桐葉は逃げるよどこまでも
G-4、冬木大橋。
簡易地図の、後から付け足したかのような絵。
そんな不安を覚える絵とは異なり、実物はしっかりと建造された代物である。
そんな感想を抱きながら、紅瀬桐葉は冬木大橋の車道の欄干に背を預けながら休憩を取っていた。
季節にしては随分と冷えるが、そこはあまり気にはしなかった。
休むならこんなオープンな場所ではなく、どこか屋内など落ち着ける場所……とは考えていなかった。
「……気持ちが悪いわ」
率直に。今の気分を独り言として零す。
F-6で森田賢一なる人物と交戦後、F-5を経由してG-5へと移動した。
H-5にある衛宮邸なる建物を目指すためだ。
消防署や病院のような誰もが知る施設ならともかく、第三者の名字が付いている建物。
支給された地図を信じるのならば、衛宮邸の他には浅井邸と三千院邸がある。
第三者の名字が付いているということは、他の家屋と比べても何かしらの――例えば、武器があるとか、或いは防衛に適しているとか――差別化が図られている可能性が高い。
そんな予測を基に移動をしたはいいが……
――――酷いわね
G-5の市街地に足を踏み入れた時から異様な空気感を桐葉は感じ取った。
さらに加えて、微かに漂ってきた血の臭い。
恐らく誰かが死んでいる。それも時間はさほども経過していない。
となれば加害者も潜伏している可能性は高いだろう。
相対しても負けることはないだろうが、無暗に体力を消耗することは本意ではない。
――――衛宮邸はあきらめた方がよさそうね
G-5一帯、いやその周辺も含めて。
桐葉はこの周辺地帯に残るのではなく、別の場所に移動することを決めた。
とすれば、距離はあるが冬木大橋を渡った先がいいだろうか。
そう考えながら進む先を変え、
――――見られている?
背を向けたその瞬間に感じる視線。
品定めをされているような、或いは舐めまわすかのような、不快な視線。
経験がないわけではない。桐葉は一見すると美少女に見えるが、その年齢は実はすでに100を超えている。
長い人生の中で、同様の視線を浴びることは珍しくもない。
だが一方的に見られるのは初めての経験だった。
必ず視線の主は分かった。それがクラスメート、或いはただの通行人だったとしても。
そんな桐葉が、一方的に把握され、しかも品定めをされている。
直感だが、桐葉は断定した。この視線の主は、あの血の臭いに深く関係があると。
――――不愉快だけど、逃げるに越したことは無いということね
癪である、とは言わない。
必要なことは生きること。日本刀しか支給されてなかったことから賢一を襲ったが、桐葉としてはこんな悪趣味な争いに関わるつもりはない。
だから逃げの手を迷いなくとった。関わる必要は一切ない。
誤算があるとすれば、冬木大橋まで移動したにも関わらず、視線を振り切れなかったことだろう。
故に。
待つ。
冬木大橋はその名の通り広々としている。
大橋にたどり着いた時点で、桐葉は作戦を変えた。
いつまでも視線を振り切れないのなら、相手を待つ。
せめて相手がどんな輩であるかを視認する。
例え相手が重火器のような武器を所持していたとしても、距離が空いていれば当たる可能性は低い。
加えて自身の身体能力を考えれば、これだけの広々としたスペースがあれば、まず間違いなく傷を負うことはない。
――――違和感
「……いえ、これでいいわ」
一瞬。何かが過った。
だがそれを飲み込み。桐葉は待つことを選択した。
そう。問題ない、はずなのだから。
■
ソレを、見た。
視認した。
大男だった。
目算で2mはあるだろうか。
夜に溶けるような暗めの色の衣装を身にまとっているのに。
溶けきれず、夜に拒絶されているかのような存在感。
……アレは、人ではない。
桐葉は瞬時に、そう判断した。
相手は自身と同じ、人外の存在であると。
この時すでに、桐葉は撤退をほぼ99%とのモノとして考えていた。
戦おうとは思わない。逃げの一択のみ。
プライドなどない。彼女の優先は生き残る事なのだから。
そんな撤退までの残りの1%を後押ししたのは、男の足元からゆらりと出てきた、軟体生物のようなもの。
にゅるりと。
ゆらりと。
夜目に、そして遠目にもわかる奇怪な代物。
ソレを見て、生理的な嫌悪感を自覚するよりも早く。
桐葉は撤退をした。
考えるよりも先に体が動いた。
後ろを振り返ることもない、全力の逃走だった。
「残念、ですね」
大男――キャスターは一人言葉を零した。
「ただ良い判断でした」
聡い子であった。
今しがた逃げた少女に対し、キャスターはそう判断した。
視線を感知して逃走。
遮蔽物の少ない地形で情報収集。
そして敵わないと見るや撤退。
1人で行動をしているようなのもあるが、自身の力量を正しく把握しているからこその判断である。
いずれも実に的確で無駄がなかった。
「さぁて、どうしましょうか」
どうしましょう、とは言ったがほとんど彼は方針を決めている。
疑問は疑問の体をなしていない。
再開した歩みの向かう先は、少女が逃げた橋の向こう側。
……否、
「さぁ行きましょう、彼女の元へ」
目標はすでに明確になっている。
キャスターの手元には、彼が生前から使用していた螺湮城教本からなる本。
なおこの本はただの本ではない。
とある魔導書の抄訳本であるが、立派な魔導書であり、彼を人外たらしめる力の一つである。
彼の足元から這い出てきた軟体生物のようなもの――すなわち海魔も、この本の力で生み出されたものである。
もちろん何もないところから生み出せはしないが、彼のそばには幸運にも死体が二つ転がっていた、
一つは相沢栄一、一つは朱鷺戸沙耶。
その死体を基に作り出された海魔たちを従え、彼は進む。
優勝を目指すわけでも、生き残るわけでもなく。
ただただ――――いずれ自分を罰するであろう、神の証明のために。
【一日目/4時30分/G-4、冬木大橋】
【紅瀬桐葉@FORTUNE ARTERIAL】
[状態] 疲労(大)
[装備]
[所持品]基本支給品、日本刀
[思考・行動]
基本:生存優先
1:大男(キャスター)から逃げる
【備考】
【一日目/4時30分/G-4、冬木大橋】
【キャスター@Fate/Zero】
[状態] 健康
[装備] 螺湮城教本
[所持品] 鎖鎌
[思考・行動]
基本:全員殺害
1:出会った人間全てを殺す
2:少女(桐葉)を追う
最終更新:2024年11月10日 02:14