ユガミズム - (2009/03/02 (月) 23:43:32) の1つ前との変更点
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*ユガミズム ◆hqLsjDR84w
東へ戻れと促すベルトコンベアは少女の妨げにはならず、少女は雪原エリアまで来ていた。
マップで言うところのB-1、鉱山の端を滑るかのように器用に疾走する。
既に聞き取ることなど不可能な距離まで来ているというのに、少女は脳内でリピートし続ける銃声に怯えながらライディング・ボードを駆動させる。
戦闘の邪魔にならないよう適度な長さに整えられた青い髪は、流れる汗のせいで額に張り付いている。
赤黒い傷口を晒す肩口より先がない右腕、焼き切られたがゆえに出血していないのは不幸中の幸いか。
少女の名、スバル・ナカジマ。かつて正義を志していた――否、現在も正義に身を任す少女。
シグマに集められた参加者は全てが機械、姿は違えどこれまで見てきたガジェットと同じで意思など持ち得ないただの破壊者。だから、破壊せねばならない。
少女は現在も正義の道を往かんとしていた。
彼女にとって、集められた者達は意思を持たぬ存在でなければならなかった。
既に破壊した二体が意思を持っていたならば、彼女は『機械を破壊したスバル・ナカジマ』でなく『人殺しのスバル・ナカジマ』に成り果てる。
心の奥底でそれを理解しているスバルは、その事実から目を背けようとする。
元より襲い掛かってきたのは、相手の方。
たとえ彼等が意思を持っていたところで、正当防衛だと言い張って何ら問題はなさそうなものだが、根幹が善人であるために彼女はその道を選べない。
何か行動をしていなければ、過ちに気付いてしまいそうな自分を無意識に恐れながら、スバルはがむしゃらに移動し続ける。
彼女は気付かない。
闇雲に駆け抜けているつもりで、マルチとT-1000を粉砕した南方へと向かうのを無意識に拒否している自分自身に。
◇ ◇ ◇
ややあって、スバルは軍事基地へと到着する。
最初に入り込んだビルのグランドフロアには、幾つものレーザー痕が刻み込まれている。
明らかに、この場所が戦場となったことを示している。
もしかしたら、この中に破壊するべき機械が隠れているかもしれない。
そのビジョンを思い描いただけで、喘息を患っているかのようにスバルの呼吸ペースが乱れる。明らかな呼吸過多。
だが、何としても破壊せねばならない。
数刻というにはあまりにも長すぎる時間をかけながら、呼気を整えて覚悟を決めるスバル、拳を握ろうとして否が応にも右腕の喪失を思い知らされる。
さすが軍事基地と言うべきか、床に落ちていた軍用双眼鏡を手にしてスバルは潜んでいる参加者を探す。
またしても、彼女は気付かない。
無自覚のうちに、彼女自身が『有無を言わさずに襲い掛かってくる相手』を求めていることに。
強引に記憶の片隅へと追いやっているT-800やタチコマのような存在を目にすれば、自身が破壊した二体にも意思があったのではないかとの疑念をどうしても抱いてしまうから。
まずグランドフロアをゆっくりと見て回るスバル。
彼女以外に誰もいないのだから当然といえば当然だが、双眼鏡を通したところでスバルの瞳に参加者は誰一人として映らなかった。
スバルが1stフロアへと昇ろうとした時、静寂が立ち込めていたビルにコール音が響き渡る。
電話の主は、ネコ型サイボーグのクロ。
彼は仲間を求めて、あらゆる施設へと電話をかけまくっていたのだ。そりゃあ、もうひたすらに。まあ、殆どが通話状態に至らなかったのだが……そこはご愛嬌である。
さて、その突如鳴り出したコール音に、スバルは思案を巡らせる。
スバルがビルに入ってから、クロの電話まで五分と少し。あまりにもタイミングがよすぎる。
どこから電話をかけているのかは、分からないが……
スバルがビルに踏み込んで『すぐ』に、多数ある施設の中から『ちょうど軍事基地』をチョイスする。
そんな都合のいい話があり得るであろうか? いいや、あるはずがない。
実際には、本当に偶然であるのだが、現在のスバルにそれを知る由はない。
ゆえに、スバルの想像はあらぬ方向へと誇大化していく。リミッターとなってくれたであろう仲間は、ここにはいない。
では、どうして有り得ないはずの現象が起こっているのか。
熟考の末、スバルが導き出した答え――『電話の主に全て見られていた』。
全ての機械を破壊して、シグマの企みを破壊しようとしている自分。
その自分をどこかから見ていた者がいる。そして、自分にコンタクトを取ろうとしている。
もしや、自分以外にも同じことを目的としている参加者がいるのだろうか?
