―― 深紅の想い
これは私が思いを寄せるあの方との出会いのための苦労とそれを打ち砕かれる悲しい挫折の物語です。
そもそものきっかけは何の気なしに毎晩楽しんでいた夜のお散歩でした。
夜空の星に思いをよせ、星明かりに照らされる街道を行くのはとてもロマンチックであり、それでいて心の和むものです。
その日、私は、特別目的があったわけでもなく居住区の散歩にいそしんでおりました。
すると、暗い夜道で唐突に私は彼に話しかけられました。
それにしても、運命というものは本当にあるのかもしれません。
何の気なしにしていた夜の散歩に、意味もない居住区という散歩道。私の思いは空にうかんでおりました。けれども、彼との偶然の出会いと彼から発せられた甘い言葉は宙に浮かぶ私の心を鷲掴みし、私を地表に引きずりおろしたのでした。
その彼との出会いからこの物語は
始まります。
そして、物語は今現在にとびます。私は、元気なお日様の下、居住区の道を歩いております。ジリジリと肌を焼くそのお日様を見上げ、私の熱い思いが全くもってお日様の熱さに劣っていないことにとてつもない喜びを感じました。灰色の敷石を二つ飛ばしに踏みしめ、お気に入りの相棒ならぬ相杖のテンペストで敷石をコツコツと叩きながらテクテクと待ち合わせの場所へと向かいます。胸からは大きな期待が湧きおこり、これから訪れる幸福な時間に思い焦がれ、もう死んでしまってもかまわないとさえ思えてしまいました。
だけど、こんなところで死んでしまってはいけません。なぜなら、私にはあのお日様でさえ、嫉妬に燃え上がるほどの感動の出会いがまちうけているのですから。
拳を振って前へ進みます。先に待ち受ける輝かしい未来へと!
時は再びまい戻り、私はシェルン緑地を訪れておりました。非常に緑が豊かで、空気を胸いっぱい吸い込むと、胸の中から体全身が清められるような素晴らしい気分になります。
かつて私もここで鍛錬をつみました。早く戦場に出られるほどの魔法を放てるようになりたいと未来に思いを寄せる情熱は今感じているあの方への情熱と互角にわたりあえたことでしょう。そう思うと私も昔から少しも変わっていないのかなぁとなんだか照れくさくなってしまいました。
私はあの方と出会う前に渡さなければならないものを取りいこうと意気揚々とやってきたのですが、よく考えたら求めるものがどこにあるのかさっぱりわかりません。
どうしようかと悩んでいると、後ろからヴェノモスさんがやってまいりました。
なんという幸運!と胸を躍らせ、私はヴェノモスさんに駆け寄り求めるものがどこにあるのかを尋ねました。
するとヴェノモスさんは懇切丁寧に求める物の在り処を教えてくれました。
なんてすばらしい蜘蛛さんだとじんわりと感動が胸いっぱいに広がりました。
素晴らしい環境に懐かしい風景。そして心温まる出会いと優しさに触れ、私の顔は笑顔が絶えません。本当にありがとう神様、私をここに産み落としてくれて!
さてと、蜘蛛さんが何か言いたげなので少しこの場を蜘蛛さんにお譲りしたいと思います。
ささ、どうぞ!
にやにやして気持ち悪い人間に代わりまして、わたくしシェルン緑地に縄張りを構えますこのヴェノモスがお話を引き受けましょう。
わたくしは、この緑地に住みついて早三十年。幾人もの人間と会い、時には虐げられ、時には血肉を貪ったものであります。
そして、今日も人間を襲い、今宵を乗り切る力の礎とさせていただこうと、人間の拠点である大きな建築物のそばで待ち受けていました。
すると、中から平和そうな顔をした人間がスタスタ飛び出し、このわたくしめの縄張りを侵犯するではありませんか。これは重大な和平問題です。わたくしの縄張りを侵すのですからそれなりの覚悟とそれなりの代償をはらってもらおうじゃないですか!
