思惑と疑念
死体を見つけた。
頭と胴を切り離された、惨い死体だった。
腹部に一発、頭部に一発、それぞれ銃によるものと思われる傷がついていて。
恐らくはその後に首を切り離されたのだろう。
……何のために?
「……首輪がないな。持っていったのか」
死体を触る事には慣れていないが、我儘は言えない。
明らかに人為的な手をもって殺された死体が1つ。
つまり少なくとも1人は。このゲームに乗った人物がいるのだ。
ならば些細なことでも情報がいる。
今後のためにも、対策を立てるためにも。
「血が固まっている……死んでから時間は経っている」
ちらりと時計を見る。AM4:30。まだ始まってから時間が経っているとは言い難いが……
「早々にスタンスを決めた者がいる。……そういうことか」
首輪を持っていたのは、首輪を使って何かをするためだろう。
持って行ったのが、この死体を生み出したものか、はたまた別の人物かは分からないが。
だがどちらにせよ。確固たる意志がなければ、人の首を切り離すなんて行動はとれない。
「……学生、か」
顔は分からない。だが制服を着用していることから、学生であることは想像がつく。
見たことのない制服だから、他校の生徒であることは間違いない。
体系的には小柄な方。まだ年齢的には低めか。
それこそ、妹と同学年くらいの……
「ふぅ……」
そこまで考えて、青年――東儀征一郎――は頭を振った。ひどく思考が疲弊していた。
死体を見続けたことによる精神的疲労だろうか。
或いは、その他の事由によるものか。
なんにせよ、いったん外の空気でも吸った方がよいだろう。
そう考えて立ち上が――――ろうとして、ふと右手に視線を落とす。
黒色の手袋をはめた右手を。
■
強制首輪起動装置。
禁止エリア内の所定時間以上の滞在、或いは強烈な衝撃を受けた際に起動する首輪の爆破機能を、強制的に作動させる装置。
起動させるには、首輪に最低5秒以上触れる必要がある。
だが起動さえしてしまえば、あとは止めようがなく、確実に爆発させることができる。
征一郎は己に支給された強制首輪起動装置の説明文を読んで。
まず真っ先に、使えないものと判断した。
最低でも5秒以上触れるなど、赤の他人と殺し合いを強いられているこの状況ではまず無理である。
故に、持っていても仕方がない支給品であり、他の武器を調達した方が良いと考えていた。
「最低でも5秒。場合によってはそれ以上かかる……首輪は均一の代物ではないということか?」
疑問を覚えたのは、冷静さを取り戻して、もう一度説明文を読んだ時だった。
5秒。まず不可能な時間設定。だがよくよく文章を読むと、最低の文字が付いている。
もしかしたら『当社比99%減』のように、消費者への保険のような言葉なのかもしれない。
だが赤の他人同士を殺し合わせるような悪趣味な輩が、そんな配慮をわざわざするだろうか。
それならば首輪にはそれぞれ性能に差があるから、モノによっては起動までに時間がかかると考える方が、よっぽど理屈としては通る。
「……実物があればな」
今のままでは、いくら考えても意味はない。
分からぬことに時間を費やすよりも、実物を手に入れて分解なり動作確認するほうがよっぽど有意義である。
だからこそ。たまたまとは言え死体を見つけられたのは、僥倖と言えた出来事だったのだ。
残念ながらメインである首輪は持ち去られた後ではあったが……
「ふぅ……」
しばし装置が内蔵された手袋を見ていた征一郎だったが、ため息を零して視線を切った。
もうこの場で得られるものはない。
加害者も当の昔にここを離れただろう。
長居は無用だし、なんなら残ってこの場を第三者に見られる方が不都合だ。
余計な面倒ごとに巻き込まれるのは好ましくない。
そう判断した征一郎はすぐさま消防署を出るべく行動に移した。
死体には目もくれなかった。
【一日目/4時30分/H-2】
【東儀征一郎@FORTUNE ARTERIAL】
[状態] 健康
[装備]強制首輪起動装置
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本:生存優先
1:消防署から離れる
2:首輪についての情報を収集したい
【備考】
最終更新:2024年09月28日 16:48