参加者の中に意思を持つものがいれば、自分が人殺しとなってしまった可能性も生まれる。
しかし一瞬だが、スバルはそんなことさえ忘れて、仲間になってくれそうな者の存在に手放しで喜んでしまった。
が、スバルは気付く。
なんで直接面会せずに、電話などという七面倒な手段を取ったのか。志しを同じくするならば、会いに来ればいい。
だいたい、相手は自分をどこから見ているのか。こちらは双眼鏡を持っているのに、姿を捉えることすら出来なかった。
何らかの方法で、相手は自分を見張っている。
どうやって? 双眼鏡でも見つからない距離から、どうやって見ている?
発信機でもつけられていた? いや、たとえドラスであろうと、そんなことをやれば気付いていた。隙などなかっ――あった。
シグマは体内に爆弾を仕込んだと言っていた。それと一緒に発信機を埋め込まれていても、何らおかしくはない。
ということは、電話の主はシグマと内通している? バカな、なんで、どうして?
全ての参加者はシグマと内通している? ボブおじさんも、タチコマも、ノーヴェの偽者も、チンクの偽者も、まだ見ぬ名簿に『ギンガ・ナカジマ』と書かれた存在も。
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえて欲しくない――――しかし、それ以外考えられない。ちょうど電話がかかってきた説明がつかない。
全員がシグマの作り上げたガジェットドローンの亜種? 断定は出来ないが、十分考えられる。
となれば、電話の主は?
鳴り続けるコール音。その都度、スバルの胸の中に生まれた恐怖心が増幅していく。
「う――ぁ、――――い、ゃああああぁぁぁぁぁあああああぁああっ」
みっともない声をあげて、恥も外見もなくスバルは逃げ出した。
ライディング・ボードに飛び乗って、ビルから飛び出す。
全てを敵と見なして来た道を戻っていくスバルは、もはや誰も信じないと決意を固めていた。
◇ ◇ ◇
結局、E-1へと帰還してしまったスバル。
誰も信じはしないと決めていながらも、ビルの屋上にタチコマが戻っていないのを見て、スバルは歯を軋ませた。
全ての機械を破壊するのなら、どの方向へ行こうと同じこと。
だが、何故かスバルはスクラップ工場へと向かうのは嫌だった。
彼女は否定するだろうが、もう一度タチコマと出会って彼を破壊するのに抵抗があったのかもしれない。
左手に携えた双眼鏡でちょくちょく周囲を確認しながら、ライディング・ボードに乗って南下していくスバル。
四度目に双眼鏡を瞼に押し付けた時、スバルの瞳に奇妙な光景が映る。
宙に浮かんだまま静止している、白い長毛種の巨大な犬。
ぎょっとして、双眼鏡の角度を下げるスバル。
新たに視界に入るは、赤い髪の少年。全身に刻まれた傷痕と火傷の痕を見る限り、明らかに機械ではなく人体。
白い犬に乗って飛行する、赤い髪の少年。スバルと同じく右手を喪っている。そして傷痕を見る限り、
スバルは、自身の心臓の高鳴りを感じずにはいられなかった。
周り全てが機械と思いきや、ここに来て生体パーツを含んだ少年が現れた。すぐにでも駆け寄りたい。
スバルは殺人鬼とならぬために無意識のうちに意思持たぬ機械を求める自分と、生体パーツを含んだ少年を見て歓喜した自分の間の矛盾に気付かない。
ライディング・ボードを加速させようとするが、焦りすぎてうまくいかない。
その間も、スバルは双眼鏡を覗き込んだまま。
そして――――予想だにしない光景が、スバルの前に広がった。
右手を電柱に叩きつける少年。暫しの後、伐採される樹木のように倒れる電柱。
何度も殴ったワケではない。少年は、たったの一度で電柱を倒壊させたのだ。
何も使わずに、素手で、何らかの能力を行使したようにも見えなかった。
自分には到底できないことをやってのけた少年に、スバルは驚愕。
倒れた電柱の方へと双眼鏡を動かすと、そこには二体の残骸――いや、傷を見る限りは片方は残骸ではなく死体。
電柱が圧し掛かってきた衝撃で、残骸からはオイルが、死体から血液が溢れ出している。
そのあまりの有様に、スバルはライディング・ボードから滑り落ちて地べたにへたり込む