そう思い、足音を忍ばせて立ち止まり思案しているその人間に近づいて行きました。
しかし、ある異変に気づいたのであります。恰好がいつもわたくしの襲う人間たちとは全く違うではありませんか。そして、わたくしの野生の勘がじりじりと現実をしらせてきました。そう、この人間はもしもこの世界にレベルというものがあるのならば到底かなわない程のレベルの持ち主であると告げているのです。
例えて言うなら、襲いかかってもダメージを一桁しかあたえられないような絶望感といいましょうか。
私は腰がぬけつつも、あ、腰なんてあるかきわどいですけど、踵を返して逃げ出そうとしました。
しかし、その人間はわたくしの存在に気づいてしまい、ものすごく恐ろしい形相、強者の余裕とでもいうのでしょうか、恐ろしい笑顔をむけて私に突進してまいりました。
今晩のおかずどころか一変して私の今晩があるかどうかの大問題に派生してしまいました。
死を覚悟し、わたくしはただ立ちすくんでいるとその人間は恐ろしい笑顔のまま、平和的交渉を持ちかけてきました。
「ヴェノモスさん、ヴェノモスさん。○○はどこにあるのでしょうか?(教えてくれたらみのがしてあげてもかまわないよ、ニヤリ)」
「そ、それはこのシェルン緑地にはないかと思われたり思われなかったりします、はい」
その人間の表情が一瞬曇ったのを察し、わたくしの命が閉じるのも察しました。ああ、さらば愛しきわが人生。長くて美しい前足のお前。猛々しく太い後ろ足達よ。
「じゃあ、どこにあるかわかったりしますかね?(仕方ない、妥協案だ。ほかの場所を言え。さもなくば、お前のその立派な前足を引きちぎり鍋にぶちこんでたべてやるぞ)」
「H7あたりにいる大きなヴェノモスさんが持っていらっしゃったような気がしなくもありませんです、はい」
するとその人間の顔は再び不敵な笑みをうかべるのでした。私の思考は再び凍りつきます。
「そうですか!優しいヴェノモスさん、ありがとうございます!このご恩は一生わすれません!(次来るときまでにはその足をきれいにみがいておくんだな。鍋に突っ込む足が汚れていては私の手間がふえるだろう?)」
「い、いえ、お気になさらずに。わたくしのことなんてきれいさっぱりわすれてくださいであります、はい」
「それでは、ヴェノモスさん!お元気で!(せいぜい他の人間に食われるような野暮なことはしないでくれよ)」
そういって、人間はふたたびテクテクと緑地の奥へと走って行きました。
それと同時にわたくしは反対方向ににげだすのでした。本当にありがとう、神様!わたくしにいましばらくの命の猶予を与えてくださって!
親切なヴェノモスさんとはうってかわって、地図を頼りにたどり着いたH7にいらっしゃるヴェノモスさんはとても大きく、なかなか話の通じない方でした。平和的な交渉も試みたのですが、どうしても聞き入れてくれなかったので少し凍っていただいたところ、一変してヴェノモスさんの口調は丁寧になり、私の求めるものを無償で譲ってくれました。
頭が熱くなっていたのですね!それでは仕方ないです!私の氷がすこしでもヴェノモスさんの熱を冷ますのにお役に立てたかと思うと嬉しくてなりません。本当に素晴らしい出会いばかりで私の目には不覚にも涙がにじみ出てきそうになってしまいました。
さてさて、目的は達したので、私は再びアズルウッドに戻り、ショッピングにいそしみました。目的はもちろん彼に渡すための弓!この弓とシェルン緑地で手に入れたあれを渡した時の彼の表情が私の脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消えました。
けれど、弓を買う時に、店員さんが意味深なことを仰っていたのが気にかかります。
「あまり期待しないほうがいいですよ」
そうですよね、これを渡したところで私の思いが報われるとも考えにくいです。恋とはそういうものです。時には優しく、時には厳しく、人生というはるかに長い道中に闇をおろすことだってあるのですから!だけど、私はやめません!ここでやめてしまっては、私は一生後悔する気がしてならないのです。私は私の信じた道を進みます!そうですよね?神様!私は正しいですよね?
そして、私は今現在彼との待ち合わせ場所につきました。
そわそわとあたりを見回していると建物の陰から猫背の彼がこっちにやってきました。
「準備はどうだい?」
「万全であります!これをどうぞ!遠慮せず受け取ってください!」
「うん。全部そろっているね、ちょっとまっててね~」
そういうと猫背な彼は再び建物の陰に消えてしまいました。
私の胸中はと言うと、はち切れないかと思ってしまうほど心臓が早鐘をうち、今にも死んでしまいそうでした。やっとあの方とであえる!
「おまたせ~。これをどうぞ」
そして、私には一本の弓が手渡されました。
「あら?こ、これは…」
その弓はネイチャードと呼ばれるごく一般的な弓でした。あれ?愛しのあの方は?
彼もといコープさんは、
「ごめん、今日はそれで精いっぱいだったわ。またきてくれよ~」
などと平和そうな笑顔を向けて私にしゃべりかけるのです。
なるほど。そういうことですか。愛しのあの方、もといサラスヴァティとの出会いはまだ先の話になってしまうのですね。神様、これが恋なのですね、恋焦がれその結果がこれとはなんとも悲しいです。なかなかうまくいかないものなのですね。
だけど、何だろうこの感覚…どうしようもないほどに…
「元気出せよ!また次があるって!」
そう言ってコープさんは私の肩にポンと手を置きました。
その瞬間、私の防衛本能が、意図せずですが、はい、意図せずです、働いてしまいました。
「フリージングウェイブ!」
吹き飛ぶコープさん。舞い散る氷の結晶。砕かれる私の思い。
ある暖かな日の居住区での出来事でした。
―― End
最終更新:2009年03月25日 19:04