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  • ホラー映画と子ネコのキモチ

たぶん素敵妄想集(爆@ ウィキ

ホラー映画と子ネコのキモチ

最終更新:2009年09月27日 14:23

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管理者のみ編集可
 それなりに夕飯食べて和んだから、居間でDVDを見てたら、ガラッて戸が開いた音がした。

「みきねぇ」

 部屋から出てきたパジャマ姿のれいながちょっと顔をしかめてる。
「ん? 何」
「何って…へんな声するっちゃ」
 ちょっとぼんやりした声。そういえばこいつ、さっき美貴が部屋を覗いたら寝てたっけ。ベッドでマンガ読みながら。
「あっそ」
 美貴はまたテレビに顔を戻した。

 ブラウン管の中では梨華ちゃんがだいすきな、血がドバーッと噴き出て、わらわらと集まってきたゾンビがイケメンやら美女やらどーでもいい人やらを喰らっている。

 れいなはこっちに来る様子もない。
 まぁ、こーいうの嫌いだからね。見かけによらず。
 美貴とおんなじガッコの梨華ちゃんや先輩のヤグチさんをびびらせたくせにけっこう怖がりだったりするタナカレイナ。
 美貴の腹違いの妹。

 なんとかゾンビを振り切った主人公とその恋人。
 逃げ込んだ部屋のドアにバリケードを作って、ひと段落。

 静かな部屋。

 うーーっ!
 どきどきどきどき…。

「みきねぇ」

「きゃあっ!」
「やぁぁぁぁっ!」

 先に叫んだのはブラウン管の二人じゃなくて美貴とれいなだった…。

「ちょっとぉ! れいなっ!」
「ぃやぁぁぁぁっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 殴ってやろうかと思ったけど、ぎゅって美貴にしがみついて頭を抱えてるれいなを見たら、なんかそんな気が失せた。
 だってさ、なんかわけもなくびっくりしておびえた子ネコみたいでかわいいじゃん。
 ガタガタ震えてるから、そっと抱き寄せた。
「ほら。怖くないから」
「うぅ…。みきねぇ…」
 だからさ、上目遣いで見上げんなって。それやっていいのは梨華ちゃんだけだから。
 …。
 よっちゃんさん…。やっぱあの上目遣いに落ちたんだろうなぁ。ま、それだけじゃないと思うけど。
 それはともかく、うるうる涙でじっと美貴を見つめるおびえた目。それはそれでかわいくて、ついつい頭をよしよしと撫でてしまったりする。
 むぅと唇を尖らせて、邪魔くさそうに頭を振って手から逃げようとするから、意地でも撫で続けてやる。
「むぁっ! もぉっ! みきねぇっ!」
「なんだよ」
「やっ、もっ…やめぃっ!」
「やだ」
 コドモ扱いが微妙なお年頃ってヤツ。でも梨華ちゃんにはちゃっかりそれで甘えたりするんだよねぇ。

『あーもぉ。かわいいなぁ。れいなはぁ』
 きゅって抱きしめて頭を撫でる梨華ちゃん。
 うれしくって笑いが止まらない赤い顔のれいな。

「だいたいさぁ、いつのまに隣にいんだよ」
「ぇ…。だって…」
「驚かすなっつうの」
 まだがしがしと撫でたまま、美貴はまたテレビに顔を向けなおす。
「…」
 じーっとほほの辺りに感じるれいなの視線。
「みきねぇ…怖かと?」
「…」
「…ひっ!」
 れいながまた体をすくめて頭を抱える。
 あのぉ…。美貴、そっち向いただけなんですけど…。
「…怒ってないから」
「…」
「っていうさ、ホラー映画見てんだから、急にいないと思ってたのに隣で声がしたら驚くじゃん。ふつー」
「…」
「足音も立てないでさぁ」
 胸に抱き寄せてぽんぽんと背中を叩くと、とりあえずDVDを止めた。
 なんか途中からもうどーでもよくなっちゃったよ。今の方がマジで怖かったし、びっくりした。だってさ、まだ……。
「みきねぇ…心臓…早か」
「…そりゃね、だれかさんがネコみたいに足音も立てずに横にいたからね」
「…ぃじわる」
 ぼそりと聞こえた呟きは無視した。
 あーあー。マユゲ吊り上げちゃって、コワイコワイ。
 唇尖がらせてじーっと見てるのがなんかかわいくって、ポンと頭に手を乗っけて立ち上がった。
「さて。もう12時だし、お風呂入って寝よっかな。明日早いし」
「…」
 吊り上った眉がふっと下がったような、そんな気がした。
 ぺたんと座ったまま美貴を見上げる目がなんかいじらしいんだけど…。まっ、いっか。
「ほら。れいなももう寝な」
「…」