一方、少年は他の奴がどうなろうと知ったことかとばかりに、いつしか手にしていたマシンガンを電柱へと向けて発砲。
口角を吊り上げながらひたすらに電柱を穿ち続け、ついに電柱は塵埃と成り果てる。
震えるあごを止めることも出来ず、歯が接触する度にかちかちと音を奏でながらも、スバルは双眼鏡でそれをずっと見続けていた。
粉塵に覆われる死体と残骸を前に、満足気に微笑む少年――少なくともスバルにはそう見えた――は、犬に跨って東へと飛び立っていった。
誰もいなくなったというのに、スバルは声をあげることすらも叶わない状態で、ただ茫然自失。
◇ ◇ ◇
ナタクが飛び去ってから、優に一時間は経とうとしている。
工業地区に似合わぬ静寂の中で、彼女の脳だけがいやに冷静に事態を認識していた。
――この壊し合いの参加者全てが、ただの機械ではなかった。
さっきの少年は、傷痕から血を流していた。火傷の具合から見ても、明らかに生体パーツ。
考えてみれば、周り全部が機械でその中に自分だけ紛れ込んでいるというのも、おかしな話だったとスバルは自覚する。
……そして、ノーヴェやチンクが偽者だということもないだろうと、判断するスバル。
シグマが名簿に嘘を書く必要なんて、ありはしないのだから。全ては、自分がそう思いたかっただけのこと。
同じ理由で、スバルは本物のギンガもこの地にいることを認識。
落ち着いてきたスバルの頭脳が、答えを導き出す。
おそらくは、襲い掛かってきた少女のような生体パーツを含まない参加者も、自分のように生態パーツを含む参加者も『両方』いる。
――それがどうしたというのか。
確かに、マルチと名乗った緑色の少女型ロボットは、昆虫のような見た目の液体金属の塊は、問答無用で襲い掛かってきた。
彼女等は、確かにガジェットドローンと同種であったのだろう。
一方で、タチコマのように明らかに機械なフォルムでも、他者を気遣える参加者がいる。
ノーヴェと一緒にいた二体のロボットも、ドラスに騙されていただけでタチコマのような性格なのだろうか――考えて、スバルは彼らに己が行ったことを思い出して後悔する。
チンクと一緒に逃げた金髪の人にも、次に会ったら謝らねばならない――スバルは固く決意する。
生体パーツの有無は、信頼出来るか否かの判断材料にはなりえなかった。
抱いていた愚かな考えに、スバルは自らに呆れ返る。
――――しかし、である。
スバルの脳内に蘇るは、悪魔の微笑み。
レアメタルで構成されているという肉体を持つドラスは、確かに悪鬼であった。
次に先ほどの少年――ナタクの姿、スバルの頭にフラッシュバックする。
生体パーツが使われていても、彼のように物を破壊し他者を殺害する者がいる。
仮にもっと早く視線を移していれば、シュトロハイムとアラレはかなり前に機能停止していたとスバルも気づいただろうが……
生憎にも電柱が倒れて初めてシュトロハイムとアラレの存在に気づいたスバルは、彼等を『ナタクが殺した』と思い込んでいた。
ゆえに、スバルは覚悟を決める。
「止めなきゃ……」
立ち上がるスバル、その視線は既に後ろを向いてはいなかった。
既に自分は、二体壊している。
ガジェットドローンと同種の存在――スバルの中では――とはいえ、罪の意識にスバルは押し潰されそうになっている。
だからこそ、ナタクもドラスも――その他の他の参加者を襲う参加者も、全て自分が破壊する。
罪悪感に苛まれるのは、私だけでいい。
特に姉妹達には、絶対に背負い込ませるワケにはいかない。
タチコマがビルの屋上にいなかったのには、彼なりの理由があったのだろう。
探しているかもしれないと思うと、すぐに合流したいところではあるが――優先すべきは破壊。
決意新たに、左の拳を握り締めるスバル。
利き腕でもないのに、何故だかスバルにはいつもよりも篭められた力が強いように感じた。
ナタクを追おうと、ライディング・ボードに飛び乗るスバル。
この場所から東へと向かうのなら、傷の具合から考えても修理工場に向かったと考えるのが自然だ。
スバルは修理工場に向かおうと、意識を集中させ――
『――インフォメーションメッセージ』
PDAから流れ込んできた放送に出鼻を挫かれた。
