たぶん素敵妄想集(爆@ ウィキ
2月の空
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まるで消え去るように、すーっと楽屋を出て行くから後を追いかけた。
早足で階段を上がっていく彼女を見失わないように、そして足音に気づかれないように…。
だけど離れないように、でも近くなりすぎないように…。
だけど離れないように、でも近くなりすぎないように…。
その微妙な距離が、なんか嫌だった。
いっそ声をかけようかって何度も思ったけど、その後姿になぜかためらった。
ドアが開く。
一つだけになった足音。
わずかに見えた空。
一つだけになった足音。
わずかに見えた空。
キィィッ…
軋んだ音。
それを掻き消すように、バタンと閉まった音が響き渡った。
軋んだ音。
それを掻き消すように、バタンと閉まった音が響き渡った。
息を潜めるようにそぉっとドアノブを掴んで、ゆっくりと音を立てないように回す。
青い垂直の線。
差し込む光。
青い垂直の線。
差し込む光。
キィッ…
ゆっくりと押したら、ドアが泣いた。
思わず息を止めた。
音を立ててしまったら…
今、気づかれてしまったらすべてが壊れてしまうような、そんな気がしたから。
思わず息を止めた。
音を立ててしまったら…
今、気づかれてしまったらすべてが壊れてしまうような、そんな気がしたから。
慎重にドアを押して広げていく青い世界。
50㎝くらい広がったところですり抜けるようにそこへと踏み出した。
50㎝くらい広がったところですり抜けるようにそこへと踏み出した。
冬にしてはやわらかく、春っていうには冴え冴えとした2月の青い空。
まだ硬さの残る風が時折肌を射す屋上。
まだ硬さの残る風が時折肌を射す屋上。
どうやら気づかれなかったようで、フェンスに体を預けて吹き上げる風に髪を遊ばせている。
ドアの前から動けないまま、うつろに彼方を眺める横顔に胸がきしんだ。
水に濡れて透き通った氷の青さに溶けていくような、急ぎ足のはかなさ。
水に濡れて透き通った氷の青さに溶けていくような、急ぎ足のはかなさ。
「……梨華ちゃん…」
零れ出たつぶやきは、あっけなく風に流される。
零れ出たつぶやきは、あっけなく風に流される。
その小さな背中が…いとおしく感じた。
あの子だったら……
『ほぉ~らぁ~。なーに落ち込んでんだよー』
陽射しのようなあったかい笑顔で、まるですべてを包み込むように頼りない背中を抱きしめるんだろう。
陽射しのようなあったかい笑顔で、まるですべてを包み込むように頼りない背中を抱きしめるんだろう。
そしてポツリポツリとキオクを振り返り、“現在”とほんの少しの未来を語って…。
同じ時を歩んできた二人だから多くの言葉なんて要らない。
同じ時を歩んできた二人だから多くの言葉なんて要らない。
彼女だったら……
『りぃ~かぁ~ちゃん』
とろけるような無防備な笑顔でぎゅうって抱きしめるんだろうな。
何を語るわけでもなく、聞くでもなく、陽射しの中でただ町を眺めて…。
とろけるような無防備な笑顔でぎゅうって抱きしめるんだろうな。
何を語るわけでもなく、聞くでもなく、陽射しの中でただ町を眺めて…。
ふいに零れる彼女のまっすぐな言葉にきっと泣いてしまう…。
かつてそれを背負っていた人のさり気ない言葉の重みと、優しさ。
かつてそれを背負っていた人のさり気ない言葉の重みと、優しさ。
きっと踏み出してしまえばいくらもない距離。
せいぜい25歩もあればたどり着くその背中。その隣。
でも、たかが…な距離が果てしなく遠い。
せいぜい25歩もあればたどり着くその背中。その隣。
でも、たかが…な距離が果てしなく遠い。
あの子のように、同じ時を歩いてきたわけじゃない。
彼女のように、その重さを知ってるわけじゃない。
彼女のように、その重さを知ってるわけじゃない。
なんだかふいに、涙がこぼれそうになった。
悔しいから顔を上げたら、飛行機雲が伸びていた。
悔しいから顔を上げたら、飛行機雲が伸びていた。
青い青い雲ひとつない青の中に、真っ白い一筋の線。
『いけっ!』
って、そんな声が聞こえた気がした。
相変わらずな後姿。