   *

 狭い湯船にぷかぷか浮かぶアヒルちゃん。
 ゆらゆらと揺れて、はーっとなんとなく天井に向かってため息。

『おまえの妹だ』

 そう言われたナマイキそうなネコ顔。
 じーっと美貴をにらみつけて、だけどなんかどっか不安そうで何度も唇噛んで、強がってぎゅっと握った拳。

 不倫相手のコドモ。
 どっちつかずで過ぎてて、けど、父親はあっちを選んで、不倫相手の子だったあの子が本妻の子になって…って、後妻の子か。
 あーなんかわけわかんない。どーでもいいや。  別に会う理由もなかったけど、高校2年の時あっちから美貴に会いたい…って。だから会った。

 ナマイキだけど、なんだけど、でも美貴のことすごい慕ってくれて、なんかね、かっこいいんだって。それに…。
『やっぱりなんか似てるね。二人とも』って梨華ちゃん。
『トラとネコって感じだけどね』ってよっちゃんさん。

 美貴は特待生で入れた学校の都合もあってどうしても東京でなきゃなんなくて、お母さんは地元で仕事もしてるし…で、離れるのは辛かったんだけどね。
 だから、あいつにわがままを言った。金持ってるし…さ。
 それで一人暮らしには豪華な3LDKなマンションですよ。

 そこに転がり込んできたのがれいな。
 カバン一つで家出して来た冬休み。
 美貴は追い返す気もなかったし、父親って言ったってれいなとそんなにあってたわけでもなかったらしくて、折り合いも悪かったらしい。
 そりゃあさ、いきなり今日からお父さんだよって言われてもねぇ…。

 怒鳴り合いのケンカをした挙句、れいなはこっちの中学を受けるってことで決着。
 もともと行きたい学校があったらしい。って、それ美貴の行ってる高校の付属中学なんだけどね。

 そんなこんなで二人暮しも1年が経つ。

 ちゃぷっ。

 ゆらゆら揺れるアヒルちゃん。

 けっこうケンカもしたけど、なんかねぇ、見た目と比べると案外マジメだし、びびりだし、自称つっこみとか言ってるけど天然だし、肉だいすきだし、それに……。

「ふぅ…」

 アヒルちゃんを手にして、唇を同じように尖らせてみた。

   *

 居間に戻ったらもう電気も消えてた。
 なんとなく目を凝らして部屋に入って、よいしょと布団を上げてもぐりこむ。

 あぁーあ。明日からまた学校かぁ…。
 たるいな……っ!!!!!

 ぐにゅっ。

「んー!」
「うわぁっ!」

 なっ…なんか踏んだ!
 慌ててベッドサイドの明かりをつけたら、れいなが丸まってた。

「ん…。痛か…みきねぇ」
 こしこしと目をこすって見上げるれいな。
「ちょっ…いつのまに…」
「んー」
 ふぁっ…てあくびをして、ぼんやりと美貴を見つめるれいな。きゅっとパジャマの袖を掴む小さい手。くいっと引っ張られた。
「みきねぇ…」
「…ったく」
 お風呂入ってる間にもぐりこんだんだろうけど、やれやれ…って。
 とか思う美貴の顔に浮かんでるのはたぶん苦笑い。
 布団にもぐってベッドサイドの明かりを消すと、れいながもぞもぞと抱きついてきた。
「怖いんだ」
「…」
 ホテルで一人とかダメだし、トイレにも行けないコだからね。まぁ、見かけによらずでね。
 抱き寄せてやったら、ぼそりと声が聞こえた。
「みきねぇだって…お化け屋敷…だめじゃん」
「…」
「…ぁんなの…どこがおもしろいと?」
 怖いだけたい。
 パジャマを掴んでる手にきゅって力がこもった。
「あのどきどきがいいんじゃん。どっから何が来るのかわかんないさ。それに主人公はどうせ助かるんだし」
「…悪趣味たい」
「まっ、コドモにはわかんないか」
 またよしよしと頭を撫でたら、抱きついてたれいながむくっと体を起こして乗っかってきた。
「…コドモじゃなかっ」
 肩を押さえつけてる手が、ぎゅうっと硬くパジャマを握り締める。
 少し…痛い。そんなに力あったっけ? そう思うくらい。
「れいな」
「コドモじゃなか…」
 暗い部屋の中。れいなの微かな息遣いと、怖いくらい真剣に見つめる瞳と向かい合う。
 なだめるように背中に手を回して、ゆっくりとさすった。
「コドモじゃん。夜一人じゃトイレ行けないくせに」
「…そっ…それはホテルだけたい!」
「今だって、怖いから美貴と一緒に寝るんでしょ?」
「ちっ違う!」
「じゃぁ、何?」
「それは…」
 ふと肩を押さえつける手が緩んだ。  
 さすり続けた背中からゆっくりと力が抜けていく。
 れいなはそのまま美貴の上にかぶさると、腕を背中に回した。
「…みきねぇ、いじわるっちゃ」
「…」

 軽いといってもそれなりの重さ。息が苦しい。
 れいなは美貴の首筋に顔をうずめたまま…。

 コドモのくせに時々ドキッとするような目をして、ぞくっとするような表情をする…。

 あんたさぁ、あのコが…すきなんじゃないの?