そこで初めて、自分が長時間思考に耽っていたとスバルは気付いた。
とりあえず聞き終えてから向かおうと、スバルは放送に耳を傾ける。
やっと本物であったと理解して、信じようと決意した妹と仲間の死を彼女が知るまで――――あと寸刻。
【E-3 路上/一日目 昼(放送開始)】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:右腕が肩口からありません(出血はなし)、あちこちにトリモチ付着、罪の意識とそれ以上の決意
[装備]:滝和也のナックル@仮面ライダーSPIRITS、ライディング・ボード@リリカルなのはStrikerS、軍用双眼鏡@現地調達
[道具]:支給品一式、サブタンク(満タン)@ロックマンX、テキオー灯@ザ・ドラえもんズ、ナックルの弾薬(27/30発)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本思考:他者を破壊しようとした参加者を破壊する。罪は自分だけが背負う。
1:放送を聴いてから、ナタク(名前は知らない)が向かったと思われる修理工場へと向かう。
2:一刻も早くドラスを探し出して破壊する。
3:T-800、タチコマ、ギンガ、ノーヴェ、チンク、ゼロ、メカ沢、ロボ(後ろの三名は名前を知らない)とは、いずれ合流する。
[備考]
※本編開終了後からの参加です。
※サブタンクは満タン状態です、使えばエネルギーの回復が可能です。
※テキオー灯は、一時間のみ効力持続。
一度使った者には、24時間経過しなければ使用不可能と制限されています。
※T-800の住む世界、スカイネット、T-1000に関する情報を得ました。
※T-800のことを、ボブと呼んでいます。
※T-800からの情報より、シグマの背後にはスカイネットがいるのではと考えています。
※ボイルドの脅威を認識しました。
※ドラスが自由に姿を変えられることを知りました。
※ナタクが、シュトロハイムとアラレを殺したものと思っています。
*時系列順で読む
Back:[[ARM――腕、或いは兵器]] Next:[[究極の虚無をもたらす者]]
*投下順で読む
Back:[[ARM――腕、或いは兵器]] Next:[[究極の虚無をもたらす者]]
|091:[[破壊]]|スバル・ナカジマ|[[123:[[それは些細なすれ違い]]]]|
*ユガミズム ◆hqLsjDR84w
東へ戻れと促すベルトコンベアは少女の妨げにはならず、少女は雪原エリアまで来ていた。
マップで言うところのB-1、鉱山の端を滑るかのように器用に疾走する。
既に聞き取ることなど不可能な距離まで来ているというのに、少女は脳内でリピートし続ける銃声に怯えながらライディング・ボードを駆動させる。
戦闘の邪魔にならないよう適度な長さに整えられた青い髪は、流れる汗のせいで額に張り付いている。
赤黒い傷口を晒す肩口より先がない右腕、焼き切られたがゆえに出血していないのは不幸中の幸いか。
少女の名、スバル・ナカジマ。かつて正義を志していた――否、現在も正義に身を任す少女。
シグマに集められた参加者は全てが機械、姿は違えどこれまで見てきたガジェットと同じで意思など持ち得ないただの破壊者。だから、破壊せねばならない。
少女は現在も正義の道を往かんとしていた。
彼女にとって、集められた者達は意思を持たぬ存在でなければならなかった。
既に破壊した二体が意思を持っていたならば、彼女は『機械を破壊したスバル・ナカジマ』でなく『人殺しのスバル・ナカジマ』に成り果てる。
心の奥底でそれを理解しているスバルは、その事実から目を背けようとする。
元より襲い掛かってきたのは、相手の方。
たとえ彼等が意思を持っていたところで、正当防衛だと言い張って何ら問題はなさそうなものだが、根幹が善人であるために彼女はその道を選べない。
何か行動をしていなければ、過ちに気付いてしまいそうな自分を無意識に恐れながら、スバルはがむしゃらに移動し続ける。
彼女は気付かない。
闇雲に駆け抜けているつもりで、マルチとT-1000を粉砕した南方へと向かうのを無意識に拒否している自分自身に。
◇ ◇ ◇
ややあって、スバルは軍事基地へと到着する。
