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Don't stop



 千堂伊織がB-3の廃村区域に到達したころには、すでに時刻は4:00を過ぎていた。
 まだ空は暗い。だがじきに明るくなるだろう。
 だがこの夜の中でも吸血鬼である彼の眼には、くっきりと地帯の状況が見える。
 ランタンすらつけずに行動しているが、何も問題はない。

「さて……こっちの方面だったよな」

 彼がこの地に来たのは、B-3方面から爆発音が聞こえたからだ。
 爆発音が生じたのは3時間近くも前。誰が何の目的で爆発を起こしたのかは不明だが、これだけの時間が空けば落ち着いた後だろう。
 冷酷に聞こえるかもしれないが、伊織は脅威が落ち着いたころを見計らって行動をすることにしていた。
 それだけ爆発音は凄まじく、仮に巻き込まれた者がいたとしたら、ほぼ確実に助からないであろうことが予見されたからだ。
 今更向かったところで誰も助けられないのなら、情報を取りに行く。
 冷静に、冷徹に、冷酷に。
 そう伊織は判断したのだ。

「……これは酷いな」

 爆発があったであろう場所は、存外早くに見つけることができた。
 粉々になった木片、吹き飛んだ塊、一部しかのこらなかった家屋の跡。
 それだけ爆発が大きな威力であったことがうかがい知れる。

「なんだ……一部分だけ抉れている」

 そんな中で一部分、明らかにおかしな箇所があった。
 瓦礫が無作為に散らばる中、不自然に穴の開いた箇所。
 その一部分だけをえぐり取ったかのような、或いはまるでそこから何か這い出てきたかのような穴。

「特撮映画の怪獣の卵でも孵化したってことかい?」

 ありえな……くはない。何せ自分自身が、世間一般で言えば空想上の生き物である吸血鬼だ。他の何かがいてもおかしくはない。
 とはいえ、この穴のサイズの卵が孵化して怪獣が孵化したとしたら、もはや自分たちでも太刀打ちはできないだろう。
 恐らくだがこの悪趣味な催しの主催者たちは、そんなことは望まないと思われる。
 なので怪物の線はほぼ0%だろう。
 だとしたらこの穴は何だって話なのだが。

「まさか瑛里華がフルパワーで殴った……そんなわけないか」

 愛しの妹が癇癪を起して八つ当たりをしたとか。
 ないと言い切れないところが悲しいところだ、と伊織は思った。
 何せ妹は吸血鬼でありながら血を摂取することを拒んでいる。
 そのうえでこんな理不尽で悪趣味な催しに強制参加させられたのだ。
 今回のこれは違うとしても、余裕のない状況もあり、血に抗うために別のどこかで八つ当たりをする可能性は十分にある。

(と言うか、恐らくだがあの人も一枚嚙んでいるだろうな)

 冗談はそこそこにして。思考を切り替えて思い浮かべるは、そりの合わない一人の女性。
 自分たちの母にあたる存在を思い浮かべて、改めて伊織は渋面を作った。

(目的は……瑛里華に血を飲ませ、眷属を作らせるため、とかね)

 それにしては随分と遠回しな方法を取ったとは思うが、そこまでして吸血鬼の自覚を促したいということか。
 筋道を立てられるとは言い難いが、無いとも言い切れない。
 まだ結論をつけるには早々過ぎるが、可能性はなくもないのだ。

「あの人らしくもないけど……まぁ俺自身もあの人のこと分かってないしな」

 予測があっていようがあってなかろうがどっちでもいい。
 すでに終わっている関係。今更本当にどうでもいい。
 結局結論は放り投げる形で思考を強制的に中断した。
 心配があるとすれば黒幕の正体よりも、今まさにどうなっているかも分からない妹の方だが……

「まぁ大丈夫でしょ」

 妹は年齢や経験こそ足りていないが、それでも確固たる意志を持っている。
 そう易々とは飲まれることはあるまいし、変なことを起こすこともないだろう。
 伊織はそう結論付け――――

「おいおい、なんだこりゃあ!!!」

 良いタイミングだね。
 第三者の声に、内心で伊織は笑みをこぼした。










 井ノ原真人と柚原このみがB-3に来たのは、爆発音を聞いたから……ではない。
 爆発音が届かなかったわけではないが、彼らがいるところとは距離が空いていたこと、また真人が気絶から回復中だったため、音を気にする余裕はなかった。
 ではなぜB-3に来たのか。それは人が集まりそうな場所へ向かいたかったからである。
 彼らがいたのは海場遊園地。遊園地という名前の響きは結構だが、位置が島の端っこであるのはいただけない。
 しかも周囲に他に目立った施設はない、こんな状況ではわざわざ人も来ないだろう。
 なのでまずは近場で人が集まりそうな市街地方面へ向かうついでに、廃村に寄って来たというわけだ。



「――――てことで、僕もあまり分かってないんだよね」
「そうか、じゃあ仕方ねぇな!」

 仕方なくはないと思うよ。伊織は口には出さず、しかし心の中でしっかりとツッコむ。

「そうでありまするか。じゃあ仕方ないですね」

 いや、だから仕方なくはないんだって。もう一度、伊織は心の中でツッコむ。

「で、おめぇは……あー、なんつったけ?」
「千堂伊織だよ」
「おお、そうだそうだ。悪いな」

 井ノ原真人と柚原このみ。
 2人との情報交換は、短時間で終わった。
 と言うかほとんど意味はなかった。
 2人とも伊織以外とは合わなかったこと、ほとんど海上遊園地から出ていなかったこと。
 交換する情報がほぼないのだ。
 加えて、