追いかけてたのか追いついてたのかわからないけど…。
追いかけてたのか追いついてたのかわからないけど…。
“現在”…。
“現在”という時間しか知らない。
“現在”という時間しか知らない。
でも、同じ時をわかちあってる。
時にあの子よりも多く、しかも隣で。
時にあの子よりも多く、しかも隣で。
そして、同じものを…たとえ少しかもしれないけど、背負ってる。
自分たちのこれからを。
支えてくれるみんなを。
自分たちのこれからを。
支えてくれるみんなを。
そう…みんなを。
一歩、一歩…。
近づくたびにわかるうつろな梨華ちゃんの表情。
疲れと戸惑い。
きっとそんなところ。
美貴だってまだ整理できてるわけじゃない。
近づくたびにわかるうつろな梨華ちゃんの表情。
疲れと戸惑い。
きっとそんなところ。
美貴だってまだ整理できてるわけじゃない。
足音に気づいた梨華ちゃんがゆっくりと振り向く。
「…美貴ちゃん…?」
驚くわけでもなく、だけど、少し困ったように笑った。
「…美貴ちゃん…?」
驚くわけでもなく、だけど、少し困ったように笑った。
「どうしたの?」
「それは美貴が聞きたいよ」
「…うん…。そうだよね」
「それは美貴が聞きたいよ」
「…うん…。そうだよね」
ふわっと笑って、けど疲れの色がありありと見えて痛々しい。
笑顔の一つでも返せればいいのに…。
それすらできずに、いじけたようにフェンスにもたれかかった意気地なし。
笑顔の一つでも返せればいいのに…。
それすらできずに、いじけたようにフェンスにもたれかかった意気地なし。
「急に消えないでよ…」
「…ごめん…」
「いいけどさ。別に…」
「…」
「…ごめん…」
「いいけどさ。別に…」
「…」
だけどそんな彼女も意気地なし。
涙の一つも見せられれば楽になれるのに。
そりゃあ…あの子や彼女に比べれば役不足かもしれないけど。
涙の一つも見せられれば楽になれるのに。
そりゃあ…あの子や彼女に比べれば役不足かもしれないけど。
じれったいぐらい不器用に二人。
冬でも春でもないどっちつかずの青い空の下で並んで街を見てる。
冬でも春でもないどっちつかずの青い空の下で並んで街を見てる。
ふうってため息をこぼして、梨華ちゃんがフェンスに寄りかかった。
「美貴ちゃん」
「ん~?」
「ねぇ、太陽がなくなったらどうなるだろうって、考えたことある?」
「美貴ちゃん」
「ん~?」
「ねぇ、太陽がなくなったらどうなるだろうって、考えたことある?」
なんとなく、言いたいことがわかった。
「ない。梨華ちゃんは?」
そしたら、あいまいに笑って、空を見上げた。
美貴ももたれかかるのをやめて、同じように空を見上げる。
「ずーっと、考えてた。でもね…」
「でも?」
「わからなかった」
そしたら、あいまいに笑って、空を見上げた。
美貴ももたれかかるのをやめて、同じように空を見上げる。
「ずーっと、考えてた。でもね…」
「でも?」
「わからなかった」
さびしげにせつなげに…そんな微笑。
「ただ…一つだけわかったのは、あたしは太陽には…なれないってこと」
痛々しいまでにやわらかい微笑み。
突き刺さるような胸の痛みがカラダを突き動かした。
突き刺さるような胸の痛みがカラダを突き動かした。
たぶんそれが、美貴だから…できること。
強引に腕を引き寄せて強く強く強く抱きしめた。
華奢な身体が折れるんじゃないかってくらいに、強く。
華奢な身体が折れるんじゃないかってくらいに、強く。
「美貴ちゃん…?」
「バカだよ…。梨華ちゃんは…」
「バカだよ…。梨華ちゃんは…」
太陽は太陽。
変わりになれるものなんてない。
でも、それはなんだって同じでしょ?
梨華ちゃんも…。
美貴も…。
そして、みんなも…。
変わりになれるものなんてない。
でも、それはなんだって同じでしょ?
梨華ちゃんも…。
美貴も…。
そして、みんなも…。
「…うん…」
「…ねぇ。梨華ちゃん…」
「…ねぇ。梨華ちゃん…」
少ししくらいは背負ってあげられるよ?
だから抱え込まないで。ね?
一緒に歩いていこう。
大事に大事に守りながら、少しずつ造って行こう。
ずっと、隣にいるから。
前でもなく、後ろでもなく、隣に…。
だから抱え込まないで。ね?