最初に入り込んだビルのグランドフロアには、幾つものレーザー痕が刻み込まれている。
明らかに、この場所が戦場となったことを示している。
もしかしたら、この中に破壊するべき機械が隠れているかもしれない。
そのビジョンを思い描いただけで、喘息を患っているかのようにスバルの呼吸ペースが乱れる。明らかな呼吸過多。
だが、何としても破壊せねばならない。
数刻というにはあまりにも長すぎる時間をかけながら、呼気を整えて覚悟を決めるスバル、拳を握ろうとして否が応にも右腕の喪失を思い知らされる。
さすが軍事基地と言うべきか、床に落ちていた軍用双眼鏡を手にしてスバルは潜んでいる参加者を探す。
またしても、彼女は気付かない。
無自覚のうちに、彼女自身が『有無を言わさずに襲い掛かってくる相手』を求めていることに。
強引に記憶の片隅へと追いやっているT-800やタチコマのような存在を目にすれば、自身が破壊した二体にも意思があったのではないかとの疑念をどうしても抱いてしまうから。
まずグランドフロアをゆっくりと見て回るスバル。
彼女以外に誰もいないのだから当然といえば当然だが、双眼鏡を通したところでスバルの瞳に参加者は誰一人として映らなかった。
スバルが1stフロアへと昇ろうとした時、静寂が立ち込めていたビルにコール音が響き渡る。
電話の主は、ネコ型サイボーグのクロ。
彼は仲間を求めて、あらゆる施設へと電話をかけまくっていたのだ。そりゃあ、もうひたすらに。まあ、殆どが通話状態に至らなかったのだが……そこはご愛嬌である。
さて、その突如鳴り出したコール音に、スバルは思案を巡らせる。
スバルがビルに入ってから、クロの電話まで五分と少し。あまりにもタイミングがよすぎる。
どこから電話をかけているのかは、分からないが……
スバルがビルに踏み込んで『すぐ』に、多数ある施設の中から『ちょうど軍事基地』をチョイスする。
そんな都合のいい話があり得るであろうか? いいや、あるはずがない。
実際には、本当に偶然であるのだが、現在のスバルにそれを知る由はない。
ゆえに、スバルの想像はあらぬ方向へと誇大化していく。リミッターとなってくれたであろう仲間は、ここにはいない。
では、どうして有り得ないはずの現象が起こっているのか。
熟考の末、スバルが導き出した答え――『電話の主に全て見られていた』。
全ての機械を破壊して、シグマの企みを破壊しようとしている自分。
その自分をどこかから見ていた者がいる。そして、自分にコンタクトを取ろうとしている。
もしや、自分以外にも同じことを目的としている参加者がいるのだろうか?
参加者の中に意思を持つものがいれば、自分が人殺しとなってしまった可能性も生まれる。
しかし一瞬だが、スバルはそんなことさえ忘れて、仲間になってくれそうな者の存在に手放しで喜んでしまった。
が、スバルは気付く。
なんで直接面会せずに、電話などという七面倒な手段を取ったのか。志しを同じくするならば、会いに来ればいい。
だいたい、相手は自分をどこから見ているのか。こちらは双眼鏡を持っているのに、姿を捉えることすら出来なかった。
何らかの方法で、相手は自分を見張っている。
どうやって? 双眼鏡でも見つからない距離から、どうやって見ている?
発信機でもつけられていた? いや、たとえドラスであろうと、そんなことをやれば気付いていた。隙などなかっ――あった。
シグマは体内に爆弾を仕込んだと言っていた。それと一緒に発信機を埋め込まれていても、何らおかしくはない。
ということは、電話の主はシグマと内通している? バカな、なんで、どうして?
全ての参加者はシグマと内通している? ボブおじさんも、タチコマも、ノーヴェの偽者も、チンクの偽者も、まだ見ぬ名簿に『ギンガ・ナカジマ』と書かれた存在も。
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえて欲しくない――――しかし、それ以外考えられない。ちょうど電話がかかってきた説明がつかない。
全員がシグマの作り上げたガジェットドローンの亜種? 断定は出来ないが、十分考えられる。
となれば、電話の主は?