「で、千堂。おめぇはこれからどうするよ?」
「良かったら一緒に行動しませんか?」

 なんともまぁ……2人とも所謂「いいヤツ」なのだ。
 恥も外聞もなく、知り合いたちは皆こんなバカげたゲームには乗らないと言い切り。
 それどころか、こんなゲームをみんなと一緒にぶっ壊すと宣言する。
 しかもそれらは、自身を納得させようとする思い込みではなく、本気の言葉なのだ。
 だから余計な言葉はなく。
 いたずらに不安を煽るはずもなく。
 力強い言葉だけが残る。

「うーん……そう、だねぇ……」

 伊織は考えた。
 伊織が向かおうと考えていたのは、修智館学院である。
 彼の通う学校であり、友人たちもここを目指すことが予想されるからだ。
 2人と一緒に市街地に向かうのであれば、修智館学院からは離れてしまうことになる。

(……けどまぁ、瑛里華や征が学院に来るとも限らないしなぁ)

 学院に向かったところで、何か特別なものがあるわけじゃない。地の利はあるが、それくらいだ。
 しかも地形を見るに、学院の周囲が禁止エリアに指定されてしまうと、市街地への移動は難しくなる。
 学院で待っていたとしても、生徒会の面々が来るとは限らないだろう。
 ……だが、

「お誘いは嬉しいけど、俺は修智館学院に向かうよ。友人たちがいるかもしれないしな」
「そうか……じゃあ仕方ねぇな! もし途中でおめぇの仲間に会ったら伝えとくぜ!」
「はい! 千堂さんもお気をつけて!」

 ありがたいことだ。本当に。
 2人とも、本当に善人なのだろう。
 こんな状況におかれても真っすぐに最善の未来を切り開こうとする姿勢は、実にまぶしく映った。
 ……主催者を殺そうと。この手を染めることを厭わない自分と比較して、特にまぶしく。

「それじゃあ幸運を祈っている。是非、また会おう」
「ああ! じゃあな、千堂!」
「また会いましょう!」



【一日目/4時30分/B-3 廃村】
【柚原このみ@To Heart2 XRATED】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム×1~3
[思考・行動]
基本:みんなと合流してゲームをぶっ壊す
1:みんなと会いたい
2:市街地へ向かう

【備考】
  • 参戦時期は未定
  • 千堂伊織と情報交換をしました


【一日目/4時30分/B-3、廃村】
【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
[状態] ほぼ健康、一時的な脳震盪
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム×1~3
[思考・行動]
基本:みんなと合流してゲームをぶっ壊す
1:みんなと合流する
2:市街地へ向かう

【備考】
  • 参戦時期は未定
  • 千堂伊織と情報交換をしました









 千堂伊織が井ノ原真人や柚原このみと行動しなかったのには、もう一つ理由がある。
 2人から離れ、伊織は廃村の無事な部分へと向かった。
 正確には、どこからか漂う血の匂いを追って。

「あった」

 ある廃屋の中で。
 月明りも届かぬ部屋の片隅で。
 伊織は見つけた。
 物言わぬ躯を見つけた。

「銃で一撃、か」

 銃で撃ち抜かれた死体だ。
 恐らくは至近距離からの一発が死因だろう。
 残っている顔のパーツから察するに、生前は整った顔立ちであることは推測されるが……

「……嫌なものばかりで参るよ、ホントに」

 腕が折れているが、抵抗らしい抵抗はそれくらい。争った末の殺害と言う訳ではなそうだ。
 ということは顔見知りの犯行か、不意を打っての犯行か。
 なんにせよ、早々に人を殺す輩が出てきたわけである。

「爆発音と同じ人……いや、違うかな」

 死体の状態を見ながら、伊織は零した言葉に否定を重ねた。
 爆発音がしたのは死体があるこの廃屋から離れた場所。それも爆心地を作り、その音が周囲に響き渡る程度には大きな爆発だった。
 わざわざそんな規模の爆発を、こうも冷静にこの死体を作り出した輩が、行うとは伊織には思えなかったのだ。
 もちろん100%ではないだろうが、

「まぁ、もう一つ見てからにするか」

 もう一つ、血の臭いがする。
 鋭敏な嗅覚で察していた伊織は、重たげに腰を上げた。
 場所はそんなには遠くはない。修智館学院に向かう途中で寄ってもさほど時間は取らないだろう。
 殺人鬼を想像するのは、それからでいい。

「殺人鬼、ねぇ……」

 自分が今しがた思った言葉に対し、伊織は呆れたように苦笑いを浮かべた。
 吸血鬼である自分からすれば、普通なら殺人鬼程度は多少注意を払う程度で良い。
 だが今はどうか。制限をかけられて全力を振るえない今の自分は、殺そうと思えば殺せる存在だ。
 そしてそのことに、いつもよりも慎重になっていることも事実だ。
 でなければ、こうやって実物も分からぬ相手のプロファイリングなんかしない。

「……ははっ」

 伊織は笑いを零した。自身を小馬鹿にする笑いだった。
 どうも考えがマイナスになっているな、と思った。それは実際その通りだった。
 それこそもしも伊織をよく知る誰かがいたとすれば、眉をひそめるくらいには。

「まいったね」

 やれやれ、こんなことじゃ先が思いやられるな。
 伊織は天を見上げて首を振った。



 そうとも。まだまだやらなければならないことはたくさんある。
 こんなところで立ち止まってはいられない。




【一日目/4時30分/B-3、廃村】
【千堂伊織@FORTUNE ARTERIAL】
[状態] 健康
[装備]
[所持品]基本支給品、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本:ゲームの破壊
1:血の臭いがする方向へ向かう
2:修智館学院へ向かう

【備考】
  • 体育祭後より参戦
  • 譲原このみ、井ノ原真人と情報交換をしました


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No.014:少女と筋肉と遊園地 井ノ原真人 No.0:[[]]
最終更新:2024年11月10日 02:13