「れいな、重い」
「…」
「ほら…相手が違うでしょ」
 肩に手を置いて押し上げようとしたら、れいなが少しだけ体を持ち上げた。
「みきねぇ…」
 暗い部屋の中でもはっきりとわかる強いまなざしに心臓が弾んだ…。
 なに…?
 れいなの手がそっと美貴の髪の中に入っていく。
「みきねぇは…素直じゃないっちゃ…」
「…何言って…」
「ん…れいなもたいして素直じゃなか」
 少し覗かせた戸惑い。
 髪を梳こうとする手を捕まえた。
「何が…言いたいの?」
「みきねぇ…いしかーさんのことすきやろ?」
「…っ」

 ドキッ…。

 一瞬、息が詰まった。
 まっすぐに見つる目れいなから視線を外した。

「れいなも…いしかーさん、すきっちゃ」
「でしょ? だったら相手が…っ」
「でも、れいなのはたぶん…憧れで、みきねぇは片思いっちゃ」
「…はっ。何言ってんだよ。ほら、美貴から降りてって」
 押し上げようとしたら手首を掴まれた。
「…なによ」
「いしかーさん、よしざーさん、すっごくお互いが大切なんだなぁ…って、れいなでもわかる。どこまで行っても、たぶんれいなは妹たい」
「…」

 あの二人にはたしかに入っていけない何かがある。
 なんだろう、最後の最後、踏み込んでいけない何か。
 だって、梨華ちゃんがよっちゃんさんを見つめる瞳。よっちゃんさんが梨華ちゃんを見つめる瞳…やさしすぎる…。
 自然と寄り添って、それが当たり前の二人。

「だから…だから何よ」
 動揺する気持ちを責めるような言い方で覆い隠す。でも、れいなはひるまなかった。
「あれは…じゃれてるだけだって、さゆ、言ってた」
「…何よ、それ」
「みきねぇ、いしかーさんの前でよしざーさんとべたべたするけど、ムキになってるだけか、ただ楽しいだけだって」
「…」
「それか…照れてる」
「…」
 グッと心が叫んだ。
 自分より年下のコに…見透かされてる…?
「みきねぇ、ホントにすきな人の前じゃ…いっつも素直じゃないっちゃ」
「…」

 梨華ちゃんは…美貴がどうなろうとしても絶対なれない女の子。
 かわいくて、女の子らしくて…。
 でもあれでけっこうガサツだったり寒かったりするけど、みんなのことをよく見てて、面倒見よくって、おせっかいだけど、本当にやさしい。

「みきねぇ」
 弱弱しい言葉と一緒に降りてきたのは、ほんのりと温かい唇の感触。
 手首を握り締める手に痛いくらい強い力。
 ゆっくりと唇が離れて、またれいなに抱きしめられた。
「…れいな!?」
「……っ」
 うずめた首筋にこもって消えた声。
 でも…たしかにそう言った…。

 “すきっちゃ…みきねぇ”

「…れいな…」
 重なってるれいなの体が熱い。
 そして、美貴の体も唇の感触が際立っていく度に熱くなって、心臓が速くなってる…。
「…っ! れな…!?」
 首筋にキス。そして、そっと胸に置かれた右手。
「すきっちゃ…」
 美貴のぬくもりに浸るれいな。
「…」
 腹違いって言っても、姉妹だから…そういう気持ちはいけないと思ってた。
 恋にタブーなんてないと思いたいけど、だって世間的には2つも犯してるわけで…。

 でも、素直にさせられると、向きあわさせられると…もう逸らすことなんできない事実。

「れいな」
 ゆっくりとれいなの背中に腕を回す。
 そして、耳元でそっと囁いた。

「すきだよ。れいな」

 狭いベッドの中は二人の熱で熱くって、だけど離れようなんてちっとも思わなくて…。
 一つの何かが終わったような気がしたけど、一つの何かを手に入れて…。
 一つなのかな? それとももっとたくさん?

 ようやく美貴から降りたけど、でも相変わらずぎゅって丸まって美貴にしがみついてるネコみたいな妹。
 だけど、美貴の大切なもの。

 これからきっと、ホラーとか見なくてもベッドに入り込んでるかもしれないなぁ。
 もうすっかり夢の中のれいなの頬をくすぐったら、
「んー…」
 って、胸に顔をうずめてくる。
 抱きしめながら、たがいに邪魔がない胸にちょっとへこんでみたけど、それだけ近づけるから、まっいいか。

 ぬくもりに誘われて、たぶんれいなが待ってる夢の中へ。
 美貴もゆっくりと目を閉じた。


(2005/3/27)
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