鳴り続けるコール音。その都度、スバルの胸の中に生まれた恐怖心が増幅していく。
「う――ぁ、――――い、ゃああああぁぁぁぁぁあああああぁああっ」
みっともない声をあげて、恥も外見もなくスバルは逃げ出した。
ライディング・ボードに飛び乗って、ビルから飛び出す。
全てを敵と見なして来た道を戻っていくスバルは、もはや誰も信じないと決意を固めていた。
◇ ◇ ◇
結局、E-1へと帰還してしまったスバル。
誰も信じはしないと決めていながらも、ビルの屋上にタチコマが戻っていないのを見て、スバルは歯を軋ませた。
全ての機械を破壊するのなら、どの方向へ行こうと同じこと。
だが、何故かスバルはスクラップ工場へと向かうのは嫌だった。
彼女は否定するだろうが、もう一度タチコマと出会って彼を破壊するのに抵抗があったのかもしれない。
左手に携えた双眼鏡でちょくちょく周囲を確認しながら、ライディング・ボードに乗って南下していくスバル。
四度目に双眼鏡を瞼に押し付けた時、スバルの瞳に奇妙な光景が映る。
宙に浮かんだまま静止している、白い長毛種の巨大な犬。
ぎょっとして、双眼鏡の角度を下げるスバル。
新たに視界に入るは、赤い髪の少年。全身に刻まれた傷痕と火傷の痕を見る限り、明らかに機械ではなく人体。
白い犬に乗って飛行する、赤い髪の少年。スバルと同じく右手を喪っている。そして傷痕を見る限り、
スバルは、自身の心臓の高鳴りを感じずにはいられなかった。
周り全てが機械と思いきや、ここに来て生体パーツを含んだ少年が現れた。すぐにでも駆け寄りたい。
スバルは殺人鬼とならぬために無意識のうちに意思持たぬ機械を求める自分と、生体パーツを含んだ少年を見て歓喜した自分の間の矛盾に気付かない。
ライディング・ボードを加速させようとするが、焦りすぎてうまくいかない。
その間も、スバルは双眼鏡を覗き込んだまま。
そして――――予想だにしない光景が、スバルの前に広がった。
右手を電柱に叩きつける少年。暫しの後、伐採される樹木のように倒れる電柱。
何度も殴ったワケではない。少年は、たったの一度で電柱を倒壊させたのだ。
何も使わずに、素手で、何らかの能力を行使したようにも見えなかった。
自分には到底できないことをやってのけた少年に、スバルは驚愕。
倒れた電柱の方へと双眼鏡を動かすと、そこには二体の残骸――いや、傷を見る限りは片方は残骸ではなく死体。
電柱が圧し掛かってきた衝撃で、残骸からはオイルが、死体から血液が溢れ出している。
そのあまりの有様に、スバルはライディング・ボードから滑り落ちて地べたにへたり込む
一方、少年は他の奴がどうなろうと知ったことかとばかりに、いつしか手にしていたマシンガンを電柱へと向けて発砲。
口角を吊り上げながらひたすらに電柱を穿ち続け、ついに電柱は塵埃と成り果てる。
震えるあごを止めることも出来ず、歯が接触する度にかちかちと音を奏でながらも、スバルは双眼鏡でそれをずっと見続けていた。
粉塵に覆われる死体と残骸を前に、満足気に微笑む少年――少なくともスバルにはそう見えた――は、犬に跨って東へと飛び立っていった。
誰もいなくなったというのに、スバルは声をあげることすらも叶わない状態で、ただ茫然自失。
◇ ◇ ◇
ナタクが飛び去ってから、優に一時間は経とうとしている。
工業地区に似合わぬ静寂の中で、彼女の脳だけがいやに冷静に事態を認識していた。
――この壊し合いの参加者全てが、ただの機械ではなかった。
さっきの少年は、傷痕から血を流していた。火傷の具合から見ても、明らかに生体パーツ。
考えてみれば、周り全部が機械でその中に自分だけ紛れ込んでいるというのも、おかしな話だったとスバルは自覚する。
……そして、ノーヴェやチンクが偽者だということもないだろうと、判断するスバル。
シグマが名簿に嘘を書く必要なんて、ありはしないのだから。全ては、自分がそう思いたかっただけのこと。
同じ理由で、スバルは本物のギンガもこの地にいることを認識。
落ち着いてきたスバルの頭脳が、答えを導き出す。
おそらくは、襲い掛かってきた少女のような生体パーツを含まない参加者も、自分のように生態パーツを含む参加者も『両方』いる。
――それがどうしたというのか。
確かに、マルチと名乗った緑色の少女型ロボットは、昆虫のような見た目の液体金属の塊は、問答無用で襲い掛かってきた。
彼女等は、確かにガジェットドローンと同種であったのだろう。