一緒に歩いていこう。
大事に大事に守りながら、少しずつ造って行こう。
ずっと、隣にいるから。
前でもなく、後ろでもなく、隣に…。
「だから…笑って?」
そしたら、こつんって…美貴の肩に額を押し付けた。
そして、ぽつり…。
そしたら、こつんって…美貴の肩に額を押し付けた。
そして、ぽつり…。
「…ありがと…」
力なく落ちていた腕が背中に回されて、息苦しいくらいに抱きしめられる。
なだめるように背中を撫でながら、空を仰いだ。
なだめるように背中を撫でながら、空を仰いだ。
飛行雲は消えていて、青い青い空が太陽の光を精一杯包んでた。
なんとなくだけど、そんな風に思えた。
なんとなくだけど、そんな風に思えた。
たぶん、どっちつかつずなこの空の青さがあたしたち。
眩しすぎない、冷たすぎないこの空が…。
眩しすぎない、冷たすぎないこの空が…。
ふと肩が軽くなった。
そして、二人の間を風が駆け抜けて、少しだけ体が離れたことに気づく。
そして、二人の間を風が駆け抜けて、少しだけ体が離れたことに気づく。
すっと頬に梨華ちゃんの指先が触れた。
「美貴ちゃん…」
濡れた指先。不思議といつのまに落ちたその一滴だけで溢れてくることはなかったし、 やけにキモチがすーっと落ち着いていた。
「なんでもないよ。ただね…」
空を見上げる。梨華ちゃんも顔を上げて空を仰ぐ。
「よく…似てるなぁって…思ったの」
「美貴ちゃん…」
濡れた指先。不思議といつのまに落ちたその一滴だけで溢れてくることはなかったし、 やけにキモチがすーっと落ち着いていた。
「なんでもないよ。ただね…」
空を見上げる。梨華ちゃんも顔を上げて空を仰ぐ。
「よく…似てるなぁって…思ったの」
しばらく黙って空を見上げていた梨華ちゃんは、
「…そうだね」
って、笑った。
やわらかく、だけど澄んだ表情で…。
「…そうだね」
って、笑った。
やわらかく、だけど澄んだ表情で…。
手を繋いだ。
しっかりと…。
しっかりと…。
ゆっくりと広がるあたたかさ。
繋がる手を見つめていた梨華ちゃんの左手が、そっと美貴の肩に…。
繋がる手を見つめていた梨華ちゃんの左手が、そっと美貴の肩に…。
まっすぐに美貴を見つめる瞳。
深呼吸するかのようにゆっくりと息を吐き出すと、すぅっと顔が近づいた。
動きにあわせるように、まぶたを閉じる二人。
深呼吸するかのようにゆっくりと息を吐き出すと、すぅっと顔が近づいた。
動きにあわせるように、まぶたを閉じる二人。
重なった唇は優しかった。
驚きとか、ときめきとかで流されない、穏やかなキス。
なんとなく沈黙が訪れて、先にそれを破ったのは梨華ちゃん。
「ありがとね」
「いいって。何にもしてないじゃん」
「そんなことないよ。だって…こんな暗い話、今日じゃなくてもよかったんだから」
「いいって。何にもしてないじゃん」
「そんなことないよ。だって…こんな暗い話、今日じゃなくてもよかったんだから」
何を言われたのか、その意味がわからなかった。
「誕生日、おめでとう」
青空によく似合う、梨華ちゃんらしい清々しい笑顔。
「あぁ…」
気のぬけたような返事にくすくすって笑われた。
それが何か、ほっとして…。けど、どきっとして…。
気のぬけたような返事にくすくすって笑われた。
それが何か、ほっとして…。けど、どきっとして…。
「主役がいなくなっちゃったから、早く戻らないとね」
『行こう』って手を引かれる。
「大丈夫だよ。もうプレゼントはもらったし」
「でも、あたしまだ渡してないよ」
「いいよ。もうもらったから」
「でも…」
『行こう』って手を引かれる。
「大丈夫だよ。もうプレゼントはもらったし」
「でも、あたしまだ渡してないよ」
「いいよ。もうもらったから」
「でも…」
反論はキスで封じ込める。
「ね。これが、美貴には最高のプレゼント」
真っ赤になってうつむく梨華ちゃん。
ちょっと照れくさくなって、ごまかすようにその手を引いた。
ちょっと照れくさくなって、ごまかすようにその手を引いた。
「行こう! やっぱ梨華ちゃんが持ってきてくれたプレゼント、気になるし」
「うん!」
「うん!」
やわらかくて澄んだ青い青い空にくるりと背を向けた。
どっちにもならない空だけど、見上げればほら。
こんなに優しい。
こんなにすがすがしい。
こんなに優しい。
こんなにすがすがしい。
背中合わせの二人。
だけど、いつも隣同士の二人。
だけど、いつも隣同士の二人。
雲一つない青い青い空。
きっと二人だから。
きっと二人だから。
(2004/2/27)