。
別に情が湧いたとかそういうわけではないが、小学生を論破して気持ちよくなるような趣味は京介にはないのだ。
それより、
(千堂伊織、千堂瑛里華、東儀白、東儀征一郎、支倉孝平。
相沢栄一、浅井花音、浅井京介、宇佐美ハル、白鳥水羽、美輪椿姫。
……何でグループとして呼ばれている?)
白との会話はそこそこに、疑問を己に投げかける。
無作為、ではない。
知り合いが丸々一固まり、この場に呼び出されている。
何かしらの基準をもっての選択だ。
(俺らで言えば、皆が皆知り合いだ。関係の濃さは違うが、互いに顔見知りではある。
東儀妹も同じで、顔見知り同士が呼ばれている……何故だ)
白の場合は皆同じ生徒会だという。
だとすると、何故生徒会の面々を丸々持ってきたのか。
……正直に言えば、京介自身はこんな状況に巻き込まれても理由付けができる。
反社会的勢力の家系に属していること、『魔王』を追っていること。
敵は多い身分だ。邪魔者と判断され、敵対勢力の手で送り込まれた……いくらでも理由付けができる。
だが白は別だ。
会話をしている限り……普通の、それも年端も行かないような少女が巻き込まれる意味が分からない。
それこそ思い当たるのは、企画者たちの趣味嗜好と言うとことくらいだ。
(……分からん)
考えすぎだろうか。
痛みを訴え始めたこめかみを押さえながら、京介は静かに息を吐いた。
(今はここに立てこもっているが、状況次第では外に出て情報を集めないとならん)
それも戦力にはとてもカウントできないような少女と。
なんなら足手まといとも言えるだろう。
何より……自分自身、きっと白を見捨てられないと。
そう言えてしまう非情になり切れない自分がいるのだ。
(生きていろよ、みんな)
今はただ待つだけしかできない。
せめて悪いことだけは起こらないようにと、今この時ばかりは祈る。
第一回目の放送まで、もうあと少し――――
【一日目/5時30分頃/G-2、京介の家】
【浅井京介@G線上の魔王】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本:今はまだスタンスを決めない
1:まずは第一回放送を聞く
【備考】
第二章以降からの参戦
【一日目/5時30分頃/G-2、京介の家】
【東儀白@FORTUNE ARTERIAL】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本: 殺し合いを止めたい
1:仲間を集めたい
2:兄さまたちに会いたい
【備考】
体育祭後からの参戦
最終更新:2024年11月10日 02:14