一方で、タチコマのように明らかに機械なフォルムでも、他者を気遣える参加者がいる。
ノーヴェと一緒にいた二体のロボットも、ドラスに騙されていただけでタチコマのような性格なのだろうか――考えて、スバルは彼らに己が行ったことを思い出して後悔する。
チンクと一緒に逃げた金髪の人にも、次に会ったら謝らねばならない――スバルは固く決意する。
生体パーツの有無は、信頼出来るか否かの判断材料にはなりえなかった。
抱いていた愚かな考えに、スバルは自らに呆れ返る。
――――しかし、である。
スバルの脳内に蘇るは、悪魔の微笑み。
レアメタルで構成されているという肉体を持つドラスは、確かに悪鬼であった。
次に先ほどの少年――ナタクの姿、スバルの頭にフラッシュバックする。
生体パーツが使われていても、彼のように物を破壊し他者を殺害する者がいる。
仮にもっと早く視線を移していれば、シュトロハイムとアラレはかなり前に機能停止していたとスバルも気づいただろうが……
生憎にも電柱が倒れて初めてシュトロハイムとアラレの存在に気づいたスバルは、彼等を『ナタクが殺した』と思い込んでいた。
ゆえに、スバルは覚悟を決める。
「止めなきゃ……」
立ち上がるスバル、その視線は既に後ろを向いてはいなかった。
既に自分は、二体壊している。
ガジェットドローンと同種の存在――スバルの中では――とはいえ、罪の意識にスバルは押し潰されそうになっている。
だからこそ、ナタクもドラスも――その他の他の参加者を襲う参加者も、全て自分が破壊する。
罪悪感に苛まれるのは、私だけでいい。
特に姉妹達には、絶対に背負い込ませるワケにはいかない。
タチコマがビルの屋上にいなかったのには、彼なりの理由があったのだろう。
探しているかもしれないと思うと、すぐに合流したいところではあるが――優先すべきは破壊。
決意新たに、左の拳を握り締めるスバル。
利き腕でもないのに、何故だかスバルにはいつもよりも篭められた力が強いように感じた。
ナタクを追おうと、ライディング・ボードに飛び乗るスバル。
この場所から東へと向かうのなら、傷の具合から考えても修理工場に向かったと考えるのが自然だ。
スバルは修理工場に向かおうと、意識を集中させ――
『――インフォメーションメッセージ』
PDAから流れ込んできた放送に出鼻を挫かれた。
そこで初めて、自分が長時間思考に耽っていたとスバルは気付いた。
とりあえず聞き終えてから向かおうと、スバルは放送に耳を傾ける。
やっと本物であったと理解して、信じようと決意した妹と仲間の死を彼女が知るまで――――あと寸刻。
【E-3 路上/一日目 昼(放送開始)】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:右腕が肩口からありません(出血はなし)、あちこちにトリモチ付着、罪の意識とそれ以上の決意
[装備]:滝和也のナックル@仮面ライダーSPIRITS、ライディング・ボード@リリカルなのはStrikerS、軍用双眼鏡@現地調達
[道具]:支給品一式、サブタンク(満タン)@ロックマンX、テキオー灯@ザ・ドラえもんズ、ナックルの弾薬(27/30発)@仮面ライダーSPIRITS
[思考・状況]
基本思考:他者を破壊しようとした参加者を破壊する。罪は自分だけが背負う。
1:放送を聴いてから、ナタク(名前は知らない)が向かったと思われる修理工場へと向かう。
2:一刻も早くドラスを探し出して破壊する。
3:T-800、タチコマ、ギンガ、ノーヴェ、チンク、ゼロ、メカ沢、ロボ(後ろの三名は名前を知らない)とは、いずれ合流する。
[備考]
※本編開終了後からの参加です。
※サブタンクは満タン状態です、使えばエネルギーの回復が可能です。
※テキオー灯は、一時間のみ効力持続。
一度使った者には、24時間経過しなければ使用不可能と制限されています。
※T-800の住む世界、スカイネット、T-1000に関する情報を得ました。
※T-800のことを、ボブと呼んでいます。
※T-800からの情報より、シグマの背後にはスカイネットがいるのではと考えています。
※ボイルドの脅威を認識しました。
※ドラスが自由に姿を変えられることを知りました。
※ナタクが、シュトロハイムとアラレを殺したものと思っています。
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